ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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Episode.42 『アンフィスバエナ』

「……ついに、準決勝ですね」

 

 イサリビの食堂を模した、特設ラウンジ。食堂テーブルの天板を緊張した面持ちで見詰めながら、エイトは呟いた。強張ったその肩に、ポンと軽く掌が置かれる。スタイルの良い長身、黒いジオン系ノーマルスーツ――掌の主は、ナツキだった。

 

「ビビんなよ、エイト。オレサマがついてんだからよォ」

「ナツキさん。ありがとうございます」

「妬けてしまうなあ、エイト君」

 

 言いながらエイトの隣に腰掛けるのは、赤いオーガスタ系パイロットスーツ姿のナノカだ。ナノカは微笑みながら三人分の飲み物を手元に転送(ダウンロード)し、それぞれ手渡した。

 

「私も、キミの背中を守るから。存分に突撃してほしい」

「はい、ナノさん!」

「ハッハァ、良いカンジじゃあねェか赤姫。ついでにオレの背中も頼むぜェ?」

「ふふ……いいよ、ビス子。エイト君のついでくらいには、考えておこうかな」

 

 エイト、ナツキ、ナノカはそれぞれ目を合わせて頷き合う。

 

「さァ、準決勝だ。あの狂犬野郎どもをぶっとばしてやろうぜェ!」

「ああ。あの男にたどり着くためにも……トウカのためにも……勝とう、エイト君。ビス子」

「はい、ナノさん。ナツキさん。チーム・ドライヴレッド……勝利に向かって、戦場を翔け抜けましょう!」

 

 カツン……! 

 ミルク、コーラ、お汁粉を満たした三つのカップが、小気味よい音を立てて突き合わされた。

 と、そこへ、

 

「わ、私も仕方なく応援してあげるわねっ、アカツキエイト! し、仕方なくなんだからねっ!」

 

 髑髏マークの彫刻された金ピカのカップが突き合わされ、

 

「うふふ……この大会がおわったらぁ……わたしといぃっぱい、壊しあいましょうねぇ……♪」

 

 白と黒の縞々模様のグラスもさらに追加され、

 

「アカツキくぅん、ヤエとも遊んでくれるのよねぇっ♪ ちゃっちゃと片づけちゃってね♪」

 

 ブルーメタリックに輝く金属製タンブラーも加わり、

 

「んっふっふー♪ エイトちゃんの出陣にぃー、かんぱーいっ♪」

「よくわからんアルが、カンパーイ! イェイイェーイ!」

「ったく、こんな美少女たちに囲まれて、羨ましい限りだぜエイトのボウズ!」

 

 GP-DIVEのロゴが印刷された湯呑が三つ、突き出された。

 

「――ってなんでテメェら当たり前のように居座ってんだよォッ! 今は試合直前のォ、チームの時間をだなァ!」

 

 唾を飛ばして怒鳴り、テーブルをばんばん叩くナツキ。しかしそんな怒声もどこ吹く風、カスミはうっとりとした顔でエイトにすり寄り、爪を立ててエイトの首筋をカリカリと引っ掻く。

 

「あらあら、なによぅ……いいじゃなぁい。準決勝からはぁ、一般プレイヤーの会場入りと観戦がぁ、解禁なのよぉ……?」

「そりゃラプラスのメインステージの話だろうがァ! なんでテメェらがチーム専用ラウンジにまで入り込んでンだよッ!」

(んっふっふー……ウチがエイトちゃんに頼んで招待メール出しまくってもろたんやけど……オモロそうやから黙っとこー♪)

「細かいことはぁ、いいじゃなぁい……それよりなによりぃ、私とアカツキくんはぁ、壊しあって愛しあう運命……うふふふふふふふふ」

「あ、あはは……ぶ、物騒な運命ですね……」

 

 焦点のあっていない目で怪しく笑うカスミに、エイトは引きつった笑みを返すことしかできない。そんなエイトとカスミの間に、ミッツが小さな体を無理やり捻じ込んだ。

 

「ちょ、ちょっとアカツキエイトにナニすんのよ! いやがってるでしょ!」

「そーよそーよ、アタシのオモチャに勝手に触んないでよ! っていうか、アンタが兄兄(にぃにぃ)ズにしたこと、まだ許して無いんだからねっ!」

 

 ヤエもその上から覆い被さるようにしてエイトに抱きつき、そして気づいていないふりをして、胸のふくらみをぐりぐりとエイトの顔面に押し当てた。

 

「ね~ぇ、エイトくぅん? いっしょに遊ぶならぁ、あんなお子ちゃまやメンヘラ娘よりもぉ、おねーちゃんの方がいいわよね~?」

「い、いや、あの、その……」

「むっきーーーーっ! アカツキエイトから離れなさいよっ! この年中発情猫がぁぁぁぁ!」

「アカツキくん……おっぱい、あるほうが……いいのかしらぁ……」

「だ・か・らァ! テメェらはさっさとウチのラウンジから出ていきやがれェェェェッ!!」

 

 ニタニタと底意地の悪そうな笑みを浮かべるヤエ、キーキーがなりたてるミッツ、自分の起伏の無い身体を寂しげに見下ろすカスミ、怒り狂うナツキ。

 そして――

 

「ずいぶんと、楽しそう(・・・・)じゃあないか」

 

 ゴゴゴゴゴ……地鳴りのようなプレッシャーを背負い、微笑むナノカ。ミッツが突っ込んできた衝撃でコップの中身が頭からぶちまけられ、ナノカの髪はジュースに濡れていたのだ。ぽたぽたとしずくを垂らす前髪の奥で優し気に細められた目には、煉獄の劫火が渦巻いている。

 

「あらぁ……たぁいへん……」

「にゃはは……」

 

 危険を察知したカスミとヤエは潮が引くように退散。必然、最後までナツキと睨み合っていたミッツの肩に、赤黒いオーラを纏ったナノカの掌が置かれることになる。

 

「ちょっと、何を……ひっ!?」

 

 ミッツの顔からさぁーっと血の気が引く。暗黒面(ダークサイド・ナノカ)の気配を感じ取ったエイトは慌ててとりなそうとするのだが、

 

「あ、あの、ナノさん。ミッツちゃんもわざとじゃあないでしょうし、ここは穏便に……」

「ふふふ優しいなあエイト君はわかったよ穏便に済ませようかできるだけ(・・・・・)それはそうとミッツちゃん君自身から言うべき言葉を聞いていないのだけれど」

「あの、その、ご、ごめ……」

「続きはエイト君に見えない部屋で聞こうかさあこっちに来るんだほら早く」

「ひ、いぁ、ごご、ごめんなさぁぁぁぁいっ!」

 

 ずるずるずる……満面の笑みのナノカに引き摺られて消えていくミッツ。エリサはその様を指さしてケタケタと笑い、店長は渋い顔で敬礼をして見送るのだった。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ――それが、三十分前のこと。あのあと戻ってきたミッツが「ナノカお姉サマには決して逆らいません」と涙目赤面で何度も何度も繰り返していたのは少し気になったが、それはそれ。

 今、集中すべきことは……

 

《準決勝第一試合  スカベンジャーズ VS ドライヴレッド》

 

 メインモニターのど真ん中に堂々と表示された対戦カード。試合開始までのカウントダウンは、残り百二十秒を切っている。エイトは機体各部の最終チェックを終え、仮想カタパルトにクロスエイトの両足を乗せた。

 

「……エイト君」

 

 メインモニターの右手に、ナノカからの通信画面が開かれた。今回の仮想カタパルトはかなり大掛かりな設備で、横に三基が並んだ構造になっている。通信画面のさらに奥には、クロスエイトと同じくフットロックに足を乗せたレッドイェーガーの姿も見える。

 

「次の試合。例の彼女は、私を執拗に狙ってくることが予想される」

「そう、ですね……」

 

 例の彼女――狂犬にして毒蛇。元・アンジェリカ親衛隊の、墜ちた番犬。エイトも幾度か剣を交わしたが、その度に。そして、この大会で試合を重ねる、その度に。彼女の狂気は闇を深くしている。

 

「アイツの赤姫へのこだわりは異常だからなァ……あの女にとっちゃァ、ここが決勝戦みてェなモンか」

 

 左手に開いた通信画面では、ナツキが顎に手をあてて、眉根にしわを寄せている。既に出撃準備の完了しているドムゲルグのモノアイが、ナツキの言葉に合わせてグポンと光った。

 

「ゾンビ化ビットも気になるがなァ……赤姫が蛇女の囮になってる間に、オレとエイトでゴーダ兄妹を撃つ、ってのはどうだァ?」

「ふふ、わかっているじゃあないかビス子。私もそう言おうと思っていたところだよ。いいかい、エイト君。作戦はそれで」

「はい、了解です。ただ、ナノさん一人ではつらい場面もあるかもしれません。ナツキさん、今回は後衛で、僕とナノさんのどちらにも火力支援ができる位置取りをお願いします」

「よォっし、了解だエイト! オレサマの爆撃が遠距離でもアテになるッての、見せてやらァ!」

「私達の目的のためにも……ここで彼女に、復讐を遂げさせるわけにはいかないね……!」

 

 三人で画面越しに頷き合い、コントロールスフィアを握る手にぐっと力を籠める。ほぼ同時に、カウントダウンが残り十秒を切った。

 

「行きましょう、ナノさん! ナツキさん!」

「ああ、エイト君。〝赤姫(レッド・オブ・ザ・レッド)〟ナノ。レッドイェーガー。始めようか」

「〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟ビス丸! ドムゲルグ・デバステーター! ぶち撒けるぜェッ!」

「ガンダム・クロスエイト! アカツキ・エイト! チーム・ドライヴレッド――戦場を翔け抜けるっ!」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ――チーム・スカベンジャーズ側の仮想カタパルト。そこにあるガンプラは、二機だけだった。

 

「……イブスキッ、約束は守れよ! 嘘だったら、絶対に……ッ!」

『おやおや、随分と必死なご様子だ。そう力むと、勝てる試合も勝てなくなりますよ……いいのですか、すぐに(・・・)負けても?』

「テメェ……ッ!」

 

 現実であれば血が滲むほどに、バンは唇を噛んだ。

 部屋から消えたレイを探して、走り回ること十数分。仕事以外で鳴ることもない古い携帯電話に届いたメールには、「イブスキ・キョウヤ」という差出人の名と、一枚の写真データだけが表示されていた。

 着古された、女児用のパジャマ。見間違えるはずもない、レイのお気に入りのパジャマだ。いなくなる直前までレイが着ていたそのパジャマだけが、無機質なコンクリート床の上に広げられていたのだ。

 瞬間、視界が真っ赤に染まるほどの激情に駆られ、バンはイブスキの携帯番号を叩き、怒鳴り散らしていた。しかしそのバンに対し、イブスキはあくまでも冷静に――冷徹に、むしろ余裕さえ覗かせながら、交換条件を突きつけたのだった。

 

『――妹さんの安全は、私の名にかけて保証しますよ。今のところは(・・・・・・)、ね

『何せ貴重な被験体ですからねぇ。ここまで短期間で、こんなにも! 黒色粒子に適応したファイターは初めてですよ。たった一戦で、非常に有用なデータが取れました

『ですから、妹さんはとてもとてもImportantなのですよ。私に――いえ、我々にとっても

『まあ、バンさん。あれだけ追い詰められてもバンディッド・レオパルドのオーバードーズシステムを発動させられなかったあなたには、もう利用価値はないのですが――

『――妹さんを、助けたいのでしょう? でしたら、良いお話がありますよ

『ああ、あなたが警察を頼れないことは既に調査済みです。高校中退の身で、年齢を偽って就職など……するものでは、ありませんでしたねぇ? ククク……

『さぁ、愛しい大切なたった一人の妹さんのためです。よぉく聞いてくださいね。次の試合で、あなたは――』

 

 ――もしも、時間を遡れるのなら。イブスキ・キョウヤとガンプラバトルの契約を結んだ自分を、助走をつけてぶん殴りたい。しかしそれも、叶わぬ願い。今の自分にできることは、あの最低な男の策略に乗せられて、このバンディッド・レオパルドで戦うことだけだ。

 

「……どうした、ゴーダの兄。戦いの時間だぞ?」

 

 通信画面が開き、特異な仮面を付けた女の顔が映し出される。

 毒々しい紫色の面体に豪華絢爛な金糸で刺繍を施した、中世の仮面舞踏会のような仮面。目元も口元も大きく開けており顔を隠す効果もなさそうだが、どこか異形めいた仮面だ。

 

「何でもねぇよ。考え事だ……それより、なんだその仮面は」

「はは、よく気づいたな! これこそ私の強さの証明! このトールギス・アンフィスバエナと共に、私が手にしたんだよ!」

 

 演技がかった調子で、まるで強化人間の末期症状のように声の調子を荒らげるラミア。その急な熱狂に応えるかのように、ラミアのガンプラが――トールギス・アンフィスバエナが、獣じみた唸りを上げた。

 MG(マスターグレード)規格の大柄なボディには、素体であるトールギス系の面影が残っている。頭部はトールギスⅡ特有の角の無いガンダムフェイスだ。

 しかしその腕は、完全なる異形。肩口からそのまま生えた、二本のセルピエンテハング。そして、大口径化した二門のドーバーガンと、裏面にレプタイルシザーズを装備した円形シールドが二枚、それらを保持する計四本のサブアーム。計六本もの長大なハングアームが、うねうねと生物的に蠢いている。

 

「このアンフィスバエナをもってすれば、赤姫とて簡単に喰い千切ってやれるというもの! 貴様の妹が不参加なのも、私さえいれば勝てるというイブスキの判断なのだろう? ははは! ただし赤姫は私の獲物だ、わかっているよなぁゴーダのお兄ちゃん!」

 

 仮面の奥で両目を見開いて哄笑するラミアに、バンは返す言葉がなかった。だからただ、コントロールスフィアをきつく握りしめて、イブスキとの約束を――否、イブスキから突きつけられた交換条件を、頭の中で思い描く。

 

(レイを助ける……取り戻す……そのためなら、俺は……!)

 

 バンディッド・レオパルドを乗せた仮想カタパルトが軽く振動して動き始めた。フットロックが射出位置に固定され、バンは機体に腰を落とした姿勢を取らせる。その隣では、ラミアのアンフィスバエナが異形の六本腕をくねらせながら、MA用の大型カタパルトへと機体を運び込んでいた。

 

「では行くぞゴーダの! トールギス・アンフィスバエナ! 喰い千切るッ!」

「ゴーダ・バン。(バンディッド)レオパルド……エモノを掻っ攫う!」

 

《BATTLE START!!》

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「ここは……ラプラスコロニーですね」

「それも、テロで崩壊する前のようだね」

 

 仮想カタパルトから飛び出したエイトたちの眼前に、旧式のドーナツ型スペースコロニーが圧倒的なスケール感で迫ってきた。真っ白な外装、壁面に記された〝LAPLACE〟の文字――宇宙世紀の始まり、UC.0000を刻んだ宇宙世紀憲章締結の地だ。原作ではテロ行為によって破壊されたラプラスコロニーが、今、エイトたちの目の前で、完全な形でゆったりと回転している。

 

「まァ、実際に人が住んでいるわけでもねェんだ、遮蔽物を使うならコロニー内で戦うってェ手も……っておい!? なんだこりゃァ!?」

 

 コロニーの天窓スレスレを飛行しつつ、中を覗き込んでいたナツキが素っ頓狂な声を上げた。

 

「どうしたんです、ナツキさん……って、え!?」

「……随分と凝った演出だね。GBOの開発班には頭が下がるよ」

 

 つられてコロニーを覗き込んだエイトもまた驚き、ナノカはやれやれと肩を竦めた。

 

『アカツキエイトぉ! がんばんなさいねーっ!』

『ヤエと兄兄(にぃにぃ)ズの分もー、がんばってねーっ♪』

『うふふ……負けちゃ、ダメよぉ……?』

 

 距離が近づいたからか、内部からの歓声を通信機が拾っている。窓の中では、一万人規模の観客の中に混じって、一生懸命に手を振ろうとしているが人波に呑まれてほとんど見えないミッツや、ウィンクをしてキスを投げるヤエ、木の影に半分隠れて親指を立てるカスミの姿があった。近くのベンチには、エリサ、店長、メイファも座ってソフトクリームなど舐めている。

 今大会の一般観戦客のアバターが集うメイン会場は、確かにラプラスコロニーの宇宙憲章前広場だった。しかし、フィールドがラプラスコロニーだからといって、本当にその中に観戦客のアバターを入れてしまうとは。ナノカの言う通り、凝った演出だ。

 

「こ、これって……もしコロニーに被弾したら、どういう演出になるんでしょうか……」

「まあ、あくまでもアバターだからね。実害はないのだろうけれど……いい気はしないね」

「でもよォ。あの狂犬女なんて、まったく気にせずにブッ壊しまくるんじゃあ……」

 

 ピピピピピ……! 

 被ロックオン警報が、ナツキの言葉を遮った。エイトたちは即座に散開、回避機動。その直後、コロニー壁面から突き出していた作業用クレーンに太いビーム弾が直撃し、大破した。コロニーの構造全体からすれば微々たる被害だが、もしあのビームが天窓部分を直撃していれば……

 

「ケッ、予想通りじゃあねェか! あンの狂犬女ァ!」

 

 お返しとばかりに、ナツキはドムゲルグのミサイルコンテナを開いた。目標は視認するにはまだ遠く、命中は望めない。しかし、収束式マイクロミサイルと巡航ミサイルを時間差で発射、弾道と爆炎を複雑に織り込んだ弾幕を、一瞬のうちに展開する。

 

「赤姫ェッ!」

「ああ、もうやっているよ」

 

 ナツキに急かされるまでもなく、レッドイェーガーの四ツ目式バイザーは戦場の全てを詳細に分析していた。ドムゲルグが放ったミサイルの全てを認識した上で、ミサイル以外の動体を検出。熱紋や挙動からデブリ、フィールドオブジェクトを判別し、それでも残ったのが敵機の反応ということになる。

 

「これは……100分の1サイズ(マスターグレード)!? 敵はMG(マスターグレード)HG(ハイグレード)が一機ずつ! ゾンビ化ビット使いは見当たらない!」

 

 ――GBOの通常交戦規定(レギュレーション)によれば、チームの編成にはガンプラのサイズや分類よって一定の制限がかかる。HG(144分の1)三機編成というのが最も一般的な形だが、MG(100分の1)なら二機編成、PG(60分の1)なら一機編成。MA(モビルアーマー)はサイズに関わらず一機編成だ。チーム・全日本ガトリングラヴァーズのようにPG単独編成のチームもないではないが、HG三機編成以外での大会参加は非常に珍しいと言える。

 しかも、MGを使っていながらMG二機ではなく、MGとHGの混成二機編隊とは……ナノカは相手の真意を測りかねたが、ゾンビ化ビット使いがいないのは僥倖といえる。

 

「エイト君、キミの直上にいるのはMG機だ。耐久力とパワーに注意だよ」

「了解しました、突撃します!」

 

 爆炎に紛れラプラスコロニーの円筒部分を大きく回り込んでいたエイトは、両手に射撃形態(ヴェスバーモード)のヴェスザンバーを構え、急転上昇。異形の巨影を真正面に捉え、バーニアスラスターを全開にした。

 

「うらああっ!」

「ははッ、このアンフィスバエナにそんなビームでぇぇッ!」

 

 五月雨撃ちに放たれる細く鋭いヴェスザンバーのビームを、長いサブアームに繋がれた円形シールドが弾く。同時、同じくサブアームで展開したドーバーガンから次々と砲撃が降り注ぎ、エイトはコース変更を余儀なくされた。剣の間合いに入れないままに六本腕の巨影を通り過ぎ、鋭い弧を描いて旋回機動に入る。

 

「その機体、ラミアさんですね! たぶん僕が言うことではないです、でもきっとあなたは! ヤマダ先輩と一度話をするべきです!」

「くはは! 命乞いが下手だなあ、少年はァ! そんなことせずとも、赤姫を討てばお嬢さまに私の思いは伝わる!」

「ラミアさん、あなたはっ……!」

「賢しいんだよ赤姫のオマケがぁ! おい、ゴーダぁッ!」

「……行くさ! 怒鳴るな!」

 

 クロスエイトの背後から、Bレオパルドが飛びかかってきた。振り下ろされる大型ナイフを、エイトは脚部ヒートダガーで蹴り上げて弾く。

 

(太刀筋が……迷っている……!?)

「悪いがな、赤いの! 付き合ってもらうぜぇぇ!」

 

 エイトが感じたものをかき消すように、バンの叫びが通信機を震わせる。力づくで捻じ込むような、乱雑だが勢いのある刺突。エイトはヴェスザンバーを斬撃形態(ザンバーモード)に変形、二刀流で応戦した。

 

「いいぞゴーダの、そのまま打ち合え! その隙をドーバーガンでまとめてぇ!」

「さァァせるかァッ!」

 

 ゴッシャアアンッ!!

 サブアームを伸ばしドーバーガンを構えかけたアンフィスバエナに、赤い鉄塊が衝突した。MG由来のタフネスにより損傷はないものの、アンフィスバエナは一瞬、バランスを失う。見れば、シュツルムブースター全開で突撃してきたドムゲルグが、腰に組み付いている。

 

「なっ、このずんぐりむっくりがぁぁっ! 毎度毎度、邪魔をぉぉ!」

 

 ラミアは忌々し気に吠え、円形シールドを振りかざす。その裏に装備されたレプタイルシザーズがガパリを牙を剥き、ドムゲルグに襲い掛かる。ナツキはその攻撃にニヤリと不敵に笑い、作動したままのシュツルムブースターを無理やり外した。そして火を噴くブースターを、レプタイルシザーズの中へと力任せに捻じ込んだ。

 

「こいつをくれてやらァ! 赤姫ェッ!」

「やれやれ、私は起爆係かい?」

 

 ドムゲルグは両肩のシールドスラスターを全開にして緊急離脱。同時、Gアンバーの速射ビーム弾がシュツルムブースターを射抜いた。燃料タンクに満載された推進剤が起爆、目も眩むような閃光とともに高熱の火球が膨れ上がる。

 

「ハッハァ、どうだ毒蛇野郎! 焼き蛇にして漢方薬だァ!」

「言葉のセンスが古いし悪役だよ、ビス子」

 

 ラプラスコロニーのドーナツ状の主構造物から突き出した宇宙港部分に着地し、ドムゲルグはガッツポーズを決めた。少し離れた所にナノカもレッドイェーガーを降ろし、膝立の姿勢で油断なくGアンバーを構える。

 

「そもそも作戦では私が機動力で前衛、ビス子が火力で後衛じゃあなかったかな」

「気にすンなよ、細けェことは。それに……まだ、終わりじゃあねェらしいからよ」

「……ああ、そうだね」

 

 火球を内側から喰い破るようにして、二本のセルピエンテハングが飛び出してきた。続いて、アンフィスバエナの本体も。トールギスⅡによく似たツインアイは、操縦者(ファイター)の感情を表すかのように、真っ赤に染め上げられている。

 

「あああァァァァかひめええええェェェェッ! お前を、殺ォォすッッ!!」

 

 突っ込んでくるアンフィスバエナは、装甲に多少のダメージはあるようだが、致命傷には至っていない。MGの耐久力は伊達ではないようだ。しかし、さすがに爆発が直撃した円形シールドは大破し、先端部分を失ったサブアームだけが蛇の尻尾のようにのたうっている。

 

「んじゃまァ、ここからは作戦通り行くかァ。オレはここから赤姫とエイトの援護だな」

「頼んだよ、ビス子」

 

 マスター・バズを構えるドムゲルグを宇宙港に残し、ナノカは宙に躍り出た。舞うように体を捻り、一回転。その動きの中で流れるようにヴェスバービットを展開し、Gアンバーをバックパックに懸架した。そして開いた両手に、太腿からビームピストルを抜いて構える。

 

「……レッドイェーガー、吶喊する。私の近接戦闘を、見せてあげるよ」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ゴーダ・バンのナイフ捌きには、逃げ腰な印象が強かった。

 

(……そんなスタイルの人じゃないように……見えたけれど)

 

 二、三回ほど打ち合っては、自ら引いて距離を取り、背部のガトリング砲で弾幕を張る。エイトがクロスエイトの機動力に任せて弾幕を突っ切ると、仕方なくまたナイフで応戦してくるが、それもまた数度打ち合っては後退を繰り返す。

 

(あちらのチームは二機編成だし、このまま斬り込んでも狙撃や砲撃が待ち受けていることもないはず……時間稼ぎ? いや、僕とナノさんたちを引き離そうと……?)

 

 バンの真意を測るため、エイトは攻勢に出ることにした。弾幕の外を大きく迂回するように翔け抜けながら、左右のヴェスザンバーを腰に戻し、右手だけにビームサーベルを抜刀する。

 

「……うらあぁっ!」

 

 反転突撃、Bレオパルドの弾幕を、ビームシールドと機動力で強引に突破。ビームサーベルを大上段に振りかぶり、わざと隙を大きく見せた工夫も何もない唐竹割りを仕掛ける。一応の備えとして、不意打ちの脚部ヒートダガーを用意しておいたのだが――やはりバンは、ナイフでビームサーベルの側面を叩いて逸らし、反撃せずに後退した。

 

「させませんよ!」

 

 その一瞬を狙い、エイトは左手でビームサーベルを抜刀、投擲。Bレオパルドは身を捻ってビームサーベルを躱すが、サーベルの柄から伸びたワイヤーが、ガトリング砲に絡みついた。回る銃身がそのままワイヤーも巻き取ってしまい、雁字搦めになってガトリング砲は使用不能になる。

 

「チッ、迂闊だったか!」

 

 ワイヤーを切ろうとしたバンは、引っ張られるような横向きの加速度にたたらを踏んだ。次の瞬間、バンの目の前にクロスエイトの顔面(ガンダムフェイス)がドンと現れる。

 

「繋がれたってことか!?」

 

 クロスエイトの左手首に、ビームサーベルのワイヤーが繋がっている――やられた!

 

「この距離なら!」

 

 とっさに顔をかばったBレオパルドの腕部装甲を、クロスエイトの頭部バルカンとマシンキャノンが容赦なく叩く。火花と衝撃、ガクガクと揺さぶられるコクピット。バンは悪態をつきながらフットペダルを踏み込んだ。その操作に応え、Bレオパルドは力任せにクロスエイトの腹を蹴り飛ばした。一瞬、両者の距離は開くが、エイトは手首のワイヤーを巻き取り、すぐにバンに肉薄する。

 

「畜生、手癖の悪ィことだな!」

「逃がしません、まともに打ち合ってもらいます!」

 

 実刃の対装甲ナイフとエメラルドグリーンのビームサーベルが鍔迫り合いを繰り広げ、激しい火花と粒子の欠片が弾け飛ぶ。

 

「時間稼ぎか、引き剥がしか、わかりませんけど……あなたを倒して、その思惑を挫きます! アームズ・ブレイズアップ!」

 

 エイトの掛け声とともに、ビームサーベルの出力が急上昇。まるでガスバーナーのように、猛烈な熱エネルギーを噴出した。その勢いに耐えきれず、Bレオパルドの右手からナイフが弾き飛ばされた。バンは即座に背中の大型ブレード・バンディッドエッジを抜刀、灼熱化ビームサーベルに叩き付ける。噴き上げる熱エネルギーの勢いは凄まじいが、大型実体剣の重量でなんとか抑え込む。

 

「思惑を挫く……か。それじゃあ困るんだよ……」

 

 ジリジリと灼けついていくバンディッドエッジを見詰めながら、バンは呟いた。その脳裏には、イブスキからの交換条件が、レイを救うための条件が、何度も何度もぐるぐると渦巻いている。

 この赤いのは、アカツキ・エイトは強い。自分よりも強い。だが、それでも――

 

「困るんだよ、それじゃあなぁぁぁぁッ!!」

 

 ――次の試合中、クロスエイトをアンフィスバエナに近づかせないこと。それが条件です。条件を達成できれば、試合の勝敗には関係なく……妹さんは、あなたに返して差し上げますよ。

 

「まだ付き合えよ、アカツキ・エイトォッ! 今の俺には、殺しても死なねぇ覚悟がある!」

 

 




第四十三話予告

《次回予告》


「……ごめんね、あんちゃん。うち、よわくて……いつも、めいわくばっかり……
「……でもね、うち……つよく、なれるんだって。イブスキさんから、おしえてもらったんだよ……うちがすっごく、すっごく……つよくなれる、ほうほうを……
「だから、あんちゃん……うち、もうめいわくかけないよ……つよくなった、うちが……あんちゃんを、たすけてあげる……うちが、ぜんぶ……ぜんぶ、おわらせてあげる……!」

ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第四十三話『フィールド・クラッシュ』

《Overdose-system Standby.》
「……ゴーダ・レイ……ヘルグレイズ・サクリファイス。いきます……!」
《Overdose-system――BLACK OUT!!》



◆◆◆◇◆◆◆



 突然の更新。そして主人公はもうゴーダのお兄ちゃんじゃないのかというストーリー展開。お久しぶりです、亀川です。
 執筆が遅い今日この頃ですが、読んでくださり、感想をくださる皆様には感謝の極みです。次回の更新はまたもや未定ですが、三年目に入る前に50話で完結させるのを目標に……ムリかなあ……頑張ります!
 今後ともどうぞよろしくお願いします! 感想・批評もお待ちしております!

 ……と、真面目な感じであとがきをしてみましたが、なぜかというとリアル職場の人間にハーメルンで書いてることがバレまして、「特定してやる!」と息巻いているヤツがいるのです。ほとぼりが冷めるまでは真面目なふりをしておこうと思います。(笑)

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