とある烈火の八俣火竜   作:ぎんぎらぎん

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最近ペース落ち気味なので頑張ります。


其之十三:魔術との邂逅③強襲

「ふんふふんふふーん♪」

 

太陽は既に落ち、代わりに夜空には月が輝いている。

その下を鼻歌混じり歩く少女、佐古下柳。

彼女の両手に提げられた買い物袋には、はちきれんばかりにジャガイモやピーマンなどの野菜が詰め込まれている。

 

「えへへー、お野菜たくさん買っちゃった♪全品半額セールやってるなんてラッキーだったね」

 

良いとこのお嬢様の割に、妙に所帯じみたことを口走りながらルンルン気分の柳だった。

本日の焼き肉パーティーの主催者である小萌から野菜を買ってきて欲しいと頼まれ、ついさっきまで近場のスーパーで買い物に勤しんでいたところであった。

 

「カボチャなんて一玉まるごと買えちゃったし、余ったら烈火のお弁当用にしちゃおっかなー。あっ、でも明日から学校ないんだった!……なら晩のおかず用ー♪」

 

独り言を呟きながらスキップする姿は、それがたとえ美少女のものであろうと端から見れば不気味に映りそうなものである。

もっとも、柳が通っている道は人通りも全くないのでその心配は不要ではあるが。

 

「烈火と上条くんもう着いたかなー?風子ちゃんたちはちょっと遅れるって言ってたし、薫くんは忙しくて来れないみたいだし、先生は酒屋さんにお酒買いに行ってるし、一人ぼっちだと寂しいなぁ……」

 

喜んでいたかと思えば、今度はどんよりと表情を曇らせる。

喜怒哀楽の激しいところも、この少女の特徴であった。

 

ふと、視界の左側に背の高い建物が見えた。

小萌によると取り壊し予定のビルらしい。

ちょうど小萌宅とスーパーの中間辺りにあるそのビルは、良い目印ではあるものの、夜に見ると少々不気味だ。

オバケやホラーの類いを苦手としている柳には殊更である。

さっさと通り過ぎてしまおう。そう思って歩調を早めると、ビルの前に立っている人影に気がついた。

 

暗くてよく見えないが、外国人の女性らしい。

褐色の肌に金色の髪、西洋人形を思わせる黒いドレスに身を包んでいる。

その風貌もまた、柳の恐怖を助長する。

失礼だと思いながらも、あまり見ないように目を伏せながらさっさと横を通り抜けようとした。

すると、

 

「ねえ、ちょっとよろしいかしら」

 

女性が柳に声をかけた。

驚くほど流暢な日本語に柳は足を止め、おっかなびっくり女性と目を合わせる。

 

「……なんでしょうか?」

 

「申し訳ないのだけど、お尋ねしたいことがあるの」

 

道にでも迷ったのか、と柳は思った。

もしそうなら、この街に来て日が浅い柳では力にはなれない。

それでも、近くにある警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)の詰め所にぐらいなら案内出来る。

そこで尋ねた方が、より正確な情報も得られるだろう。

などとさっきまでの恐怖心も忘れ、親切心全開で考えていると、その女性はこう言った。

 

「探している人がいるのだけれど」

 

道案内ではなく尋ね人。

いずれにしても、案内すべき所は変わらない。

柳は精一杯の笑顔を見せて、口を開いた。

 

「あの、それなら……」

 

() () () () ()() () () ()がどこにいるか、教えてもらえるかしら?」

 

柳の背筋が凍る。

女は笑みを浮かべた。

獲物を見つけ、喜びを露わにした獣の笑みを。

それを見て、柳の足は反射的に一歩下がっていた。

 

直感でわかる。

この女がどういう目的で自分を探しているのか。

とっさに、野菜の入った買い物袋を投げつける。

女がそれに怯んでいる隙に、廃ビルへと駆け込んだ。

 

「……鬼ごっこの始まりだな」

 

暗がりに消えていく柳の背中を見つめながら、女は楽しげにそう言った。

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

真っ暗なビルの中を柳は走った。

途中、何度も散乱した角材や瓦礫に躓きながらも、少しでも女との距離を取ろうと必死に。

本当なら、もっと人通りの多い場所を目指した方が良かったかもしれない。

ただ、そうなると無関係の人間を巻き込んでしまうかもしれない。

あの女は、それすらも厭わない。そんな気がした。

階段を何段も駆け上がり、簡単には女に見つからないくらいに離れたと判断した場所で柳は腰を下ろした。

 

「はぁ、はぁっ……」

 

心臓が激しく鼓動している。

走ったせいだけではない。あの女の凶暴な笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない。

 

(早く……助けを呼ばなくちゃ)

 

ポケットから携帯を取り出して、烈火の番号にかける。

しかし、コール音が虚しく何度も続くのみで繋がる気配はない。

あるいは、烈火の身にも何か起こったのか。

烈火を案じながらも通話を断念し、別の番号にかけ直す。

今度こそ、と祈りながらふと目の前にある柱が視界に入る。

それを見て、柳の身体が固まった。

 

大きな目玉が、泥と一緒に柱にへばりついていた。

 

『みぃつけた♪』

 

「ひっ……」

 

目玉から聞こえる、先ほどの女の声。

柳は思わず携帯を投げつけてしまう。

 

『もしもーし。どったの、やな──』

 

聞こえてきた風子の声も、携帯が目玉に直撃し地面に叩きつけられたことで途切れてしまった。

 

自分が犯した過ちに気づく柳だが、もはや悔いている時間もない。

あれが女の能力であるならば、この場所も特定されてしまったということだ。

一目散にその場を後にし、走り出す。

 

鬼ごっこは終わらない。

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

夜空を彩った真っ赤な光に驚いて、上条は足を止めた。

光源を辿って振り返れば、それは自分たちの寮の方から発されたものだとわかった。

 

「まさか、花菱……!」

 

頭をよぎるのは、魔術師の男に焼かれる烈火の姿。

やはり引き返すべきか。そう思い、足が今来た道を辿りそうになる。

しかし上条はかぶりを振って思い直した。

 

(ダメだ!今引き返してあの魔術師と鉢合わせたりしたら、それこそ花菱の苦労が無駄になっちまう!)

 

それに、曲がりなりにも烈火はLEVEL5。

あの御坂美琴にすら勝利したのだ。

魔術師にだって、負けるはずはない。

インデックスの治療も、早急に済ませないと手遅れになってしまう。

背中で眠る少女を背負いなおして、上条は再び歩を進める。

 

病院に連れて行くという選択肢は既に消滅していた。

外部の人間、それも魔術なんていかがわしいものと関わっているというインデックスを、学園都市(科学サイド)の病院に診せるというのは危険であると踏んだからだ。

柳を頼ればいい。

大能力者(LEVEL4)治癒能力(ヒーリング)を持つ彼女ならば、この傷もなんとかなるに違いない。

柳は今小萌の家にいるはずだ。

本当なら携帯で確認を取りたいところだが、生憎上条の携帯は今朝壊してしまった。

公衆電話を探している時間も惜しい現状、一刻も早く小萌の家に行くのが最善。

足により力を込めて、上条は歩く。

気持ちの上では走り出したいところだが、時折荒い息を吐く背後のインデックスに、これ以上余分な負担はかけたくない。

衝動を抑えながら、着実に目的地への距離を縮めていく。

教えてもらった住所によれば、そろそろ小萌のアパートに着くはずだ。

そう思った時だった。

 

百メートルほど先に、小萌のアパートと思しき建物の明かりが見える。

その道の街灯の下に一人の男が立っていた。

長髪で左目を隠したその男は、見るからに異様な雰囲気を纏っている。

近寄ってはならない。上条の本能がそう告げた。

先の魔術師とも異なる、危険なオーラを感じる。

 

上条は踵を返した。

少々遠回りになるが仕方ない。

インデックスを背負ったままで、あんな奴と戦う自信は上条にはない。

 

「あ。おい待てよ」

 

男のものと思われる声が聞こえると同時、上条は全速力で走り出した。

ヤバい。ヤバい。ヤバい。

あの男はヤバい。

もはやそれは確信に変わっていた。

早く逃げなければ。

小柄な少女とは言え一人の人間を背負っていては、大したスピードなど出はしない。

それでも可能な限り速く。足を必死に回転させ、男と距離を取ろうとする。

 

そして、何かに足を取られた。

全力で走っていた上条はそのままつんのめり、地面に強かにぶつかった。

とっさに左手をついて受け身をとったが、その拍子にインデックスの身体は投げ出されてしまう。

慌てて起き上がり、インデックスを抱きかかえようとすると、

 

「ぐっどいぶにぃぃぃぃんぐ♡」

 

男の声が、上条の身体を縫い止めた。

上条は一目インデックスを見た。

幸いにも外傷は増えておらず、傷に障った様子もない。

上条は振り返り、男を敵意のこもった視線で牽制した。

 

「誰だテメェ!あの魔術師の仲間か!?」

 

考えられる中で最も高い可能性を男にぶつける。

しかし男は首を捻り、

 

「まじゅつし?……ああ、なるほどね。そういやそのメスガキ、そんなもんに狙われてたんだったな。まあ、その点は俺らも一緒だけどよ」

 

納得した様子で頷いた。

 

(こいつ、魔術師じゃないのか!?なら一体……)

 

この男は一体何者なのか。

『俺ら』という言葉から、一人で行動している訳ではないと推測できるが、それ以上のことはわからない。

上条は足元に目をやって、先ほど自分を転ばせたものの正体を確かめる。

アスファルトの地面を突き破り、半円を形作るそれは、暗くてはっきりとはわからないが木のようだった。

木は片側の穴から引き抜かれると、そのままもう片方の穴の中へと消えていく。

 

(これは……能力か?ならこいつも学園都市の人間じゃ……)

 

対象物を限定した念動能力(テレキネシス)なら何度も見たことがある。

魔術師ではないとすれば、学園都市産の能力者と考えるのが最も妥当だ。

なら上条は心置きなく戦える。

右手に宿る幻想殺し(イマジンブレイカー)の力。

超能力であれば、美琴の電撃も烈火の炎も打ち消してきた。

せいぜいLEVEL3程度と思われる念動能力であれば、どうとでもなる。

男の危険性を肌で感じつつも、己の中に生まれた勝算を信じ、上条は拳を握って走り出した。

科学サイドの人間であるとすれば、男が何故インデックスを狙うのかは理解できない。

それでも、インデックスを守るという目的に変わりはない。

 

「ちっ、男が相手じゃ張り合いねーぜ。やっぱ殺るなら女の柔らけえ肉刺したいもんだ」

 

つまらなそうに吐き捨てた男の服を突き破り、複数の鋭く尖った樹木が顔を出した。

樹木は勢いよく飛び出して、上条の体を串刺しにせんと襲いかかる。

上条はスピードを緩めることなく接近し、樹木の槍をかいくぐっていく。

上条の眼前に一本の木が迫る。

避けきれない。そう感じた瞬間、右の拳を叩きつけた。

 

途端に樹木は動きを止め、それに驚いたのか男の体までも硬直した。

絶好のチャンスに、上条は一気に距離を詰め、男の顔面に拳を突き刺した。

 

「がっ……!」

 

男は激しく地面を転がったかと思うと、そのまま動きを止める。

 

「やった……のか?」

 

あまりにも呆気なく終わったことに疑問を感じつつも、インデックスの所へ行こうと振り返る。

 

その瞬間、脇腹を強い衝撃が襲い、風景が高速で回転する。

地面を転がり、街灯の一つに衝突し動きを止めて、上条はようやく自分の身体が吹き飛ばされたという事実を認識した。

一体何が起こったのか周囲を見回す。

そして、気づいた。

 

「急に動けなくなっちまうもんだから、びっくりしたぜ」

 

男は何事もなかったかのように立ち上がっている。

男が着ていた服は左肩部分が大きく裂けて、そこから生身の腕の代わりに、太い木の幹が生えていた。

あの重い一撃は、おそらくあれによるものだろうと推測できる。

脇腹の痛みと戦いながら、上条は立ち上がって歯を噛み締めた。

 

「気絶してなかったのか……!」

 

「あんなもん一発喰らった程度で、するわきゃねーだろボケ。ビギナーズラックで調子こいてんじゃねぇよ」

 

上条自身、手応えを感じていなかったのは確かだ。

インデックスを気にするあまり、注意が散漫になっていた。

己の浅慮を悔やみながら、上条は再び男に立ち向かう。

 

「だったら何度でもぶん殴ってやる!!」

 

猛進。

あの男の能力であれば、遠距離から自分に風穴を開けることも可能だ。

そうなる前に、攻める。

やぶれかぶれの特攻ではない。冷静に勝ち筋を思索した結果の、最善の攻撃手段。

 

「ちっ、めんどくせぇ……」

 

男は木を操って反撃することはせず、上条を懐に呼び込んだ。

さっき木の動きを止められたことで、警戒心を強めたのかもしれない。

 

「こ……のぉ!!」

 

渾身の右ストレート。

しかし、拳が男に届くことはない。

木が上条の右腕に巻きつき、その動きを強制的に停止させた。

 

「そうそう何度もまぐれ当たりもらうかよ」

 

いつの間にか背後から伸びてきていた木の触手が、上条の四肢に絡まって完全にホールドしていた。

上条は理解する。男の策にハマってしまったことを。

木で迎撃しなかったのは、上条の油断を誘うため、そしてより確実に捕らえられるよう懐に呼び込むため。

男は木を闇に潜ませて、冷静に上条の死角を突いてきた。

戦い慣れている、と上条は感じた。

それも恐らく自分とは比較にならないレベルの相手と。

 

「くそっ……!」

 

必死にもがいて逃れようとする上条だが、木の束縛は想像以上に固くびくともしない。

 

「ちっ、じたばたしてんじゃねえよ。こっちはただでさえつまらん仕事回されてイライラしてんだ」

 

「がああああああぁぁっ!?」

 

四肢を締めつける力がさらに強くなる。

二の腕と太ももに食い込むほどに締め上げられ、上条は四肢をもぎ取られそうな激痛に襲われる。

苦痛を訴える絶叫に、男はさも鬱陶しそうに耳を塞いだ。

 

「男の悲鳴なんざ聞きたかねーんだよ。あー、かったりぃ。せっかく火影の連中が近くにいるってえのによ。せめ相手が女なら、ちったあモチベーションも上がるのになぁ」

 

「く……そ、放せ!」

 

上条はなおも身体を捩って木からの脱出を試みる。

が、やはりそれは徒労に終わる。

 

「あー、大人しくしてろや。俺だって耳障りな音もん聞きたかねーしよ、ヘタに動かなきゃ楽にイカせてやるからよ」

 

男は気だるげに言いながら、右手に木を束ね、鋭い槍を形成する。

その照準は上条へと向けられる。

 

「あばよ」

 

上条は思わず目を瞑り歯を食いしばっていた。

死への恐怖か、はたまた襲い来るであろう激痛に耐えるためか。

しかし、いつまで経っても上条の身体が貫かれることはない。

恐る恐る目を開く。

見えたのは、切断された木の槍。

上条を狙っていた凶々しい武器は、鋭利な先端部分を失い平らな断面を晒している。

そして、呆然と明後日の方向を見ている男の顔。

上条は男の視線を追いかける。

首を回した先には、ショートカットの少女とモヒカン頭の大男。

 

「柳がヘンな電話寄越したんで駆けつけようとしたら……まーたアンタか、木蓮」

 

「相変わらずのブ男ヅラ引っさげやがって。ゴキブリ並みにしぶてぇ野郎じゃ」

 

男の知り合い、というより宿敵めいた口振りだ。

再び木蓮を見ると、先程までの気の抜けたような表情は消え去り、狂喜を孕んだ笑みで顔を歪めていた。

 

「土門……風子ォォ~……!」

 

恐らくは、二人のものであろう名を呼んだ木蓮の表情に、上条は悪寒を感じる。

上条に向けていた退屈そうな表情とは全く別の、陰湿で醜悪な笑顔。

それを見て、土門の方だと思われるモヒカンの大男が唾を吐き捨てる。

 

「気安く呼ぶな。殺すぞ」

 

「まさか生きてるとはねぇ。烈火の話じゃ、爆発に巻き込まれて死んだらしかったけど」

 

風子という少女が口にした烈火の名。

それにさっきは柳から電話があったとも言っていた。

もしや、小萌が言っていた烈火と柳の友人ではないか、と上条は推測する。

となれば、この木を操る男は、烈火が話していた『柳を狙う悪者』とやらか。

男は上条の視線に気づくこともなく風子に言葉を返す。

 

「この木蓮様があの程度でくたばるかよ!テメー等全員ぶち殺すまで俺は死なねえ。俺が勝つまで終わりなんざねえのさ!」

 

「あっそ」

 

まるで興味などないような素っ気ない返事と共に、風子が腕を振るった。

直後、上条を捕らえていた四本の木が木蓮の身体から切り離された。

 

「うおっ!?」

 

急に放り出された上条は、受け身もとれずに腰から落ちた。

痛む腰をさする上条に、風子の怒声が飛ぶ。

 

「そこのアンタ!どこの誰かは知らないけど、さっさとその女の子連れて逃げな!!」

 

先刻、魔術師と対峙したときと同じようなシチュエーション。

僅かに生じた迷いを握りつぶし、木蓮の支配下から外れた木を振り落とすと、上条はインデックスの下に走った。

 

「テメェ、待ちやがれ!!」

 

走る上条の背後から、木蓮の木が迫る。

しかし、鋭い先端が上条の背に届きかけた瞬間、それらは細切れになって地に落ちる。

目には見えない真空の斬撃。

風子が操る風の力、『鎌鼬』によって。

 

「ワタクチの前で他のことに気を取られてる余裕があるのかちらん?」

 

上条は背後を振り返り、追撃がないことを確認すると、インデックスを担ぎ上げて全力で走る。

傷ついた身体を揺さぶることになるが、あの男がいる空間から一刻も早く逃れなければ余計に危険が増してしまう。

 

「あんたも行きな、土門!」

 

遠ざかる上条を見送りながら、風子は叫ぶ。

 

「こっちは風子ちゃんが引き受けた。GPSだとこの辺に柳もいるみたいだから、時間はかかんないはずだよ」

 

「ぶらじゃー、風子様!柳のことは任せろ!」

 

土門もまた、走ってその場を去っていく。

二人きりになった戦場で、最初に口を開いたのは木蓮だった。

 

「イヒヒ、殊勝なこったなぁ。テメーから進んで俺様のオモチャになりにくるとはよ」

 

憐れむような言葉とは裏腹に、喜色に満ちた表情を向ける木蓮。

自分が負ける可能性など微塵も考えていないような態度に、風子は挑発的な笑みを返した。

 

「腐れ外道のアンタにゃあ、私自らオシオキしてやろうと思ってね。知ってるよ。アンタ、命も刺したんだって?」

 

「ひひ、それがどーしたよ。なんだあ?まさか怒ってるわけじゃねーよな?あの女は汚ねえ手でお前をハメたこともあるんだぜ?」

 

「べっつにー……」

 

神経を逆撫でするような物言いにも、風子は気怠げに応える。

 

「あいつのことは正直キライだったし、死んだのだってそれまでの行い考えりゃ当然だったのかもね。だから、それとは全く関係ないんだけど」

 

風子は右手を高く掲げる。

その手に填められた、何かの骨格を象ったような腕輪。その中心にある、『風』と書かれた宝珠が月の光を浴びて輝いた。

 

「テメーみてーな女の敵は、ぜってー潰す!」

 

その言葉を嘲るかのように、木蓮は笑った。

 

「ヒャハハ、おもしれえ!その小生意気な上の口と下の口、両方いっぺんに俺様の木をぶち込んでやらぁ!!」

 

風が舞い、木が飛んで。

また一つ、新たな戦いが始まった。

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