四月は忙しいぃぃ! 亀川ダイブです。
いつもよりちょっと短いですが、何とか更新……読んでただけたら嬉しいです!
「よォ、エイト! ついでに赤姫」
「やあ。今日も時間通りか。意外とマメだね、ビス子は」
「お久しぶりです、ナツキさん」
偶然にチーム・ドライヴレッドが揃うこととなった、あの夏合宿から五日――エイトたちは再び、
GP-DIVEのカフェスペース、一番奥のボックス席。エイトたちの定位置だ。テーブルには、エイトとナツキ用に、よく冷えて汗をかいたジュースのグラスが二つ。ナノカ用には、この季節にも拘らず、あったか~いお汁粉が入った湯呑が置かれている。
エイトはすっと自分の隣を開け、「どうぞ」とナツキに笑顔で勧めた。ナツキは一瞬戸惑い、少し頬を赤らめながらも、ぎりぎり体が触れ合わない微妙な距離を開けて、エイトの隣に座った。
「バイトの時以来ですね。あの時は、お世話になりました」
「ン、まァ、そんな気にすンなって。あんときゃァ、オレもまァ、楽しんだというか……その……あー……」
「ビス子はキミと一緒にいられて嬉しかったらしいよ、エイト君」
「あ、赤姫ェェェッ!!」
だぁんっ! テーブルに手をついて立ち上がり、ナツキは噛みつくような目でナノカを睨む。しかしナノカはどこ吹く風、両手で湯呑をもってずずいとお汁粉をすする。ナツキの剣幕に驚いたエイトは、何をどう勘違いしたのか、申し訳なさそうに眉毛をハの字にしてうつむいた。
「え、あ、あの、ナツキさん……僕、迷惑かけてましたか……?」
「あッ……い、いや、そーゆーワケじゃあなくってなァ! あーもう、この話は終わりだァッ、終わりィッ!!」
ナツキはテーブルのグラスを一つ引っ掴み、豪快に中身をのどに流し込んでどっかりとソファに腰を下ろし――
「あの、ナツキさん……それ、僕の飲みかけでしたけど……」
「ンにゃっ!?」
――ナツキは顔を真っ赤にして変な声で叫び、自分の変な声にまた恥ずかしくなってさらに頬を染め、最終的には訳が分からなくなって目をぐるぐるさせながらなぜかエイトを殴り飛ばしてしまうのだった。
◆◆◆◇◆◆◆
「まったく君たちは、見ていて飽きるということがないね。あっはっは」
「赤姫……てめェ、あとでブチ撒けてやるから覚えてろよォ……!」
「ナノさん、ナツキさん。システムの準備、できましたよ」
場所は変わってGP-DIVE二階、バトルシステムのフロア。システムの設定を終えたエイトは、とても
「ナノさんのお父さん、すごいですね。もうすでに通常のバトルシステムとGBOとのデータリンク対戦が準備されているなんて……お二人とも、どうしたんです?」
「ふふ……ちょっと、ね」
「て、てめェにゃ関係ねェよっ。さっさとログインするぞ!」
ナツキは少しふてくされたように言い、バトルシステムに入った。GPベースをセットすると、いつもとは違うGBO仕様のコクピットが立体投影される。バトルシステム上に「GBO」のロゴマークが表示され、ナツキの体をプラフスキー粒子が包み込んでいく――
「あ、その格好……GBOのアバターが、再現されるんですね」
「ほう。これは私も知らなかったなあ」
そして出来上がったのはGBOアバターそっくりの、黒いジオン系パイロットスーツに身を包んだ〝
「へェ、なりきりプレイってコトかァ。ちっと恥ずかしいが、悪ィ気はしねェな……お、おいエイト! じろじろ見てンじゃあねェぞ!」
「え、あっ、す、すみませんっ!」
「あっはっは。じゃあ、私達もログインしようか、エイト君」
「は、はいっ」
エイトとナノカもGPベースをシステムにセットした。プラフスキー粒子が放出され、待つこと数秒――エイトはクロスボーン・ガンダム劇中でキンケドゥ・ナウが着用していた宇宙海賊のノーマルスーツ、ナノカはお馴染みの赤いドレスに身を包んでいた。
GBOにログインしたエイトの目に映るのは、紺碧の海に白い甲板、はるか遠くには組み上げられた鉄骨が急激な上り坂を描くマスドライバー……GBOのVRラウンジ、オーブ近海に停泊するアークエンジェルの甲板だ。GP-DIVEのバトルシステム上に再現されたローカルエリアなので、エイトたち三人以外のプレイヤーの姿はない。
その代わりに、というわけでもないのだろうが、宇宙戦艦の甲板上には不似合いすぎるアンティークなテーブルとイスとティーセットとが、ぽんと鎮座していた。ナノカの容姿と赤いドレスが相まって、そんな姿がとても絵になる。ただし、英国風のティーカップの、その中身はやっぱりあったか~いお汁粉なのだが。
「では、今日の
ナノカは手元に
「これは……レベルアップ・ミッション、ですね……!」
レベルアップ・ミッション
ソロモン宙域に展開するジオン軍部隊を突破し、敵巨大MAを撃破せよ。
任務内容を確認したナツキは「はンッ」と豪気に吐き捨て、勢いよく承認ボタンをタッチした。
「ソロモンでMAっていやァ、アレしかねェだろ……まァ、なにが来たってオレサマが全部ブチ撒けてやらァ!」
「ふっ……頼もしいね、ビス子は」
ナノカはティーカップを傾け、音を立てずにお汁粉をすすった。そしてゆっくりと、エイトに試すような視線を送る。
「近々、レベル5以上を参加資格とした高レベルユーザー限定大会が、GBO内で開催される――その大会での上位入賞が、
「わかりました……いえ、
エイトは力強く頷き、承認ボタンに掌を叩き付けた。らしくないその仕草と、にやりと口の端を釣り上げた珍しく好戦的な表情に、ナノカとナツキは一瞬目を見張り、そして納得したように頷き返した。
「新機体、えらく自信があるみてェだな、エイト。オレサマもだけどよォ!」
「期待させてもらうよ、エイト君。いつものようにね」
『GANPRA BATTLE. Mission Mode.』
プラフスキー粒子の輝きが渦巻き、吹き荒れ、周囲を満たし、潮風の吹き抜けるアークエンジェルの甲板は、武骨な重機の立ち並ぶMSハンガーへとその姿を変えていった――
◆◆◆◇◆◆◆
――振動、轟音、通信機越しに飛び交う怒声。どのブロックが被弾した、機銃座が弾切れだ、左舷の弾幕が薄いだのと、その喧騒が鳴りやむことはない。
ホワイトベース級強襲揚陸艦の一番艦、ホワイトベース。そのMSデッキに、エイトはいた。
今、開け放たれたカタパルトハッチの向こうでは、暗黒のはずの宇宙空間が、まるでコンサート会場のサイリウムのように、飛び交うビームで照らされている。時々花開く大輪の花火は、MSの核融合炉が炸裂したものに違いない。あちらこちらで咲くオレンジ色の爆発の華が、戦後にはコンペイトウと名を変えたジオンの宇宙要塞「ソロモン」を、戦争の色に彩っている。
その光景を引き裂くようにして、中破したガンキャノンが一機、墜落寸前の勢いで頭からカタパルトデッキへと滑り込んできた。バズーカでも直撃したのか、左腕と左肩のキャノンを根こそぎ持っていかれている。他にも、装甲表面には弾痕が多数。ほぼ全身の関節部から、バチバチと不穏な火花が散っている。甲板作業員たちがわらわらとアリのように群がり、応急処置を施していく――コクピットから引っ張り出されたノーマルスーツ姿は、生きてはいるようだが自分では動けないらしい。
「よォ、エイト。なんか、思い出すよなァ」
出撃前の演出にすっかり見入っていたエイトの目の前に、通信ウィンドウがポンと開いた。今からソロモンに攻め込もうというのに、ナツキのジオン軍エース用ノーマルスーツ姿は少々滑稽だ。しかし、当のナツキはそんなことはまったく気にもしていないらしい。
「てめェがレベル4になるときのミッション。あンときも、並んで出撃したっけなァ」
「はい、そうですね。でもあの時とは、僕も、ナツキさんも……違います」
「機体が、かァ?」
「機体も、です」
「はッはァ、違ェねェ!」
破顔一笑、ナツキは通信ウィンドウを閉じ、ガンプラをカタパルトに乗せた。
その機体は、極限の重武装。一年戦争期前後の二〇メートル級MSをベースにした機体でありながら、UC八〇年代後半から九〇年代の恐竜的進化を遂げた大型MSにも負けないボリュームを誇る、ドムゲルグの進化形態。
脚部ミサイルポッド、背部ミサイルランチャー、両肩のシールドブースター、手に持ったバズーカとスパイクシールド、そのすべてがカタパルトハッチから出撃できるぎりぎりのサイズまで大型化。ミサイルにグレネード、シュツルムファウストまで含めた全身の爆発物は、もはや数えることすらばかばかしいほどの数を搭載している。背部に大きく突き出したシュツルム・ブースター、防爆服を模した分厚い胸部装甲、そして全身のいたるところが
「おい赤姫ェ! てめェの準備はいいのかよ!」
『気遣いに感謝するよ、ビス子。……けれど、いらぬ心配さ』
ポケ戦のクリスと同じ、オーガスタ系のノーマルスーツに身を包んだナノカの姿が、通信ウィンドウに現れる。ナノカはWB級の特長である二つの前足の様なカタパルトデッキの、もう一方で出撃準備を整えていた。
カタパルトデッキに屹立する、真紅の機体。その姿はナノカが愛用するジム・ジェガン系統の頭部を持っていながら、構成するパーツの端々から、ガンダム的な意匠が感じ取れた。
「それが、ナノさんの……!」
『そう。私の新しいガンプラさ』
真紅の装甲に狙撃用バイザー付きの頭部、手に持った長大な狙撃銃「Gアンバー」、そして太腿には二丁のビームピストル。いかにもジム・イェーガーの正当進化といったシルエットの機体だが、以前にはなかったものが、いくつか装備されていた。
ひとつは、両肩に乗せられた、用途不明のボックス状の機関。四角い噴射口が付いているが、バーニア・スラスター類には見えない。そしてもう一つは、バックパック左側から突き出したアームに懸架された、どう見ても
「意外です。ナノさんが、ヴェスバーを装備するなんて。それも、三基も」
『ふふ、そう見えるかい? ならば、私の思惑は成功だね』
ナノカは意味深に笑い、機体をフットロックに乗せた。大型の狙撃用バイザーの奥で、ゴーグルアイにぶぉんと火が灯る。
『でも、それを言うなら……エイト君。キミのガンプラも、だよ』
「あァ、そうだな。F108から、随分と力強い感じに変えてきたじゃあねェか」
ナツキのドムゲルグの前に立ち、すでにカタパルトと接続済みで待機しているエイトの機体。サイズは以前に引き続き十五メートル級の小型ガンダムタイプだが、そのシルエットは大きく印象を変えていた。
盛り上がった真紅の肩部装甲、膝回りの追加装備によって一回り太くなった脚部。腰の左右には二振りの大剣のようにも見えるヴェスバーが装備され、バックパックからはより大型化したバーニアスラスターユニットが、翼のように突き出している。
『その腰のモノは、V2ABのヴェスバーだね。F108ではオミットしたヴェスバーを、キミがもう一度装備した理由――戦場で、確かめさせてもらうよ』
「期待してるぜ、エイトォ!」
「はい、全力で行きます……行きましょう!」
俄かに、MSデッキが慌ただしくなった。NPCの作業員たちがカタパルトから離れ、管制室からの出撃の指示が出る。エイトは、ナノカは、ナツキは、それぞれにコントロールスフィアを握り直し、ビーム飛び交う戦場の
『三人とも、機体特性は以前のガンプラのモノを引き継いでいると見た。フォーメーションは変えずに、それぞれの仕事を頼むよ……で、いいかな?』
「はいっ! 全速全開で、斬り込みます!」
「おうよ、撃ち尽くしてやろうじゃねェか! ……いっくぜェェェェ!」
ナツキの気合いに応えるように、ドムゲルグのモノアイが強く輝く。超重量の爆撃装備をものともせず、前傾姿勢で射出の衝撃に備える。
「ドムゲルグ・デバステーター! 〝
続いてナノカも機体のコンディションチェックを終え、狙撃用バイザーを跳ね上げる。
『かのメイジンも愛用した、パーフェクトガンダムの系譜……使いこなしてみせる!』
そう、このガンプラは顔こそ
『レッドイェーガー、〝
二人の出撃宣告を聞きながら、エイトはより一層の力を込めて、コントロールスフィアを握りしめた。
この機体には、今までのガンプラバトルで得たすべての経験と知識と技術とを詰め込んでいる。今の自分にできる、間違いなく最高傑作が、このガンプラだ。
自分にできる全てを尽くして、ナノカの、ナツキの、チーム・ドライヴレッドのために――エイトは、思いっきり息を吸い込み、力の限りに叫んだ。
「ガンダム・クロスエイト! チーム・ドライヴレッド、戦場を翔け抜ける!」
『MISSION START!!』
第二十一話予告
《次回予告》
「サチ、準備はできたか」
「ほいほーい、だいじょーぶだいじょーぶ。えっとぉー、おかしでしょー、まんがでしょー」
「まったく……お前は変わらんな。いよいよ、明日から全国大会だというのに」
「あっひゃっひゃ♪ もう、心配しないでよーダイちゃん♪ ちゃーんと、ガンプラの用意はできてるってー♪」
「ふっ……しばらく、泊まりになる。着替えも忘れるなよ」
「ほ、ほいほーい♪(お、お泊りっ……つ、ついにダイちゃんと二人っきりでお泊りっ……! ここここれは、ついに、ついに、あたしも……オ・ト・ナに……♪)」
ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第二十一話『ジャイアントキリングⅡ』
「ね、ねぇダイちゃん……ベッドは、ダブルベッド……なの、かな……?」
「いや、畳に布団だ。ちゃんと二部屋、予約しておいたぞ」
「……ダイちゃんの、バカあああああああああああああああ!」
◆◆◆◇◆◆◆
二話続けてのバトルなし、ですが次回はエイトたちの新ガンプラに無双してもらう予定です!どうぞご期待ください。
そして、いままで不遇だったナノカのガンプラ、新型機〝レッドイェーガー〟がもうすぐ完成です。ガンプラ紹介も更新したいです……
次こそは、間が空かないように頑張ります……受けるだけ受けて間が空いてるコラボ系の企画も申し訳ない……頑張ろう。
感想・批評等、いただければ嬉しいです。よろしくお願いします!