ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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Episode.33 『ハイレベル・トーナメントⅡ』

《一回戦第二試合 エルドラド VS ドライヴレッド》

 

 考え込むエイトの目の前で、モニターに表示された文字が空しく踊る。

試合時間が迫り、仮想の体(アバター)は待機エリアに送り込んだものの、心には灰色の靄がかかり、胸のざわつきは全く治まっていなかった。

 

(ヤマダ先輩の、親衛隊だった人……あんな戦い方をして……)

 

 最初に会った戦場では、彼女は誇りある〝多すぎる円卓(サーティーンサーペント)〟筆頭で、〝姫騎士の番犬(ロイヤルハウンド)〟だった。サーペント・サーヴァント部隊によるチームプレイでエイトのF108を追い詰めた。

 次に会った時にはもう、彼女は群れを離れた〝狂犬〟だった。大鋏を振り回し、敵を喰い千切り、黒色粒子砲(ガルガンタ・カノン)でフィールドオブジェクトすら破壊する〝狂犬にして毒蛇(ヴェノム・レイビーズ)〟となっていた。

 強さにこだわり。強さに狂い。古参GBOファイター〝最強概念(ゴッドマドカ)〟コオリヤマ・マドカを倒して、強さを証明した、今。彼女の胸を満たすのは、どんな思いか。それを眼前に突きつけられたアンジェリカの胸中は、いかほどのものか。コントロールスフィアを握る手に、自然と汗がにじむ。

 

(あの人が〝狂犬〟になったきっかけが、僕との戦いだというのなら――)

「エイト君。私は……」

 

 深刻そうなナノカの声が、通信ウィンドウから控えめに聞こえた。

 

「私は……私が、彼女をあんな怪物に、してしまったのだろうか」

 

 声と同じくナノカの表情も、いつものどこか見透かしたような余裕を失い、硬く強張っている。レギオンズ・ネストでの一幕。ナノカはラミアに圧勝し、結果、傷つけられた彼女の自尊心。ガンダム・セルピエンテを得た今、それは歪んだ形で満たされようとしている。

 

「ナノさん、僕は……」

 

 言いかけて、上手く言葉が繋がらない。迂闊な慰めなど、宙に浮くのがわかっている。何よりエイト自身も、心の整理がついていない。あんな戦いを見せつけられた後では、とても――

 

『わーっはっはっはっはっはっは!!』 

 

 沈み込んでいくエイトの思考を、底抜けに明るい高笑いがぶった切った。強制的に送り付けられた通信画面いっぱいに、金ピカの飾り紐で装飾された海賊帽子が映し出される。

 

『ちょっとカメラ! カメラどこ映してんのよ! アタシの顔はもっと下よ、しーたー! って誰がちっちゃいのよこらあーーっ! ちっちゃくないわーっ!』

 

 ガクンと画角が下がり、画面中央に少女の顔が飛び出してきた。切りそろえられたプラチナブロンドに、如何にも勝気そうなツリ目。イザーク・ジュールがもし女の子だったなら、という形容がそのまま当てはまる、整った顔立ちの美少女だった。

 

『この大海賊キャプテン・ミッツさまに喧嘩売るとはいい度胸ねっ! ちゃんと毎日牛乳飲んでるんだから、すぐに大きくなってやるわよ! べ、別に今だってちっちゃくないけどねっ!』

「えっ……いや、僕は、別にちっちゃいとか一言も……」

『ちっちゃい言うなあーーっ! アタシもう14才よ! 立派なレディーなんだからねっ!』

「あ、中学生なんだね。予選見たよ、きれいなガンプラだね」

『ふ、ふふん! 当然よ! このアタシが作ったんだからねっ! ってなんでタメ口なのよ! 不愉快だわっ! ちゃんと一人前のファイターとして扱いなさいよねっ!』

 

 自称〝大海賊〟ミッツは、目を三角にして「うがーっ!」と唸った。その様子にエイトは、良く吠える近所の仔犬を思い出した。生後三か月ほどだったか、ころころと可愛らしいが、とても元気でよく吠える。

 

(お、同じ犬でも……この子は、仔犬っぽい感じだなあ。小型犬の……)

『ちょっとアンタ! アカツキ・エイトっ! 何か今、失礼なコト考えてたでしょっ! このキャプテン・ミッツさまがわざわざバトル前に一言アイサツしてやろーっていうのに、なんてヤツ! フンだっ、アンタなんかアタシのリベルタリアがギッタンギッタンにしてやるんだからねっ! バトルが始まったら一騎打ちよ、フィールド中央まで一人で出てきなさいっ。いいわねっ!』

 

 何やら一人でしゃべって一人でぷんすかほっぺを膨らませ、通信機越しで届くわけもないのにご丁寧に左手の手袋を投げつけて、一方的に通信を切ってしまった。

 手袋を投げつけて決闘を申し込むなんて、なんとまあ古風なことか。エイトは何とも言い難い半笑いの苦笑いを浮かべる以外になかった。

 

「ハッハァ! いいじゃあねェかエイト。受けてやれよ、決闘」

 

 入れ替わるようにウィンドウが開き、豪快に口をあけて笑うナツキの姿が見えた。

 

「てめェまた、あの狂犬野郎とかのことで小難しく考え込んでたんだろォ?」

「それは……はい……」

「ッたく。それで悩むのもエイトの良い所だけどよォ……でも、な?」

 

 ナツキは軽く握った拳で画面をトンと叩き、自然で柔らかな笑みを浮かべた。

 

「真っ直ぐな突撃(ドライヴ)が、てめェの特技じゃあねェのかよ」

 

 胸の中の薄曇りが、すぅっと晴れ渡った――ような、気がした。

 試合の時間はもう目前だ。思うことはいろいろあっても、自分はガンプラファイターで、ここはGBOだ。気に病む暇があるのなら、戦って、勝って。勝ち進んで。直接相手とぶつかり合えば、それでいい。

 答えはすべて、ガンプラバトルの中にある。

 

「……ナツキさん」

 

 エイトは胸のつかえがとれた思いで、自然と、ナツキに微笑みかけていた。

 

「ありがとう、ございます!」

「は、ハンっ。べ、別にてめェのためなんかじゃないんだからなッ。か、勘違いしてんじゃねェぞ!」

 

 ナツキは顔中を真っ赤にしてそれだけ言うと、ぷいっとそっぽを向いてしまった。エイトはもう一度、ナツキに軽く頭を下げてから、ウィンドウをタッチしてナノカとの通信画面を拡大した。

 

「ナノさん!」

「ああ。聞いていたよ、エイト君」

 

 ナノカはゆっくりと顔を上げ、柔らかく微笑んだ。

 エイトを見返すその瞳に、迷いの色は微塵もない。ヘルメットのバイザーをおろし、各種モニター、ディスプレイを起動する。コントロールスフィアをしっかりと握り、ナノカは、レッドイェーガーをカタパルトへと乗せた。

 

「まったく、ビス子はたまにニュータイプじみているから驚くよ――ありがとう、ビス子」

「だ、だから別にオレサマはっ。そんなつもりじゃあ、ねェんだからなっ!」

「ふふ、そうだね。それじゃあ……」

 

 ナノカの表情に、にやりとした悪戯っぽさが僅かに混じる。

 

「ねえ、ビス子。私にも何か、エイト君にかけたような、元気が出る言葉をくれないかい?」

「だっ、だから別に、そんなんじゃねェって!」

「なんだい、ビス子。エイト君は励ますのに、私には優しくしてくれないっていうのかい?」

「う、うるせェ! 時間だ! 行くぞ赤姫ェッ! エイトォッ!」

「はいっ! 行きましょう!」

 

 前を向き、威勢よく言ったエイトの言葉と同時、第二試合の開始時刻が訪れる。カタパルトデッキに次々と灯が入り、各種モニターが唸りを上げて臨戦態勢に突入する。

 

『さてさてみなさーーんっ♪ 大変長らくお待たせいたしましたーっ♪ ハイレベル・トーナメント、一回戦第二試合っ! 開始のお時間がぁっ! やぁぁってまいりましたぁぁぁぁっ♪』

 

 会場を煽るゆかりん☆の声が高らかに響く中、カタパルトのハッチがゆっくりと開かれていく。

 ハッチの先に広がるのは、漆黒の宇宙空間――その中央に咲き誇る大輪の薔薇は、宇宙世紀の超巨大ドッグ艦・ラヴィアンローズだ。無数に伸び広がる係留アームの間に見えるのは、建造途中のGP-03デンドロビウム、正確にはその追加兵装構造体(アームドベース)・オーキスか。設定上の時代背景としては、UC0083、デラーズ紛争のあたりということになるのだろう。

 

『第二試合のフィールドは、宇宙世紀ガンダム作品より、ラヴィアンローズ周辺宙域っ♪ この宇宙に咲く大輪の薔薇は、物語の重要な局面で度々登場してきました! さて今回は、どんな名勝負が繰り広げられるのでしょうかああっ!』

 

 ファンシーな星のエフェクトを散らしながら、ゆかりん☆はステージの上で華麗にターン、おきまりの横ピースとウィンクをバッチリ決めて、元気いっぱいにジャンプした。

 

『ハイレベル・トーナメント、一回戦第二しあーい……はっじめまぁぁぁぁすっ☆』

 

「スケさん、カクさん、出港よっ!」

「ああ。サスケ・サトー。百錬式……出る!」

「御意。テンザン・カークランド。フジヤマ・スモー。出撃ダ!」

「キャプテン・ミッツ! AGE-2リベルタリアっ! チーム・エルドラド! この戦い、アタシたちがぶんどるわーっ!」

 

「レッドイェーガー。〝赤姫(レッド・オブ・ザ・レッド)〟ナノ。始めようか」

「ドムゲルグ・デバステーターっ! 〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟ビス丸っ! ブチ撒けるぜェェッ!」

「ガンダム・クロスエイト! アカツキ・エイト! チーム・ドライヴレッド……戦場を翔け抜けるっ!」

 

《BATTLE START!!》

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 三つの真紅と三つの金色が、それぞれフィールドの両端から勢いよく飛び出した。

 その中から赤と金とがそれぞれ一つ、特に凄まじい加速度で突撃し、すれ違い、急激な弧を描いて再激突を繰り返す。

 

「ふふんっ! 恐れずに来たのは誉めてあげるわ! 元・最速記録者(レコードホルダー)ぁぁっ!」

 

 宇宙を切り裂くように飛ぶ、金色の飛行物体(ストライダーモード)。キャプテン・ミッツの愛機、AGE-2リベルタリアだ。変形によって一方向に集中させたバーニア・スラスターの莫大な推進力を存分に発揮し、金色の軌跡を残しながら矢のようにかっ飛んでいく。

 

「一騎打ちなら、僕の領分だ!」

 

 それを追うクロスエイトの動きも、負けてはいない。ヴェスザンバーを射撃(ヴェスバー)モードで両手に構え、連射しながら曲芸飛行(サーカス・マニューバ)を繰り返す。

 エイトが射撃でリベルタリアの頭を押さえてフルブーストで距離を詰めれば、ミッツは巧みな捻り込みでクロスエイトの後ろを取り、機首部分の多連装ビームガンを雨霰と撃ち込んでくる。足自慢同士の追いかけっこはチームメイトたちの目の前を一瞬のうちに通り過ぎ、絡み合う赤と金の流星となって、あっという間にラヴィアンローズの向こう側へと消えていった。

 

「ただのお転婆じゃあないらしいね。一騎打ちの状況を、もう整えた……!」

 

 ナノカはレッドイェーガーをラヴィアンローズの係留アームに伏せさせ、Gアンバーの銃口でリベルタリアの動きを追っていたが、断念した。あの海賊娘、キャンキャン騒がしい性急なお転婆かと思いきや、意外に計画的(クレバー)だ。

 

「エイト君、気づいているね。その子はキミを誘導している」

「任せてください、ナノさん! 一対一は得意分野です!」

「ふふ、だろうと思ったよ。……ビス子、狙撃だ、回避運動!」

「応よッ、とォ!」

 

 ビュオォォォォッ!

 やや遅れてラヴィアンローズに到着したドムゲルグの肩を、渦を巻く独特なビーム弾が掠めた。狙撃仕様のドッズ・ライフルによる一撃。ナノカと同じように係留アームに取りついた金色のガンプラが、長銃身ライフルを構えていた。

 

「ミッちゃん……じゃねぇ、キャプテンの邪魔はさせねぇよ」

 

 鉄血のオルフェンズ第一期より、テイワズ所属の高性能機・百錬をベースに、百式のバックパックとウィングバインダーを装着し、カラーリングも百式に準ずる金と紺。手に持つ主武装のロング・ライフルは、AGE系統のドッズ・ライフル。異なる世界観のMSの長所を組み合わせたキメラのようなガンプラ――エルドラドの狙撃手サスケ・サトーの百錬式が、ナノカとナツキを狙っていた。

 

「キサマラの相手は、オレたちダ!」

 

 レッドイェーガーが足場にしていた係留アームが、突如、根元からへし折れた。ナノカは即座に別のアームに飛び移り、ラヴィアンローズ表面部に視線を向けた。

 そこにいたのは、曲面を多用した∀系統の独特なデザインのガンプラ。力強く野太い腕と足に、金色の重装甲と両腕のIFバンカーが特徴的な重MS。テンザン・カークランドのフジヤマ・スモーだ。

 

「けッ、デカブツがァ! これでブチ撒けられてろォッ!」

 

 ナツキは背部ウェポンコンテナを左右共に展開。片側五発、計十発の高速巡航ミサイルを一斉発射した。今回装備してきたのは、持続時間の長い高熱火球を発生させる面制圧用の特殊弾頭ミサイルだ。当たり所によってはラヴィアンローズ自体を沈めかねない過剰攻撃だったが、しかし、

 

「どすこぉぉぉぉイッ!」

 

 気合と共にフジヤマ・スモーが張り手を繰り出す。その分厚く巨大な右掌からビーム性の衝撃波が放射状に迸り、全てのミサイルを一息に迎撃・爆破してしまった。

 予選会でも見せた、IFB(I・フィールド・ビーム)ハリテだ。IFバンカーの応用で、収束すればとてつもない破壊力を、拡散すれば絶大な攻撃範囲を発揮する攻性粒子フィールドを発生させる。

 

「おヌシのガンプラも、かなりのデカブツ、ダ!」

「ハッハァ、良いぜ気に入ったァ! 赤姫、こいつはオレがヤるぜェ!」

 

 ナツキは破顔一笑、シュツルム・ブースターを起動して、迎撃され爆散したミサイルの火球をものともせず、一直線にラヴィアンローズ表面部へと突っ込んでいった。

 

「ああ、任せるよビス子。私の相手は、こちらのようだ……!」

 

 一方ナノカは、全身のAMBAC(アンバック)とアポジモーターを駆使し、火球の間を縫うように飛び回っていた。時折、渦を巻くビーム弾(ドッズ・ライフル)がレッドイェーガーの進路を先読みするように飛び込んでくるが、それをさらに先読みして、ナノカは回避運動を取り続ける。

 

「一度、()りあってみたかったんだ。GBO随一の銃器使い、狙撃だけじゃねぇ狙撃姫、元・四丁機関銃の〝万能の銃撃屋(オールラウンド・ガンスリンガー)〟さんとはな」

「ほう……その名で呼ばれたのは久しぶりだよ。キミ、GBOは長いのかい?」

「ミッちゃんをこっち(オンライン)に誘ったのは俺さ。でもそんなことは、今はいい――踊ってくれるかい(シャル・ウィー・ダンス)赤姫さんよぉ(レッド・オブ・ザ・レッド)っ!」

「ふふ……踊るのはキミさ、色男(ロメオ)。さあ行け、ヴェスバービット!」

 

 レッドイェーガーはナノカの声に応えるように四ツ目式バイザーをおろし、ヴェスバービットを展開した。

 ビームが飛び交いミサイルが爆ぜ、刃と刃が火花を散らす。エルドラドとドライヴレッドの対決は、宇宙に咲く薔薇(ラヴィアンローズ)を中心に、三カ所同時の一騎打ちとなったのだ。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 正面から見ると巨大な花弁にしか見えないラヴィアンローズも、裏に回ると、規格外の巨体ではあるがドッグ船なのだと見て取れる。直径で数十メートルはありそうなバーニアの傘がずらりと立ち並び、いかにも宇宙用艦艇の後部といった様相を呈している。

 

「わーっはっは! ピーコック・スマッシャーっ!」

 

 九本のビームが放射状に迸り、ラヴィアンローズの裏面に九つの弾痕を穿った。エイトはバーニアの傘を盾にしてぐるりと回り込み、両手のヴェスザンバーを斬撃形態に持ち替えて、再度突撃する。

 

「らああああっ!」

「射撃じゃ埒が開かないわねっ。付き合ってあげるわ!」

 

 ミッツはニヤリと自信ありげな笑みを浮かべ、リベルタリアを変形させた。

 MS形態のリベルタリアは、金色に塗装したAGE-2ダークハウンドといった外見だが、右手には洋弓銃(ボウガン)型の九連装ビームライフル〝ピーコック・スマッシャー〟を持ち、腰にはX字型(クロスボーン)スラスターを装備している。〝海賊〟をテーマとした二機のガンダムのミキシングビルドということか。額と胸と左腕の小型シールド、三カ所に輝く銀色のドクロレリーフが、海賊趣味をさらに強調して見える。

 

「チャンバラも、嫌いじゃないんだからねっ!」

「僕もだっ!」

 

 リベルタリアは左腕の小型シールドからビームサーベルを抜刀、意外にも無駄なく華麗な太刀筋でクロスエイトと切り結んだ。ヴェスザンバーの左右の連撃を、左のサーベル一本と腰のX字型スラスターによる軽快な身のこなしで躱し、弾く。その様は海賊剣術というよりは、欧州貴族の青年剣士のようだ。

 数合打ち合った後に、エイトはヴェスザンバーの切っ先をねじ込むようにして突撃。しかしそれも身を躱され、距離が開く。するとすかさずそこへピーコック・スマッシャーの放射が撃ち込まれる。一発一発の攻撃力はさほどでもないが、九連装というのが厄介だった。放射状に放たれるビームは攻撃範囲が広く、クロスエイトの機動性を効率的に殺してくるのだ。

 その後もエイトは隙を見ては突撃を敢行するが、リベルタリアは剣戟に最後まで付き合わず、ある程度のところで弾き、もしくは自ら身を引いて、距離を取ってのスマッシャー放射を繰り返す。

 

「ほら、スマッシャー! はい、スマッシャー! わーっはっは! 噂の〝赤くて速いの〟クンも、このキャプテン・ミッツ様の前じゃあこの程度なのかしらーっ!」

「サーベル捌きを切り払い(パリィ)だけに割り切っている……重たいヴェスザンバーじゃあ、手数が足りないか……!」

 

 ヴェスザンバーは刀剣の分類に当てはめるなら大剣に属し、リベルタリア程度の細身なガンプラなら、当たりさえすれば一刀両断する威力を秘めている。それを二刀同時に振り回すクロスエイトの方が手数にも優れるように思えるが、最小限の動きで刃筋を逸らし身を躱すリベルタリアに、エイトはまだ一太刀も浴びせることができていなかった。

 

「だったら!」

 

 エイトはヴェスザンバーを腰に戻し、大きく後ろに跳び退いた。ミッツは攻め込むチャンスだったが迂闊に飛び込むことはせず、自分もバックステップを踏んで距離を取り、ピーコック・スマッシャーを構えた。九連装の銃口にビーム粒子が収束し、

 

「そこだぁっ!」

 

 クロスエイトの両腕が目にも止まらぬ速さで振り抜かれ、次の瞬間、ピーコック・スマッシャー本体左右の追加銃口に、二本の短刀型ビームサーベルが突き刺さっていた。

 

「こ、コイツぅっ、アタシのピーちゃんをーっ!」

 

 ミッツは悔しそうに唇を噛みながら、ピーコック・スマッシャーの追加銃口部分を切り離した。直後、切り離したパーツ群は爆発。リベルタリアの手元には、通常のビームライフルと変わらない形となったピーコック・スマッシャー基部だけが残る。範囲攻撃はもうできないだろう。

 エイトはこれを好機とバーニア全開で飛び出した。クロスエイト手首のワイヤーを巻き取り、ビームサーベルを回収。出力を上げてビーム刃を伸長し、リベルタリアへと躍りかかった。

 

「うららららぁぁッ!」

 

 クロスエイトは両腕を猛然と回転させ、息もつかせぬ怒涛の連続攻撃で攻め立てる。バーニアユニットから炎を噴射し、前へ前へと身体ごと捻じ込みながらの連撃の嵐。リベルタリアは左手一本の切り払いだけで耐えるが、だんだんと反応が追いつかなくなっていく。

 右斬、左斬、右斬、右突、左斬、右右左右左左左右右左――そして足!

 

「け、蹴りぃっ!?」

 

 ザシュゥゥンッ! ミッツにとっては全くの予想外、真下から垂直に蹴り上げる、クロスエイトの足裏ヒートダガーによる一撃。リベルタリアは寸前で身を躱すが、胸部装甲に裂傷を刻まれ、左のブレードアンテナを斬り飛ばされる。

 エイトは続けて右の前蹴りを突っ込むが、これは左腕のシールドで防がれ、バックステップで距離を取られた。

 

「まだだ! 逃がさないよ、このチャンスは!」

「えぇいっ、キャプテン・フラッシャー!」

 

 追い打ちをかけようとしたエイトの視界が、瞬間、真っ白な閃光に塗りつぶされた。モニターの光量調整が働いて目が眩むようなことはなかったが、画面は白く灼け付いた。センサー類も感度が大幅に下がっている。リベルタリア胸部中央のドクロレリーフが発光したように見えたが、閃光弾(フラッシュバン)ECM(ジャマー)の効果を併せ持つ特殊兵装のようだ。

 ほんの数秒で画面の灼け付きは回復するが、それまでの間に仕掛けてくるのは間違いない。エイトはいつでも飛び出せるように、腰を落として身構えた。まるで効かなかった各種センサーが一つ一つ回復していき、一秒ごとに、周囲が見えるようになっていく。

 

(どこだ……どこからくる……っ!?)

「こーれーでーもーっ!」

 

 右手上空に機影。声とほぼ同時、クロスエイトのモニターも回復し、武器を振り上げて飛びかかってくるリベルタリアの姿が見えた。その手にあるのは、ピーコック・スマッシャー。洋弓銃(ボウガン)のような九連装の追加銃口部分は、予備パーツでも持ち歩いていたのか、復活している――いや、違う。銃身上部にドクロレリーフが追加されている。あのレリーフはさっきまで、左腕のシールドについていたはずだ。それに、銃口の形が微妙に違う。あれは、ビームガンというよりは、

 

「くらえーっ! ピーコックぅ、ズバッシャーーーーっ!」

 

 ズバッシャアアアアアアアアッ!

 九連装の長大なビームブレードが、ラヴィアンローズに深々と爪を立て、長々と傷跡を刻み込んだ。近くにあったバーニアの傘が短冊切りにされ、崩れ落ちる。

 

「わーっはっはっは! このアタシに〝奥の手・その一〟を使わせるなんて、アンタ、なかなかやるじゃない! ちょびっとだけ、認めてやってもいいわよっ!」

「恐縮だよ、キャプテンさん!」

 

 エイトは崩れ落ちるバーニアの傘を目隠しにリベルタリアの側面に回り込み、ビームサーベルを投擲した。一直線にピーコック・スマッシャー目がけて飛んでいったビームサーベルはしかし、突き刺さることなく弾き返される。ドクロレリーフの目玉部分がギラリと光り、ビームシールドを展開したのだ。

 

「ふふんっ! 同じ手なんかでぇぇっ!」

 

 得意げに鼻を鳴らし、今度は横薙ぎの一閃。扇状に広がったビーム刃が広範囲に空間を薙ぎ払い、躱しきれなかったクロスエイトの肩を掠った。エイトの頬を、汗が一筋、伝った。

 

(なんて攻撃範囲だ。近接戦闘なのに、近寄れない!)

「わーっはっは! 文字通り、手も足も出ないってねっ! 噂のスーパールーキーを倒せば、アタシたちの名も上がるってモンよーっ! そこぉっ、いっただきぃーーっ!」

 

 巨大な団扇で仰ぐような、打ち下ろしの一撃。ラヴィアンローズの背面に、再び九本の爪跡がざっくりと抉られる。エイトはバルカンとマシンキャノンをばら撒きながら後退、状況を立て直すための距離を取った。しかし、

 

「ふふん、隙アリぃ!」

 

 ビームシールドを展開したズバッシャーを機首として、リベルタリアは飛行形態(ストライダーモード)に変形した。両肩両足、そしてX字型(クロスボーン)スラスターの推進力を後方に収束し、爆発的な加速力でクロスエイトに向けて突撃する!

 

「アタシの〝奥の手・その二〟ぃっ! リベルタリア必殺ぅ! ゴォォルディオン・スイカバーアタァァァァック!」

「……その、ネーミングセンスっ!」

 

 大きく広がった九連装ビームブレードとビームシールドの攻撃範囲に加え、クロスエイトと張り合える機動・運動性能。回避するのは容易ではない。そう判断したエイトは、ビームサーベルを投げ捨て、両肘のビームシールド発生装置を両拳に装備させた。コントロールスフィアを捻って、武器スロットを選択。機体熱量の蓄積量を確認――約50%。いける!

 

「カッコいいじゃあないか!」

 

 トリガーを引き、武装を起動。機体熱量をビームシールド発生装置に充填。ビーム刃展開、出力全開、武装限定灼熱強化(アームズ・ブレイズアップ)

 

「焼き尽くせ! ブラスト・マーカーッ!」

 

 粒子燃焼効果、灼熱化現象が発現。燃え盛る紅蓮の刃を両手に飛び出し、突っ込んでくるリベルタリアとぶつかり合う。ピーコック・ズバッシャーとブラスト・マーカーは一瞬の(せめ)ぎ合いの後、火花を散らして弾き合った。バトル序盤のような、突撃と交錯、鋭角的なターンからの再突撃が、再び繰り返される。

 

「ぅらああぁぁぁぁッ!」

「てぇやあぁぁぁぁっ!」

 

 二機のガンプラは真紅と黄金の流星と化し、ぶつかり合っては弾き合う。バーニアの出力は既に最大値を振り切り、反射神経の限界を超えた交錯が、五回十回と重ねられていく。ラヴィアンローズの周囲を縦横無尽に駆け回り、十数度目の激突、エイトは勝負を仕掛けた。

 左右の掌を握り合わせ、ブラスト・マーカー同士を密着、干渉、合成する。左右両手の灼熱の刃は渦を巻いて混じり合い、寄り合って、クロスエイトの全身を覆いつくすほどの、巨大な灼熱粒子突撃槍(ブレイズ・ビームランス)を形成した。

 

「これならっ……どうだああああああああッ!」

「ふふん、いいわよ! 受けて立ぁぁぁぁぁぁぁぁつ!」

 

 複雑な曲芸飛行合戦から一転、クロスエイトとリベルタリアは示し合わせたように距離を取り、一直線に加速した。

 紅蓮の炎が宇宙を貫き、金色の流星が空間を切り裂く。それぞれのバーニア・スラスターの出力すら乗せに乗せて、燃え盛るビームランスの穂先と、ずらりと並ぶピーコック・ズバッシャーの切っ先とが、真正面からぶつかり合った。

 お互いの持てる速度とエネルギーの全てを叩き込む激突は、一瞬で勝負がついた。

 

「きゃああああっ!?」

 

 打ち負けたのは、リベルタリアだった。

 機首部分、ピーコック・ズバッシャーとビームシールドを根こそぎ破壊され、MS形態時に左腕にあたるパーツもビームランスに引き千切られた。バランスを失ったリベルタリアは不規則に回転しながら墜落し、ラヴィアンローズへと叩き付けられる。衝突の直前になんとかMS形態に変形し、受け身を取ってダメージを減らしたが、コンディションモニターは山のようなエラー表示に埋め尽くされている。主武装・シールド喪失、左腕喪失、X字型スラスター大破、胸部装甲小破、背面装甲損傷甚大――撃墜判定が下されていないのが不思議なぐらいだ。

 

「く、くぅぅ……こ、このアタシが、リベルタリアが、高機動戦闘で……っ!」

「勝負アリだよ、キャプテンさん」

 

 ジリ……首筋に突きつけられたブラスト・マーカーの熱量が、リベルタリアの塗膜を灼いた。ミッツが悔しさに唇を噛みながら見返すと、クロスエイトの右肩装甲は大きく抉れていた。最後の突撃合戦、自分の完敗というわけでもなかったらしい。

 

「撃墜判定こそされていないけれど――その損傷のガンプラと戦って、負けるクロスエイトじゃあないよ。降参してくれるかな」

「……ねえ、知ってるかしらアカツキ・エイト」

 

 ミッツはニヤリと口の端をつり上げ、コントロールスフィアを操作した。

 

「海賊ってのはね……諦めが悪いのよっ!」

 

 リベルタリアの額に輝くドクロレリーフがバンと弾け飛び、その奥に隠されていた最後の一手が姿を見せる。発射直前のビーム兵器の砲口が、粒子を満たして光っている!

 

「ハイメガキャノン!?」

「喰らえっ、〝奥の手・その三〟! パイレーツ・ブラスターっ!」

 

 ドッ、ヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!

 光の奔流が、クロスエイトを呑み込んだ。

 本家本元のハイメガキャノンには若干及ばない出力ながらも、不意打ちの一撃としては十分すぎる破壊力だった。その反動でリベルタリアの頭部は半壊し、今度こそ撃墜判定が下される寸前までダメージは溜まってしまったが、ミッツは「してやったり!」と満足げにガッツポーズを決めた。

 

「わーっはっは! このアタシに降参なんか勧めるからよっ! 舐めないでよねっ、アタシは一人前のファイターで、立派なレディーなんだからっ!」

「そうだね。失礼なことをした……謝るよ、キャプテン・ミッツ」

「なっ、えっ!?」

 

 パイレーツ・ブラスターの直撃を受け、真っ赤に赤熱して崩れ落ちるところだったクロスエイトのボディが――真っ赤に燃える火の粉となって、パッと舞い散った。

 

「粒子燃焼効果による、熱量的デコイ――質量のある残像(MEPE)ならぬ、〝熱量のある残像〟だ」

 

 ミッツが慌てて周囲を見回すと、いた。頭上遥か高く、二振りのヴェスザンバーを最大出力で左右に構える、クロスエイトが。

 

「名付けて、〝粒子陽炎(ブレイズ・ヘイズ)〟。僕も〝奥の手〟を使わせてもらったよ」

「な……なぁ……っ!」

「キャプテン・ミッツ。キミを……一人のファイターとして、敬意をもって! 全力で! 撃墜するッ!」

 

 クロスエイトは顔面部排気口(フェイス・オープン)を作動、余剰熱量を吐き出して、一直線にリベルタリアへと突撃した。振り上げられたヴェスザンバーが、エメラルドグリーンの粒子を散らしながら迫り来る。

 自身の敗北が迫るというその時、ミッツは頬を上気させた、どこかぽーっとした表情でクロスエイトを――否、その先にいるはずのエイトの姿を幻視していた。

 高機動戦闘で、アタシよりも速かった。奥の手を全て使い切っても、勝てなかった。ネーミングセンスを、カッコいいと言ってくれた。一人前と、認めてくれた。

 

「あ、アカツキ……エイト……くん……!」

 

 ――キャプテン・ミッツ、14才。恋に恋するお年頃である。

 

「ぅらぁぁぁぁッ!」

 

 十文字に振り抜かれたヴェスザンバーは、今度こそリベルタリアを撃墜した。

 そしてエイトは自覚なく、ミッツ自身をも撃墜したのだった。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「あぁ、畜生め(シット)……ミッちゃんもやられちまったか」

 

 サスケはがっくりと肩を落とし、コントロールスフィアから手を離した。サスケを取り囲むように展開するコクピット表示には、右を見ても左を見ても、真っ赤に染まった警告表示ばかり。主武装のハイパー・ロング・ドッズライフルは武器破壊され、粒子残量も少なく、何より両脚がまともに動かない。膝関節を正確に狙った神業的な狙撃で、撃ち抜かれたのだ。

 

「おまけに、対物ライフル並みのデカブツで〝手を挙げろ(ホールドアップ)!〟かよ。こいつは負けを認めるしかねぇな、まったく。歯も立ちゃしねぇぜ」

「……謙遜はやめてくれるかい。まさか、ヴェスバービットを全て失うとは思わなかったよ」

 

 百錬式の後頭部にGアンバーを突きつけるレッドイェーガー。しかしそのバックパックには、ヴェスバービットは一基も戻っていなかった。自動操縦に頼らず、ナノカが直接操作することで極限の精密狙撃と回避行動を可能とするヴェスバービットだが、それが三基全て、サスケの狙撃に撃ち落とされたのだ。

 レッドイェーガー本体も、何発か狙撃を避けきれなかった。BF(ビームフィールド)ジェネレータによる防御がなければ、致命傷になっていただろう。

 

「キミの狙撃の腕には、正直、私も驚いたよ。私とこんなにも長時間、撃ち合うなんてね」

「フッ、それでもあんたにゃ勝てなかった。悔しいぜ……」

 

 百錬式はだらりと腕を下げ、レッドイェーガーへと向き直った。抵抗の意志は全くなく、ナノカもその行動を咎めなかった。Gアンバーの銃口に、サスケは自ら、コクピットハッチを押し当てた。

 

「さ、撃てよ」

「ああ。健闘を讃える」

 

 ドゥッ。短く太い銃声がして、百錬式の胸に風穴が空いた。

 

「……さて、あとはビス子だけれど」

 

 ぐるりと周囲を見回して、ナノカはドムゲルグを発見した。

 そして同時に、呆れて溜息をついてしまった。

 

「……まったく。何をやっているんだか、ビス子は」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「いっくぜェ、力士野郎ォォ!」

 

 ミサイルもバズーカも全弾撃ち尽くし、ヒートブレイドも刃が折れた。すべての武装をパージし、体一つとなったドムゲルグは腰を大きくひねって拳を後ろに引いた。ナツキは楽し気に犬歯を剥き出しにして笑い、血走った眼でフジヤマ・スモーを睨み付ける。

 

「どすこぉぉぉぉイッ!」

 

 一方のフジヤマ・スモーも、満身創痍だ。両腕のIFバンカーは割れ砕け、腰の後ろに差していた日本刀型の実刃剣も、折れた刀身が少し離れた場所に突き刺さっている。テンザンは額に浮かんだ玉のような汗をぬぐいもせず、フジヤマ・スモーに腰を落とした格闘姿勢を取らせた。

 二機のガンプラと二人のファイター、両者の間に一瞬の静寂が流れ――そして!

 

「叩いてェッ!」

「かぶっテッ!」

「じゃんッ!」

「けンッ!」

「「ポォォォォンッッ!!」」

 

 ドムゲルグ、グー。

 フジヤマ・スモー、チョキ。

 

「むっ、まずイ!」

「ぅおっしゃあオラアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 グワッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!

 突き出したグーをそのまま振り上げ、振り下ろす。フジヤマ・スモーはラヴィアンローズからはぎ取った装甲板で頭を守ろうとするが、間に合わず。巨大で頑丈なドムゲルグの拳が、フジヤマ・スモーの脳天に叩き付けられた。

 フジヤマ・スモーは頭部を胴体にめり込ませて、ダウン。ナツキは高々と拳を振り上げて、満面の笑みで勝利宣言を吼えた。

 

「ハッハァ、やったぜェェッ! オレサマのッ、大・勝・利だァァッ!」

「む、無念ダ……すまヌ、おかしら……」

 

《BATTLE ENDED!!》

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

『――一回戦・第二試合っ、しゅーーりょーーっ! 激戦に次ぐ激戦、次々飛び出す隠し玉、見ごたえのあるガンプラバトルの末っ! 真紅の新星が、金色の海賊娘を下したァーっ! ハイレベルな狙撃合戦! パワータイプ同士の、何でそうなった!? と言いたくなるよくわかんないジャンケン対決! 終わってみれば三勝ゼロ敗、チーム・ドライヴレッドの圧勝だーーっ!』

 

 先の一回戦とは違い、観客たちは最初から大盛り上がりだった。両チーム、三者三様の戦い方で魅せたガンプラバトルは、観客たちの心を大いに奮わせたらしい。

 ドムゲルグとフジヤマ・スモーの対決は笑いを呼び、レッドイェーガーと百錬式の戦いは射撃を得意とするファイターたちの興味を大いに惹いた。そして、クロスエイトとリベルタリアの高機動戦。両チームのリーダー同士ということもあって注目度の高い対決だったが――

 

「へぇ……面白そうな子が、いるじゃなぁい……」

 

 いつの間に専用ラウンジから抜け出したのか、本戦出場者の一人、チーム・ゼブラトライブのファイター、白いワンピースの少女が、一般用の観戦会場に紛れ込んでいた。あっちにふらふら、こっちにふらふら、長い黒髪を揺らしながら、頼りない足取りで当てもなく彷徨う。しかし、その間も、異様にギラギラした左右の瞳だけは、ずっと空中の大画面モニターに……いや、その中で戦場を翔け抜ける、クロスエイトに注がれていた。

 

「おいしそう……食べたぁい……ねぇ、ユニコーン? うふふ……うふふふふふふふふ……」

 

 少女は怪しく微笑みながら、手に持ったユニコーンガンダムを、指先で優しく、愛おしそうに撫でるのだった。




第三十四話予告


《次回予告》
「むきーーっ! くやしーーっ! まーけーたーっ! うがーーーーっ!」
「まあまあ、落ち着けって。しょうがねぇよミッちゃん。相手は元々格上だ、狙撃姫も、爆撃女もよ。俺としちゃあ、あの〝赤姫(レッド・オブ・ザ・レッド)〟と一騎打ち(タイマン)できただけで御の字だぜ?」
「拙者……ジャンケンの、修行をしなけれバ……!」
「うーっ! ぜぇぇったい、次は負けないんだからーっ。次は……つ、次は、アタシ一人でアカツキくんに勝負を挑むわっ。アンタたちは留守番してなさいっ」
「あん? 何でだよ。せっかくなら、俺も〝赤姫〟と再戦を……」
「いーいーかーらーっ! と、とにかくアンタたちは留守番っ! 船長命令なんだからーっ!」

ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第三十四話『ハイレベル・トーナメントⅢ』

「……なあ、カークランド。ミッちゃん、何かおかしくねぇか?」
「ム? 恋する乙女なド、そんなもんだろウ。それよリ、ジャンケンの必勝法ヲ……」
「ななな何だとぉぉっ!? ド畜生め(ホーリーシット)、アカツキ・エイト! 今すぐ脳天ブチ抜いてやるッ! 覚悟しやがれぇぇッ!」



◆◆◆◇◆◆◆



バトルを一話に収めると、ながーくなってしまう……最近の悩みです。
ハイレベル・トーナメント編が始まってから、やるべきことがはっきりしているからか執筆ペースが上がり気味です。しかし、それと引き換えに長くなるバトル。バランスがむずかしい!

さて今回は、新たなるエイトハーレムの犠牲者(!?)海賊娘ことキャプテン・ミッツさん14才が登場です。即落ちです。魔性の無自覚、エイト君(笑)
ナツキもそうでしたが、拙作はチョロインが多いような……

最近、作業部屋が寒すぎてガンプラ製作が滞っております。今のところ、ズサ・ダイバー、ドラゴンストライク、セルピエンテ、紫電改、ユニコーンゼブラがすべて完成度五割から八割ぐらいで放置中です。完成させねば。

つらつらと近況をかきましたが、本編はどうだったでしょうか。感想・批評とういただけると励みになります! どうぞよろしくお願いします!



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