ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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Episode.18 『バトルフラッグスⅣ』

「来いっ、マンティスホッパー!」

 

 タカヤの声に合わせて、カマキリ型のサポートメカ――マンティスホッパーは砂浜を蹴って跳びあがった。同時、フルシールドやガンビットなど、デュナメス・ブルーの全身の装備が分離(パージ)される。

 

「合体だっ!」

 

 GN粒子の輝きが周囲を包み込み、まるでガンダムとは思えない、戦隊モノか勇者ロボのような合体シークエンスが展開された。マンティスホッパーの前脚だったGNソードは、トンファーのようにデュナメス・ブルーの両手に。折畳式電磁投射砲(フォールディング・レールガン)は、腰に。大型バーニアポッドは、背中に合体する。出来上がったのは、いかにも高機動・近接戦闘型といったシルエットのデュナメス・ブルーだ。

 

「完成っ! デュナメス・ブルーが近接強化! リッパーホッパー装備(アームメント)だぜっ!」

 

 しゃっきーーんっ! トンファー型の実体剣・GNリッパーをきらりと輝かせ、デュナメス・ブルーがキメポーズをとる。ノリノリのタカヤの笑顔と共に、タイトルロゴとOP主題歌でも流れそうな勢いだ。

 

「さあ、逆転開始だぜエイト! 行くぞ、ヒルシュパンツァー!」

 

 一方、マンティスホッパーの胴体部分には、パージされたデュナメス・ブルーの装備が次々と装着されていた。GNフルシールドの甲殻を持つ、重装甲のクワガタを思わせる姿。ヒルシュパンツァーと名を変えたサポートメカは、GNブレイドの大顎を誇らしげに掲げ、嘶いた。

 

「……っていうか副部長、合体中は待っててくれるんですね」

『あったりまえじゃーん。変形・合体・変身中、必殺技とモノローグ中はこーげききんしー、だろーがよー? あっひゃっひゃ♪』

 

 律儀に合体完了を待っていた――いや、楽しんでいたサチは、高笑いと共にノーベル・ドゥルガーの髪の毛に両手を突っ込んだ。放熱に揺らぐその手の中に、きらりと透明のモノが光る。

 

『でもさー……待ちくたびれたぜーっ、一年ボーズどもーっ♪』

 

 ヒュオッ、ヒュヒュヒュォォォンッ!

 まとめて放たれた数条のクリアビームリボンが超音速で砂浜を切り刻み、前後左右の全方位から見えない斬撃となって迫り来る。エイトは反射的にビームシールドを展開しようとするが、その瞬間、ヒルシュパンツァーが飛び出していた。

 

「サポートメカが!?」

「ダイジョブだ、エイト! この後、チャンスだぜ!」

 

 バッヂィィィィン!

 GN粒子の壁が輝き、不可視の斬撃が阻まれる。ヒルシュパンツァーが展開したGNフィールドがV8とデュナメス・ブルーをすっぽりとドーム状に覆い、四方八方から迫る何本ものビームリボンをまとめて弾き返していた。

 

『へー、サポートメカ単体でこの出力ねー……!』

「もらうッスよセンパイっ! ホッパーバーニア!」

 

 タカヤは大型バーニアポッド・ホッパーバーニアを全開(フルブースト)、狙撃用装備の時とはまるで違う、戦闘機のような加速力で飛び出した。GNリッパーを交差するように振り下ろし、ノーベル・ドゥルガーの首を狙う。しかしサチも即座に反応、ゴッドフィンガーで受け止める。

 

『あっひゃっひゃ♪ 狙撃屋がさー、あたしに近接を挑むかよー!』

「そう余裕でも、ないんじゃあないッスか? GNリッパーなら刃は折れないみたいッスね、センパイ!」

 

 タカヤはホッパーバーニアの推進力も乗せて、GNリッパーをジリジリと押し込んでいく。ゴッドフィンガーに掴まれたその刃は真っ赤に加熱しているが、確かに壊れる気配はない。

 

『だからってさー……んっ?』

「らあぁぁぁぁっ!」

 

 背後に回り込んだエイトのV8が、ビーム・エストックを突き出した。〝不死の悪戯(ノスフェラトゥ・ゲーム)〟状態になったノーベル・ドゥルガーの装甲部に、ビーム兵器はほぼ無効――狙うのは、ポリキャップが剥き出しの、その細い首!

 

『させねーよー!』

 

 ばさあっ! ノーベル・ドゥルガーは頭をぐるんと回し、放熱フィン(かみのけ)をまるで歌舞伎のように振り乱した。すると放熱フィンの中からなにか黒い球体が飛び出し、ビーム・エストックの切っ先を受け止めてしまった。

 

「が、ガンダムハンマーっ!?」

「その髪の毛、四次元ポケットか何かッスか!?」

『あっひゃっひゃ♪ そりゃー、ほらー、乙女のヒミツ、ってヤツー?』

 

 ばさああっ! もう一回転、二回転、そして大回転で乱回転。サチは放熱フィン(かみのけ)を振り回し、猛烈な熱気と共にガンダムハンマーが振り回された。横殴りの重打撃を回避しきれず、エイトとタカヤは仲良く吹っ飛ばされ、砂浜の上にぐしゃりと折り重なるように落下した。

 

「や、やっぱり強い……タカヤ、代表選考戦では本当に副部長に勝てたの?」

「あんときゃ、ザク対ザクって制限付きだったしなあ……三対一だったし、不意打ちで挟み撃ちだったし……ま、思いつくだけの卑怯な手はつかったからなぁ」

「……なあタカヤ。今回の副部長の乱入、その分の恨みもあるよ、絶対……」

 

 砂浜に半分埋まってしまったデュナメス・ブルーを掘り起こそうと、ヒルシュパンツァーは不器用そうに頑張っていた。どうやら、生真面目な性格のAIでも積んでいるらしい。まるで健気な忠犬だ。

 しかし、そんな忠犬の気持ちなど踏みにじるかのように、高笑いと共にサチが突っ込んできた。

 

『あっひゃっひゃ♪ ごぉーっどっ、ふぃんがぁーっ♪』

 

 即座に展開されたドーム型のGNフィールドが、エイトとタカヤを包み込む。しかし、それも長くは持ちそうにない。サチは右手のゴッドフィンガーをGNフィールドに押し付けたまま、またもや放熱フィン(かみのけ)から取り出したヒートクナイを左手に持ち、ガツンガツンと突き始めた。

 ヒートクナイが突き刺さるたびに、GNフィールドが歪んで乱れる。ヒルシュパンツァーのGNコンデンサーは明らかにオーバーヒートを起こし、火花を散らして白煙を上げていた。

 

『ほらほらー、引き籠ってないでさーっ! 出て来いよ変態カメラやろーっ! あたしたちの撮影会、させてやるぜー! 小学校の時から愛用の、サイズの変わってない、ゼッケンに名前入りのスクール水着でさーっ! 一部マニアには大ウケだぜー? あっひゃっひゃっひゃっひゃ♪』

「お、お断りッスよセンパイ! 俺のフィルムには、巨乳以外写さないと心に決めてるんッス!」

『じゃあ死ねよやあああああああッッ!!』

 

 恨み辛みに嫉妬に怒り、その他もろもろの負の感情を叩き込んだヒートクナイの一撃が、ついにGNフィールドを突き破った。小爆発を起こし倒れるヒルシュパンツァー、ガラスのように砕け散るフィールド。そして、悪鬼羅刹の如き邪悪な笑顔で迫り来るサチ、ノーベル・ドゥルガー。

 

「なんでわざわざ挑発するんだよタカヤああっ!」

「俺の写真は俺の美学! 巨乳こそ至高! おっぱいこそ正義! あ、ロリ巨乳もOKだぜ?」

「あぁもうっ、好きにしろよっ!」

 

 エイトはザンバスターを投げ捨て、ヒートダガーを両手に構えた。先のGNリッパーの例から、実体刃の方がゴッドフィンガーに握り潰されないと読んだのだ。

 

『あっひゃっひゃっひゃっひゃっ♪』

「うおおおおおおおおおおおおっ!」

「らああああああああああああっ!」

 

 ガンガンガキィン、ギィン、ガァン!

 二刀流のヒートダガー、二振りのGNリッパー、そしてヒートクナイとゴッドフィンガー。熱気や粒子をまき散らしながら、刃と拳がぶつかり合い弾き合い、何度も何度も交錯する。手数は四対二なのに、サチは高笑いをしながら受け、弾き、攻め込んでくる。殺陣(チャンバラ)技量(レベル)が違いすぎる。

 ――そして、ついに、

 

『とりゃー♪』

「くッ!?」

「タカヤっ!」

 

 GNリッパーがゴッドフィンガーの手刀に弾かれ、その隙にヒートクナイを捻じ込まれる。グラビカルアンテナが折れ、胸部装甲に灼熱の刃が深く食い込む。デュナメス・ブルーの右腕が根元からだらりと垂れ、まるで使い物にならなくなった。

 

(まずい! 均衡が崩れた(ガードブレイク)!?)

 

 エイトの背筋に冷たいものが走り――そこからは、早かった。

 

『さあ、惨殺だー♪』

 

 まずは頭だった。デュナメス・ブルーの精悍なマスクがゴッドフィンガーに握り潰され、その隙を狙ったつもりのエイトのヒートダガーは、クリアビームリボンに絡め捕られた。エイトが砂浜に叩き付けられている間に、サチはデュナメス・ブルーの両手両足を解体していた。立ち上がろうとするエイトの足元を、またもやクリアビームリボンが掬い上げ、体が一回転するほどの勢いで転ばせる。サチは派手に砂を巻き上げて倒れたV8の上に馬乗りになり、ゴッドフィンガーを貫手の形で突きつける。

 

『貧乳万歳! 貧乳はステータスだ、希少価値だ! ……って言えばー、おまえだけは見逃してやるぜー。アカツキ一年生?』

「い、いや僕は別に……そんな目で女の人を、見たりなんか……」

「言うなエイト! 命惜しさに、誇りを失うな! おまえは巨乳好きのはずだーっ!」

 

 手足を失ったデュナメス・ブルーが、ホッパーバーニアの推進力だけで無理やりに突っ込んできた。バーニアにはヒートクナイが突き立てられており、バチバチと火花を散らして爆発寸前――いや、それを利用した特攻のつもりか。

 タカヤは魂を込めて叫ぶ。

 

「揺れよ巨乳! 弾めよ巨乳! 巨乳美少女に、栄光あれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

『そうかよー……ッ!!』

 

 サチの顔から軽薄な笑みが消え、凄絶な笑みが浮かぶ。ゴッドフィンガーがひときわ激しく燃え盛る。そしてその手のひらに〝王者の紋章(キング・オブ・ハート)〟が輝いた!

 

「せ、石破天驚拳っ!? この距離で!?」

『みんな、みーんなー……巨乳も! 巨乳好きも! みんなまとめて砕け散れぇぇッ!!』

 

 タカヤの特攻を発動直前の石破天驚拳で受け止め、そしてそのまま力任せに、それをエイトに叩き付ける。

 

『ばぁくねぇぇつッ! 石破ぁッ! 天・驚・けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんッッ!!』

 

 ゴッ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 猛烈な熱量と目も眩む閃光、圧倒的な大爆発が、砂浜の砂を全て吹き飛ばすような勢いで膨れ上がった。

 ――そして、数秒。巨大なクレーターと化した砂浜に、ノーベル・ドゥルガーだけが、ゆらりと立ち上がった。

 

『……よーし。これであとはー、ダイちゃんと遊んでやがるあの巨乳委員長をぶっとばしてー、っと……ありゃ?』

 

 ジャンプしようとしたが、ノーベル・ドゥルガーの反応がない。サチは「あれ? ありゃ?」とコントロールスフィアを動かすが、何の反応も返ってこない。それどころか、バトルシステムのコクピット表示自体が、まるで撃墜されたときのように暗く光を失っていく。

 

『ありゃ? ありゃりゃ……あ!』

 

 そして、画面に表示されたメッセージに気づき、サチはがっくりと肩を落とした。

 

『……ガス欠かよー』

 

 プラフスキー粒子、残量ゼロ。

 粒子消費の激しい〝不死(ノスフェラトゥ)〟状態での長時間戦闘、ゴッドフィンガーの連発、とどめに石破天驚拳。いくらクリアパーツ仕込みで粒子貯蔵量を増やしたノーベル・ドゥルガーといえども、粒子を使い切ってしまったというわけだ。

 

『うぅー……ダイちゃん。ダイちゃんは、おっぱいなんかに惑わされないよね……』

 

 システムが戦闘不能を告げ、コクピットの照明が落ちていく――サチはしょんぼりと、自らの平らな胸に手を当てて、呟いたのだった。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 座礁空母の甲板が、ついに真っ二つに切り裂かれてしまった。三段式甲板の最上段が前後に両断されてずれ落ち、凄まじいしぶきを上げて海に落ちる。しぶきに混じって飛び散る紅のGN粒子が、まるで鬼火のようにあたりを照らした。

 

「やるな、ご主人! その剣の冴え、達人とお見受けする!」

「カッカッカ。昔取った杵柄……とでも言っておくかのゥ」

「昔取った? この太刀筋で? 謙遜も過ぎると悪徳ですわよ!」

 

 バトルフラッグスD1エリア、座礁空母近海での戦いは、ダイ・アンジェリカ・ゲンイチロウの、三つ巴の乱戦となっていた。

 ビームレイピアの一突きを、真紅のGNビームサーベルが切り払う。

 GNフラッグの一閃を、ダイガンダムが白刃取りで抑え込み、反撃の直蹴りを叩き込む。

 ゴッドフィンガーが座礁空母の艦橋を吹き飛ばし、アンジェリカは降り注ぐ破片を巧みに回避する。

 すでにかなりの長期戦となっていたが、三人が三人とも、終わりが近いことを感じ取っていた。ダイとアンジェリカの一対一では、実力が逼迫(ひっぱく)し千日手に近い様相を呈していたが――同等の使い手〝旧人類最強(グレート・オールド・ワン)〟ヒシマル・ゲンイチロウの登場により、状況は一変した。

 三者が同等に最強が故に――どこかが一か所でも綻びれば。何か一手でも間違えれば。その隙は致命的なまでに、勝敗の行方を決するだろう。

 

「ホリャ、どうじゃっ!」

「フンッ!」

 

 稲妻のように鋭い逆胴一閃。真紅のGNビームサーベルを、ゴッドフィンガーで受け止める。そのまま膂力で押し返すが、息つく間もなくビームレイピアの五月雨突きが襲い掛かる。しかし、その切っ先が貫いたのは、ダイガンダムの残像(ゴッドシャドー)だった。

 

「また残像……っ!」

「お嬢ちゃん、後ろがガラ空きじゃぞォ!」

「ご冗談、ですわ!」

 

 背後から迫るGNフラッグに、後ろ回し蹴りでショットシェル・ヒールを炸裂。対装甲散弾が爆ぜるが、GNフラッグは脚部のディフェンスロッドを犠牲にしつつなおも突撃、真紅のサーベルを振り下ろした。身を捻るレディ・トールギス、その肩部装甲の表面を、ビーム刃がギャリギャリと削る。

 

「好機ッ!」

 

 その攻防に覆い被さるように、ダイは爆熱させた両手を振り下ろした。左右のゴッドフィンガーがそれぞれ、レディ・トールギスとGNフラッグの頭部を狙う。

 刹那、アンジェリカとゲンイチロウの間に感応波が奔る。お互いの思考を直感し、ほんの一瞬だけの共闘を演じる。真紅のGNビームサーベルがレディ・トールギスの、ビームレイピアがGNフラッグの、それぞれの頭をゴッドフィンガーから守っていた。

 

「……ぬんッ!」

「はあぁぁっ!」

 

 ゴッドフィンガーを切り払い、アンジェリカとゲンイチロウは再び刃をぶつけ合った。二人で組んでダイだけを先に倒そうなどという味も素気もない愚考は、二人には微塵もないのだ。数合打ち合い、勝負がつかずに距離を取る。

 傷だらけになった座礁空母の第二甲板上に、正三角形を描くように、三者が相対する。

 

「フ……実に良い闘いだったが……次で、幕だな」

「あら、よろしいんですの? 私はまだ、遊び足りませんわ」

「無茶言うなよォ、お嬢ちゃん。ワシはそろそろ息が切れそうだわい。カーッカッカッカ!」

「では……参るッ!」

 

 ダイは闘気を轟々と燃やし、腰の刀(ゴッドスラッシュ)を抜刀した。両手(ゴッドフィンガー)の熱量をビーム刃に伝播させ、燃える刀身を正中線に合わせて立てる。正眼の構えだ。

 

「では、私も。参りますわ」

 

 一方のアンジェリカは、ビームレイピアを目の高さに、体を半身にした。フェンシング競技を思わせる、突撃力重視の西洋風の構えを取る。

 

「カッカッカ……これだから、ガンプラバトルはやめられんのゥ」

 

 ゲンイチロウはすぅーっと細く息を吐き、無音でGNビームサーベルを腰に当てた。無駄な力みのない、自然体。鞘こそないが、抜刀術の構えだ。

 三者がそれぞれに構え睨み合う間に、海上に暗雲が立ち込める。風が起こり海が荒れ、雷雲が稲光を呼ぶ。

 そして訪れる、一瞬の空白――閃光、雷鳴、刃が(はし)る!

 

「「「破ァッ!!」」」

 

 気合一声、三重に響く!

 爆熱のゴッドスラッシュが、レディ・トールギスを袈裟斬りに裂いた。

 青白く冴えるビームレイピアが、GNフラッグの太陽炉を刺し貫いた。

 真紅のGNビームサーベルの抜刀一閃が、ダイガンダムの首を刎ねた。

 三者、相打ち。完全に同時――三人の猛者は、同時に膝をつき、その場に倒れた。

 

『BATTLE ENDED!!』

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ――そして翌日、正午。

 青い空、白い雲、輝く太陽は晴天の頂点に。真っ白な砂浜の先には、紺碧の水平線がどこまでも広がっている。青と白との壮大な真夏のコントラストの中に、色とりどりの水着に身を包んだ少女たちが、眩しい笑顔を振りまきながら水と戯れている。

 大鳥居高校ガンプラバトル部の女子部員たちは、ある者は海でシュノーケリングを楽しみ、ある者は浜辺でビーチバレーに興じ、ある者はバーベキューの肉にかぶりつき、それぞれにこの夏と海とを満喫していた。

 

「んーーっ! いい天気、いい海ですわね! さあ、泳ぎますわよ〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟!」

「ガンプラじゃあ直接対決できなかったがなァ……泳ぎは負けねェぜ〝強過ぎた白雪姫(オーバーキルド・プリンセス)〟!」

 

 ナツキとアンジェリカは、ぐいぐいと身体の筋を伸ばし、準備運動をしながら見えない火花を散らす。二人とも、モデル顔負けの抜群のプロポーションを、オリンピックにでも出場できそうな本気(ガチ)の競泳用水着に包み、笑顔で睨み合いながら波打ち際まで歩いていく。

 

「二人とも、ほどほどにね。キミたちが本気で泳ぐと、太平洋を横断しかねないからなあ」

 

 そんな二人の様子を、ナノカはビーチパラソルの下から見送った。その片手にはジュースの缶……〝激濃・乙女のおしるこ缶(あったか~い)〟だ。こんな時でも、ナノカはブレない。

 

「あっひゃっひゃ♪ あたしの水鉄砲からは逃げらんねーぜー♪」

「怯えろ、竦めー! 巨乳の性能を活かせぬまま死んでいけー! なのです!」

「装填完了……仰角誤差修正……単装竹筒式水鉄砲……てーっ……」

 

 バトルでは第三勢力として戦場を引っ掻き回したチーム・水平戦線の三人ですら、女子部員たちに水鉄砲で強襲をかけて遊んでいる。逃げ回る女子部員たちも、きゃーきゃー騒いではいるが楽しそうだ。

 ――その、一方で。

 

「畜生! カメラ全部もデータも全部オシャカにされて! 挙句に肉焼き係かよおおおお!」

「なんで僕まで……ま、バイトの範疇だけどさ……」

 

 ただでさえギラギラと照り付ける太陽の下、猛烈な熱量を発する鉄板と炭火。だらだらと滝のように汗を流しながら、延々と肉を焼き続ける男子たち。

 

「なんでヤマダ先輩は俺のメモリーカードのロックまで外せるんだよ! 美人で巨乳で帰国子女で風紀委員長でガンプラバトル最強でリアル電子戦まで出来るとかどんなチート性能だよ! さすがだよチクショウ! ヤマダ先輩の脱衣シーン! アカサカ先輩の浴衣姿! 旅館のお姉さんのふともも! 一体何百人のモテない男たちの浪漫が失われたことか!」

「タカヤ、右の肉、焦げかけてるよ」

「ぅおっとアブねぇ! ほら、これでどうだ! とっても上手に焼けましたー!」

「はいはい……」

 

 太陽は暑いし鉄板は熱いし、汗だくの男たちは暑苦しいしで、エイトはげんなりしながら、串に刺した肉と野菜の大群を手際よく次々とひっくり返していった。隣ではタカヤが失われたカメラとお宝写真のことを悔やみながらひたすら肉を焼いており、そしてその向かいの鉄板では、部長が、軽く十人前はありそうな大量の焼きそばをかき混ぜている。その生き生きとした表情は、完全に縁日の屋台の兄ちゃんにしか見えない。

 

「おい、左の鉄板ッ! ソース薄いぞ、何やってんの! この俺にコテを握らせたからには、生半可な焼きそばは決して喰わせはせん! 喰わせはせんぞおおおおおおおおおおッ!!」

(部長……これ、一応、勝負に負けた罰ゲームなんですよ……)

 

 エイトはそんな言葉を呑み込みながら、焼肉串を皿にのせて別の男子部員に渡した。男子部員は浜辺の一画に用意されたビーチパラソルとテーブルのところまで皿を持っていき、女子部員たちに提供する。

 現状、男子部員たちは自ら肉を食べることも許されず、女子部員たちに肉や焼きそばを提供する給仕係をやらされているのだった。その理由はひとえに、ガンプラバトルフラッグス――その、ポイント制という独特のルールによるものだった。

 ダイ、アンジェリカ、ゲンイチロウの三者を残した時点で、男女各チームのポイントはそれぞれ6ポイント。まだフィールド上には通常の(・・・)フラッグが三機、そして――5ポイント相当の特別な(・・・)フラッグが、一機、残っていた。つまり、ゲンイチロウの駆るGNフラッグが。

 そして、GNフラッグの太陽炉を貫いたのは、レディ・トールギスだった。

 結果、男子チーム6ポイント、女子チーム11ポイント――女子チームの勝利。それが、タカヤの盗撮騒動から端を発したガンプラバトルフラッグスの結末なのであった。

 

「あ……ナノさん」

 

 焼肉串を受け取ったナノカが、エイトの視線に気づいたのか軽く微笑んで手を振り、おいしそうに焼肉串にかぶりついた。いつもの大人びた雰囲気からは外れた、無邪気な子供の様な食べっぷりだ。ナノカは唇についた肉汁をペロリと舌で舐め、満面の笑みでぐっと親指を立てる。

 

「はは、ナノさんは食いしん坊だなあ」

 

 大きなビーチパラソルの下でほほ笑むナノカ。その水着は、大人っぽいロングパレオのついた、緋色のビキニタイプ……豊かな胸元が、より目立つ。細い腰のくびれが、より際立つ。副部長とタカヤが巨乳だ貧乳だとバトル中に連呼していたせいで妙に意識してしまって、エイトは少し頬を染めて目を逸らす。

 

「……ナノさん、焼きモロコシ好きって言ってたよな」

 

 エイトはいそいそと、タカヤから隠すように、鉄板にトウモロコシを乗せる。紙皿を一枚確保、この焼きモロコシは自分で持っていこう。

 

「おいエイト、何ニヤニヤしてんだよ。あ、さてはお前、ま~たアカサカ先輩のおっぱいを」

「ごめん手が滑った」

「ぎゃあああああ! カルビが! アツアツのカルビがオレの顔面にいいいい!」

 

 結局、このビーチサイド焼き肉パーティーは夕方まで続き、もはや昼食なのか夕食なのかわからないほどに肉を食べ続けることとなった。最後の方は誰も彼もが罰ゲームのことなど忘れ、男女入り混じってのビーチバレー大会となっていたが――やがて、日が暮れた。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「……うん、たまには良いかな。こういうのも」

 

 夜を迎え、十人近くが一部屋に寝ている女子部屋で、ナノカは一人呟いた。

遊び疲れて食べ疲れて、電灯を消して五分もせずに周りからは安らかな寝息が聞こえてきた。まわりはもう全員、寝てしまっているようだ。女子高生のお泊り合宿などと言えば、深夜まで続く女子トークがお約束とも思えたが、今のナノカにとっては、この心地よい疲労感の中で眠ってしまうというのも、十分に魅力的だった。

 

「……おやすみ、エイト君。ついでにビス子も……」

 

 ナノカはふぅと息を吐き、ゆっくりと瞼を閉じた。合宿三日目は、午前中には宿を出てしまう。荷物はもうまとめてあるから、ゆっくりと朝寝坊をするのもいいかもしれない――じきに、ナノカの思考もゆったりとした夢の中に溶けていった。そして数分もしないうちに、部屋の中に静かな寝息が一つ増えた。

 合宿二日目の夜は、昨夜の熱狂的なバトルが嘘のように、静かに更けていったのだった。

 




第十九話予告

《次回予告》

「……イサリビ先輩、起きてるッスか?」
「……ああ。何だ」
「じつは……ほら、これ」
「ん……なっ!? こ、これはッ!?」
「ふっふっふ。みんなバカでかいカメラにばかり目がいって、ケータイまではチェックされなかったッス。これさえあれば……」

ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第十九話『インターミッション』

「……サナカ、浴衣は。アカサカさんの浴衣写真は?」
「先輩も好きッスねぇ、風呂場より浴衣ッスか。もちろんあるに決まって……」
「おらァッ! 没収だクソカメラァッ! ぜんぶブチ撒けちまえェェ!」
「まったく、油断も隙もありませんわね。風紀を乱す者は、このわたくしが粛清しますわ!」
「ああっ! お、俺の! 全校男子たちの! さ、最後の希望があぁぁぁぁ……!」



◆◆◆◇◆◆◆



ずいぶんと、更新が遅くなってしまいました。
いつも読んでいただいている方、おまたせしてすみません。
一応、理由はあるんです……言い訳させてください……

職場でインフエンザが流行る→自分がインフルエンザになる→リアル嫁がインフルエンザになる→なんとか復活←イマココ

まさに病気のジェットストリームアタックだぜ……
今年のインフルは熱があまり出ないこともあるそうですね。私もそうでした。
みなさんも、健康には十分お気を付けくださいな。

次回はコラボ編か、ガンプラ紹介か……こんどは間が開かないようにがんばります!
感想・批評等お待ちしております。お気軽に一言いただければ幸いです。よろしくお願いします!


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