転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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あっっっっっっぶない!


事情を知った者達

「とりあえず一発ぶん殴らせろ」

 

「えっ?ブハァ!!?」

 

 部屋の扉が開いた瞬間、キリトがそう宣言しながら問答無用で顔面に拳を叩き込み、突然のことで対応出来ずに扉を開けた人物─クリスハイトは吹き飛ばされた。それに驚く者は、この場にはいない。キリトがクリスハイトに一撃いれるだろうことは分かっていたし、何なら(レコンを除く)それぞれが一発入れたいと思っている。証拠として、それぞれが手に武器を持っており、リズに至っては先程まで素振りしていた。流石にこれ以上やると時間の無駄になってしまうので、アスカが止めた。

 余談ではあるが、彼がALOを初めて四か月近くが経過している。やっているのは本人曰く「君たちと交友を深めたいからだよ」と言っていたが、本当のことではないだろうとキリトは確信している。情報収取の一環だろう。

 

「姉さんに、何を依頼した?」

 

 「いたた…」と顔をさするクリスハイトを椅子にさっさと座らせると、キリトは単刀直入に切り出した。彼はさすっていた手を止め、キリトの顔を見る。誤魔化したら承知しない、とその表情が語っているのを察したクリスハイトは、頭を軽く掻きながら語り出す。

 

「そうだね…まずは質問なんだけど、《死銃》─《デス・ガン》という言葉に聞き覚えは?」

 

 その問いにほとんどの者が首を横に振る中、マグカップの影から小さな影が飛び出した。その主は、クリスハイトが来ると知ってピクシー姿になったユイだ。

 

「《GGO》内で十一月九日の深夜に現れたプレーヤーのことですね。物騒な発言をした後、モニタに発砲したプレーヤー」

 

「…驚いたな。うん、その通りだよ」

 

 ユイの言葉に、クリスハイトは小さく呟いた後に肯定した。そうして、いきさつを語り始める。

 最初に死銃(デス・ガン)が現れたとき、《安全圏内》である街中で弾丸を、しかもテレビモニタに向かって放った。その数秒後、モニタ越しに撃たれたPL─《MMOストリーム》に出演していたゼクシードは突如ログアウト。その五日後に死亡していたところを発見された。死亡してから時間が経っていたこともあり詳細なことまでは分からなかったが、推定死亡時刻が撃たれた時刻と重なっていた。更にもう一軒、同じような事件が起こったこと。

 そこまで聞くと、クラインが口を開く。

 

「クリスの旦那よぉ…つまりあんたは、その危険な状況にキリハを送り込んだってわけだよなぁ?」

 

 その声には、誰にでもわかるくらいには怒気が含まれていた。

 当然のことだろう。その二人と、先ほど消えたペイルライダーを、死銃(デス・ガン)と名乗るPLは実際に殺したわけだ。それを知っていて、この男は─

 

「待ってくれ。それに関しては違うと言わせてもらう。確かに殺害方法は不明だけど、少なくともゲーム内から直接殺したわけではない。それがキリハちゃんと僕で散々話し合った結論だ」

 

 クリスハイト(菊岡)は、自分がうさん臭く見られることを自覚している。これは職業柄でもあるし、性格の問題でもあるだろう。

 職場からは彼女の家─桐ケ谷家は敵に回すなと言われている。その理由は分かっている。桐ケ谷家を敵に回したからといって自分達の職業が潰れるということはない。ないが、何しろ桐ケ谷家は顔が広すぎる。邪魔をされることはないだろうが、彼らの協力を得られないのは正直に言って辛い。だからこそ、というのもあるが、クリスハイト自身が誤魔化すことはしたくないと思った。

 

「ゼクシード氏も薄塩たらこ氏も、使っていたギアはアミュスフィアだ。あらゆるセーフティが設けられたアミュスフィアでは、脳を損傷させることなど絶対に不可能なんだよ。だから僕達は、ゲーム内からの銃撃で心臓を止めることは不可能だと、そう結論づけた」

 

 故にクリスハイトは偽ることなく話す。すると何かしら反論をしようとしていた者達は唸り声をあげて、椅子に座りこんだ。それを見てクリスハイトは続ける。

 

「僕が彼女に依頼したのは、死銃(デス・ガン)に何かあると思ったから、というのは否定しない。調べるには接触するしかないと考えたんだ。僕を含めて、職場にはゲーム上手な人がいなくてね。気軽に頼めて、かつ実力のある彼女が適任者だと思った。仕事の内容上、詳しいことまでは言えないけどね」

 

 そうしてクリスハイトは「質問があるなら受け付けるよ」と言って締めくくった。しばらくの間、誰も口を開かなったが、キリトが口を開く。

 

「…一つだけ聞く。あんたは死銃(デス・ガン)がラフコフの元メンバーだってことは知ってるか?」

 

 キリトの言葉にクリスハイトは驚愕して目を見開き、「それは本当かい?」と聞き返した。それにアスカが頷き、そのまま口を開く。

 

「クリスさん、あなたなら奴の住所を特定してログアウトさせることが出来るんじゃないですか?元ラフコフメンバーをピックアップして、今GGOにログインしているかどうかを確認出来れば「それは不可能だ」

 

 アスカの言葉を遮り、クリスハイトは続ける。

 

「元ラフコフという情報だけじゃ本人の特定ができない。僕達、仮想科が持っているSAO生還者(サバイバー)達の情報は、プレーヤーネームと最終レベルだけなんだ。どこのギルドに属していたか、どうやって経験値を得ていたか、どこにいたか、そういうのは分からない。更に言えば、例えプレーヤーネームが分かったとしても、それをするには裁判所の令状が必要になるし、捜査当局に今回の説明と説得で何時間もかかる」

 

「…出来はするんだな?」

 

「言った通り、時間はかなりかかるけどね」

 

 確認するように聞いたキリトの問いに、クリスハイトはそう言って頷いた。それを確認したキリトは「ならすぐにやってくれ」と頼んだ。

 

「奴の名前は《ザザ》。《赤眼のザザ》って異名を持ってた。ついでに《ジョニー・ブラック》と《モルテ》,ラフコフのリーダーだった《PoH》もだ」

 

 何故他の幹部とリーダーも?全員が抱えるその疑問に答えるように、キリトは続きを口にする。

 

「念のためだ。奴が《死銃(デス・ガン)》と名乗って殺人をしていることは確実だ。だがさっきあんたが言った通り、アミュスフィアじゃ脳を破壊できない。殺害方法が超能力や呪いの類でないのなら─」

 

─共犯者がいるはずだ。

 そうキリトが締めくくると、その場の全員が目を見開いた。何故かその考えに、誰もいきつかなかったのだ。恐らく、色々な出来事が一気に起こったことで、混乱が生じていたのだろう。

 ふぅ、と一度息を吐いてキリトはクリスハイトを見る。彼はしばらく沈黙した後、口を開いた。

 

「…さっきも言ったけど、時間かかるよ?」

 

「それでも、だ」

 

「分かった」

 

 クリスハイトは立ち上がると、出来るだけ連絡には出るようにすること、なにか分かったら連絡することを告げてログアウトしていった。続いてキリトも「親父に話してくる」と言ってログアウトしていく。

 

「明日にぃ、和ねぇは知ってたと思う?」

 

死銃(デス・ガン)について?」

 

 アスカがそう聞き返すと、リーファは首を縦に頷かせる。アスカは腕を組んで、自分の考えを口に出し始めた。

 

「うーん…多分知ってた…んじゃないか?キリトがここで見てただけであそこまで気づいたんだ。接触したんだったら気づいてないとおかしい、と俺は思う」

 

 そう言いながらアスカは、絶対接触してるよなぁと思いながら、昨日コウに言われたことを思い出していた。

 たまにはうちに泊まりに来なさいと母に言われたこと。いつものキリハ(和葉)じゃ無かったこと。これからお仕置きする(話を聞く)こと。

 なんか最後だけ含みがあったが詳しくは聞かなかった。聞いてはならないと感じたからだ。

 

「じゃ、じゃあなんでコウさん以外誰にも言わなかったんですか…?」

 

 レコンが不安げにそう問うと、キリハのことをよく知ってる面々が呆れたように次々と口を開く。

 

「あいつはそういう奴なんだよ…言ってくれりゃあどこまでも着いていくんだが…」

 

「仕方ないですよ。キリハさんは、それこそキリトさんも、私達を巻き込まないようにする人ですから」

 

「信頼されてないわけじゃないのが厄介よねぇ…」

 

「浩にぃに協力を頼んだのは、GGOをプレイしてるっていうのと、彼氏だからでしょ」

 

「まぁそれ以外考えられないですけど…リーファさん機嫌が悪いですか?」

 

 ユイが首を傾げながらそう聞くと、別にと言いつつその表情は明らかに『私不機嫌です』と表している。アスカはユイを撫でながら苦笑し、スクリーンに目を向けた。

 

(まぁ何はともあれ、二人が無事なら俺的には問題ないけど)

 

 正直、他に犠牲者が出ようと知ったことではない。家族に、特にキリト(佳奈)に被害が行かなければどうでもいい。

 そう思いながら、銃撃戦を眺めていた。




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