事務連絡②:神戸は雨続きで、AGE-1シュライクがなかなか塗装できません。がっくり。
『なあ、お嬢ちゃん。アンタ、エイトちゃんのことを仲間だ相棒だって言うてるけど――』
エリサはナノカを見下ろして、冷徹に告げた。
『アンタが一番、エイトちゃんのことを信じてないやろ?』
違う、私は――言おうとした口が、動かない。ビームピストルを掴もうとしていた右腕が、痺れたように動かない。真っ白になったナノカの頭に、過ぎ去ったはずの過去が次々とあふれ出して渦を巻く。
――四か月前。笑顔のあの子。勝って、勝って、決勝。裏切り。終局。泣きじゃくるあの子。怒り狂う私。笑う、嗤う、嘲笑う。黒いガンプラ。長身の男。破られた約束。守れなかった約束――果たされなかった〝奇跡の逆転劇〟――
『ウチはエイトちゃんを信じとる。だから、カメちゃんと一騎打ちさせとる。あの子にはそのぐらいの力はある』
そんなナノカの様子を感じ取りながらも、エリサは止まることなく追い打ちを続けた。
『動画を見る限り、エイトちゃんは十分強い――あのトールギスが別格に強過ぎるだけや。あんなバケモン、ウチでも勝てるかあやしいわ。やけど、それ以外の相手になら。多少苦戦したとしても最後には勝てた。それだけの実力が……いや、底力が、エイトちゃんにはある。……ただ、な?』
日本刀の切っ先が、さらに強くR7の首筋に押し込まれた。モニターのノイズが激しくなり、エリサの声にも雑音が混じる。
『お嬢ちゃんの狙撃が、最高のタイミングで助けに入るから。エイトちゃんに有利な状況を、必ず作り出してくれるから。ピンチを救ってくれるから。エイトちゃんは、アンタとつるんでからこっち、絶体絶命のピンチを――それを、自分の力で斬り抜けるってことを、しとらんのとちゃうか?』
――私が、私の手出しが、彼の成長の機会を奪っていたのか。その結果が、あの〝
『可愛い子には旅をさせろ……特に男の子はな、アホみたいな冒険して強くなるもんやで』
エリサの口調はいつの間にか、諭すように優しくなっている……だが今のナノカには、その半分も届かない。真っ白な頭に浮かんでは消える、現在と過去の入り混じった言葉の渦に、呑み込まれてしまっている。
――四か月前もそうだった。あれこれ手出しして口出しして、お膳立てして世話を焼いて。〝奇跡の逆転劇〟を見せてやるなんて、気安く約束して――だからあの子は、あの男に――すべて、私の――私には、やっぱり、何もできないのか――
「ナノさぁぁぁぁんッ!!」
バッヂィィンッ!! 投げつけられたビームサーベルを、エリサの刀が弾き飛ばした。衝撃を受けたビーム刃が弾け飛び、エメラルド色の光の粒子が撒き散らされる。
眼前で跳ね回る流れ星のような閃光に、ナノカははっと正気を取り戻した。痺れのとれた右腕でビームピストルを引き抜き、狙いもつけずにトリガーを引きっぱなしにする。五月雨式に連射されたビーム弾を、エリサはジャンプして距離を取りながら、タイニーレイヴンで切り払う。
『んもぅ、カメちゃんっ?』
『がっはっは! いいぜ姐御、あいつはすごくいい! エイトの野郎、予想以上だ!』
手近なデブリに着地したエリサのもとに、セカンドプラスがやってくる。店長はギラギラと目を輝かせ、興奮しきった様子だ。
『見てくれよ姐御、このシールド! エイトの野郎、ビームコーティングを焼き切りやがった! がっはっはっはっは!』
『んっふっふー。ご苦労カメちゃん、ようやった。……もうちょっと、やな』
ニヤリと口元をゆがめ、エリサはエイトとナノカを見る。
各部装甲を損傷したF108が、仰向けに倒れたR7の前に立ちはだかる。ビームシールドを右手に構え、一歩も譲らぬその姿は、さながら姫を守る傷だらけの若武者だ。
「エイト君……すまない、私は……」
「話、聞こえていました。姉さんは、オープンチャンネルでしたから」
F108の左手が、倒れたR7の肩に優しく触れ、接触回線を開いていた。先ほどまでのエリサの声とは違い、エイトの言葉はノイズ無く、ナノカの耳に届いた。
「姉さんの言うことは、間違っています」
「し、しかし私は……キミの成長を、邪魔していたんじゃあないかって……不安で……」
「ナノさんが」
まるで、ナノカの迷いを断ち切ろうとしているかのように。エイトの言葉は、力強かった。
「ナノさんが、誘ってくれたから。僕はGBOを知りました。ビス子さんとも出会えました。タカヤや、ヤマダ先輩とも戦えました。それ以外にも、たくさんの人たちと戦えました。突っ込むことしかできない僕が、まだまだ未熟なこの僕が。こんなにも戦えたのは――」
ザッ……モニターの機能が回復し、通信ウィンドウが開いた。ナノカの目の前に開いた小さな画面の中で、エイトは、ナノカのことを真っ直ぐに見つめていた。
「ナノさんが、いてくれたから」
「エイト……君……」
「ナノさんに会う前の僕は、ただやみくもに突っ込むしかできなくて……ただの蛮勇でした。だからあと一歩で、届かなかった。大声で叫んで、武器を投げつけて、怖いのを誤魔化しながら突っ込むことしか、できなかったんです」
ナノカがエイトに興味を持った、部活の代表選考戦。戦力的にも勝てるわけのない部長に対して、一直線に突っ込んでいった、あの姿。ナノカの目には、今後の成長の可能性を感じさせる
「でも、ナノさんといっしょなら。僕がどんなに突っ込んでも、ナノさんが守ってくれている。そう思うともう一歩、バーニアを吹かせたんです。ナノさんの期待に応えられるように、もっともっと強くなりたいって思えるんです。ナノさんは、僕に勇気を――次の一歩を踏み込む、勇気をくれるんです」
「勇気……私が、キミに……?」
ナノカの胸の中で吹き荒れていた感情と記憶の嵐が、すぅっと凪いでいった。そして、たった一つの言葉が、たった一つの約束が――心の水面の奥深くから、音もなく浮かび上がってくる。
――お姉ちゃん、ボクに勇気をちょうだい……最後の一歩を、踏み出す勇気を――
「だから、ナノさん。不安なんて、いらないんです」
小さな通信ウィンドウの向こうにいるエイトの眼差しは、力強く、まっすぐだった。
「僕は、ナノさんを信じています」
――とくん。ナノカは自分の胸が高鳴り、熱い何かが込み上げてくるのを感じた。ナノカがその思いを伝える言葉を探す間に、コクピットが軽く揺れた。
F108の左手が、R7から離れていた。
「……さっき姉さんは、一つだけ、正しいことを言いました」
ブォン、とビーム発振機が唸り、ビームブレードが展開される。
「冒険、してきます。僕、強くなりたい男子ですから」
「……少し待ってくれないか、エイト君」
ナノカはぼろぼろになったR7を立ち上がらせ、ビームピストルを両手で包み込むように持ち、構える。幸い、バーニアと足回りは健在だ。空間戦闘にもまだ十分に対応できる。頭部のセンサー類との回線が半分以上も断ち切られているから精密射撃はできないだろうが、ビームピストルにそこまでの期待はしていない。
「自分の気持ちだけ一方的に伝えるなんて、ひどいじゃあないか。私の気持ちは聞いてくれないのかい?」
「えっ……あ、は、はいっ」
さっきまでのまっすぐな男らしい顔つきはどこへやら、エイトはあたふたと慌てた様子だ。
まったく、かわいいなぁ――ナノカは柔らかく微笑んで、自分の思いの限りを、言葉に乗せた。
「――ありがとう、エイト君。私もキミを信じているよ」
「……はいっ!」
通信機越しに頷き合い、そしてまっすぐに宇宙を見上げる。
エリサのシュライクは
エイトとナノカは特に合図もなく自然に
「援護するよ、エイト君。いつものように――戦場を、翔け抜けよう!」
「はいっ! ナノさんっ!」
二人のガンプラはバーニアを全開、一直線に上昇した。
『いちゃいちゃとぉ! 回りくどいんや、思春期ど真ん中あっ!』
『おじさんには眩しすぎるぜ! その青春ってやつはよぉっ!』
セカンドプラスはラピッドガンとビームキャノンを連射。シュライクはその弾道の間を縫うように跳ね回りエイトに迫る。すれ違いざまにビームブレードとシュリケン・ダガーが交錯し、火花を散らす。二つ三つと打ち合って、お互いに相手を弾き飛ばして距離を取る。
『んっふっふー♪ アニメやったら、突撃と同時に主題歌BGMがかかってるところやなぁ!』
「だったら! 主人公は、僕とっ!」
「私だな!」
ビームピストルのフルオート射撃がエリサに下から襲い掛かり、ビームの銃弾を追いかけるようにR7が飛び込んできた。エリサは姿勢制御用スラスターを巧みに使い、回避しながらダガーを振るうが、
「お土産だよ!」
『おりょ??』
振るったダガーの切っ先に、グレネードが突き刺さっている――R7が翔け抜けるのと同時、爆発。ピンク色の爆炎の花が、大きく咲いた。
『姐御っ!?』
「店長おぉぉぉぉっ!」
爆発を目くらましにして、F108はセカンドプラスに肉薄していた。迎え撃つラピッドガンをビームシールドでしのぎ、突撃の勢いを乗せたドロップキックをセカンドプラスの顔面に叩き込んだ。
『俺を足蹴にするかあっ!』
店長は心底楽しそうに、そして野性的に牙を剥いて笑い、F108の蹴り足を掴んで力任せに放り投げた。背中からデブリに突っ込んだF108に、店長はビームセイバーの長大な刃を大上段から叩き付ける。
『姐御以外じゃあお前が初めてだ、ボウズっ!』
ギャリギャリと岩石を両断しながら迫るビームセイバーを、エイトは十文字に掲げたビームブレードで受け止めた。
「ナノさん、ここです!」
「ああ!」
『あん? なっ!』
鍔迫り合いになり動きが止まったビームセイバーに、ビームピストルのフルオート射撃が突き刺さった。
「ありがとうナノさんっ!」
エイトはデブリを蹴って飛び出し、店長に向けてビームブレードを突き出すが、
「右だ、エイト君!」
『ほりゃーっ!』
『んっふっふー♪ お姉ちゃんは嬉しいでー、エイトちゃんっ! 世話ぁ焼いた甲斐があるってもんやなあっ!』
R7のグレネードが至近距離で直撃したにも関わらず、シュライクの装甲は多少の焦げ跡が付いたのみ――軽装甲のAGE-1スパロー
さすがに直接グレネードが刺さっていたダガーは失ったようだが、タイニーレイヴンともう一本のダガーとの二刀流、さらにはつま先のクローによる蹴り技も織り込んだ息もつかせぬ連続攻撃が、エイトに襲い掛かる。
「姉さんの親切は! いつもわかりにくいんですよ!」
『そりゃあ、ウチはドSやからなあ!』
「エイト君、距離を取るんだ。グレネードをいく!」
『させねぇよ、ナノカちゃん!』
エイトは大振りの一撃でタイニーレイヴンを弾き、バーニアを逆噴射してシュライクから離れた。同時、F108とシュライクとの間にR7が投げたハンドグレネードが飛び込んでくるが、セカンドプラスのラピッドガンがそれを撃ち抜き、爆発――しない!
「ふふ。読み通りだよ、店長」
グレネードは風船のようにパンと破裂し、薄いモヤのようなものが戦闘宙域に広がった。
『こいつは……ビーム攪乱幕か!』
店長は確かめるようにビームキャノンを一、二発撃つが、ビームの砲弾は数メートルも進まないうちに細かい粒子となって散ってしまう。
ビーム攪乱幕――宇宙世紀のガンダム作品で使用される、対ビーム防御策の一つだ。この領域内でのビームによる射撃は、攪乱粒子のモヤが晴れるまでの一定時間、ほぼ無効化される。
「R7は、これで弾切れだけれど……!」
「ナノさん、これを!」
通信機越しの
それを察知したエリサはR7に向けてシュリケン・ダガーを投擲するが、同じく手裏剣のように投擲されたF108の予備のビームシールドユニットに打ち落とされる。
「させませんよ、姉さん」
『んっふー、やるやんエイトちゃん。カメちゃん、いけるん?』
『がっはっは! こんなことなら、バズーカでも持ってくるんだったぜ!』
店長は満足げに大笑いし、セカンドプラスの膝部装甲からビームサーベルを引き抜いた。
「砲撃は封じたよ!」
『だから何だあっ!』
ナノカの
「エイト君、店長は抑える。キミはお姉さんと……決着を!」
「はいっ!」
エイトは両腕のビームブレードにプラフスキー粒子を注入、ビーム刃の長さと厚みが通常時の二割増しで噴出する。それに合わせてバーニアから噴き出す炎も勢いを増し、F108は弾丸のように飛び出した。
「らあぁぁぁぁっ!」
『結局、突撃なんやなあ!』
飛び込むエイトのビームブレードを、エリサはタイニーレイヴンの一振りでいなす。斬撃を弾かれたエイトはしかし、すぐに姿勢を立て直してもう一度突っ込む。すれ違いざまの一撃を、またしてもかわされる。だが、もう一回、もう一回、もう一回……!
袈裟切りを流され、横薙ぎを弾かれ、刺突を逸らされ、それでもエイトは突撃を続けた。
「ナノさんが作ってくれたチャンスを……っ!」
『……なあエイトちゃん? そんなにバーニア吹きまくって、機体はもつん?』
「未熟でも、不足でもっ! 得意なことで攻め切らないと……姉さんのようなレベルの人にはぁぁっ!」
『んっふー♪ それじゃあ、機体が爆発するまで続けりゃあええわぁっ!』
弾かれても、弾かれても、弾かれても、エイトはがむしゃらに突っ込み続けた。メインバーニアだけではなく、姿勢制御スラスターも、アポジモーターも、F108の全推進力を突撃に集中。限界を超えた加速と方向転換に、機体の各部が悲鳴を上げる。異常に加熱したバーニア・スラスター類が赤熱し、F108の軌道に真っ赤な軌跡を残す。放出しきれなくなった熱量が機体に蓄積し、モニターは
「くっ……まだだ! まだ飛べるだろっ、ガンダム!」
エイトは武装スロットを操作、「SP」を選択。F108のバーニアユニットから放熱フィンが展開し、
『そろそろ限界やろ、エイトちゃん!』
ガキィィンッ! 打ち合った刀とビーム刃が火花を散らし、鍔迫り合いにもつれ込む。エリサはシュライクの背部バーニアを展開し、凄まじい推進力でF108を押し込んでいく。エイトもそれに負けじと、すでに焼け付く寸前の背部バーニアを全開にし、対抗する。
『その機体はベースがF91やと言うても、そのものではない! いくら機体が過熱したって、
「わかってるよエリねぇ! それでも僕は……今ここで、引けないッ!」
『そんなにお嬢ちゃんが大切かあぁぁっ!』
「信じているんだ、ナノさんを! だからッ!」
F108の熱量は、
「燃え上がれぇぇぇぇッ! ガンダァァァァァァァァムッ!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!!
突如、炎が巻き起こった。赤熱化したF108のバーニアから、スラスターから、放熱フィンから、関節部から――紅蓮の炎が噴き出し、逆巻き、燃え盛る!
『プラフスキー粒子が、燃えたっ!?』
「いっ……けぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
猛烈な炎の勢いを乗せて、エイトはエリサを押し返した。バーニアユニットからは数百メートルにも及ぶ巨大な炎が噴き出し、常識外れの推進力がF108を突き動かす。鍔迫り合いをするシュライクごと、F108は一直線に飛び出した!
『よ、予想外やでこりゃあ!』
エイトとエリサのガンプラが、燃える流星となって暗礁宙域を翔け抜ける。エリサは慌ててシュライクの背部バーニアを
それどころか、燃え盛る劫火の塊と化したビームブレードが、タイニーレイヴンの刀身を焼き切り、じわじわと灼熱の刃を食い込ませてくる。
『タイニーレイヴンの刃を!? 金属パーツやでコレ!?』
「知った……ことかああああああああああああああああッ!!」
F108は両腕の
『はは……タイニーレイヴン、折れてもうたわ……化けよったな、エイトちゃん』
エリサが見上げると、そこには――轟々と燃え盛る炎を身に纏う、真紅のガンダムがいた。
白い装甲は赤熱化し、炎のような真紅に燃え。赤い装甲は白熱化して、灼けるような白光を放ち。放熱フィンや関節部は高熱を発し、太陽のような金色に輝いていた。
「エリねぇ……決着だっ!」
エイトは炎を噴き出す左右の拳を、ぎゅっと固く握りしめた。左右の
『ええで、受けたるわ』
瓦礫から這い出たエリサは、資源衛星の地面にしっかりと足をつけ、刀身の折れたタイニーレイヴンを正眼に構え、迎え撃つ。
『こいやぁぁッ! アカツキ・エイトォォッ!』
「うらああああああああああああああああッ!!」
エイトの咆哮に応えるように、F108の
『やああああああああああッ!!』
「らああああああああああッ!!」
熱風、閃光、爆炎、そして衝撃波――宙域全てを覆い尽くすほどの光と衝撃が晴れたとき、そこには――
『……これが、エイトちゃんの成長かあ』
――直径数キロメートルはある資源衛星の、ほぼ半分が円形に蒸発。高熱に焼き尽くされたその断面はガラス状に変質し、高熱を放つ。そのすぐそばに、左半身をごっそり失ったエリサのシュライクが、糸の切れた人形のように漂っていた――
「姉さん……ありがとう」
◆◆◆◇◆◆◆
『BATTLE ENDED!!』
フィールドを構成していたプラフスキー粒子が散り、暗礁宙域が砂のように崩れ去った。
同時、エイトは足腰から一気に力が抜け、壁に背中を預けるようにしてずるずるとへたり込んでしまった。全身汗だくで、気づけば心臓もドクドクと早鐘を打っている。
「勝っ……た……?」
「ああ、その通りだよ」
思わずつぶやいた言葉に、返事と、そして手が差し伸べられる。細くて白い、繊細な指先――
「私たちの勝ちだよ、相棒」
「ナノ、さん……」
その手を掴むと、エイトと同じように汗ばんでいた。ナノカはエイトの手が触れて初めてそれに気づいたのか、少し恥ずかしそうに頬を赤らめたが、そのままぐっと勢いをつけて引き起こされた。
エイトが立ち上がり、バトルシステムの向こうを見ると、店長は腕組みをしてうんうんと頷き、エリサはにやにやと嬉しそうな顔をして、エイトに横ピースとウィンクを投げてきた。
「姉さん、店長……まさか、全部わかってて……」
「いーや、ちゃうよ」
エリサはバトルシステムの縁にちょこんと腰かけ、悪戯っぽい笑みをエイトに返しながら言った。
「あんなアホみたいな機能、予想なんてできひんよ。ウチがエイトちゃんと春休みに作ったときには、間違いなくあんな機能はついてへんかった――ガンプラが、成長したんや。エイトちゃんといっしょにな」
「成長した……ガンプラと、僕が……」
「お嬢ちゃんをイジメたんは、単純にウチが好かんタイプやったからや。あと、エイトちゃんをイジメるのに邪魔になりそうやったからかな。結果、エイトちゃんとお嬢ちゃんがどうなろうと、ウチの知ったこっちゃないわ。な、カメちゃんっ♪」
「がっはっは! 久しぶりに青春ってやつを感じたぜ。血が滾るいい勝負だったぞ、エイトのボウズ――いや、エイト!」
「姉さん……店長……」
エイトはからからと笑う二人の顔を交互に見て、それから隣に立つナノカの顔を見上げた。ナノカもエイトを見返し、そして無言で頷いた。
二人は指先までぴんと伸ばした気を付けの姿勢、そこから腰を九十度に曲げて頭を下げた。
「「ありがとう、ございましたっ」」
声を揃え、深々と礼をしたまま数秒――そして揃って顔を上げたとき、エイトとナノカは共に何かすっきりとした、晴れ晴れしい笑顔を浮かべていた。
「何や何やくすぐったい! やめてやエイトちゃんもお嬢ちゃんも~。背中が痒うなるわ。エイトちゃ~ん、お姉ちゃん脱ぐから背中かいて~♪」
「お姉さん、それは乙女として見過ごせないよ。エイト君の前で、変な色仕掛けはやめてもらおうか」
「ちょ、ちょっと姉さん、ナノさん!」
「がっはっは! ナノカちゃんって意外と熱血だな。ぜひまた勝負してくれよ、今度はタイマンでな! がっはっはっはっは!」
戦いの終わったバトル部屋に、四人の声がこだまする。楽しげな声の響く中、激戦を潜り抜けた四体のガンプラが、バトルシステム上にたたずんでいた。
頭部にビームサーベルの突き刺さった、ガンダム・セカンドプラス。腹部のコクピットをビームサーベルに貫かれた、ジム・イェーガーR7。左腕と左足を失い、折れた日本刀を手に持つ、AGE-1シュライク。
そして――全身の塗装がすべて剥げ落ち、灰色の下地が露出しているF108。背部バーニアや放熱フィンは高熱により変形し、ビームブレード用のクリアパーツも焼け焦げたように朽ち果てている。
エイトは脱ごうとするエリサと脱がせまいとするナノカの仲裁を諦め、一人で静かにF108へと手を伸ばした。
「ありがとう、F108――必ずまた、きれいにするよ」
エイトの言葉に応えるように、F108の両目がきらりと光った――ような、気がした。
第十三話予告
《次回予告》
「よお、オレサマだァ! 〝
「あァん? なんかミッションやってるシーンが出た……?」
「馬鹿野郎、んなモン登場したうちにはいるかよォッ! このオレサマの大活躍と大暴れがあってこそのGBFドライヴレッドだろォ?」
「そ、それか、よォ……ま、エイトの野郎との日常的な、なんつーか、その……なんやかんやでも、オレサマはまあ、かまわねェんだけどさ……」
ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第十三話『サマー・キャンプⅠ』
「ななななんだァ、その目はァッ! あ、赤くなってなんかねェよ!」
「あーっ、畜生ッ。調子がでねェ……こうなりゃァ、エイトの野郎をブチ撒けてやるしかねェな!」
「おいエイトォ! 模擬戦の相手してくれ! おーい、エイトォ!」
◆◆◆◇◆◆◆
さて今回は、主人公パワーアップの回でした。
実はギリギリまでパワーアップの内容は悩んでいまして……結局、このような形に落ち着きました。あの燃え盛るプラフスキー粒子の理屈はまた近いうちに本編中で説明ということで。
正直言って、GBFトライのビルドバーニングとビジュアル的には被る部分が多いのですが、あちらは徒手空拳、こちらはブレードやランスなど大型武器使用、ということで戦い方も差別化できたらなあと思っております。
エイトの覚醒シーンは自分的には納得できる描き方ができたかと思っております。エリサに「アニメやったら、突撃と同時に主題歌BGMがかかってるところやなぁ!」と言わせていますが、まさにそのイメージで書きました。
その直前の突撃のシーンあたりで、GBFトライ第1クールOPを「♪限界なーんてなーい♪」てな感じでイメージしていただけると嬉しいです。この歌詞、微妙にエイトとナノカの関係に当てはまる気がするんです。
主題歌と言えば、ドライヴレッドもついに12話まで来ました。アニメだったら1クール終わって、主題歌が変わるころですね。
UAが増えたり、お気に入りに入れてくださっているかたが増えたり、感想書いてくださる方がいたり、すっごく嬉しいし、そのおかげで頑張れます。
感想・批評など、これからもじゃんじゃんいただきたいです。よろしくお願いします!