とある烈火の八俣火竜   作:ぎんぎらぎん

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やっと上条さんが出ます。


其之七:転校生

「なあなあカミやん、今日転校生来るん知っとった?」

 

珍しく始業ベルが鳴るより大幅に早く登校出来た夏休み直前のある日、クラス委員長の青髪ピアス男が上条当麻にそんな話題を持ち出してきた。

どこの学校でもクラスに一人はこういう情報通がいるものだ。

一体どこからそんな情報を仕入れてくるのか、と疑問を感じながらも上条は聞き返す。

 

「転校生?」

 

「そ。しかもなんと、男女一人ずつ、二人ともこのクラスにらしいで~」

 

夏休みも近いこの時期に、二人同時に、しかも二人とも同じクラスに転入してくるとは。

なんとも胡散臭い話だ。青髪ピアスの情報が、ではなくその二人がだ。

上条はすぐ近くにいた土御門元春にお伺いをたてる。

 

「どう思うよ、土御門」

 

しかし土御門は、ニヤニヤと口を緩ませながら

 

「さーて、なんだろうにゃー」

 

と、そのビジュアルに似合わない口調でしらを切るばかりだ。

多分何か知ってるんだろうな、と思いながらも上条は追及しようとはしない。こういう態度をとるときのこの男がまともに答えてくれることは期待していない。

青髪は青髪で、ウキウキ気分を隠すつもりもなく声を弾ませる。

 

「転校生のコ可愛いんかなぁー。活発ボーイッシュ系でもおしとやかなお嬢様系でも、巨乳でも貧乳でも、ドSでもドMでも、なんでもバッチコイやでえ」

 

「男女セットで来るんだろ?だったら既にその二人でデキちゃってるんじゃねーの?」

 

「わかってへんなカミやんは。恋は障害が多いほど燃えるもんやで?」

 

自分の意見に耳を貸す気もない青髪に、お前のは恋心ではなくただの性癖だろ、と上条は心の中でツッコミを入れる。

やってくる二人の関係が具体的にどうかはおいといても、少なくとも知り合い同士ではあるだろう。

自分が片割れの男なら、見知った女の子がこんな危険人物(へんたいやろう)に襲われるのを黙って見てたりはしない。

 

「……面会には行ってやるからな」

 

「へ?なにそれ?」

 

そろそろワッパをかけられそうな青髪に優しい惜別の言葉をかけてやるが、当人にその意図は伝わらなかったようだ。

相変わらず糸目をキラキラ輝かせながら天を仰いでいる。

ドンッ、と自分の机の振動を感じ、上条は振り返った。

クラスメイトの吹寄制理が鋭い眼光を向けている。

 

「な、なんでせうか吹寄さん?上条さん、なんか怒らせるようなことしちゃいましたか?」

 

何故だか殺気立っている吹寄に、これ以上機嫌を損ねないよう下から下から問いかける。

吹寄は睨みを利かせながら、上条のウニ頭を掴んだ。

 

「あらかじめ言っておくけど、これ以上無垢な乙女を手込めにするような真似したら、貴様の命はないからね?」

 

「て、手込めって……」

 

「それだけよ。今の言葉、肝に命じておきなさい」

 

フンッ、と鼻を鳴らして、吹寄は去っていく。

上条はただただ困惑し、青髪ピアスに意見を求めた。

 

「ありゃ一体どういう意味だよ……見に覚えのない罪で、なぜあんな扱いを受けなきゃなんねーんだ」

 

「カミやん、覚えはなくとも罪を犯してへんとは限らんのやで……」

 

なにやら意味深な台詞を吐いた青髪の目は、冷たいものだった。

辺りを見回すと、クラス全員、特に男連中も同じ目で上条を見ている。

訳も分からず針のむしろ状態の上条は、人知れず心中で泣いた。

 

と、始業チャイムが鳴って、それと同時にクラス担任の教師が姿を現した。

担任といっても、タイトスカートとストッキングの似合う眼鏡をかけたセクシー女教師でもなければ、年中ジャージとサンダル履きのやる気なさげなハゲ散らかった中年教師でもない。

ぱっと見、というかよく見ても自分たちよりも五つほど年下にしか見えないロリ教師。それが彼らの担任、月詠小萌だ。

朝の少女向け魔女っ子アニメを鑑賞していてもおかしくない見てくれだが、歴とした成人女性であり、酒と煙草が大好きな適齢期オーバーらしい。

教卓から頭だけ覗かせながら、小萌は教え子たちに宣言する。

 

「はーい、それではクラスのみんなにビッグニュースなのでーす!なんと今日からこのクラスに転入生追加ですー!しかも二人!」

 

V字を掲げる小萌は、続けて両手で万歳を作る。

 

「喜べ野郎共アンド子猫ちゃんたちー。平等に男女一人ずつ新しいお仲間が増えますよー!」

 

男子グループ女子グループの両方が、俄かに色めき立った。

クラス内での転校生への期待感が増幅している。

青髪ピアスの情報通りだな、と上条が彼の方を見ると、渾身のどや顔を見せつけられて無性に腹が立つ。

土御門は土御門でニヤニヤ顔を続けているので不気味だ。

気を取り直して、転校生達のお初顔合わせを待とうかと思うと、小萌が苦笑しながら告げた。

 

「……で、ホントはここでドーンと自己紹介でもしてもらう予定だったんですけど。どうにも転校生ちゃんはお寝坊さんみたいで、まだ来てないんですよー」

 

ガクッとクラス全員が肩を落とした。

上条もご多分に漏れず、転校初日に寝坊をかます不届き者共はどんな奴らか、別の意味でも楽しみになった。

 

「そろそろ学校に着く頃だと思うんですけどー……」

 

小萌がそう呟いた瞬間、上条の耳が音を拾った。

廊下に響く、呻き声のような、叫び声のような、奇妙な音声だ。その声は、徐々にこちらに近づいてきているようだ。

 

「……ぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!」

 

やがて、声のボリュームがピークに達したその時、教室の引き戸が中に向かって吹き飛んだ。

それに紛れるように、黒い陰がゴロゴロと教室を突っ切っていき、やがて廊下と反対側の壁に激突して停止する。

影はすっくと立ち上がり、キョロキョロ辺りを見回してこう言った。

 

「お?セーフ?」

 

「アウトだよ!!」

 

反射的にツッコんでしまった上条だが、それはクラス全員の代弁でもあった。

 

「てめえ、転校初日に遅刻した上にそんなド派手な登場しやがるとはどういう了見だ!」

 

「いや、わりーわりー。急いでたもんで、転んじまった!ワハハハハ!!」

 

少年は上条の指摘など気にかけていない風に豪快に笑った。

全く話が通じていないことにショックを受けながらも、上条はまじまじと少年の姿を注視する。

逆立った髪の毛と、左頬の絆創膏、それに右腕に填められた手甲と、どうにもマトモな人間ではなさそうな風貌だ。

少年は、頭を掻きながら

 

「センセー来てないしノーカンだべ?」

 

と、小萌の存在など全く気づいてないようなセリフを吐いた。

 

「先生ならここにいますよ」

 

少年はその声にくるりと振り返るが、声の出所を発見できないようだ。

左右に視線を揺らす少年は、「もっと下ですよー」という声を頼りに目線を下ろす。

そして、自分の足元に立っている身長135センチをようやく認識した。

 

「なんだ、嬢ちゃん誰かの妹か?ダメだぞー、勉強の邪魔しちゃ」

 

少年は小萌の頭を撫でながら、懐に忍ばせていた飴玉を手渡す。

そして立ち上がり、「先生まだー?」とクラスの面々に聞いている始末。

上条は目撃した。小萌がうるうると目に涙をチャージしていく瞬間を。

だから何も言わず、人差し指で耳に栓をする。他のクラスメートたちも同じ行動をとっている。

直後、小萌の絶叫じみた大泣きが少年の鼓膜を襲った。

 

「……!?……!!」

 

少し遅れて入ってきた茶髪少女がなにやら喋っているのが見えたが、それも全てかき消されていった。

 

 

「ぐすっ……では、改めて自己紹介を」

 

ぐずりながらも、ストレス発散を終了した小萌は二人の転校生を教壇に立たせて自己紹介を促した。

まだ耳へのダメージが残っているらしい少年と騒動に遅れて加わったため比較的無事そうな少女は、それぞれチョークで黒板に自分の名前を書き始める。

書き終えた二人は生徒たちの方に、向き直り、まず少年が口を開いた。

 

「花菱烈火!好きなもんは焼きそばパンと忍者と花火!欲しいもんはタケコプター!以上!」

 

続いて、大人しそうな茶髪少女が。

 

「えと、佐古下柳です。好きな食べ物はメロンパン……かな?あと絵本を描くのも好きです。よろしくお願いします」

 

柳がぺこりと頭を下げると、烈火も釣られて不格好にお辞儀する。

 

「はいはーい、自己紹介タイムも終わったところで次は質問コーナーに……」

 

「テメエ!!」

 

二人が顔を上げて、小萌が次へ進もうとした時だった。

烈火が急に怒声を飛ばした。

上条はその視線の先にあるものを追った。たどり着いたのは、不敵に笑う土御門だ。

 

「ちょーっと気づくのが遅いんじゃないかにゃー?土御門さんはショックですたぶっ!?」

 

言い終える前に、烈火のドロップキックが土御門の顔面を捉えた。

烈火は吹き飛んだ土御門の胸ぐらを掴んで激しく揺さぶる。

 

「なんでオノレがここにおるんぢゃあああ!?」

 

「なんでって、ここが俺の学校だからだぜい?とりあえず、手ぇ放してほしいにゃー」

 

「気色ワリィ喋り方してんぢゃねえええええ!!」

 

より勢いを増してシェイクされる土御門の頭。

ヤンキー対ヤンキーの抗争のような光景も、慣れているのかクラスメート達は誰も止めようとはしない。

というか、『こういうのはお前の仕事だろ?』と言わんばかりの視線を全員が上条にぶつけていた。

正直関わりたくない、と上条はウンザリと眉尻を下げるが、教壇の小萌がまた目を潤ませているのを発見し、やむなく仲裁役を買って出る。柳もそれに加勢した。

 

「まあまあ何があったか知らないけどお二人さん落ち着いて落ち着いて。上条さんが話を聞いてしんぜよう」

 

「どうどうだよ烈火。どうどうどう」

 

なんとか二人を引き剥がすが、烈火はまだ牙を剥いて唸っている。対する土御門はというと、なにごともなかったかのように襟を正して行儀よく着席している。

 

なんとも面倒なことになりそうな気配を感じた上条は、お決まりのセリフを呟いた。

 

「不幸だ……」

 

 

四限までの授業が終わり、昼休みになった。

普段ならみんなが思い思いに弁当を広げているはずだが、当然というべきか、今日はクラスの多くが烈火と柳のところに殺到している。

わりと最悪の第一印象を植え付けたはずの烈火に対してもさして気にすることなく接している辺り、良くも悪くも大らかな連中なのだ。

 

「ねーねー、どこから来たの?」

 

「前の学校ではあだ名とかなかった?」

 

「花菱くんとはどういう関係?」

 

ただまあ、話題の中心はほぼ柳だ。

至極当然な、野郎と乙女の扱いの差である。

いつも通り青髪や土御門と馬鹿話でもしながら昼食にありつこうかと思っていた上条は、購買で買った惣菜パンを二つ携えて、烈火を輪の中から引っ張り出した。

 

「なんだよ?」

 

喧騒から離れるという意味で屋上に連れてきたが、烈火は少々不機嫌そうだ。

やはり、土御門のことだろうか。

 

「せっかく知り合えたんだし、仲良くしたいじゃん?」

 

そう言って、パンを一つ差し出した。

 

「遅刻したんなら、昼飯も買えてないだろ?上条さんの奢りだ、ありがたく食せ」

 

「……さんきゅ」

 

烈火はパンを受け取ると、もっそもっそとかじり始める。

上条も自分の分のパンを開封して、一口飲み込んだところで話し始めた。

 

「……なあ、土御門と何があったのか知らないけどさ、アイツああ見えてそこまで悪い奴じゃないんだ。だからあんまり揉めたりすんなよ」

 

二人の間の事情を知らない以上、あまり偉そうに口を挟むつもりはない。

だけど、同じクラスの仲間がいがみ合うのは気分の良いものではない。

 

「アイツあんなツラだけど、妹ラブのシスコン野郎なんだぞ?普段からふざけた態度で馬鹿にしてるみたいに見えるけど、本当はホントにただの馬鹿なんだよ。だからそんなに本気で怒ること……」

 

語っていると、烈火の体が小刻みに震えているのがわかった。

震えはやがて大きくなり、やがて烈火は大声で笑い始める。

 

「な、なんだよ」

 

少しむくれながら、問い詰める上条。

烈火は目尻に浮かんだ涙を指でぬぐい取りながら言った。

 

「わ、わり。ずいぶん必死に言うもんだからよ、なんかオモシロくてさ」

 

「なっ!?俺はだな、本気でお前等のこと心配して……」

 

「すまんすまん。もう笑わねーって」

 

烈火は怒った上条を右手で制すと、そのままその手を差し出した。

 

「オマエ、イイ奴だな!改めて、俺は花菱烈火だ。オマエは?」

 

ぽかんと口を開く上条だが、すぐにその意味を理解すると、笑って右手を烈火の手に結んだ。

 

「上条当麻だ。よろしく、花菱!」

 

「おう!よろしくな当麻!」

 

 

 

昼休みが終わりかけた頃に、烈火と上条は教室に戻った。

ようやく質問責めから解放されたらしい柳が、吹寄と何か喋っている。

二人の姿を認識した柳は、吹寄に申し訳なさげに手を振って、二人のところに駆け寄ってくる。

 

「喧嘩しなかった?」

 

不安げに尋ねる柳の頭を、烈火は優しくなでてやった。

 

「おう!ごめんな、心配かけて」

 

それだけ言うと、烈火は土御門のもとに歩いていく。

席に座って青髪とメイド服のスカート丈について熱く語り合っていた土御門は、烈火に気付くと立ち上がった。

 

「まだ何か?」

 

一触即発の空気が漂う。

上条と柳が固唾を呑んで見守る中、烈火は先ほどしたように、土御門に右手を突き出した。

 

「ん」

 

「こりゃ一体、どういう意味かにゃー?」

 

「仲直りの握手だよ」

 

烈火はぶっきらぼうにそう言った。

 

「てめーのことは信用なんねーし、訊きてえことも山ほどあるがよ。当麻がああ言うんだ、単なるワルモノじゃねーだろ。だから仲直り」

 

あるいは、烈火もクラスメートとなる人間を信用出来ないのは嫌だったのかも知れない。

形式的なものであっても、土御門と和解出来るに越したことはない、と思ったのか。

土御門はニヤリと笑うと、差し出された右手を強く掴んだ。

 

「おっけい。これから仲良くやってこうぜ、花ビー」

 

即席で付けられたあだ名に、烈火は笑って応えた。

 

「良かった……」

 

まるで保護者のように見守っていた上条と柳は、ホッと胸をなで下ろした。

 

やがて、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったちょうどその時、小萌が教室に足を踏み入れた。

これから彼女が担当する化学の時間が始まる。しかし小萌は、開口一番に言った。

 

「今日は先生用事が出来たから、この化学の授業は自習にしますよー」

 

クラス中から歓声が上がった。

真面目な吹寄と小萌の授業を楽しみにしていた青髪だけが不満顔を露わにしている。

 

「花菱ちゃんに佐古下ちゃんは先生と一緒に来るですよー」

 

「ええー」

 

ご指名を承った烈火は、露骨な不満を口にする。

柳がおずおずと尋ねた。

 

「あの、どこにいくんですか?」

 

「聞くところによると、お二人はまだ身体検査(システムスキャン)を受けてないらしいですからねー。だから今からそれを受けさせてもらいに行くんですよー?」

 

聞き覚えのない単語を耳にして、烈火と柳は揃って顔を見合わせた。

小萌は人差し指を立てて、二人に言った。

 

「天下の名門、常盤台中学にお邪魔しますよー」

 

 




やっと上条さんが出ました。
変態三号青ピも出ました。
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