ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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ある公立図書館のパソコンの検索履歴に、

「駆逐艦 ハイエース ダンケダンケ」

……その本ぜってぇここにはねぇから!!

日本はとても平和だと思った。



Episode.28 『トゥウェルヴ・トライブスⅢ』

 

 ――予選第三ブロック・Jフィールド――

 

 海に囲まれた人工島と、立ち並ぶ前世紀のビル群。高層部は薄汚れてひび割れたコンクリートがむき出しになり、低層部は這い上がってきた植物にかなりの割合で侵食されている。誰がどう見ても、完全な廃墟島。ビルのグレーと植物の緑に支配されたその島は、海と空の抜けるような青さによって、がらんどうの廃墟としての趣がより強調されていた。

 〝トゥウェルヴ・トライブス〟第三ブロック・Jフィールド。エイトたちが戦うフィールドは、廃墟島とその周辺海域となったのだ。

 

「廃墟島か……随分趣味的なフィールドですね。クロスエイトの小回りが活かせそうです」

 

 エイトたちドライヴレッドの初期配置(スタート)は、島から少し離れた海上だった。レッドイェーガーとドムゲルグはカタパルトから飛び出してすぐに着水、水上ホバー走行で白波を立てて海上を突っ切っている。単独長距離飛行が可能なクロスエイトは、上空からその二機を見下ろす位置で飛行中だ。

 

「軍艦島がモデルのようだけれど……モビルスーツが動き回れるよう、道幅などはかなり修正されているね。どうやらドムゲルグでも、肩をぶつけずに済みそうだよ、ビス子」

 

 ナノカはずっとおろしっぱなしだった四ツ目式(クァッドアイ)バイザーをシャコンと跳ね上げ、言った。この超長距離からでも詳細な地形データを測定したらしい。レッドイェーガーのセンサー類は、感度だけでなく有効半径も絶大なようだ。

 

「はンッ、ご心配どーも。道が狭けりゃ、島を更地にしてやるだけぜ! 行くぞ、エイトォ!」

 

 ナツキは威勢よく言い捨て、エイトの返事も聞かずにシュツルム・ブースターを点火した。ドムゲルグはまるで巨人に蹴っ飛ばされたかのように急加速、エイトとナノカを置き去りにして、廃墟島へと突っ込んでいった。ナツキの急発進はいつものことだが、シュツルム・ブースターを使われてしまうと、クロスエイトでも追いつくのは少々骨が折れる。エイトはフットペダルをぐっと踏み込み、メインバーニアの出力を上げた。

 

「あ、はいっ! ナノさん、後衛お願いします!」

「了解だ、エイト君――ビス子、下から来るよ」

「あん? 水中かァッ!」

 

 ザバァァッ! 海中から飛び出した黒いゴッグが、巨大な(クロー)を大きく開いて襲い掛かってくる。シュツルム・ブースターの直線加速がアダとなり、ドムゲルグは回避機動を取ることができない。クローの直撃コースだ。敵ファイターの勝ち誇った声が通信機から響く。

 

『ふはは、かかったなイノシシ女ぁ!』

「誰がイノシシだコラァァッ!」

 

 ゴッシャアアアンッ! ナツキは叫び、むしろ加速。ドムゲルグの全体重を乗せに乗せたショルダータックルをブチかます。原作アニメ(ファーストガンダム)劇中ではガンダムハンマーすら受け止めたゴッグのクローを叩き折り、分厚い装甲をへこませて、数百メートルも吹き飛ばした。

 

『ごばぁっ!? こ、このホエール・ゴッグが、体当たりなどで……!』

 

 石が水を切るように跳ね飛ばされたホエール・ゴッグは、全身各部から火花を散らしながらも、急速潜航で海中に逃げ込んだ。

 

「はっはァ、逃がすかよォ!」

『船長、ここは俺たちに!』

『任せてくれよ、船長!』

 

 ゴッグを追撃しようとしたナツキの前に、二機のガンプラが急浮上、海面を突き破って飛び出してきた。ベースはジ・オリジンのヴァッフだが、機体色は濃く深いマリンブルー、両腕には水陸両用機特有の巨大なクローが装備されている。双子のようにそっくりなヴァッフの改造機は、やはり双子のように鏡映しの姿勢で、水飛沫を散らしながら飛びかかってくる。

 

『このゼー・ヴァッフのクローなら!』

『どんな装甲でも、このクローなら!』

「邪魔だどけェーーーーッ!」

 

 ナツキは叫び、再びシュツルム・ブースターを全力全開(フルブースト)。弾丸のように加速したドムゲルグは、ゼー・ヴァッフを二機まとめて吹っ飛ばして突き抜けた。ご自慢のクローは粉々に割れ砕け、破片となって宙を舞う。

 

「さすがは〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟ですね、ナツキさん!」

 

 制御を失い、無茶苦茶に回転しながら飛んできたゼー・ヴァッフを、エイトはビームサーベルの抜刀一閃で斬り捨てる。左右に両断されたゼー・ヴァッフの残骸は勢いよく水面に落下し、派手な水柱を上げて爆発した。

 

「そんなことばかりしているから、イノシシなんて言われるのさ。ビス子」

 

 苦笑しながらGアンバーを構えたナノカは、冗談のように回転しながらぶっ飛んでいくゼー・ヴァッフのバックパックを、正確に射抜いた。風穴の空いたエンジンブロックはその一撃で爆発炎上。バラバラになった機体の残骸が、方々に散らばりながら海に落ちる。

 

「う、うるせェぞ赤姫! 敵を倒しゃあ文句ねェだろッ!」

 

 少し頬を赤くしながら言い返し、ナツキはドムゲルグの脚部ホバーを切った。シュツルム・ブースターの勢いそのままにドムゲルグは海面下に突入し――そして、数秒。海中で爆発の閃光、ド派手な爆発音とともに海面が盛り上がり、ひときわ巨大な水柱が噴き上がった。弾け飛ぶ水飛沫に混じって、ホエール・ゴッグの手足や装甲が飛び散っている。

 

「どうだ! 文句あっかァ!!」

 

 浮上してきたドムゲルグが、ビシッと人差し指をレッドイェーガーに突きつける。ナツキのドヤ顔が目に浮かぶような仕草だったが、ナノカは「ふふっ」と笑うだけで済ませた。

 

「なっ!? おい赤姫、なんだよその笑いはァ! おいコラぁ!」

 

 吠えるナツキを華麗にスルーしつつ、ナノカは先ほどセンサーで収集した情報をエリアマップに重ね合わせ、チームの共有画面に表示させた。

 

「さて、周囲に敵影はないようだ。水陸両用MSでエントリーしたチームはそう多くないだろうし、やはり主戦場は廃墟島内部だね。反応を見るに、飛行型の機体も少数のようだけれど……不運にも、私たちは初期配置の時点で出遅れたと言えそうだね」

「そうですね……それなら僕は、上空から突入、活路を開きます。ナノさん、援護射撃頼みます。ナツキさん、シュツルム・ブースターの粒子量はどうです?」

「お、おう。まだまだ行けるぜ!」

「それじゃあナツキさんも、一緒に突入をお願いします――これで行きましょう!」

「ああ、エイト君。始めようか」

「応よ、エイトォ! ブチ撒けるぜェッ!」

 

 ファイターの意に応えるように、三機のガンプラはそれぞれのメインカメラで廃墟島をまっすぐに捉える。荒廃したビル群の間を縫うように、ビームや爆発がちらちらと光った。すでに島内でも、戦闘は始まっているようだ――エイトはコントロールスフィアを軽く握り直し、バーニアスラスターを全開にした。

 

「チーム・ドライヴレッド! 戦場を翔け抜ける!」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 廃墟島内部は、モデルとなった軍艦島とは少し様子が違っていた。MSが楽に隊列を組めるほどの太い道が縦横にうねり、その道路の間の不規則な区画を、立ち並ぶ廃墟ビルが埋め尽くすといった構造になっている。MSによる市街戦にちょうどいいサイズにデザインされた、計画的廃墟と言ったところか。

 

「主戦場は……あそこか」

 

 島内を上空から見下ろしながら、エイトは呟いた。島のほぼ真ん中。廃棄された飛行場跡らしい、大きく開けた土地のあたりで、黒煙と爆炎が上がっている。そこで銃火を撃ち交わすMSは、少なくとも十数機。隠すつもりもないのか、むしろ誇るつもりなのか、ファイターたちのやり取りがオープンチャンネルで飛び交っていた。

 

『ふはははは! 即席の連携にしちゃあいい感じだな!』

『協力に感謝するわ。とりあえず、数が減るまでは共闘ね』

『ふんっ! 別にあたしたちは、協力なんかしなくても勝ち残れるんだからねっ!』

『わたくしとお姉さまの邪魔だけはしないでくださいましねっ!』

『りょーかいりょーかい、お嬢さん方よ。いいな、お前らぁ! 同じドム使い同士、ひとまず協力だぞぉ!』

『へい、ボス!』

『ガッテンだ!』

 

 罅割れた滑走路を、一列に並んで駆け抜ける重MSの一団。機体の重さを感じさせないホバー走行、次々と放たれるバズーカの砲撃――前半三機はドム・トルーパー、そして後半三機はドム・トローペンによる六機縦隊だった。

 前衛のドム・トルーパー三機が特殊光波防御機能(スクリーミングニンバス)で隊列を守りながらバズーカで砲撃、後半のドム・トローペン部隊はバズーカとマシンガンとヒート剣とで次々と敵を撃墜している。

 

『ふはは! ダブルストリームアタックだぁ! 三機と三機で九倍の破壊力だぜぇ!』

『ふんっ、何よそのアホっぽい計算!』

 

 計算はアホっぽくとも、ダブルストリームアタックの威力は本物だった。他のチームのガンプラたちも反撃をしているのだが、スクリーミングニンバス三機分の防御力はビームライフル程度では歯が立たず、逆に六機のドムから次々と撃たれるバズーカは並のシールド程度では防ぎきれない。一列に並んだ六機のドムたちは、灰色の砂煙を巻き上げながら、我が物顔で飛行場跡を駆け回っていた。

 エイトは飛行場跡に向けてクロスエイトを加速しながら、突くべき隙を考えた。通信の声から判断するに、あの六機は即席の同盟、臨時のチームに過ぎない。だったら――

 

「ああいうのは、先頭を崩せば……ナノさん、どうです?」

「そうだね、エイト君。もう狙っているよ」

 

 少し離れた高層ビル屋上のヘリポート、レッドイェーガーが片膝立ちでGアンバーを構えている。四ツ目式(クァッドアイ)バイザーをおろし、四つのセンサーアイがキュゥゥンと音を立てて起動する。

 エイトは飛行場跡の外縁をなぞるように飛び、ドムの隊列の前に回り込みながら、ナツキの姿を探した。

 

「ナツキさんは……」

 

 瞬間、視界の端で廃ビルが一棟、豪快に倒れるのが見えた。ナツキが上陸したはずの、港湾施設のあたりだ。ほぼ同時、通信ウィンドウが開き、舌打ちをするナツキの顔が映る。

 

「悪ィ、エイト! 変なのに捕まって、まだ港のあたりだ。オレに構うな、ヤッちまえ!」

「……わかりました。ナノさん、頼みます!」

「了解だ、エイト君」

 

 クロスエイトは急激に方向転換、えぐり込むようなターンで地表スレスレまで急降下、地を這うような低空飛行で真正面からドムの隊列(ダブルストリームアタック)に突っ込んでいく。

 

『お姉さま、正面から敵ですわ!』

『へえ、強気ね。このスクリーミングニンバスを抜ける自信でも……』

 

 ピシュゥゥン――ッ! ほとんど高周波に近い、鋭い銃声。ガラスを切るような高音が空を裂き、刃のように鋭いビーム弾がドム・トルーパーを斬り付けた。

 

「Gアンバーの新機能、高圧縮貫徹弾(ピアッシング)モードだ――貫通力は折り紙付きだよ」

『は、発生装置だけを……!?』

 

 まるでピンバイスで穿孔したような穴が、スクリーミングニンバス発生装置を貫通していた。均衡の崩れた特殊光波シールドが一気に歪み撓んで、防御力が大幅に低下する。その隙を逃すエイトではなかった。

 

「ぅらあぁぁぁぁッ!」

 

 突撃の勢いを全て乗せたヴェスザンバーが、スクリーミングニンバスを薄布のように引き裂いて、ドム・トルーパーの分厚い胸を深々と刺し貫いた。

 

「まずはひとつ!」

『不覚ね……残念……』

『お姉さまああああ!』

 

 二機目のドム・トルーパーがバズーカを構えるが、エイトは曲芸じみた機動で身を翻し、その砲身をすっぱりと輪切りにした。狼狽えるドム・トルーパーの頭を踏みつけにして、跳躍。三機目へと躍りかかる。

 

『わ、わたくしを踏み台にしたぁ!?』

『お姉ちゃんそれフラグぅぅ!』

「貫くっ!」

 

 三機目の左右の肩口に、逆手に持ったヴェスザンバーを突き立てる。その切っ先は、設定上コクピットがあるはずの位置を貫いた。引き抜き、蹴り飛ばしてその場を離脱。ドム・トルーパーは爆発せず、オイルを血のように噴き出しながらふらふらとホバー走行を続け、ぐしゃりと倒れて管制塔の建物に頭から突っ込んでいった。

 

『ボス! あのちっこい赤いの、やりますぜ!』

『あいつ、この間まで最短記録(レコードホルダー)だった……えっと、名前は知らんが、狙撃姫と爆弾女とつるんでるやつ!』

『ふはは! じゃああのちっこいのを落として名を上げる! 行くぞおまえらガハッ!?』

 

 ボスと呼ばれたファイターのドム・トローペンが、胸部と頭部を丸ごと蒸発させて四散した。

 

「ふぅ。まあ、バリアーがなければこんなものさ」

 

 Gアンバー、高出力モード。ビームマグナムに匹敵する高出力弾を、ナノカは超高精度で射ち放つ。二射目はジャイアント・バズを身代わりにうまく逃げられてしまったが……次で、落とす。ナノカはスコープを覗き込みながら、エイトに言った。

 

「エイト君、トローペンは任せてくれるかい。トルーパー、後ろから来るよ」

「はいっ!」

『ぅぉおねぇぇさまのかたきぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

 

 目を真っ赤に血走らせているのが、伝わってくるような叫び声。細長い棒状のビームサーベルを振りかざして、ドム・トルーパーが斬りかかってくる。

 殺陣で負ける気はしないが、ドムの体格と重量差は脅威だ。エイトはサイドステップで振り下ろしを躱し、廃ビルの壁を蹴って三角跳びの要領で上空に跳びあがった。そして両手のヴェスザンバーを変形、長銃形態(ヴェスバーモード)にして構える。

 

「射撃は好みじゃあないけど……!」

『させませんわぁぁぁぁ!』

 

 振り返りさまに突き出されたドム・トルーパーの腕が、ジオングのように射出された。エイトは咄嗟にヴェスバーを撃つが、射出式ハンドの肘からビームシールドが展開、弾かれる。

 

『つかまえたぁ!』

「くっ、迂闊な!」

 

 がっしりと足首を掴まれ、地面に叩き付けられる。アスファルトが割れ砕け、細かな破片が舞い上がった。エイトはすぐさま起き上がろうとするが、今度は左右に振り回され、廃ビルの壁に叩き付けられる。どうやら有線操作用にしては太いケーブルが、ドム・トルーパーの腕そのものと同等のパワーを有しているようだ。力比べとなると、小柄なクロスエイトの不利は否めない。

 

『チーム一機でも生き残っていれば予選は突破! わたくしが生き残って、お姉さまと決勝トーナメントにぃぃぃぃ!』

 

 ギュルギュルルルル――ケーブルが勢いよく巻き取られ、クロスエイトは瓦礫だらけの地面をドム・トルーパーへと引き摺られていく。瓦礫やアスファルトが容赦なく表面塗膜(トップコート)を削る――GBO(オンラインゲーム)でなければ、塗装のやり直しになっていたところだ。

 ドム・トルーパーはビームサーベルを大上段に構え、エイトが手元に来るのを待ち構えている。エイトは瓦礫や地面を掴んで踏ん張ろうとしたが、やはり力比べは不利で、すぐに引き剥がされてしまう。さすがにレベル5以上を参加資格とする大会だけあって、相手のガンプラの完成度も高い。

 

「それっ……ならあぁぁ!」

 

 発想の逆転、エイトはバーニアスラスター全力噴射(フルブースト)で突撃した。相手が驚き狼狽えるその隙に、飛び蹴り(ドロップキック)を叩き込む。顔面を捉えた足裏から、そのまま脚部ヒートダガーを射出。赤熱した刃がモノアイをえぐる。

 

『きゃああっ!? 目が、目がああ!』

 

 ドム・トルーパーは怯み、射出式ハンドが緩んだ。エイトは拘束を振り払って飛び上がり、再び大剣形態(ザンバーモード)にしたヴェスザンバーを振りかぶる。

 

「ぅらあぁッ!」

 

 大上段、一閃脳天唐竹割り――!

 左右に両断されたドム・トルーパーは、ゆっくりと膝をつき、爆発した。

 

「ナノさん、そちらは!?」

 

 爆炎と黒煙を吹き飛ばして舞い上がり、エイトはナノカに呼びかけた。ナノカは通信ウィンドウ越しに無言でほほ笑み、レッドイェーガーに親指立て(サムズアップ)をさせてみせる。眼下を見下ろせば、飛行場跡にはドム・トローペンの残骸らしい壊れた手足が転がっていた。特殊な防御システムの一つでもなければ、ナノカの狙撃から生き延びることは不可能だということか。

 

「いつもですけど流石です、ナノさん」

「キミもよくやったよ、エイト君。少しヒヤっとはしたけれど、ね」

「う……め、面目ないです……」

「ふふ、そう縮こまらないで欲しいな。ちょっとしたイジワルだよ、これは」

「赤姫ェ! そこォ、離れろォォ!」

 

 通信に割り込む、ナツキの怒声。ほぼ同時、レッドイェーガーが足場にしていた廃高層ビルが、凄まじい衝撃と共に傾いた。数万トンはあるコンクリートの塊が、自重を支えきれず倒壊、無茶苦茶な量の瓦礫と土煙を巻き上げた。

 ナノカは崩れるビルから飛び退き、飛行場跡に着地した。ドム・トルーパーが頭から突っ込んでいる管制塔を遮蔽物代わりに、しゃがみ射ちの姿勢でGアンバーを構える。もうもうと立ち上がる灰色の土煙に銃口を向け、四ツ目式(クァッドアイ)バイザーで索敵する。

 

「な、ナツキさんっ!?」

「大丈夫だよエイト君、ビス子は健在だ……それよりも」

 

 土煙の中に飛び込もうとするエイトを制止し、ナノカは(センサー)を凝らした。ドムゲルグは健在、瓦礫の山に埋もれかけていたが、自力で脱出しつつある。機体状況表示(コンディション)を見る限り、ダメージはそれほどでもないようだ。

 問題は、その背後。廃墟とはいえ、数十階建ての巨大建造物を一瞬で瓦礫の山に変えた、その犯人の方だ。

 

「ビス子。また難儀な相手を、一人で抑えてくれていたんだね」

「悪ィな、倒しきれなくてよ。このデカブツ、えらく頑丈らしくてなァ……!」

 

 瓦礫を踏み割る、無限軌道(キャタピラ)の音。大きく人型を外れた、いかにも兵器然とした姿――いやむしろ、その機影はそのまま戦車の延長、発展形。HG規格では絶対にありえない、ドムゲルグですら子供に見える、巨大で分厚い装甲と砲身の集合体。

 

『フッフッフ……さあ、雪辱の時はきた! 覚悟してもらおうか、赤いののチーム!』

『レギオンズ・ネストでの屈辱、忘れないわ!』

『俺たちの生きざま、刻みやがれ!』

 

 それは、60分の1サイズ(パーフェクトグレード)、ジ・オリジン版、初期型ガンタンク――の、肩の主砲も腕の副砲も、全てが超巨大なガトリング砲に換装されたガンプラだった。

 

『全日本ガトリングラヴァーズ! G3(グレート・ジャイアント・ガトリング)ガンタンク! 撃ちまくるぜぇぇぇぇ!』

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ――予選第三ブロック・Kフィールド――

 

 朝霧に白く霞む、まだ若く青い竹林。

 その中に円形に開かれた舞台の様な空間に、無残な残骸と化したガンプラが転がっている。不思議なのは、その残骸たちの全てがすべて、中から外(・・・・)に装甲が弾け飛ぶような壊れ方をしているという点だ。まるで、装甲とフレームの間に爆薬でも仕込まれたかのような――

 

「あややー。またく、手ごたえないヨー」

 

 声と同時、どこからともなく風が吹き、朝霧が晴れる。

 竹林の舞台に立つガンプラはただ一機、中華風の緑と赤とに彩色された、細身で優雅なストライクガンダム。ストライカーパックは、装備していない。双掌を大きく左右に開き、右膝を高く上げ、左足一本でバランスを取る。不安定に見えて、その実、攻守どちらにも即座に動ける中華拳法独特の構えだ。

 

「メイファ、まだまだ暴れ足りるないヨ……ドラゴンストライクの相手するに、ちょと、モロすぎるないカー?」

 

 チーム・アサルトダイブの中華美人・メイファは、形の良い眉を残念そうに下げて、首を横に振った。ファイターの思いに感応するように、ドラゴンストライクが優雅に舞う。武術と舞踊の中間の様な、中華拳法独特の動き。繊細かつ大胆な身体操作からは、関節周りの柔軟さと完成度が、並外れていることが窺える。

 メイファは舞を続けながら、すぅっと、周囲の竹林に視線を流した。

 

「五人がかりで一分も持たないなんてネー……オマケにッ!」

 

 (ドン)ッッ!!

 気力を込めた右脚が、地面を踏み砕く。ストライクの細身からは信じられないような激震が大地を揺らし、竹林全体が大きく震えた。

 拳法の秘技〝震脚〟である。

 

『う、うわぁぁ!』

 

 震脚の威力に怯んだのか、ブリッツガンダムが竹林の中から転がり出してきた。身を隠していた欺瞞粒子(ミラージュコロイド)がぽろぽろと剥がれ落ち、ファイターの動揺を表すかのようにしりもちをついて後ずさる。

 

「味方が戦うのときに、手伝うするなく隠れる……侠気(おとこぎ)、ないアルか?」

 

 切れ長な眼に侮蔑の色が浮かべ、剣の切っ先のように鋭く揃えた指先を、ブリッツに突きつける。

 

『へ、へへ……あんたみたいな美人がよ、あんなえげつない攻撃するんじゃ……ビビりもするってもんだろう?』

「えげつな……? ニホン語、よくわかるないが、誉められたと思とくネ。多謝ヨ、お兄サン♪」

『そうかい、それじゃあ……これでも喰ら』

 

 ブリッツが突き出した右腕複合兵装(トリケロス)に、ドラゴンストライクの指先がするりと触れた。殴るでも、突くでも、手刀でもない、ただの接触。破壊力などまるでない、本当にただ、触れただけ。

 しかし、その、瞬間――

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「……相変わらずやなぁ、メイファは」

 

 数分後、3チームほどを壊滅させて合流してきたエリサは、竹林に転がるガンプラたちの残骸を見て、ため息交じりに呟いた。

 竹林に佇む、エリサのAGE-1シュライク。その足元には、無残な姿となったブリッツが転がっている。トリケロスは粉々に砕け散り、HG規格にしてはよく作り込まれている内部フレームが、剥き出しになっている。全身の表面装甲は全てが外向きに(・・・・)抉れて弾け飛んでおり、まるで何十羽もの猛禽にでも啄まれたかのような有様だ。

 

「あいや~、エリエリぃ♪ そんな誉めると、メイファ、ケタが外れるアルよ」

「それを言うならタガや、タガ。自分いっつも外れとるやろ」

「んもう。エリエリてっば、ツッコミに愛が足りないヨ~♪」

 

 クネクネした動きで抱きつこうとするドラゴンストライクを、エリサはタイニーレイヴンの鞘の先でぐりぐりと突いて押し返す。

 

「と・に・か・く! あとの何チームかを、カメちゃんが火力で抑え込んどる。弾切れ起こす前に、ちゃちゃっとシメに行くで」

「それ終わるなら、遊んでくれるネ?」

「あーもう、ウチのそん時の気分次第や! アホなこと言っとらんと、早よ行くで!」

 

 エリサは怒鳴り、鞘でドラゴンストライクの尻を引っ叩いた。メイファは「ひゃんっ♪」と嬉しそうに跳ね上がり、むしろやる気が出たとでも言わんばかりの勢いで、コントロールスフィアを大きく前に突き出した。

 

「御意ね、エリエリ。では行くヨ、気合を入れて出撃宣告だヨ!」

「しゃあいなぁ、カメちゃんおらんけど……チーム・アサルトダイブ! 強襲す……」

「強襲するヨ!」

「あげくウチのセリフをぉぉ!」

 

 ウキウキとスキップをするように飛び出したドラゴンストライクを、エリサは怒鳴りつけながら追いかけるのだった。

 




第二十九話予告

《次回予告》
「みっなさーん、こーんばーんはー☆ 本大会の看板アイドルにしてGBOのトップアイドル、ゆかりん☆でーすっ! 現在ただいまGBOでは、〝ハイレベル・トーナメント〟予選大会、第三ブロックが行われていまぁぁすっ♪
「おやおやーっ、どうやらこのブロックも、注目度の高いチームが参戦しているようですよぉぉぉぉっ?
「レベル4到達最速記録を打ち立てたスーパールーキー、赤い小さい速いヤツ、アカツキ・エイト選手ぅぅぅぅ! 何でもぉ、ごくごく一部のウワサではぁ? ショタ好きなお姉さまガンプラファイターたちにぃ、やたらと人気が出始めてるとかぁぁ!? これはゆかりん☆も要チェックですぞぉぉ! じゅるり。
「そして、その最速記録を上回り、レベル5まで突き抜けちゃった驚異の新人、エリィさん! 幼い容姿に似合わず、心形流のエースとの情報もありますよー! ちっちゃなボディの方言っ娘ということで、おっきなお友達に大人気だとか! まったくぅ、このロリコンどもめ☆」

ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第二十九話『トゥウェルヴ・トライブスⅣ』

「ますますの盛り上がりを見せる〝トゥウェルヴ・トライブス〟もそろそろ終盤、決着の時を迎えようとしていまぁぁす♪ 果たして、決勝トーナメントに駒を進めるのは、どのチームなのかぁぁぁぁ!? 私にも、まったく想像がつきませんっ♪
「それでは! 今大会の、より一層の大盛況を祈念して――みんなでいっくよーっ! せーのっ、ゆっかゆっかりーんっ☆」



◆◆◆◇◆◆◆



もう夏が終わりますね。夏休みが。
まだまだ暑い日は続きそうですが、
もう夏が終わりますね。夏休みが。
大事なことなので二回(ry

今夏で一周年を迎え、嬉しくも25000UAを目前にしている拙作ですが、すべては読者の方々がいてくれるおかげです。感謝の極み!
さて、作中の時間軸が学生の夏休みだからでしょうか、この夏はけっこう筆が進みました。学生のころに比べるとかなり短いですが、何とか夏休みと言えそうなものを確保できた夏だったというのも、執筆スピードに影響していたのかも。
今後また更新が遅くなるでしょうけれど、お付き合いいただければ幸いです。感想・批評もお待ちしております! 部分的に読んだだけ、ガンプラだけ見ましたの感想でも嬉しいです。お待ちしています♪


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