ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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Episode.30 『セレモニー』

 ――翌日、午前十時。

 

『全国のGBOユーザーのみなさん。長らくお待たせいたしました……』

 

 一筋のスポットライトのみが暗闇の舞台を円錐形に照らす、Gガンダム冒頭を思わせる空間。しかしてその中央でマイクを構えるのは、蝶ネクタイのヒゲ男ではない。

 ビビットなパープルを基調とした煌びやかな衣装に身を包む、うら若き女性。舞台映えするはっきりした化粧を施したその目元には、いたずらっぽい微笑みが浮かんでいる。今大会のイメージキャラクターにしてメイン司会、メディア露出こそまだ少ないものの一部では熱狂的なファンを持つガンプラネットアイドル・ゆかりん☆である。

 ゆかりん☆はゆっくりとマイクを口元に寄せ、存外に落ち着いた、大人の女性らしい声で語った。

 

『GBO運営本部主催、夏の終わりの二大イベントが第一弾〝ハイレベル・トーナメント〟……この暑い夏をガンプラバトルに、GBOに捧げたガンプラバカたちの戦いが、一つの区切りを迎えました……』

 

 口上に合わせ、暗闇の空間の中に、一つ、また一つと空中ウィンドウが表示されていく。そこに映し出されているのは、戦いの軌跡。

 装甲を裂くビームサーベル。火を噴くメガ粒子砲。舞い踊るミサイルに翻弄されるウェイブライダー。次々と換装するストライカーパック。飛び回るファンネル。煌めくGN粒子。覚醒するゼロシステム。ヒートエンドするゴッドフィンガー。全てを押し流す月光蝶の輝き。

 それらを愛おしそうに眺めまわし、ゆかりん☆は両手で優しく包み込むように、マイクをきゅっと握り直した。

 

『予選会〝トゥウェルヴ・トライブス〟。三ブロック十二フィールドの戦場で、総勢四百を超えるガンプラたちが、ファイターたちが、己の持てる全てをぶつけ合い、決勝トーナメント進出を目指し……そして!』

 

 突如、舞台が明転した。高輝度の照明機器が燦々と舞台を照らし、割れんばかりの拍手が会場に響き渡る。金銀様々な紙吹雪が舞い散り、色とりどりのハロたちが、パタパタと耳(?)を羽ばたかせながら宙を舞い踊る。宇宙世紀開闢の地、最初期の宇宙コロニー〝ラプラス〟をイメージした特設ラウンジに、インターネット回線を通じて、一万人を超えるユーザーが一堂に会しているのだ。

 宇宙世紀憲章――後の〝ラプラスの箱〟となる石碑の前で、ゆかりん☆はトレードマークの横ピースでウィンク。熱狂する群衆に向かって、マイクで叫んだ。

 

『見事ぉぉっ! 決勝トーナメントへの進出を決めたのはぁぁ……このチームたちだぁぁっ!』

 

 辺り一面に浮かぶ空中ウィンドウの映像が、一斉に切り替わる。ゆかりん☆は視界の端にAR表示されるプロデューサーからのGOサインを確認し、各チームの紹介を声高らかに歌い上げる。

 

 

『現役プロレスラーにしてガンプラファイター! 異色過ぎる総合格闘のプロフェッショナル集団! リングがあって、オレがいる。待ってくれてる客がいる。ならば魅せよう、魅せつけよう、これがガンプラ漢道ぃぃぃぃっ! チーム・セメントマッスルだぁぁぁぁッ!!』

 

 

『その残虐さはあくなき勝利への執念か、それとも危うい狂気の産物か!? 予選会ではあまりに凄惨なオーバーキルと、撃墜されたはずのガンプラがゾンビのように動き出すという謎の現象に心根を挫かれるファイターが続出! チーム・スカベンジャーズだぁぁぁぁッ!!』

 

 

『元気いっぱい海賊娘、黄金郷はここにありぃぃッ! 南米帰りの相撲レスラーと、クールでニヒルなスナイパーに守られた黄金郷の海賊姫が、GBOでも大暴れ! 勝利という名のお宝は、私たちが掻っ攫うッ! チーム・エルドラドだぁぁぁぁッ!!』

 

 

『あの孤高の狙撃姫と、友軍いらずの爆撃娘が手を組んだっ! そのきっかけは、元・最速記録保持者の赤い小さい速いヤツ! 新進気鋭の実力派チームは、今大会でも快進撃を続けることができるのかぁぁっ!? チーム・ドライヴレッドだぁぁぁぁッ!!』

 

 

『青く煌めく装甲に、GN粒子が照り返す! 三兄妹はいつでも仲良し、失敗知らずの神連携! ソレスタル・ビーイングに代わり、GBOに武力介入! GNドライヴを粒子で満たし、いざ出撃! 私が、私たちがガンダムだ! チーム・ブルーアストレアだぁぁぁぁッ!!』

 

 

『謎、不明、解析不能! 漆黒のヴェールがすべてを包み、一切の理解を拒絶する! なぜだ、どうして、いつの間に!? 戦場に響くは犠牲者たちの疑問符ばかり! 黒いサイコフレームが、可能性の獣を変えてしまったというのか!? チーム・ゼブラトライブだぁぁぁぁッ!!』

 

 

『今大会優勝候補、GBO最強クラスプレイヤー〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟アンジェ・ベルクデン! 純白の姫騎士を守護するは、武骨を極める旧ザクが二体! 最強の戦乙女と熟練の老兵は、GBOの頂点を極めるのかぁぁッ!? チーム・ホワイトアウトだぁぁぁぁッ!!』

 

 

『任務了解、遂行するッ! 軍事マニアがガンプラを作るとこうなるのだッ! ゲームしか知らぬ貴様らに、本当の戦争を教えてやろう! 闇討ち・挟撃何が悪い、俺達はヒーローじゃない、勝つためならば何でもする、カエル野郎で結構だ! チーム・フロッグメンだぁぁぁぁッ!』

 

 

『なんや、GBOってこんなモンかい。ウチにかかればちょちょいのちょいやな! 最速記録を塗り替えて、ちっちゃな凄腕ファイターがGBOに殴り込みだぁぁッ! 神戸心形流の同門チームが、道場破りに現れたぁぁッ! チーム・アサルトダイヴだぁぁぁぁッ!』

 

 

『失敗こそが成功の母、私達は何度だって立ち上がる! GBOサービス開始からすべての大会に皆勤賞、しかし予選突破は今回が初めて! 不運に見舞われた無冠の実力派、今大会こそ実力に見合った栄誉を手にできるかぁぁッ!? チーム・トライアンドエラーだぁぁぁぁッ!』

 

 

『空が我らの生きる道! 飛びたいだけなら何粒子でも使うがいい、でもそれだけじゃあロマンが足りない! 飛行形態への変形にこそ、我らの求めるロマンがある! 例え酔狂と言われようとも、我らは今日も変形する! チーム・プロジェクトゼータだぁぁぁぁッ!』

 

 

『ガンプラバトル大会西東京地区予選決勝の常連、成練高専がGBOでもバトルスタート! 明確な役割分担と高レベルなガンプラで、的確に相手を追い詰める! 高専生の明晰な頭脳が、GBOでも冴えわたるッ! チーム・セイレーンジェガンズだぁぁぁぁッ!』

 

 

 各チームの予選ハイライトが空中ウィンドウに流れ、歴代ガンダムシリーズの主題歌をアレンジしたGBMが会場の雰囲気を盛り上げる。存外に上手いゆかりん☆のハイテンションなチーム紹介もあって、観客たちの熱気もうなぎ上りだ。

 

「お、見ろよエイト! オレだ、ドムゲルグだ! はっはァ、あの化け物ガンタンクの主砲をブッ壊してやったシーンだぜェ!」

「撃ったのは私なのだけれど、ね。まあ、ビス子には感謝しているよ」

「ナノさんもナツキさんも、ありがとうございました。僕だけじゃあ、予選突破なんて……」

 

 そんな盛り上がりを見せる〝ラプラス〟の一画に、決勝トーナメント出場者専用の特別ラウンジがあった。一万人のGBOユーザーでごった返す広場とは違い、高級ホテルのロビーを思わせるゆったりとした空間に、上品な調度類とバーカウンターが置かれている。壁の一面をすべて使った大きな窓には、衛星軌道上から見下ろす地球。青く輝くその姿は、ラプラス事件を起こす直前のサイアム・ビストも、きっとこの光景に感動したのだろうという美しさだった。

 この、選ばれし……否、勝ち取りし者だけが入れる特別ラウンジに、三十ほどのアバターたちがいる。それぞれにチームごとで固まってソファやカウンター席などに座り、チーム間での会話などはほとんどない。

 エイトたちチーム・ドライヴレッドは、そんなロビーのほぼ中央、高級そうな三人掛けのソファに、ナツキ・エイト・ナノカの順で座っていた。エイトは遠慮して端っこに座ろうとしたのだが、そうするとなぜか真ん中の位置の取り合いがナノカとナツキの間で始まったので、結局エイトが真ん中に座ることになった。二人が取り合っていたのが〝真ん中〟ではなく〝隣〟だということに、エイトが気付く気配はない。エイトの興味関心は、今、大会だけに注がれていた。

 

「……あの、ナノさん。少し気になったんですけど」

「なんだい、エイト君」

「僕が大会規定をよく読んでいないだけなんですけど……十二チームでトーナメントを組むって、すごくやりづらい気がするんですが」

 

 予選会〝トゥウェルヴ・トライブス〟を突破したのは、十二チーム。この規模でトーナメントを組むのなら、八チームか一六チームで組むのが、わかりやすくて後腐れもないことは明白だ。

 

「ああ、そのことなら……ちょうど今から、説明があるようだね」

 

 ナノカは自分で説明しかけようとしたのを止め、ひらりと掌でウィンドウの中のゆかりん☆を示した。

 ちょうど、ゆかりん☆の背後に縦横数メートルはあろうかという巨大なトーナメント表が映し出され――ステージからせり上がってきた台座に乗せられた一体のガンプラを、彼女が手に取ったところだった。多数の追加装備を搭載した、濃い紫色のガンキャノン。若い女性、しかもアイドルが使う機体にしては軍事色(ミリタリーテイスト)が強い改造で、いわゆる〝ガチ勢〟のような渋い雰囲気があった。

 

『――から予告していた通り! この私、ガンプラネットアイドル・ゆかりん☆も、決勝トーナメントに参加しちゃいまぁーすっ♪』

『『『うおおおおおおおおおおおおおおっ! ゆかりいいいいいいいんっ!!』』』

「……え? そ、そんなのってアリなんですか!?」

 

 一万人のGBOユーザーたちが、拳を突き上げて、異常な盛り上がりを見せる。しかしエイトはそれにはついていけず、驚きと、運営本部への軽い失望を感じていた。

 レベル5以上のGBOユーザー限定の高レベル大会のはずなのに、ガンプラ好きとはいえアイドルを大会に、しかも予選無しのシード枠で決勝トーナメントに参加させるとは。ガンプラバトルにショービジネスの側面もあるのは事実で、特にGBOはまだ若いコンテンツであるため、話題づくりも重要なのは理解できるが――

 

「……そうか、エイトは知らねェんだな。ガンプラネットアイドル・ゆかりん☆の、GBOでの名前をよォ」

「え? な、ナツキさん、どういうことです?」

「慌てなくてもいいよ、エイト君。この後、彼女のエキシビションが予定されている。それを見れば、キミも納得するさ――それよりも」

 

 姿勢よくソファに座るナノカの、膝に置かれた掌がきゅっと拳を握った。心なしか、眼つきも厳しくなったようだ。

 

『そしてもう一チーム、本大会決勝トーナメントへ、シード枠で参戦するのはぁ……なぁんとぉぉぉぉ!』

 

 突然、画面が暗転した。実際の式典会場でもすべての照明が落とされたらしく、参加ユーザーたちのどよめきが聞こえたが、それも一瞬だけ。すぐに照明は回復し、ゆかりん☆の立つステージは再び煌びやかなスポットライトに照らされた。

 しかし、そこにはもう一人。黒づくめのアバターが、無音で、影のように、闇のように現れていた。

 黒地に黒紫のラインで装飾された、ZAFTの制服。男女の区別がつきにくい細い体格に、一度も陽にあたったことがないかのように白い肌。艶のない暗灰色の長髪。目も鼻も何もない漆黒の仮面が、顔の上半分を覆い隠している。

 

『GBOジャパンランキング、不動の一位! レベル8プレイヤー、〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟の〝最悪にして災厄(パンドラボックス)〟。〝変幻自在(ルナティック・ワンズ)〟〝眠らない悪夢(デイドリーミング)〟〝覗き返す深淵(ブラック・オブ・ザ・ブラック)〟……数々の異名を恣にする、仮面のファイター! ネームレス・ワンだぁぁぁぁッ!』

『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』』』

 不動の一位が、動く――!

 GBOサービス開始のその日からランキング一位に座し、全ての挑戦者を返り討ちにし続けてきた〝覗き返す深淵(ブラック・オブ・ザ・ブラック)〟が、ついに動く。ゆかりん☆の参戦表明の時とはまた違った歓声が会場中に響き渡り、ラプラスを震わせた。

 

『ではここで、決勝トーナメントについての説明でーすっ! 一回戦は、予選を勝ち抜いた十二チームによって行われる計六試合。一回戦を勝ち抜いた六チームに、私、ゆかりん☆とネームレス・ワン氏の二チームを加えて、八チームによる第二回戦・四試合を行いまーすっ! その後は通常のトーナメント形式で、準決勝、決勝と大会は進行していきまーすっ!』

 

 カラフルなハロたちがトーナメント表の上を動き回るアニメーションと共に、ゆかりん☆の説明が続く。だが、ナノカとエイトの目にも耳にもそんな説明はまったく入ってこない。二人はいつの間にかソファから立ち上がり、黒い仮面のアバターだけを凝視していた。

 

「トウカ……」

「あの人が、トウカさん……!」

 

 覗き穴(スリット)すらない無地の黒仮面からは、何の感情も感じられない。ネームレス・ワン――アカサカ・トウカは、身じろぎもせずステージに立ち、一万人の観衆を見下ろしていた。人形のようなその様子に、ナツキは不満げに腕を組み、吐き捨てるように言った。

 

「ケッ、なーんかスカした野郎だなァ。双子っていうけどよ、雰囲気っつーか、空気っつーか……とにかく全然、赤姫とは似てねェぜ?」

「……そっくりだって、よく言われていたのだけれど、ね……昔は……」

「ナノ……さん……」

 

 呟くナノカの左右の拳は固く握られ、小刻みに震えていた。その拳には、どんな思いが込められているのか。エイトはかける言葉を失くし、どうしていいかわからないまま――ナノカの拳を、そっと柔らかく、包むように握った。

 

「え、エイトく……ん……」

 

 ナノカは一瞬だけぴくりと身を震わせたが、自分を見上げる真っ直ぐな瞳に気づき、すっと拳から力が抜けるのを感じた。同時、エイトが握る手とは反対側の肩に、ポンと軽くナツキの手が置かれる。

 

「ブルってんなよォ、赤姫。シード枠はトーナメント表の両端、どっちにあの仮面ヤローが入っても、オレたちとヤるのは決勝か準決勝だ。気負いはわかるけどよォ……まずは一発、勝ちに行こうぜェ?」

「ビス子……」

 

 強張っていた表情が緩み、いつものような余裕のある微笑みが戻ってくる。ナノカは右手でナツキの手を取り、左手を握るエイトの手を、指を絡めて握り返した。三人は自然と、円陣を組むように向かい合う。

 視線を巡らせるナノカに対して、ナツキは八重歯(キバ)を剥いて好戦的に笑い、エイトは力強く頷く。

 

「すまない……いや、ありがとう。感謝をするよ、ビス子」

「はン、普通に礼も言えるんじゃあねェか。手間のかかるお嬢さんだぜ、まったくよォ」

「エイト君も、ありがとう。私は、キミが相棒になってくれて……幸せだよ」

「え、あ、いや、そんな……そ、それよりナノさん、こ、この手の握り方は……は、恥ずかしいですよ……」

「あッ、赤姫ェ! てめェ、なにちゃっかりエイトと指絡めてやがるッ!」

「おや、気づかなかったよ。いつの間にやら、恋人つなぎになってしまっていたね。あっはっは」

「こここ、恋人つな……ェェエイトオオオオ! 手ェ貸せ今すぐほら出せコラァァァァ!」

「う、うわっ!? な、ナツキさんっ、指ちぎれる! ちぎれちゃいますよ、そんなに引っ張ったらぁぁ!」

 

 ――少し頬を赤くして、悲鳴を上げるエイト。その両手は、左をナノカ、右をナツキに恋人つなぎにされ、長身な二人の間でぶんぶんと振り回されているが、決してその手を振り払おうとはしない。そして、口ではケンカをしながらも、ナノカとナツキもまた、繋いだその手を離そうとはしないのだった。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

『……(プロデューサー)さん、準備OK? うん、大丈夫……じゃあ、いくねっ』

 

 インカム越しに確認したゆかりん☆は、まるでガンダムを呼び出すドモンのように、パチィンと指を弾いた。

 

『それではみなさん、お待ちかねっ! トーナメント開始に先立ちまして――不肖、この私が! エキシビションを行わせていただきまーーすっ☆』

『『『うおおおおおおおおおおおおおおっ! ゆっかりいいいいいいいんっ!!』』』

 

 ラプラスコロニー・宇宙世紀憲章前広場に、再度、野太い歓声が上がった。ネットアイドルとしてのゆかりん☆のファンたちは、気が早くもビビットパープルのサイリウムを取り出し、発光させ始めていた。

 しかし、それだけではない。どう見てもアイドルファンではなさそうな生粋のガンプラファイターたちまでもが、今やステージで手を振るゆかりん☆に注目していた。

 

「……予選敗退は悔しいが、彼女のガンプラを見られるのは拾い物だな」

 

 四人掛けのベンチに三人で座る、その右端の男が呟いた。整備兵のようなツナギ姿に、黒縁の眼鏡。落ち着いた雰囲気だが、まだ若い。

 

「そうね。ガンプラネットアイドル・ゆかりん☆……いや、〝市街戦の女王(ウルトラヴァイオレット)〟ムラサキ・ユカリ」

 

 その隣に座る、上半身をはだけたツナギ姿の女性。オレンジ色のタンクトップに、同じくオレンジ色のバンダナ。活発で男勝りな印象だ。

 

「GBOJランキング第十位、か。あの〝強過ぎた白雪姫(オーバーキルド・プリンセス)〟より上だっつー実力、今後の参考にさせてもらおうぜ」

 

 さらにその隣。同じくツナギを来た、咥えタバコに三連ピアスの、一番若い男が言った。

 彼のさらにとなり、四人掛けベンチの四人目のスペースには、巨大なガンプラが置かれている。金属パーツに装甲された、PGサイズの初期型ガンタンク――G3ガンタンク。

 彼らはトゥウェルヴ・トライブスでドライヴレッドに敗退した、全日本ガトリングラヴァーズだ。予選で敗退したとはいえ、いや、したからこそ、本戦の様子は気になるというものだ。このセレモニーを参観しているGBOプレイヤーの中には、彼らと同じく予選敗退者が多数含まれているようだ。

 

「でもリーダー、エキシビションって何をするのかしら。まさかコンクリの土管を殴り壊すわけでもないでしょうし」

「わざわざヤラレ役の対戦相手引っ張ってくるってのも、盛り上がらねえよなぁ」

 

 バンダナの女は意外と可愛らしい仕草で小首をかしげ、ピアスの男はばりばりと頭を掻いた。

 ステージ上では、横ピースでウィンクをキメるゆかりん☆の足元からプラフスキー粒子が噴き出し、ステージそのものが巨大なバトルシステムと変形しつつある。

 

「いや、どうやらGBOのVRミッションのようだぞ……っておい、あのミッションは……!」

 

 リーダーは目を見開き、眼鏡の位置をくいっと直した。

 バトルシステム上に構築される仮想フィールドは、しんしんと雪の降り積もる闇夜、欧州の都市部――ガンダムW世界(アフターコロニー)のブリュッセル、大統領総督府。それは、GBO最悪の鬼畜難易度を誇る単独プレイ専用ミッション〝終わらない舞踏曲(エンドレスワルツ)〟のフィールド。

 過去のハイスコアが二十人分まで記録されるはずのレコード画面に、いまだ十二人しか――〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟と、五十回に迫る試行錯誤の末クリアした〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟ビス丸しか――表示されない、正真正銘の最難関ミッションである。

 

『ふっふ~ん。会場、良い感じにアガってる♪ うん、OK。わかってるって、(プロデューサー)さん!』

 

 ゆかりん☆はもう一度、会場に、ファンに向けて横ピースウィンクを飛ばし、ステージ衣装を脱ぎ捨てた。そして一瞬の早着替え(ダウンロード)、ダークパープルの連邦軍パイロットスーツへと姿を変える。愛用のガンキャノンをGPベースにセットして、バトルシステムに読み込ませる。出撃準備、オールグリーン。

 

《GANPRA BATTLE. Mission Mode. Damage Level, Set to O. Special Field, Brussel.》

 

 その瞬間、彼女の目付きがガラリと変わった。

 少女漫画のような、瞳の中に星が入ったキラキラの瞳から――感情を殺した、殺人マシーンのような目に。

 

『……さて、始めるか。殺しの時間だ』

 

 先ほどまでの可愛らしいアイドルボイスから一転、何十何百の戦場を生き抜いてきたような、低く冷酷な声。あまりの変貌ぶりにゆかりん☆ファンたちのテンションは、

 

『『『うおおッ! ユカリさまぁぁぁぁッ! 撃ッッち殺せェェェェェェェェッ!』』』

 

 下がるどころかさらに熱狂! ビビットとダーク、二色のパープルのサイリウムが、巨大なウェーブとなって会場を埋め尽くし、激しくうねる!

 

『〝市街戦の女王(ウルトラヴァイオレット)〟ムラサキ・ユカリ。ガンキャノン・紫電改……撃ち殺す』

《MISSION START!!》

 

 




第三十一話予告


《次回予告》

「さーて皆さん、大変長らくお待たせいたしましたー♪ セレモニーも終わったところで、私、ガンプラネットアイドル・ゆかりん☆から! 皆さんに! 決勝トーナメント第一回戦・対戦カードのご案内でーすっ!」

――ハイレベル・トーナメント一回戦――
・第一試合 セメントマッスル  VS スカベンジャーズ
・第二試合 エルドラド     VS ドライヴレッド
・第三試合 ブルーアストレア  VS ゼブラトライブ
・第四試合 ホワイトアウト   VS フロッグメン
・第五試合 アサルトダイヴ   VS トライアンドエラー
・第六試合 プロジェクトゼータ VS セイレーンジェガンズ

「ここに並んだどのチームも、強豪であるとともに一癖も二癖もあるチームばっかりですっ♪ どんな戦いが繰り広げられるのか、今から私の胸はどっきどきしちゃってますっ☆」

ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第三十一話『エキシビション』

「なお、第二回戦は! 第一試合の勝利チームと、私、ゆかりん☆率いる〝ウルトラヴァイオレット〟が! 第六試合の勝利チームと、ネームレス・ワン氏率いる〝ジ・アビス〟とが戦うこととなりまーすっ!
「いよいよ盛り上がってまいりましたハイレベル・トーナメント! はたして、優勝はどのチームの手にぃぃっ!? 私も本気で、狙いに行っちゃいますよーっ!?
「それではみなさん、お別れに! 毎度毎回恒例のぉー……みんなでいっくよーっ! せーのっ、ゆっかゆっかりーんっ☆」



◆◆◆◇◆◆◆



 ……出てしまいました。また。私の「長くなる病」が。
 でも今回は、やりたかったバキ風選手紹介ができたから良しとしよう(笑)
 次回はユカリ様によるエキシビション、そして次こそ、いや次の次こそ? 大会が、始まる……はず、です! きっと! たぶん! 始まるんじゃないかな!
 しかしここでリアル労働が忙しくなる予感。十月下旬までヤバそうな予感しかしません。また更新頻度が落ちるかも……どうかお待ちいただければ幸いです。
 感想・批評等お待ちしています。お気軽にどうぞ!

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