とある烈火の八俣火竜   作:ぎんぎらぎん

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其之四:散り散りなる者たち

またしても、一瞬の内に烈火たちは移動させられていた。

テレビを見ていたらカットが替わった。そんな感覚だ。なんの予兆も前触れもなく、視界に映る景色が変わった。

まさしく、瞬間移動という言葉がピタリと当てはまる。

 

「ベンリなもんだのぉ~」

 

腕を組んで感嘆する土門。

烈火もそれに同意する。

 

「んだ。どこでもドアだな」

 

今し方まで自分たちがいたというビルを見上げる視線を、今度は赤毛の少女に移した。

 

「なあアンタ、そりゃなんて導具……っておい、だいじょぶか?」

 

少女の顔は、真っ青になっており、口元に手を当てている。烈火は手を差し伸べた。

しかし少女は、それを乱暴にはね除ける。

 

「放って……おいてっ……」

 

「いやでもシンドそうだし、風邪でもひいてんのか?」

 

「かまうなって言ってんでしょ!?」

 

邪険そうに言い残し、少女はふらつく足取りで来た道を引き返して行った。

烈火は首を傾げながら呟いた。

 

「なんだ?ゴウジョーなやつめ」

 

「あの人、ホントに大丈夫かな……?」

 

心配げに見送る柳の頭に、烈火は軽く手を乗せた。

 

「ま、本人がああ言ってんなら心配するこたねーだろ」

 

ああいう意地っ張りそうなのは下手にかまうとややこしいし、と風子を見ながら心の中で呟く烈火。

 

「?私の顔になんかついてる?」

 

「べつに。もうちょい可愛げあってもいいのになーってよ」

 

「喧嘩売っとんかワレ」

 

風子は錐を振り上げた。

 

「で、だ」

 

ぐいんと体ごと方向転換して小金井と向き合う烈火。頭には何本か錐が刺さっている。

 

「俺らは基本的に一緒に行動するつもりだが……お前はどうするよ、小金井」

 

小金井の頭に手を乗せて、烈火は尋ねる。

 

「来たけりゃ来たらいいし、来たくなけりゃ来なくていい。おめーが好きなようにしろ」

 

「んー……」

 

顎に人差し指をあてて考え込む小金井は、数秒後には笑顔を見せて返答する。

 

「別に一緒にいたくないって訳じゃないけど、やっぱやめとく!俺がいなきゃ、紅麗が寂しがるだろうし!」

 

小金井が視線を送ると、紅麗はつまらなさそうに返す。

 

「別に私は一人でも構わん」

 

「またまたー、強がっちゃって♪」

 

肘で紅麗をつつきながら、小金井は仲間たちに親指を立てた。

 

「離れ離れになっちゃうワケでもないし、もしなんかあったら連絡ちょーだい!すぐすっ飛んで行くからさ!」

 

「おう!頼りにしてんぜ、カオリン!……っと、そうだ」

 

ふと、何かを思い出したように手を叩いた烈火は、小金井や仲間たちを手招きした。

みながそれに釣られて集まると、烈火は右手を前に突き出した。

 

「こんな形じゃあるがよ、小金井ともまた会えた。戦わなきゃならねえ理由もできた。また天堂地獄やら幻獣朗をぶっ潰してやらなきゃなんねぇ」

 

だから、と続け

 

「火影再結成だ!」

 

柳が烈火の手に、そっと自分の手を重ねる。

 

「私、みんなの力になれるかわかんない。でも、がんばるよ!絶対元の世界に戻ろう。夏休み遊びに行くって、約束したもんね♪」

 

また一つ、手が重なる。今度は風子だ。

 

「まっ、正直ウンザリだけどね。でもさ、なんて言うか……こうじゃなきゃウチららしくないって感じ?」

 

土門も

 

「しぶてぇ幻獣朗の野郎、今度こそぶちのめしてやろうぜ。俺らにちょっかいかけたこと後悔させてやる!」

 

水鏡も

 

「目的は一つ、だな」

 

五つの重ねられた手の上に、最後の一つが加わった。

小金井は、笑みを浮かべて言った。

 

「絶対に、みんな元気に元の世界へ……だね」

 

烈火は五人の顔を見回した。

みな笑っている。不安など欠片も見せず、自信と仲間への信頼で満ちた顔で。

烈火も笑って、そして叫んだ。

 

「いくぞ野郎共!」

 

「おう!!!」

 

六人の意志と覚悟が一つになる。

仲間を想い、仲間を信じ、仲間と共に戦い抜かん。

学園都市という戦場の中で、火影が再び生まれた。

 

「そろそろ行くぞ、薫」

 

紅麗に促され、小金井は彼の元へと駆けていく。

 

「じゃね!」

 

「いつでも遊びにきてね!」

 

「死んだら殺すぞ!」

 

「オネショすんなよー!」

 

「……またな」

 

それぞれが小金井に声を送る中、烈火だけは目を閉じながら腕を組んで、仁王立ちしたまま何も言わない。

やがて、思い立ったように目を見開いて、腹の底から叫んだ。

 

「紅麗ぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!!」

 

大気が震えるような大声に、背を向けて徐々に遠ざかっていた紅麗は足を止め、振り返った。

 

「なんだ、喧しい」

 

烈火は口角を上げて、中指を立てて吼えた。

 

「さっきテメエにもらった分、今度百万倍にして返してやる!!だからそれまで、死ぬんじゃねえぞ!!!!!」

 

「……ふん。出来るものならやってみろ」

 

紅麗の口元が、微かに緩んだように小金井には見えた。

 

「どうした?」

 

「あっ、イヤイヤなんでもないっ♪」

 

こんなことを指摘したら、重い拳骨を喰らわされてしまう。

小金井は舌を出して誤魔化すことにした。

 

(ホント、素直じゃない兄弟)

 

姿が見えなくなるまで二人の背中を見送っていた烈火は、みんなの顔を見回して、言った。

 

「俺らも行くぜ!!」

 

「オー!!!」

 

再び、声が響いた。

 

 

「て、言ったはイイものの……」

 

ベンチに座って力なくぼやいた烈火の言葉は、セミの声にかき消されてしまう。

灼熱の日差しが、湿り気を孕ん熱風が、先ほどまでの気力を奪い去ってしまった。

 

「まさか、こっちの世界まで夏とはねぇ……」

 

はしたなくも熱を逃がすため大股を開いた風子が呟いた。

来たばかりの時は時間が早かったのに加え、そもそも異世界であるという認識がなかったため気づかなかったが、どうやらこちらの世界も元の世界と同じ季節らしい。

あまりの猛暑に押し負けて、道中見つけた公園のベンチで休憩している次第である。

もっとも、太陽光線に晒され熱されたベンチに座っても、大して体力回復になっていないどころか、むしろ余計に体力を奪われてしまっている気にさせられているのだが。

 

「これからどーすんべ」

 

仲間の意見を求める烈火だが、脳味噌が茹で上がったような状態のため、誰も発言しようとしない。

唯一水鏡だけが、口を開いた。

 

「ともかく、まずは情報収集だ。幻獣朗のこともだが、この街についても色々と知っておきたいことがある」

 

「知っておきたいこと?」

 

柳が復唱すると、水鏡は頷いた。

 

「アレイスターは言っていた、『自分は幻獣朗の協力者だ』と。では、『協力』とはどういう意味だ?ここが文字通り、ただの学校組織の集まりなら、幻獣朗が力を借りる意味などないはずだ」

 

天堂地獄を蘇らせて、幻獣朗が何を企んでいるのか。その具体的な意図は解らずとも、少なくとも異能に触れたこともない一般人に手出し出来るような領域でないことは解る。

 

「それに、あの赤毛の女が使った力も気になる。本当にあれは、魔導具の力なのか?」

 

「おいおい、魔導具じゃねーっつーなら、一体何だってんだよ?」

 

土門が声を上げた。水鏡は、涼しげに首を振るだけだ。

 

「さてね。しかし、有り得ないことではない。少なくともここに二例、魔導具とは無関係の能力が存在している」

 

そう言って、烈火と柳を指す。

烈火は思う。確かに、自分たちの力は魔導具によるモノではない。しかし、そんな能力がそういくつもあるものなのか。

声に出す前に、水鏡の言葉に制された。

 

「無論、そういう可能性があるというだけの話だ。だが、もし僕の仮説が当たった場合、そしてその力を持つのがあの女だけではない場合、幻獣朗は間違いなくそれを利用してくるはずだ」

 

魔導具以外の、不思議な力。

これまでの経験からすれば、完全に否定は出来ない。

そもそも魔導具自体が、彼らには“有り得ない力”なのだ。

 

「なんにせよ、所詮は単なる憶測でしかない。真相を確かめるためにも、情報は必要だ」

 

「それもそうだけどよ、こう暑いと身動きする気にもなんねーよ。その辺の店で冷たいモンでも頼もうぜ」

 

暑さですでにグロッキー状態の土門が提案する。

 

「アホ言ってんなタコ。んな暇ねーよ」

 

烈火はあっさりと却下した。

すると、今度は柳が手を挙げた。

 

「はーい!じゃあ、自販機でジュースを買って休憩するのがイイと思いまーす♡」

 

「そんな暇あるか!!」

 

食ってかかるようにして却下する土門。

 

「うぇぇぇぇぇん!!」

 

「ジュースでイイぢゃねぇか!殺すぞ!」

 

「死ね」

 

「ギャース!!」

 

(なにか間違ってる……)

 

烈火と水鏡による理不尽なリンチを目の当たりにした風子の心の声は、けたたましいセミの喚きに飲み込まれていった。

 

そんなこんなで、柳を泣かせた罰として、土門がジュースを奢らされるはめになった。

自販機の前で涙を流して千円札との別れを惜しむ姿には、そこはかとない哀愁が漂っている。

 

「せちがれえぜ……」

 

とはいえ、逆らうこともできず、自販機に千円札を突っ込む土門。

自販機は差し出された紙幣を確かに回収し、それを見届けた土門は商品を選別する。

コーラやオレンジジュースなど、烈火たちの注文通りの品は何一つなく、イチゴおでんだのガラナ青汁だの珍妙な物ばかりが陳列されている。

やむを得ず、適当に比較的マトモそうな品を選んでスイッチを押す。しかし、自販機はうんともすんとも言わない。

連打してみるが無意味。別のスイッチを押してもノーリアクション。挙げ句の果てに、釣り銭レバーを何度上下させようと、自販機は千円札を吐き出そうとはしない。

これはつまり、俗に言う、自販機にお金を飲み込まれた状態だ。

 

「てめ、ふざけんなぁー!!!」

 

暑さでイラついていた土門の頭は、一瞬で怒りのボルテージがマックスになる。土門は自販機に向かって全力のタックルをお見舞いしてやった。

 

土門を待つ烈火たちは、再び今後の指針について話し合う。

 

「情報収集っつっても、具体的にどうすんのよ。聞き込みでもしてみる?」

 

「んー……。もっかいさっきのとこ戻って、つちみかどさんに聞いてみるとか」

 

「つっても、あのねーちゃんも帰っちまったし、もうあそこにも入れねーだろ」

 

「大まかにでも、この街の概要を掴めればいい。ネットでも本でも、情報媒体を探すべきだな。具体的な疑問はその後に解消するしか……」

 

「おほーい、みんなー!!」 

 

土門の声に、全員が反応した。そして、みなの表情が固まる。

 

「いやー、自販機ぶっ叩いたらなんかたくさん出てきちゃってさー!」

 

たったか走ってくる土門が抱えているのは大量の缶ジュース。

しかし、一同の注目はそんなところにはなかった。

 

「ど、土門くん……うしろ……」

 

「ん?うしろ?」

 

柳が指差した先を、振り向いて確認する土門の表情は、直後我が身に降りかかった事態に気づいて戦慄した。

 

「なっ、なんぢゃあーーーー!?」

 

土門の後を追ってくるのは、ドラム缶を彷彿とさせる円筒形の機械。なにやら警報のような音をけたたましく鳴らしている。

 

『違法行為を確認。窃盗、及び器物損壊。至急、確保』

 

無機質な電子音声が告げる不穏な言葉に、烈火たちが選んだのは逃亡。

 

「なにやっとんだあのアホーっ!!!!」

 

セミの合唱に負けないほどの、烈火の絶叫が公園中に響き渡った。

 

「今日は厄日だ……本当に」

 

「ちょっと待って、たしゅけてーーーー!!」

 

「ちょ、ちょっと。土門くんが……」

 

虚ろな水鏡の呟きに、みなが同意しながら全力疾走。

土門の非難めいた叫びは、みなが無視。

土門への心配を漏らした柳の言葉は、聞かなかったふり。

電子音声の音量が増したような気がした風子がちらっと後ろを見ると……

 

「ふえとるーーーーっ!?」

 

一台だけだったドラム缶ロボが、いつの間にやら軍勢と化している。

なかなか捕まらない土門に業を煮やして、仲間に加勢を頼んだのだろうか。ロボットのクセに賢しいやつだ、と思う余裕すらない一同は逃げる、逃げる。

 

走る先は、三つに別れる分岐路になっていた。

 

「おい、耳を貸せ」

 

水鏡が囁いた。囁くといっても、ロボットの警報に負けない程度に大きな声で、だが。

 

「あそこで三手に別れるぞ。あいつらの狙いは土門だ。一塊になってるよりも、別れた方が被害は少ない」

 

「別れるって……誰が“あれ”引き受けるよ?」

 

烈火の言う“あれ”とは、ロボットの軍勢であり、こんな事態を引き起こしたフランスモアイのことでもある。

 

「それは土門次第だ。土門について来られたら、運が悪かったと諦めろ」

 

土門を見捨てることは大前提とした水鏡の提案だが、そこに異論を唱える者は誰もいない。

唯一の良心である柳も、多分誰も取り合ってくれないとして諦めてしまった。

土門の味方はいない。

 

「んじゃ、後でな!」

 

「あの、えっと、土門くん!面会には行くからね!」

 

サラッと土門が捕まることを決定させた柳の手を取り、烈火は左の道に逃げた。

水鏡と風子も、それぞれ別の道に走り込む。

 

直後に聞こえた『ギャアアア、こっちくんなぁぁーーー!!!』という風子の悲鳴に心の中で合唱し、烈火と柳は少しでも現場から遠ざかろうと走りつづけた。

やがて、大通りに出ると、膝に手を置いた。

 

「はーっ、はーっ、はーっ……ここまで来りゃ、追いかけてこねーだろ」

 

「ど、土門く……だい、じょぶか……な?」

 

息絶え絶えな柳の肩に手をおいて、烈火は優しい目で言った。

 

「あいつのことは諦めよう」

 

「ヒドッ!?」

 

柳の非難を受け流し、ともかく水分を補給しようと、烈火は自販機を探して辺りを見回す。

すると、数人の男と、中学生くらいの女の子が立ち回っているのが見えた。

次の瞬間、烈火は目を疑うこととなる。

男の一人が、その手に炎を生み出したのだ。その炎はの標的は、どうやら件の女子中学生。

 

「やべえ!!」

 

「烈火!?」

 

考えるより先に、体が動いた。

風の如きスピードで炎の射線上に立ちふさがると、右手を振るって炎をかき消した。

 

「なっ!?」

 

呆然とする男を尻目に、烈火は少女に宣言した。

 

「事情は知らねえが、女の子が襲われてんのを黙って見過ごすわけにゃあいかねえ。花菱烈火、助太刀いたす!!」

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