ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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Episode.22 『ジャイアントキリングⅢ』

「ひとつ……ふたつ……みっつ……!」

 

 ナノカの声に合わせてGアンバーから砲火が走り、吸い込まれるようにゲルググマリーネに命中していく。寸分の狂いもなくコックピットを貫かれたゲルググマリーネたちは、爆発もせず、宇宙漂流物(スペースデブリ)となって宙域を漂った。

 

「まだまだ、NPCの作り込みが甘いなあ。シーマ艦隊のMS乗りはジオンの特殊部隊出身……こんな程度の練度じゃあないと思うのだけれど」

 

 教科書(セオリー)通りの十字砲火を曲芸飛行で躱し、Gアンバーを一射。意図的にバックパックを貫いて撃墜、爆散させる。その爆発を目眩ましにしてヴェスバービットを回り込ませ、もう一機を背中から撃ち貫く。

 

「いちユーザーとして、父さんに意見しておこうかな」

 

 一分にも満たない戦闘で部隊の半数を失い、シーマ艦隊のMSたちに動揺が走る。シーマカスタムは腕部の速射砲から信号弾を発射、発光信号を見たゲルググマリーネたちは一斉に包囲陣形を解き、母艦「リリー・マルレーン」の後方へと身を隠した。

 宇宙戦艦(リリー・マルレーン)を先頭に、(やじり)の様な三角形を描く突撃陣形。本来守るべき母艦を最前線に押し出すという、シーマ艦隊らしい(・・・)と言えばらしい(・・・)選択だ。リリー・マルレーンは対空機銃の弾幕を張りながら、航宙魚雷発射管からビーム攪乱幕弾頭を発射。ビーム兵器の威力を減衰させる薄雲を展開しつつ迫ってくる。

 

「ふふ。そのやり方、嫌いじゃあないけれど……行くんだ、ヴェスバービット!」

 

 ビョウゥゥン! サイコミュ駆動音の尾を曳きながら、ヴェスバービットは対空機銃の弾幕を潜り抜け、敵艦へと突っ込む。ビーム攪乱幕も、薄雲の幕を抜けて敵に肉薄してしまえば何の意味もない。ヴェスバービットたちは針鼠のような対空機銃を次々と破壊していった。

 ゲルググマリーネたちもマシンガンで迎撃を試みるが、小さく速く複雑な軌道を描くビットを捉えるには、それこそニュータイプ的な先読みのカンが必要だ。AI制御の無人機程度にそうそうできるものではない。

 

「今だね……!」

 

 何基かの対空機銃が沈黙し、弾幕に穴が開いた。ナノカはすかさずその穴に飛び込み、ビーム攪乱幕を突破。リリー・マルレーンの艦橋に、まるで槍で突くようにGアンバーの銃口を向けた。

 同時にコントロールスフィアを素早く操作、武器スロットを選択、Gアンバー射撃モードを変更、エネルギーバイパス解放、サブジェネレータ直結――

 

「受けてもらうよ、Gアンバーの極大放射(フルブラスト)を!」

 

 ドッ……ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 高密度の、そして極大の、圧倒的な閃光がリリー・マルレーンを貫いた。艦橋から機関部までが一息に抉り取られ、涙滴型の艦体の上半分がほぼごっそりと消滅した形だ。

大破というのも生ぬるい損傷を受けたリリー・マルレーンは、機関部の残骸を大爆発させ、ソロモンの重力に引かれて落ちていく。ゲルググマリーネ部隊も、更に二機が巻き添えで大破したようだ。

 

「原作通りのシーマ様を再現するNPCなら、たとえ母艦を失くしても――だろうねっ!」

 

 艦の爆炎を突き破るようにして、ビームサーベルを振りかざしたシーマカスタムが突っ込んできた。ナノカはコントロールスフィアを捻って武装選択、レッドイェーガー左腕のマルチアームガントレットをサーベルモードで起動した。噴き出したビーム粒子が、一瞬で刃を形成する。

 

「せいっ、やあっ!」

 

 シーマカスタムの黄色と、レッドイェーガーの蛍光ピンクのビーム刃がぶつかり合い、激しいスパークを散らす。一の太刀、二の太刀と打ち合って、お互いにバックブーストで距離を取る。

 

「お土産だよ!」

 

 離れ際にナノカはガントレットをモードチェンジ、基部からくるりと180度回転させ、連装グレネードを発射した。シーマカスタムは大型シールドを咄嗟に掲げるが、二発のグレネード弾の威力はシールドを吹き飛ばすには十分だった。

 大きくのけぞり姿勢を崩したシーマカスタムをかばうように、生き残った二機のゲルググマリーネが立ちはだかった。マシンガンを構えた右の一機には速射モードのGアンバーで一撃、一発も撃たせずに撃墜する。ビームサーベルを抜刀し斬りかかってきた一機には、再びサーベルモードに切り替えたガントレットで一閃、胴切りに斬り捨てた。

 

「さあ、次でラストだね」

 

 最後に残ったシーマカスタムがビームマシンガンを構えるが、レッドイェーガーの左手が目にも止まらぬスピードでビームピストルを抜き打ち、三点射撃(トリプルバースト)でビームマシンガンを破壊した。不利を悟り、背を向けて離脱しようとするシーマカスタムの両足を、左右に回り込んでいたヴェスバービットが撃ち抜き、文字通り足を止める。

 推進力の要を失いまるで宇宙に溺れたようにもがくシーマカスタム――その姿をGアンバーの銃口の先に捉え、ナノカはレッドイェーガーのバーニア・スラスターを全開にした。

 

「あえて、言わせてもらおうかな。――アカサカ・ナノカ、吶喊するよ」

 

 全速全開、弾かれたように飛び出したレッドイェーガーは瞬く間にシーマカスタムに肉薄し、長大なGアンバーがまさしく槍の穂先の如く、シーマカスタムに突き刺さった。その銃口にメガ粒子のエネルギーが収束し、そして!

 

「長い砲身には、こういう使い方もあるのさ」

 

 ドッ、ゥウン――ッ! シーマカスタムは胸の真ん中に大穴を開けてしばらく宙を漂い、そして、爆発した。レッドイェーガーは冷却機構を作動させたGアンバーを手に、悠々と戦場を見回していた。その背中に、役目を終えたヴェスバービットたちが次々と帰ってくる。

 

「敵増援部隊を撃破――これが実戦なら、この戦場の大勢は決したかな」

 

 ナノカの言葉を裏付けるように、連邦軍側の増援部隊が続々とソロモン宙域に到着していた。おそらくは、シーマ艦隊の撃破がイベントの発生フラグになっていたのだろう。ソロモン近海宙域での戦闘は、原作アニメそのまま、連邦の物量にジオンが押される展開となっている。光学センサーの最大望遠で見てみると、ジムやボールを中心とした上陸部隊が、ついにソロモン表面に取りついたようだった。

 

「さて、あとは先行したエイト君と、ビス子だけれど――」

『ゥおらあァァァァッ!』

 

 通信機がぶっ壊れるのではないかというような大声、ほぼ同時に、何かボッコボコに叩き潰された物体がものすごい勢いでナノカの直ぐ脇をぶっ飛んでいった。目視では何かわからなかったが、レッドイェーガーの優秀なセンサー類はその物体が何かを――いや、何だったか(・・・・・)を判別していた。

 

「アナベル・ガトー専用リック・ドム。の、上半身。の、残骸。か――もうちょっとスマートな戦い方はできないのかい、ビス子」

『はッはァッ! 気にすンなよォ、赤姫。要は勝ちゃァいいのさ、勝ちゃァな!』

 

 苦笑いを浮かべるナノカに、ナツキは通信機越しに勝ち誇った笑みを返して見せた。ミノフスキー粒子が濃く通信画面は荒れがちだが、ナツキの得意げな様子はよく伝わってきた。

 レッドイェーガーのカメラをズームアップしてみれば、ソロモン宇宙要塞の直ぐ近くの宙域で、どうやら力づくで引き千切ったらしい青いリック・ドムの腕をお気楽にぶんぶん振り回しているドムゲルグが見えた。その近くには、戦闘の巻き添えというか、誤爆というか、とにかく爆撃されたらしい黒焦げのムサイ級やらMSやらの残骸がこれでもかというほどに散らばっている。

 やれやれ、さすがは〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟だね――その言葉を呑み込みながら、ナノカはレッドイェーガーの頭をソロモンに向け、バーニアを吹かした。

 宙域の防衛線は完全に崩壊しており、さしたる妨害もなくナツキと合流。レッドイェーガーの左手をドムゲルグの肩に置き、接触回線で改めて通信を開く。通信状況は、先ほどよりも数段クリアだ。

 

「ビス子。エイト君は、ソロモンの中だね」

「あァ、ちょっと前に門番代わりのザクレロをブッ潰して突入したぜ。今頃、最深部でボスキャラとヤり合って――」

 

 ガッ、ザピッ……

 

「――ンじゃあねェのか?」

「ん? ビス子、接触回線なのに、今、電波障害が……?」

 

 同時、画面にノイズが走る。それはほんの一瞬で、ちょっとしたシステムの不調だろうと言われればそれまでの、ほんの小さな異変だった。

 しかし――その、直後。

 

「……ビス子、下がれっ!」

「ッ!?」

 

 ナノカの叫びに即座に反応、ドムゲルグがその場を飛び退く。振り下ろされたヒートホークが、ドムゲルグの背部ミサイルコンテナをわずかに掠る。ナノカはバネを弾くような抜き打ちでビームピストルを射撃、奇襲をかけてきたザクⅡのモノアイを撃ち抜いた。

 ビクビクと薄気味悪い痙攣を繰り返して動作停止したザクⅡを、ナツキは驚きと困惑の目で見るしかなかった。

 

「こ、コイツ……上半身だけで……ッ!?」

 

 そう、そのザクⅡは、先の戦闘中にナツキが間違いなく撃墜した機体。ミサイルの直撃で下半身を吹き飛ばした機体だ。撃墜時に爆散こそしなかったものの、確実に撃墜判定をされていたはずだ。

 

「……これは、一体……!?」

「おいおいマジかよ、ゾンビ映画じゃあねェんだぞッ!!」

 

 周囲を見回し、ナノカとナツキは絶句する。

 コックピットを撃ち抜かれたゲルググが、機械油(オイル)の血を流しながらビームライフルを構える。

 首の千切れたリック・ドムが、肘が逆向きに折れた腕でヒート剣を振りかざす。

 手足の吹き飛んだ旧ザクが、芋虫のような動きで迫り来る。

 撃墜したはずの敵MSたちが、まさしくジオンの亡霊といった様相でじりじりと二人を取り囲んでいく。中には、黒焦げになったボールや、ヒートホークが胴体に食い込んだままのジムも混じっていた。

 

「ちッ、初めてだぜこんな演出はァ! Gガンならともかく、ここは宇宙世紀だぜェッ!」

 

 マスター・バズの同軸ガトリング砲で弾幕を張り、ゾンビMSの群れを薙ぎ払う。ゾンビMSたち、個々の耐久力は大したことはない。ガトリングの弾幕で十分に追い払える――が、数が半端ではない。ジオン・連邦両軍の、この戦場で大破したまま漂っていたMSたちが丸ごと敵となっているのだ。ハチの巣になって倒れるゾンビMSを盾にして、その後ろから次々とゾンビMSが溢れ出してくる。

 

「くそッ、FCSが敵を認識しねェ……すでに撃墜済み、ってことかよォ!」

 

 ミサイル一斉射撃で吹き飛ばしたいところだが、何度試しても、ミサイルがゾンビMSをロックオンしてくれない。手持ちの武器で、目視の照準で撃ちまくるしかなさそうだ。さすがはクソッたれの幽霊野郎だ、とナツキは心の中で悪態をつく。

 

「おい赤姫ェッ! 数が多くてきりがねェ、オレのバズーカとてめェの極大放射(フルブラスト)で一気に――っておい、聞いてんのかァッ!」

「あああ、あはははは、ききき、聞いているさ、ビス子」

 

 震えた声、引きつった笑み、無駄に勢いのある親指立て(サムズアップ)。レッドイェーガーはGアンバーを構えようとして、あたふたとお手玉をしていた。逆に器用過ぎる。

 

「ままま任せてくれよ、ここ、こんなオバケどもなんて、わわわたしのGアンバーで、あははは」

「……おい、赤姫。てめェ、まさか」

 

 襲い掛かってきたゾンビゲルググをスパイクシールドで殴り飛ばしながら、ナツキはジト目でナノカを睨む。ナノカは申し訳なさそうにしゅんとしょげかえり、うつむきながら言った。

 

「……ごめんオバケこわい」

「ッだよそりゃあアアァァァァァァァァァ!」

 

 ナツキは感情に任せて叫び、マスター・バズのトリガーを引きまくった。戦場ごと震わせるような轟爆が三重、四重に咲き乱れ、数十機のゾンビMSたちがまとめて吹き飛び、灰になる。さしものゾンビMSも、体そのものがなくなってしまえばどうしようもない。あれだけうじゃうじゃと戦場を埋め尽くしていた敵影は、その八割以上が掃除された。

 そして開けた視界の先に――いた。

 

「おい、しゃきッとしろよ赤姫。幽霊使い(ネクロマンサー)のご登場だぜ」

 

 明らかに、ジオンのMSではないシルエット。白黒(モノトーン)の配色がとてもよく似た、しかしタイプの違うガンダムが、二機。

 

『ぐっはっはぁ! 早々に見つかっちまったなぁ、妹よ』

 

 一機は、大笑いするパイロットの豪放さを体現するような、四角い装甲の大柄な機体。右肩にガトリングシールド、左肩には大型の実体剣を懸架し、全身に計四本の大型両刃ナイフを装備している。素体(ベース)はおそらくガンダムレオパルドなのだろうが、かなり大幅に改造されている。

 

『……あんちゃん。あいつら、よていのえものと、ちがう』

 

 もう一機は、巨大なショルダーバインダーユニットを装備した、ガンダムエアマスターを素体(ベース)とした機体。銃身がほぼ機体全長ほどもあるロングライフルを持ち、いかにも高機動型といった精悍なマスクをしている。機体の周囲を鋭い弧を描いて飛び回るモノたちは、ビットの類だろう。

 

『そうだな。そうだが、構いやしねぇ! 獲物を掻っ攫うぞ、妹よ!』

『あいあいさー、あんちゃん……っ!』

 

 大柄なガンダムは背部のウィングバインダーを展開し一直線に突撃した。一方の細身の高機動型はぐるりと身を捻って飛行機型(ファイターモード)に変形、ビットを引き連れながら加速した。生き残っていた数機のゾンビMSも、それに倣って突っ込んでくる。

 

「あのビットが怪しいね。あいつらが、ゾンビMSの発生源と見てよさそうだ」

「……回復速ェな、おい」

「ふふ。オバケなんてネタが割れてみれば、こんなものさ」

「三分前のてめェに言ってやれよ、ッたく」

 

 さっきまでの取り乱しようが嘘のような、いつもの調子。そんなナノカにナツキはため息をついて苦笑い――が、すぐに、いつもの好戦的な笑みを取り戻した。

 

「さァ、叩き潰してやろうぜ、乱入者どもをよォ!」

 

 ナツキはマスター・バズに新しい弾倉を叩き込み、弾切れになった同軸ガトリング砲を装備解除(パージ)した。

 

(おかしいな……レベルアップミッションに、乱入システムなんて実装されてはいないはずなのだけれど。しかも今ここは、GP-DIVE店内のローカルエリアのはず……)

 

 ナノカの胸中にふと疑問が浮かぶが、自分とて、GBOの全てを知っているというわけではない。偶然、父がヤジマ商事の担当部署にいるというだけだ。ナノカは武装スロットを操作、Gアンバーを速射モードに切り替えた。

 かくして、ソロモン近海宙域の第二ラウンド、戦場への乱入者――二機の黒いガンダムタイプとの戦いが、始まったのだった。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「……おかしい」

 

 ソロモン内部を張り巡らされた通路を、エイトは奥へ奥へと進んでいた。しかしその道中、どうしても違和感が拭えない。

 敵に遭わない。戦闘が起きない。レベル5への試験(レベルアップミッション)でありながら、こんなにも簡単に敵要塞最深部まで進攻できるものだろうか。あまりにも、ソロモン内部の警備が薄すぎる――いや、正確には。

 

「僕より先に、誰かが……?」

 

 ゆっくりとした速度で通路を飛んでいくクロスエイトの足元に、ぐちゃぐちゃに壊されたMSの残骸が転がっている。その損傷は、銃撃や斬撃、爆発物によるものには見えない。例えるなら、まるで野獣の牙で引き裂かれ、喰い散らかされたたような……通路の壁面にも、爪で裂かれたような傷跡が、いくつも残っている。

 違和感を抱えたまま、エイトはソロモン最深部の大型格納庫前にたどり着いてしまった。ここに至るまで、ソロモン内部での戦闘はゼロ。戸惑うエイトになど構う様子もなく、宇宙戦艦でも楽に出入りできそうな巨大なハッチが地響きを上げて左右に開いていく。

 

「予想通りなら、ここにビグザムが……なっ!?」

 

 エイトは絶句した。

 そこにあったのは、無残に破壊されたビグザムの頭部。特徴的な脚部は左右共に引き千切られ、前衛芸術(オブジェ)のように壁に突き立てられていた。モノアイは抉られ、主砲は力づくで内部構造を引きずり出され、頭部をぐるりと取り囲むビーム砲はそのほとんどが大破している。そして――

 

『待たされた上に、ハズレを引くか。私もよくよく、運がないな』

 

 ビグザムの頭を踏みつけにして立つ、一機のガンダム。その右手には、ビグザムから抉りとった眼球部分(モノアイ)が握られていた。

 

『だがまあ、いいだろう。この私の――私とこのガンプラの、肩慣らしに喰わせてもらうぞ。赤姫の腰巾着(オマケ)

 

 毒々しい、紫色の装甲。禍々しい、鋏状の武器。背に負った、肉食獣の大顎を思わせる装備。ガンダムでありながらガンダムでない、毒蛇を思わせる悪役然とした面構え(マスク)

 

「初めて見る機体、だけど……この声、どこかで……!?」

『ふっ……どこかで、か。貴様にとってはその程度なのかもしれんがな……私には、あの戦いは屈辱でしかなかった! あの日から私は、赤いガンプラを見るだけで吐き気がするんだよぉぉッ!』

 

 グシャアッ! パイロットの叫びと共に、モノアイが握り潰される。鋏状の武器がジャキンッと独特な金属を立ててその刃を大きく開いた。エイトもビームサーベルを左右両手に抜刀し、戦闘態勢を取る。

 

「来るなら、迎え撃ちますよ! このクロスエイトで!」

『やってみろ、赤姫の腰巾着(オマケ)がぁぁッ! ガンダム・セルピエンテ、敵機を喰い千切るッ!』

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 まるで大企業のオフィスの様な、生活感のない部屋。清潔なフローリングの床、鏡のように磨き上げられた窓――黒塗りのデスクと高級そうなチェア、紙のように薄いディスプレイとタッチパネル式のキーボードを備えたPC、そして一人の男性。それが、その部屋にある全てだった。

 

『侵入は成功した。何の痕跡も残していない。これでいいな、〝這い寄る混沌(ビハインド・ザ・カーテン)〟』

「GOOD! ええ、満足です。非常に満足ですとも、〝覗き返す深淵(ブラック・オブ・ザ・ブラック)〟」

 

 PCのスピーカーから響く、機械的に加工された音声。男性は細身の縁なし眼鏡に手をかけながら、ゆっくりと頷いた。その眼鏡にはディスプレイの映像が映り込んでおり、男性の目元は知れない。しかし、その口元は――満足げに、歪んでいた。

 

「しかし、私としては驚きですよ。まさかキミが、よりにもよってキミ(・・・・・・・・・)が、あのチームに悪戯を仕掛けようなんて、ね」

『今回の主目的は〝番犬(ロイヤルハウンド)〟の利用価値を判断することだ。貴様が独断でガンプラを与えるからこうなったのだということを忘れるな』

「くはははは! いやあ、私、捨て犬を見るとついつい拾ってしまうタチでしてね。キミもわかるでしょう、ネームレス・ワン。なにせキミは(・・・)あのチームのガンプラの強化に手を貸して(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)――」

『そこまでだ。あまり調子に乗るなよ、イブスキ・キョウヤ』

 

 加工された音声に、怒気が混じる。男性は――イブスキ・キョウヤは軽薄な笑みを浮かべながら肩を竦め、黙ってみせた。

 

『……撤収は任せる。ヤジマの電脳警備(ネットセキュリティ)ごときに遅れは取るなよ』

 

 そう言って、返事も聞かずに通信は切られた。残されたキョウヤは溜息を一つ、軽やかなタッチでキーボードを叩き始めた。

 ディスプレイに映るのは、GBOのライブ中継――本来なら見ることはできない、GP-DIVEのバトルシステム内、ローカルエリアで行われているガンプラバトル。

 元〝姫騎士の番犬(ロイヤルハウンド)〟ラミア対、〝新星(スーパールーキー)〟エイト。〝暴食群狼(スカベンジャーズ)〟ゴーダ兄妹対、〝赤姫(レッド・オブ・ザ・レッド)〟ナノ、〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟ビス丸。エイトを除けば全員がGBOJランキング300位以内(ハイランカー)という、高レベルな戦場だ。

 

「まったく……立派に一人前のつもりになって。自分も拾われた捨て犬だったと、忘れているのですかねえ」

 

 複数のウィンドウが同時に展開し、その周囲にはバトルに関わる様々な情報が雪崩のように表示されては消えていく。時折、ヤジマ商事のセキュリティプログラムが不正アクセスのチェックを仕掛けてくるが、そのすべてが魔法のように欺瞞され、何事もなかったかのようにスルーされていく。

 

「まあ私は、楽しければ何でもいいんですけどねえ」

 

 キョウヤは口の端を釣り上げてニタリと嗤い、薄暗い部屋の中で、キーボードを叩き続けた。

 

 




第二十三話予告

《次回予告》
「よぉーっし、きたぜー! 全国ぅー! がんばろーねー、ダイちゃんっ♪」
「うむ。三年越しの夢、ついに叶ったな……感無量だ」
「おいおいダイちゃーん、まだ会場に入っただけじゃーん♪ 本番はー、こっからこっからー♪」
「ふっ、そうだな。全国の猛者を相手に、我らが拳、どこまで通るか……死力を尽くすのみッ!」
「じゃ、じゃあさー、ダイちゃん……力が出るおまじない、したげよっかー……?」
「む、そんなものがあるのか。ぜひ頼む、サチ」
「……め、目ぇ、つぶって、くれるかなー……あ、あと、しゃがんでー。背、とどかないから……」

ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第二十三話『ジャイアントキリングⅣ』

『大会本部より連絡です。大鳥居高校ガンプラバトル部、今すぐ受付を済ませてください。繰り返します。大鳥居高校ガンプラバトル部……』
「むっ! これはまずい、走るぞサチッ!」
「えっ!? あっ!? も、もうっ! ダイちゃんのバカぁぁぁぁっ!」



◆◆◆◇◆◆◆



GWももう終わりですね。亀川ダイブです。
さてさて、このドライヴレッドももう22話、アニメだったら2クール目の終わりが見えてくるころですね。ということで、このジャイアントキリング編あたりから黒幕たちの動きが本格化していきます。〝覗き返す深淵〟の正体やいかに!……ってもうバレバレかもしれませんが。(笑)

伸ばし伸ばしになっていたナノカのガンプラ、レッドイェーガーがようやく完成しそうです。紹介記事を書いたら、更新しようと思います。がんばろう。

今後も拙作を読んでいただければ幸いです。感想・批評もお待ちしております!
どうぞよろしくお願いします!

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