アンドリュー・ギルバート・ミルズは今日も待つ妻の為に戦う 作:蛯名 恵比寿
俺の名前は、アンドリュー・ギルバート・ミルズ。アフリカ系アメリカ人だが生まれも育ちも生粋の江戸っ子だ。
ガキの頃、俺は自分のこのデカイ身体が嫌いで仕方なかった。望んでもいないのに身長は180近くになり、筋肉も必要以上についていった。
極めつけがこの黒人特有の黒い肌だ。何もしてなくても相手が絡んでくる。そして周囲からの視線による圧力。
俺はこの身体が嫌いだった。
学校を卒業し社会に出たところで状況は変わらない。
会社では主にインターネット関連の仕事をしていたが、そこでも俺の居場所はなくただ1人キーボードを叩いていくだけの日々が続いていった。
オンラインゲームの存在を知ったのは、会社に入って2年が経った頃のことだ。
自分の分身であるアバターを操作し、パソコン越しにいる世界中の人達と共にゲームの中の世界で生活をしたり、力を合わせてモンスターと闘ったりするらしい。
興味を持った俺は家に帰るとすぐにパソコンを起動し、いま人気のオンラインゲームを調べ基本情報の登録をした。
「名前か・・。さすがに本名というわけにはいかないよなぁ」
それで目に入ったのが先日まで自分が読んでいたアイスランド叙事詩の英訳版だ。
《Egil`s Saga》エギルのサガ。アイスランドの農場主であり、またヴァイキングや詩人でもあったエギル・スカラグリームスソンの生涯を書かれた文書である。
「エギルか。まぁ初めてだし名前なんてこれでいいか」
次に行うのがアバターの設定だ。ゲーム内での自分の分身を作成するのである。
俺はあえて現実の自分とあまり変わらないであろう、色黒の巨漢にアバターを設定した。
これはまぁ・・ちょっとした皮肉だ。現実世界と違い外見を自由に選べるこの世界であえて自分と変わりない巨体で始めれば、周りの目にはどう映るのだろうか。
「ははっ・・ここでも駄目なら、なる様になれだ!」
そんな乾いた笑みを浮かべながら俺はログインボタンを押した。
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結果から言おう・・・ものすごく面白かった。
アバターの見た目を気にせず気軽に声をかけてもらえたり、筋力メインの能力ポイント振りをしていた斧使いの俺がモンスターの体力を削り仲間がトドメを刺す。
力を合わせ敵を倒した時の爽快感は堪らなく気持ちのいいものだった。
それからというもの、俺は会社から帰るとパソコンをつけゲームにログインするのが日々の日課になっていた。
初ログインから半年たった今では、ゲーム内でも中堅ランクの斧使いプレイヤーとして所属ギルドの中でもそこそこの有名人である。
そんな日々を送っている中、俺の所属するギルド《アイアンボンド》のリーダーがこんなことを発案してきた。
「うちのギルドも来月で1週年だ!どうだろう、これを機会にオフ会なんかしてみないか?」
正直聞きたくもなかった言葉だった。オンラインゲームでも仲が良くなると個人やギルドなどで実際にプレイヤー同士が会うオフ会というものがある事は事前に知っていた。
だが自分がこの肌黒い巨体で行けば間違いなく引かれるだろうし、その後も気まずい雰囲気になるかもしれない。
ゲーム世界での『エギル』は確かにみんなを助ける心強いキャラクターだが、現実世界の『アンドリュー・ギルバート・ミルズ』は身体だけがデカイただのチキン野郎なのだ。
ギルドリーダーにオフ会の不参加を伝える為に近づいたところ、なんと俺が口を開く前にリーダーの方から話しかけてきたのだった。
「エギル!お前たしか都内住みだったよな?前回のイベントのMVPなんだから絶対に来いよー!」
「えっ!エギルさん来るんスか?やっべ、俺絶対休み取りますね!」
「エギルさん来るんだー。どんな人なんだろ、楽しみー」
「きっとアバターとそっくりのでっかい巨体なんだよww」
「いやいや、そんな訳ないじゃん」
「お店どうするー?やっぱり無難にカラオケ辺り?」
俺の返事もそっちのけに勝手に盛り上がるギルドメンバーたち。
おいおいおい・・・この状態からどうやって断ればいいんだよ!
以上で第1話しゅーりょーです!
ナーヴギアが開発される前の話なので、きっとエギルもパソコン前でカチカチしてたんだと思いますww
しばらくはSAOスタート前の話が続く予定ですが、どうぞ宜しくお願いします!
蛯名 恵比寿