ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

30 / 67
Episode.26 『トゥウェルヴ・トライブスⅠ』

 八月の第二週――学生にとっては夏休みのど真ん中、そして社会人にとっては貴重な盆休みの直前、そんな週末である。気温は連日三〇度越えを記録し、日によっては三五度すら超えることもある、そんな真夏の熱気の真っただ中。

 仮想現実(VR)であるはずのGBO特別ラウンジ・CGS基地(クリュセ・ガード・セキュリティ・ベース)もまた、現実世界に勝るとも劣らない熱気に包まれていた。

 

「いっやァ! まるで祭りだぜェ、こいつはァ!」

 

 威勢よく外ハネした赤髪、夏合宿の時に見た作務衣姿のナツキが、ウキウキワクワクといった様子で周囲を見渡す。その右手には、安い発泡スチロール製のカップに入った、メロン味のかき氷。しゃべるその舌が薄くメロン色に染まっている。

 

「ナツキさん、いつもよりテンション高いですね」

「応よ! 祭りではしゃがねェで、いつはしゃぐってんだよ! テメェも喰え喰え、どうせVR(ヴァーチャル・リアリティ)だ、太りゃあしねェよ! あっはっは!」

 

 大声で笑いながら、ナツキは購入(ダウンロード)したフランクフルトをエイトの口に突っ込んでくる。エイトはむせ返りそうになりながら、辺りの景色を見渡した。

 原作では殺風景なコンクリートの平面に過ぎなかったCGSの施設だが、今は出店や幟が立ち並び、色とりどりのハロやプチモビ、モビルワーカーが所狭しと並べられている。火星の赤い夕暮れ空に連なる万国旗は、公国軍(ジオン)やネオジオンにクロスボーンバンガード、地球連邦、ユニオン、人革連、AEU、オーブにプラント、果ては様々なエースパイロットたちのパーソナルマークといった、ガンダム仕様となっていた。駐機場のど真ん中には巨大な和太鼓を乗せた櫓が組まれ、テイワズの組員らしい入れ墨の兄さんたちが、汗だくになって叩きまくっていた。櫓の周りにはNPCらしい和楽器の楽隊が練り歩き、賑やかな祭囃子を奏でている。

 その、煌びやかに飾り立てられた会場内を、数え切れないほどのGBOファイターたちが行き来している。連邦のノーマルスーツ姿、オーガスタ研のパイロットスーツ、色違いのガンダムマイスターの制服、場所にふさわしく鉄華団のジャケット姿のチームもいる。この時期の特別仕様なのか、浴衣や法被姿のアバターも多い。だがその服装に関係なく、ファイターたちはみな一様にテンションの上がった様子で、出店の食べ物や祭りの雰囲気に興じている。

 

「やれやれ、予想はしていたけれど……ビス子は本当にお祭り娘だね」

「そういうテメェも浴衣に団扇に金魚の袋じゃねェか、赤姫ェ。いつの間に用意したんだよ、そんなアバターをよォ?」

「ふふっ……私を誰だと思っているんだい、ビス子。ランク七七位、〝赤姫(レッド・オブ・ザ・レッド)〟ナノだよ?」

 

 なぜか自慢げなナノカは、あえての白地に真っ赤なハイビスカスが幾重にも咲き誇る、色鮮やかな浴衣姿。手に持った団扇と金魚の入った水袋も合わさって、夏祭りに来た良家のお嬢さん、といった感じだ。

 そんな二人の格好(アバター)を見ながら、エイトは自分の格好(アバター)を少し後悔していた。∀劇中の、ロラン・セアックが農作業をしていたときの私服。パイロットスーツは堅苦しすぎると言われたのだが、それ以外にエイトが持っているアバターはこれだけだったのだ。

 

(ナノさんにとって大切な大会……なんだけど、GBOのバトル以外の楽しみ方……僕も、もうちょっとやってみてもいいのかも知れないなぁ……)

 

 そんなことを思いながらぼんやりと視線を上げれば、原作ではでかでかと鉄華団のマークをペイントされることになる基地施設の壁面に、横断幕が掲げられていた。

 

【GBO運営本部主催大会〝ハイレベル・トーナメント〟予選会】

 

 そう、今ここは、この夏に二度行われる大規模大会の一つ――ハイレベル・トーナメントの予選会、その控室となっているのだ。そこら中を転がり回っているハロの頭をポンとたたけば、空中ウィンドウに大会ロゴマークとともに、現在の予選会の状況が表示される。

 全部で一五〇近いチームがエントリーしたこの大会だが、トーナメント本戦に進めるのは予選を突破した十二チーム、それに本部推薦のシード枠の二チーム、合わせて十四チームだ。

 土日の二日間に分けて行われるこの大会、一日目の今日は予選会〝トゥウェルブ・ドッグス〟が開催されている。

 

「もぐもぐ……はぁ。ナノさん、ナツキさん。僕らの試合までまだ少しありますし、予選会の様子、ちょっと見ておきませんか」

『タイカイ、ミルカ? タイカイ、ミルカ?』

 

 エイトはフランクフルトを何とか飲み込み、近くに転がってきたハロを抱き上げた。空中ウィンドウが投影され、大会インフォメーションが表示される。

 

「あァ、いいぜ。本戦であたることになるヤツらも、いるだろうしなァ」

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず、だね」

 

 ナノカもナツキも、予選を突破することを微塵も疑っていない――それは、エイトも同じだった。ナノカの信頼に応えるには、〝奇跡の逆転劇〟を実現するには、予選程度で立ち止まっているわけにはいかないのだ。

 三人は頷き合って、近くのテーブル席へと腰を掛けた。いかにも夏祭りの出店の、といった安いプラスチック製のテーブルのど真ん中にハロを置いて、エイトは空中ウィンドウをタッチする。

 

『ジョウホウ、ドーゾ! ジョウホウ、ドーゾ!』

 

 予選会〝トゥウェルブ・ドッグス〟は、一つのフィールドに十二チーム・三十六機のガンプラが入り乱れる大規模バトルロワイヤル。予選会は全部で十二フィールド、各フィールドの優勝者が、本戦に駒を進めるというシステムだ。そしてさらに、各フィールドは四つで一つ、第一から第三までのブロックを構成している。エイトたちチーム・ドライヴレッドは、予選Jフィールド――つまりは十二のフィールド中の十番目、第三ブロックに割り振られている。

 ハロの表示によるとたった今、第二ブロックが始まったばかりらしい。自分たちの出番までに、すでに決着した試合のダイジェストを確認する時間ぐらいはあるだろう。

 

「えっと……第一ブロックの試合映像、もうアップされてますね。各フィールド、決勝トーナメント出場チームを中心に、で良いですよね?」

「そうだね、そうしよう。操作は任せるよ、エイト君」

「はい、ナノさん。じゃあハロ、頼むよ。本戦出場チームの戦闘映像を――」

『サイセイ! サイセイ!』

 

 エイトがいくつかのボタンをタッチすると、ハロが左右の羽根をパタパタさせ、試合の映像を投影し始めた。ナツキはかき氷の残りを口にかき込み、ナノカは扇子をパシンと閉じ、エイトは身を乗り出すようにして映像に見入った。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ――予選第一ブロック・Aフィールド――

 

 フィールドは孤島。時間は夜。南国の樹々が生い茂る絶海の孤島に、それを取り囲む、真っ黒な夜の海。現実のサイズにして百キロメートル四方といったところだろうか。本来は、月明かりのみが頼りの狭い島内で、挟撃・闇討ち何でもありの乱戦が繰り広げられるべきフィールドなのだろうが……上陸しているガンプラたちの動きが、おかしい。皆一様に海に向かって銃火器を構え、何かにおびえるように身を寄せ合っている。ルールはバトルロワイヤルだというのに、明らかに複数のチームが協力し合っているような形だ。

 

『畜生、畜生っ! あのカエルどもめ! 次はどっちだ、どこからくるんだっ!』

『おい、ビビッて味方を撃つなよ。まずは全員であのカエルども狩って、それからうわあああああっ!?』

 

 どんッ、ぐしゃあああん――通信は雑音と共に途切れ、浜辺でGNロングライフルを構えていたジンクスⅢが撃墜された。他の機体たちはいっせいにその方向へ銃を向けるが、そこにあるのは燃え盛るジンクスⅢの残骸と、何かが飛び込んだらしい、暗い海面の波紋のみ。

 

『くそっ……このままじゃなぶり殺しじゃあねーか、クソガエルどもめぇぇぇぇッ!』

 

 フライトパック装備のM1アストレイが、我慢しきれないといった様子でビームライフルを辺り一面に乱射し始めた。狙いもろくにつけず、効果が薄いのも考えず、次々と真っ黒な海にビームを撃ちこむ。

 

『お、おい! 乱戦になったらカエルどもに付け入るスキを与えて……』

『お、俺も我慢できねえ! 撃てぇっ、撃っちまえ!』

『わ、わああっ! よ、予選なんかで負けてたまるかよぉぉっ!』

 

 ライフルを、キャノンを、マシンガンを、浜辺に集合していた十機以上のガンプラたちが、一斉に海に向かって乱射し始めた。ビームと実弾の入り混じった弾幕は爆音を響かせながら闇色の海面に吸い込まれていき、無駄なエネルギーを湯水のごとく消費していく。

 最後まで冷静さを保っていた黄色いアンクシャ(アッシマーもどき)のパイロットも、狂乱ともいえるこの状態にもはやなす術はなかった。

 

『えぇい、しょうがない。こうなったら、破れかぶれだ……がっ、は……っ!?』

 

 両腕のビーム砲を構えようとした、その時だった。背後の密林から染みだしてきたような濃緑色の太い腕が、無音でアンクシャの首を折り、続けて背中に太いナイフを突き立てた。

 

『か、カエル野郎……きさま……っ!』

「黙れ」

 

 無音でナイフをねじり、同じく無音で引き抜く。アンクシャが砂浜に倒れる時に少しだけ音はしたが、この狂乱のなかでそんな僅かな異変に気づく者などいない。濃緑色の腕は再び密林の闇に沈み、そのパイロットは秘匿回線で仲間に通信を送る。

 

「〝ヤドク〟より〝トノサマ〟へ、対象の無力化を確認」

「〝トノサマ〟了解。次は左のアストレイだ。対象後方のドライセンがバズーカを持っている、そいつの誤射(フレンドリーファイア)を装え。あとは勝手に潰しあってくれる。〝ガマ〟、敵集団の目を逸らせ。〝ヤドク〟、擲弾筒(グレネード)射撃用意。カウントから5セコンドで実行だ」

「〝ガマ〟、了解」

「〝ヤドク〟、了解」

「カウント。3、2、1、今」

 

 密林の奥で、輝度を押さえた仄暗いモノアイがピンク色に光る。その数は、二つ。同時、暗い海面の底でも、薄暗いモノアイがひとつ、揺らめいた。

 それからきっかり五秒後、真っ黒だった海面が突如盛り上がり、凄まじい飛沫を散らしてはじけ飛んだ。弾幕を張っていた地上のファイターたちの間に、一瞬の安堵が広がる。水中で威力が減衰されるとはいえ、あれだけのビームを撃ちこんだのだ。どれか一発が、あの一ツ目(モノアイ)ガエルを撃ち抜いていてもおかしくない。この水柱は、その爆発に違いない。いや、ぜひともそうであってくれ――

 

『や、やったか……!?』

 

 ドォォォンッ! 祈るように呟いたM1アストレイの背中を、巨大な爆発が襲った。フライトパックは大破爆散、M1アストレイはよろめきながらも何とか踏みとどまり、背後を振り返る。するとそこには、ジャイアント・バズを担いだドライセンがいた。その砲口からは、硝煙が白くたなびいている。

 

『な、何しやがるてめぇッ! カエル野郎さえ片づけりゃあ、すぐに裏切ろうってか畜生め!』

『ち、違う! 私じゃない! や、やめぎゃあっ!』

『おいやめろ、やり過ぎだ! 一応は同盟を組んだ仲、ぐはっ!? おい卑怯だぞお前ッ!』

『や、やだっ! オレたちが本戦に進むんだ! おまえらは先に死ねぇぇっ!』

 

 そこから先は、泥沼だった。疑いが恐怖を呼び、疑心暗鬼が引き金を軽くする。銃声、砲声、爆発音。悲鳴と怒号、装甲を裂くビームサーベル。

 ものの三分とかからず、十機以上いたガンプラたちは同士討ちにより壊滅した。

 

『へっ、へへっ……い、生き残ったぞ畜生め! カエル野郎も落として、他の奴らも全滅だぁっ! オレのチームが本戦に、ぐがッ!?』

 

 瓦礫の山の中に立った一機、満身創痍で立っていたM1アストレイ。その首筋に、分厚く野太いアーミーナイフが突き立てられていた。それは人間であれば、確実に脊髄を断ち切る致命的な一撃。

 ナイフの柄を握るのは、ずんぐりとした巨体。森林迷彩を思わせる濃緑の装甲に、太い腕と足、半ば胴体にめり込んだような単眼(モノアイ)タイプの頭部。

 

『か、カエル野郎……てめぇ、謀った、な……ッ!』

「その通りだ。我が作戦指揮に狂いはない」

 

 一切の無駄なく、ナイフを引き抜く。オイルをまるで血のように噴き出しながら、M1アストレイはがっくりと砂浜に倒れ伏した。

 オイルの血を浴び、月明かりに照らされたそのガンプラは、さながら無言の殺人マシーン。ネオジオンのミサイル庫とも揶揄された重爆撃型MSを、大胆にも特殊部隊仕様に改造した機体。その名を、ズサ・ダイバーという。

 

「〝トノサマ〟よりフロッグメン各機へ。状況は終了した。帰投し、休息。本戦に備えよ」

「〝ガマ〟、了解」

「〝ヤドク〟、了解」

 

 ズサ・ダイバーは砂浜中に広がる瓦礫の山を一顧だにせず、無音でその場を立ち去るのだった。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「――チーム・フロッグメン。特殊部隊仕様のズサか。造形と戦闘スタイルを見るに、水陸両用に改造しているね。ズサなのにミサイルをあまり使わないとは、そのスペースに何か別のモノを詰め込んでいるのか……?」

「けッ、ちまちま小細工しやがってよォ。本戦であたったら、出会い頭に一発ブチ撒けてやるぜ」

「公開情報によると、三人ともレベル6、つい最近GBOJランキング三〇〇位以内に入ったばかりらしいです……けど、映像を見る限り、ランキングでは強さを測りづらいチームみたいですね」

「要警戒、だね。さて、エイト君、次に行こうか」

「はい。ハロ、次を頼むよ」

『ハロハロ! ツギ、ツギ!』

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ――予選第一ブロック・Bフィールド――

 

「わーっはっはっはっはっはっは!」

 

 いっそ清々しいほどの高笑いが、声高らかに響き渡る。

 フィールドは宇宙、軌道エレベータ近海宙域。青々とした弧を描く地球が背景の半分を埋め尽くす、かなりの低軌道だ。宇宙空間を垂直に貫く軌道エレベータと直角に交差するように、黄金の飛行物体が翔け抜ける。

 機首形状が独特で、カラーリングはド派手な金(ゴールドメッキ)だが――その機体はどうやらAGE-2ダークハウンド、そのストライダー形態のようだ。

 

「遅い! 遅い遅いおっそーーいっ! 遅すぎるわよ、どいつもこいつもーっ!」

 

 ぐんぐん速度を上げていく金色のダークハウンドに追いすがるように、十機数分のバーニアの光が加速を続ける。その中にはゼータ系のウェイブライダーやファトゥム01に乗った∞ジャスティスの姿もあったが、両者の距離は離れていく一方だ。あまりにも大きすぎる加速性能の差に、大半のガンプラは追いかけっこを諦め、足を止めての射撃へと切り替えだした。

 何丁ものビームライフルが一斉に火を噴くが、金色のダークハウンドは、Xラウンダー顔負けの曲芸飛行で掠ることもなく身を躱す。そして、

 

「よーっし、足を止めたわねっ。スケさん! カクさん! やっちゃいなさーいっ!」

「へいへーい」

「了解ダ!」

 

 突如、軌道エレベータの壁面が、大爆発して吹き飛んだ。凄まじい速度でぶっ飛んでくる瓦礫を何とか躱したヤクト・ドーガの顔面に、通常の倍以上はある巨大な掌打が叩き付けられた。

 

「どすこぉぉぉぉイッ!」

 

 直撃、粉砕、木端微塵。ヤクト・ドーガは顔だけでなく上半身すべてが粉々に吹き飛び、宇宙の彼方へとすっ飛んでいった。

 

「Iフィールド・ビーム・ハリテ……スモー・レスラー、アイル・ビー・ヨコヅナチャンプ」

 

 人間ならば、筋骨隆々の巨漢とでも表現すべき巨体。機体のベースはモビルスモーだが、細部の改造は大胆かつ緻密。金色塗装(ゴールドメッキ)されたその両腕は並のMSの脚部よりも太く、張り手の一撃でここまでの破壊力を発揮できたのも頷ける。

スモーのファイターであるドレッドヘアの大男は、南米系の色黒な顔に満足げな笑みを浮かべた。

 

「拙者のフジヤマ・スモー、今日も絶好調ダ」

「おいカークランド、そのデケェ図体どけな」

 

 ビュオッ、ビュオォォォォッ! 震える様な、独特なビーム放射音。激しく渦を巻くビーム弾(ドッズ・ライフル)が、次々とガンプラたちを撃ち抜いていく。その射線を逆に辿っていけば、破断した軌道エレベータのシャフトから顔をのぞかせる、長銃身のドッズライフルが目に入る。

 

「ま、どかなくても撃つけどな。オレの百錬式(ヒャクレンシキ)の、射界に入った時点でよ」

 

 その長銃を構えるのも、やはり金色塗装(ゴールドメッキ)のガンプラ。ベースは鉄血のオルフェンズよりテイワズ開発の万能型高性能機、百錬。それを百式カラーにリペイントしている。そして背部には、これも百式を思わせるウィングバインダーを背負っていた。

 

「フ、フ、面白イ。やってみるカ、サスケ?」

「おいおい熱くなるんじゃねーよ、軽い冗談だろ。気楽に行こうぜ(テイク・イット・イージー)力士の大将(ヨコヅナ・チャンプ)?」

 

 バトル中にも関わらず、味方同士で火花を散らすフジヤマ・スモーと百錬式のファイター。しかし、その二人の間に割り込むように、金色のダークハウンドが急激な弧を描いて戻ってきた。

 

「ちょっと二人とも、バトル中でしょーが! いい加減にしなさいっ!」

「へいへーい、おかしら」

「すまヌ、おかしら」

 

 言いながら、ビームハリテとドッズライフルで、さらに一機ずつを撃破。

先ほどの半分ほどとなった弾幕をすり抜けながら、金色のダークハウンドは敵集団に突撃した。

 

「もーっ! アタシのこと、おかしらって言わないのっ。アタシは――ッ!」

 

 突っ込みながら、ストライダー形態からMS形態へ。グラハムスペシャルを思わせる卓越した技量で、一切速度を落とさずに変形を完了。そこに現れるのは、X字型のスラスターを背負った、金色のAGE-2ダークハウンド。その右手には、湾曲した分厚いビーム刃を噴出するビームカトラスが握られている。

 

「AGE-2リベルタリアを駆る、黄金郷(エルドラド)の女海賊! キャプテン・ミッツさまよーっ!」

 

 高らかに叫びながらビームカトラスを振り下ろし、掲げられたシールドごと∞ジャスティスを両断する。機体を逆袈裟に斬り裂かれた∞ジャスティスは、一瞬の間をおいて爆発。リベルタリアの金色の装甲はその爆炎を反射して、より煌びやかに輝いた。

 

「わーっはっは! さーて敵さん、あと何機かしらっ?」

「何機でも、来イ。おかし……キャプテンは、オレが守ル」

「海賊稼業も楽じゃない、ってな……!」

 

 三機の金色のガンプラはそれぞれに、掌打を、長銃を、曲剣を構え、残り少なくなった敵集団へと突撃していった。リベルタリアのファイターは――コテコテの海賊コスプレをしたプラチナブロンドの小柄な少女は、声高らかに宣言した。

 

「チーム・エルドラド! この大会も、アタシたちがぶんどるわーっ!」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「チーム三人とも金ピカかよ。すげェセンスしてんなオイ」

「そうですね! カッコいいですね!」

「確かに格好はいいけれど……エイト君。まさか今から私たちも金メッキしようなんて、言わないでおくれよ? 時間も資金も、ちょっとばかり厳しいなあ」

「い、いやまてテメェら! まずアレ、カッコいいのか? 全身金ピカだぞ? 実戦ならただのアホだぜ、ありゃァ!? あんなの正気でできるのはグラサンの大佐ぐらいだぜ!?」

「……まあ、冗談はともかく。あの塗装(ゴールドメッキ)にはABC(アンチビームコーティング)効果もあると見た。チーム内の役割分担も明確だね。意外と、私たちとタイプの似たチームかもしれないよ、ビス子」

「ま、マジでか。オレたちャあいつらのお仲間扱いかよッ!?」

『ツギ、イクゾ! ツギ、イクゾ!』

「ああ、ごめんよハロ。ナノさん、ナツキさん。次の映像、出しますね」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ――予選第一ブロック・Cフィールド――

 

 漆黒の闇を照らす、砂漠の夜空の蒼い満月。冷たい月光を遮るように、光が激突した。

 片方は、計三発のサテライトキャノン。マイクロウェーブの恩恵を受けた光の激流が迸る。

 もう片方は、これも計三発分のツインバスターライフル。核シェルターすら破壊する黄金の光が、猛烈な熱量を伴って放出される。

 双方の光は粒子の欠片を散らしながら押し合い――そして、

 

『くっ、押し負けるのか……さ、サテライトキャノンだぞぉぉぉぉ!』

 

 均衡は崩れ、勝負は決まった。サテライトキャノンを押し切った圧倒的なエネルギー量がガンダムXを、そしてその左右に付き従っていたチームメイトのGビットを光の中に飲み込み、全てを押し流していった。

 

『フ……安らかに眠れ、我が好敵手よ。我が〝呪われし右眼(カースド・ライト)〟の糧となれ』

『ククク……俺達の相手を務めるには、世界の闇を知らなすぎるんだよ、お前ら』

『悲しいね、戦争なんて。許しておくれよ、僕たちが強過ぎることを』

 

 そして月夜に残るのは、悪魔的なシルエットを持った、三機のガンプラ。悪魔の翼(アクティブクローク)を装備した黒いウィングゼロカスタム、黒地に金の装飾(エングレーブ)が施されたエピオン、そして黒い堕天使の翼(ウィングスラスター)を装備したデスサイズヘルカスタム。なぜか三機とも大型の実体剣と、ツインバスターライフルを装備している。そして三機のファイターは三人とも体のどこかに包帯を巻いており、そのうち二人は片目に眼帯をつけていた。残りの一人は漆黒の仮面をつけている。

 

『前世からの因縁に従い、この戦場に馳せ参じたが……こうも歯応えがないとは。約束の地は、今ここではなかったということか』

 

 黒いゼロカスタムのファイター、GBOJランク第一〇三位〝痛覚遮断(ペインキラー)〟龍道院煌真は、「やれやれだぜ」とでも言いたげに首を振った。

 眼下を見下ろせば、すでに撃墜したガンプラたちがいくつも転がっている。このトゥウェルヴ・トライブスもすでに終盤、ウィンドウを開いて戦況を確認すれば、残るチームはすでにあと二つ。自分たちと、もう一つだけだ。

 撃墜スコアでは、自分たち――チーム・黒ノ聖騎士団(ノワール・レコンキスタ)が三チーム・九機を撃破。その間に相手チームは、七チーム・二十一機を撃破している計算になる。間違いなく、手練れだ。

 

『どんなチームかは知らねぇが、俺達の敵じゃねぇ。そうだろう〝凶星〟?』

『フッ……その名で呼ぶなよ、〝黒刃〟。今の俺は普通の中学生、龍道院煌真でしかないぜ』

 

 煌真はニヤリと、口の端を釣り上げるように笑った。少し陰のある感じを演出するのが重要だ。

 

『あ、せんぱ……じゃない、煌真さん。敵の反応ですよ』

 

 それが、デスサイズのファイターの、最後の言葉となった。

 

「落ちやがれ!」

 

 ドッ、ヴァアアアアアアアア!! ガンプラを丸ごと呑み込むほどの極太のビームが、まるでビームサーベルのように振り回された。

 デスサイズは機体の半分が一瞬で消滅し、あっという間に撃墜判定を下される。直前で身を躱したゼロカスタムは無傷だったが、エピオンは腰に下げた実体剣の刀身を半分ほど持っていかれてしまった。

 

『い、一撃……だと……!?』

『くそっ、来るぞ〝凶星〟! 下だ!』

 

 驚愕する煌真が慌てて地表に目を移すと、月明かりだけが照らす荒涼たる砂漠を、ホバー走行で駆け抜ける機影が確認できた。背中の太陽炉からGN粒子を吹き散らし、金属光沢の蒼(ブルーメタリック)の装甲に月光を照り返す、三機のガンダムタイプ。

 彼らは、チーム・ブルーアストレア。エクシアの試作型、アストレアの名を冠するチームだ。彼らのガンプラは当然、アストレアをベースとしている。その機体名は、チーム名と同じく――ブルーアストレア。

 

「ちっ、一機だけかよ。オレの攻撃を避けてんじゃねえよ」

 

 GNビームバズーカを振り回していた機体、ブルーアストレア一号機のファイターが、怒ったような三白眼を一層つり上げて、不満げに呟く。

 

「まぁまぁカリカリしなさんな、ってね。ユウ兄ぃにしちゃ、上々じゃん。きゃはは♪」

 

 両手に二丁のGNビームライフルを構えた二号機のファイター、口元から八重歯の覗くボーイッシュな少女が、けらけらと笑った。

 

「ユウ、ヤエ、無駄口はやめろ。油断大敵だ」

 

 両腕にGNソードとGNシールドを装着した三号機のファイター、理知的な銀縁眼鏡の男が、他の二人をたしなめた。

 

「一意専心、一気呵成だ。散開するぞ、あとはいつも通りだ」

「りょーかい、ヨウ兄ぃ。やっちゃるぜーっ♪」

「おいヤエ、落とすのはオレだからな。横取りすんなよ!」

「まったく、騒々しい弟妹だ……チーム・ブルーアストレア! 疾風怒濤、攻め立てる!」

 

 三機の蒼いアストレアは、長兄・ヨウの合図で一斉に散開した。砂漠の砂を巻き上げながら弧を描くようにホバー移動、上空の煌真たちに牽制射撃を繰り返しつつ、包囲する。

 

『ふ、フンッ! この程度の窮地、前世で何度も……ぐはっ!?』

 

 次々と射ち上げられるGNビームの弾幕が、ゼロカスタムとエピオンの装甲を削っていく。牽制の中に織り交ぜられる本命の一撃が、非常に的確――いや、三機のブルーアストレアたちのフォーメーションによって、その位置に追い込まれているのだ。

 GNビームバズーカがエピオンのウィングを掠り、塗装がジュワリと音を立てて溶け落ちた。エピオンのファイターの頬を、冷たい汗がつーっと伝う。

 

『く、くそっ。これじゃジリ貧だ……こいつは使いたくなかったが、仕方ねえ!』

『お、おい〝黒刃〟! まさかお前、あの禁断の力を……!』

『へっ、そうさ……こいつは、俺の命を吸って輝く、禁断の呪法……師匠、使うぜこいつを。言いつけを破ってすまねぇが、すぐに俺もそっちに行くから地獄で待っててくれよな……!』

『やめろ〝黒刃〟っ! それを使えば、機体もお前も、ただでは――』

『破邪ッ! 龍皇ッ! 神獄剣ッ! うおおぉぉぉぉッ!!』

『こ、〝黒刃〟――――ッッ!!』

 

 こんな時でも脳内設定に忠実な二人は感情たっぷりに叫び、エピオンは折れた実体剣からビーム刃を噴出させて地上へ急降下した。狙うのは、GNビームバズーカを持ったブルーアストレア一号機。重く大きく取り回しづらい重火器を持ったままでは近接格闘はやりづらいだろう、という読みがあっての突撃だった。しかし、

 

「おいアニキ!」

「使え、ユウ!」

 

 一号機は突然バズーカを投げ捨て――いや、三号機へと投げ渡した。同時、三号機は一号機へ向かって、右腕のGNソードを放り投げている。ユウは当たり前のようにGNソードを受け取り、右腕に装着、GN粒子コーティングされた刀身を展開。まるで最初から自分の武器だったかのように、自然な動作で構えを取った。

 

『な、なにィィっ!?』

「ほーら、よっとお!」

 

 一閃、胴切り一文字――真横に振り抜かれたGNソードは、エピオンを横一文字に切り裂いた。

 

『こ、〝黒刃〟が……こうもあっさりと……!』

 

 上半身と下半身に分かれて砂丘に倒れるエピオンの姿に、煌真はわなわなと手を震わせた。回避運動が鈍った瞬間、ブルーアストレア二号機のライフルがゼロカスタムのバックパックを直撃し、アクティブクロークが大破する。メインバーニアを失ったゼロカスタムは、衝撃と共に砂漠へと墜落してしまった。

 

「きゃはっ、落ちた落ちた♪」

「へっ、まだ撃墜じゃねえ! あいつもオレがいただくぜ!」

「あーっ、ユウ兄ぃずるい! ヨウ兄ぃ、バズーカ貸してバズーカ!」

「まったく。油断大敵だと……まぁいい。ほら、使え」

 

 GNソードを振り上げ、飛びかかってくる一号機。その後方では二号機と三号機が武器を投げ渡して交換し、GNビームバズーカの砲口がこちらに向けられた。

 

『ゼロ……俺に、未来を……』

 

 ――見せられるまでもない。GBOJランク第一〇三位〝痛覚遮断(ペインキラー)〟龍道院煌真の率いるチーム・黒ノ聖騎士団(ノワール・レコンキスタ)は、今大会において、予選敗退が決定したのだった。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「会話から察するに、ガンプラ好きの三兄妹でのエントリー、ってところだね。……少しばかり、羨ましいかな」

「武器の共有と高練度のコンビネーション。チームの全体として全距離対応の万能型ってェ感じだなァ。一機ごとには武装が最低限、その分軽くて高機動、か。なかなか考えてるじゃあねェか」

太陽炉(GNドライブ)の出力も気になりますね。気軽にポンポン撃っていましたけど、あのGNバズーカ、ハイメガランチャー並みのビームでしたよ。細身の機体でしたけど、すごい粒子貯蔵量だ」

『ツギ、イクゾ! ツギ、イクゾ!』

「そうだねハロ、頼むよ。えっと、Dフィールドの本戦出場チームは……」

『サイセイ! サイセイ!』

 

 ハロが機械的に告げ、映像の再生を始める――そして、数秒。映し出された光景に、エイトたちはただ、絶句するしかなかった。

 

「なっ……ど、どうなってるんです、これっ……!?」

 

 




第二十七話予告

《次回予告》

「さーって、〝ハイレベル・トーナメント〟本戦出場をかけた予選大会〝トゥウェルブ・トライブス〟の第一ブロックが終了しましたぁぁ! 現時点で予選突破が決定しているのは、次の4チームですっ♪
「謎の特殊部隊、闇討ち集団、カエル野郎! 技巧派、チーム・フロッグメン!
「キンピカキラキラ、ゴールドメッキ! 元気いっぱいの海賊娘が率いる、チーム・エルドラド!
「トリニティを思わせる三兄妹のチームワーク、高出力太陽炉が粒子を散らす、チーム・ブルーアストレア!
「そして、予選では異常なほどに短い試合時間で敵機を全滅させた実力派、チーム・ゼブラトライブ!
「どのチームも個性的で、ワタシ、もうきゅんきゅんしちゃってまぁぁぁぁすっ☆」

ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第二十七話『トゥウェルヴ・トライブスⅡ』

「ガンプラネットアイドルにして〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟が十位、ワタシことゆかりんの名司会により、第二ブロック以降の予選も、順調に進行中でございまぁぁすっ♪ ……なんちゃって☆
「さてさてそれではぁぁっ♪ 本大会予選後半にむけてーっ! さあ、みんなも一緒にーっ! せーのっ、ゆっかゆっかりーんっ☆」



◆◆◆◇◆◆◆



今回は、投稿のペースアップを頑張ってみました。人間、やればできる!(笑)
まだエイトたちが戦ってもいないのにまるまる一話使ってしまいましたが、これ、まだ予選なんですよ。トーナメント始まってもないんですよ。長くなりそうな予感。そして自分で「やる」と言っておきながら、出場ガンプラ作りが果たしてどの程度できるのか……頑張ろうと思います!
感想・批評お待ちしています。どうぞよろしくお願いします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。