ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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バトルフラッグスは次で終わりだと言ったな。あれは嘘だ。(ででーん!)

……すみません、まとめきれなかったので予定変更です。
バトルフラッグスはもうちょっとだけ続きますが、ちゃんと決着させますので、お付き合いいただければ幸いです。


Episode.17 『バトルフラッグスⅢ』

『あっひゃっひゃ♪ ごーっど、ふぃんがぁー♪』

 

 幼い声色であくどい哄笑、そして轟音と爆熱。防風林を地面ごと吹っ飛ばし、半径百メートルはあるクレーターが穿たれる。高熱に揺らぐ大気の中心にいるのは、金色に燃える髪を振り乱す、細身の女性型モビルファイター。ノーベルガンダム・ドゥルガー、バーサーカーモードだ。

 〝不死の悪戯(ノスフェラトゥ・ゲーム)〟カンザキ・サチは、最初から全力全開だった。

 

「カメラ越しにはよく見てたけどよ……直面してみると、えげつねぇ破壊力だよなコレ……」

「助かるよタカヤ。このV8じゃあ、かすっただけでもアウトだろうから」

 

 そのクレーターの外縁部に、不自然に被害を免れている一角があった。

 GNフルシールドとGNフィールドを重ねて展開した、デュナメス・ブルー。フルシールドの影には、避難したV8の姿もある。

 

『おいおーい、一年どもー。逃げるものいいけどさー……おもしろくねーじゃんっ!』

 

 ヒュオォォンッ! 

 風切り音――エイトの脳裏に、以前の戦いが蘇る。

 

「タカヤっ!」

 

 反射的にデュナメス・ブルーを蹴り飛ばして距離を取る。直後、さっきまで二人がいた位置に、無色透明の斬撃が嵐のように吹き荒れた。

 

「げっ、俺のライフル!」

 

 デュナメス・ブルー本体は攻撃範囲から逃れたが、細長い銃身があだとなり、GNスナイパーライフルがクリアビームリボンに絡めとられていた。ドゥルガーがぎゅっと掌を握りしめると、GNスナイパーライフルの銃身がすっぱりと輪切りにされる。

 

「副部長ヒドいッス! ガンビット、遠慮なく行くッスよ!」

 

 ヒュンヒュンヒュン――ビィィッ、ビィィッ!

 

 タカヤはGNスマートガンビットを四基全て射出、縦横無尽に飛び回る自律機動砲台(ガンビット)が四方八方からノーベル・ドゥルガーに襲い掛かる。しかし、ドゥルガーの全身の排気口や関節部から噴き出すプラフスキー粒子が盾代わりとなり、ビームは弾かれるばかりだ。

 

『ヒドい……ヒドい、ねー。そりゃーこっちのセリフだぜー、サナカ一年生』

 

 ドゥルガーは次々とビームを受け、弾きながら、悠々と歩いてデュナメス・ブルーに迫る。放熱フィン(かみのけ)マニピュレータ(ゴッドフィンガー)を金色に燃やし、体中から凄まじい熱量を吐き出しながら、焼けたクレーターに深々と足跡を刻みつける……その姿は、まさに悪鬼羅刹。

 通信ウィンドウに現れたサチの幼い丸顔も、笑顔ながらも、鬼のように怒っていた。

 

『写真、さー。あれがよくなかったねー。あの写真が、あたしたちの……チーム・水平戦線(ホリゾンタル・オブ・ザ・ボディ)の……〝持たざる者たち〟の怒りを、呼び覚ましちゃったのさー……っ!』

「らああああっ!」

 

 ガキィィィィンッ!

 頭上から突撃してきたV8のビームザンバーを、サチはゴッドフィンガーで受け止めた。

 

「くっ、反応が早い……いや、読んでいた……!?」

『あめーんだよ、アカツキ一年生。一基だけ、一斉射撃に参加しないガンビットがあったからねー。影になんか隠してるぐらいの予想は立つだろーよー。あっひゃっひゃ♪』

 

 バリィンッ! まるでガラス細工のように、ビームザンバーの分厚いビーム刃が握り潰される。続く蹴り上げをなんとか回避し、エイトは頭部バルカンをばら撒きながら後退する。

 

「タカヤ、手を変えてもう一回! 副部長と取っ組み合いなんてゾッとしないよ!」

「おう、下がれ! ガンビット、エイトを援護だ!」

 

 エイトを守るように展開したガンビットが、一斉射撃を撃ち込む。ドゥルガー相手にビームは目くらまし程度にしかならないため、タカヤはフロントアーマーの隠しGNミサイルも一斉発射。爆発の壁を作ると同時に、クレーターの土砂を巻き上げる。

 

「上手いよタカヤ、五秒は稼げる! 次は浜辺へ!」

「OK、エイト。よし、アレを呼んどくか……」

 

 ミノフスキードライブで上空を翔け抜けるエイトに続いて、タカヤもデュナメス・ブルーを飛び立たせた。飛びながら武器スロットを操作、ある特殊武装をスタンバイする。

 その直後、背後で噴火の様な大爆発が起こり、噴煙の中から凄まじいスピードでノーベル・ドゥルガーが飛び出してきた。GNミサイルで巻き上げた大量の土砂も、副部長相手には大した足止めにならなかったらしい。

 

「副部長が、部長のこと以外であんなに怒るなんて……タカヤ、どんな失礼な写真撮ったんだよ。ナルカミ先輩やアマタ先輩も、タカヤに不満があるんじゃないの?」

 

 エイトは通信機越しに、タカヤに冷ややかなジト目を送る。

 

「いや、そんな……俺は副部長の写真なんて一枚も撮ってないし……アマタ先輩も、ナルカミ先輩も、副部長と同じで俺の被写体にはならねぇ人だしなあ……」

「え、一枚も……? 被写体に、ならない……って?」

「ああ、そうだろ。だってさ、その先輩たち三人とも――」

 

 続くタカヤの言葉に、エイトは「そりゃ怒るよ……」と、軽い頭痛と共に諦めのため息をつくのだった。

 

「――おっぱい、全然ないじゃん」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

『だから、許せないのです!』

 

 グワッシャアアアンッ!

 横薙ぎに振り抜かれた巨大なクローアームが、防風林の大木を数本まとめて吹き飛ばした。

 

『アカサカ先輩も、旅館のお姉さんも……巨乳、滅ぶべし! なのですっ!』

 

 ドッ――ヴアアアアアアアアアアアッ!!

 クロー基部に埋め込まれたメガ粒子砲が火を噴き、辺り一面を薙ぎ払う。狙いも何もない破壊力の大盤振る舞いだが、それゆえに防ぎ難い。ナノカもナツキもバーニアを吹かして回避するので精一杯だった。

 

「ケッ、しょーもねェ! オレだって好きでデカくなったんじゃあねェよ。肩ァ凝るし、運動の邪魔ンなるし、男どもの視線はウゼェし、そんなにいいモンでもねェぞ!」

『そ、そんなこと、そんな悩みっ! ナルミたちには、自慢にしか聞こえないのですーーっ!』

 

 ドヴアアアッ! ドヴアアアアアアアアアアッ!

 百里雷電は地団太を踏むように暴れ、クロー・メガ粒子砲を無茶苦茶に撃ちまくった。怒りに任せて暴れまわる砲撃は、ある意味では狙撃よりも回避しづらい。ナツキは避けきれず、左腕のザクマシンガン・シールドを吹き飛ばされてしまった。

 

「ちぃッ、迂闊だったかァ!?」

 

 ナツキは舌打ちを一つ、スモークグレネードを投げて煙幕に身を隠しながら、ステップを踏んで後退する。

 大木の陰に身を寄せると、そこにはナノカのジャックラビットがしゃがみこんでいた。接触回線で通信がつながり、ウィンドウに、呆れたような、困ったような、そんなナノカの顔が映る。

 

「今のはキミが悪いよ、ビス子」

「ぐぬぬ……と、ともかく、だァ! あのゴリマッチョ、早いとこブチ撒けてやろうぜ!」

「と、言っても。あの重装甲に有効打を、となると……ね」

 

 ナノカは、自分とナツキの武装を目でなぞりながら、思案する。ザクドラッツェの最大火力である対艦用のシュツルムファウスト改ですら、百里雷電の正面装甲は突破できなかった。となると、狙うべきは関節部やセンサー部、バーニア・スラスター類。しかし、比較的脆弱なはずのそれらの部分ですら、おそらくかなりの頑丈さだろうことは想像できる。ビームマシンガンではまだ足りないだろう――普通の、やり方では。

 

「ビス子、キミはもうほとんど弾切れだろうけど――やつの動きを止められるかい? 三秒でいい」

「はんッ、舐めンなよ赤姫。たしかに弾はほとんどねェけどよ……あんなデカブツはァ、足から潰すって相場が決まってンのさァ!」

 

 メガ粒子砲が途切れた一瞬に、ナツキは木の陰から飛び出した。その両手には、180㎜キャノンから取り外した大型銃剣――ヒート・ジャックナイフを二刀流に構えている。

 

「おらおらァ、ロリガキィ! オトナのおねーさんが教育してやるぜェッ!」

『むぅーっ、いちいち腹立たしいのです!』

『ナルミ……ここは、私が……!』

 

 ガシャコン、シュババババババババババババ!

 百里雷電背部の大型コンテナがハッチを開き、数十発のミサイルが雨あられと降り注いだ。まるでナツキのお株を奪うような爆撃の壁が、ザクドラッツェの行く手を阻む。

 しかし、

 

「ほらよォッ!」

 

 ナツキはハンドグレネードの最後の一発を、着弾直前のミサイル群の中へと投げ込んだ。

 爆発、衝撃、飛び散る子弾、金属片。ミサイル群は本来の目標よりも数秒分上空で誘爆させられる。そして隙だらけになった爆発の壁のど真ん中を、ザクドラッツェはほぼ無傷で突き抜けた。

 

『たった一発で……全弾迎撃……っ!?』

『な、なのですっ!?』

「爆撃でオレサマと張り合おうなんざァ……!」

 

 ナツキはヒート・ジャックナイフのスイッチを入れ、刀身を赤熱化。慌てて振り下ろされたクローアームも難なくかわし、百里雷電の懐に潜り込んだ。

 

「片腹痛いってヤツだなァッ!」

 

 二本のヒート・ジャックナイフを、百里雷電の右膝に突き立てる。ナノカの予想した通り頑丈だったが、関節パーツに裂傷が走り内部のポリキャップが僅かに露出した。大柄なボディと満載した武装の重みに耐えきれず、百里雷電はがっくりと地に膝をつく。

 

『はわっ、はわわっ!?』

 

 まさか自分のガンプラが膝をつくなど思ってもみなかったのか、ナルミは面白い程あたふたと慌てふためいていた。

 その隙を逃さず、ナツキは再度、ヒート・ジャックナイフを振りかざした。

 

「はっはァ! このままァーーッ!」

「……ッ!? ビス子、はなれてっ!」

『――遅いのです♪』

 

 ザシュゥンッ!

 

「なっ……にィ……ッ!?」

 

 ザクドラッツェの脇腹を、細身のビームサーベルが貫いていた。そのサーベルを握るのは、細く筋張ったミイラの様な腕――百里雷電の脇の下に出現した、もう一対のマニピュレータ。

 

「か、隠し腕かよッ……!」

『今更気づいても遅いのですよ、おねーさん?』

 

 皮肉をたっぷり込めて言い放ち、ナルミはビームサーベルをグリっとひねって引き抜いた。ザクドラッツェ腹部の動力パイプが引き千切られ、プラフスキー粒子がまるで血のように噴き出した。今度はナツキが膝をつく番だった。

 

「ちぃッ……元々の百里の腕を残してたかよォッ!」

『うふふー、後悔しても遅いのです!』

 

 力任せに振り回されたクローを何とか避けるが、大振りのクローの間を縫うように、隠し腕がビームサーベルを繰り出してくる。ナツキはザクドラッツェに小刻みなステップを踏ませるが、全ては避けきれず、装甲表面に細かい傷が蓄積していく。

 

「ビス子っ!」

『合流は……させないわ……!』

 

 援護しようとしたナノカに向けて、大型コンテナから次々とミサイルが放たれた。コンテナ側面の連装ビームカノンもナノカにぴったりと狙いを定め、次々とパルス状のビーム弾を撃ち込んでくる。

 

「正面では格闘戦をしながら、背後にこんなに正確に……!」

『この、百里雷電は……本体と、バックパックとで……操作系統が、独立しているの……』

 

 ナルミは好き勝手にクローを振り回しナツキを追い回しているが、背部コンテナのモノアイ・センサーユニットはナノカから一瞬も目を離さない。単独で二正面戦闘を可能とする、ナルカミ・ナルミとアマタ・クロのコンビネーションを前提とした二人乗りガンプラ。それこそが、百里雷電の最大の特長なのである。

 

(かと言って距離をとれば、あの超大型砲で一撃、か。中々に厄介な相手だね)

 

 ナノカは大木を盾にして、その間を跳ね回りながら牽制射撃を繰り返す。腰の左右に装備したホッピングブースターユニットの推進力が、ほとんど予備動作なしでの連続跳躍を可能にする――このジムの、野兎(ジャックラビット)の名は伊達ではない。

 

「攻める隙が……なかなか、ないね」

『……どうしたの……かしら。アカサカさん……ぴょんぴょん跳ねて……逃げる、ばかりね……ご自慢のおっぱいが……はしたなく、揺れているのかしら……?』

「ふふっ、下品な物言いだね。だが、私たちを……GBOハイランカーを、舐めないでもらおうか! ビス子、頼むよ!」

「ったく、しゃあねェなァッ!」

 

 掛け声に合わせ、ザクドラッツェはヒート・ジャックナイフを捨て、素手で百里雷電に掴みかかった。ナルミは隠し腕を突き出して迎え撃つが、ナツキはそれに構わず、むしろ掌にビーム刃を突き刺して受け止めた。そのまま力任せに腕を押し込み、ビームサーベルごと隠し腕を抑え込む。

 

『す、捨て身なのです!?』

 

 ナルミはクローアームでザクドラッツェを押し潰そうとするが、クロー・メガ粒子砲の砲口に、サブアームで展開した180㎜キャノンの砲身が乱暴に突っ込まれた。太いクローアームとの力比べに、ザクドラッツェのサブアームはぎりぎりと悲鳴を上げる。

 ――だが、足は止まった。

 

「赤姫ェ! 足ィ、止めたぜェッ!」

「感謝するよ、ビス子!」

 

 集中力を極限まで高めたナノカの額に、ニュータイプのような稲妻が奔る――まるで時がゆっくりと流れているかのような錯覚の中、盾代わりの大木から躍り出たジャックラビットは、両手とサブアーム計四丁のビームマシンガンを一斉に構える。狙うのは、百里雷電の右膝。ナツキの一撃でポリキャップが露出している、現実のサイズにして2ミリほどの傷。

 

狙撃銃(Gアンバー)でなら容易いけれど――マシンガンでやるのは、久しぶりだね――)

 

 加速され引き延ばされた時間感覚の中で、まずは右手の照準が合う。続いて左手の照準がそれに重なり、二重の照準円(レティクル)がロック・オン完了を告げる。

 

『させ――ない――わ――』

 

 サブアームの照準が細かくブレながら次第に定まっていく中、アマタ・クロの妙に間延びした声が響く。百里雷電は、前面のクローアームと隠し腕を抑えても、背面の武装コンテナが生きている。コンテナハッチが開き、ミサイルが射出される。尾部から噴炎を吐きながら、対MS用の中型弾頭が、一、二……五発。ゆるい弧を描きながら先端をナノカに向け、ゆっくりと迫り来る。

 同時、右サブアームの照準が合った。ロック・オンが三重になる。ミサイルが迫る。ナノカは左サブアームを手動操作(マニュアル)に切り替え、システムよりも早く、直感的に照準を合わせた――ビンゴ、ロック・オン。四重の照準円(レティクル)が、わずか2ミリの傷を捉える!

 

「――獲ったよ!」

 

 ヂヂヂヂュンッ!

 瞬間、時の流れが戻った。完全に同時に発射された四発のビーム弾は、寸分の狂いもなく百里雷電の右膝を射抜いた。わずか2ミリの隙間を縫ってポリキャップを直撃し、膝関節を破壊する。同時、高速で飛来するミサイルを、ナノカは瞬時にマルチロックオン。ビームマシンガンを速射、四発を即時迎撃。最後の一発は、被弾直前にホッピングブースターで無理やり体をひねり、蹴り飛ばして爆破させた。

 

「ビス子おっ!」

「うおおォォらああァァァァッ!」

『ふにゃあ~っ!?』

 

 膝から崩れ落ちる百里雷電に、勢いに乗ったザクドラッツェが好機とばかりに襲い掛かる。クロー・メガ粒子砲に突っ込んだ180㎜キャノンをさらに力づくで奥まで押し込み、メガ粒子砲を破壊。細い隠し腕を、これも力づくで捩じ切ってビームサーベルを奪い、あとはもうやりたい放題だった。

 

「おらァッ! おらおらおらおらおらおらおらおらァァーーッ!」

 

 ガンガンガツンゴンバギンゴンゴンドガンバギャンゴシャアンゴンガンバギンッ!

 奪ったビームサーベルで、壊れかけの拳で、分厚い装甲を叩いて叩いて叩いて叩く! 生半可な攻撃では壊れない頑丈さがあだとなり、ガツガツと続く攻撃に、ナルミとクロはコクピットの隅でガタガタと震えることとなってしまった。

 

『ひ、ひにゃあっ! ご、ごめんなさいっ。ごめんなさいなのですぅぅ!』

『ひぃぃ……お、鬼ぃ……悪魔ぁ……!』

「はっはァ、鬼で結構、悪魔で結構! ブチ撒けてやるぜェッ、おらおらおらアアァァッ!」

 

 ゴンガンドシャグシャバンバンガンゴンバキャンゴシャンドゴンガンガンゴンッ!

 

『ひ、ひぅ……うぅ……ううぇ~~ん! こ、怖いのですぅ~! ごめんなさい、もうやめてくださいぃ~~! ううぇ~~ん!』

「……ビス子、もうそのぐらいにしないかい。泣いてしまったじゃないか」

「ン……ま、まあ……そうだな」

 

 ジャックラビットがザクドラッツェの肩に軽く手を置き、制止する。通信機から聞こえてきたナルミの泣きじゃくる声に、さすがにナツキも気が咎め、百里雷電を殴りつける手を止めた――といっても、この時点ですでに百里雷電はボッコボコのベッキベキだったが。

 

「よし、てめェら。おとなしく降参して、バトルシステムから出な。あの変態カメラ野郎は、オレたちがきっちりシメとくからよォ」

『ぐすん……も、もう、殴らないです?』

 

 通信ウィンドウに出てきたナルミのうるんだ瞳に、ナツキは少々罪悪感に襲われる。泣き声だけでなく、本当に涙を流していたようだ。

 

「ああ、ちょっとやり過ぎたな。悪ィな、ロリガキ」

『悪いと、思うのなら……』

 

 にやぁり――さっきまでの泣き顔が嘘のように、ナルミの顔がぐにゃりと歪んだ。

 

『ナルミといっしょに散るのです♪』

『任務失敗……自爆するわ……』

 

 カァァ――ッ! 百里雷電のボディが真っ赤に輝き、関節部やパネルラインから、凶暴な光があふれだした。大破したはずのクローアームが、最後の力でナノカとナツキをがっしり掴む。

 

「なっ、てめェ! さっきの泣き顔は!」

『ウソ泣きなのです♪』

「ビス子、離れ――」

『……巨乳、滅ぶべし……ぽちっとな』

 

 ドッ――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「――ナノさんたちがやられた!?」

 

 ステータス画面上、ジャックラビットとザクドラッツェの表示が暗くなる。動揺したエイトは回避機動が甘くなり、クリアビームリボンに足を絡め捕られてしまった。

 

『あっひゃっひゃ♪ ごーっど、ふぃんがぁーっ♪』

「エイトぉっ!」

 

 襲い来るノーベル・ドゥルガーとの間にデュナメス・ブルーが割り込み、GNフィールドとGNフルシールドを二重に展開。ゴッドフィンガーとGN粒子が、バチバチと激しく火花を散らしてせめぎ合う。

 エイトはその隙に、クロスボーンガンダムから移植した足裏の隠しヒートダガーを起動。クリアビームリボンを焼き切りながら立ち上がった。

 

「あ、ありがとうタカヤ」

「百里雷電の反応も消えた! それにこの振動と粒子反応は、たぶん自爆だ。最低でも相打ちだろ、安心しろよ!」

『安心ねー。よく言うぜー、こんの変態カメラやろぉーっ!』

 

 ぐぐぐっ……押し込まれたゴッドフィンガーがGNフィールドをついに打ち破り、GNフルシールドの表面に掌型の焦げ跡をつける。フルシールドは高熱に歪み、見る間に塗装が剥げていく。

 

「おいおいマジかよ、GNコンデンサー六つ分のGNフィールドだぜ!?」

「ビーム・エストックなら……っ!」

 

 エイトは押し合うサチとタカヤの側面に回り込むように跳び、ザンバスターを突き出した。その銃口から、本来なら幅広く長大な大剣型の刃を構築するはずだったビームが、細長い刺突用長剣の形に威力を収束され、噴出する。

 

「貫けぇーっ!」

 

 しかし、

 

『ほいさーっ♪』

 

 突如、爆熱状態(ゴッドフィンガー)を解除したノーベル・ドゥルガーの両手が、GNフルシールドを掴み、ひねり、そして、

 

「うわっ!」

「たっ、タカヤっ!?」

 

 くるりと、ノーベル・ドゥルガーは曲芸師のように身を翻し、ビーム・エストックの切っ先はGNフルシールドを貫通していた。

 

『おーおー、すごい貫通力じゃーん、アカツキ一年生。一点突破って意味じゃあ、ノーベルのゴッドフィンガー以上かもだぜー。まー、当たりゃあねー? あっひゃっひゃ♪』

 

 転倒しもつれあうV8とデュナメス・ブルーを嘲笑うように、ノーベル・ドゥルガーは砂浜の上で華麗にバック転を繰り返し、距離を取った。そして再び両手にゴッドフィンガーを発動、いつでも飛び掛かれる姿勢で構えをとる。

 

「うぅ……タカヤ、ごめん……」

 

 絡まり合った手足をほどいて立ち上がり、V8は二丁のザンバスターを構え、デュナメス・ブルーはGNスマートガンビットを滞空させた。

 

「ダイジョブ、ダイジョブ。気にすんなよ。それより――」

 

 ちょうどその時、V8のセンサーが接近してくる機影を捉えた。識別は、味方(フレンド)。しかしもう味方で残っているのは、すぐ隣にいるタカヤと、遠くでアンジェリカと激戦中のダイだけのはず。それにこの反応は、MSではない……大きめの、航空機サイズ……か?

 戸惑うエイトに向けて、タカヤは通信ウィンドウ越しに気障なウィンクをして、器用にもデュナメス・ブルーに親指を立てさせた。

 

「――来たぜ、俺の切り札がさ」

 

 大気を切り裂く鋭い轟音と共に、それは砂浜に滑り込むように着地した。

 昆虫じみた四本脚と、GNソードを鎌のように構える二本のアーム。背部には青い巨大なバーニアスラスターポッドと二門の折畳式電磁投射砲(フォールディング・レールガン)を備える、十二メートル級のモビルアーマー……いや、これはサポートメカか。

 全体的にカマキリを思わせるシルエットをしたそのメカは、主の命を待つかのように、波打ち際に控えていた。

 

「さあエイト、こっから逆転と行こうぜ! 俺と、おまえと、全男子のお宝写真のためによ!」

「い、いや、僕は別に写真とかは……」

 

 頬を赤くしてぶんぶんと首を横に振るエイトにはお構いなしに、タカヤはテンション上がり気味に叫んだ。

 

「来いっ、マンティスホッパー! ……合体だっ!」

 




第十八話予告

《次回予告》

「カッカッカ。まーた話が延びよったかァ。ままならぬものよのゥ、創作というのは。
「まァ、よい。ワシももっと遊びたいしの。せいぜい、次回に期待するとしようかのォ。
「若いモンが楽しんどるところに無粋かも知れんが……ワシも、ビルダーであり、ファイターじゃからなァ。
「どうせやるなら、最強の若者とやりあってみるかのォ……カーッカッカッカ!」

ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第十八話『バトルフラッグスⅣ』

「〝旧人類最強(グレート・オールド・ワン)〟ヒシマル・ゲンイチロウ。GNフラッグ、推して参る。老兵の戦いを見るが好い」



◆◆◆◇◆◆◆



 ひたすらに長くなっていくバトルフラッグスですが、こんどこそ、次回こそ、決着できるかも!できるんですって!できるといいのね!きっとできるでち!

 感想等でいろいろとお褒めの言葉をいただき、頑張ってやってきたかいがあるなあと嬉しく思っています。UAも一万を目前にして、感慨もひとしおといった感じです。
 予告や予定通りにはいかないことばかりの拙作ではありますが、今後もお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いします!

 

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