とある烈火の八俣火竜   作:ぎんぎらぎん

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ルビ振り機能が上手く使えない……何故……


其之十九:mission

魔術師達の襲撃から3日が過ぎた。

水鏡の予想は正しかったようで、今のところ魔術師による攻撃の気配はない。その間に、烈火や土門のダメージも完全に回復し、万全の状態を迎えることができた。

 

「それじゃあ、行ってくるねー!」

 

「行ってらっしゃーい!車に気を付けてねー!」

 

夕飯時を少し過ぎた頃。長い夏の日もとっくに沈んでいる午後八時頃、学生マンションの前で少女ふたりはそんなやり取りを交わしていた。

 

「いやじゃあああ!!俺は風子様と一緒が良いんぢゃぁぁあ!!」

 

「ええい、いちいち泣き喚くな腐乱犬(フランケン)!!」

 

その横では泣き叫びながら暴れる大男と、それを足蹴にする女の姿。

不気味に両立している二つの光景を前に、上条は顔を引き吊らす。

 

「……あいついっつもあんななの?」

 

「うーむ、前はもうちょいマシだったような気も……」

 

「前からあんなもんだろう」

 

落ち着き払った様子でその光景を眺めている烈火と水鏡を見て、これが日常茶飯事であることを上条は察した。

 

「お前らも苦労してそうだな」

 

「慣れた」

 

労りの言葉にキッパリと返す二人を前に、大変なのは自分だけじゃないんだなあと少し報われた気分になる上条。実際のところ、それで自分の気苦労が減るわけでもなければ、むしろ関わり合いを持つことで心配の種が増えてしまうことには気づいていない。

しかし直ぐ様、水鏡やインデックスと共に土門の面倒を見なければならないことに気づいてため息をつくのだった。

 

「ほらほら行くよ、どもん!いつまでもウジウジしてるなんておーじょーぎわが悪いんだよ!」

 

「その通りだな。早くしろゴリラ。お前の発情期が終わるのを待つ時間が惜しい」

 

インデックスにダメ出しを受け、水鏡に毒を吐かれたことで土門も渋々諦めたようだ。のそのそと力なく風子の下を離れた。

 

「じゃ、行ってくる」

 

「おう! 俺らもすぐに追うからよ!」

 

「そのアホのこと頼むねインちゃん。ごねたらおもっきし蹴っ飛ばしてやりゃいいからさ」

 

「合点承知なんだよ!」

 

それぞれに言葉を交わし、四人は市街地の方に歩いていく。遠ざかる背中を見送りながら、柳は心配げに呟いた。

 

「ほんとに大丈夫かな……」

 

「みーちゃんも太鼓判押してくれたしへーきだよ……って言いたいとこだけど、実際どうなのさ烈火? 魔術師ってヤツら、ずいぶん強いんでしょ?」

 

魔術師とはまだ会っていない風子も、柳と同じ不安を抱えていた。

 

「簡単な相手じゃねーってのは確かだな。多分、十神衆並かそれ以上だ」

 

そう答える烈火だが、その顔に不安の色はなかった。

 

「でもよ、見境無しに暴れるようなヤツでも、意味なく悪さするようなヤツでもねえように見えた。だから少なくとも、インデックスに対しては無茶な真似はしねーと思う」

 

「つってもさ、事実としてあの子は背中バッサリ斬られてたじゃん。切羽詰まったらナニしてくるかわかんないんじゃないの?」

 

「大丈夫だよ、きっとな」

 

確たる保証があるわけでもない。それでも、拳を交えてステイルという人間については少しは理解しているつもりだった。

 

 

 

 

事の発端は、今朝朝食を摂っていた時のインデックスの発言だった。

 

「囮作戦なんだよ!」

 

勢いよく立ち上がっての宣言に、一同は目を丸くして固まった。

 

「囮って……どういうことだよ」

 

言葉の意味を呑み込めていない上条に、インデックスはニヤリと笑って見せた。

 

「ふっふーん。とうま、虎穴に入らずんば虎児を得ずなんだよ」

つまりはこういうことだ。

魔術師達の動向は依然として掴めていない。無論、何も起きていないこと自体は喜ばしいのだが、敵戦力の全容すらわかっていない現状、待ちに徹するのは危険ではないか。敵がその気になれば、いつでも自分達の不意を 突いてくる可能性はある。

ならば逆に、自分が囮になって敵を誘い出してやればいいのではないか。向こうが仕掛けてくる前に仕掛けることで、主導権を握れるのではないか、とのことだった。

 

どうにも、昨晩放映されていた海外産のアクションムービーの影響を受けたらしいと、隣で一緒に映画を観ていた烈火と上条はすぐに気づいた。当然ながら、上条は猛反対した。

 

「バカ言え! そんな危ねえことさせられるか!」

 

上条の言うとおり、非常にリスクの高い作戦であることは確かだ。作戦失敗がそのままインデックスを拐われることに繋がってしまう。

 

「いや、悪くない案だ」

 

しかし、水鏡はインデックスの案に賛成した。

 

「その子の言うとおり、我々は敵についての情報が少なすぎる。その子を狙う敵が、この前の連中だけとも限らないしな」

 

魔道書図書館『禁書目録(インデックス)』。その価値の高さは、魔術師と呼ばれる人間なら誰でも知っているはずだ。もし彼女が学園都市に滞在している情報を持つ魔術師がステイル達以外にいるなら、そういった連中も手を出してくる恐れはある。

 

「下手に争いを長引かせてしまえば、他の魔術師共に付け入る隙を与えてしまうことになりかねない。そうならない内に、こちらから仕掛けてカタをつけた方がむしろリスクは低くくなる」

 

「でもよージョン、連中だって俺らが何してるかなんて把握出来てねーんじゃねーの? だったら、下手に動いてむざむざ情報与えなくてもいいんじゃねえか?」

 

「その名で呼ぶなゴリラ。……恐らくだが、敵は既に僕達の情報を掴んでいると考えた方がいい」

 

水鏡は立ち上がると、おもむろに背後のラックから新聞紙を取り出して食卓に置いた。

 

「これは一昨日の朝刊だ。三面を見てみろ」

 

学園都市内部でのみ発行されているその新聞は、当然ながら記事の多くが学園都市に絡む出来事で構成されている。

風子がそれを手にとって、言われた通り三面を開いた。そして右上辺りに『学生寮全壊。ガス爆発か?』と書かれた文字を見つけた。

 

「これ、烈火がぶっ壊したっていうヤツだよね?」

 

「ああ。下の方には、土門が壊した廃ビルの記事もある」

 

水鏡の言うとおり、同じ面の下段には『廃ビル崩壊。問われる管理者責任』とも書かれていた。

 

「おー、なんとか誤魔化せたんだな。よかったよかった」

 

烈火が安堵の息を吐いた。弁償から逃れることが出来て安心したようだ。

しかし水鏡は、険しい表情を浮かべている。

 

「おかしいと思わないか? ほとんど離れていない場所にある二つの建物がほぼ同時に破壊された。しかも一つはLEVEL5が住む学生寮だ。それが二つとも単なる事故として処理されている」

 

「気づかなかっただけじゃねーの? 実際、花菱の相手と石島の相手はそれぞれ別の目的で動いてた訳だしさ」

 

「仮に二つの事件に関連性を見出だせなかったとして、それでもマスコミは面白がってこの二つを関連付けたがるものさ。ましてや烈火はつい最近この街にやって来た、素性の知れないLEVEL5。そんな人間が絡んでいる可能性のある事件を、こんな形で扱うはずはない」

 

上条の反論にも、水鏡は的確に答えてみせた。

 

「そうなると、箝口令が敷かれていると考えるのが自然だ」

 

「つまり、偉い人たちが『このことは事件として扱うな』って命令したってことですか?」

 

「そういうことです」

 

水鏡は柳に頷く。

 

「で、魔術師が俺らの情報掴んでるって話と、どう繋がるってんだ?」

 

首を傾げる土門に水鏡が口を開くより早く、風子が手を叩いた。

 

「そっか! つまり上の連中はこの事件の真相に気づいてるんだね」

 

「そうだ。その上で、魔術師達に協力していると考えていい」

 

水鏡は続ける。

 

「そもそも、厳重に外部とのやり取りを管理しているこの街に、無関係の人間が三人……いや、四人も侵入している時点でおかしいんだ。この街の上層部は魔術師の存在を認知し、更に奴等が動きやすいよう支援している。

何故か? 魔術師にとってインデックスは重要人物。そのインデックスをこの街に置いておいては、魔術サイド同士の争いに巻き込まれかねないからだ」

 

「なるほど……だから学園都市側としては、イン坊をさっさと魔術師共のとこに戻してえ。そんで俺らのことを教えて連中が動きやすいようにする、と」

 

烈火は大きく頷いて納得した。

 

「酷いよ……インデックスちゃんを、まるでモノみたいに」

 

「だいじょーぶなんだよ、柳。私、そういうのには慣れてる。それに、そう言ってくれるだけでスゴくうれしいかも!」

 

表情を曇らせる柳を、インデックスは小さな手で撫でる。幼い容姿に見合わぬその包容力は、シスターであるが故か、あるいは彼女自身が生まれ持った素質なのか。

 

「そーゆーわけだから、私は囮になるんだよ。あんな人たちに私の記憶を渡すわけにはいかないの。危なくたって構わない。私の使命は、10万3000冊の魔道書を守りきることなんだから」

 

しかしながら、やはり上条は難色を示した。

 

「そんなもん認められっか! お前、わかってんのか? 相手はお前にあんな大怪我負わせた奴等だぞ!? 最悪……最悪、拐われるだけじゃすまねえかもしれねぇんだぞ!!」

 

その結末を口にすることすら、上条には恐ろしかった。だが、その場の誰もが何を言わんとしているのかを理解していた。インデックス本人も、例外ではない。

しかし、インデックスは笑った。

 

「わかってるよ、とーま」

 

笑いながらも、力強く小さな拳を握り締め、少女は続けた。

 

「私も闘いたいんだよ。私のために、れっかも、ふーこも傷ついた。やなぎやどもんが危ない目に遭ったのも私に関係してるのかもしれない。守られてるだけなんてやだよ。私のためにみんなが身体を張ってくれるんなら、私も闘う。闘って、みんなの役に立ちたい」

 

上条は、反論の言葉を口にはできなかった。

決して軽い気持ちで言っているわけではない。その身を狙われ、命の危機に瀕しながらも、インデックスは勇気を奮い起たせた。そのことは、彼にも理解出来たからだ。

それでも、不安を隠しきれない上条に、インデックスは微笑んだ。

 

「へーきだよ、とーま。私みんなを信じてるから。とーまなら、れっかなら、きっと私のことを守ってくれるって知ってるから。だから、なにも心配はしてないんだよ」

 

「……だとよ、当麻。どーするよ?」

 

烈火の言葉に、上条は目を瞑って。

 

「……わかった、わーったよ! その代わり、俺も付いていくぞ! 危険だと思ったら引き摺ってでも連れて帰るからな!!」

 

ため息をつく上条に、インデックスは親指を立てる。

 

「ん! りょーかいなんだよ!」

 

 

 

陽動組の四人が担っているのは、敵を誘き寄せる役目。そして、誘いに乗った敵を後ろから叩く役目が烈火達だ。

無論、二手に別れた時点で敵も監視の目を分散させるだろうし、みすみす烈火達の乱入を許す可能性は低いと考えていた。しかし、相手の行動を制限し、こちらからある程度操作出来るメリットは大きい。

 

「危ねえ橋渡るってのは確かだけどな。でも土門とみー坊がついてんだ。当麻だっている。信じるっきゃねえだろ?」

 

「……ま、それもそうかな。多分あの子、ああなったらテコでも動かないだろーしね」

 

あの時のインデックスには、いつかの柳の姿が重なって見えた。裏武闘殺陣出場の際、自らを賭けの景品として差し出した柳の姿が。

そう言えば、あの時は烈火も上条同様に反対していたのを思い出す。結局しぶしぶ折れたこともまるっきり一緒だった。

 

「どしたの、風子ちゃん?」

 

思わず笑みを浮かべてしまった風子に、柳がキョトンとした目線をぶつけていた。風子は誤魔化すように柳の頭に手を乗せる。

 

「うんにゃ、なんでもないさ♪」

 

「っしゃ! ぼちぼち行くか! 見失ったら不味いしな」

 

烈火が拳で手のひらを叩いた。その言葉に反応し、風子も柳の頭から手を離す。

 

「だね! 腕が鳴るぜー!」

 

風子が先陣を切り、四人の後を追おうとした瞬間、

 

「危ねえ!!!!!」

 

怒鳴るような烈火の声が響いた。直後、押し倒される感覚が風子を襲い、一瞬前まで自分の頭があった場所を通過する紅蓮の炎が目に入った。

背中に強い衝撃が走る。それがアスファルトの地面に身体を叩きつけられたことによるものだと気づくより先に、押し寄せる巨大な炎の波が風子の思考を埋め尽くした。

 

「円ぁ!!!」

 

炎の波が風子たちを呑み込まんとする刹那、烈火の張った結界がそれを遮った。弾き返され、八方に散っていく炎を前に、風子はようやく自身の置かれた状況を理解した。

 

「なかなか良い反応じゃないか」

 

称賛の言葉は、今この場を飾るには似つかわしくないほどに落ち着き払ったもので、風子の命を奪おうとした男が放ったとは思えないほどに親しげに聞こえた。

 

「挨拶なしに飛び入りたぁ、やってくれんな固羅!!」

 

視界を覆い尽くしていた炎が消え、結界が解かれ、姿を現したのは燃えるような赤髪で全身に黒いローブを纏った長身の男。烈火から聞いていた通りのその風貌。

 

「久しぶりだね、花菱烈火。今度こそ──君を殺しに来た」

 

炎の魔術師──ステイル=マグヌス。

 

 

「第一回、カワイイ女の子選手権!! まず俺からな! 風子様!!」

 

「……柳さん」

 

「えっ!? えーと……小萌先生!」

 

「わたし!!」

 

「はい、インデックス負けー!」

 

「どういう意味かなどもん!?」

 

両腕をぐるぐる回しながら怒り狂うインデックス。しかし頭を抑えられていることによって、リーチの差で土門には掠りもしていない。

 

「がっはっは、色気が足りんのだよ色気が!」

 

「ぐぬぬ……じゃあ次は面白い顔の男の人選手権! はいときや一番!」

 

「土門」

 

「はいときやいきなり優勝!!」

 

「なんでぢゃい!!?」

 

土門までも腕を回し、そのままポカポカと子供の喧嘩が始まった。その姿を見て上条は何度目かのため息をついた。

 

「なんつー緊張感のない……危険だってことわかってんのかあいつら……」

 

喧騒から離れた水鏡が、上条の肩に手を置いた。

 

「諦めろ。その内慣れる」

 

そう語る水鏡の顔には、そこはかとない哀愁が漂っていた。慣れというより、汚染なんだろうなあと上条は思った。

 

「このくらいの空気でいた方が、敵も油断してくれやすい。周囲は僕が警戒してるから安心してくれ」

 

「……まあ、そう言ってくれるなら安心……出来ないなあ」

 

「だろうな」

 

そういう二人の視線の先には、インデックスに頭をかじられ悶絶している土門の姿。二人のため息が重なった。

 

「……と、そういや水鏡。一つ聞きたいことがあったんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

「いや、焼き肉の時に、花菱があと四人呼ぶって言ってたんだ。三人はあんたらでわかるんだけど、あと一人って誰?」

 

ああ、と水鏡は納得したように頷いた。

 

「小金井という中学生だ。彼も僕らと同じところから来たのさ」

 

半分は本当で、半分は嘘だ。確かに水鏡達と小金井がいたのは同じ世界。だが、時代が違った。彼がいたのは戦国の世。平成の時代に住む水鏡達とは、もはや別の世界の住人であるとも言える。

しかし、無論上条がそんな事実に気づくはずもなく。

 

「へー。やっぱそいつも強いのか?」

 

「……まあ、それなりにな。僕ほどではないがね」

 

そう言う水鏡自身も小金井の強さをその身で体感した一人だ。麗十神衆の一人、ジョーカーすらも倒したその腕前は、今現在の状況なら百人力の助っ人になるだろう。

しかし、彼らは小金井に助けを乞うことはしなかった。折角また学生生活を楽しんでいるであろう小金井を、わざわざ戦場に呼び戻す必要はない。それが火影が満場一致で出した答だ。

 

「花菱や霧沢もメチャクチャ強いし、ほんと、すげーよな皆」

 

上条のその言葉が、水鏡にはどこか寂しげに聞こえた。

 

「多分さ、こん中じゃ俺が一番足手まといなんだろうなって思うよ。この前だってインデックス連れて逃げるのが精一杯だった。皆みてーに体張ることも出来なかったしさ」

 

曇った表情から伺い知れるのは、彼の無力感。これまで知らなかった世界を覗いてしまい、その中で役に立てなかったという自責の念。

恐らくは、強い責任感から来るものなのだろう。火影を巻き込んでしまったこと、そしてインデックスにあんな大怪我を負わせる原因となってしまったことからの。

二人が知り合った経緯は既に聞いている。魔術師達から逃げていたインデックスがたまたま上条の家のベランダに引っ掛かっていたこと。上条に助けられ、食事を与えられたこと。その後のやり取りの中で上条がインデックスの纏っていた霊装『歩く教会』を破壊してしまったということ。

 

上条が今抱えている感情は、水鏡にも理解出来た。

自分もかつて似たような感情に苛まれたことはある。その結果も、インデックスに起きたより更に悲惨なものだった。

 

「確かに、役に立ってはいなかったかもな」

 

理解は出来た。しかし、それを上べの言葉で慰めるような真似を水鏡はしない。それが根本的な解決に繋がらないことは知っていたし、何より彼のやり方ではないからだ。

 

「……だよな。情けね……」

 

「だが、何か問題はあったか?」

 

予想外の言葉が続いたことで、上条は目を丸くした。

 

「インデックスは無事だった。誰かが死ぬこともなかった。君が何も出来なくとも、結果はそう悪くはなかった。別に悲観することもないさ」

 

それは単なる客観的事実に過ぎない。しかし、だからこそ上条にとって何よりの励ましになる。

 

「次か、そのまた次か。必ず君の力が必要になる場面は来るはずだ。君がすべきは後悔よりも、然るべきタイミングで最良の結果をもたらせるよう準備することだ。違うか?」

 

「……いや」

 

「なら、この話はここで終わりだな。精々彼女の信頼を裏切らないよう心掛けておくことだ」

 

上条が小さく拳を握るのを見て、水鏡は安堵した。上条の心はまだ折れていない。ならばまだ、闘える。己を信じ、己を奮わすことが出来るならば、彼の右手がその役割を全うする時は必ず来るはずだ。

 

(柄じゃないな、まったく)

 

火影に加わり、烈火達と共に過ごしたせいだろうか。『慣れる』、という言葉はあながち間違ってはいなかったようだ。水鏡は小さく微笑むと、その元凶の一人である土門をそろそろ制止しようと顔を上げ──

 

異変に気づいた。

 

「な……に?」

 

いつの間にか、目の前にいたはずの土門とインデックスの姿がなくなっている。それどころか、周囲の景色も変化していた。つい先程までの住宅地ではなく、学区の中心にある市街地に立っていた。

「お、おい、どうなってんだ……?」

 

上条の声が聞こえたことに少し安堵したものの、インデックスを見失ってしまったという懸念の方が遥かに大きい。土門が付いていればなんとかなるかもしれないが、もし土門すらもインデックスから引き離されていたとすれば、作戦は早くも頓挫してしまったことになる。

このような事態に陥った際は、すぐ引き返して烈火達と合流するようインデックスには伝えてある。最悪の事態だけはなんとしても避けなければならない。

 

ふと、水鏡は違和感を覚えた。駅にも程近く、ショッピングモールや飲食店も数多くあるこの周辺は、通常ならまだまだにぎわいを見せている時間帯だ。それなのに、人の気配がまるでない。客はおろか、従業員らしき人影すらも見当たらないのだ。

 

「人払いのルーンは効果覿面だったようですね。何故かもう一人着いてきてしまったのは想定外ですが」

 

空っぽの街に虚しく響く女の声。水鏡と上条は咄嗟に身構える。

 

「……その声、あの時の女だな」

 

「あの時のって……まさか」

 

水鏡の言葉に応じるかのように、暗闇から一人の女が現れた。

後ろで束ねた黒髪と端正な顔立ちだけであれば見たもの全ての心を奪いかねないその美貌も、しかしジーンズの片足をバッサリと切り落とした奇抜な服装、そして2メートルはあろうかという大振りの太刀が台無しにしてしまっている。見紛うはずもなく、三日前に水鏡と剣を交えたあの女。

 

「貴殿方にはまだ名乗っていませんでしたね。私は神裂火織と申します。貴方と少し話をしに来ました。よろしいですか?──水鏡凍季也」

 

水鏡は答えない。ただ黙ってポケットから閻水と、水の入ったペットボトルを取り出した。

ペットボトルのキャップを開き、閻水に垂れ流す。水を浴びた閻水の核、『水』の文字が光を放った。浴びせられた水は地面に流れ落ちることなく、閻水の先端に透き通った刃を形作る。ペットボトルの水が尽きる頃には、一振りの剣が完成していた。

 

「話したければ……力づくで聞いてみろ」

 

刃を向けられた神裂は、表情を僅かばかりも変えることなくつまらなさそうに呟いた。

 

「成る程、ではそうさせていただきましょう」

 

 

それぞれがそれぞれの因縁の下に、魔術師と火影の戦いは再び始まった。

如何なる結末が待っているか。その答は誰にもわからない。




囮作戦とか色々ガバガバな気がしますがご容赦願います。
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