「ありがとうございました~!またのお越しをお待ちしておりま~す!」
今日はバイトの日。
ということで博士達はガソリンスタンドで営業を行っている。
しかし、一緒にバイトしているグレちゃんだけ相変わらずやる気を感じない。
「ほらグレちゃん、もっとやる気出して。ガソリンスタンドは元気
が一番なんだから」
「……そういう体育会系は苦手なんだよ……」
グレちゃんはZちゃんと違ってクールで物静かなのでこういう声出
しは苦手なのだろう。
「まあ、そりゃそうだけどさ……これも店の修理代と光子力を普及さ
せるためだから。もっとやる気を出してくれないと」
「……博士は面倒臭くないの?」
そりゃ面倒臭くないと言えばウソになる。
正直こうやってバイトをするよりも研究所で光子力について研究して
いたほうがよっぽど有意義だと思っている。
しかし働かないことには研究費を稼ぐことはできない。
光子力について研究するには莫大な資金が必要なのだ。
「まあ、そりゃまったく面倒臭いってわけじゃないけどさ。でもアレ
だよ?働くこと以上にいいことはないよ?ほら、バイトしていると感
謝されるし」
「……僕まだ子供だし。そういうのよく分からないよ」
そう言うと、グレちゃんは休憩室のほうに向かって歩いて行った。
「あらら、グレちゃん行っちゃったよ」
「グレちゃんさんはまだ子供ですからね。根は悪い子じゃ
ないんだけど……」
「うん、そうなんだよね~。グレちゃんはどっちかっていうと
インドア派だから」
「ええ、Zちゃんとはまるで正反対ね」
「……」
Zちゃんとグレンダさんがそんなやり取りをしていると、博士は
黙って休憩室のほうに歩いていく。
「あれ?博士も休憩するの?」
「ああ、しばらくの間ここ任せてもいい?」
「それは別にいいけど、なるべく早く戻ってきてちょうだいね?」
「ああ、分かった。ありがとう」
そう言って笑顔でお礼を言うと、博士も休憩室のほうに向かって
歩いて行った。
「博士、普段休憩とかあまりしないのにどうしたんだろう?今日
はそんなに重労働はしてないと思うけど……」
「まあ、博士にもたまにはそういう時があるってことよ。きっと」
「ふ~ん……」
「Zちゃんさん、もしかしてグレちゃんさんと博士が二人きりになる
のが気になるの?貴女もしかして、博士のこと……」
「はぁ!?別にそんなんじゃないし!何変なこと言ってんのさ!?」
グレンダさんにそう言ってZちゃんは顔を赤くしながら全力で否定する。
「そう、私はてっきりその気があると思っていたんだけど。本当
に違うの?」
「そんなわけないじゃん!たしかに嫌いじゃないけど……何というか、
博士は家族というか……友達というか……いや、何か違うな……よく分か
んないや」
「へ~そうなんだ~」
グレンダさんが何やら意味深な笑みを浮かべている。
「何よその意味深な笑い方は!?」
「いいえ、別に何でも。ほら、お客さんの車が来ているわよ」
グレンダさんが東の方向を指差すと、たしかに紅いカラーリングの
ワゴン車がこちらのほうに向かってきていた。
「あ、ホントだ!いらっしゃいませ~!レギュラーとハイオクどちら
になさいますか~?」
そう言って、Zちゃんとグレンダさんはいつものようにバイトを再開した。
―――――
一方、休憩室に向かった博士はその休憩室の中に入り、ソファの上で
携帯ゲームをしているグレちゃんを発見した。
「やあ、グレちゃん。レベル上げは進んでいるかい?」
そう言いながら、博士は気さくにグレちゃんに声をかけるが、対する
グレちゃんは無反応で黙々とプレイしている。
「(すっかりゲームに集中しちゃってるよ……俺、アウト・オブ・眼中
だよ)隣、座ってもいい?」
「……いい」
「ありがとう」
グレちゃんに許しをもらい、博士はグレちゃんの隣に腰掛ける。
「で、今は何をプレイしているんだい?」
「……ポ○モン。今ミズ○ロウを厳選中」
博士の質問にグレちゃんがそう言って答える。
よくよく携帯ゲーム機を見てみれば機種は任○堂の3○Sだ。
グレちゃんのことだからやっているシリーズは最新ものだろう。
「そっか……厳選か……で、いい個体値を持った子は見つかったかい?」
「全然、ロクな個体値の子が産まれない。昨日からずっとやって
るんだけど」
こういうのに熱を入れるところはゲーマーであるグレちゃんらしい。
本当のことを言うならそういう熱をもっと仕事のほうにも向けて
欲しいが……。
「ねえ、グレちゃん。ゲームをしながらでもいいから俺の話を聞いて
くれるかい?」
「……もしかして、さっきのこと?だったら」
「違うよ、グレちゃんってさ。実家がゲームショップなんだよね?
ゲーム好きになったのはいつくらいなの?俺やZちゃん達と知り合
った頃にはもうゲーマーだったし」
「……」
グレちゃんは何も答えない。
ただ黙々とポ○モンをプレイしているだけだ。
しかししばらくすると、グレちゃんは口を開いて博士にこう答えた。
「昔……六歳くらいの頃。お父さんが面白いって言ってやらせてく
れたレトロゲームがあって……それをお父さんとプレイしたのがキ
ッカケかな。今では最新のゲームが多く出揃ってるからあまりし
ないけど。たまに実家に帰ってやってる。でも、どうしていきな
りそんな質問を?」
「特に深い意味はないんだけど。何となく気になったとだけ言って
おくよ」
「ふ~ん……てっきり説教しに来たのかと思ってた」
「別に説教する気なんて最初からないよ。俺は人に説教できるほど
大層な人間じゃないから」
「……博士は」
「ん?」
「博士は私達にとって大層…………だと思う」
急にグレちゃんに褒められた。
一体彼女は何故いきなりそんなことを言ったのだろうか。
「グレちゃん達にとって?」
「だっていつも裏で私達を支えてくれるし、お世話もしてくれるし、
光子力を普及させるためにいつも研究室で試行錯誤してるし。戦うこ
としかできない私達にとってすごい人だよ、博士は」
「いや……グレちゃん達だって光子力町のためによくやってくれてるよ
(やりすぎちゃうのがタマにキズだけどね)」
「……ホントに?」
「ああ、本当だ。三人共俺にとって自慢のロボットガールズだよ。
俺が保障する」
「博士……」
「俺にはグレちゃん達みたいに戦える力はないけど、皆のためにで
きるだけのサポートをするつもりだ。それはこれからだって変わら
ない。弓先生任せられてるだけじゃない、俺個人としてね」
そう言うと、博士はソファから立ち上がる。
「そろそろZちゃんとグレンダさんのところに戻るよ。グレちゃん
とはちょっと話がしたかっただけだから。それじゃ」
ソファから出口のほうに向かって歩いていく。
しかしその歩みはグレちゃんの博士の呼ぶ声によって止められた。
グレちゃんに呼び止められて博士が振り返ると、グレちゃんは3○S
をポケットにしまい、ソファから立ち上がってこちらのほうに向か
ってきていた。
「グレちゃん?」
「僕も戻る。そしてちょっとだけ……やる気、出してみる。働くことは
悪いことじゃないし」
一体どういう風の吹き回しだろうか……?グレちゃんは普段こういう
ことを言う子ではないのだが……。
「グレちゃん、急にどうしたのさ?」
「……別に。ただ今日はそんな気分になっただけ。僕がこう言うの
はそんなに変?」
「いや、そういうわけじゃないけど……明日台風でも来るんじゃないかな?」
「……博士、すごく失礼。人がせっかくやる気を出そうとしてるのに……」
どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。
これは明らかに博士に非がある。
「悪かったよ。グレちゃんがやる気を出してくれて俺も嬉しいよ。
さ、行こうか」
「……うん」
そう言って博士に頷くグレちゃんの顔は若干ではあるが緩んでいたこと
を博士は知る由もないのであった。