とある烈火の八俣火竜   作:ぎんぎらぎん

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其之九:挑戦

超能力者(LEVEL5)第八位『八俣火竜(サラマンダー)』。

それが、花菱烈火に与えられた新たな称号だ。

平凡な公立校からLEVEL5が誕生したという噂は瞬く間に広まった。

史上初、ではないにしろ非常に稀なケースであることは確かだ。学園都市内部では、烈火は一躍時の人といった扱いを受けていた。

しかしながら、名が売れればそれだけ悪い虫も寄ってくるわけで……

 

「いっちょあがり!」

 

パンパン、と手を払いながら烈火は満足げに頷いた。

彼の足下に転がるのは、名を上げようと烈火に挑んできた能力者達。

公立校在籍という肩書き故か、あるいはLEVEL5最下位の第八位という序列故か。LEVEL5に認定された次の日から、高位能力者やら路地裏の不良やらが彼に喧嘩をふっかけて来るようになった。

どこで仕入れたのか、ウニ頭の男が第八位であるという情報を元に烈火のところに訪れる自信過剰な輩達を、彼は律儀にぶちのめしていた。

同じくウニ頭の持ち主である上条も、烈火のとばっちりを食らいながらもしっかりと不良共を返り討ちにしている。

丁度今も、烈火と一緒に能力者相手にひと暴れし終えたところだ。

襲いかかってきた連中全てが意識を失っているのを念入りに確認し、上条は深いため息をついた。

 

「はあ、せっかくの夏休み前哨戦だってのに、やってることがストリートファイトとは……上条さん辛すぎて涙が出そうですよ」

 

「食前の良い運動になったべ?」

 

「あのなぁ、お前は相手を殴り倒しただけだろうけど、こっちはそれなりにもらうモンもらってんだよ!口の中痛くて食欲わかねーよ!」

 

スッキリ綺麗にノーダメージな烈火とは異なり、上条はこの2日間の闘争で、青あざやら擦り傷やらで割とボロボロになっていた。

傷を受けるたびに柳が『治癒能力(ヒーリング)』というLEVEL4の能力を使って治そうとしてくれるのだが、上手く行くことはなかった。

上条の持つ能力が、柳の能力を阻害しているのだ。

それ以前に、烈火と上条ではそもそも受けるダメージの量にも差があった。

 

「……お前が使ってるあのちっこい爆弾みたいなの、ズルいよな」

 

「分けてやろうか?でもあれ結構扱いムズかしいんだぞ」

 

基本的にステゴロ上等の上条とは異なり、烈火は能力こそ使わないものの火薬玉、手裏剣、クナイ、まきびしなど、手持ちの武器で相手を寄せ付けない戦法を取っている。

何でそんなもの持ち歩いているのか問いただしても、

 

「俺は忍者だからな!」

 

の一点張りである。

 

風紀委員(ジャッジメント)に見つかったら没収されっぞ」

 

「見つかんなきゃいいんだよ!」

 

LEVEL5に数えられるほどの能力を持ちながら、なぜわざわざあんな武器まで持ち歩くのか。

上条には甚だ疑問であったが、そこは烈火本人のポリシー的な問題のようだ。

 

新しく出来た傷に自前の絆創膏を貼りながら、上条は烈火に声をかける。

 

「なあ花菱、この後暇なら飯でもいかねーか?」

 

口の中がズキズキ痛むのも確かだが、腹が減ることに変わりはない。

なんと烈火の部屋は上条の隣だ。どうせ帰り道は一緒だし、あわよくば奢らしてやろうという目論見込みで誘ってみたが、その提案は即座に却下された。

 

「わり、柳と約束してんだ」

 

「……ああチクショウ、そうでしたね。お前もそっち側の人間でしたねコノヤロー!」

 

自ら地雷を踏み抜いてしまったことに、上条は頭を抱えてうずくまる。

烈火は上条の言葉の意味を理解しかねたらしく、小さく手を挙げてその場を去っていった。

遠ざかる烈火の背中を眺めながら、上条は拳を握って叫んだ。

 

「こうなったらやけ食いだ!ファミレスメニュー片っ端から頼みまくってやる!!」

 

 

なぜ、あの時俺はあんな選択をしてしまったんだ。

上条当麻は激しい後悔の念に苛まれていた。

 

烈火と一緒に学校を出て、不良共に絡まれてしまったこと。これはまあいい。

その後鬱憤を晴らすためにファミレスでのやけ食いを決断したこと。これもまあいい。

やけ食いの場所に近場のファミレスを選んでしまったこと。これはあまりよくない。

そこで見知った少女が厳ついお兄さん達と何やら揉めているのを発見し、『助けてやるか』とお節介を働いたこと。これが決定的な選択ミスだった。

 

不良共との鬼ごっこになんとか勝利して、人気のない鉄橋の上で上条は大きく息を吐いた。

全くとことん不幸な日だ、と思いながらも、尊い犠牲が払われなかったことにほっと安堵する。

しかし、

 

「たくっ、何やってんのよアンタ。不良を守って善人気取り?熱血教師ですかぁ?」

 

そんなセリフと共に現れた一人の少女と、彼女の発した電光に、自分の行為が徒労に終わったことを知り、そして再び面倒事に巻き込まれることを予感した上条は、こう呟いた。

 

「不幸だ……」

 

 

明くる日、茹だるような暑さによって、烈火は覚醒を余儀なくされた。

リモコンのスイッチを何度か連打してみても、エアコンはうんともすんとも言わない。

テレビの電源もつかない。部屋の照明も反応しない。

電化製品がほぼ壊滅状態に陥ってしまったようだ。

そう言えば、昨日空が光っていたような気がしないでもない。

 

「あっぢぃー……」

 

如何に炎に耐性を持つ炎術士といえど、夏の暑さは専門外だ。

涼を求めて窓を開放してみるが、入ってくるのは熱風ばかりで逆効果。

そんな折、烈火の携帯が着メロを奏でた。

通話ボタンを押すと、担任の先生の声が耳に届いた。

 

『花菱ちゃーん!今日は制服採寸の日ですからねー。忘れてないと思いますけど、念のためー!』

 

一方的にそれだけ述べて、通話は断たれてしまう。

 

「忘れてた……」

 

そう言えば昨日の帰り際、小萌がそんなことを言っていた。

自分が着ていたのも、今通っている学校のも、似たような学ランタイプの制服なのにわざわざ替える必要はあるのか。そんな疑問が湧いてはくるが、無視する訳にもいかないのでしぶしぶ登校準備にかかる。

時折、隣の上条の部屋から聞こえる少女の声に首を傾げながらも着替えを完了した烈火は、携帯と財布だけ持って部屋を出ようと扉を開く。

と、その瞬間烈火の体に衝撃が走り、小さな悲鳴が聞こえた。

見ると、白い修道服を身にまとった小柄な少女が尻餅をついている。

少女は烈火を見上げると、膨れっ面で一言。

 

「もう、気を付けてほしいかも!」

 

ムッとした烈火は反論に出ようとするが、少女はそれより早く立ち上がり、

 

「そっか、あの電動使い魔」

 

と、よくわからない言葉を残して去っていった。

呆気にとられる烈火だが、さすがに追いかけてまで謝罪を求めるつもりもないので、気持ちを切り替えて上条の部屋をノックする。

 

「おーい当麻、起きてっか?おめーも今日補習だべ?」

 

返事を聞く前に無遠慮にドアを開いた。

こちらの部屋もエアコンは故障中らしく、こもった熱気に襲われる。

 

「お、おうそうだな。一緒に行くか!」

 

なぜか玄関前に突っ立っていた上条は気さくな笑顔で答えるが、烈火はどこか不自然な印象を覚えた。

もしや、先ほどの少女と何か関係があるのか、と尋ねようとするが、

 

「ほらほら、急がないと小萌先生泣いちゃうぞ?」

 

それより早く上条が背中を押しながら急かしてくるため、タイミングを失ってしまった。

 

(ま、いっか。問題があるわけでもなさそうだし)

 

そう結論づけた烈火は、上条に押されるがままにエレベーターへと向かった。

その後、向かいのマンションから降りてくる柳と合流して三人で学校に向かった。

 

 

「だーっ、つかれたー!」

 

補習を終えた上条は、大きく仰け反って体の凝りをほぐそうとする。

お仲間の青髪と土御門も、同じように体を伸ばしていた。

 

「よー、終わったか?」

 

「みんなおつかれさまー」

 

ガラガラと引き戸を開けて、烈火と柳が教室に入ってきた。

 

「なんだ?お前ら待っててくれたのか?」

 

制服採寸はとっくに終わっているはずだ。

上条の疑問に、烈火は笑って返した。

 

「いやー、昨日は行けなかったけど、今日は一緒に飯でもどうかと思ってよ」

 

昨日の誘いを断ったことを、烈火も気にしていたようだ。

気にすることはないのに、と思いながらも悪い気もしない上条。

三馬鹿の面倒を見ていた小萌が、その様子を眺めて提案した。

 

「でしたら、先生の家で焼き肉パーティーというのはどうですか?」

 

烈火が目を輝かせる。

 

「焼き肉か!いいね!」

 

「あの、いいんですか?」

 

遠慮がちに尋ねる柳に、小萌は小さな胸を叩いてみせた。

 

「もちろんなのです!先生、生徒と親睦を深めるためなら多少の出費は惜しまないのですよー」

 

小萌はくるりと上条の方へ顔を向けた。

 

「上条ちゃんも、それで良いですよねー?」

 

「異議なーし」

 

今朝キャッシュカードを踏み砕いてしまって金欠状態の上条には、願ってもない提案だ。

普段より一層、小萌への尊敬の念を強める。

 

「青髪ちゃんに土御門ちゃんはどうですかー?」

 

普段なら飛びついてくるはずの二人だが、今日は揃って首を横に振った。

 

「小萌先生のお誘いなら喜んで行きたいとこやけど、生憎今日は都合悪いねん」

 

「俺も。今日は愛する愛する舞夏とデートの約束してるんでにゃー。丁重にお断りするぜよ」

 

「そうですか。それは残念なのです……」

 

しょんぼりと肩を落とす小萌だが、すぐさま立ち直って次なるプランを提出する。

 

「でしたら、花菱ちゃんと佐古下ちゃんのお友達を呼んでみましょう!」

 

「風子たちのことか?ホントに良いの?」

 

「愚問ですよー花菱ちゃん。花菱ちゃんのお友達なら先生の教え子も同然なのです。遠慮なんてポイですよー」

 

風子とやらが誰なのか上条は知らないが、烈火と柳の友人ということなら安心は出来るだろう。

それにしても、そんなに大勢で同時にこの街にやってきたということが驚きだ。

 

「それなら、後で風子ちゃん達に電話しときますね」

 

「はいはいばっちりウェルカムなのですよー」

 

そう言われて、柳は嬉しそうに頷いた。

 

 

夕暮れ時の学園都市を、烈火と上条、二人のウニ頭は連れ立って学生寮へと向かっていた。

焼き肉の前にどうせ色々下準備があることだし、どうせなら宿題を見てやるから持って来い、と小萌大先生に仰せつかったため、寮まで取りに戻っている次第である。

普段ならあまり気乗りしないところだが、後のお楽しみに浮かれている二人の足取りは軽やかだ。

 

「なあ、花菱」

 

道中も下らない話をしながら歩いていると、不意に上条が話題を変えてきた。

 

「魔術ってあると思うか?」

 

「は?」

 

思わず気の抜けた返事が口をついた。

よく不幸だ不幸だと口走っているが、まさか怪しげな宗教にでもハマったのか、と訝しんで上条を見る烈火。

烈火の視線の意味に気づいたのか、上条は大きく手を振った。

 

「馬鹿、ヘンな意味じゃないって。まあ、なんとなくな」

 

「なんとなく、ね」

 

言われて烈火も考えてみる。

魔術というのがどういう類いのものかわからないが、烈火だって色々と不思議な体験はしてきた。

そもそもこの世界にやってきたこともだし、この世界に来てからも超能力なんてものも目の当たりにしている。

 

「……絶対ねえ、とは言えねーんじゃねえか」

 

いずれにせよ、断言はできない。

何故急にこんなことを訊いてきたのか、質問しようかとも思ったが、訊かないことにした。

何か困っているなら、自分から言ってくるだろうと思ったからだ。

上条当麻の性格は、烈火もまだ完全に把握できてはいなかった。

 

「そっか……まあ、そうだよな」

 

何やら納得したようすの上条は、再び話題を戻そうと口を開く。しかし、言葉をつなぐ前に、大きな声が二人を呼び止める。

 

「ちょーっと待ったあ!!」

 

威勢のいい掛け声に振り返り、上条はウンザリとため息をついた。

 

「はあ、またかビリビリ中学生」

 

「ビリビリ言うな!私には御坂美琴って名前があんのよ!」

 

夕焼けに染められてか、それとも怒っているからか、真っ赤な顔で美琴は叫んだ。

また乗せられている、と気づいた少女はエヘンと咳払いして仕切り直す。

 

「残念ながら今日の相手はアンタじゃないの」

 

「残念どころか大歓迎ですよ。って、ひょっとして……」

 

「そうよ」

 

引きつった笑みを浮かべる上条に頷いて、美琴は人差し指を烈火に向けた。

 

「花菱烈火!私と勝負しなさい!」

 

「引き受けた!!」

 

「待て待て待て待て!」

 

間を置くこともなく快諾した烈火の肩を引き寄せて、美琴には聞こえないように耳打ちを始める上条。

 

「考え直せよ!あんなんでも一応女の子だぞ!」

 

「売られた喧嘩は買うしかねえ!」

 

「なにバトルジャンキーみたいなこと言ってんだ!それに、これはお前のことも心配して言ってんだ!」

 

烈火の強さは上条だって知っている。

この短い間に数え切れないほどの能力者達を、能力を使うことなく返り討ちにしてきたことからも明らかだ。

しかし、上条はまだ烈火の能力を見たことはない。対して、美琴の能力がどれほど強力なものかは身を持って体験しているし、つい昨日も街中に停電を引き起こすほどの一撃を喰らいかけた。

さすがの烈火でも、今度ばかりは相手が悪いというもの。

つまりこれは、美琴ではなく烈火を案じてのことだ。

しかし、そんな上条の言葉も烈火には届かない。

 

「心配いらねーよ」

 

そう言って笑うと、烈火は美琴の方に向き直る。

 

「やんのは良いけど、どこでやるんだ?まさかこんな街中で、ってわけにはいかねーだろ」

 

烈火の言うとおり、ここは人通りも多く、警備ロボの巡回ポイントでもあるため危険である。

そのことは美琴も理解していたらしく、人差し指をクイクイと上下させて二人を促した。

 

「着いてきなさい」

 

言われるがままに美琴に追従する烈火。

上条は頭を抱えてどうするか悩むが、

 

「ああもう!」

 

あんな危険な連中を野放しにもできないので、見届け人になることを選んだ。

つくづく巻き込まれ体質だな、と涙を流して自嘲する。

美琴が二人を連れてやってきたのは、近くの河川敷だった。

つい先日も、この河原で美琴と一悶着あったのを上条は覚えている。

 

「お前ここ好きだなぁ」

 

「河原って良いチョイスでしょ?『決闘』って感じするじゃない」

 

「こないだもここで俺に負けたのに……」

 

「やかましい!あれは引き分けよ引き分け!!」

 

美琴が上条に唸っている間にも、烈火はストレッチで体をほぐして闘う準備を整える。

最後に軽く屈伸すると、烈火は叫んだ。

 

「準備完了!いつでもいいぜ!」

 

「私も大丈夫よ。どっからでもかかってきなさい!」

 

好戦的な態度を崩さない美琴の言葉に、烈火はニヤリと笑うと、

 

「そんじゃまあ……お言葉に甘えさせてもらうぜ!!」

 

深く腰を屈めると、バネのように素早い動きで走り出した。

上条の目の前で、第三位と第八位、二人のLEVEL5による闘争の火蓋が切って落とされたのだった。




場面転換が増えすぎてしまいました。
もう少し上手くまとめられるよう反省します。
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