ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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Episode.02 『ガンプラバトルオンライン』

「――ようこそ、GBO(ガンプラバトルオンライン)へ」

「ガンプラバトル……オンライン?」

 

 言われてよく見てみれば、キーボードの左右に並んだ球形のデバイスは、バトルシステムの仮想コントロールスフィアによく似ている。エイトは、ガンプラファイターの習い性で、何とはなしにコントローラらしいそのデバイスの上に手を置いた。

 

「ボタンの配置が、バトルシステムのと同じだ……」

「そのための専用デバイスさ」

 

 ナノカは言いながら、パソコンデスクの引き出しから、自分のものらしい真紅色のガンプラケースを取り出した。蓋を開ければそこには、目の覚めるようなレッドを基調にカラーリングされた、一体のガンプラが鎮座していた。

 

「ジム・スナイパーⅡ……ジム・ストライカーとのミキシングですね?」

「ふふ、正解だよ。ビルダーの性だね。そしていい目だ、アカツキ君」

『Please set your GUNPLA』

 

 まるでガンプラの存在を感知したかのように、システム音声が促してきた。

 ナノカはエイトの前に身を乗り出すようにして、そのガンプラをGPベースに接続された専用スタンドへとセットする。同時、GPベースとコントロールスフィア、そして画面上のGBOの表示に、プラフスキー粒子の輝きを模したらしいキラキラとした光が駆け巡る――が、エイトの意識はどうしても、ふわりと鼻をくすぐったシャンプーの香りに惹かれてしまった。長い黒髪が、エイトの目の前をするりと流れる――

 

『Beginning Plavsky particle dispersal』

 

 無遠慮に鳴り響いたシステムの声に、エイトの意識は引き戻される。そして、一体何をしているんだという自問自答。

 

「先輩、いったいこれは」

「私の愛機、ジム・イェーガーR7(レッドセヴン)だ」

 

 言いながらナノカは、慣れた手つきでキーボードを操作。システム音声が、何事かが進行していることを次々と知らせてくるが、ナノカの手は止まらない。

 

「使ってくれて構わないよ、アカツキ君。何事も、まずは試してみることだ」

「いや、そうじゃなく」

「キミは今、私のアカウントでログインしている。悪く言えばなりすましというやつにあたるが、良く言えば、ベテランがビギナーを優しく教授しているともいえる」

「えっ? な、なりすましって」

『GANPRA BATTLE.Combat Mode. Damage Level,Set to O.』

「心配ないよ、アカツキ君。わたしが強制的に貸し付けている以上、わたしがキミを糾弾することなんてできやしないさ。はっはっは」

「先輩、はっはっはじゃなくて」

「こちらからのボイスチャットは切っておくよ。わたしは普段から無口なほうだから、相手にとって違和感は少ないだろう。この機体を見れば、私だと気づく者はいるだろうけどね。まあ、それはともかく……」

『Field5,city.』

 

 ディスプレイ上にジム・イェーガーR7の姿が、精緻なコンピュータ・グラフィックとなって描き出された。その直後、まるでカメラがガンプラの中に吸い込まれていくかのように視点が移動し、見慣れたバトルシステムのコクピット画面がディスプレイ上に再現される。

 

「勝つんだぞ、相棒候補」

 

 まるで谷間に咲く、白百合の花のような笑顔――そして、そのイメージとはえらくギャップのある親指を立てる仕草(サムズアップ)

 突然のその表情に、エイトはもう、細かいこと気にするのをやめた。わからないことはたくさんあるが、ガンプラバトルなら大好きなんだ。何をためらうことがある。気になることは、バトルの後で気にすればいい。

 エイトは両手のスフィアをぎゅっと握り、R7の両脚を、カタパルトへとのせた。

 

『BATTLE START』

「アカツキ・エイト! ジム・イェーガーR7、出ます!」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ゴオォォ――ォォンッ!

 カタパルトから弾き出され、降り立ったのは、荒廃した市街地だった。おそらく、一年戦争中の北米大陸の都市の一つ、という設定なのだろう。やや離れた場所に、ファーストガンダム劇中でホワイトベースが身を隠した、雨天野球場のドーム状の屋根が見える。

 エイトは素早くスフィアを操作し、R7を高層ビルの陰に隠れさせた。FCS画面を展開、武装を確認する。

 バックパックに、アームで保持されたABCシールドとビームサーベル。両太ももの位置には専用のホルスターにビームピストルが二丁、収まっている。サイドアーマーには小型のグレネード……これは、シールド裏にも数発仕込まれているようだった。全身の小型武装は、近接時に威力を発揮しそうだが、なにより目を引くのは、

 

「このライフル、大きいですね」

「〝Gアンバー〟と呼んでいる。見ての通りの狙撃銃だよ」

 

 見た目は、現実世界の対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)によく似ている。しかし、弾倉らしきものが特にないところを見ると、実弾火器ではなくビームライフルなのだろう。映像作品中でジム・スナイパーⅡが持っていた狙撃銃よりは二回りは大きいその銃を、R7は抱えていた。

 高火力での、遠距離からの一撃必殺。それがこのガンプラの本来想定された戦闘スタイルなのだろう。エイトは、内心の「苦手だな……」という思いを飲み込んで、何でもない風を装った。

 

「えっと、アカサカ先輩。このバトルは、一対一ですよね」

 

 現在、ガンプラバトルの主流は三対三のチームバトルだ。しかしどうやら、少なくともディスプレイに映る範囲には、ほかのガンプラの姿はない。

 

「オンラインというぐらいだから、フィールドに入ったら先輩のチームメイトが待っているものかと思って」

「わたしのことは、ナノさんと呼んでいい。そして、その予想では落第点だね」

「落第点って……?」

 

 ビィーッ! ビィーッ! アラートに反応し、エイトは即座にレーダー表示を確認する。ミノフスキー粒子が薄い設定なのか、表示はかなりクリアだ。そのレーダーに、敵機を表す赤いマーカーが、一つ、二つ、三つ……

 

「……な、なんだこれ? いったい何機このフィールドに!」

「GBO交戦規定#01〝トゥウェルヴ・ドッグス〟――一対一、かける十二。GBOでは最もポピュラーなバトルスタイルさ」

 

 総数十二のマーカーが、レーダー画面上を暴れまわっている。その識別反応の、全てが敵機(エネミー)

 

「共闘・裏切り・挟撃・不意打ち・決闘・殲滅、全て自由。最後に戦場に立っていたものが、このバトルの勝者となる。さあ始めようかアカツキ君。キミの力を信じているよ」

 

 ナノカのその言葉の最後のほうは、着弾したミサイルの爆音にかき消されていた。素早くジャンプして別のビルの陰に身を隠した直後、さっきのビルは完全に崩落していた。もうもうと舞い上がる土煙の向こう、太い幹線道路の向こう側三〇〇〇メートルほどのところに、ミサイルを撃ったガンプラが立ちはだかっていた。

 

「ヘビーアームズ……カスタムか」

 

 全身に重火器とミサイルを搭載、歩く火薬庫とも揶揄される重武装高火力のガンダムタイプ。赤やオレンジを基調としたテレビ放映時のカラーリングだが、よく見れば機体そのものはEW版のガンダムヘビーアームズ・カスタムのものだ。

 こちらは狙撃主体の機体。位置が割れている時点で、狙撃戦はかなり不利。相手も遠距離攻撃に長けている時点でほぼ不可能、というより無謀。エイトは戦術を思案するが、その間にも、ビームガトリングやマイクロミサイルが、雨あられと降り注いでくる。エイトはブーストとジャンプを繰り返し、隠れては破壊される遮蔽物の間を次々と飛び回った。

 

「……アカサカ先輩」

「やれやれ、ナノさんとは呼んでもらえないみたいだね」

「ダメージレベル〝O〟って、なんです?」

 

 四つ目のビルの陰を飛び出し、横倒しになったビルの陰に滑り込みながら、エイトは尋ねた。先ほどのGBO起動時、システム音声が確かにそういっていたのを聞いたのだ。各種大会の本戦レベル、本当にガンプラがダメージを受けるレベルA。せいぜいが関節が緩んだり外れたりする程度のレベルB。しかし、レベルOなんて聞いたことがない。ミサイルが直撃し吹き飛んだビルの瓦礫にまぎれて、少し前に進む。抜け落ちたアスファルトの下、地下鉄のホームだったらしい穴の中に身を隠す。

 

「オンラインの〝O〟さ。GBO専用の設定だよ。GBOは、直接ガンプラを動かしているわけじゃあないからね。プラフスキー粒子を使ってガンプラをデータ化し、コンピュータ上で再現しているだけ。つまりは、データ上のガンプラが壊れても、本物のガンプラにはかすり傷ひとつつかないというわけさ」

「そう……ですか。だったら!」

 

 聞いたエイトの口元に、普段の様子からは似つかわしくない、不敵な笑みがニヤリと浮かぶ。同時、あれだけ激しかったミサイルとビームガトリングの雨が途絶えた――弾切れか!

 

「今っ!」

 

 エイトはバーニアを全力全開、地を這うような低空で、R7が突撃する。加熱しきったビームガトリングの砲身を交換中だったヘビーアームズは、慌てて胸部のマシンキャノンで迎撃するが、

 

「先輩、すみません!」

「うん?」

 

 謝りながら、エイトはコントロールスフィアを思いっきり振りかぶった。それに合わせて、R7がGアンバーを振り上げる。そして、

 

「らああぁぁぁぁっ!」

 

 投げた! 長大なGアンバーのボディが盾代わりとなってマシンキャノンの直撃を受け、エネルギーパックが誘爆。独特なピンク色の爆発と共に四散した。その爆炎を突き破るようにして、R7はヘビーアームズに肉薄した。

 

「いただくっ!」

 

 その両手には、二丁のビームピストル――突撃の速度は一切緩めず、すれ違いざま、ほぼ密着するような至近距離で、二丁拳銃を乱射しながら駆け抜ける。最初の二、三発には耐えていたヘビーアームズだったが、一息に数十発も打ち込まれたビーム弾の威力には耐えきれず、倒れこむように膝をつき、一瞬の間をおいて爆発。その爆光を背に受けながら、R7は軽く地面をスライディングして停止した。

 

「よし、一機もらった! 先輩、どうです……」

「あわわ……わたし、の……Gアンバー……あわあわわ……ぐすん」

「せ……先輩……?」

「ぐすんぐすん……はっ!?」

 

 しゅばばばっと、残像が見えそうな速さで乱れた髪と表情を整え、どこか見透かしたような余裕のある微笑を取り戻すナノカ。

 

「ふふ……さすがだよ、アカツキ君。わたしには思いつかない戦法だ。しかしキミは、どうにも物を投げるのが好きなようだね。はっはっは」

「せ、先輩……って、意外と……」

「わたしのことは、ナノさんと呼んでいい」

 

 ずいっと真顔を近づけて、エイトの額に人差し指をぐいぐい押し付ける。

 

「それはそうと……敵は一人じゃないぞ、相棒候補」

 

 ビィーッ! ビィーッ! 再びの警報――目の前のビルを突き破るようにして、一機のモビルスーツがエイトの視界に飛び込んできた。

 そのモビルスーツは、一言でいうならザク頭のゼータガンダム……何とも趣味的な、ゼータザクのガンプラだった。しかし、エイトの視線はそのゼータザクの胸を貫いている、長く幅広い実体剣に注がれていた。

 

「GNソード……!」

 

 降り注ぐ瓦礫の中から、さらにもう一本のGNソードが突き出してきて、ゼータザクの胴体を両断した。ゼータザクは爆発四散、慌てて距離をとるエイトのR7を、爆風がなぶる。

 

『その機体、赤姫か……!』

 

 ゼータザクを両断したガンプラが、燃え盛る瓦礫の炎に照らされて、ゆらりと立ち上がる。つや消しのダークグレーとブラックに塗りつぶされた、ガンダムエクシアの改造機。両腕に装備した二振りのGNソードの刃さえ、禍々しい漆黒に塗られている。

 

『やはり運命が、僕ら二人を引き合わせる……約束された邂逅が今日この日だとは、薄々感じていたよ。我が好敵手(ライバル)にして約束の女性(ひと)……』

 

 やたらと良い声で、部長とは別の意味で演技がかった口調で、黒いエクシアのファイターは言った。エイトは複数の意味での戸惑いを感じながらも、一応、ビームピストルを構える。

 

『思えば、君と戦場で出会ったあの時から、不思議な感応があった。僕ら二人、赤と黒のガンプラファイターがまたこうして出会えたのも、この宇宙(そら)の導きと言える。こうして剣を交わすことでしか分かり合えない僕たちだが、その先にこそ、必ず永遠がある……嗚呼、刻が見える……!』

「先輩、この人は」

「ただのアホだ。やってしまいなさい」

『さあ愛し合おう赤姫! この僕の、〝黒光りする凶星〟龍道院煌真の堕天した魂を浄化する戦いを! いくぞ、我が愛機、ガンダムエクシア・ブラッドレイヴン改セカンドリバース~黒金ノ劔(ノワール・エクスカリバー)~の超・必殺技! エターナルブラッド』

「遅いッ!」

 

 ドゥンッ! 脚部バーニアスラスターを併用した、超高速の踏み込み。一瞬でほぼゼロ距離にまで詰め寄り、銃口を密着させビームピストルを撃つ。

 

『おっ、おのーーーーれーーーーッ!』

「くっ、威力が!」

 

 が、火力不足。腹部と胸部を射抜いたはずだが、とどめを刺すには足りなかった。謎の粒子の輝きを宿したGNソードが振り上げられ、無駄に派手なエフェクトと共に振り下ろされるが、

 

『よいっ、しょおおっと!』

 

 ガオォォンッ! 戦車でも突っ込んできたかと見間違うようなぶっとい足が、黒いエクシアをフィールドの端まで吹っ飛ばした。この特徴的な脚部は、ジオン系の重モビルスーツか!

 

『おうおうおう! 久しぶりだなァ、赤姫ェェ!』

 

 着地、振り返って長大なヒート剣を振り下ろす。かわしたエイトを追うように、ジャイアント・バズの高初速榴弾が二発、三発と爆発の花を咲かせる。

 

『こんな最前線でヤれるたァ珍しい! 引き籠ってケツ狙ってばっかだったお嬢サマも、ヤりたくてうずうずしてくるお年ごろってかァ!?』

「ドム……いや、ゲルググ……ミキシングビルドか」

BFN(ビルドファイターネーム)・ビス丸。通称〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟。その乗機、ドムゲルグ・ファットゴート。GBOジャパンランキング、上位ランカーだよ。わたしよりは、少し下だけどね」

 

 ホバー走行で瓦礫だらけの市街地を縦横無尽に駆け巡る、重量級の機体。おおざっぱにいえば、手足はドム、体はゲルググといった風体の重モビルスーツだ。

 

『なんだァ、だんまりかよォ。アゲていこうぜェェ、赤姫ェェ!』

 

 ドムゲルグのスカートに満載されたシュツルム・ファウストが、一斉に発射された。モビルスーツを粉々に吹き飛ばす威力を持った弾頭が、次々と爆発する。

 右、左、右……エイトはR7の運動性能を生かし、細かいステップで爆撃の雨をかわしていくが、

 

『パターンなんだよォ、てめェのダンスはァ!』

「なっ……!?」

 

 何発目かのバズーカをかわしたと思った瞬間、目の前にヒート剣の赤熱化した刃が待ち構えていた。とっさにABCシールドで受けるが、ドムゲルグのヒート剣はシールドを両断してしまった。シールド裏に仕込んであったグレネードが誘爆し、R7とドムゲルグはお互いに距離をとる形となった。

 

『てめェ……赤姫じゃあねェな?』

「……っ!?」

『下手すぎらァ。赤姫は狙撃主体のファイターだがよォ、オレサマは近接戦闘で二度、ヤられてる。赤姫なら、てめェみてェな馬鹿の一つ覚えなダンスなんざァ踊りゃあしねェ』

「ふん。伊達に、ストーカーじみてわたしに勝負を挑んでいたわけじゃあないみたいだね」

『さっきの煌真への突撃。ありゃァよかった……が、それだけだァ。てめェ、なにモンだァ? なぜ、赤姫の機体でヤってやがる? ド下手くそのクセによォォォォッ!』

 

 ドムゲルグはジャイアント・バズを投げ捨て、ヒート剣を両手持ちで脇に構えた。両足の核熱ジェットエンジンが唸りをあげ、いつでも高速ホバー走行状態に入れることを知らせている。

 

「くっ……すみません。先輩の名に、泥を塗って」

「わたしのことはナノさんと……まあ、いい。気にすることはないよ、アカツキ君」

 

 ナノカの手が、エイトの手の上からスフィアを優しく握り、ボタンを操作した。R7がビームサーベルを抜刀し、両手持ちで構える。

 

「キミは、わたしが見込んだファイターだよ。見せてくれ、あの部長にすら突撃していった、キミの速さを。強さを。激しさを」

「……はいッ!」

 

 深呼吸を一つ。エイトはスフィアを握り直し、まっすぐに画面の向こうのドムゲルグを見据えた。低く唸る核熱ホバー、点火の時を待つバーニアスラスター……その、二つの音のみ。廃墟と化した市街地が、さっきまでの爆音が嘘のように静まり返る。

 先ほどのゼータザクのザク頭が、倒れたビルから突き出した鉄骨にぶらぶらと引っかかっていた。ぶらり、ぐらりとゆれるそのザク頭が――ゆれて、ゆれて――ゆれて――落ちた!

 

「らあぁぁぁぁッ!」

『うおォォォォッ!』

 

 フルブースト! 数百メートルはあった両者の距離が一瞬で詰まり、すれ違う瞬間に、赤熱したヒート剣と、灼熱したビームサーベルとが閃いた。

一瞬の閃光、そして駆け抜ける二機――

 

『メインカメラを……ヤられたか』

 

 ガシャン……斬り飛ばされたドムゲルグの頭が、瓦礫の山に落ちた。

 

『……が、それだけだァ』

 

 R7が、崩れ落ちるように膝をついた。その腹部――本物のモビルスーツだったらコクピットがある部分には、ヒート剣が刃の根本あたりまで深々と、突き刺さっていた。

 

『脇に構えたからって横薙ぎがくるたァ……限らないんだぜェ、ニセモノ』

 

 あの、一瞬。ドムゲルグは、自分の頭部が破損することなどは承知で姿勢を低くし、ビームサーベルの下を潜り抜け、それと同時、コクピットへとヒート剣を突き立てたのだ。

 

「ちく……しょう……っ!」

『BATTLE ENDED!!』

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 いつの間にか、フィールド上の十二機すべてのバトルに決着がついていたらしく、R7が撃破されると同時に〝トゥウェルヴ・ドッグス〟は終了となった。ディスプレイ上に表示されるのは、今回の戦果報告画面。赤いドレスを着たアバターががっくりとうなだれたようなジェスチャーをする横で、『YOU LOSE』の文字が力なくくるくると回っている。十二人中の順位では、二位だった。

……なるほど、このキャラクターがアカサカ先輩のGBO上でのアバターなのか。赤姫と呼ばれるのも納得だ……などと、エイトはわざと、関係のないことを考えてみたりもした。

 

「アカツキ君」

「すみません、アカサカ先輩」

 

 ぽんと、肩に手を置いてきたナノカに、エイトは反射的に謝っていた。

 

「事情も理由も目的も、何もわからないですけど、期待してくれていたことは、わかっているつもりです。でも……負けて、しまいました。先輩のガンプラを使っんん!?」

「わたしのことは」

 

 軽く押し当てられた人差し指で口をふさがれ、エイトはどぎまぎしてしまう。ナノカは優しく微笑んで、その指でエイトのおでこをぴんと弾いた。

 

「ナノさんと、呼んでくれないか」

「な、ナノ……ナノカ、先輩」

「ふふん。まあ、今日のところは合格にしておこうか」

 

 ナノカは満足げにくすりと笑って、エイトの隣の席へと腰かけた。どうやらさっきのバトル中、ナノカはずっと自分のすぐそばに立ったままでいてくれたらしいと、エイトはそこではじめて気づいた。

 

「わたしはこの結果に納得はしているんだ、アカツキ君。満足は、していないけどね」

「でも……」

「GBOジャパンランキング、参加者約五〇〇〇名――GBOJランク第一〇三位〝痛覚遮断(ペインキラー)〟龍道院煌真。第九五位〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟ビス丸。キミがさっき戦った相手さ」

「えっ……」

「わたしのアカウントで入ったからね。ほかの参加者も、みんな少なくともランク三〇〇位以内の、高位ランカーたちばかりだったはずさ」

 

 エイトは絶句し、GPベースに置かれたジム・イェーガーR7を見た。あのヘビーアームズも、ゼータザクも、みんな高位ランカー……? そんな戦場で、自分をある程度戦わせてくれたこのジムの、先輩のガンプラの完成度は、一体どれほど凄まじいんだ……!?

 

「キミ。今、ガンプラの性能のおかげだと思っただろう?」

「えっ、は、はい」

「そこなんだよなあ、わたしが満足していないのは。だから、キミは――」

 

 言いながら、ナノカはパソコンデスクの下から、さっきとは色違いのガンプラケースを取り出した。蓋を開けるとそこには、球形のコントローラとGPベースのPC接続用デバイス――つまりは、GBOをプレイするためのデバイスのセットがあった。

 

「これで、強くなりなさい」

「これは……」

「プレゼントさ。わたしから、相棒候補への、ね」

 

 半ば押し付けるようにして、ナノカはエイトにそれを持たせた。「そんな、悪いです」と返そうとするエイトの手を、ナノカはゆっくりと押し返す。

 

「わたしは今日の結果に納得はしているけれど、満足はしていない。キミも、わからないことだらけで満足していないだろう。今はまだ、事情も理由も目的も、何も話すことはできないけれど――」

 

 そしてその手を、やんわりと包み込むように握った。

 

「――キミが強くなったその時には、必ず話すと約束しよう」

 

 顔が、近い。吐息が、かかる。先輩の、笑顔が、すぐ、近くに――

 

「だから今は、ここまでしか話せないんだ」

 

 ぱっと、ナノカは立ち上がり、パソコン室の扉へと歩いて行った。エイトに背を向けたまま、明るい声でエイトに語る。

 

「わたしは、アカサカ・ナノカ。BFN・ナノ。通称〝赤姫(レッド・オブ・ザ・レッド)〟。GBOJランク、七七位――GBOで、また会おう」

 

 




第三話予告

《次回予告》
「うおォォォォ! 赤姫ェェ! 機体を貸すなんてなめたマネしやがってェェ!」
「荒ぶる地獄のケルベロスでさえ、君の雄叫びの前では縮み上がりそうだな。ビス丸ちゃん」
「あァん!? オレサマにちゃん付けしてんじゃあねェぞ、クソ煌真ァ!」
「乙女を乙女として扱うのが、この罪に塗れた僕にできる最後の贖罪なのさ。ビス丸子ちゃん」
「オレサマを女扱いするなァァッ! っつーか丸子じぇねェェッ! あークソッ、イライラしてきたァ……こいつはもうエイトのクソガキをぶっ潰すしかねェな! おい煌真、あのクソガキひぱってきやがれェッ!」

ガンダムビルドファイターズDR・第三話『レベルアップ・ミッションⅠ』

「あ。予告的なこと何もしてねェ」
「それが、この僕の悲しき運命(さだめ)か……」



◆◆◆◇◆◆◆



エイトとナノカの物語は、ここから動き始めます。
感想等いただければ幸いです。よろしくお願いします。

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