とある烈火の八俣火竜   作:ぎんぎらぎん

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だいぶ間隔空けての投稿です。
これからもこんなこと続くかもですが、ご容赦ください。


其之十四:魔術との邂逅④守り救う意味

まるで、空襲を受けたかのように。

柱という柱が折れて、壁という壁が崩れて、つい先ほどまでその場所にそびえ立っていた建物が、今や瓦礫の山と化している。

ただ、そんな無残な姿を晒しているのは、団地のように数多くの学生寮が並び立つ中でも一カ所だけだ。

ある種の異様さ、不自然さを醸し出すその区画は、強力な使い手二人が戦場としていた場所であった。

 

瓦礫の山の一角がゴトリと音を立てた。

蓋のように被さった一際大きな破片が揺れる。

二度、三度とその動きは繰り返されて、遂に破片はひっくり返ってその場からはねのけられた。

そこから現れた赤毛の頭。

荒い息を吐きながら、ステイルは首と視線を左右に振って周囲を見回す。

しかし、見えるのは無機質なコンクリート片と寮の住人たちの物であろう家具や家電の残骸ばかりだ。

あの男の姿は見つからない。

 

「どこだ!花菱烈火!!」

 

ステイルが叫んだその声は、烈火の身を案じてのものではなかった。

ステイルは見た。建物全体を覆った結界と、その頂点全てから放たれたレーザー砲のような炎を。

そして、同時にステイルを守るようにして彼の周りに現れた結界を。

つまり、烈火は助けたのだ。

敵であるステイルを。自分の命を奪おうとした相手を。

その事実に、ステイルは苛立っていた。

 

「まさか死んだとでも言うつもりか!?ふざけるなよ、貴様は僕が直々に殺すと決めた!僕の覚悟を愚弄した罪をそう簡単に拭えると思うなよ!!」

 

こんな形で死なせてなるものか。

こんな形で終わらせてたまるものか。

己の覚悟を証明し、その正しさを確認するため。

花菱烈火は自分自身の手で焼き殺す。

ステイルの胸に刻まれたそんな思いに応じるかのように、声が響いた。

 

「ふんがぁぁぁあああ!!」

 

ボコボコと瓦礫が震えたかと思うと、それを弾き飛ばしながらそこに人影が現れる。

衣服も、身体もボロボロになりながら、花菱烈火は生きていた。

その姿を認識した時、微かに頬がつり上がるのをステイルは感じていた。

ステイルの表情を確認し、烈火も不敵な笑顔を見せた。

 

「よう、ステイルちゃん。ゴキゲンそうだな」

 

「ああ、嬉しいよ。この手で君を殺すことが出来るんだからな」

 

懐からルーンのカードを取り出しながら、ステイルは告げた。

まだ互いに生きている。

ならば、戦いは終わっていない。

ステイルの闘志を感じて、烈火も身構える。

 

「行くぞ固羅ァ!!」

 

「今度こそ死ね!!」

 

崩落した城の上で、二人の男は再び拳を交えんとして、

 

「うおおおおおおおおお!!!……お?」

 

「クッ……ソ……!」

 

二人同時に、その場で仰向けに倒れた。

烈火もステイルも、なんとか立ち上がろうと全身に力を込める。

しかしそれも、身じろぎ程度にしか身体を動かすことは叶わない。

それぞれが全身に負った火傷や打撲、さらには先程までの凄まじい戦闘による著しい体力の低下は、二人から身動きする程度の力さえも残さず奪い切っていた。

 

「クソッタレ……」

 

真っ黒な夜空を仰ぎながら、ステイルは毒づいた。

 

(我ながら、情けないことだ……)

 

インデックスの奪還という目的を果たす前に力を使い切ってしまう羽目になるとは思っていなかった。

いや、違う。

本来ならば、あの場を離脱するだけであれば決して不可能ではなかったはずだ。

烈火への殺意が大きすぎたあまり戦闘に拘って、結果こんな場所で大の字になって倒れてしまっている。

全く以て愚かしい。

だけど、どこか清々しい気持ちだった。

 

「スッキリしたべ?」

 

烈火のそんな言葉が聞こえた。

 

「不思議なもんで、つれーこととかムカつくこととかで頭グチャグチャになってる時もよ、こーやって喧嘩して大暴れすりゃキレイサッパリ吹っ飛んじまうんだ」

 

敵意など微塵も感じさせないような声で、烈火は言った。

不快な声だ。イライラする。

そう思いながらも、自分の中の殺意が急速に萎んでいくことにステイルは気付いていた。

 

「……馬鹿な奴だ」

 

ステイルが呟いたのは、紛れもない本心だ。

だけどそれは自分にも言えることだ。

憎んでいたのに、殺したかったはずなのに。

何故自分は笑っているのだろう。

何故こんなにも晴れやかな気持ちなのだろう。

自分たちが抱えている問題は解決していない。

インデックスを救うという目的からは、むしろ遠ざかってしまった。

なのに、何故──。

霧が立ちこめたように何も見えなくなった己の心中に困惑するステイルに、烈火の言葉が投げかけられた。

 

「オメーはつええよ」

 

その称賛が、ステイルの心の霧をさらに濃いものへと変えていく。

 

「……どういう意味だ?」

 

「意味なんかねーよ。俺もまさかここまでボコボコにされるなんて思ってなかったから、オメーは口だけのヤローじゃなかったんだなってよ」

 

「嫌みのつもりか?最後に見せたあれはなんだ?もっと早くあれを使っていれば、そんな怪我を負う前に勝負はついていたはずだ。それに、ご丁寧に結界で僕を助けておいてよく言うものだ」

 

「ヤな奴だなテメーは……」

 

苦々しげな烈火の声。

しかしステイルの言葉も嫌みのつもりなどない、客観的な意見だった。

実際、建物を一瞬で瓦礫の山に変えたあの炎を使えば、ステイルを倒すことは簡単だっただろう。

だけど、烈火はそうしなかった。

 

「別に手加減してたわけじゃねーよ。オメーを死なせたくなかっただけだ」

 

「それが手加減だと言うんだ。死なせたくない?馬鹿馬鹿しい。僕は君を殺そうとしたんだぞ」

 

「それでもだよ。お前が死んだら、あの子が悲しんじまうと思ってさ」

 

下らない同情だとしかステイルには思えなかった。

インデックスが、あの少女がステイルの死を悲しむはずなどないのだ。

ステイル自身が、そうならないように仕向けているのだから。

 

「下らないロマンチシズムに酔っている君に教えてやろうか?そんなことはあり得ない、絶対にな。今のあの子にとって僕は敵でしかない。彼女のチカラを狙って彼女を襲う悪人にしか映ってないのさ」

 

「……はっきり言い切るじゃねえか」

 

「言い切れるさ。そう言い切れるだけのことを僕はしてきたんだ」

 

インデックスにとって、自分は敵でなくてはならない。

彼女の敵であり続けることが、自分にとっての十字架だ。

インデックスのためにも、そしてステイル自身のためにも。

 

「わっかんねえな」

 

されど烈火には、そんなステイルの心境など理解出来なかった。

 

「俺にはわからねえ。守りてえ、救いてえって思うような相手に、なんで嫌われようとなんて出来んだよ」

 

烈火にだって、そんな経験があった。

自分では柳を守れないと思い、彼女を遠ざけた経験が。

あれがあったから、柳との絆がより深まったともいえる。

それでも、あの時の張り裂けそうな胸の痛みも、柳の悲しそうな顔も、二度と味わいたくはない。

だから、わからない。

大事な人を傷つけ、あまつさえ敵であろうとするステイルの心が。

 

「オマエが強いと思ったのはホントだよ。俺と比べてどうこうじゃねえ。あんだけボロボロになっても立ち上がって戦おうとするなんて、強くなきゃ出来やしねえ」

 

かつて、紅麗と戦ったときの自分のように。

愛する者のため、何度だって立ち上がった自分のように。

技も、心も、ステイルの強さは確かなものだった。

 

「あの子のためなんだろ?そんなに強くなったのは。俺だってそうだ。柳を守りてえ、母ちゃんを救いてえ、仲間のために戦いてえ。そう思ってたからへこたれずに頑張ってこれたんだ。人間ってのはやりてえことがあるからなげぇ道もトコトコ歩いて行けんだよ」

 

ステイルの強さを認めたからこそ、烈火にはわかる。

真にその力を振るうべき目的が。

 

「せっかく強くなったのに、好きな女の子に嫌われようとするなんて勿体ねぇよ。素直にあの子守って、カッコいいとこ見せてやれや!どんだけ意地悪しても、オメーのホントの気持ち見せりゃわかってくれる。女の子ってのはそーゆーもんぢゃ!」

 

楽観的な言葉だ。

何も事情を知らず、何も意味を理解していない。

だからこそ、こんな馬鹿げたことを平気言えるのだ。

そう一蹴してやりたい気持ちは、ステイルの中に確かに存在していた。

そのはずなのに、烈火の言葉を信じている自分がいた。

信じて、確かめたい。そんな気持ちが芽生えていることをステイルはわかっていたのだ。

 

──ね、これ何のルーン?

 

聞こえるのは、少女の言葉。そして、

 

──大切な人を護るために創った、新しい文字(ルーン)だ。

 

己が返した答え。

 

「そう、だったな」

 

そう呟いた瞬間、霧が晴れていく。

その時、ステイルはようやく気づくことが出来た。

霧の正体がなんだったのか。

ステイルは羨んでいたのだ。

どこまでも馬鹿で、どこまでも愚直で、どこまでも素直な烈火のことを。

羨望が嫉妬に変わり、ステイルの心を覆っていたのだ。

 

──僕も、あいつのように。

 

天上から下りてきた一筋の糸のように、烈火の言葉はステイルを闇の中から引っ張り上げようとする。

ステイルは、その糸に手を伸ばそうとして──

 

「惑わされてはいけません」

 

一刀の下に、そんな迷いを断たれた。

その言葉を発した声が誰のものか、ステイルは知っていた。

 

「神裂……」

 

夜空から、一人の女が降り立った。

たなびかせた長い黒髪が月明かりを浴びて煌めいている。

女はゆっくりと顔を上げる。

女性とは思えぬ長身ながら、月光の下に晒された顔は見たもの全てを虜にしてしまいそうなほど美しい。

ステイルと共にインデックスを追っていた刺客の一人にして、彼女が大切にしていた親友でもあった女。

聖人──神裂火織。

 

その女を見た瞬間、烈火は目を見開いた。

女の端正な顔立ちのせいでも、左足や腹を露出した奇抜な服装のせいでもなく、女が携えた身の丈よりも大きな刀を見たからだ。

そして思い出す。インデックスの背中につけられた、一文字の大きな刀傷。

 

瓦礫の山の天辺からしきりに周囲を見回すと、神裂は呟いた。

 

「随分と派手にやりましたね。出来うる限り、隠密に動きたかったのですが」

 

「すまないな。少々、計算外のことがあったのでね」

 

「責めているつもりはありません。貴方程の者がそれだけ負傷しているところを見るに、あの少年も相当な手練れだったということでしょう?」

 

ここに来て、新手の出現。

絶体絶命の危機に瀕した状況だが、烈火の関心はそんなところにはない。

 

「おい、そこのテメェ」

 

「私のことですか?」

 

神裂から不快感を乗せた語調と視線を感じながらも、躊躇うことなく烈火は続けた。

 

「他に誰がいんだよトンマ。確認しときてえんだが、あの子斬ったんはテメェで間違いねーのか?」

 

「……それが何か?」

 

「何か、じゃねえんだよ。女の子をあんな目に遭わすヤツは、女だって関係ねえ!一発ぶん殴ってやる!!」

 

神裂の返答に烈火は激昂を見せる。

しかし神裂は烈火の気迫に動じることもせず、つまらなそうに言った。

 

「気を吐くのは大いに結構ですが、少しは今御自分が置かれた状況を理解しては?ステイルとの戦いで貴方も相応のダメージを受けている。そんな身体で私に一撃を与えることが出来るとでも?」

 

鞘に収まった刀を烈火に向けて、神裂は坦々と述べる。

 

「断っておきますが、私はステイルよりも強い。例え貴方が万全の状態であろうとも、負けるつもりはありません」

 

それが事実であることは烈火もわかっていた。

立ち振る舞いだけでわかる。

神裂の強さはステイルの数段上を行くものだ。

怪我や疲労のハンデを差し引いても、自分が勝てるかはわからない。

 

「るっせーんだよ……!!」

 

それでも、見過ごす気はない。

 

全身の筋肉を稼働させる。

少しずつ、少しずつ上体を持ち上げて、今度は下肢を全霊の力で奮い立たせた。

身体が浮いたのはほんの一瞬。直後には、今度は顔から瓦礫の山に倒れ込む。

なおも烈火は闘志を燃やす。

全身の力で瓦礫の上を這いずって、神裂の足首を掴んだ。

 

「離さねえぞ……あの子にワビ入れさすまで、俺はテメェを絶対逃がさねえ!」

 

一連の行動を神裂はただ黙って見ていた。

逃げようともせず、避けようともせず、黙って烈火の手に捕らえられた。

女は冷たく言い放った。

 

「手負いの者に手を下すような真似はしたくありませんが、貴方があくまで妨害を続けようとするならば致し方ありません」

 

神裂が刀を振り上げる。

烈火を障害とみなし、それを破壊するために。

 

「命までは奪いません。ですが、貴方がその手を離すまで、何度でも貴方の身体を打ちましょう」

 

「やってみやがれ……死んでも離さねえ!」

 

「そうですか。ならば、遠慮はいたしません」

 

神裂の腕が、そこに繋がれた刀が、振り下ろされ烈火の身体に叩きつけられんとし

 

地表を砕いて現れた氷柱が、神裂の手元から刀を弾き飛ばした。

 

「なっ!?」

 

神裂の表情が驚愕に染まる。

全く予期していなかった攻撃に、思考の外から放たれた一撃に。

対して、烈火は笑みを浮かべている。

その技が誰のものなのか、知っていたからだ。

 

「おせーんだよ、タコ」

 

「遅刻常習犯の分際でダメ出しとは、偉くなったものだな」

 

烈火が声に安堵を滲ませながら悪態をついた相手を、神裂も視認した。

いつの間にか、気配を感じさせることなく接近していたその人物は、女と見紛うほどの長髪と痩躯。手には、水のように澄んだ刀身の剣。

 

「黙って寝ていろ、シーモンキー」

 

水の剣士──水鏡凍季也。

 

 

逃げ場は徐々に失われていく。

 

「ここも塞がってる……」

 

ビルの一階を走り回りながら、柳は自分が追い詰められているのを感じていた。

柳が目にしたのは、先ほど通ったはずの通路を塞いでいる土の壁。

ここだけではない。

階段も、窓も、あの女の能力であろう土の塊が既に封鎖している。

もう何度も同じ場所を行ったり来たりしている。

どうやら、柳を誘導しながら徐々に袋小路へと追い込もうとしているようだ。

 

何故、こんな回りくどい方法を使うのか柳にはわからなかった。

柳の現在地を探知でき、あんな土の壁を創り出せるのであれば、もっと容易に捕らえることが出来るだろうに。

考えながらも、柳は足を止めはしない。

無力な自分に出来るのは、せめて助けが来るまで少しでも長く時間を稼ぐことだと。

決して速いとはいえない足を懸命に動かして、振り切れるはずのない追っ手を振り切ろうと。

 

だが、その鬼ごっこも遂に終わりを迎えてしまう。

 

「あっ……」

 

とうとう柳の足が止まってしまう。

つい三十秒前までは通れたはずの道が、塞がっていた。

慌てて別の道を探そうと振り返る。

そして、目が合った。

気づかぬうちに、自分の背後まで迫っていたあの女と。

 

「はい、おしまい」

 

女の手が、柳の肩に触れる。

柳には、振り払うことすら出来ない。

 

「大人しくしてろよ?手荒な真似はなるべくしたくないからよ」

 

「あなたは……」

 

「あ?」

 

か細い柳の声に、女は苛立ったように声を荒げた。

それに気圧されながらも、柳は精一杯の声を絞り出した。

 

「あ、あなたは……なんでこんなこと、するんですか?」

 

柳の問いに、女は面倒そうに頭をかきむしった。

 

「さて、知らないわ。私はただ“彼ら”に協力しているだけですもの。連中が何の目的でこんなことしてるかなんて興味ねぇよ」

 

“彼ら”というのは、やはり幻獣朗を指すのか。

もしそうなら、柳を狙う理由も見当がつく。

そして、捕まるわけにはいかないということもわかった。

 

「ま、怪我したくないなら大人しく──あっ、おい!」

 

一瞬の隙を突いて、シェリーをかわして走り出す。

が、

 

「きゃっ……」

 

何かに足を取られて、盛大に転んでしまう。

まとわりつかれるような感覚を確認すると、土で出来た人の手が足首を掴んでいた。

その力は非常に強く、どれだけ足を引っ張ろうと解放される気配はない。

 

「ほらほら、暴れるんじゃないの」

 

落ち着き払った様子で、女が柳の額に手を伸ばす。

 

「少し眠らせとくか」

 

怯える柳に、女の魔手が徐々に近づき、触れようとしたとき…………何やら、奇妙な音が聞こえた。

まるで何かが砕けるような音。

音だけではない。自分たちがいる空間が、微かに震えるのを柳も女も感じていた。

 

音も、揺れも、少しずつ大きくなる。少しずつ近づいてくる。

 

「糞ッ、なんだ!?」

 

得体の知れない侵略者に、女は恐怖した。

どこから敵が現れても大丈夫なように、身構える。

前か、後ろか、右か、左か。

四方に気を巡らせて、迎撃態勢を採った。

直後、音源たる男は姿を現した。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉおおおおお!!!」

 

女の真上から。

予期せぬ方向からの奇襲に不意を突かれた女はその場から飛び退いた。

一瞬後に、男のスタンピングが地面に炸裂した。

その衝撃で土埃が舞い、また建物が揺れる。

 

土埃が晴れ、男の姿が露わになると、柳は声を張り上げる。

 

「土門くん!!」

 

「待たせたな、お姫様。土門ちゃん見参でぃ!!」

 

柳に向かってVサインを作ってみせると、土門は女に向き直り、拳を構える。

 

「おい柳。あのじゃじゃ丸みてーな女誰だよ?」

 

土門の問いに、柳は首を振る。

 

「わからない……私のこと、どこかに連れて行こうとしてたみたいで……」

 

「要するにワルイやつってことだな」

 

土門は納得したかのように大きく頷くと、女を指差し吼える。

 

「かかってきやがれじゃじゃ丸オバサン!捻り潰してやらあ!!」

 

土門の啖呵に、女は笑って応えた。

笑いながら、手に何かを持って、それを壁に近づける。

 

「捻り潰す、か……やれるもんならやってみやがれ糞餓鬼が!!」

 

女が何かを壁に走らせた。

その軌跡は白く、チョークを使って何かの文字や図形を描いているようだった。

 

「その前に、お前が潰されるだろうけどなぁ!!」

 

ボコッ、と。女の目の前の地面が隆起した。

隆起した地面が、今度はメリメリと音を立ててそこから剥がれ、三メートルほどある人型の土塊が現れた。

まだ、終わらない。

女はさらにチョークを走らせる。今度は、周囲にあった瓦礫や角材、ワイヤーなどが磁石に引き寄せられるようにして土塊に吸い込まれていく。

まるで、鎧を纏うかのように。

貧弱だった土の人形は徐々にその身体を強靭なものへと作り替えていく。

 

「私の名前はシェリー=クロムウェルよ。得意とする魔術は『ゴーレム』」

 

シェリーはチョークを振るった。

同時に、物言わぬ土塊人形だったゴーレムが動き始める。

標的は、土門。

 

「泥臭いゴーレム=エリス。私のために笑って使い潰されな!!」

 

ゴーレムが、その巨大な腕を土門に振るった。

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