当時の掲載分はすべて消えてしまっているので、変えられるとこは変えつつ、削れるとこは削りつつ、たくさんの方に楽しんでいただけるよう頑張っていきます!
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学園都市──と、その街は呼ばれていた。
名前が示すとおり、住人の多くが学生で占められたその街は、巨大な外壁によって、外界とは物理的に隔離されている。
東京都の約三分の一という広大な面積を誇る、まさに箱庭と呼ぶべき未来都市。
そこでは、数多の実験が行われており、その数だけ研究施設もあった。
クローン生成、人体実験──非合法かつ非人道的な手段を取る者も少なくないその街の深部に潜むのは、何も“この世界の者”だけではない。
街の外れ近くにある古びた研究所。一般人では理解し得ない様々な数列や記号を表示し続けるモニターの前には二人の男が立っていた。
男達はいずれも老人であったが、その目の奥には野望に満ちた光を宿している。
「全ては、計画通りに進んでおる。あの忌まわしき炎術士達も直にこちらへと辿り着くじゃろう」
まるでおとぎ話の仙人のような風貌のその男は、しかし仙人とはかけ離れたような物欲に満ちた笑みで顔を歪ませた。
男の名は幻獣朗。本来ならば今ここに存在してはいけないの人間だ。
なぜなら彼は、
幻獣朗の視線の先に立つもう一人の老人、木原幻生もまた、邪悪な笑みを幻獣朗へと向けている。
「ああ、首尾は上々と言ったところだ。“実験”の準備は整った。あとは、モルモット達の到着を待つばかりだ」
その言葉を聞いて、幻獣朗は口角をさらに吊り上げた。
「我等が野望達成への道のりも、ようやく第一段階の終了を迎えようとしておる。
これさえ……これさえ完成すれば、この街を、いや、世界を手にしたも同然じゃ。
アレイスターを玉座から引きずりおろす瞬間も、そう遠くはなかろうて」
「自信に満ちた発言だ。それでこそ、君を拾った価値がある」
「任せておくがよい幻生よ。
必ずや火影を始末し、治癒の少女を手中に収めてみせようぞ」
「楽しみにさせてもらうよ、幻獣朗。
こちらも進められる準備は進めていくつもりだよ。そろそろ仕込んでいたものが動き出す頃合いだ」
二人の翁は顔を見合わせて笑った。大いなる野望を秘め、邪悪な欲望を抱え、尽きることのない悪意を糧に、彼らは再び動き始めた。
◇
「あっちぃー……」
7月──雲一つない晴天の下、降り注ぐ灼熱の日差しを全身に浴びながら、花菱烈火は力なく呟いた。
「ほんとだよねー。もう夏真っ盛りって感じ」
佐古下柳も烈火の言葉に同意した。うちわでパタパタと自分を扇ぐ度に、美しいブロンドヘアーがたなびいている。
「ったくよー。なーんでこの糞あちぃのに、しかも夏休みに学校なんていかなきゃなんねーんだ」
「お前らがバカだからだ」
イラついた声色でそうトゲを刺したのは上級生の水鏡凍季也だ。
水鏡はじとついた目線で烈火をじろりと眺めて、ため息をついた。
「僕と柳さんは本来補習なんて受ける必要のない成績なんだ。ところが先生に一人じゃお前等3馬鹿トリオの面倒は見切れないと泣きつかれて、仕方なく付き合ってやってるんだよ」
「へーへ、ありがとうござんす」
ぶっきらぼうに適当な礼を述べる烈火。普段ならこんな嫌味を言われたら突っかかっているところだが、烈火自身申し訳ないという気持ちはあったので、流石にそうはならなかった。
ふと、烈火は夏休み登校の理由を作ったもう二人がいないことに気づいた。くるりと後ろを振り向くと、二人は何やら揉めている様子だ。
「おーい、風子、土門なにやってんだよー」
「早くしないと、遅れちゃうよー?」
「わりーわりー!おらっ、いくぞ腐乱犬。諦めてちゃきちゃき歩けっ!」
「イヤダイキタクナイ。補習イヤダ。勉強キライ。学校コワイ」
ガタガタと巨大な図体を震わせながらセミのように電柱にしがみついている石島土門と、必死にそれを引きはがそうとしている霧沢風子。
「諦めろって。俺だってホントは行きたかねーんだ」
「ほら、頑張ろ土門くん! わからないとこがあったら教えてあげるから!」
「さっさと来いフランスゴリラ。ただでさえ貴重な時間をお前達に割く羽目になってるんだ。これ以上無駄な時間をとらせるな」
「いやぢゃあー!! 俺は断固としてここを離れねえぞ!!」
情けない声で力強く叫ぶ土門。三人の呼びかけにも耳を貸すことはない。
無理やり引っ剥がすしかないか、と烈火が引き返そうとすると、風子が土門から手を離してこほんと咳払いした。
「なあ、土門」
穏やかな風子の口調に、烈火達は背筋が凍るのを感じた。みんな知っている。『この状態の風子はヤバい』。
「オシオキされたくなきゃ、早くしろ」
「ひぃぃっ!!?」
キラリと懐の錐を光らせる風子を見て、土門は顔を青ざめさせながら直立した。
「いっ、石島土門っ! 今すぐ学校へと向かわせていただくでありましゅっ!!」
ギクシャクと歩き出す土門。右手と右足を同時に動かしながら、暑さ由来ではなさそうな汗を顔中から噴き出している。
風子はニコリと笑って、ポンと土門の背中を叩いた。
「わかりゃーよし! 補習が終わったらナデナデしてやろう!」
「土門くんエラーい!」
「うっ、ううっ……ぐすっ……ナデナデだけぢゃやだ」
「……なあ、烈火」
「……なんだ、みー坊」
「やはり、風子は怒らせないようにしないとな」
「だな」
ベソをかきながら歩を進める土門を見て無邪気に喜ぶ柳を尻目に、烈火と水鏡は顔を見合わせ再び互いの誓いを固めるのだった。
気を取り直して、灼熱のアスファルトの上を、学校へと向かって歩く一向。
青空を眺めながら、柳が小さく呟いた。
「学校、かぁ……」
「およ? どしたい柳」
「えっ? ああ、声に出しちゃったんだね」
烈火に声をかけられた柳は驚いた様子だった。どうやら、思わず口をついてしまったらしい。
「なんか、嬉しいなって」
柳は駆け出すと、ふわりと振り返って4人の顔をそれぞれ眺めた。
「あれだけ色々あったのに、今はこうしてみんな元気に学校に行けるでしょ? これからもみんなでたくさん遊んで、勉強して、大人になってからもそんな関係でいられると思ったら嬉しくなったの!」
彼らが今の平穏を手に入れるまで、色々なことがあった。
火影、魔導具、麗、裏麗、裏武闘殺陣、そして天堂地獄──。
様々な殺し合いの場に立って、強敵達を相手取りながら、それでも彼等は今の学生らしい生活を取り戻した。
口では不平を漏らしながらも、この生活を楽しんでいる自分がいることを烈火は知っている。多分、土門も風子も水鏡も、みな同じことを思っているはずだ。
血で血を洗う戦場ではない。単位を気にしたり、好きな奴等と遊びに行ったり、そんな学生らしいことこそが、彼等が求めた平穏だった。
「この夏休みは、たくさん遊ぼうね! カラオケも、プールも、キャンプも、行きたいところいっぱいあるの! たくさん遊んで、みんなで思い出作ろうね!」
「おう!」
烈火は大きく頷いた。
そうだ。辛かった戦いの日々も、今は忘れてしまえば良い。
今はただ、この平穏を享受して、戦い疲れた心と体を休めよう。
しかし、運命は再び彼等を戦いの中へと引きずり込む。
ピシリ、と何かがひび割れたような音がした。
音は柳の背後から聞こえた。柳が振り返った先には何もない。
いや、そこには空間があった。空間そのものに、“ヒビ”が入っていた。
ヒビは徐々に広がって、やがて空間の一部が剥がれ落ち、穴が生まれる。
その瞬間、穴は急激に面積を広げる。まるでトンネルのように大きくなった穴は、周囲の空気を飲み込み始めた。
最も近くにいた、柳もろとも。
「柳いいいいィィィィーーーー!!!」
いち早く、烈火の体が始動した。柳の手を掴んで、電柱にしがみつく。
「烈火……!」
「離すんじゃねーぞ!ぜってぇに!」
二人を飲み込まんとする穴の中は、奈落の底まで続いているかのように暗く、深い。
烈火の両手に力が入る。
その烈火の手に、別の手が重なった。
「手ェ貸すぜ、大将!」
土門の太い腕が、烈火と柳を手繰り寄せる。
「土門、烈火!死んでも離すなよ!」
「まったく、とんだ厄日だ……!」
風子と水鏡も、手を重ねた。
絶対に離さない。4人の強い意志が、柳を奪おうとする巨大な穴に立ち向かう。
だが──。
土門の足が浮かんだ。固く結ばれた手も虚しく、5人の体が宙を舞う。
「チクショォォオオオーーーー!!!」
烈火は吼えた。
その雄叫びごと、5人の体は闇に消え、そこには何事もなかったような光景が残った。
二人の老人の野望のために、少年達の平穏は再び奪われた。
これからどのような運命が彼等を待ち受けているのか。それを知る者は、誰もいない。
とりあえずの第一話です。
前書きにも書いたようにしばらくは過去分の焼き直しになりますが、なるべく早くをモットーにガンガン展開進めていけるようにするつもりです。
と言いつつ、いきなり第二話までの間隔が開きそうで申し訳ないんですが(笑)
以前読んでいてくださった方も、初めて見たという方も、二回目ですが、どうぞよろしくお願いします!