ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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 随分と間が空きました……リアルが……仕事が……!
 趣味を続けるのにすら時間制限がかかる今日この頃。
 ちょっと短めですが、お読みいただければ幸いです。


Episode.24 『メモリーズⅠ』

 八月も、もう十日ほどが過ぎた。夏休みはまだまだ日があるが、なんとなく、もうかなりの日数が過ぎてしまったように感じる。エイトは部室の壁のカレンダーを見るともなしに眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

 大鳥居高校ガンプラバトル部の部室には、今日も数人の部員たちがガンプラ製作に訪れていた。エアコンがよく効き、個人ではちょっと揃えづらい用具を自由に使え、バトルシステムまで備えている部室に、夏休み中の部員たちが作業に来るのは毎年の恒例だ。特に今日は部の御用達であるガンプラショップ「GP-DIVE」が少し早めの盆休みとなっていることもあって、部員の数は多い。

 

(姉さん、「夏の北海道ってのも、またオツなモンや♪」なんて言ってたけど……お金はきっとまた、店長持ちなんだろうなあ……)

 

 百点満点の笑顔で「お土産、期待しときや♪」と飛び出していったエリサの顔と、旅行鞄を二つも抱えながら追いかける店長の姿が、エイトの脳裏に浮かぶ。

 

「……ツキ……ねえ……」

(本当に、あの二人ってどんな関係なんだ……恋人? 違うよなあ)

 

 神戸心形流の同門とだけは聞いているが、エリサはこの夏休み中、ほとんどGP-DIVEで寝泊まりしている。模範的高校生のエイトにはそんなにも連続で外泊を、しかも異性の家でするなんて考えられない。だがまあ店長は社会人で、エリサももう二十歳。意外とそんなものなのだろうか。二人の関係もだが、どんな出会いをしたのかも気になるところだ。

 

「アカ……ってば……アカツキ……っ!」

 

 出会い、そして人間関係。この夏はまだ半分しか過ぎていないけれど、本当に、いろいろな人間関係が増えたと、エイトは思う。

 ナノさんに誘われてGBOを初めて、ナツキさんと出会って、ほかにもいろんな人たちと出会って、バトルをして――そして、昨日のあのバトル。

 元〝多すぎる円卓(サーティーン・サーペント)〟筆頭にして、元〝姫騎士の番犬(ロイヤルハウンド)〟ラミア。兄妹タッグの〝暴食群狼(スカベンジャーズ)〟、兄のゴーダ・バンと、妹のレイ。さらには――〝傭兵(ストレイバレット)〟モナカ・リューナリィこと、エイトのクラスメイトで、部活仲間で、中学からの友達、タカヤ。

 

(あの時の、タカヤの言葉。僕たちを拒絶するような声色だったけれど……でも。あれはもしかして、僕たちに)

「ちょっとアカツキ、聞いているのですっ!?」

「うわあっ!?」

 

 突然の大声に、ヤスリ掛けをしていたパーツをお手玉して取り落としてしまう。

 

「いつまでごりごりヤスってるつもりなのです! パーツが消えてなくなるところだったのです!」

「す、すみませんナルカミ先輩……」

「ったく、使えねー一年生なのです! とっととはいつくばって拾うのです、犬のように! ナルミはご機嫌ナナメなのです!」

 

 小学生にしか見えないがこれでも一七歳、ガンプラバトル部女子部員では五指に入る実力者ナルカミ・ナルミは、ちっちゃなほっぺをぷーっと膨らませ、お怒りの様子だ。夏合宿ではヒグマのような巨漢ガンプラ・百里雷電で暴れ回ってナノカ・ナツキ組と相打ちにまで持ち込んだと、エイトは聞いていた。いくらサチやエリサ並みにちっちゃい女の子でも、暴れられてはたまらない。

 エイトはげしげしとお尻を蹴られながら机の下にもぐり込み、パーツを探す……と、拾ってみれば成程、塗膜剥げ対策(クリアランス)をとるだけだったはずの関節パーツがごっそり抉れてしまっていた。展示(ディスプレイ)用ならまだしも、これではガンプラバトルには耐えられないだろう。

 

「ナルカミ先輩、すみません。ちょっと削り過ぎちゃいました」

 

 別のことを考えながら作業していた自分が悪い。エイトは申し訳なさそうに眉を下げながら、机の下から這い出した。

 

「代わりのパーツを持ってふがごはあっ!?」

 

 ふにゃんバキィィッ!!

 柔らかいナニカと硬いナニカが連続的にエイトの顔面に直撃し、エイトは部室の床にノックアウト寸前で放り出された。視界のど真ん中で、大きな星がついたり消えたりしている……彗星かな、あれ。――などと考える間もなく、聞き慣れた声が耳に届く。

 

「やややや、やれやれ、すす、少しばかり性急すぎないかなエイト君。わ、わたしにもこここ心の準備というものが、だね」

「な、ナノさん……!?」

 

 白い頬を薄桃色に染め、潤んだ瞳をエイトから逸らし、必死に平静を装いながら、恥じらうように片手で胸元を隠す……が、その反対の手は実に堂に入った正拳突きの構えでエイトの方を向いていた。

 

「こ、こーゆーことは、少しずつ手順を段階を踏んでいってからだね、そうだまずは父さんにエイト君を紹介して子供は何人欲しいかな」

「おいポンコツ巨乳、ナルミの前で古くせえラブコメやってんじゃねーのです! 不愉快極まるのっ、ですっ!」

 

 偶然作業台にあったMGグシオンハンマーで、ぽこんと一撃。正気に戻ったナノカは何事もなかったかのように、優雅に足を組んで椅子に座り直した。

 

「ふぅ。感謝をするよナルカミ二年生。……ときにエイト君。ものの本によると、あんまりがっつく男子は、女の子からはあまり好まれないらしいよ? はっはっは」

「は、はい……すみません……」

 

 顔面に残る痛みと、柔らかく温かい感触……とりあえず謝ってしまうエイトであった。そんなエイトにナノカはふっと微笑みかけてから、椅子ごとぐるりとナルミへと向き直った。

 

「ときに、ナルカミ二年生。エイト君を借りていってもいいいかい。少し、話したいことがあってね」

「ふんっ、好きにするがいいのです」

「バトルシステムは空いているね。少し、使わせてもらうよ……行こう、エイト君」

「あっ、はい! ナルカミ先輩、お手伝いはまた後で!」

「けっ、また今度、こき使ってやるのです。今はいいから、とっとと行っちまえなのです」

 

 ナノカはナルミに軽く礼を言い、ガンプラケースを片手に颯爽と立ち上がった。エイトも慌ててガンプラケースを掴み、ナノカの後に続いてバトルシステム室へと入っていった。

 

「…………ふんっ」

 

 二人が部屋を出た後、ナルミはエイトが置いていった削り過ぎの関節パーツを手に取り、小さく鼻を鳴らした。そして、周りの部員たちに聞こえないよう、小さな声でつぶやいた。

 

「目を付けたのは、ナルミが先だったのです……」

 

 新入生の入学・入部早々の四月。すでに〝壊し屋〟として部内でバトルを敬遠されていたナルミに、馬鹿正直に真正面から突っ込んできた一年生。結局返り討ちにしてやったけど、ちまちました射撃や卑怯なトラップを使われない、ぶつかり合いの一本勝負は久しぶりだった。

 夏合宿の時、わざわざ〝水平戦線(ホリゾンタル・オブ・ザ・ボディ)〟に参加したのだって、本当は――

 

「……だから、巨乳なんて大っ嫌い……なのです」

 

 抉れた関節パーツを、ナルミはそっとポケットに入れた。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

『Beginning Plavsky particle dispersal』

 

 薄暗い部屋の中央で、六角形のバトルシステムが粒子の輝きに包まれる。システムにはすでに、二機のガンプラ――レッドイェーガーとガンダム・クロスエイト――がセットされている。

 

『GANPRA BATTLE.Training Mode. Damage Level,Set to C.』

「今日は、戦いながら話したい気分なんだ。付き合ってくれるかい、エイト君」

「はい、ナノさん。僕が聞きたいこともたぶん、この場所でのほうがいい気がするんです」

『Field5,city.』

 

 組み上げられたプラフスキー粒子が、市街戦のフィールドを作り上げる。MSが楽にすれ違えるほどの太い道路、その両脇に高層ビルが立ち並び、ところどころに大きく開けた自然公園や、遠くに連邦軍のものらしい軍事施設、停泊したペガサス級も見える。宇宙世紀の地球のどこか、連邦勢力下の一都市といった様子だ。

 

無人標的機(ハイモック)が次々と、最大で百機まで出現してくるよ。今の私たちになら容易いだろう」

「たとえ相手が一万機でも、構いはしませんよ」

 

 通信機ウィンドウ越しに、エイトとナノカは頷き合い、コントロールスフィアを握りしめた。

 

「話を聞いて欲しいんだ、エイト君。――アカサカ・ナノカ、レッドイェーガー。始めようか」

「はい、了解です。アカツキ・エイト、ガンダム・クロスエイト! 戦場を翔け抜ける!」

『TRAINING BATTLE START!!』

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 開始から数分。Gアンバーの銃声が再び響き、もう二〇数機めのハイモックを撃ち抜いた。ずんぐりむっくりの濃緑(モスグリーン)の巨人が火を噴きながら墜落し、高層ビルの一棟に直撃して爆散する。

 

「サナカ一年生のことだけれど」

 

 その爆音に紛れるようにして、ナノカは口を開いた。片膝立ちの姿勢でGアンバーを構えるレッドイェーガーの背後に、ヒートホークを振り上げたハイモックが迫る。しかし、ナノカは微動だにしない。クロスエイトが上空からビームサーベルを投擲したのが、見えていたからだ。

 

「あのあと、連絡はとれたのかい?」

 

 ザシュンッ! ビーム刃がハイモックの胸に突き刺さり、バックパックまで貫通する。ハイモックは一度だけびくりと痙攣して倒れ、ピンク色のモノアイから光が失われる。

 

「いえ……ここ数日、新聞部にも出ていなかったそうです」

 

 言いながら、エイトはワイヤーを巻き取ってビームサーベルを回収。そのまま流れるような動きで、手近にいた一機を胴切りに斬り捨てた。

 空中には、エールストライカーやフォースシルエットを装備したり、ドダイやゲタ、ベースジャバーに搭乗したりしたハイモックが十重に二十重に展開している。エイトは回避機動を優先しながらも、その機体群へと半ば強引に突撃し、ビームサーベルをねじ込んで、文字通り道を斬り拓いて(・・・・・)いく。

 

「ケータイも出ないし、GBOのメッセージにも反応なし……さすがに、家までは行ってないですけど。たぶん留守か、居留守を使われそうです」

「そう、か。彼に直接聞ければ、と思ったのだけれど」

 

 ナノカは冷静に、トリガーを引く。クロスエイトに対空砲火を打ち上げていたハイモックたちが、正確に一射で一機ずつ、その胸の真ん中を正確無比に貫かれていく。

 

「……イブスキ・キョウヤという人ですね?」

 

 ドゥッ! Gアンバーの狙撃が、わずかに逸れた。撃ち抜いたのは左肩。しかしその次の瞬間には、クロスエイトの急降下キックがハイモックの脳天に叩き込まれていた。足裏ヒートダガーが頭部装甲を貫通。そのまま頭から股下まで、急降下の勢いに間ませて蹴り抜け、斬り抜ける。

 

「ナノさんにとって、どんな意味があるんですか。その人って」

 

 少し、勇気のいる質問だった。しかし、言い切った。

 爆発するハイモックを踏み倒すようにして、次々と新たなハイモックが現れる。左右から迫るヒートホークの連続攻撃を切り払い、ビームライフルの弾幕を両肘のビームシールドで防御しながら、エイトはナノカにさらに問うた。

 

「ナノさんが、タカヤに食ってかかるなんて。その名前で、ナノさんの狙撃がぶれるなんて。理由を聞きたいっていうのは、僕のわがままでしょうか」

「イブスキ……キョウヤ……」

 

 遠距離から発射された数発のバズーカ弾を、ナノカは左腕複合兵装(マルチアームガントレット)のビームガンでまとめて撃墜した。

 爆発する砲弾の向こうに、バズーカを担いだハイモックが見える。ナノカは狙撃用(クァッドアイ)バイザーをおろし、Gアンバーのストックを肩に当てた。すうっと一つ、息を吸う。照準(レティクル)引き金(トリガー)に意識を集中し、機体と自分との時機(タイミング)が合う瞬間を、ぐっと息を詰めて待ち構える。それは時間にすれば1秒にも満たなかったが、その刹那にナノカの脳裏には、様々な〝記憶〟が駆け巡っていた。記憶はどろどろと渦を巻き、練りあわされて雑念となり、照準を狂わせた。粘度の高いタールのようなプレッシャーが、引き金を重くする――それでもナノカは、引き金を引いた。

 

「……っ!」

 

 ドゥッ! 放たれた銃弾は寸分の狂いもなく、ハイモックの胸を貫いた。胸部装甲のど真ん中を撃ち抜かれたハイモックは、火を噴いて倒れ、爆発する。

 ナノカはふっと息を吐き、バイザーを上げて額の汗をぬぐった。そして通信画面(ウィンドウ)越しのエイトの目を見て、こくりと一つ、頷いた。

 

「私が君に話したいのは、まさにそのことさ。聞いてくれるかい、エイト君」

「お願い、します」

 

 折しも、標的の撃墜数はちょうど五〇機。最大数の半分まで撃破したことを讃えるファンファーレが、場違いに鳴り響く。しかし、ナノカもエイトもそんなことなどまるで意に介さず、目の前の敵機と、お互いの言葉にのみ意識を集中させるのだった。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

あれ(・・)は、ヤジマ商事内部では〝ベータ事件〟と呼ばれている――いや、呼ばれていた」

 

「ベータ事件……呼ばれて、いた……?」

 

「ああ。あれ(・・)はヤジマ社内でも、最大のタブーのひとつだからね。ラプラスの箱と同じだよ――迂闊に開けば火傷じゃあすまない、ヤジマ商事が内部からひっくり返る禁断の箱。故に、ベータ事件という名で呼ぶ者さえ、もう社内にはほとんどいない」

 

「ヤジマ商事にとっての、ラプラスの箱……」

 

「ガンプラバトル――プラフスキー粒子の発見からこっち、趣味・玩具の世界では圧倒的な市場(マーケット)として君臨しているガンプラも、電脳(ネット)世界ではまだまだシェアは低い。VR・AR技術なども発展してきたけれど、ガンプラをビデオゲームとして扱うと、どうしても現実のような自由度は再現できない。塗装や仮組みのシミュレーターとしては、優秀だとしてもね」

 

「その隙間を埋めるのが、ガンプラバトル・オンライン(GBO)だという話ですね」

 

「ふふっ……その利発さには好感が持てるよ、エイト君。製作段階からの再現ができないなら、完成品を読み込めばいい。ガンプラの楽しみのうち〝作る楽しさ〟を大胆にも現実世界に丸投げして、大規模・多人数での同時対戦の楽しさや、現実には再現が難しいシチュエーションの実現を追求した、電脳世界の新しいガンプラバトルのカタチ――それが、GBOの目指したものなのさ」

 

「トゥウェルヴ・ドッグスやレギオンズ・ネスト、ジャイアント・キリングもそうですね。世界大会レベルならともかく、通常のバトルシステム一台じゃあ、三対三が限度ですから」

 

「そうだね。ともあれ、GBOという新しいカタチは、今こうして世に出ているわけだけれど――新しいモノを作るときには、必ずテストというのが行われる。ヤジマほどの大企業が、金と時間と労力とをつぎ込んだものなら、特にね」

 

「テスト……オンラインゲーム……ベータ事件……あっ」

 

「そうさ、エイト君。今やヤジマのタブーと化しているベータ事件。それは、ベータ版GBOの限定稼働試験〝クローズド・ベータ〟中の出来事なんだよ。――イブスキ・キョウヤは、その参加者の一人だった」

 

「クローズド・ベータ……ナノさんは、それに関わりが?」

 

「確かに、私もそこにいた。開発室室長の娘で、それなりには名の知れたガンプラファイター。そして、イブスキ・キョウヤと同じ試験参加者(ベータテスター)の一人としてね……しかしキミは優しいね、エイト君。もう、薄々感づいているんだろう? 私は、ベータ事件に〝関わった〟どころじゃあない、ってことに」

 

「……まさか、ナノさん!」

 

「ああ、その、まさかさ」

 

 七〇機目の標的機(ハイモック)を、レッドイェーガーの銃弾が貫いた。その爆発に照り返され、ナノカの表情は、読めなかった。

 

「ベータ事件の首謀者は、二人。イブスキ・キョウヤと……私だよ」




第二十五話予告

《次回予告》
「やれやれ、やっと出番かと思ったのですが、上手くいかないものですね。私はもう少し、舞台袖でティータイムにでもしておくこととしましょうか。
「しかしまあ、こうも日陰に引っ込んでいると、体がなまって仕方がありません。そろそろどこかに、誰かに、少し悪戯でも仕掛けてみましょうか――私のヘルグレイズも、久々にプラスチックを砕く感触を味わいたいと、哭いているようです。
「クククッ……どうしてさしあげましょうか。次回の舞台は。こうして構想を練っている時が、人生で二番目の楽しみですね。
「さぁて、また踊らせてあげましょう。この私、イブスキ・キョウヤのシナリオでね」

ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第二十五話『メモリーズⅡ』

「……ねぇ、あんちゃん。あのひと、ぶきみ……」
「ああ全くだな妹よ。独り言でテンション上げれる奴にゃあ、ロクなのがいねえな」
「……(こくこく)」



◆◆◆◇◆◆◆



 もはや恒例となりつつある次回予告詐欺、そして更新の遅れ。すみません!
 社会人になったおかげでガンプラにかけられるお金は増えましたが、いかんせん趣味に裂く時間が足りない! 六月中にもう一回更新はできるかどうか怪しいです……頑張りますが! たぶん無理!
 こんな感じで続けてきたドライヴレッドも、来月末で一周年です。今後も読んでいただければ幸いです。感想・批評もお待ちしています!


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