転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

86 / 90
選択

 彼女─和葉は心を壊さないようにフェイを、自分の中にもう一つの人格を作った。《彼》と離れたくなかった和葉は、フェイを戦闘症の人格として生み出した、のだと思っている。何しろ無意識だったのだ。気が付けば自分の中にもう一人誰かいたことに、相当驚愕したことを思い出した。同時に、すぐに受け入れたことも。フェイがいれば《彼》と一緒にいられる、フェイに戦闘を任せれば問題ない。そう思って、受け入れたのだ。

 実際、フェイを生み出したのは、和葉にとって良い方向に働くことが多かった。フェイは戦闘症であったが輪を乱すことはしなかったし、あくまでも副人格だとして、基本的に主人格である和葉の言うことを聞いた。また、フェイ自体も《彼》に褒められることは好きだった。体は一つだけだったが、姉妹あるいは姉弟のような関係性だったと認識している。

 そうして和葉達は、いくつもの戦場を渡り歩き、生き残っていった。大人と言われる年齢になって、強くなっていって。だがそれでも和葉の精神は、安定したが回復はしなかった。そして今までのことが積み重なっていった結果、和葉は生きることに疲れてしまった。その気持ちを背負ったまま、ある作戦に1人で赴いた。いつもならフェイに体を貸すのだが、この作戦は和葉自身が行った。その作戦は敵を全滅させれば良く、()()()()()()()()()()()()()()()()。故に隠密することなく真正面から突撃し、暴れまわり、敵兵を全滅させ、和葉は力尽きた。

 

 まぁ今考えてみると、どれだけ《彼》に依存していたか分かる。当時は《彼》に捨てられたら生きていけないと本気で思ってたほどだ。今ならありえないな、と自己分析する。

 というか前世の最後、これはフェイに恨まれて当然か。なんだ、生きるのに疲れたって。自分で言うのもなんだが、前世では相当メンタルが雑魚だったようだ。

 

(さて…)

 

 現在の時刻は23時半。家族は寝静まっている。そろそろ神社に向かっても良いだろう。和葉はもう選択した。その答えを、言いに行かなければならない。

 背中合わせに寝ている人物を起こさないように、そっとベッドから出る。音が鳴らないよう静かに、かつ素早く着替え、ドアノブに手をかけた。そこで、和葉は振り返る。彼女のベッドで寝ているのは勿論、浩一郎だ。壁の方を向いており、顔は見えない。本当は、顔を見てから行きたい。だが今の状態で顔を覗き込むには、一度ベッドに乗り上げなければならない。そうすると今度こそ起こしてしまうかもしれないので、諦める。

 だけれど、ベッドに近づくだけなら問題ないだろう。

 足音を立てずに、ベッドの端まで歩く。まぁ、こうして自分でも何をしたいのか分からないのだが。顔は見れない、触れることもできない。浩一郎が起きてしまうから。あぁ、でも、何もしないで出ていくことが出来ない。小さく、小さく声をかけるだけなら。囁くだけなら。

 

「浩一郎…行ってきます…」

 

 笑みを浮かべてそう囁いた和葉は、今度こそ部屋から、家から出ていく。窓から見つめる、1人の影に気づかずに。

 

 

 

 和葉はまっすぐに神社まで歩いていく。もう深夜近いこと、元々人通りがそこまでないこともあって、誰ともすれ違うことはなかった。階段を登りきると、まだそこには誰もいない。既にいると思っていたが。

 

「なんだ、時間よりも早く来るんだな」

 

 聞こえて来た声に背後を振り向けば、昼間と変わらない格好をしたフェイがいた。時間を確認するものを持っていないが、フェイの言葉通りなら、今は24時前だということだろう。

 

「相手を待たせるなと教わったもので」

 

「お前の両親からか。前んときは時間ピッタリに行動してたのによぉ」

 

 憎らしいと言わんばかりの口調だが、本心からそう思っていないことくらい分かる。確かに前世での和葉は、時間前行動ではなく、時間通りに動くことの方が圧倒的に多かった。作戦通りに行動することが、部隊全体の生存率に関わっていたからだ。勿論、状況によっては作戦通りにいかないことの方が多かったが。

 だが今世と前世は違う。後はまぁ、小さい頃から教えられてきたものだから、というのは確実にあるだろう。和葉は何も言わず、ただ肩を竦めるだけに留める。

 そこで2人は、口を閉ざす。生物の音はせず、ただ夜風の音だけが微かに聞こえる。

 

「で?どっちを選択したんだ?」

 

 数分程経っただろうか。やがて口を開いたのは、フェイの方だった。

 

「既に分かっているのでは?」

 

 それでもだよ、とフェイは言う。分かっていても和葉の口から聞きたいのだと。

 和葉は一度深呼吸をし、フェイを見つめ、自分の答えを言い放つ。

 

「僕は浩一郎を、今世の家族を捨てることは出来ません。もうあの時の僕ではありません。だから─」

 

─殺意。体を仰け反らせながら後退した瞬間、先程まで首があった位置を何かが通る。体勢を立て直し正面を見て、今度は右へ跳ぶ。そのすぐ後に銃声が二つ聞こえた。

 

「あぁ、そうだよなそうなるよな。お前のことはずっと見て来たんだ予想してたさ。だがよぉ─」

 

 左手に刀を、右手にリボルバーを持つその姿は、前世でフェイが散々行っていたものだ。要するに─

 

「─テメェの口から直接聞くと殺意が沸いてしょうがねぇよ!!」

 

─本気のスタイルということだ。

 フェイは吠えると同時に前進、刀を振るってくる。それを手首ごと掴むことで防ぎ、右手が動いたのでこちらは手を掴む。

 

「テメェを殺す。力づくでも戻ってもらうぜ」

 

 同じ体だが、恐らくフェイの方は前世のモノなのだろう。徐々に力負けし始めている。いくら鍛えられていると言っても、幾度もの戦場を駆け抜けた身体に勝てる道理はない。

 それはそれとして、殺されるつもりは全くないが。

 

「お断りします、よ!」

 

 フェイの腹に蹴りを入れ、距離を空ける。居合を構えるように腰に手を当てれば、そこに刀が差さっていた。多分リボルバーもあるだろう。何故だとか、いつからとか、そんなことはどうでもいい。『前世の人格(フェイ)』というありえないはずの存在があるのだから、考えるだけ無駄だ。

 空いた距離を今度は和葉から詰め、居合を放った。フェイは跳躍して回避、刀が振り下ろされ、それを刀と鞘を重ねて防ぐ。が思ったよりもその一撃は重く、片膝を着いた。ギィと金属の擦れ合う音が鳴る。

 

「っ!」

 

 和葉は刀を左にずらし、フェイの体勢を崩す。次いで刀を横なぎに振るったが、刀を下向きにして防がれた。その状態のままフェイは弾丸を放ってきたので、右に跳んで回避。鞘を左腰に差してリボルバーを持ち、二発撃つ。それをフェイは、二発とも斬り裂いた。

 前世では和葉自身も行っていたが、魔法も存在しない世界で音速以上の速度で飛んでくる弾丸を斬り裂くというのは、やはり普通に考えて意味が分からない。流石に今は出来る気がしない。

 

「君はさっき、僕に殺意が沸くと言いましたね…」

 

 この短い戦闘(やり取り)で汗を垂らす和葉は、不意にそう聞いた。フェイの返答を待つことなく続ける。

 

「それは確かに君の本音でしょう。ですが、それと同じくらいに僕との死合(闘い)を─」

 

─望んでたでしょう─

 

 沈黙。互いに見合った状態で制止。その間に和葉は体勢と息を整える。それでも動かなかったフェイは

 

「…くはっ」

 

 能面のような表情を崩し、嗤った。

 

「くくっくはははははは!!!!!」

 

 口を大きく開け、腹を抱えてしまいそうになる程に笑う、嗤う、呵う。嬉しそうに、蔑むように、堪えきれないように。

 そんなフェイを、和葉はただ黙って見つめる。しばらく嗤い続け、最後に「はぁ…」と息を吐いた。

 

「あぁ、その通りだ。俺はこの死合(状況)を心から楽しみにしてたさ」

 

 嗤いながら、両手を広げてフェイは言う。

 

「俺は戦いが好きだ。殺し合いが好きだ。強ぇ奴との死合が何よりも楽しくて仕方ねぇ!それは相手がアイツらだろうと、お前だろうと変わりはしねぇ!!」

 

 笑みを浮かべなら、怒号を挙げるように、語気を荒げる。

 

「叶わねぇ事だと分かりながらどうやったらお前と殺し合えるか!!どれだけ考えたかお前は知らねぇだろ!?」

 

 だから!!と、刀の切っ先を和葉に向ける。

 

「─俺はこの状況に感謝しよう。せっかくの機会、ずっと望んでた事が叶ったんだ。楽しまなきゃ損だろ?」

 

 少しだけ笑みが穏やかなものに変わったのを見て、和葉は思考する。

 フェイがそんな事を考えているなんて知らなかった。自分との戦いを望んでいるなんて。本気で応えなければフェイに失礼だろう。そう思っても、本気にはなれない。これが殺し合いになっているから。

 

「ごちゃごちゃ考えてんじゃねぇぞ。これは確かに死合だが、お前の好きな闘いでもあるんだぜ?俺はお前を殺すつもりだが、お前は俺を殺す必要はねぇ。だからなぁ、和葉─」

 

─お前も楽しめよ。

 フェイのその言葉に、ふっと肩の力が抜ける。

 あぁ確かに、フェイの言う通りだ。結果的にどちらかが死んでしまうかもしれないとしても、別にフェイを殺す必要はないのだ。ならば、何の躊躇いも無い。

 

「フェイ」

 

「あん?」

 

「ありがとうございます」

 

 笑う。先程までの硬かった表情から、変わる。二ィっとフェイが獰猛な笑みを浮かべた。

 和葉は腰の刀に手を添えると、上体を前に、左脚を大きく後ろに伸ばし、前景姿勢となる。対するフェイは、腰を落とし、防御の構えを取った。

 地を蹴り疾走。居合を放ち、金属音。すぐに引き戻すと、左斜め下から斬り上げが襲う。少し右にズレながら更に体勢を低くする。鞘を振るうと、右手で受け止められる。

 

「「─」」

 

 互いに距離を空けず、刀を振るう、銃弾を放つ、殴る、蹴る。

 

「「はは─」」

 

 受け止める、逸らす、相殺する。

 

「「ははははは!!!!」」

 

 幾度となく繰り返される中、いつしか2人は、笑っていた。

 力と速さはフェイの方が上。そこで和葉は、前世の技"ではなく今世の"技"を使う。前世の"技"はフェイも使えるし、対処されてしまう。なら、フェイの知らないもので戦うしかない。

 

「くははは!!最っ高だなぁ和葉ぁ!!」

 

 声を出さずに同意し、刀を振るう。フェイもまた、返事が来るとは端から思っていないので弾いて防いだ。刀を打ち合う度にフェイの感情が流れてくる。

 相手の気持ちは剣を打ち合えば分かる、という訳では無いのだが、元々フェイは和葉の副人格。だからか、互いに相手の感情が流れこんでいるのだろう。

 フェイは今、心の底から死合を楽しんでおり、喜んでいる。それはそうだろう。もし和葉が前世のままだったら、楽しむことは出来なかっただろうから。

 前世の彼女にとって戦いとは、《彼》に褒められるための手段でしかなく、そこに楽しむという感情は無かった。だが今世の彼女にとって戦いは、楽しむためのものとなった。まるでフェイの一部が混ざったかのように。故に楽しむ、この闘いが、今夜限りのもの、生涯一度きりのものだと理解しているかあら。

 

 

 どれだけ時間が経っただろう。一時間は経ったようにも、数分しか経っていないようにも感じる。時間の感覚が無くなるほどに、2人は純粋に闘い(死合)を楽しんでいた。いつまでも続けばいい、とは思わない。いつかは終わることを知っているから。そしてそれは、突然来るという事も。

 

「っ!?」

 

 突如として和葉が体勢を崩した。砂利で足を滑らしたのだ。転ぶ、倒れこむとまではいかなかったが、その一瞬の隙を見逃すほど、フェイは甘くは無い。

 最小限の動作で足払いし、動きを阻害。和葉が何かをする前に、右足と右手を撃ち抜く。刀を離した瞬間、右わき腹を深く斬り裂いた。致命傷とまではいかずとも、先程までと同じようには動けないだろう。だがそれで終わる和葉ではないと、フェイは知っている。

 

「ぐっ」

 

 斬られたと同時、和葉は右足でフェイの腹を蹴り上げた。その状態でもフェイは和葉の首に向かって刀を振るう。体ごと左に傾け、両手を地面につける。体を捻り、今度は左足裏で蹴って吹き飛ばす。その阿間に体を起こし、左手に持っていた拳銃を放り投げ、刀を握る。手足の痛みを無視して、突貫、振るう。未だ宙に浮いているフェイは回避が出来ない。故に防ごうとし─刀の軌道が蛇のように()()()()()()

 

─蛇刃─

 

 防ごうとした刀をすり抜け、フェイの両手を斬り飛ばす。そこで止まらず、袈裟斬り。和葉の傷よりも深く、重い一撃を叩き込んだ。

 

(あぁくそ…これで終わりかぁ…)

 

 うつ伏せに倒れこむ和葉を視界に収めながら、フェイも仰向けに倒れながら自身の負けを悟る。和葉に勝てなかった、和葉を連れていけなかった。それが悔しい、それを為せなかった自分に怒りを覚える。だがそれ以上に─楽しかった。自分が望んでいたことが叶った、互いに楽しんで死合が出来た。ならば、満足だ。

 

(じゃあな、和葉。お前ともう会えないことは残念だが…)

 

─お前の幸せを、願ってるぜ─

 

 

 

 

 

 

 起き上がる。見渡せば、いつも自分が寝ているベッドだ。当たり前の事なのに、何故かそれを不思議に思う自分がいる。はてと内心首を傾げていると、部屋のドアがノックされた。どうぞと言えば、入ってきたのは男だ。

 

「やっと起きたかい?ぐっすり寝ていたね」

 

 ふわりと柔らかい笑みでそう言うのは、自分にとって大切な存在。自分が愛している人物。時間を見れば、確かに。何もない日だとはいえ、昼近くまで寝ているのはとても珍しい。

 何かあったのかい?と聞いてくる彼に少し考えて、返答する。

 

「懐かしい誰かに、会った夢を見た気がします」

 

 懐かしむような顔をするが、悲しそうにも見えた。まるで大事な何かを忘れてしまったかのように。




 さて、これで今回の話は終わりだ。和葉は今日一日の出来事と()()()()()()完全()()()()、あの世界の人物として生きていく。逆に負けていれば、あいつの存在はあの世界から消滅し、フェイと共に前世の世界に戻していた。そういう契約だったからな。
 ん?負けたフェイがどうなったか、だと?そうだな、本来ならば消滅するはずだろうな。たかが人格でしかない存在が、明確に自我を持ち、一つの『個』として存在するなどありえないことだ。だが、奴はその例外。俺としても興味深い。だから消滅させるには惜しいと感じたのでな。()()()()()()()()()。奴がどのようにして生きていくのか、俺はそれを見守っていこう。
 お前たちの前に現れることはもうないだろう。本来、俺のような転生させる存在は、それで終わりだ。見守ることはあれど、介入することは無い。そういうことだ。
 では、さらばだ。

 あぁ最後に。和葉の物語はまだ続く。それまでは見守ってやっていてくれ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。