「よし、できた!」
「うんうん、ええ感じに仕上がったなぁ」
「ありがとう、エリサ姉さん。僕一人ではここまでのものは……」
「ええのええの、エイトちゃん。高校ではガンプラバトル部に入るんやろ?」
「うん。大事にするよ、このF108……僕と姉さんの作品だ」
「んっふっふー。そういってもらえると嬉しいなぁ……けどな、エイトちゃん。そいつの完成度はまだ八割ってとこや」
「えっ……?」
「ガンプラ心形流の教えでなぁ。〝ガンプラとビルダーは共に戦う中で成長する〟ってのがあるんや。手足を組み終わったら、塗装が乾いたら完成やない、ってことや」
「共に戦い、成長する……」
「そう。だからそのF108には、わざと改造の……成長の余地を、残してある」
「姉さん……」
「別にパーツを増やさんでもええ。設定を考え、GPベースに入力するだけでもガンプラは強くなる。ようは、愛着を持って大切にせえ、ってことやな」
「愛着……わかったよ、姉さん」
「んっふっふー。素直でよろしい! どれ、ちょっとしゃがんでやエイトちゃん。おねーちゃんがなでなでしたるわ♪」
「い、いいよそんなのは……僕はもう一五歳だよ!」
「んっふっふっふっふー♪」
「ね、姉さん……!」
◆◆◆◇◆◆◆
『オキロ! アサダゾ! オキロ! アサダゾ!』
「ぅうん……」
大声で跳ね回るハロの頭を、ポンとひと押し。目覚ましのセットは朝の八時にしていた。遅い目覚ましは夏休みの特権――七月も最終週となった今日、すでに夏の太陽は燦々と輝いている。カーテンの隙間から差し込んでくる遠慮ない朝日から顔を背けながら、エイトは半分眠ったままの意識でごそごそと眼鏡を探した。
「ん……あれ……?」
おかしい。いつもなら、手を伸ばせばベッドサイドのテーブルに手が届いて……
がさごそ。がさごそ――ぺたん。
「……ん?」
「ぃやん♪ エイトちゃんのえっちぃ♪」
ぺたん。ぺたぺた。
「……なんだ、壁か」
「なんやとコラああああ!」
◆◆◆◇◆◆◆
「……どうしたんだい、エイト君。そのほっぺたは」
「い、いや……その……」
頬についた真っ赤な手形をさすりながら、口ごもり、ちらちらとエリサの様子を窺うエイト。エリサが素晴らしいほどの満面の笑みを浮かべてこちらを睨みつけているのを見て、エイトは説明を諦め、「なんでもないです、ナノさん」と小さな声で言った。
「んっふっふー。ウチとエイトちゃんの間のコトや。お嬢ちゃんには関係あれへんよー♪」
「……お姉さん。私と彼とはチームメイトです。心配ぐらいはさせてもらいたい」
珍しくむっとした表情のナノカと、からからと子供のように笑うエリサ。かたや身長170㎝の長身美女、かたや130㎝台の年上幼女。ニュータイプの感応波とはまた違った種類の稲妻がバチバチと散っている間に挟まれて、エイトは朝からどっと疲れた気がした。
「あの……姉さん、ナノさん。お店、入りませんか?」
空気を変えようと、エイトは二人の間に割って入り、目の前のショップを手で示した。
大鳥居高校から徒歩で約十分の商店街、そのほぼ真ん中で営業する
エイトの力ない愛想笑いに、ナノカとエリサも多少は申し訳なく思ったのか、ふんと鼻を鳴らして目を背けるとスタスタと店内に入っていった。
「らっしゃーーい! おお、ナノカちゃん!」
「しばらくぶりだね、店長。お邪魔するよ」
「がっはっは! 美人はいつでも大歓迎だ!」
威勢のいい大声。青いツナギ姿の大男が、大量のガンプラの箱を台車の上から降ろしていた。大柄な体躯に似合わない細い眼鏡、頭にはバンダナ……ではなく、ただのタオルをバンダナのように巻いている。若いようだが、年齢はわかりづらい。
彼がGP-DIVEの店長、通称「店長」だ。名前は誰も知らないが、特に不便もないので店長とばかり呼ばれている。
「エイトのボウズもか。こないだのザクはどうだい、ダイの野郎には勝てたのか?」
「はは……そりゃあもう、コテンパンに」
「がっはっは! そりゃあそうだ、アイツは俺でも二勝八敗だからなあ!」
言いながら、店長はパーフェクトグレードのユニコーンガンダムの異常にバカでかい箱を、ひょいっと片手で商品棚の上の段に滑り込ませた。見た目通りの腕力だが、あれで制作するガンプラはなかなかに丁寧だから、器用なものだとエイトは思う。あの〝
「んで、今日は何だい? オルフェンズのHGシリーズを再入荷したが、こいつはなかなかいいぜ。HGのサイズでフレーム構造、しかも価格も割と安く……」
「いや、店長。今日はバトルシステムを借りに来たんだよ」
店長の言葉を遮って、ナノカは手に持ったガンプラケースをぽんぽんと叩いた。エイトも通学用の鞄からガンプラケースを取り出す。
「今日、僕のイトコが来ているんです。ガンプラの強化を手伝ってくれるってことで、まずは実力を確かめたいって」
「へぇ、そうかい。ボウズのイトコってーのは……?」
「はい、姉です……って姉さん自由過ぎるよ!? 何してるんだよ!?」
「ほへ?」
エイトの突っ込みに気の抜けた返事を返したエリサは、店の入り口にあったアッガイの巨大なぬいぐるみによじ登ってしがみついていた。まるで子供だ。いや、見た目は完全に子供なのだが。
エイトは慌ててエリサを引きはがしにかかり、ナノカは何とも言い難い微妙な表情でため息をついていたが――店長の様子が、おかしい。
「……あ、ああああ……」
「ん、店長? どうしたんだい?」
「あああ、
突然の大声に、ナノカはびくっとなって跳び上がる。エイトも驚いてこけそうになるが、エリサだけはそんな店長の様子ににやにやと満足げな笑みを浮かべ、巨大アッガイぬいぐるみからひょいっと飛び降りる。
「んっふっふー。久しぶりやねぇ、カメちゃん」
そしてそばにあったパイプ椅子に、さながら悪の女幹部といった様子で足を組み、座る。
「ずいぶんご無沙汰やったからなー。そろそろウチの調教が恋しくなってきたんとちゃうかなーって思ってな? 店出したのは知っとったから、エイトちゃんイジメるついでにきちゃったんよ♪」
「え……知り合い……というか調教って、姉さん……店長……」
「店長。私はキミを見損なったよ」
「ち、ちがーーうっ! 店を開く前、心形流で先輩後輩だっただけだーっ! っていうかボウズのイトコだったのかよ! 畜生、アカツキって名で気づくべきだったぜ!」
「まあまあカメちゃん。年下の先輩にしごかれる毎日……好きやったやろ?」
「店長……キミは……」
「だだだ、だから違うんだってナノカちゃん! 姐御も勘弁してくださいよおっ!」
いつもは豪放磊落を絵にかいたような男だった店長が、エリサにいいように遊ばれている。ナノカの店長を見る目がかなり本気で冷たいのはかわいそうだが……
「よし、決めたで。タッグバトルや」
突然エリサは立ち上がり、そう宣言した。
「エイトちゃんはお嬢ちゃんと組みや。ウチはカメちゃんと組む」
「姐御、俺は店が……」
「なんか言うた?」
「い、いえ何も! バトルシステム、準備しますぜ!」
店長。僕の中での店長の印象が、ごりごり変わっています……ともかく。
「姉さん。まずは僕と姉さんのバトルの予定じゃ……」
「ええのんよ、この方がエイトちゃんを追い込める。さーあて、イジメるでー♪」
エリサは景気よく声をあげ、エイトの通学鞄からもうひとつのガンプラケースを取り出した。ケースを開き、ガンプラを取り出す――それは一言で表すなら、忍者。紫色の装甲、独特な形状の手足。腰には一振りの
「徹底的に追い詰めたるわ、エイトちゃん。ウチのガンプラ――AGE-1シュライクでな♪」
◆◆◆◇◆◆◆
『Please set your GP₋Base』
店の二階は、フロアのほぼまるごとがバトルシステム用のスペースとなっている。大鳥居高校の部室には六角形のユニットが二つあるが、これはかなり恵まれている方らしい。しかしガンプラ専門店であるGP-DIVEのバトルシステムは、バトル部のさらに倍。四つのユニットを連結したものとなっている。小規模な大会程度なら、この店だけでできてしまう設備だ。
エイトたちは四つのユニットの一番外側の辺にそれぞれ立ち、GPベースをセットした。
「……GBOじゃないバトルって、副部長と戦ったとき以来の気がします」
「私はもっと久しぶりさ。なんだか変な気分だよ」
『Please set your GUNPLA』
エイトとナノカは、ふっと顔を見合わせて苦笑い。それぞれのガンプラケースから愛機を――F108とジム・イェーガーR7を――取り出し、セットした。
一方でエリサと店長も、GPベースとガンプラのセットを終えていた。
エリサのガンプラは、AGE-1シュライク。AGE-1の装備バリエーション、高機動・近接格闘戦型のスパロー・ウェアをベースとしたガンプラだ。メインカラーを紫に変更、日本刀と苦無の装備。背部にバーニアユニットを、つま先に格闘用クローを追加。特にシルエットを大きく変えるような改造は見られない――が、さすがは心形流のビルダーというべきか、一つ一つの工作の精度が非常に高いことが、遠目に見てすらよくわかる。システム上で再現されるガンプラの性能は、かなり高いだろうと予想が立つ。
「今回は、エイトちゃんをイジメるのが目的や。ウチは好きにするから、合わせてや?」
「了解、姐御。道場にいた頃を思い出すぜ……」
そして店長のガンプラも、工作精度という意味ではエリサのシュライクに並ぶものだった。
忍者のような独特なシルエットのシュライクに対し、王道で典型的なガンダム的シルエットのガンプラ。ガンダムMk.Ⅱをベースにしているようだが、おそらくゼータ系の機体とのミキシングなのだろう、スタイリッシュな雰囲気もある。背中のビームキャノンやウィングバインダーからは、ややゴツいゼータ系……ガンダムMk.ⅡとMk.Ⅲの中間に位置する機体、というような印象を受ける。
『Beginning Plavsky particle dispersal』
「そういえば……ルールはどうするの、姉さん」
「んっふっふー。んなもん、エイトちゃんが泣くまでに決まっとるやろ?」
「ね、姉さん……!」
面白くてたまらないという風にニヤつくエリサに、困った顔をするエイト。そのやり取りを見て明らかに不機嫌になったナノカが、乱暴な手つきでバトルシステムの設定を操作した。
『GANPRA BATTLE.Combat Mode. Damage Level,Set to A.』
「な、ナノさん!?」
「へぇ~。ええのん、それで?」
「ガンプラの限界性能を引き出すのなら、レベルBでは不足だよ」
さらにナノカはガンプラケースからGアンバーをもう一丁取り出し、R7に装備させた。さらに左肩と同じデザインの小型シールドを右肩にも載せ、R7は簡易的な
「エイト君。全力の高火力で一気に押し込むよ。キミのお姉さんには絶対に負けられない」
「は、はい! すみません、ナノさん。姉さんが失礼で……」
頭を下げるエイトに、ナノカは「いいんだ」と顔を横に振り、そしてふっとエイトにほほ笑んだ。
「エイト君、キミを……相棒を揶揄されるのは、好きじゃなくてね」
「ナノさん……ありがとうございます」
『Field1, space.』
エイトの言葉に被せるように、システム音声が響く。ブン、とコクピットの各モニターに火が入り、コントロールスフィアを握る手にも力が入る。
「姉さんを倒すつもりで……いや、倒しましょう、ナノさん!」
「ああ、もちろんだ。エイト君」
ナノカとエイトは頷き合い、それぞれ愛機をカタパルトに乗せる。
「まあルールは、全滅したら負けってことでええやろ。んじゃまあいっちょー、始めるでー♪」
「ダメージレベルAか。こいつは気合が必要だな……!」
エリサと店長も、コントロールスフィアを握り、ガンプラをカタパルトに乗せた。
バトルシステム四つ分の広大なフィールドがプラフスキー粒子の輝きに包まれ、ひときわ強く輝きを放つ。
「アカツキ・エリサ、AGE-1シュライク! いっくでー♪」
「進路クリア、発進準備良し。ガンダム・セカンドプラス、出撃をする!」
「ジム・イェーガーR7
「アカツキ・エイト、ガンダムF108。戦場を翔け抜ける!」
『BATTLE START!!』
ゴォォ――! すさまじい加速度で放り出されたフィールドは、大小無数のスペースデブリが散らばる宇宙空間。エイトは手近なデブリに着地し、周囲の様子を探る。特にミノフスキー粒子が撒かれているわけでもないらしいが、デブリの数が多く、死角も多い。
「守りに易く、攻めに難い。といった感じだね」
エイトと同じくデブリに着地したナノカが、狙撃用のバイザーを下して索敵しながらつぶやいた。R7の優秀なセンサー類でも、やはり死角の多い宙域らしい。エイトはデブリを蹴ってナノカの隣に飛び移り、ガンダム作品にお約束の「お肌の触れ合い回線」で通信を繋いだ。
「姉さんのガンプラはビームライフルすらもっていない、超近接型です。姉さんの性格から考えても、きっとすぐに突っ込んできます」
「ああ、どうやらそのようだね……もう来ているよ!」
ビィーッ! ビィーッ! 敵機を補足、
「通常の三倍以上!? 姉さんだけじゃない、店長も!」
「デブリを蹴ってジグザグに加速……フル・フロンタルの戦法か!」
『ご名答や!』
エリサの声と同時、ナノカが着地しているデブリが、横一文字に両断された。ビームやヒート兵器の熱による溶断ではない、純粋な切れ味による物理的な切断。
エイトとナノカはそれぞれ左右に飛びのき、ライフルを構える。が、すでにエリサのシュライクはナノカの懐に飛び込んでいた。
『ウチの〝タイニーレイヴン〟の切れ味、とくと見ぃや!』
「くっ、ジュッテを!」
シュライクの日本刀――〝タイニーレイヴン〟を、ナノカはGアンバー銃身下部に展開したジュッテ機構で受け止める。
『芸が細かいね、ええガンプラや!』
「狙撃型だからと言って、近接戦闘に対応しない私ではない!」
『んっふー♪ いちいち言い方が
二人はそのまま、
「くっ……こうも乱戦じゃ、ライフルで援護は!」
エイトはビームライフルを腰にマウント、ビームブレイドを展開した。ナノカの援護に行こうとブーストを吹かした、その時。
ビュオォォォォッ! 飛び出すF108の頭を押さえるように、ビームキャノンの砲撃が飛んできた。
『よぉ、エイトのボウズ! 思えば、バトったことはなかったな!』
「店長!」
店長のセカンドプラスが、ゼータ系の細身なライフルを連射しながらエイトの側面に回り込んできた。店長はエイトとは一定の距離を開けながら次々とデブリを蹴ってジグザグに方向転換、避けるエイトの軌道を先読みするかのように、的確にビームライフルを撃ち込んでくる。
しかも気づけば、いつの間にかナノカとエリサが打ち合っている場所からかなり遠くまで誘導されてしまっていた。
「この人、上手い……!」
『がっはっは! さっきは突然の姐御登場で情けないところを見せちまったが……プラモ屋の店主が、客より弱いたあ思わねぇことだ!』
豪放な笑い声と共に、セカンドプラスが左腕のシールドを前に構えた。シールドの中から太い砲身が展開し、プラフスキー粒子の輝きが渦を巻いて
「メガ粒子砲!?」
エイトは咄嗟にライフルを構え撃とうとするが、セカンドプラスは両肩のビームキャノンを連射、エイトは回避運動で精一杯になってしまう。
『このシールドスマートガンのバトルシステム上での威力は、ハイメガキャノンに匹敵するぜ! 味わうかぁっ、エイトのボウズ!』
店長は大声で叫びながらも、ビームキャノンとライフルの火線で、的確にエイトの退路を塞いでいる。回避は困難、シールドで耐えて
スマートガンの砲口に凶暴な光が宿り、圧倒的な破壊力を持った光の奔流が、今、吐き出される!
「エイト君っ!」
ドゥッ、ゴオォォォォォォォォォォォォンッ!
Gアンバーの弾丸がセカンドプラスの肩を掠め、店長が咄嗟に身を反らしたことでスマートガンの狙いが逸れた。エイトはその一瞬の隙を突き、ビームサーベルを抜刀してセカンドプラスに突撃した。
「ナノさん、感謝します!」
『がっはっは! そう来たかよ!』
店長は迎撃にバルカンをばら撒いてくるが、エイトは右手のサーベルをぐるぐると回転させてガード、左腕のビームブレイドをセカンドプラスに叩き付ける。
店長はそれをシールドで受け止め、押し合いになる。
『がっはっはっはっは! 妬けるなあエイト! あんな美人と相棒かよ!』
「恐縮です、店長」
『まあいいぜ、俺には姐御がいるさ。俺は俺の仕事を――させてもらおうかあっ!』
セカンドプラスのビームライフルから長いビーム刃が噴出し、ビームセイバーを形成した。
『どぉぉりゃあっ!』
叫び、シールドでF108を押しのけて、ビームセイバーを振り下ろす。セカンドプラスの長大なビーム刃の射程距離は、F108のビームブレイドの軽く倍以上はある。店長の剣技は大味だが、その圧倒的なリーチのために、エイトは迂闊に近づけない。長大なビームの刃が、嵐のように乱舞する。
『がっはっは! どうしたボウズ! その腕のブレードでも、右手のサーベルでも! かかって来いよ、歓迎するぜ!』
店長がビームセイバーを振り回すたび、周囲のデブリが真っ二つに切り裂かれていく。
興が乗ってきたのか、今日の店長はやたらと饒舌だ。自分で切り裂いて数を増やしたデブリを蹴ってジグザグに飛び回り、エイトを追いながらまた剣を振るう。さらには時折、ビームキャノンのおまけつきだ。エイトはF108のバーニアユニットをフル稼働、なんとかデブリと斬撃、さらには砲撃のわずかな隙間をかいくぐる。
『反撃はどうしたあ! いくらすばしっこくても、逃げてるだけじゃあ俺は倒せないぜ!』
「セリフのセンスがっ。完全にっ。悪役ですよ、店長っ!」
『がっはっは! 言うじゃあねぇか、ボウズ! でもなあ!』
再びチャージしたシールドスマートガンが火を噴き、極太のビームの奔流が廃棄コロニーの欠片らしい巨大なデブリを、三つほどまとめて貫いた。
今は余裕をもって回避できたが――さっきは、ナノカの援護がなくてもし直撃していたら。ダメージレベルAのバトルだ、F108は跡形もなくなっていたかもしれない。エイトはつーっと頬に流れた冷や汗を、手の甲でぬぐった。
『お前が俺を倒さなきゃなあ! もうそっちはジリ貧だぜ! ナノカちゃんもだいぶ頑張ったみたいだが――』
「……まさか、ナノさんが!?」
『ああ! いくら大鳥居高校ガンプラバトル部ナンバー3のナノカちゃんでも……ガンプラ心形流神戸道院のエースビルダー〝
「そんな……ナノさんっ!」
エイトは慌ててモニター上にナノカの姿を探すが、もはや有視界の距離から大きく離れてしまったらしい。レーダー画面の片隅に、深刻なダメージを表す真っ赤な輝点でR7の位置が示されているだけだった。
「くっ……僕は、自分のことばっかりで……!」
先日のレギオンズ・ネストでの記憶が蘇る。アンジェリカに指摘された、己の欠点の数々――
『回避運動が鈍ったぞ、エイトのボウズ!』
「うっ、らああぁぁぁぁぁぁっ!」
F108は反転攻勢、振り下ろされたビームセイバーを、十字に構えたビームブレイドとサーベルが受け止め、激しい火花を散らして鍔迫り合いへと突入した。
◆◆◆◇◆◆◆
『つまらんなあ……』
エリサはそのセリフに反して、実に楽しそうな表情でナノカを見下ろしていた。
今、二人がいるのはかなり大きな廃棄コロニーの破片の一つ。突き立てられたタイニーレイヴンは仰向けに倒れたR7の右腕を貫き、地面に縫い留めている。Gアンバーを二丁とも失い、両肩のシールドもズタズタに切り裂かれたR7の頭を、シュライクがぐりぐりと踏みにじっているという有様だ。
「くっ……私のR7が、こんなっ……」
ナノカは屈辱に歯噛みし、コントロールスフィアを忙しなく操作して打開策を探ろうとしていた。しかし、主武装を失い右腕も封じられたR7に、できることは少ない。まともに使えるのは、太もものビームピストルとグレネードが数発のみだ。
『なあ、お嬢ちゃん。なんで自分がこないな状況になっとるか、理解しとるか?』
「……私の、実力不足だ」
『ちゃうで』
ぐりいっ。シュライクのつま先が、より強くR7の頭にねじ込まれた。R7のゴーグルアイが割れ砕け、その奥に作り込まれたツインアイがむき出しになる。
R7のコクピットには無数の警告が鳴り響き、画面を真っ赤に染め上げる。ナノカは最後の抵抗とばかりに残された左手でビームピストルを抜き撃つが、電光石火の速度で引き抜かれたタイニーレイヴンが、ビームピストルを真っ二つに切り裂いた。
『全然ちゃう。お嬢ちゃんとウチの実力は、バトルのスタイルこそ違うけど、そんなに差があるわけやない。拮抗しとる。先にウチが距離を詰めたから、ウチがちょびっとだけ有利やったぐらいのモンや』
「……わかって、いますよ。お姉さん」
『さよか。でもな。それでも、お嬢ちゃんがこうして、ウチに足蹴にされとるんは――』
すっと、音もなく。日本刀の切っ先が、R7の首元に突きつけられた。
『アンタがエイトちゃんを助けたからや』
エリサの言う通りだった。
ナノカは、エリサの凄まじい日本刀の連撃を、Gアンバーのジュッテでよくしのいでいた。素早く鋭い、回転数の高い日本刀の攻撃を、二丁あったとはいえ大型で取り回しづらいGアンバーでしのぐのだから、その技量はかなりのものだ。回転数に任せてエリサが斬撃を捻じ込むこともあったが、ナノカは両肩のシールドまで含めた四枚のガードでうまく対応していた。
打ち合いが拮抗し、千日手の様相を呈してきた、その時。転機が訪れた。
ビームキャノンに退路をふさがれ、大型ビーム砲の餌食になる直前のエイト。R7の優秀なセンサーが、仲間の危機を察知したのだ。ナノカは迷わず右手のGアンバーで援護射撃をし――その直後、エリサの日本刀がGアンバーを切り裂いた。
防御の要の一つを失い、日本刀の速さに防御が追いつかなくなったあとは、もはや一瞬だった。もう片方のGアンバーも失い、両肩のシールドは切り裂かれ――そして、今に至る。
「ふふっ……反論しようもない。でも、エイト君は私の相棒です。見捨てるわけには」
『エイトちゃんてな』
ナノカの言葉を遮るように、タイニーレイヴンがぐいっと押し込まれた。R7の首関節に、切っ先が食い込む。コクピットの警告表示が、また一つ増えた。
エリサはじわじわと刀を捻じ込みながら、低く冷たい声でナノカに問う。
『助けなアカンほど、弱いん?』
「…………っ!?」
ナノカの胸中に、衝撃と悪寒が走る。
『GBO……レギオンなんたらって言うたかな。見せてもらったで、この前の大会の動画中継。エイトちゃんが出るって、言うてたからな』
「それが……何を……」
『エイトちゃんが白黒のサーペント・カスタムに囲まれて、ピンチになったとき。お嬢ちゃんはビームガトリングを持った隊長機を狙撃したな。なんでや』
「エイト君を、守ろうと……」
『F108はビームシールドを持っとる。ガトリングぐらいは防げる。あの時は、ビームキャノンを持った奴らを先に撃つべきやった。タイミング的にも、それで二機は落とせた。お嬢ちゃんほどの狙撃屋なら、そんぐらい当然わかっとったハズや。でもアンタは、ぱっと見でエイトちゃんに近かったやつを撃った』
「相棒の窮地を、黙って見てはいられな……」
『さらに、青いデュナメスとの戦闘。アンタは早くエイトちゃんのもとに駆け付けることばっかり考えて、デュナメスの撃破を焦った。GNフィールドがあろうとガンビットがあろうと、お嬢ちゃんやったらいくらでも攻略法は思いついたはずや。でも撃破を焦って、結果機体をボロボロにして。エイトちゃんのもとに駆け付けたはいいが、トールギスの砲撃をモロに喰らった。チームの敗北や』
「……私はエイト君を、仲間を守ろうとしただけです!」
『まあ、あの勝負はお嬢ちゃんがどう足掻いとっても、トールギスの勝ちやったとは思うけどな』
「くっ……だからといって、あなたは!」
『さらにはさっきの戦闘。ウチの知ってるエイトちゃんやったら、ビームシールド構えながら曲芸飛行キメて、紙一重でカメちゃんに肉薄するぐらいの芸当はやってのけるはずや。無傷では済まんかったとしても、な』
エリサは刃先をぐりっとひねり、R7の首筋から火花が散った。メインカメラとの接触が乱れ、モニターが荒れる。
『ウチは、そう信じてる。エイトちゃんと、F108を』
「……何が……言いたい……ん、ですか!」
ナノカは自分を見下ろすエリサを睨み付けながら、R7の状態を確認していた。日本刀で貫かれた右腕は、損傷は激しいがまだ動く。ビームピストルを抜き撃つぐらいなら。先ほどの二の舞を避けるためには、なんとか隙を作るしかない。会話を続けながら、突破口を見つけなければ――ナノカは思考を巡らせていたが、しかし。
『なあ、お嬢ちゃん。アンタ、エイトちゃんのことを仲間だ相棒だって言うてるけど――』
続くエリサの言葉に、ナノカの頭は真っ白に固まってしまった。
『アンタが一番、エイトちゃんのことを信じてないやろ?』
第十二話予告
《次回予告》
「いぇーい♪ 地区予選突破、おっめでとぉー♪ どんどんぱふぱふー♪」
「うむ……感無量だな。ついに地区大会優勝か……」
「三年越しの快挙だねー、ダイちゃん♪ もう笑いが止まんないよぉー♪ あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ♪」
「これも日ごろの鍛錬と……お前のおかげだ、サチ。感謝している」
「だ、ダイちゃん……んもう、なんだよぉー、急にあらたまってさー……」
「サチ……ありがとう。いっしょに全国に行こう」
「ダイちゃん……♪ あっ……」
ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第十二話『ドライヴレッド』
「あっれー、優勝記念インタビューしようと思ったのに、部長も副部長もどこに……」
「きょろきょろしてどうしましたの、サナカさん。もはやほぼ不審者ですわよ」
「ああ、センパイ。ギンジョウ部長たち探してるんスけど、いなくて」
「ギンジョウさんでしたら、カンザキさんと一緒に、さっき体育館裏に……」
「マジッスか!? こいつは見逃せねぇ! サナカ・タカヤ、スクープを狙い撃つぜぇぇぇぇ!」
◆◆◆◇◆◆◆
報告①:主人公のパワーアップが近い気がする。気のせいかもしれない。
報告②:部長とさっちゃん先輩は正式に付き合うことになりました。
最近、執筆ペースが少しだけ上がっている気がします。ちょっと嬉しい。
私としてはエリサのようなキャラは好きで書いているのですが、読者の方々からしたらどうなんだろう。
話題は変わりますが、とりあえずAGE-1シュライクはほぼ完成しているので、次の更新はシュライクの紹介になりそうです。
感想・批評等お待ちしております。よろしくお願いします。