オルフェンズは大人向けガンダムだと、私は定義しているのですが、さっそく期待を裏切らない展開の数々!!
そして最後のバルバトスルプス……惚れるぜミカぁぁぁぁっ!!
マッキーの暗躍なんかももう、これからどーなっちゃうのかと楽しみです!!
オルフェンズの、ガンダムの今後に期待しながら、ドライヴレッド31話です!!
齢十九にして芸歴十二年。
ムラサキ・ユカリの青春時代はすべて、芸能界で這い上がるために消費された。
正直、小学生の頃の、子役時代の方が仕事はあった。中学卒業と同時に、子役の仕事で培った演技力を、幼い頃から自慢だった歌唱力を、血の滲むような努力をしたダンスを活かして、歌って踊れるダンスアイドルに転身。グループアイドル全盛の時代にたった一人で殴り込みをかけ、そこそこのヒットはした。大規模会場での単独ライブまではできなかったが、小さなライブハウスなら、チケットを完売するぐらいの人気は手に入れた。CDの売り上げも、音楽番組のランキング表の、一番下に一度だけ載ることができた。
満足していた。夢を、見ることができた。高校卒業と同時に、引退するつもりだった。
しかし――最後の仕事となるはずだった、ある地方でのガンプラバトル大会への出演。お楽しみ要素として、花を添える役としての、エキシビションマッチへの参加。可愛らしいビビットパープルのベアッガイⅢを使っての、賑やかし役という仕事。
それが、全てを変えてしまった。
年の離れた兄の影響で、ガンダムは好きだった。ガンプラバトルも、兄と遊ぶ程度にはやったことがあった。兄相手になら、何度か勝ったこともあった。でも、兄としか戦ったことはなかった。だから、ムラサキ・ユカリは、知らなかったのだ。
兄が、ムラサキ・シロウが――エキシビションマッチの対戦相手である兄が、エキシビションとはいえ自分が倒してしまった兄が、地方大会三連覇中の猛者であることを。全国大会常連の強者であることを、知らなかったのだ。
大破し膝をつく、兄のクシャトリヤ。それを見下ろす、満身創痍のベアッガイⅢ。一瞬の静寂の後に、割れんばかりの大歓声が上がった。事務所の社長からはこっぴどく叱られたが、プロデューサーは大笑いしながら誉めてくれたのを覚えている。
――ユカリは、引退の延期を決意した。大学に通いながらなので、今までのような活動は難しかった。ネット上を主な舞台とすることで、時間の問題を解決した。標榜した肩書は〝ガンプラネットアイドル〟。プロデューサーからの「目指すは、いや超えるはあのキララだ!」という熱い激励を受け、ユカリは、ゆかりん☆は、GBOに参戦したのだ。
学業とネットアイドルの両立は、忙しいが満足している。唯一の悩みは――いざバトルが始まると、眼つきと口調が、冷酷になってしまうことぐらいだ。
◆◆◆◇◆◆◆
《MISSION START!!》
『〝
カタパルトから飛び出した紫電改をまず迎えたのは、サーペント・カスタム部隊による弾幕の嵐だった。三機編成が二チーム、前衛二機・後衛一機の隊形で、左右に一チームずつ。計六機のサーペントが、ダブルビームガトリングとビームキャノンで十字砲火を仕掛けてきている。
「セオリー通りか、つまらんな」
六対一の戦力差、相手は陣地も構築済み――その状況下で、本当につまらなそうにそう言い捨て、ユカリは紫電改の指先からダミーバルーンを放出した。弾幕がそちらへ逸れる間に、何棟も連なる背の低いビルの陰に、紫電改を滑り込ませる。そして重装備をものともせず、まるで忍者のような低い姿勢で猛ダッシュ。左翼のサーペント部隊の側面へと、ほんの数秒で回り込んだ。
恐るべきは、その隠密性。ある程度のステルス性を持たせた濃紫の塗装に加え、関節部と足裏の加工による、足音まで含めての限りない低騒音。ダミーバルーンに砲撃を続けるサーペント部隊が、静音の紫電改に気づくはずもなく――
「三つ、もらったぞ」
無音で跳躍、側転するように宙を舞い、両手に構えた二丁のハンドビームランチャーを連射する。全弾命中、大破炎上。右翼の小隊が異変に気づき銃口を向けるが、その時にはすでに、紫電改はビルの谷間へと姿を消していた。
サーペントたちは四角いカメラアイを左右に向けて紫電改を探すが、
前衛の二機は慌ててそちらへビームガトリングを向けるが、燃えながら崩れ落ちる僚機以外に何も見当たらない。そして、
「第一波、撃破」
二機のサーペントは、背後からコクピットを狙い撃ちされ、その場にガクリと崩れ落ちた。
いつの間に接近していたのか、倒れたサーペントのすぐ後ろに、紫電改は立っていた。その姿が、先ほどまで若干と違う。腰の後ろに装備していた、MSの胴体ほどもある巨大なパーツ群が、ない。
「クロ、状況を……次は地下からか。前と変わらんな」
単独プレイ専用ミッションのはずが、ユカリは
大統領総督府前、巨大な広場に隣接した、巨大な十字路。その中央部に設置された、これもまた巨大な搬出入口が左右に開き、エレベータリフトに乗せられたガンダムたちが地下からせり上がってきていた。
デスサイズ、デスサイズヘル、デスサイズヘルカスタム。シェンロン、アルトロン、ナタク。サンドロック、サンドロックカスタム。そしてエピオン。W系列の格闘型ガンダムのオンパレード。このミッションの鬼畜難易度は、ここから始まる。多くのGBOプレイヤーが、中近距離から次々と迫り来る斬撃を捌き切れなくなり、撃墜されてしまうのだ。
しかしユカリは、そうならなかった。
「撃ち殺す」
地上に出たばかりのエレベータリフトを、猛烈な砲撃が襲った。それも、
先ほどまでの隠密行動とは一転、紫電改は太い幹線道路上に堂々と姿を現し、二丁のハンドランチャーと両肩の240㎜キャノン、そして頭部バルカンを次から次へと撃ち込みまくる。さらに総督府の建物の向こうからも、ミサイルやビームの閃光が雨霰と降り注ぐ。いかにガンダリュウム合金製のガンダムたちといえども、この砲撃には耐えられず、何もできないままに撃墜されていく。
「二機、残ったか」
もうもうと上がる土煙を吹き払って、生き残ったガンダムが飛び出してきた。一機はデスサイズヘルカスタム、アクティブクロークを閉じていたために致命傷を防げていたようだ。もう一機はサンドロックカスタム、元より重装甲、加えてABCマントを装備していて生き残れたようだ。
「尺はあと三分か。やや押しているな。ああ、すまない、プロデューサー。急ごう」
インカム越しにプロデューサーに言いながら、ユカリは武器スロットを操作した。〝SP〟のスロットを選択、さらに細かい操作をいくつか。ビームサイズとヒートショーテルが眼前に迫るが、焦る素振りは全くない。
「クロ、今だ」
ガオォォンッ! ガガガガガガガッ!
鉄が鉄を打つ……否、撃ち抜く、硬質な破壊音。デスサイズの胸のど真ん中から、太く鋭い
「よくやった。戻れ」
ピクリとも動かなくなったデスサイズから鉄杭を引き抜き、犬のような四本足の小型MAが、紫電改へとすり寄っていく。出撃時には紫電改の腰に付いていたパーツが変形した、サポートメカのようだ。シールドのような造形の頭部にはパイルバンカーの先端が覗き、さらにビームガトリングが二門搭載されている。背部にはミサイルハッチが並び、そして尻尾はバーニアスラスター……先の挟み撃ちの砲撃や、サーペントの後ろをとった奇襲も、この支援機〝ガンドッグ・クロ〟あってこそだ。
「次は射撃型か」
言う間に、レーダーに複数の
宙を舞う飛行形態のウィングとウィングゼロ。天使のような翼を羽ばたかせ、降臨するウィングゼロカスタム。長く尾を曳くスーパーバーニアの光は、無印・Ⅱ・Ⅲのトールギス三機揃い踏みだ。赤いヘビーアームズと濃緑のヘビーアームズカスタムがパラシュート降下で現れたのは、ユカリがエレベータリフトを無茶苦茶に破壊してしまったための演出変更だろう。
「クロ、ヘビーアームズは二機とも任せる。私は他を……撃ち殺す」
SPスロットを操作、主人の命を受けたガンドッグが嘶きながらヘビーアームズへと駆け出していく。それを見届けるが早いか、紫電改も大型バックパックから火を噴いて、上空へと飛び出していった。
次々と撃ち込まれるバスターライフルとドーバーガン、メガキャノン。いくら紫電改といえども、当たれば無傷では済まない――しかし、当たらない。相も変わらず静音のまま複雑な機動を描いて上昇し、ウィングとトールギスに迫る。
無印とⅡ、二機のトールギスがドーバーガンの十字砲火で挟み撃ちにしてくるが、ちょうど足元に突っ込んできたバード形態のウィングを蹴り飛ばし、避けると同時に身代わりにする。ドーバーガン二発分の火力が直撃し爆発するウィングを背に、ユカリは二機のトールギスにハンドランチャーを撃ち込んだ。
紫電改が持つハンドビームランチャーは、市街地での取り回しを考慮した短銃身型のビームバズーカだ。射程距離を犠牲にした代わりに、高出力かつ速射性が高いという特性を持つ。その破壊力は、頑丈なはずのトールギスたちの胴体に易々と風穴を開けるほどだ。
ハンドランチャーの直撃を受け随分と風通しの良くなった二機のトールギスは、糸の切れた人形のように墜落していった。
「ハンドランチャーはあと二発。少し撃ち過ぎたか」
続いて、トールギスⅢ。シールド内蔵のヒートロッドを撃ち出してきたが、それをあえてハンドランチャーで受ける。巻きつかれた銃身があっという間に加熱するが、今この瞬間は、スーパーバーニアの機動力は死んでいる。もう一方のハンドランチャーで、頭と胸とを撃ち抜いた。
これでハンドランチャーはちょうどエネルギー切れ、爆発する右の一丁は手放し、左のもう一丁を、飛び回るネオバード形態のウィングゼロへと投げつける。ウィングバルカンで迎撃されるが、その爆発を目眩ましに、ユカリはウィングゼロの背中に飛び乗った。ウィングスラスターにしがみつき、両肩のキャノンを突きつける。
「あと二分か」
ゼロ距離からの二門二点射、四発の砲弾はウィングゼロを背中側から貫通し、上半身をバラバラに吹き飛ばした。下半身だけになったウィングゼロが、黒煙と共に地上に落ちていく――それごと紫電改を呑み込もうと、ゼロカスタムのツインバスターライフルが光を放つ。最大出力のビームの奔流が市街地の一区画を、丸ごと消し炭に変える。
だが、その黒焦げの瓦礫の中に、紫電改の姿はない。
「間に合ったな」
ゼロカスタムの胸部メインセンサーが割れ砕け、胴体の中かなり深くまで、紫電改の拳がめり込んでいた。確かに、ガンキャノンはパワーに定評がある機体ではある。
「幕だ。最後は花火で締めるとしよう」
まだぎりぎりで撃墜判定に至っていないらしく、ゼロカスタムはマシンキャノンのカバーを開いた。しかしその銃口が火を噴くより早く、紫電改の240㎜キャノンが突きつけられる。
「派手に散れ」
ドドギャンッ!
意図したものか、それとも偶然か、ゼロカスタムは一際派手な爆発エフェクトを散らして大破爆散。ブリュッセルの闇空に、大輪の花火となって砕け散った。
雪以外には飛び回るもののなくなった空から、紫電改がゆっくりと降りてくる。ツインバスターライフルによって焼け野原へと変えられた街並みに、ビームや
「よし、きっちり殺したな」
ユカリは、子犬のようにすり寄ってきたガンドッグをひと撫でしてから、紫電改の腰に装着する。
敵に増援の気配はない。鬼畜難易度の単独プレイ専用ミッション〝
《MISSION CLEAR!!》
快活なシステム音声と共に、空中にリザルトが表示される。自己ベスト更新、十二個並んだBFNの8番目にあったユカリの名が、二つ順位を上げて6位の位置に表示される。
それを見届けたユカリは、ふぅと小さく息を吐いて、ヘルメットを脱いだ。その瞬間、殺人すら何とも思わなそうなハイライトのないベタ塗りだった目が、きゃるきゃるした少女漫画のそれにかわり、瞳の中にビビットパープルの星マークが躍り出た。「うーんっ!」と両手を上げて背伸びする仕草までもが一気に少女じみて、声色も別人かと思うほどに甘くなる。
そしてお決まりの、横ピースからのカメラ目線でウィンク、
「プロデューサーさんっ♪ ファンのみんなーっ♪ ミッションクリア、クリアですよーーっ☆ 自己ベストまで出しちゃいましたーーっ☆ えへっ♪」
『『『うおおおおおおおおおおおおおおっ! ゆかりいいいいいいいんっ!!』』』
「それじゃあ、みんなー! ゆかりん☆の自己ベストを祝ってぇーー……いっくよーーっ! せーのっ♪」
『『『ゆっかゆっかりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ!!』』』
「あっりがとぉーーーー☆」
会場が凄まじい勢いで盛り上がるのと反比例するように、バトルシステムは照明を落とし、フィールドがはらはらと剥がれ落ちていくのだった。
◆◆◆◇◆◆◆
「……気に入らねェ」
まるで駄々をこねる子供のようにぷぅーっと頬を膨らませ、ナツキは不機嫌そのものといった様子で腕を組んでいた。
「オレサマはあんだけ苦労してクリアしたってェのに……ぽんっと軽く自己ベストなんて出しやがってよォ! 畜生、ぜッッッッてェアイツに勝ってやる! この大会終わったら、すぐにでも記録更新してやるぜッ!」
「ふふ。猛っているね、ビス子……エイト君、わかってくれたかい。彼女が――〝
エイトは無言で頷いて、ぎゅっと強く拳を握った。手汗をかいている。
「ナノさん。彼女が、ランキング十位ということは……」
「ああ。一位は、〝
ここでへこたれる様な男なら、最初から、相棒になど選んでいない。その信頼感は持ちながらも――いや、信じているからこそ、ナノカは少し悪戯っぽい表情で、エイトにこう聞いてみた。
「……戦えるかい、エイト君?」
「はい。燃える展開です!」
握った拳を控えめに、だがグッと力を込めて胸の前に構える。迷いなく答えるその表情は、まっすぐに前しか見ていない。その目に宿る熱い炎に、少年のような純粋さと、男らしい熱さが同居している。常に丁寧語の、眼鏡で小柄な、どこにでもいる普通の少年――しかし、静かに燃える熱血漢。
キミが私と来てくれて、本当に良かった。
「……オイオイ赤姫ェ? 随分とまァ、ぽーっとした顔でエイトを眺めてンじゃあねェか。どーしたどーした? んー?」
いつの間に回り込んだのか、ナツキがソファの後ろから、ナノカに軽いヘッドロックをかけてきた。得意げな表情で、うりうりと頭を撫でまわしている。
「こ、こらやめないかビス子! え、え、エイト君も、笑ってないで助けておくれよ!」
「あはは……ナノさんとナツキさん、いつも仲いいなぁって。まるで恋人同士みたいですよ」
(こ、この鈍感エイト! よりによってそんなこと言うかァ!?)
(はぁ……私もビス子も、ゴールはまだまだ遠そうだね)
無邪気に笑うエイトに、内心で肩を落とすナノカとナツキなのであった。
◆◆◆◇◆◆◆
「……気に入らんッ!」
そんな長閑な雰囲気の三人に――特に、その中の一人に、殺意のこもった視線を向ける者がいた。
ラウンジの端、バーカウンターに座る、女性アバター。大きく着崩したOZの制服の合間から、褐色の肌が覗く。手入れをする心の余裕がないのか、それとも彼女の心情が表れたのか、白銀色の髪の毛はバラバラにほどけ、逆立っていた。
(……喰い千切るッ。赤姫……を、喰い千切って……私の強さを、証明する……ッ!)
爪を立てるようにして握り締める酒のグラスが、今にも割れ砕けそうだ。手の震えを受けたグラスの氷がカラカラと、小刻みに音を立てている。
「おい、色黒のねーさん。酒は楽しく呑むもんだぜ」
そう声をかけるのは、鉄華団のジャケット姿の大柄な男。〝
「ウチの妹が怯えちまってるじゃねーか」
ラミアが目を向けると、レイは「ひっ」と短く悲鳴を上げて俯き、ふわふわの栗毛の奥に目線を隠してしまった。そんなレイを守るように、バンは、四角く厳つい顔をラミアとの間に割り込ませた。
「せめてそのドス黒いプレッシャー、おさめようぜ。試合前こそリラックスだぜ?」
「フン。仲間面をするなよ、ゴーダ兄。ゴーダ妹が怯えようと竦もうと、私の知ったことではない。イブスキの指示でチームを組んだだけのこと。気に入らんのなら……」
ドンッ! バンのグラスが、乱暴にバーカウンターに叩き付けられる。
「妹が、よ。怯えてるんだ。やめちゃあくれねぇか、色黒のねーさん」
「あ、あんちゃん……う、うちは、だいじょーぶだから……」
「……ああ。びっくりさせて悪かったな、レイ」
バンは表情を緩めて矛を収め、バーテンダーにレイのオレンジジュースのおかわりを注文した。それっきり、ラミアと目を合わせようとはしない。
(イブスキめ……どうせ、ゾンビ化ビットのテスト程度の意味で押し付けたのだろうが……組まされる私の身に、なってみる気はないようだな)
グラスの中身を一息に煽り、ぐるりとラウンジを見回してみる。
エキシビションが終わり、十分間の休憩時間。そういえば、第一試合は自分たちの出番だった――試合直前に、こうもチームワークの欠片もないチームなど、自分たちだけだろう。どのチームも、三人固まって談笑か作戦会議の最中だ。
ふと、あるチームに……いや、個人に、目が留まる。
「……幽霊みたいな女だな」
あっちにふらふら、こっちにふらふら……ほかのチームメイトはどこにいるのか、一人きりのようだ。真っ白なワンピースに身を包んだ蒼白な肌の少女が、よく言えばタンポポの綿毛、悪く言えばまさにそのまま幽霊のように、ラウンジを彷徨っていた。
その手には、一体のガンプラが握られている。これも、少女と同じように白一色の、ユニコーンガンダム。予選会では、原理不明のジャミングと原因不明の武装無効化で相手を恐怖に陥れた、黒いサイコフレームのユニコーンだ。
「……フッ。私も、他人のことはいえんがな」
ラミアは自嘲し、バーカウンターに置いた自分のガンプラを眺める。
ガンダム・セルピエンテ。あの女を喰い千切る、怨讐の牙。復讐に狂った自分もまた、幽霊のようなものに違いない。いや、幽霊というよりも……鬼、か。
「そろそろ始まるぜ、色黒のねーさん。イブスキさんに言われた仕事は、きっちりさせてもらう」
「そう願いたいな、ゴーダ兄。妹のお守りだけでは給料泥棒というものだ」
「う、うちも……がんばるもん……っ!」
バンとレイも、以前とは少しだけ装備の変わったバンディッドとエアレイダーを取り出した。ラウンジ内に、ゆかりん☆のアナウンスが響く。
『決勝トーナメント第一試合を、五分後に開始いたしまーすっ。セメントマッスル、スカベンジャーズ、両チーム選手の皆さんは、ご準備をお願いしまーす♪』
◆◆◆◇◆◆◆
「ウハハ! 美人なMCだな、気に入ったあ!」
「俺もです、社長!」
「ったく、変わんねぇなあ社長は」
大声で騒ぐ彼らは、チーム・セメントマッスル。現役プロレスラーにして凄腕ガンプラファイターという、異色の経歴を持つ三人だ。
三人が三人とも、ラウンジに集うファイターたちの中でも一際巨大な体躯。一年戦争期のモビルスーツで言えば、間違いなくドムだ。しかし、その体は無駄に大きいのではなく、叩き叩かれ、無数の試合で鍛えあげられた、超実戦的な筋肉の塊。
プロレスなど、所詮は見世物――そんな寝言を言う輩を一瞬で黙らせるほどの、圧倒的な存在感を誇る筋肉たちが、三人分。それが車座になって集まり、それぞれのガンプラをGPベースに載せ、最終調整を行っていた。
「昔はガンプラといやあ、男の子のもんだったがなあ。時代は変わったなあ!」
セメントマッスルのリーダー、コオリヤマ・マドカは苦笑しながら大声で呟いた。岩石から切り出してきたような厳つい顔面に、人好きのする豪快な笑顔を浮かべている。
「右を見ても、左を見ても女の子! 司会のアイドルも美人で、アナウンスもその娘さんが読み上げる! 一回戦の相手も、三分の二が女の子ときたもんだあ! ウハハハハ!」
「おいおい社長、女の子って。十代そこそこのガキばっかりじゃあねぇですか」
「まあまあ、トモエの兄貴。一回戦の相手、一人は小学生みたいなおこちゃまだけどさ、色黒のほうの娘さん、けっこうな美人ですぜ? ねえ、社長!」
「目の保養だ、目の保養! 男はなあ、トモエ! サクラ! 女の尻を追っかけてナンボってもんよお! ウハハハハハハハハ!」
彼らは地声が大きく、周りのチームたち……特に、女性がいるチームからは若干眉を顰められていた。しかし、その大きな声を遮って、ラウンジに再び、ゆかりん☆のアナウンスが響く。
『あれれー? チーム・セメントマッスルのみなさーん! 試合三分前ですよーっ! もうそろそろー、待機エリアに入ってくださいねーっ♪』
「ありゃ、もうこんな時間っすか」
「初戦が遅刻で無効試合じゃあ締まんねぇな。行こうぜ、社長」
「おう、んじゃあ行くかあ! チーム・セメントマッスルの戦い……魅せてやらあ!」
三人は節くれだった分厚い掌にそれぞれの愛機を握り、アバターを待機エリアへと送るのだった。
第三十二話予告
《次回予告》
「さぁぁぁぁって! ついに始まりますハイレベル・トーナメント! いっ! かいっ! せぇぇぇぇんっ! 注目の第一試合を戦うのはーっ、このチームだーっ♪
「驚異のパワーと魅せる大技、会場の空気すら味方につけて、勝利を掴むは
「最凶の大量破壊と最狂の過剰殺戮! そして動き出すゾンビガンプラたち……チーム・スカベンジャーズぅぅぅぅっ!!
「イロモノ揃いの本大会でも特にキャラの濃い両チームが、一回戦で早速激突だーっ! この勝者と私が戦うことになるのですが……正直、どっちが勝ち上って来ても、私、全力で楽しめそうな気がしまぁぁぁぁすっ♪」
ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第三十二話『ハイレベル・トーナメントⅠ』
「それでは次回っ! ハイレベル・トーナメント一回戦・第一試合にぃぃぃぃ……せーのっ、ゆっかゆっかりーんっ☆」
◆◆◆◇◆◆◆
さて、オルフェンズ二期の感動に打たれ過ぎて、ゴーダ妹の衣装を火星孤児院の制服にしちゃいました。子どもたちの無邪気な言葉のナイフにぐっと耐えるクッキー&クラッカ、健気すぎる……ウチの娘にしたいぐらいだよ!!(!?)
それはそうと、いよいよリアル労働がヤバイです。
十月前半はもう更新できそうにないなあ……
次はまた、十月後半にお会いしましょう!!
感想・批評お待ちしております。どうぞよろしくお願いします!!