「ただいま~」
買い物から博士が研究所に戻ってきた。
「おかえりなさい博士。随分買い込んできたのね?」
「ああ、今日はスーパーで特売日だったからさ。そういえばZちゃん
とグレちゃんは?」
周囲を見渡すが、研究所にZちゃんとグレちゃんはいなかった。
「何言ってるの?二人共バイトで今はいないわよ。昨日言ってたじゃ
ない。忘れたの?」
そういえば昨日二人共バイトのことで相談しに来たことを思い出した。
たしか二人共コンビニのバイトに行っているはずだ。
「そうか、そうだったな。そういうグレンダさんは何をしていたんだ?」
「私?私は縄とロウソクのもっと新しい使い方を考えていたところよ」
彼女は表情こそ笑顔だが、彼女から縄とロウソクという単語を聞くと恐
ろしくなってしかたなくなる。
彼女に絶対そういうのを持たせないようにしなければならない。
「縄は普通に物を縛って、ロウソクは明かりを灯すのに使えばいいじゃ
ないか。何でわざわざ新しい使い方を考えたりしていたんだ?」
「縛る……ねぇ……」
「何で縛るに反応する!?」
「別に?深い意味はないから気にしないで」
笑顔でグレンダさんは言うが、何かよからぬことを考えているよう
で恐ろしい。
それから博士は買ってきた食材を食堂の冷蔵庫に収納し、客間に移動した。
「はい、どうぞ」
グレンダさんが自分の分と合わせて淹れた紅茶をテーブルの上に置く。
博士はそれに”ありがとう”と言って受け取り、一口すすった。
そうしている間、グレンダさんは博士とは向かいの席に座り、自分も
紅茶をすすった。
「それにしても退屈ね~。何か事件の一つでも怒ってくれないかしら?
殺人事件とか」
「こらこら、物騒なこと言うんじゃありません。この前地下帝国を
ボコボコにしたばかりじゃないか」
「その時私は参加してないもの。やっぱり私もおしおきすればよ
かったかしら?」
ボコボコにされて悲惨なことになっている地下帝国のメンバーを想像
しているのか、グレンダさんが黒い笑みを浮かべている。
ただでさえZちゃんが暴れるだけでも厄介なのにその上ドSのグレンダ
さんまでも加わればさすがに地下帝国の人達に同情してしまう。
「地下帝国と戦うのはいいけど……もっと加減ってやつを覚えて欲しいな。
地下帝国と戦う度に町を壊されちゃたまったもんじゃないよ」
「あら、私は物理攻撃はあまりしないわよ。どっちかって言うと精
神的に痛めつけるのが好きだもの、私。それは貴方だって知ってる
でしょ?ねぇ?」
グレンダさんの制裁を受けたことある博士はグレンダさんのその言葉
で冷や汗を掻く。
自分が受ける制裁(本人はスキンシップのつもりらしい)は地下帝国ほ
どのものではないが、それでも辱められるのは勘弁してもらいたい。
「グレンダさんのドS行為は郡を抜いてるから……おかげでどれほど酷い
目に遭ったことか……」
「あら?私のスキンシップはお嫌い?てっきり貴方も喜んでるのかと
思ってたんだけど、違った?」
「俺をドMみたいな発言するのやめてくれる!?俺いたってノーマルだ
からね!?いじめられるのが趣味の変人じゃないからね!?そんなのは
どっかの淫乱機械獣ぐらいだからね!?」
「うふふっ、Mな人は最初は必ずそう言うのよ。ホントはいじめ
られて嬉しいんでしょ?いつも私にいじめられる時照れ臭そうに
するじゃない」
「アレはそういう意味じゃないから!何かに目覚めたわけじゃないから
ね!?どんだけ俺をMにしたいんだよあんた!」
「別に貴方をMにしようだなんて思ってないわよ?ただぁ~貴方って私の
思ってる以上の反応をしてくれるから飽きないのよ」
そう言うと、グレンダさんは椅子から立ち上がり、博士の隣に移動し
て身体を密着させる。
身体を密着させると、グレンダさんは自分の右手を博士の顎に添える。
顔と顔の距離がかなり近く、少し動かせばキスができてしまいそうな距離だ。
「ぐ……グレンダさん……ダメだって……」
「ふふっ、博士ったら本当にウブね。異性にこうされただけで顔を真っ
赤にしたりして」
「そ……そりゃそうだろ……女の人にこんなことされたら……誰だって」
「へ~それはつまり博士は私のことを異性として意識してるってこ
とで捉えてもいいのかしら?」
たしかに意識していないと言えばウソになる。
グレンダさんは長身でスタイルもいいし、黙っていれば十人の男性全員が
振り向くことだろう。
ただし、性格がドSの女王様気質なので付き合うにはそれなりの
覚悟が必要だろう。
しかも噂では何人もの下僕を従えているとかなんとか……。
「さっきからだんまりね。もしかしてだけど……見惚れちゃってるのかな?」
「そ、そんなわけないだろ!あんまり自惚れるんじゃないよ!それより早
く離れてくれないか?こんなのZちゃんとグレちゃんに見られたら―――」
博士の言葉を遮るように客間の出入り口のドアが開かれる音が聞
こえてきた。
開けたのはバイトから帰ってきたZちゃん、そしてグレちゃんだった。
『……』
二人はグレンダさんに詰められている博士を見て、二人は言葉を失う。
このままでは二人にあらぬ誤解をかけられてしまう。
「ふ、二人共違うんだ!これには深い訳g―――!」
「あ!ダメよ博士!そんな急に動いたら―――キャアッ!」
博士がいきなり動いたので、バランスを崩して博士とグレンダさんは
椅子から転落してしまう。
そして博士がグレンダさんに覆い被さっている体勢になってしまう。
「あいたたた……悪いグレンダさん、大丈夫?」
「ええ……何とか……それより博士、貴方はそこにいる鬼をどうにかした
ほうがいいんじゃないかしら?」
「鬼?はっ!」
グレンダさんに言われて博士はZちゃんのほうを見る。
しかし見た頃には既に遅く、Zちゃんは黒い笑顔を浮かべながらで燃
え盛る焔のようなオーラを身に纏い、顔にいくつもの怒筋マークを浮
かべていた。
完全にお怒りモードだ。
「Zちゃん!これは事故!事故なんだ!ちょっとバランスを崩してこう
なってしまっただけなんだよ!」
「ふ~ん、自分から押し倒しておいてそういうこと言っちゃうんだ
博士は~」
「ぜ……Zちゃん……さん?」
「……この」
Zちゃんの胸部分が紅い光を放ち始める。
「ケダモノオォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「ドッカァアアアアアアアァァン!!!」
Zちゃんから理不尽な怒りに触れ、博士は彼女から渾身のブレストファ
イヤーをお見舞いされた。
それが放たれたことによって研究所は半壊した。
「ふん!博士のバカ!」
Zちゃんはぷんすかと怒りながら去って行った。
Zちゃんが去ると、グレちゃんは瓦礫の下敷きになってボロボロになっ
ている博士を引っ張り出した。
「大丈夫?とは言えないね」
「な……なして俺がこんな目に……?」
「Zちゃんは難しい年頃だから。怒らないであげてね?」
「元々あんたのせいだろ!!!!」
それからしばらくの間、Zちゃんは博士と口を利かなくなったという……。