ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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 みなさんこんばんは。亀川です!
 最近更新ペースが落ちていて、読んでくださってる方々に非常に申し訳なく……リアル労働にである問題が発生しまして、一週間ほどの時間が黒歴史に取り込まれて……(泣)
 ともかく。今回はちょっとがんばって、本編とガンプラ紹介を同時更新しました。
 本編第41話「フランベルジュ」そしてガンプラ「レディ・トールギス改フランベルジュ」、どうぞお楽しみください。



Episode.41 『フランベルジュ』

「んっふっふー。ついに来てもうたな、この時が」

 

 鼻息も荒く、腕組みをして頷くエリサ。一面のトウモロコシ畑を吹き抜ける火星の風が、短いツインテールをさわさわと揺らす。

 

「イブスキの野郎をぶん殴るには、ここで勝つしかないからな……しかしまあ、ここでアンジェリカちゃんとあたるってのは運がねぇなあ、俺達も」

「ナニ弱気言うヨ、テンチョー。なっつんネーサンたち、ゲキヤバユニコーンにちゃんと勝たアル! 次がメイファたちは番ヨ!」

 

 胡坐をかいて苦笑いする店長と、ぴょんぴょんと跳ねるような動きで気合を入れるメイファ。

 ここは、チーム・アサルトダイヴの二回戦用待機ラウンジ、〝サクラちゃんのトウモロコシ畑〟だ。鉄血のオルフェンズ一期で、三日月とビスケットがチョコの人とガリガリ君に遭遇した農道の草むらに、エリサたちはぺたりと腰を下ろしていた。まだ孤児院が建設される前の時間設定らしく、どこまでも続く背の高いトウモロコシが乾いた風に葉を揺らす、牧歌的な風景だ。

 

「メイファ、今度は最初からクライマックスね! レイロンストライカー装備するで出るヨ! パツキンのネーサン、ケチョンケチョンやるネ!」

 

 すらりと長い手足を複雑に振り回し、メイファは中華風にポーズを決めた。それとちょうど同じポーズをとったドラゴンストライクが、農道のど真ん中に鎮座する作業台の上に置かれていた。そのボディには、予選や一回戦では装備していなかった追加武装(ストライカーパック)が装着されている。背部の大型ブースターと、腰から伸びる長い尻尾。そして両腕の大型トンファー。ただでさえ粒子発勁による高い格闘能力を持つドラゴンストライクだが、さらに近接戦闘に特化した装備のようだ。

 

「まったく、心強いぜメイファ。あのアンジェリカちゃんをけちょんけちょんなんてよ……まあ、俺も本気でいくがな。なあ、姐御」

 

 一方、店長のセカンドプラスは、ただでさえ強大な火力をさらに強化すべく、全身に火器を追加していた。バックパックのビームキャノンの砲身下に、大型の対艦ミサイルが二発。ウィングに三連装大型ミサイルポッドが二基。背にはガトリングシールドを懸架し、腰のウェポンラックにハイパーバズーカを乗せ、頭部にバルカンポッドを装着。フルアーマー・セカンドプラスとでも言うべき重装状態へと変身していた。

 

「んっふー、頼りにしてるでカメちゃん。ついでにメイファも。イブスキのダボをブッ飛ばすためにも、まずは〝強過ぎた白雪姫(オーバーキルド・プリンセス)〟に勝って――準決勝まで進もか!」

 

 その二機の間、作業台の中央に陣取っているのは、エリサのAGE-1シュライクだ。他の二機ほどの改造は見受けられないが――ただ、一点だけ。腰の刀が、二本になっていた。

 二刀一対のシグル・サムライブレード〝ボーンイーター〟と〝シルールステール〟。一回戦まで使っていた〝タイニーレイヴン〟に比べると幾分細身で、装飾も単調に見える二振りの日本刀を、シュライクは腰に帯びていた。

 

(姐御が二刀を使うか……アンジェリカちゃんはそれに値する相手だ、ってことだな)

(エリエリの二刀一対、久しぶりネ。また〝双璧(フルフラット)〟の剣技を見るできるアルな……♪)

 

 エリサの神戸心形流時代を知る二人にとっては、懐かしい光景。エリサのガンプラが、一切の射撃武器を持たない理由――双刀の絶技〝双璧(フルフラット)〟。

 その剣を今、エリサは振るおうとしているのだった。

 

「エリエリ、メイファ、二人前衛アルな? エリエリの剣、バッチリ見るヨ!」

「んっふっふ。乞うご期待や♪」

 

 二回戦第三試合、開始時刻。軽いブザー音とともに、チームリーダーであるエリサの目の前に空中ウィンドウが出現(ポップアップ)した。

 

《二回戦第三試合  ホワイトアウト VS アサルトダイヴ》

 

 画面中央に表示された対戦カード。その下の『出撃』ボタンが、エリサを急かすように点滅している。

 GBO最強クラスプレイヤー〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟アンジェ・ベルクデン。直接手合わせしたことがなくとも、レギオンズ・ネストの配信や今大会の予選・一回戦を見ていれば、いやというほどによくわかる。近接格闘戦だけならなんとか渡り合えるかも知れないが、それに加え、中距離でも遠距離でも最強というのが、かの〝姫騎士(リアル・アテナ)〟にして〝戦乙女(ロード・オブ・ヴァルキリー)〟の厄介な所だ。さらに付け加えるならば、至近距離での核爆発にも耐えうる防御力と、ニュータイプとしか思えない先読みのセンスと、熟練の狙撃手・砲撃手である僚機の旧ザクとのコンビネーション、それから……と、この辺でエリサは考えるのをやめた。

 

(んっふっふー。こんだけ強い相手やと、もうガチンコでぶつかってくしかないなー……エイトちゃんみたいに!)

 

 エリサはニヤリと微笑んで意を決し、出撃ボタンを勢い良く叩いた。

 

「さあ行こか、カメちゃん! メイファ! チーム・アサルトダイヴ! 強襲するで!」

 

《BATTLE START!!》

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 仮想カタパルトから撃ち出された先は、果てしない蒼穹。眼下には綿のような雲海が広がり、頭上には大気圏と宇宙との境界面が、濃紺の薄布となって覆い被さる。

 今回の戦場は地球――ただし、超高高度の成層圏。空と宇宙(そら)との境目だ。

 

「あいや、足場ないアルか!? レイロン装備ないなら、メイファ墜落だたヨ!」

「んっふっふー。一回戦もそうやったけど、GBOの運営て時々ナゾに強気やなー。地上専用機のチームにゃ配慮無しやなぁ」

「姐御、メイファ、いくらなんでもそんなこたぁねえよ。足場なら、すぐに来る(・・・・・)ぜ――ほら!」

 

 バーニアを吹かして姿勢制御するエリサたちの眼下の雲中に、MSのさらに十倍もありそうな機影がせり上がってきた。大型の猛禽類のような機影はさらにその翼長を増しながら上昇し――雲を突き抜け、その全身を雲海の上に現した。

 

「――ガルダ級か。おもろいやん」

 

 それは、常識外れの巨鳥。一個の基地がそのまま空を飛んでいるような、地球連邦軍最大の固定翼輸送機だ。その巨躯を支える翼面積は、ガンダムUC劇中ではバンシィとユニコーンが取っ組み合いを演じることができたほどだ。

 しかも、それが、

 

「あわわ……メイファ、さすがにこれは驚きヨ!」

 

 ずずず……と、鯨の群れが海面をかき分けるように。雲海を割って、次々と。公式設定では存在しないガルダ級の大編隊が、その巨大に過ぎる体躯を出現させたのだ。雲海の上に飛び石状に背中を見せるガルダ級の間隔は、飛行能力のない機体でもブーストジャンプで何とか渡り歩けるギリギリの距離だ。加えて雲海の上下にも、三次元的に数隻のガルダ級が飛行している。

 

「こいつらが、このフィールドでは足場代わりってわけだ。ガンプラの空戦能力が高いに越したことはないが、地上用の機体でも即時リタイアってことはないぜ。まあ、今の俺らの編成なら心配いらねえことだが――」

「カメちゃん、右下!」

 

 ドッ、ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 店長の言葉を遮るように、圧倒的な光の奔流が雲海を貫き、宇宙に迸った。

 

「メガキャノンか! 早速おいでなすったかよ!」

 

 三人はそれぞれバラバラに散開、回避行動をとる。メガキャノンは長大な光の大剣を振り回すように雲海を裂き、射線上にあったガルダ級二隻をいとも容易く両断した。

その雲海の裂け目から、鮮烈な閃光の尾を曳いて、白い姫騎士が飛び出した。ビーム刃の切っ先を鏃として、矢のように一直線にエリサに迫る――その、姿が。装甲が。エリサの記憶にあるレディ・トールギスとは、違っている。

 

「……紅色の肩当て!?」

「アンジェ・ベルクデン、レディ・トールギス改――〝フランベルジュ〟。参りますわ!」

「んっふー、おもろくなりそうやなあお嬢ちゃんっ!」

 

 ガキィィンッ!

 エリサは不敵な笑みで即応、抜刀したボーンイーターで切り払うが、切っ先を逸らす程度が限界だった。押し負けたシュライクは大きく弾き飛ばされ、高い位置にいたガルダ級の横っ腹に叩き付けられた。

 

「エリエリっ!」

「姐御っ!」

 

 メイファはレイロンストライカーのバーニアユニットを全力噴射(フルブースト)、一瞬にして夜空の星ほどの距離まで上昇していったアンジェリカを追い、飛び出した。

続いて店長もセカンドプラスを簡易変形、バックパックとボディを一体化させて疑似的なWR(ウェイブライダー)形態をとる。バーニアを吹かして飛び出そうとしたが、その鼻先を超音速の徹甲弾が掠め、押し留めた。

 

「ちぃっ、狙撃か!」

 

 狙撃手の射界内で、直線的な機動しかとれないWR形態などまさに鴨打だ。店長は舌打ちを一つ、変形を解いて回避機動を取った。しかし今度はセカンドプラスの退路を塞ぐように、爆破範囲の広い榴弾の弾幕が、次々と撃ち込まれてくる。

 

「お嬢の邪魔はさせんぞ、若造」

「アンタを押さえる役割を、仰せつかってやしてね」

 

 眼下、そしてほぼ同高度の正面、二隻のガルダ級の翼の上で、武骨な旧ザクの改造機がそれぞれの武器を構えていた。眼下の対艦ライフル装備の狙撃型と、正面のザクバズーカ二丁持ちの火力支援型。姫騎士を守る親衛隊、それも熟練の精鋭というところか。

 

「俺一人に二人掛かりたあ光栄だ! けどいいのかよ、逆にアンタらの姫さんにはウチの姐御と拳法娘、二人掛かりになっちまうぜ!」

「問題はない。すぐに三対二になる」

「あっしらが、アンタを撃ち落としやすからねえ!」

「がっはっは! いいぜ! 相手してやらあベテランさんよぉっ!」

 

 豪放に叫び、店長は対艦ミサイルを眼下のガルダ級に撃ち込んだ。迎撃する気もなかったのか対艦ミサイルはガルダ級に命中、火球を膨れ上がらせて巨鳥の片翼をもぎ取った。チバの旧ザクは傾き墜ちるガルダから意外なほど身軽にブーストジャンプ、次の足場(ガルダ)へと飛び移る。その跳躍中を狙って店長はビームライフルを構えるが、ヤスの弾幕に邪魔をされ、回避行動を余儀なくされる。チバは着地と同時に即座に対艦ライフルを構え、射撃。速射に近いタイミングだったにも関わらず、その銃弾はセカンドプラスのバルカンポッドを射抜いた。

 

(直前でズラさなきゃあ、目をやられていた……!? 老兵の技量ってやつかよ!)

 

 店長はギリリと奥歯を噛み締め――そして、にやりと口の端をつり上げた。その表情はまるで年齢に見合わない、少年のような笑顔だった。

 

「がっはっはっはっは! 面白くなってきやがったああああッ!」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 〝姫騎士〟――そう形容するにふさわしい純白の重装鎧に身を包んだのがレディ・トールギスであるならば、このガンプラもまた、紛れもなくレディ・トールギスであった。二門のメガキャノンを背負い、両肩にヒートロッド・シールドを装備し、両手両足に対装甲散弾(ショットシェル)を隠し持ち、そして右手には細身のビームサーベルを構える。その機影からは間違いなく、〝強過ぎた白雪姫(オーバーキルド・プリンセス)〟と名高いレディ・トールギスの意匠を感じる。

 しかし、ただのレディ・トールギスではない。

 あえて装甲を捨て去り、一部が露出した内部フレーム構造。格闘や剣戟に対応するため、延長された手足。真珠のような純白のみならず、その内に秘めた熱量を示すがごとく紅色に輝く一部の装甲――そして、その胸の内で唸りを上げるエイハブ・リアクターの鼓動。

 レディ・トールギス改〝フランベルジュ〟。

 ヤマダ・アンジェリカがアーティスティックガンプラコンテスト出品用に製作したガンプラ。ガンプラバトルにおける修理や整備の手間を度外視し完成度のみを追求した一品。そのガンプラを、完成度こそが性能を左右するバトルシステムに読み込ませれば――結果は、火を見るよりも明らかである。

 

「おぉぉりゃりゃりゃりゃあーっ!」

「はぁぁぁぁッ!」

 

 青白い軌跡を空間に残し、二刀一対のシグル・サムライブレードが乱舞する。やや長い〝ボーンイーター〟が目にも止まらぬ連撃を繰り出し、少し刀身の短い〝シルールステール〟がその間隙を縫っての刺突や死角からの斬撃を繰り出す。しかしアンジェリカは、レディ・トールギスの持つ細身のサーベル〝ビーム・フランベルジュ〟一本きりで、凄まじいまでの連撃を見事に捌き切っていた。

 

「ん……んっふっふ、こっちゃ手数二倍やのに攻め切れん! やりおるなあ、お嬢ちゃん!」

「お褒めにあずかり光栄ですわ、〝双璧(フルフラット)〟さん。研鑽を積んだ甲斐があるというものっ、ですわっ!」

 

 優雅な剣術から一転、強引な踏み込み。サーベルによる鋭い刺突を、エリサは身を捻ってかわし、その回転の勢いをそのまま横薙ぎの斬撃に繋げた。しかし、

 

「なっ、手首を!?」

 

 レディ・トールギスの左手が、シュライクの右手首をがっちりと掴み取っていた。手首の動きを押さえられれば、刀剣類は一切の攻撃力を失う。エリサは即座に左の〝シルールステール〟を逆手に持ち替え、フレームが剥き出しになったレディ・トールギスの脇腹に突き立てようとするが、

 

「拙速ですわね!」

 

 猛烈な加速度が、エリサを襲う。続いて衝撃。一秒程遅れて、エリサの意識が現実に追いついた。レディ・トールギスは、全身のスーパーバーニアを全開にして猛加速。自身の体重と加速度の全てを乗せに乗せて、シュライクをガルダ級の翼に叩き付けたのだ。シュライクはガルダの翼に深くめりこみ、身動きが取れない。

 

「あなたほどの相手となら、あるいは戦いを楽しむこともできたのでしょうけれど」

「ん……っふっふ。そいつは光栄やな、お嬢ちゃん」

「でも、私はここで止まれませんの」

 

 レディ・トールギスの前腕部に搭載された火砲が、シュライクに突きつけられる。短い砲身に比して、やけに太い砲口。手足に仕込んでいるのと同じ対装甲散弾(ショットシェル)を連射可能な追加装備、ショットシェル・ガンナーだ。

 

(ちぃっ……ま、まさかここまでの実力差があるやなんて……!)

「エリエリィィッ!!」

 

 エリサがぎゅっと手汗を握り潰すのと同時、ガルダの翼が内側から(・・・・)弾け飛んだ。

 

「爆撃……いや、あのストライクのっ!?」

「メイファ! 粒子発勁か!」

 

 飛び散る装甲板や内部機器に紛れて、シュライクもその場を離脱。左翼部分が骨組み(フレーム)だけになって墜ちていくガルダの背中を駆け上がるようにして、レイロンストライクがレディ・トールギスへと突撃する。

 

「ホォアリャーーーーッ!」

 

 迎撃に打ち放たれるショットシェル・ガンナーを曲芸のような身のこなしで躱し、あっという間にレディ・トールギスに肉薄する。剣の間合いよりもさらに近い、ほぼ密着するような距離、徒手空拳の間合いだ。

 

「ハイィッ! セイッ、アチャーーッ!」

 

 粒子発勁の光を宿した掌打が、予測不可能な位置から繰り出される蹴りが、鋭く差し込まれる肘が、膝が、レイロントンファーのブレードが、メイファが得意とする中華拳法の動きそのままにレディ・トールギスへと襲い掛かる。

 しかし、当たらない。

 粒子発勁はシュライクの刀を止めたときのように手首を押さえられ、蹴りは出だしの膝や爪先を押し止められる。トンファーの斬撃には、ビーム・フランベルジュで合わせる。あまりにも完璧に打ち合う攻撃と攻撃は、まるで手順の決まった型稽古のようにすら見えた。

 

「えぇい、ちょい卑怯やけど! メイファ、二人掛かりでいくで! 合わせや!」

「ハイな!」

 

 メイファはトンファーをわざと大振りに振り抜き、弾かれた反動を利用してそのままバックステップ、レディ・トールギスと距離を取る。入れ替わりにエリサのシュライクが突撃、二刀一対の〝ボーンイーター〟と〝シルールステール〟を連続して横薙ぎに斬り抜ける。当然のようにビーム・フランベルジュで切り払われるが、エリサとメイファで前後からアンジェリカを挟み込む形が出来上がった。

 

「メッタ斬りにして隙を作る! 粒子発勁打ち込んだれ!」

「御意ネ、エリエリ! ホァチャーーッ!」

 

 シュライクの二刀一対、そしてレイロンストライクのトンファーブレード。振りかざされた計四振りの刀身がギラリと光る。しかしアンジェリカは、突撃する二人を突き放すように急上昇、天高く舞い上がり、左右のメガキャノンを展開した。

 

「相手の土俵で二対一をやりきれるなどとは、己惚れていませんわ」

 

 そして降り注ぐ、冗談のような高出力、かつ凄まじい連射力のビームの集中豪雨。墜落しかけていたガルダが一瞬でハチの巣になり爆散する。

 

「えぇいっ! 今度は間合いに入れさせんってことかい! やりおるなあ、ホンマにぃッ!」

 

 一発一発が落雷のような砲撃の嵐の中を、エリサとメイファは右に左に飛び回って回避する。真っ白だった雲海はメガキャノンに吹き散らされて穴だらけになり、壮観だったガルダ級の大編隊ももう三割近くが大破炎上、隊列は乱れに乱れている。

 

「逃げ回ってもジリ貧や……左右から突っ込むで、メイファ! タイミング、一、二の三やで!」

「御意ヨ! (イー)(アル)……」

「三やっ!」

 

 シュライクとレイロンストライクは、鋭角的に反転上昇、レディ・トールギスとの距離を一気に詰める。連射しているように見えて正確なメガキャノンの閃光が装甲を掠め、ジリリと塗装を焼く。しかし二人とも速度は緩めず、回避機動は最低限、ほぼ一直線に近い軌道でレディ・トールギスに突撃する。

 その突撃に決死の覚悟を見て取り、アンジェリカは微かに微笑んだ。武器スロットを操作し、メガキャノンの砲撃を停止。代わりに両肩のシールドから最大出力でヒートロッドを射出し二機を迎え撃つ。

 

「行きなさい、ヒートロッド!」

「しゃらくさいわあっ!」

 

 鋭角的な鱗の並ぶ龍の尾のようなヒートロッドが、直線的な軌道で迫り来る。エリサは両手の二刀でヒートロッドを切り払い、その軌道の内側に入り込んでさらにレディ・トールギスへと迫っていく。メイファもレイロントンファーで切り払おうとするが、ブレード部分に絡みつかれて左のトンファーを破壊されてしまった。しかし、パージしたトンファーの爆発を目くらましにする形で、シュライクとほぼ同じ距離までレディ・トールギスに詰め寄ることに成功した。

 

「いくでっ! 今度こそメッタ斬りやぁぁっ!!」

「ホァーータタタタタタタタタタタァァァッ!!」

 

 二刀一対のボーンイーターとシルールステールが、粒子発勁とレイロントンファーが、無呼吸連打の勢いで炸裂する。アンジェリカは短く直剣状に固定したヒートロッドとビーム・フランベルジュの三手で剣と拳の乱打を迎え撃つ。

 しかし、近接格闘に特化した二機揃っての連続攻撃を、流石のアンジェリカも完璧には捌き切れない。当たれば一撃必殺の粒子発勁だけは打ち払い続けているが、そこに意識を裂いているためか、数発に一発程度攻撃を受けてしまっている。ボーンイーターがシールド表面を削り、シルールステールが装甲を刻む。レイロントンファーがビーム・フランベルジュを弾く。

 

「いよっし、このまま攻め切るでメイファ! 気張りやぁっ!」

「ハイハイなーっ! アタァァッ!」

 

 気合一声、ついに粒子発勁が炸裂した。レディ・トールギス左腕のショットシェル・ガンナーにレイロンストライクの掌打が直撃、爆散する。アンジェリカは咄嗟に装備排除(パージ)して粒子発勁の機体本体への浸透を防いだが、大きく姿勢を崩される。

 

「逃がさん! もう一丁ぉぉっ!」

 

 斬り上げるボーンイーターと斬り下すシルールステール、現実の剣術にはありえない奇抜な太刀筋が閃いて、レディ・トールギスの右腕を肩口から斬り飛ばした。ビーム・フランベルジュを持ったままの右腕がくるくると宙を舞い、肩の傷口から、赤黒い循環液が血のように噴出した。

 ビーム・フランベルジュ、左右のショットシェル・ガンナーと右のヒートロッド。防衛手段を一気に失ったアンジェリカだが、しかし――その口元から、柔らかい微笑みは消えなかった。

 

「よっしゃ攻めきれぇぇいッ!!」

「ホアチャァーーッ!!」

「――チャージ、完了」

 

 ガツン。勝機を見出し、剣と拳とを振りかざして躍りかかる二人の胸先に、メガキャノンが突きつけられた。レール状の砲身の間には青白い放電が走り、最大限まで圧縮された粒子エネルギーが炸裂寸前にまで膨れ上がっている。

 

「なっ、しまっ……」

「ツイン・メガキャノン、最大出力(フルドライブ)! 吹き飛びなさいな!」

 

 ズオ――オオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「おやっさん、すんません!」

 

 セカンドプラスのシールドスマートガンが胴体を貫通し、ヤスの旧ザクは足場になっていたガルダ級ごと爆発した。しかし、撃ったセカンドプラス自身もすでに満身創痍、シールドスマートガンの反動に耐えきれず、左腕の関節は火花を散らしてヘタってしまった。

 

「畜生、GBOでよかったぜ。ダメージレベルBでも関節交換するレベルだなコイツは」

「あとの心配とは余裕だな、若造!」

「おわっ!?」

 

 腕から外したシールドガンのど真ん中を徹甲榴弾が射抜き、爆発。爆風に押されるようにして、セカンドプラスは上空へと舞い上がった。

 

「若造若造ってなぁ! 俺もう二十代半ばなんですがね、ベテランさんよぉ!」

「その反応が若造だと言うんだ」

 

 さらに二発、狙撃がセカンドプラスの装甲を掠める。店長はギリギリのところで銃弾を回避しつつも、内心では焦っていた。戦闘序盤、二対一という数の不利を覆すために、持てる火力の限りを惜しみなく放出して、相手を抑え込んだ。その甲斐あってなんとか一機は撃墜できたが――残弾が、もうほとんどない。さらには、致命傷こそまだないが、敵の弾を受け過ぎて耐久力もかなり低下している。シールドガンの射撃に自分の腕が耐えきれなかったのが、良い証拠だ。

 

「FCS、残弾チェック……ラピッドガンが少しと、ガトリングシールドが半分か……!」

 

 少し画面に目をやった瞬間、狙撃の一発がセカンドプラスの右肩を射抜いた。フレームは無事だが、ラピッドガンが使用不能に。残り少ない射撃武器を、さらに削られてしまった。

 

「くぅ、コイツは……撃ち合いはもう無理だな。突っ込むか!」

 

 店長はぐしゃぐしゃと頭を掻いてから、意を決したように武器スロットを操作、すでに何発も被弾しボロボロになっているBWS(バックウェポンシステム)を機体から分離させた。単独飛行形態に変形するBWSからガトリングシールドを受け取り、ヘタって動かない左腕の代わりに、右腕に装備した。

 

「さあ行くぜ、これが最後の攻撃だ!」

 

 BWSにバルカン砲をばら撒かせながら先行させ、自分もガトリングシールドで弾幕を張りつつ、後を追って突撃する。

 ガルダ級の背中で片膝立ちの狙撃指定を取るチバの旧ザクから、迎撃の対艦ライフルが一発、また一発と射ち放たれる。しかし店長はその射線上にBWSを配置、盾代わりにして突っ込んでいく。

 三発、四発、五発――六発目の銃弾を受け、BWSはついに大破。火を噴きながら墜落した。

 

「だがよ、ここまで来ればッ!」

 

 七発、八発目の狙撃をガトリングシールドで受け、機能停止したシールドは投げ捨てる。その手に膝部装甲から引き抜いたビームサーベルを展開し、大上段に構えて、もはや銃の間合いには近すぎる旧ザクへと躍りかかる。対艦ライフルの長大な銃身は、この間合いではもはや無用の長物。ビームサーベルの一撃の方が、確実に速い――!

 

「もらったぜ、ベテランさんよ!」

「フ……青いな」

 

 ガゴオォンッ!

 

「な……に……っ!?」

「奥の手ってぇのは、最後まで隠しておくものなんだよ」

 

 セカンドプラスの腹部、設定上コクピットがある部分には巨大な風穴が空いていた。そこに突きつけられているのは、旧ザクの対艦ライフル――ただし、邪魔な銃身を基部からごっそり外し、ほとんど機関部のみといったような、異様な形状の短銃と化した対艦ライフルだった。

 

「くっ……悪ぃ、姐御。墜ちちまった……!」

 

 唇を噛む店長の言葉を最後に、セカンドプラスは爆散――成層圏の強風に炎と煙は吹き散らされ、ガルダの背には旧ザクだけが残される。

 チバは黄色いモノアイをぐるりと巡らせ、周囲を警戒。敵の反応がないことを確認し、一発限りの奇襲技を使い、再使用不能となった対艦ライフルを足元に投げ置いた。

 

「……敵影は無し。お嬢の方も、終わったみたいだな」

「ありがとう、チバさん」

 

 言葉と同時、旧ザクのとなりに白騎士が降り立つ。

 しかしその姿は、満身創痍。右腕は切り落とされ、肩口には袈裟切りの形で小振りな日本刀が深々と喰い込んでいる。また左腕は、指先から二の腕までの装甲が内側からめくれ上がったように弾け飛び、内部フレームが露出している。さらに、ゼロ距離で全力射撃をした影響か、二門のメガキャノンは砲身が灼け落ちてしまっていた。圧倒的完成度を誇るレディ・トールギスでなければ、撃墜判定を下されているほどの損傷だ。

 

「ボロボロじゃねえか、お嬢。強敵だったか」

「ええ。必殺のタイミングで、ゼロ距離を取ったのですけれど……そこから最後の反撃を受けて、この体たらくですわ。私もまだまだ、精進が必要ですわね」

 

 額に浮かんだ汗を手の甲で拭い、アンジェリカは真剣な顔で首を横に振った。

 しかし今、ここに立つのはレディ・トールギスと旧ザクの二機。

 ハイレベルトーナメント二回戦第三試合、ホワイトアウト対アサルトダイヴ――奪われた親友と、汚された看板。ともに負けられぬ理由を背負った者同士の対決は、アンジェリカ・ヤマダ率いる、チーム・ホワイトアウトに軍配が上がったのだった。

 

《BATTLE ENDED!!》

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ――ヤマダ重工の女子寮から、徒歩で15分ほどのネットカフェ。その個室スペースの一つに、ラミアは引き籠っていた。

 

「私は強い……私は強い……私は……弱く、ない……っ!」

 

 決して広くはない個室の隅に膝を抱えてうずくまり、まるで悪寒にでも曝されているかのように、小刻みに肩を震わせている。何かを恐れてでもいるかのようなラミアの目は、大型ディスプレイに表示されたGBOのリアルタイム配信――二回戦突破を決めたレディ・トールギスの勇姿に、くぎ付けになっている。

 

「勝ったんだ……はは、お嬢さま、また勝ったんですね……さすがはお嬢さまです……」

 

 ――それに引き換え、私は。

 ラミアはばりばりと頭を掻き、流麗な銀髪がぐしゃぐしゃにかき乱される。

二回戦第一試合での大破撃墜。〝市街戦の女王(ウルトラヴァイオレット)〟への敗北。その後の、ゴーダ妹の覚醒。チームとしては勝利をしたが……わたしは(・・・・)まけたのだ(・・・・・)

 ヤマダの女子寮は、いつの間にか飛び出していた。ふと気づくとラミアは、この数日ろくに着替えてもいないジャージ姿のまま、街中を彷徨っていた。褐色の肌に銀色の髪、ただでさえ目立つ外見をしているラミアに周囲の人々は好奇の視線を向けてひそひそと噂しあい、または露骨に白い目で睨み足早に立ち去っていく。その無遠慮な人の波に、ラミアは「私を見るなァッ!」と、思わず怒鳴りつけていた。

 アンジェリカと出会う以前だったら、ひたすらに耐え忍んでいた。アンジェリカと出会ってからは、気にしなくなっていた。でも、今は。周囲の視線の一つ一つが、肌を刺す不快感となって押し寄せる。まるで強化人間に調整されたかのように、感覚が鋭敏になっている。他人(ヒト)悪意(プレッシャー)が、自分を押し潰そうと嘲笑いながら迫ってくるかのようだ。

 洪水のような視線から逃げ出すように、ラミアはネットカフェに飛び込んでいた。偶然入った店が、料金後払い制だったのは幸運だった。着の身着のままのラミアは財布など持っていなかったが、ジャージのポケット入れっぱなしだったヤマダ重工の社員証を身分証明にして、個室スペースに潜り込んだ。この状況だ、料金は踏み倒すしかあるまい。

 

(ふふ……あはは……笑えるなあ、私は。こんな状況だって言うのに……)

 

 泣き笑いのようなラミアの目が、ディスプレイの横のわずかなスペースに向けられる。

 そこには、一体のガンプラがあった。

 白黒の二色、太い脚に細い腰。右腕のビームガトリングガン、背部の長いアーム付きハング――サーペントハング。〝多すぎる円卓(サーティーン・サーペント)〟筆頭の証、ラミア専用のサーペント・サーヴァント。

 

(なんで、この機体を……持ってきたんだろうなあ……)

 

 現在の愛機、セルピエンテではなく。

 赤姫に負けた、全てが狂いだしたあの敗北の時に使っていた、サーペント・サーヴァント。

 財布すら持たずに寮を飛び出したというのに、なぜ、私は――ぐちゃぐちゃに、どろどろに渦を巻くラミアの心の奥底に、何か一筋の光が見えた。それは、思い出。私とお嬢さまが、出会ったばかりの頃の。何もなかった私に、ガンプラバトルを教えてくれたお嬢さまとの日々。特別なサーペントを、一緒に作ろうと言ってくれた、あの時の――濁り、淀んでいたラミアの瞳に、僅かに光が戻っていた。

 

「――あぁ、そうか。私にとって、お嬢さまは――」

『おやおや、随分と辛気臭いご表情ですねえ』

 

 墨汁をぶちまけるような声色が、狭い個室に響いた。ラミアはびくりと身を震わせ、濁った瞳でパソコンを睨みつける。

 

「貴様、なぜここがわかった」

 

 イブスキ・キョウヤ。彼のパーソナルマークである〝赤い三つ目の蛇〟の紋章が、ディスプレイの端に表示されている。GBO内のVC機能が、強制的に作動させられているらしい。

 

『いやなに、大したことではありませんよラミアさん。GBOのネットワークには……まあ、詳しくは貴女に言ってもわからないでしょう。ちょっとした仕掛けがある、とだけお答えしておきましょうかね。ククク……』

 

 相変わらず、蛇のように嗤う男だ。ラミアはその声色を聞いて、今まで自分がこの男に嫌悪感を抱いていなかったことに驚いた。意識して硬く冷たい口調を作り、画面越しに言葉を返す。

 

「何の用だ。別に逃げ出したわけではない。あの寮では、いつお嬢さまがドアを破ってこないとも限らないと考えたまでのことだ。ガンプラはどうせまた、データオンリー機とやらで用立ててくれるのだろう?」

『ええ、もちろんですとも。〝貴女に力を〟というのが、私とあなたとの契約ですからねぇ。少しばかり特殊な事情で、ゴーダのご兄妹には準決勝にご参加いただけなくなりましたから……次はあなた一人でも、例の〝赤いガンプラたち〟を殲滅できるガンプラをご用意いたしましたよ。期待していただいて構いません――』

 

 まとわりつくような独特のリズムで持って語るイブスキの言葉は、聞きようによっては神経を逆なでされているようにも感じられる。しかしその言葉を聞くたびに、ラミアの目の色は濁り、淀み、一度は消えかけた狂気が戻ってくる。そして――

 

『オーバードーズシステムを、貴女の機体にも実装しましたしねぇ』

 

 ――その一言で、ラミアは画面に喰いつくように身を乗り出したのだった。

 

「……あのシステムを!? 強いのだな、そのガンプラは!」

『ええ、ご期待に沿えることでしょう。これからも存分にご活用ください――この私と、黒色粒子の力を、ね』

 

 そして転送されてくる、大量のガンプラデータ。そこに書き連ねられたカタログスペックを見て、ラミアは両目を大きく見開いた。

 両腕を廃し装備された、二基のセルピエンテハング。大量の誘導弾。

 そして、スーパーバーニア(・・・・・・・・)ドーバーガン(・・・・・・)

 もはや面影を残さないほどの改造を施されていたが、その機体のベースとなったガンプラは、つまり――

 

「はは……! これなら私は、お嬢さまの隣に立っても……恥じない、強さを……!」

 

 ――乾いた声で言うその口元には禍々しい笑みが浮かび。そして目の色は、完全に濁り切っていた。

 




第四十二話予告

《次回予告》

「むきぃーっ! 許せないのです許せないのです絶対に許せないのですーっ!」
「このナルミを差し置いて、根暗前髪先輩が彼氏持ちだなんて……腹が立つ! なのです!」
「デート現場まで尾行してやるのです。どうぜ根暗前髪先輩にお似合いな、クソピザのキモヲタ野郎がやってくるに決まってるのです!」
「……と、言ってる間に待ち合わせの公園なのです。賢いナルミは茂みの影からウォッチングなのです。さてさて、彼氏とやらのお顔を拝んでやるかなのです!」

ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第四十二話『アンフィスバエナ』

「……んむぅ。い、意外とまともな……というか、ぶっちゃけイケメンなのです……つまらんなのです……」
「……って、え? ひゃ、ひゃわわ!? こここ、ここは公園なのですよ!? えっ、あっ、根暗前髪先輩そんな大胆な……ななな、なんということなのです!? ひゃわ、すご……えっ、そんな場所でそんなコト……きゃわわわわ!?」
「みみ、見てられないなのです! な、ナルミは退散するのですぅーーーーっ!!」



◆◆◆◇◆◆◆



 と、いうわけで。第41話でしたー。
 神戸心形流を裏切ったイブスキへの制裁のために大会に参加したエリサたちでしたが、あえなくここで敗退。別ルートでのイブスキとの対決をさせてあげる予定ですが、今大会ではここまでです。
 そして、アンジェリカお嬢さまは、どんどん墜ちていくラミ公を救うことができるのか!?
 自分で書いておきながら、ちゃんと伏線回収できるか心配になってきました(笑)
 今回はガンプラ紹介も同時に更新しておりますので、どうぞそちらもご覧ください。感想・批評もお待ちしております!
 
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