「に、逃げろ!」「助けてー!」「死にたくない!死にたくなーい!!」
―――俺は今、悲鳴とノイズが蠢く阿鼻叫喚の地獄絵図となったライブ会場に居る。
本当はこんな危険な場所1秒だって居たくないが、俺にはやるべき事がある
から逃げ出すわけにはいかない。
それに、俺はノイズに対抗できる力を持っている。
例え何もなかったとしても、借り物にしか思えない力だとしても目をそらす
には俺は先を知りすぎている。
だから、俺は戦うんだ。
「ここは…、どこだ?」
―――俺が正確に「俺」として目覚めたのは、多分小学2学年くらいだったと思う。
突然の事に最初夢だと思い、次にこれが現実だと知ると余りの事に頭が痛くなって
高熱を発して3日も寝込んでしまった。
状態が落ち着いてからなんとか日常(?)に復帰しつつ自分の状況を整理してみた。
「まずは、自分の名前だよな。これが分からないとおかしすぎるし」
自分の名前は「音無 彼方」(おとなし かなた)と言うらしい。
らしい、と言うのも俺の名前は断じてこんな名前ではなかったはず。
断定できないのは、理由は不明だが、どうしても前の名前が思い出せないのだ。
「怪しまれないのはありがたいけど…、皆が薄情なのか、この子に問題
があったのか判断に迷うな」
次に年齢だが、前は来年20歳になるはずだったのに、いきなり10年以上も若返ってしまった。
周りに合わせるのは大変だと思ったが、元から少し変わった少年だったのか
誰も気にも留めなかったのが不気味だ。
「いや、待った。これが逆行でないのは間違いないとして、ここはどんな「世界」なんだ?」
次に猛烈に嫌な予感が頭をよぎったので、周辺の地理や家族・友人関係を
子供の出来る限りで調べてみた。
死んだ記憶こそないがこの状況、「神」や「悪魔」等と言った超常存在にも
あってないが、俺が好きな小説のジャンルに似てはいないかと…。
「ウソだろ…、よりにもよってこの「世界」かよ」
家族・友人関係などは問題なかったが…、テレビのニュースを見て結果は黒。
よりにもよってモブに厳しく、突然発生し壁抜け等を容易にこなし、更に基本的に
物理攻撃が足止めにもならならず、特殊な力以外は時間経過による自壊を待つしか
ない、ノイズと呼ばれる敵が出る「戦姫絶唱シンフォギア」の世界に転生したようだ。
正直、見るのは楽しいが実際入るとなると冗談ではない世界である。
触れるだけで炭化という最悪の結末が待っている相手に、俺は「男」。
俺が知る限り男の適合者は存在しない。
と言う事は、必然的にごく一般家庭に住んでる俺はシンフォギアなんて
操れない、そもそも触れる機会も無い無力なモブになるはずなのだが…。
「間違いない…よな。なんでこんなのが「ここ」にあるんだ」
何故こんなのが、ごく一般家庭にしか見えないこの家の少年が持っているのかは不明
だが、テレビで何度も見かけたピンクのペンダントが机の引き出しから見つかったのだ。
ただ、テレビで見かけたものより多少短い気がするが、これはシンフォギアの待機形態で
間違いないと思う。
見つけてしまった以上本物かどうか、それ以前に起動するかも不明だが試さないといけない。
自分を動かすこの衝動が好奇心なのか、それとも別の何かなのかは分からないが。
休日、事前に周囲に人が居ない場所を探しだし、子供ながらに入念に調べてから姿を確認
するために手鏡を置いた。
時間も確認したいから携帯も地面に置き、正体不明のシンフォギアの起動を試みてみた。
記憶の限りだと自然に浮かぶようだが…。
そんな事を考えていると突然身体の奥から歌が浮かんできた為、恐る恐るその衝動に
身を委ね初めての聖詠を口ずさんだ。
~♪~♪~♪~♪~
浮かぶ歌は神や悪魔に問いかけ、世界の迷子になった俺の悩みや戸惑いがごちゃ混ぜ
になった歌、わが身に降り注ぐ、喜劇とも悲劇とも取れる境遇を嘆く哀歌(エレジー)
のようだった。
半信半疑の試みだったが、自分の体は一瞬で光に包まれそして…変身が完了した。
「マジかよ、LiNKERも無しに。適合者って事か?俺男なんだぞ。
―――っと、姿を確認しないとな」
「LiNKER」…適合者でないものが、聖遺物を制御し後天的に適合者に至るよう
櫻井了子が開発した薬。
ただし、投与の量や低い資質だと良くて昏倒、最悪で廃人や死の危険すら
付きまとう劇薬とも呼べる代物だ。
幸いなことに、俺はそれに頼らずに済むようだが。
まぁ、それ以前に一般人の俺にそんな特殊な薬入手なんてできないし、その点
はありがたい。
そんな事を考えつつ予め準備しておいた手鏡を拾い姿を確認してみたのだが…。
その姿に、俺は驚愕することになる。
「おい、なんでこの姿なんだよ。おかしいだろ、これが出てくるのはまだ先じゃないのかよ!
なんで俺が神獣鏡[シェンショウジン]なんて身に着けてるんだ!!」
「神獣鏡」…2期で小日向未来が操られ望まぬ戦闘を強いられたが、立花響の
ガングニールの浸食を結果的に一掃した。
更にラストステージへ至る鍵でもあり、もしその前に失われた場合ストーリーに
どんな影響を及ぼすか分からない。
2期に起る物語の重大な鍵の1つと呼べるシンフォギアだ。
そんな重大なギアを身に纏った事に気が動転して暫く意味も無く喚いていたが、落ち着いて
見直してみると細部が違っている事に気が付いたのだ。
「いや、待った。あの獣の顎みたいな特殊なヘッドギアが無い。…後ろの丸い奴もついてねぇ!
って事は、あの危なっかしいダイレクトフィードバックシステムはついてないのか?」
「ダイレクトフィードバックシステム」…これは装者の脳に直接映写する事で、あらかじめ用意されたプログラムをインストールし、短期間で戦闘練度を上げる事が出来るメリットだけ聞けば素晴らしいシステムとなのだが。
デメリットして、脳に直接映写出来る事を悪用し外部から洗脳を受ける危険性もある為、神獣鏡のギアの特徴ではあるが明らかに欠陥と言えるシステムである。
実際、小日向はその思いを歪められ親友である立花と戦うまでに至っている。
そんなシステムがついてない事は喜ばしいのだが、あのシステムが無いと言う事は自力でこいつを使いこなさないといけないわけだ。
その他の違いとしては些細だが、紫と白がメインカラーだったボディは黒と紫という一層暗い感じの姿となっている。
「これは小日向がつける奴とは違うのか…?いや、単に願いが違うせいという可能性がある。
まだ楽観視はできないが、とりあえず性能を調べないと始まらないか。これも思い浮かべれば
いいのか?」
作中の神獣鏡にはいくつかの機能があるのだ。
小日向が使用したのは2つ。
1つ目は、凶祓いの力による聖遺物殺しと言える、分解能力を備えた光起電力効果による
レーザー攻撃。
2つ目は、飛行能力イオノクラフト。
この2つの力だ。
どちらも強力ではあるが、姿をさらしたくない自分としては小日向の「響を戦わせたくない」と
いう気持ちからから実現したこの力より、オミットされてしまったエアキャリアで使用していた
ステルス能力の方がよほど大事である。
また、逃げ延びる為に作中で1度も使われなかった分身能力の方もいいかもしれない。
また、適合者達は躊躇せず攻撃出来ていた事から、自分が今使える技は分かると判断して思い浮かべてみたのだが…。
「確かに求めはしたが…、これは出来過ぎだろ。ただ、代償も安くは無いか」
気になる性能の方は、まず使える能力は多く4つ。
1つ目は、小日向も使用していた、光起電力効果によるレーザー攻撃。
但し凶祓いの力は備えておらず、分解能力は備えていない。
2つ目は、こちらも小日向が使った力、飛行能力イオノクラフト。
だが、制御は困難でゆっくりなら動かせるが原作の様に戦闘に堪えれる機動は
不可能とみていいだろう。
3つ目は、エアキャリアで使用していた、ウィザードリィステルス。
待望の力であり、しかもエアキャリアより小さい分性能が上がってるようなのだ。
その分消費が激しいので、おそらく戦いながら展開するのは無理だろう。
4つ目は、分身能力…と言いたいが何故か変身能力。
性別すら偽る強力なもので、俺としてはこれが一番嬉しかった。
ここまで聞けばいいことづくめで万々歳なのだが…。
当然ながら代償もあり、小日向の場合と違いデメリットは戦闘力を減少という形で顕著に表れた。
1つ目は、なんと絶唱が出来ない事。
どうも多方向に力が実現した為か、絶唱を行なえる程エネルギーを集中出来ない様なのだ。
まぁ、後ろ盾のない自分に絶唱は使いどころに困るので特に気にしなくていいだろう。
2つ目は、小日向が使った極太レーザー「流星」、それに近い事が出来ない事。
円の様に鏡面自体は展開できると踏んでるが、やはりそれに回すエネルギーが無いのだろう
か発動出来るイメージが全くできない。
こっちはかなり痛い、あの極太レーザーは大型を確実に倒せそうだからな。
最後は恐らく、活動制限になるだろう。
適合自体は出来ているのだが、使用出来るエネルギーが少ないのだ。
能力の制限の全ての原因となってるこの事態が俺に原因があるのか、元々「格」が低いと言及されているこの神獣鏡に原因があるのかは全くの不明だが、全力で戦った場合いつまでもつか想像できない。
以上の事から「正体を明かさず戦いたい」という俺の気持ちから実現した結果は、逃げ隠れる事に特化し最低限の戦闘力だけを備えたシンフォギアになったと言う事だろう。
これは、立花の治療やラストステージに関する事には俺は無力な存在と化したと言う事だが、大幅に弱体化してるとはいえその分介入する為のハードルは下がったと言えるだろう。
―――――やはり何かの意志が働いてるとみるべきだろうか?
「これは何が何でも参加しろって事か?随分都合主義が過ぎる気がするが…。やるしかないか。
それに、使わないで俺が無事だって保障すらどこにもないからな」
これが超常存在に与えられ何かしてこいと言われてるなら、受ける受けないはともかく
どんなに気が楽か…。
ここまでお膳立てされてるのだ、何も無いとい事はあるまい。
1期にせよ2期にせよ、途中で脱落者が出て万が一失敗でもした場合、その規模の大きさから
被害は間違いなく俺の身にも降り注ぐのだ、やらないわけには行かない。
俺は、そんな自己欺瞞とほんのわずかな好奇心に動かされて原作への介入を決意した。
本来なら「男で適合者」等と言う希少価値、背景は色々ときな臭い世界だ。
原因を特定するために最悪モルモットだってあり得るが、動かないでばれない保証もないし
神獣鏡の力次第では隠し通せるかもしれない。
まぁ、それでも1人で動くことには限界はあるが、タイミングを計って二課に協力すれば何
とかなると思う。
「とりあえず、攻撃以外順番に試してみるか。まずは、変身能力らしいこれからだな」
俺は攻撃によって発される騒音を避け、まず正体を隠せるだろう変身能力を使用した。
[幻影]
俺がギアの力を開放すると身体が2度目の光に包まれ、光が治まると…。
「これが俺か、声まで変わるとか予想以上だな…。この姿なら「私」でとさないと不味いか?」
そこには元の俺より一回り大きい、神獣鏡を身に纏う胸元の寂しい黒髪ベリーショートの
可愛いと言うよりは男勝りと言える同い年くらいの少女の姿があった。
声すら変わってしまうのは、神獣鏡の力から逸脱してると思うのだが分からない事に
悩んでも仕方ない。
「ま、このでいいか。下手に変えようとしても、ぼろが出た場合困るのは俺だしな」
特に問題なさそうなのでシンフォギア時はこの姿でいる事は決めたが、口調に関しては
正そうとは思わなかった。
本来なら変えるべきなのだろうが、戦闘中にいちいち口調を気にしてる暇はない
だろうし、ぼろが出るのは目に見えてるからだ。
「ちょっと時間を使いすぎたかな?最後にステルス機能らしいこれを試してから離れるか」
ふと、時間が気になった為地面に置いた携帯を確認してみると10分程時間が経過したようだ。
10分なら特に気にしなくていいと思うのだが、不安材料がある為次で切り上げて帰る事にした。
[幻日]
先ほどと同じようにギアの力を使うと、俺の姿が一種にして周囲の景色へと溶け込んでいく。
完全に消えたのを確認してから足音が立つよう歩いてみるが、ステルス以外に消音機能でも
あるのか音が立つことは無かった。
「これも想像とは少し違うな。鏡面でも展開するかと思ったんだが。―――――車の音?
やっぱり気が付かれた?とりあえず浮上して様子見だな」
俺は地面に置いた荷物を回収してから[幻日]を維持しつつ音も無く空に浮かび、様子を
見る事にした。
ほどなくして車の音が止まり、中から人が出る音がし程なく数人の大人が姿を見せた。
それはやはり俺の予想道理、特異災害対策機動部二課の人間のようだ。
「…はい、現場にはシンフォギアらしき姿は見あたりません。そちらの方はどうですか?
…そうですか。わかりました、引き続き付近を調査してみます」
その後いくつか能力を試していると、不意に車が近づく音が聞こえてきた。
休日の真昼間に正体不明のギアの反応をさせたのだ、突然のアウフヴァッヘン波形に二課が
飛んでこないわけがない。
俺は試したばかりの能力を使用しつつ、その場を後にした。
その後暫く考えたが、俺が初介入するのは「ツヴァイウイング」コンサートのノイズ戦、立花響がガングニールを保持すると同時に天羽奏がその命を落とす一戦にした。
コンサートの一戦であれば介入は場所・時間は「ツヴァイウイング」を調べていれば判明する
し、国内なので年齢の心配も少ない。
ここまでお膳立てされてないとは思うが、小学生のうちに起った場合は諦めるとして中学以降であれば例え県外だとしても行ってみせる。
それに、俺がどれだけ戦えるか不明だし、言いたくはないが2人とはいえ大きく消耗した相手なら逃げるとしても容易なはずだ。
そしてあれから6年たった中学2年の今日、打算めいた思惑もあり俺は今この場所に居る。
~♪~♪~♪~♪~
神獣鏡を身に纏い、これから起こる悲劇に介入する為に。
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