サヨナラ、テイトク   作:遠坂遥

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話は前日に遡ります。


新任提督、着任 その二

 

 俺が彼女に記憶喪失を打ち明け、そして彼女が単身バイドに挑もうと俺に背中を向けると、俺は彼女を止めようと彼女の肩に触れた。

 だがその時、俺の手が猛烈な光を放った。

 

「な、なんだ!?」

「て、提督!?」

 

 そこで俺の意識は1度途切れた。そして次に目覚めた時にはなんと俺は空を飛んでいたのだ。

 

「うわあああぁぁぁ……あ、れ?」

 

 俺はとっさに口を塞いだ。俺の声があり得ないほど高かったのだ。

 

「声が、どうなって……?」

「提督、落ち着いてください!」

「!? 口が、勝手、に……!」

「提督、私です! 香月あおいです! 落ち着いて、まずは自分の身体をよく見てください」

 

 俺は混乱しながらも宙に浮く自分の身体を見つめる。

 

「これは!?」

 

 驚くべきことに、俺は香月あおいになっていた。

 

「提督、落ち着いて、口ではなく頭で言いたいことをイメージしてください。そうすれば、私と話をすることができるはずです」

 

 イメージ。俺は破裂しそうな鼓動を必死に抑えつけ、冷静さを取り戻す。そして、あおいの言う通り、頭の中で伝えたいことをイメージした。

 

『俺は一体どうなってるんだ? 俺は君になってしまったのか?』

『違います提督。どうやら、提督が私の身体の中に入ってきているんだと思います』

 

 あおいの言う通り、俺たちの頭の中の会話が成立した。

 

『俺が、身体の中に?』

『はい、信じがたいとは思いますが……。とにかく今はっきりしているのは、提督が私になったのではないということです。私は自身の意識を失っていませんし、体のコントロールも失っていませんから』

 

 あおいがそう言うと、俺の(ものだと錯覚していた)腕が独りでに動き出したのだ。

 

『お分かりになりましたか? ただ、さっき提督が私の口を使って言葉を話した通り、提督も私の身体を動かすことができるみたいですね』

『……こんなことって、あり得るのか?』

『少なくとも、私は聞いたことがありません。ですが、現実として提督と私は今同じ身体を共有しています。そしてまたあり得ないことに、私はフォースを装着していなかったはずなのに、今の私には翼があります』

『なに?』

 

 俺はあおいの身体の後方を見る。なんとそこには、横と縦に2枚ずつ鋼鉄製の翼が生えていたのだ。いや、正確には翼のついた鋼鉄のアーマーを背負っていた、の方が正しいか。

 そう言えば、空を舞う少女たちの背中にも同じように翼が生えていた。だが、これはそれらよりも大きく鋭利だった。

 

『こ、これはなんなんだ?』

『恐らく、フォースの一種なのは間違いないかと』

『ちょ、ちょっと待て。さっきからフォースフォース言ってるけどそもそもフォースってなんだ?』

『それを説明していると長くなります……。今はとりあえず我々が空を飛んだり、敵に攻撃を加えるための兵器と覚えてください』

 

 俺はひとまずそれで納得した。本来であれば、魔導士は出撃前にフォースを背負う必要があるのだそうだ。フォースなしでは魔導士は空を飛べないし、敵にロクに攻撃することもできない。

 空を舞う少女たちの背中の翼がそれだ。彼女らの背負うフォースの名は「アロー・ヘッド」といい、スタンダードな攻撃力を誇るらしい。

 

『じゃあ俺たちが今背負ってるこれはなんなんだ?』

『私もこれは見たことがないので、何とも……』

 

 どうやら俺たちが背負っている「これ」は、全くもって未知なるものらしい。

 

『それで、これから俺たちはどうすればいいんだ?』

『フォースを得た以上、戦いに参加するべきだと思います』

『この意味不明な状況でか? このフォースがちゃんと機能するかも分からないのに?』

『確かにそうですが、このまま仲間が劣勢に立たされているのを黙って見ている訳にもいきません! 戦える可能性がある以上は戦いましょう!』

 

 あおいの言葉を受け、俺はあおいの目で戦場を見つめた。味方は既に3人まで減っていた。このままでは、全滅は時間の問題だ。そこで、ようやく俺の決意は固まった。

 

『分かった。行こう』

『はい!』

 

 あおいが返答を寄越した瞬間、俺たちの背中の翼のエンジンのようなものが火を吹き、猛烈な爆裂音が辺りに響き渡った。そして、俺たちの身体は閃光の様な速さで風を切った。

 

『は、速い! だが、なぜだ? ほとんど風圧を感じない?』

『風をまともに受けてしまっては飛ぶことができないので、私の前方に薄い防御壁を展開しているのです』

『それも魔導師の能力なのか?』

『はい。これでも一応、一通りの訓練は受けていますからね』

『そうなのか。それよりも今さらなんだが、魔導師ってのはなんなんだ?』

『魔導師は魔術を使う者のことです。あ、ちなみに戦闘に参加する魔導師には女性しかいません』

『なんでだ? 戦いを女性にだけ任せるのはどうかと思うぞ』

『あ、これは別に男性が楽をしているという訳じゃないんです。実は女性の魔導師自身は自分で魔力を生み出すことができないんです。男性の魔導師が魔力を生み出し、女性の魔導師がそれを使用する。それがこの世界で定められたルールなんです』

 

 なるほど、どうりでさっきから戦っているのが女の子しかいないわけだ。それにしても、決められたことなら仕方ないのだろうが、女性にだけ、しかもさっきのように女の子にだけ戦いを強いるというのはどうも好かない。

 戦場に送りだす男たちは何を思うのだろうか? それはまるで、子供を戦場に送りださなければならない親の様な気持なのだろうか? 細かいことまでは分からないけど、胸糞悪いのだけは間違いなかった。

 

『さ、お話が長くなりました。では行きましょう!』

『……あ、ああ』

 

 そして俺たちは、一気に戦場へと突入した。




続きます!
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