突然更新が途絶えて申し訳ないです……亀川は生きていまるのですが、我が家のパソコンがお亡くなりになっておりました。
そんなこんなで間隔があいてしまいましたが、新しいパソコンで執筆したドライヴレッド第44話、どうかお付き合いください!
ヤジマ商事本社ビル地下、GBOメインサーバールーム。
超大規模VRゲームであるGBOを、最小の人員で管理運営しうる最先端の電子の要塞。その内装は、ガンプラに関わるものとして趣味なのか、まるで宇宙戦艦の艦橋のようだ。
普段はその人員の少なさから静寂に包まれているのだが――今、この瞬間。室内は、真っ赤な
「――状況を!」
つかの間の休憩から駆け戻ってきたアカサカは、愛用の白衣に袖を通しながら叫んだ。室内各所に埋め込まれた数十機の大型モニターのほぼすべてが映し出すのは、禍々しく波打つ漆黒ばかりだ。その真っ黒な画面の中に娘の――ナノカの
「アカサカ室長!」
メガネをかけた女性職員が、電子機器が悉く不調なのか、事の時系列を紙に印刷したものを手にあたふたと駆け寄ってきた。アカサカは黙って頷き、受け取って目を通す。
「ハイレベルトーナメント準決勝で、例の〝黒色粒子〟の爆発的な増大を確認。同時にメインサーバーに大規模な、同時多発的な攻撃が始まりました。電脳警備部が頑張ってくれていますが、押され気味だと……すでにシステムの15%が乗っ取られています!」
「……ヤツめ、予定を繰り上げたな」
アカサカは悔しげに口の端をゆがめ、ぐしゃりと紙を握り潰した。
「〝
「呼び出していますが、出ません! GBO内の通信は黒色粒子に阻害されています!」
「当然といえば当然か……ならば、仕方あるまい」
アカサカは胸に下げた職員証の裏から、一枚のカードキーを取り出した。艦長席のような室長専用デスクに向かい、デスクと一体になったコンソールのキーを素早く叩く。二十四桁におよぶパスワードを一息に入力すると、デスクの天板が左右に分割してスライド、その奥から物々しいカードリーダーが姿を現した。
「し、室長……それは……!」
「……さあ、覚悟を決めようか。今から最低でも七十二時間は家に帰れないぞ。終わったら、有給休暇の申請には、いくらでも応じよう」
「――使うんですね。
メガネの女性職員の声に反応したのか、室内の職員がアカサカに注目した。さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返り、モニターのアラートだけが場違いに鳴り響く。数十もの視線が集まる中、大きくはないがよく通る声で、アカサカは宣言した。
「私の権限において、現状を特別緊急事態と認定。GBOメインサーバーに
同時、アカサカはカードをリーダーに滑らせる――
「室長より
「GBOメインサーバー、本社マザーとの切り離し及びネットワーク物理遮断、用意よし!」
「電脳警備部に通達――了承得ました! 十秒後、物理遮断と同時に電脳警備部は撤退します!」
「法部部長の承認を確認。ただし、状況が整理でき次第、アカサカ室長の出頭を求む、とのことです!」
「防壁展開準備完了。室長、いけます!」
俄かに活気づいた職員たちから次々と報告が上がり、アカサカが握りしめた拳を置いているカードリーダーに、緑色のランプが点灯する。同時、カードリーダーが上下にスライド展開し、『666』の文字が刻まれたスイッチがせりあがってきた。
「展開から七十二時間、すべてのアクセスを拒絶する絶対防壁――いくら奴でも手出しはできまい。それはこちらも同じだが……」
アカサカは祈るようにつぶやき、そして、拳を叩きつけるようにしてスイッチを押し込んだ。その瞬間、真っ黒に染められていたモニター群に、一斉に《第666閉鎖防壁》の文字が点灯した。その下には「666」の数字がデジタル表示され、カウントダウンが始まる。
665、664、663――
《GBOシステムサービスより、全プレイヤーの皆様に緊急連絡です。当サービスは、緊急メンテナンスを実行いたします。今から660秒以内に、全プレイヤーは当サービスからログアウトしてください。繰り返します。今から654秒以内に――》
「……十一分だ。あと十一分、耐えてくれ。頼んだぞ、ナノカ……アカツキ・エイト君」
◆◆◆◇◆◆◆
《――テムサービス――全プレイ――612秒以内に――グアウト――》
ズキズキと痛む頭に、警報音がガンガンと響く。やけに冷静なアナウンスは、途切れ途切れにしか認識できない。さらに喧しいのは、ビームの射撃音、ミサイルの爆発、その他さまざまな爆音轟音。ここはどうやら戦場らしい。
「う、ぐっ……」
薄ぼんやりと戻ってきた視界には、真っ赤な警告表示ばかりが見える。
「僕、は……」
「よォ。目ェ覚めたみてェだな、エイト」
耳をつんざく戦場の轟音の中に混じる、聞きなれた声。モニターを埋め尽くす警告表示の隙間に、金色のモノアイが、切れかけた電球のように明滅した。
「な、つき……さん……ドム、ゲルグ……はっ!? そ、そうだバトルは! 試合はどうなったんですっ!?」
一気に意識が引き戻され、エイトは反射的にコントロールスフィアを握りなおした。クロスエイトを起き上がらせようとするが、返ってくるのはエラーばかり。慌ててコンディションモニターを確認すると――起き上がれないのも当然だった。クロスエイトは右腕を喪失、背部バーニアユニット損壊、バルカンとマシンキャノンは使用不能。各部装甲の耐久力は軒並み30%を下回っている。大破、としかいいようがない状況だ。
「慌てんなよ、エイト。もう一歩も動けねェ状況だろうが……てめェも、オレもよ」
満身創痍でコロニーの残骸に倒れるクロスエイトに覆いかぶさるように、ドムゲルグは四つん這いになっていた。手足は揃っているようだが、関節部からは火花が散り、小爆発が断続的に起きている。装甲の損傷もひどく、ドムゲルグ自慢の重武装の数々は全てが全て壊れるか消失しており、一つも残っていない。
「そうだ、あの黒い津波が宇宙を覆って……それから、どうなったんです!? 今、何が!?」
「んなモン、オレにもわかんねェよ。ただ――見ろよエイト。オレの頭じゃあどうにも追いつかねェ事態が、起きてやがるみてェだぜ」
ナツキはドムゲルグの体を少しずらし、クロスエイトの
◆◆◆◇◆◆◆
「ぎゃああァはははハハ! このアンフィスバエナすっゴいよォ!! 流石はセルピエンテのお兄さンンンンッ!!」
キシャアッ、ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
理性のタガが外れたように荒れ狂うセルピエンテハングの口腔から、真っ黒な極大ビームが迸った。崩壊したコロニーの破片を二つ、三つとまとめて貫き、戦場を暴力的に切り裂いていく。
「ひは、ヒハハ、あひひゃはハ! ドコだよぉ赤姫えええ! 寂しいじゃないかア、せっっかくアンフィスバエナも私もお! くだらない枷から解き放たレタんだぞおおお!?」
「まったく、凶暴で凶悪だね……!」
ナノカはコロニーの残骸に身を隠し、最後の一基となったヴェスバービットのカメラアイでアンフィスバエナを捉えていた。
現状、レッドイェーガーの機体状況は、最悪の一歩手前。あの黒色粒子の大津波に襲われた際、とっさにビームフィールドを展開したのと、ナツキがドムゲルグを盾にしてくれたおかげで致命傷は避けることができた。しかし、BFジェネレータは限界を超えて大破、機体各部にも無視はしづらいダメージが積み重なっている。ビームピストルもマルチアームガントレットも壊れてしまったが、ビットが一基残り、Gアンバーに損傷が少なかったのは、不幸中の幸いといったところか。
「しかしあの黒い粒子……依存症や妄想を誘発している……? あんなもの、ほとんど電子ドラッグじゃあないか……!」
そう考えると、二回戦第一試合での〝
《――全プレイヤーは当サービスからログアウトしてください。繰り返します。今から578秒以内に――》
真空の宇宙空間に響く、システムからのアナウンス。やはりこの事態はイレギュラーなのだと、ナノカは確信する。もはや大会の帰結などは問題ではなく、GBO運営本部としての対策なのだろう。
しかし、それでも。いや、だからこそ。
「あの、ラミアさんの状況は……一秒でも早く、GBOから現実に戻さ(ログアウトさせ)ないと……!」
そのうえで運営本部に、父に通報して、
ナノカはふぅと息を吐き、手の甲で額の汗をぬぐった。
「もっておくれよ、レッドイェーガー!」
損傷し不調を訴えるバーニアスラスターを無理やり噴射し、ナノカはレッドイェーガーを突撃させた。ヴェスバービットを先行させ、拡散ビームの弾幕で目隠しをする。
「先ほどの黒色粒子カラは生き残ったようダがなああァ、赤姫ええ! これで心置きなく殺しあえルというものだああァあ!」
ラミアは壊れた声色で歓喜の叫びをあげる。それに同調するように、アンフィスバエナの割れたバイザーの奥から、赤いカメラアイがぎょろりと覗く。二門のガルガンタ・カノンが黒いビームを怒涛の如く吐き出し、ヴェスバービットと拡散ビームの弾幕を、薄雲のように吹き散らした。しかしそこに、レッドイェーガーの姿はない。
「おやあ、どコニ消えたあ? 墜とシちゃッタカなァ? とでモ言うかよオオ赤姫えええェ!!」
「ぐうっ!? 遅れたかっ!?」
ナノカは弾幕を目隠しに側面に回り込んでいたが、壊れかけのバーニアスラスターでは加速力が足りなかった。アンフィスバエナのサブアームが、鞭のようにレッドイェーガーを強打。Gアンバーが手元から弾き飛ばされてしまう。これでもう、レッドイェーガーに残された武器は背中のビームサーベル一本きりだ。
「ちぃっ! でもまだだ、まだ終わらない!」
「うカハは! やっト終ワリだよおお赤姫えええ!」
大蛇のようにのたうつ四本のサブアームが、上下左右から取り囲むようにレッドイェーガーに迫る。ナノカはビームサーベルを抜刀するが、手数がすでに四対一。一本は切り払えても、今のレッドイェーガーではあとの三本に耐え切れない――!
「ピーコックぅぅ! ズバッシャぁぁぁぁっ!!」
ズバッシャアアアアアアアアッ!
金色の流星が駆け抜け、九連装の高出力ビームサーベルが、サブアームを切り裂く。
「き、君は……!」
「ふふん、感謝してよねナノカお姉さま! 助けに来てあげたわよ!」
満身創痍のレッドイェーガーを背にかばい立つ、まばゆいばかりの
「べべ別に、ナノカお姉さまなら大丈夫だって思ってたけどねっ! あああ、アカツキエイトの前でかっこいいところ見せようなんて、全然っ、考えてなんかないんだからねっ!」
「なんだキサマはああッ! 私と赤姫の殺し合イを邪魔すルンじゃあないッ!!」
「……あなた……気に入らないわ……」
激昂し、リベルタリアに襲い掛かろうとしたラミアの眼前に、真っ白なモビルスーツが飛び込んできた。大口を開けて喰らい付かんとするセルピエンテハングの鼻先を左右それぞれの手でがっしりと抑え込み、そのモビルスーツは変形――否、
「……やっちゃえ、ユニコーン……ブラックアウトフィンガー!」
白亜の装甲が展開・伸長、漆黒のフル・サイコフレームが露出する。アンフィスバエナに勝るとも劣らない黒色粒子の奔流が溢れ出し、セルピエンテハングを抑え込む。
「えェイ、ユニコーン・ゼブラ! タマハミ・カスミかああ! 敗退者ごときガ邪魔をするなアあああ!」
「……私も、黒い粒子を使うけど……あなたは、
出力を増したブラックアウトフィンガーが、セルピエンテハングを押し返し始めた。ラミアもまた罵詈雑言の限りを吐きながらコントロールスフィアを押し出すが、じりじりと押し負けていく。
「何だ、何ナんだ、何だっテイうンだキサマたちはああアアア! 私に赤姫を殺させてくれエエえ! お願いだよオオォぉぉ!」
「おっことわりだにゃーん♪」
血を吐くようなラミアの叫びに、場違いなほど明るい声がかぶせられる。同時、アンフィスバエナの背に、大量のGNミサイルが着弾した。
「なっ、なにィィッ!?」
煌くGN粒子をまき散らしながら、第二波、第三波のミサイル群が次々とアンフィスバエナに直撃する。GNミサイルを撃つのは、普段は
「ヤエちゃん特製のGNバズーカ・バーストモード! もってけーっ!」
「ブラックアウトフィンガー……出力、最大……っ!」
「ぶっとびなさいっ! ピーコック・スマッシャー!」
ナノカはその光景に一瞬見入ってしまうが、ハッと気を取り直し、目の前の三人へと通信をつないだ。
「ありがとう、助かったよ。でも、試合中だというのに、なぜ君たちが……!?」
「う~ん……正直、ヤエたちにも何が何だかにゃんだよね~。真っ黒な大津波がコロニーを吹き飛ばして、宇宙に放り出されて」
「気が付いたら、アバターがガンプラに変わってたの。なんか変なアナウンスは流れ始めるし、エイトく……ナノカお姉さまは大ピンチみたいだし」
「……これは、もう……試合どころじゃ……ないわ。だから……助けに、きたのよ……」
「確かに、何もかもがおかしいね……試合だ大会だという状況ではないようだけれど……」
全プレイヤーへのログアウトを呼びかけるアナウンスが流れ始めてから、視界には強制的にカウントダウンが表示され続けている。666秒から始まったその数字は、今はもう400台後半にまで減っている。
GBOそのものに、何らかの異変が起きていることは間違いない。しかし、GBOの運営母体は天下のヤジマ商事、生半可なハッキングなどでセキュリティを敗れるとは思えない――いや、今の黒色粒子の暴走が、もし関係しているのなら。外部からの攻撃ではなく、すでにGBOにアクセスしている大会参加者ならば。
「……マダ…だ……まダ、わタシハ……ァァあ!」
思案するナノカの耳に、幽鬼のごときうめき声が届く。
「強いんダ、ワタしはツヨイ……赤姫ヲ殺サナイと……お嬢サまに、合わせル顔ガ……!」
爆発の煙が晴れたその真ん中に、焼け爛れたアンフィスバエナがいた。装甲は焼け落ち、焦げたフレームがむき出しになり、カメラアイは光を失っている。それでもラミアは呻きながら、僅かに残った姿勢制御用のバーニアスラスターを途切れ途切れに吹かして、痙攣するような動きでにじり寄ってくる。
「ひっ!? な、ナノカお姉さま! あの人、まだ……!?」
「……直撃の、瞬間……黒色粒子で、ダメージを吸収した……みたい……」
「しっつこいな~。もう一発ぐらいぶちこんで……」
GNバズーカを構えかけたブルーアストレアを、レッドイェーガーが手で制した。
「……終わらせてあげよう、私の手で」
ナノカは一瞬だけうつむいて唇を噛んだ。しかし、振り切るように顔を上げ、レッドイェーガーのバーニアを吹かし、先ほど手から弾かれたGアンバーを回収した。
「オ嬢サマ、見てイて……クダサい……いま、ラミアが……ヤツヲ、殺シテ、ミせ……まスかラ……!」
「……彼女は一度、離れるべきなんだ。GBOから。
Gアンバー、通常モードでエネルギーを充填。銃口の奥に収束されたメガ粒子の輝きが満ち、そして――
「奇遇だね、ナノカ」
――ォォォォオオオオオオオオオオオオオンッ!
それは、大剣だった。モビルスーツの伸長を優に超える、無骨な金属塊。宇宙の彼方から飛来した
「珍しく意見が合うじゃないか」
その大剣に片足をかけ、もう片方の足でアンフィスバエナを――断末魔すら許されず、残骸となり果てた彼女を無慈悲に踏みにじる、漆黒のガンプラ。
〝
〝
〝
〝
数々の異名をほしいままにする、黒き異形のガンダム。セイバーとインパルスをベースにミキシングした、本来ならヒロイックにまとまるはずのシルエットを異形たらしめるのは、その背に負った
この異形こそが。この禍々しさこそが。GBOJランキング不動の一位、〝
「こいつはもう、この世界には必要ない」
「落ちぶれた番犬……使えない駄犬だったけど、最後の最後で役に立ったね」
「トウカぁぁぁぁッ!」
ナノカは叫び、トウカへと銃口を向けた。Gアンバーが銃声を響かせ、野太いビームがデビルフィッシュへとまっしぐらに飛び出す。しかし、
「ごめんッス、先輩」
ビームの粒子は、虚しく弾け飛ぶ。突如、デビルフィッシュの前に出現した大型のビット――GNウォールビットによって、防がれたのだ。
「サナカ・タカヤ……くん、か……!」
「ははっ、先輩……いま、本名で呼ばれるのは……キツいッスよ……」
低い声色で言い捨てながらも、ケルディム・ブルーはGNスナイパーライフルの銃口をナノカに向けた。
「金、もらってるんで。許してほしいッス」
「ククク……良い心がけですよ、〝
その声が耳に入った瞬間、ナノカはぞわりと総毛立った。凶暴な感情の波が一瞬にして胸の内に燃え上がり、夢中でトリガーを引く。ナノカらしからぬ乱雑な射撃、ビームは次々と声の主へと襲い掛かり、そしてそのすべてがGNウォールビットに阻まれる。
「おやおや、随分と熱情的な歓迎だ。久しぶりの再会の再会だというのに、挨拶の時間すらいただけないとは……何をそんなに猛っているのですか、〝
「……イブスキ・キョウヤ……ッ!!」
宇宙の暗闇から染み出してきたような、禍々しい闇色の巨影。装甲と武装の塊のような左腕。長大な
怨敵を目の前にして高ぶる気持ちを必死に抑え、ナノカは
「お前は、何を企んでいるんだ。この滅茶苦茶な状況も、お前が謀ったものなのだろう。クローズド・ベータに続いて、今度は……今度も! お前はこのGBOをどうするつもりなんだ、イブスキ・キョウヤぁぁっ!」
「さあ、どうするつもりでしょうねぇ?」
「貴様ぁぁぁぁっ!」
堪え切れずに撃ったナノカの一発が、戦いの火蓋を切って落とした。GNウォールビットがビームを弾き、ケルディム・ブルーがライフルを撃ち返す。ヘルグレイズはバトルアックスを振りかざしてナノカに襲い掛かるが、振り下ろされる超重量の斧刃を、カスミのブラックアウトフィンガーが受け止めた。
「タマハミさん……っ!」
「この、武器は……黒色粒子を、まとっている……私じゃないと、受け止められない……!」
「ほう、このヘルグレイズの特性を見抜くとは。さすがは万事に万能の天才、タマハミ・カスミさんです。どうです、その才能を私のもとで活かしてみませんか? 高く買いますよ、独学で黒色粒子を見出したあなたの能力は」
「……私、あなた、気に入らないッ!」
最大出力で噴出したブラックアウトフィンガーが、凄まじい握力を発揮してバトルアックスの刃にヒビを入れた。
「ヤエも何か、アンタ嫌いっ!」
「あたしもよ! こンの、黒いデカいヤツめーーっ!」
ヤエとミッツが次々とビームを乱れ撃つが、的確に飛来し立ちふさがるGNウォールビットが、その全てを防御する。さらには、そのビットの影を縫うように飛び回るケルディム・ブルーから、弾幕の隙間を通す精密な狙撃が撃ち返される。直撃コースの一撃を、ミッツは間一髪でビームシールドを展開し防御。ほっと胸を撫で下ろすのも束の間、攻勢に転じたGNウォールビットが次々と襲い掛かってきた。
「うわわっ、ちょ、ちょっと! 速いじゃないのよ、生意気にぃっ!」
「ミッツちゃん! 援護するわ、巻き込んじゃったらごめんにゃー♪」
「……イブスキさん。こっちの二機は俺が抑えるッス」
「上々ですよ、〝
「……あなたの、仲間になんか……ならない……っ!」
ケルディム・ブルーがリベルタリアとブルーアストレアの抑えに回り、ヘルグレイズの注意がユニコーン・ゼブラに向いた。その一瞬の隙をついて、ナノカは悲鳴を上げるレッドイェーガーのバーニアを全開にし、デビルフィッシュ――トウカのもとへと飛び出した。
「トウカぁぁぁぁっ!」
Gアンバーのジュッテ・デバイスを起動、銃身下部にビーム刃を展開し、躍りかかる。しかしデビルフィッシュ自身は俯いて腕組みをした姿勢から微動だにせず、
「どういうつもりなんだ、トウカ! 私は決勝で、ちゃんと、トウカと……戦って、勝って、今度こそ、私は……約束をぉぉっ!」
「それはそっちの都合だろ、ナノカ。ボクにはボクの……ボクたちの、都合と計画があるのさ」
「そうだと、してもっ!」
ナノカは左手でビームサーベルを抜刀、抜き打ち気味に振り下ろすが、それもバインダーの一本に受け止められる。両腕を封じられたレッドイェーガーに、腕組みをしたままのデビルフィッシュが、ゆっくりと
「……しても、何だい?」
「彼女を……ラミアさんを、あんなにも狂わせる必要はあったのかい!? 弱みに、負い目に付け込んで、イブスキは彼女を実験台にした、トウカはそれをわかっていたんだろう!? そのうえ、戦いに割り込んで踏みにじるなんて……いくらトウカでも許せないよ、私は!」
ナノカは身を捻り、デビルフィッシュの顔面に膝蹴りを叩きこもうとするが、それもまたバインダーに防がれる。両足もマニピュレータに掴まれ、拘束されてしまった。
「……そうやって」
低く、つぶやくようなトウカの声。残り四本のデビルフィッシュ・バインダーが、悍ましく蠢きながらぞわぞわと腕を伸ばし、広げていく。両手両足を封じられ、ナノカは文字通り手も足も出ない。しかしそれでも言葉は届くと信じて、ナノカはトウカに叫び続けた。
「イブスキが何を言ってトウカを引き込んだのかは想像がつくさ。でも、あの男の言葉は毒だ。蛇のような毒だ! 私とトウカとの約束も、あの男に歪められてここまで来てしまった! だけど、それでも! 私は、トウカとの約束を守るために、エイト君や、ビス子と一緒に、ここまで……!」
「そうやってさあ! お姉さんぶってるからああああっ!!」
手足を掴むマニピュレータの握力が、急激に増した。爪の先が装甲に食い込み、引き伸ばされた関節部が火花を散らす。そして四つの掌から、青白い光が漏れ始めた。デビルフィッシュ・バインダーの掌に装備された
「暑苦しいんだよ、ナノカのそういうところがさああああああああッ!」
パルマフィオキーナの独特な発射音が、四連続で鳴り響く。猛烈な振動に揺さぶられるコクピットの中で、ナノカは何とか倒れずに踏ん張った。しかし、もはやレッドイェーガーは手も足もすべて吹き飛び、胴体だけになって宇宙を漂うしかない状態だ。
「トウカ……私は、トウカを……」
「さようならだ、ナノカ。約束はまた、守られなかった……」
トウカは起伏のない声で言いながら、ソード・デュランダルを振り上げた。アンフィスバエナを両断した分厚い刀身の表面には、黒色粒子が色濃く渦巻いている。
《――GBOシステムサービスより、全プレイヤーの皆様に緊急連絡です。当サービスは、緊急メンテナンスを実行いたします――》
機械的に繰り返されるシステム音声が、遠く聞こえる――カウントダウンが示す残り時間は、ちょうど300秒になったところだった――振り下ろされる大剣の刃が、やけに遅く見える――迫る、迫る、黒い剣――為す術もないレッドイェーガー――その間に割って入る、紅蓮に燃える炎の流星!!
「うらああああああああッ!!」
第四十五話予告
《次回予告》
「やっほほーい♪ ひっさしぶりだぜ我が愛しの部活動のみんなー♪ 全国大会を終えたさっちゃん先輩とダイちゃん部長のおっかえりだー♪ よろこべよろこべー、あっひゃひゃ♪」
「……サチ。何やら様子がおかしいぞ」
「ん……んー、そーだねダイちゃん。おいおーい、そこの腹黒ロリ、なんかあったのかよー?」
「たたた、大変なのです……部長、副部長……鈍感馬鹿のアカツキと、ポンコツ巨乳先輩が……なんか、とんでもないことに巻き込まれてるっぽいのです……!」
「なになにー、えっとぉ……?」
ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第四十五話『ワールド・エンドⅢ』
「あ、あっひゃっひゃ……ダイちゃん、これ……」
「……これが、貴様の戦いの決着でいいのか……アカサカ同級生」
◆◆◆◇◆◆◆
……はい、ということで44話でしたー。
しばらく間が空いて申し訳なく。いつも読んでくださっている方、お持たせしてすみません。
感想・批評等いただければ幸いです。お待ちしております!