「……あと、わたしのことは、ナノさんと呼んでほしいな」
「……はい、ナノさん」
「ふふ。よろしい」
あの日、ナノカに撫でられた頭が、妙な熱を持ったままのような気がする。エイトは気が付くと、視線でナノカを追ってしまっていた。
ナノカは今日の部活でも、ガンプラの武器製作に黙々と勤しんでいる。セーラー服の上から、作業用のエプロンをつけるいつものスタイル。エアコンもないこの蒸し暑い部室で、汗の一筋もかかない姿は涼しげですらある。そのうえ、制作台に向かってヤスリ掛けをしているのに、不思議と姿勢が良い。今作っているのは、Gアンバーだろうか。長い銃身に見覚えがある。ジム・イェーガーR7を、さらに強化でもするつもりなのか――
「三年五組出席番号一番。アカサカ・ナノカ、一七歳。十二月七日生まれ。ガンプラバトル部に所属。図書委員。校内美少女ランキング、毎学期ベスト8以内。過去・現在、彼氏ナシ」
「……なんだよ、タカヤ」
「ついでに身長体重スリーサイズもいっとくか? なぁに、新聞部一年エースにしてガンプラバトル部イチの事情通! サナカ・タカヤ様の情報だ、信用してくれていいんだぜ」
「黙ってくれたら信用するよ」
エイトはむっつりとした表情で、作業に戻った。タカヤはいかにも軽そうなノリで「つれないねー」とぼやき、エイトの隣に腰掛ける。ボタンを二つ目まで外したシャツの襟もとにパタパタと風を送りながら、タカヤはエイトに詰め寄った。
「ウワサだぜ? あの無口姫さまが、最近一年の根暗眼鏡と仲良しだって」
「へぇ、そう。誰だろうね、根暗眼鏡って」
「さー、ね。誰だろうが、あやかりたいもんだよなぁエイト。あんな美人なお姉さんにだったら、無言で見つめられるだけでもイイ! むしろ黙って見下されたい! うっひょー!」
「……けっこうおしゃべりだよ、ナノさんは」
「おっ? 今、なんつったエイト? それを待ってたんだよ。なにナノさん? なにそれ名前でアダ名で呼んじゃってんの? え? え?」
「あぁ、もう……」
イライラっと、エイトの眉間に青筋が経ち始めたちょうどそのとき、ナノカがすっと席を立った。部長のそばで二つ、三つ言葉を交わし、鞄を持って歩き出した。
「お! こっちに来るぜ、エイト。こっち来る! 来る! キタァァァァ!」
「べ、別にだから何なんだよ、もう帰るんじゃないの」
特にどぎまぎする必要などないはずだが、なぜかエイトは焦ってしまう。無駄に肩を組んでくるタカヤを引きはがそうとするエイトの頭に、ぽんと。ナノカの掌が軽く置かれた。
「わたしは帰るよ、エイト君。今日は、プトレマイオスのラウンジで」
「あ、は、はい……」
「ふふ……楽しそうだね、キミたちは。じゃあ、待っているよ」
微笑み、軽く手を振って、ナノカは部室を後にした。エイトは自分の顔が少し熱くなるのを感じた。同時、獲物をロックオンしたタカヤのにやついた顔に気づき、エイトは取りつかれたようにガンプラ作りに集中した。
「うっひょー! いいねぇ見せつけるねぇ! 新聞部一年エース兼ガンプラバトル部イチの事情通サナカ・タカヤ! 目標を狙い撃つ! さあ吐けエイト、どーゆーことだコラおい!」
「やはり、F108にヴェスバーを戻すべきか……いや、推進力の低下は避けたいし……」
「チクショーこの野郎、頭ぽんぽんなんてされやがって羨ましい! オレだってきれいなおねーさんにぽんぴんぷんぺんされたいってーの! どーなってんだよ教えろよコノヤロー!」
「あっひゃっひゃ♪ そんじゃまー、あたしがぽんぽんしたげよーかー、一年生クン」
突然の声に驚き、エイトが椅子ごと後ずさると、一体どこからどうやって侵入したのか、エイトの作業台の下から「よっこいしょー」とサチが出現した。
「副部長……どうして。どうやって。そんな所から」
「細けーことはいいんだよー、アカツキ一年生。そーれよーりもー……」
サチはぽふんとエイトの膝の上に座り、ずずいと顔を近づけてきた。
「あたしも聞きたいなー、君とナノちゃんの関係ってやつー?」
「関係って、そんな……というかカンザキ先輩。近いです」
「へっへーん。ほれほれー、コーフンするだろー?」
「いえ、別に」
「おりゃっ!」
ずどむっ。ほぼゼロ距離からの、みぞおちへの肘。悶絶するエイトの膝から飛び降りて、サチはタカヤに詰め寄る。
「てめーにも用があるんだよねー、サナカ一年生」
「お、俺もッスか先輩」
「おーおーおー! 忘れたとは言わせねーぞ、パパラッチやろー」
幼い丸顔に似合わないあくどい表情で、サチはタカヤを睨み付ける。三〇センチ以上の身長差があるというのに、タカヤはサチに気圧されてしまう。
「代表選考戦でー、三年のアホどもとつるんでやってくれたよなー? こんなか弱い幼気な女の子を囲んでボコってさー。ヒトとしてどーよ。ねー?」
「い、いや、あれはその場の流れでっつーか……副部長はまったくか弱くないっつーか……むしろありゃあもう
「てりゃっ!」
「ぐふっ!?」
ちーん! ほぼゼロ距離からの、男子の絶対的急所への膝。ぴくぴくと痙攣しながらうずくまるタカヤの姿に、エイトの背筋にまでうすら寒いものが駆け上がってきた。
「あー、そういやー、こんなことしにきたんじゃーなかったわー。クソみてーな愚図どもを見ると、ついつい苛めたくなっちゃうんだよねー。反省反省、てへぺろー。あっひゃっひゃ♪」
「く、くそぅ……せめて巨乳美少女だったら、この痛みも悦びに……」
「あん? なんか言ったかサナカ一年生?」
「なななんでもないッス!」
ゴゴゴゴゴ……と、地響きのような擬音を背負い、サチは真っ平らな胸を傲然とそらして腕を組む。タカヤを見下ろす満面の笑みが、また逆に迫力満点だ。
「んじゃまー、ギャグパートはこんぐらいにしてー。そろそろ本題、はーじめーるよー。さっちゃん先輩のー、本気で来いよガンプラバトルターイム。どんどんぱふぱふー」
サチはけろりと表情を変え、いつものゆるゆるした口調でゆるい横ピースのキメポーズ。さっきまでのは前置きだったのかと抗議したくなるエイトだったが、股間を押さえてうずくまるタカヤの様子を見るに、その抗議は飲み込んだほうが身のためのようだ。
「バトル、ですか。定例の部内試合は、まだかと思いますが」
「ちがうちがーう、こないだのー、代表選考戦の続きだよー」
「代表選考戦……」
エイトの脳裏に、二週間ほど前の、部長ギンジョウ・ダイとの、ガンプラバトルが蘇る。文句のつけようのない完敗――「三日で仕上げたザク」という同じ条件で戦っての結果だ。純粋に、ビルダーとして、そしてファイターとしての腕の差による完敗だった。
「僕は、完敗でしたけど……」
「うん、そーだねー。一年生程度がさー、あの〝
サチはニヤリと口元をゆがめ、エイトに人差し指を突きつけた。
「ダイちゃんが、君に興味を持った」
「部長が、僕に……?」
「じつはー、ダイちゃんが挑戦者を全滅させちゃったせいでねー、代表選びがちょっと難しくなっちゃってねー。だからあたしの今日の使命はー、君の実力をもーいちど試すことなのさー」
「カンザキ先輩を倒した三人は……そこの、タカヤも含めてですが」
「うん、そりゃあもちろん潰すよー、そいつらもー。でもまー、まずはアカツキ一年生、君からやろーか」
サチはエイトの返事も聞かずに踵を返し、部室の端においてあるバトルシステムへと向かった。トテトテとまるで小学生のように小走りに駆け出すサチだったが、エイトの目には一瞬だけ、その表情がひどく真剣になったのが見て取れた。
「ダイちゃんのとなりに立っていいのは、あたしだけだ……!」
おそらく、誰にも聞かせるつもりのない独り言だったのだろう。エイトは黙ってF108を手に取り、バトルシステムへと向かった。
◆◆◆◇◆◆◆
『Please set your GP-Base』
六角形のバトルシステム越しにサチと向き合う形で、エイトはGPベースとF108をセットした。
「……カンザキ先輩。下校時間が迫っています」
「あっひゃっひゃ♪ 心配しなくてもー、瞬殺してあげるってー」
対するサチがシステムにセットしたのは、きわめて趣味的なデザインのガンプラだった。
大鳥居高校ガンプラバトル部副部長、カンザキ・サチの愛機――ノーベルガンダム・ドゥルガー。ベースはGガンダムに登場したノーベルガンダムだが、まるで大鳥居高校の女子制服のようなカラーリングが施されている。全体として、黒タイツを履いた女子高生といった印象だ。髪の毛部分にサチ本人と同じようなツインテールの髪飾りが追加されているのは、こだわりなのだろう。
「エイト! 見た目に騙されるなよ。その機体、けっこうえげつないぜ!」
「知ってるよ、タカヤ。聞いたことぐらいはある。副部長の――〝
後ろから観戦しているタカヤの声に、エイトは答えた。実際に戦うのは初めてだが、大鳥居高校ガンプラバトル部副部長カンザキ・サチの噂については、エイトもよく知っている。
曰く、不死だと。曰く、狂っていると。曰く、まるでデタラメな強さだと――
『Beginning Plavsky particle dispersal』
バトルシステムをプラフスキー粒子の輝きが包み込み、見慣れたコクピットが出現する。GBOのデバイスではないコントロールスフィアを久しぶりにつかみ、操作感を思い出す。
「ねーねー、アカツキ一年生。あたしはねー、君はこのバトル、断ると思ってたよー」
わざわざ通信を開いて、言ってきたサチに、エイトは怪訝な顔で聞き返す。
「どうして、ですか」
「それはねー、ナノちゃんと関係してるかなー……ってねー」
「……」
「図星でしょー? 君はもしこの勝負に万が一、いや一京分の一の確率であたしに勝ったとしても、代表になることを断ろーとしてる。そーだよねー?」
「……はい。僕はまだ、一年生ですし。やっぱり、最後の大会になる三年生が出たほうが」
「ふざけろよてめー。なめてんのか?」
サチは語気を強め、そして一瞬の静寂――その空気を無理やり動かすように、システム音声が機械的にバトルの準備を進めていく。
『GANPRA BATTLE.Combat Mode. Damage Level,Set to B.』
「最後の大会だ、三年生が出るべきだ、そんなのはあたりめーだろーよ。でも、それでも、ダイちゃんがてめーに目を付けたんだ。今まで全国に行きたくてたまらなくて、実際それだけの実力があって、でもチームメイトに恵まれなかったダイちゃんを……あたしは、どーしても全国に行かせてやりてーのさ」
「カンザキ先輩……あなたは……」
「だからあたしは、てめーが嫌いだ。ダイちゃんの興味を引いてるてめーが嫌いだ。三年生のことをちゃんと気遣うてめーが嫌いだ。なんか知らねーけどナノちゃんとこそこそ動いているてめーが嫌いだ。だから――」
『Field11,Coliseum.』
真剣そのものの表情で、サチは言う。
「――だから、あたしが勝ってやる。てめーはすごすご引き下がって、ダイちゃんのとなりに立つんじゃねーぞ」
その言葉を受けて、エイトも覚悟を決める。
まだナノさんには、全てを聞いてはいないけれど。最初は、押し付けられただけだったけれど――それでも僕は、強くなりたい。だから負けない、どんな勝負でも。
「――了解。それでも僕は、勝って断ります」
準備の完了したバトルシステムが、敵同士の通信を遮断した。目の前にカタパルトが現れ、両者の機体が出撃態勢に入る。
『BATTLE START!!』
「カンザキ・サチ、ノーベルガンダム・ドゥルガー……さー、踊ろーか!」
「ガンダムF108、アカツキ・エイト、出ます!」
◆◆◆◇◆◆◆
エイトとサチが降り立ったのは、古代の闘技場を模した円形のフィールドだった。ところどころに朽ちかけた円柱が立ち、灰色の壁面はコケやツタ、その他雑多な植物に侵食されている。不揃いに歪んだ石畳を踏みしめ、百メートルの距離を開けてF108とドゥルガーが向かい合っている。
「んじゃまー、やろーか。一年生!」
「はい。行きますっ!」
エイトは迷わず、ブーストを全開。二丁のビームライフルを連射しながら、弧を描くようにドゥルガーのサイドへと回り込んだ。ドゥルガーはサーカスの軽業師のような身のこなしで、次々と撃ち込まれるビームをかわしていく。
「ほらほらー、その程度ならさー……」
かわしながら、ドゥルガーが大きく足を振り上げて宙返りをしたその時、
「こっちから行くよー!」
ヒュヒュンッ。空を切る鋭い音、その次の瞬間、F108の右のブレードアンテナとバルカンが火を噴いて壊れ、エイトの視界を一瞬、奪った。その一瞬の間にドゥルガーはF108に肉薄、高く鋭いヒールになった踵で直蹴りを叩き込んだ。
「くっ……!」
「へー、やるねー!」
間一髪、ビームライフルを盾代わりにして直撃は防ぐが、衝撃は殺しきれず、F108は吹き飛ばされ、苔むした石壁に背中から叩き付けられてしまった。
「FCS……ライフルは、まだひとつ生きてるか……!」
機体の状況を確認。盾代わりにした右のライフルは大きくひしゃげて爆発していないのが不思議なぐらいだが、左はまだ使える――警報音が鳴り響く。目の前に、真っ赤に灼熱し輝くドゥルガーの掌が迫っている!
「ゴーッド、フィンガーっ♪」
「ちぃっ!」
とっさに両腕のビームシールドを展開して防ぐが、バチバチと火花を散らすゴッドフィンガーは、二枚重ねのビームシールドを今にも突き抜けてしまいそうだ。
「い、いきなり必殺技ですか、先輩……!」
「勝つためさー。だからー、こんな手だって使うよー!」
ヒュヒュンッ――あの、風切音。同時、ビームシールドの内側にあるはずの二丁のビームライフルに、深い裂傷が刻まれた。一瞬の間をおいて、爆発――その爆炎に紛れてF108をゴッドフィンガーから脱出させる。エイトは上空からドゥルガーの姿を見下ろすが、ビームライフルを切り裂いた攻撃の正体はまったくつかめない。
「くっ、やっぱり見えない……!」
「あっひゃっひゃ♪ まだまだいくよーっ!」
ヒュオォォン! 長く尾を引く風切音と共に、突如、F108の機体が地面へと引きずり降ろされた。地面に叩き付けられたF108に、ヒートクナイを逆手に構えたドゥルガーが襲い掛かる。エイトは何とか立ち上がり、両腕のビームブレードを起動。矢継ぎ早に繰り出されるヒートクナイの斬撃を、何とか受け流し、弾き返す。
「近接でわざわざ銃なんてさー! やっぱチャンバラだよねー、あっひゃっひゃ♪」
「強い……っ。なんて速さだよ……!」
ドゥルガーは右手のヒートクナイのみなのに対し、F108は両腕のビームブレードをフル回転させて、何とかしのいでいる状態だった。さらに、
「ほれほれー、ゴッドフィンガーっ♪」
灼熱の左掌が、F108の頬を掠める。これに捕まれば一撃で終了だ。ビームシールドでも、二枚重ねにしなければ完全には防ぎきれない。
さらには、時折、例の風切音がなって、見えない攻撃がエイトの防御や回避をかいくぐって斬りつけてくる。F108はすでに左の頭部バルカンも壊され、胸部マシンキャノンの砲口も潰されていた。使える武器はあと、両腕のビームブレードと、サイドアーマーに格納してあるビームサーベルのみだった。
「このままじゃ……ジリ貧だ……っ!」
「ジワジワはいやかーい? んじゃまー、一気に潰してやろーかーっ!」
ヒートクナイを順手に持ち替え、鋭い踏み込みと共に強烈な刺突。エイトはビームブレードをクロスさせて受けるが、止め切れない。咄嗟の判断でバックステップ、距離をとる。追撃が来るかと身構えるが、来ない。ドゥルガーは脱力したようにだらりと立ち、全身のダクトやスリットからゆらゆらと熱気を吐き出していた。
「プラフスキー粒子全開……システム、解放!」
ウウゥゥ――――ォォォォオオオオオオオオンッ!
ドゥルガーの全身の放熱パネルが展開し、内部フレームが露出する。ガンダムタイプ特有のフェイスガードが弾け飛び、赤熱したもう一つの顔が露わになる。髪の毛は逆立ち、ゴッドフィンガーのように光り輝いて、凄まじい熱量を放出する。髪の毛から燃え上がるプラフスキー粒子が、まるで炎のようだ。
「ノーベルガンダム……そうか、バーサーカーモードか!」
「あたしの敵はみんな潰れろォォォォォォォォッ!」
ウゥオオォォンッ! ドゥルガーが吼え、突撃する。その両手には、加熱しすぎて粒子の炎があふれ出すほどになったゴッドフィンガーが発動している。
「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ♪」
「う、らあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
嵐のようなゴッドフィンガーの乱打を、F108は間一髪のところでよけ続ける。ビームブレードでは受けるどころかビーム刃を握りつぶされてしまうのがわかっているので、エイトは掌を避けて腕や肩を切りつける。だが、炎のように吹き上がるプラフスキー粒子の影響か、ドゥルガーの装甲には傷一つつかない。
「二つ名の〝不死〟ってこれのことか……インチキだろ、こんなのは……っ!」
「あーっひゃっひゃっひゃ♪ 負け犬の遠吠えってーのはさー、きっちり負けてからしてくんなきゃねー♪」
ウゥオオォォンッ! ドゥルガーが吼え、同時、F108の足元の石畳が真っ二つに割れ砕けた。例の見えない攻撃――雄叫びで風切音を誤魔化したのか!? 足場を崩されたF108はその場にあおむけに倒れこんでしまう。チャンスと見たドゥルガーは、両手のゴッドフィンガーを振りかざし飛びかかってくる。
「潰れて壊れろーーッ!」
「そうは……行くかよーっ!」
握りつぶされるのを承知で、エイトはビームシールドを展開。左右両肘のビームシールドは発生装置ごと潰されるが、ほんの一瞬の時間稼ぎはできた。その一瞬に、ドゥルガーの腹に右足を叩き込んだ。そしてそのまま、巴投げの要領で蹴り上げる。
「うらあぁっ!」
「あぅんっ!?」
予想外の反撃にサチは受け身を取り損ね、ドゥルガーはコロシアムの観客席に叩き付けられる。これが最後の反撃とばかりに、エイトはF108をフルブーストで突撃させた。両腕のビームブレードを全力展開、そのまま左右の拳を握り合わせる。密着したビーム刃が共振作用により巨大化、高出力のビームの突撃槍を形成した。
「これが、F108の……最大火力です!」
「あっひゃっひゃ♪ いいよ、来いよアカツキ一年生!」
早くも姿勢を立て直したドゥルガーが、両手のゴッドフィンガーを前に突き出した。F108の突撃を真正面から受け止める構えだ。
「らあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「あーっひゃっひゃっひゃ♪」
突撃するF108、叫ぶエイト。待ち構えるドゥルガー、笑うサチ。両者の距離が瞬く間に縮まり、あと八〇、七〇、六〇、五〇――衝突のその時まで、あと零コンマ秒――
「そこまでですわ!」
ズオ――オオオオォォォォォォォォォォォォォンッ!
二人の間に圧倒的な光芒が降り注ぎ、何もかもをまとめて吹き飛ばした。コロシアムの建物そのもののおよそ半分ほどが消えてなくなり、F108とドゥルガーのちょうど中間地点には直径が百メートルにはなろうかというクレーターが抉られている。
「カンザキさん――あなた、やりすぎていましてよ」
そのクレーターの上空、まるですべてを見下すかのように空にいたのは――
「あなたのその行動、他の誰が見逃しても――このわたくしと、レディ・トールギスが見逃しませんわ。生徒会風紀委員長の名にかけて」
第六話予告
《次回予告》
「俺の名前は龍道院煌真。どこにでもいる普通の中学二年生だ。――いや、今はもう〝普通〟とは言えないか。自分の隠された過去と向き合ったあの日から――まったく、前世からの因縁ってやつは、どうにもやりきれないぜ。この左手に刻まれた
ガンダムビルドファイターズDR・第六話『レギオンズ・ネストⅠ』
「……ふふふ、決まった……え? あ、うん大丈夫、宿題やってたんだって。違う違う、ゲームじゃないって。ごめん母さん、ちゃんとやるから、パソコンの電源は、あーっ!」
◆◆◆◇◆◆◆
さっちゃん先輩の口調が安定しません。
感想等いただければ幸いです。よろしくお願いします。