ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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Episode.45 『ワールド・エンドⅢ』

「ナノさん……っ!」

 

 黒色粒子の暴走、システムからのアナウンス、ジ・アビスの乱入。

 理解を超える出来事ばかりが連続しているが、確かなこともある。それは、ナノカが危機に陥っているということだ。ミッツ、カスミ、ヤエの三人が助けに来てくれた(でも、どうやって? GBOに乱入システムなんてないのに……)のは幸運だったが、かの〝覗き返す深淵(ブラック・オブ・ザ・ブラック)〟――アカサカ・トウカその人との戦いは、ナノカを危機に追いやっていた。

 

「動け、動いてくれクロスエイト!」

 

 エイトはクロスエイトを飛び立たせようともがくが、バーニア・スラスター類は軒並みダウンしている。無理やりバーニアを吹かしても、熱量が機体に溜まるばかりだ。

 

《――今から354秒以内に、全プレイヤーは当サービスからログアウトしてください。繰り返します。今から348秒以内に――》

 

 おそらく、このカウントがゼロを迎えればフィールドは閉じ、自分たちは強制ログアウトさせられるのだろう。しかしエイトには、このまま時間切れを待つつもりなど毛頭なかった。

 

「今、行かなきゃ……今行かないで、僕は! ナノさんに相棒なんて呼ばれる資格は、ないだろっ!!」

「……ッたく、しゃあねェなァ!!」

 

 通信ウィンドウの向こうで、ナツキが苦笑いを浮かべながら頭をかいていた。突然、エイトの体に軽い浮遊感。クロスエイトのボディがドムゲルグに掴み上げられたのだ。

 

「クロスエイトはボロボロ、ドムゲルグももう飛べねェ。赤姫を助けに行くなら、オレがてめェをぶん投げるしかねェ。一発勝負だ、バシっと決めろよエイトォ?」

「ナツキさん……はいっ!」

 

 エイトはぐっと奥歯を噛み締め、壊れかけのバーニア・スラスターを全開にした。推進力は得られないが、機体の蓄積熱量は一足飛びに上がっていく――とはいえ、大破寸前の機体にこの負担はあまりにも大きい。制御しきれない熱量が、ひび割れた装甲や関節から漏れ出た粒子を燃焼し始める。数秒の噴射(チャージ)で、蓄積熱量は25%まで上昇。漏出粒子が燃焼しているせいで出力は安定しないが、ブラスト・マーカーの一発ぐらいは撃てるはずだ。

 

「……行けます、ナツキさん!」

「全力でブチ撒けてェ、赤姫助けてこォいッ! 頼んだぜエイトォォォォオオオオ!!」

 

 ドムゲルグは最後の力を振り絞り、剛腕をうならせてクロスエイトを投擲。反動でドムゲルグの腕は折れ、踏み込んだ足は膝から崩れ落ちるが、エイトはぎゅっと唇を噛み、前だけを見据えた。

 武装スロット選択、左腕部ビームシールド。ビーム刃収束、攻撃形態で展開。ブラスト・マーカースタンバイ、機体熱量をビーム刃に充填――武装限定灼熱化(アームズ・ブレイズアップ)

 

「うらあああああああッ!!」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

《――全プレイヤーの皆様に緊急連絡です。当サービスは、緊急メンテナンスを実行いたします。今から312秒以内に、全プレイヤーは――》

 

 四肢を失い、力なく宙域を漂うレッドイェーガー。それを見下ろし、漆黒の粒子をまとう大剣を掲げる、デビルフィッシュ・セイバー。それはそのまま、GBOJランキング一位〝覗き返す深淵(ブラック・オブ・ザ・ブラック)〟と七十七位〝赤姫(レッド・オブ・ザ・レッド)〟との実力差を――トウカとナノカの間に厳然として横たわる、深くて暗い断絶を、表すかのようだった。

 

「さようならだ、ナノカ。約束はまた、守られなかった……」

「トウ……カ……」

 

 トウカの表情は仮面に隠されてうかがえず、その声色に起伏はない。大量の警告表示に埋め尽くされたモニターの向こうへと、ナノカは必至で手を伸ばす。しかし無情にも、漆黒の大剣(ソード・デュランダル)は振り下ろされ――

 

「うらああああああああッ!!」

「エイト君っ!?」

 

 視界に飛び込んできた、真っ赤な流星。粒子燃焼効果(ブレイズアップ)を発揮したクロスエイトの左腕が、ソード・デュランダルに渾身の一撃を叩きこんでいた。

 ソード・デュランダルを覆う黒色粒子が吹き散らされ、金属色のソード本体が露出する。飛び散った黒色粒子がクロスエイトの熱量に燃え上がり、火の粉となって舞い踊る。

 

「ハハッ! キミが、ナノカの!」

 

 しかし、それも一瞬。トウカは即座に距離をとって体勢を立て直し、ソード・デュランダルに再び黒色粒子を纏わせる――纏った粒子が渦を巻き、ソード・デュランダルの刀身と一体化した大口径砲へと収束していく。

 

「ようやくのお出ましかい、小さな勇者クンはさああああ!」

 

 ドッ……ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ――――!!

 黒紫の雷光とともに吐き出される暗黒色の極大ビーム、黒色粒子砲(ガルガンタ・カノン)

 エイトはその絶望的な破壊力を前にして、回避行動をとらなかった。

 

「焼き尽くせっ、ブラスト・マーカー!」

 

 ゴッ……ォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオッ! 

 まっすぐに突き出した左の拳から、紅蓮の豪華が渦を巻き、火柱となって迸る。

 黒紫と真紅の奔流が真正面からぶつかり合い、粒子の欠片を弾けさせながら鬩ぎ合う。

 

「通常のビームなら、干渉すらせずに飲み込めるのだけれど……やはり面白いね、その燃える粒子の効果というのは! 黒色粒子を焼くなんて、そうそうやれることじゃあない!」

「そのために作り上げた機能ではないです、けどっ! このクロスエイトが! ブレイズアップが! あなた方に対する切り札になるのなら……僕はぁぁぁぁっ!」

 

 エイトの叫びに応えるように、ブラスト・マーカーの輝きが増した。崩壊したコロニーの欠片がプラフスキー粒子へと還元され、粒子燃焼効果に巻き込まれて燃え上がる。周囲のあらゆるものを燃料として燃え上がるクロスエイトの炎は、猛烈な勢いで火勢を増し、膨れ上がっていく。万全のデビルフィッシュに対して、満身創痍のクロスエイトという不利を、粒子燃焼効果が補っている形だ。

 

「ハハッ! なんだ、同じじゃあないか君のしていることも! 周囲のすべてを巻き込んで、自分の力にして破壊力を増す! 黒色粒子で強制的に取り込んでいるか、炎を延焼させているかの違いだけだよ、ボクと君とは! アハハッ!」

「同じなんかじゃあ、ありませんよ……っ」

 

 楽し気に口元を歪め、哄笑するトウカに、エイトは鋭く言葉を刺した。

 

「僕は、ナノさんを、裏切りませんっ!」

「……ッ!!」

 

 その瞬間、デビルフィッシュ・セイバーのバインダーアームが八本すべて展開した。 四つの掌にはパルマフィオキーナの光が、そして残る四つには――四門の黒色粒子砲(ガルガンタ・カノン)が、その真っ黒な砲口が、口を開けた。

 

「もういい。死ねよ、おまえ」

 

 温度のない、絶対零度の冷えた声色。

 宇宙の闇すら塗り込めるような絶対的な暗黒が、紅蓮の火柱を飲み込み、覆い尽くし、深淵の闇に消し去った――

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「くっ……これでぇっ! パイレーツ・ブラスターっ!」

「それは、一回戦で見たッス」

 

 リベルタリアの額、銀色の髑髏レリーフが弾け飛び、その奥に隠されていたハイメガキャノンが現れる。しかし、そこから必殺の一撃が飛び出すよりも早く、まるで予期していたかのような狙撃が、その砲口に突き刺さった。

 

「きゃんっ、ウソっ!?」

 

 リベルタリアの頭部は大破、メインカメラを失い、ミッツの視界が奪われる。システムが自動でサブカメラ映像に切り替えるが、映像が暗転から戻ったとき、ミッツの視界はGNミサイルの大群に埋め尽くされていた。

 

「う、わ、きゃああああああああっ!」

 

 次々と叩きつけられる爆圧に、自慢の金色(ゴールドメッキ)装甲はひしゃげ、弾け、破壊され、内部フレームが露出する。制御を失ったリベルタリアは、くるくると回転しながらコロニーの残骸へと墜落する。

 

「ちょ、ちょっと海賊娘! 大丈夫!?」

「うぅ……っ。こ、このあたしが、〝奥の手・その三〟まで使ったっていうのにぃ……!」

 

 悔しがるミッツに駆け寄るヤエ。しかし、リベルタリアに肩を貸すブルーアストレアも、かなりの損傷を受けている。武装の大半は破壊されてそこら中に散乱し、機体自体にも狙撃やGNウォールビットの直撃を何発か受けている。金属青色(ブルーメタリック)の装甲も、汚し加工(ウォッシング)したかのようにボロボロだ。

 

「ランキングはヤエのほうが上なのに……ヤドカリ野郎の〝傭兵(ストレイ・バレット)〟って、一人でもこんなに強かったの……っ!?」

「給料分、働いてるだけッスよ」

「に、兄兄(にぃにぃ)ズと一緒だったら、こんなことには、なってないんだからっ!」

 

 ヤエは歯を剥いて叫び、最後の武器であるGNショートビームライフルを構えるが、撃つよりも早く突っ込んできたGNウォールビットがライフルの機関部を直撃、破壊されてしまう。

 

「お嬢ちゃんとお姉さんのお相手は、ここまでッス。俺にはちょっと、別の仕事(・・・・)があるッスから……」

 

 ケルディム・ブルーが指揮者のように手を振ると、五基のGNウォールビットが大きく弧を描いてミッツとヤエを取り囲む。ゆっくりと回転しながら円の径を狭めていく様は、群れで狩りをする肉食獣のようだ。

 

「……ここいらで、退場(ログアウト)してもらうッスよ」

 

 タカヤの言葉と同時、GNウォールビットが一斉に突撃した。先端部にGNフィールドを展開し、超高速で飛び回る鈍器と化したビットの群れが、身を寄せ合うリベルタリアとブルーアストレアを叩き、打ち抜いた。原型を失ったリベルタリアとブルーアストレアは、爆発四散。青と金に煌くプラスチック片が、あたり一面に散らばった。

 

(気の毒ッスけど……閉鎖領域にデータが取り残されるよりは……)

 

 内心で呟きながら、タカヤはGNビットをすべて手元に戻した。ライフルも畳んで右肩のラックに懸架しながらレーダーを確認し、戦況を把握する。

 少し遠く、巨大なエネルギー反応は、デビルフィッシュ・セイバー……それとぶつかり合うもう一つのエネルギー反応は、おそらくクロスエイトだろう。自分たちが乱入した時点でクロスエイトはすでに中破状態だったが、あの〝覗き返す深淵(ブラック・オブ・ザ・ブラック)〟に対抗しうるガンプラなどそう多くない。

 そしてもう一つ、やや近い位置にある反応は――二つとも、黒色粒子によるもの。イブスキ・キョウヤのヘルグレイズと、タマハミ・カスミのユニコーン・ゼブラだ。

 

(イブスキさんが遊んでいるとはいえ……よくやるッスねあのユニコーン)

 

 そう、この戦いに勝つ必要はない。乱入する直前に、ヤジマ商事側が第666独立閉鎖部壁(ソロモン・プロテクト)を展開したことにより、イブスキの当初の目標は達成できなくなっているのだ。計画に従うならば、現状は、プランBに移行すべき状況にある。

 

『いやはや、大企業ゆえのフットワークの悪さを期待していたのですが……さすがはアカサカ室長だ、実に決断が速い。たったの15%しか、システムを掌握できませんでしたよ。かの老人たちは、さぞかしご立腹でしょうねえ。かくなる上は――嫌がらせを兼ねて、遊びに行きましょうか』

 

 だから、この戦いは余興。いい機会だから、戦っておこうと――遊んでおこうというだけの、余興。しかしイブスキは、遊びの趣味は悪くとも、遊びに手を抜く男ではない。それでヘルグレイズとここまで張り合っているのだから、あのユニコーンの実力は本物である。

 

「……ん?」

 

 タカヤは怪訝そうに、眉根にしわを寄せた。

 黒色粒子を使う者同士の戦場に、小さな反応が一つ、現れたのだ。今にも消えそうな、儚いエネルギー反応。自分たちとエイトたち、そして偶然ラプラスコロニー崩壊時に居合わせた、ハイレベルトーナメント出場者。それ以外にこの戦場に、誰がいるのか。

 データベースと照合、この反応は――

 

「……へぇ。ちょっとしたイレギュラー、ってやつッスね」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 宇宙空間の闇よりもさらに濃い漆黒が、紫電を散らしてぶつかり合う。

 

「ハァ……ハァ……ブラックアウト、フィンガーっ!」

「ククク……!」

 

 ユニコーン・ゼブラの掌打とヘルグレイズの大戦斧(バトルアックス)が激突し、黒色粒子の欠片があたり一面に飛び散った。ぶち撒かれた黒色の欠片が粒子の同化吸収特性を発揮し、周囲に漂うラプラスの残骸を解体・粒子化、黒色粒子の塊へと変貌させていく。

 

(このまま……攻め切れば……!)

 

 額に汗を浮かべながら、カスミはバトルアックスに視線を注いだ。数十回に及ぶ打ち合いの成果は、バトルアックスを刃毀れさせるという形で表れていた。それに気づいているのかいないのか、イブスキは重武装の塊といった意匠の左腕を一切使わず、右腕だけでユニコーンと渡り合っている。

 

「いやはやこれは予想以上ですよあなたは。私以外に黒色粒子を実用化したビルダーがいたことにも驚きましたが、加えて! この私と、ヘルグレイズともう90秒以上も打ち合っている。賞賛に値します……します、が!」

「……やあぁっ!」

 

 イブスキの軽薄な賛辞を打ち切るように、カスミはヘルグレイズの顔面に膝蹴りを叩きこんだ。黒いサイコフレームの突き出したユニコーンの膝が、黄色いモノアイを捉え――て、いない。

 

「少々、お疲れのようですねえ。タマハミ・カスミさん?」

 

 ヘルグレイズに見えていたものが、黒色粒子の欠片となって砕け散った。直後、ユニコーンの背後で宇宙空間が裂けるように広がり、黒色粒子が噴出。粒子とともに飛び出してきたヘルグレイズがバトルアックスを振り下ろした。

 

「うぐぅぅっ!?」

 

 バトルアックスが刃毀れしていたこともあり、ユニコーンの頑強な装甲は表面の小破だけで耐えてみせた。しかし超重武器による打撃力が、ユニコーンを衝撃とともに吹き飛ばし、コロニーの残骸に叩きつける。

 

「……粒子による偽装(ダミー)隠密(ステルス)……一回戦で、ジェガンズを欺いたのは……これ……!?」

「ククク……黒色粒子の同化吸収特性は、こうして使うのですよ。あなたのように、自分より弱いガンプラからプラフスキー粒子を奪い取って悦に入るだけでは宝の持ち腐れというものです。ああ、ただ、弱者から徹底的に搾り取ろうという発想には同意しますよ、実に私好みの考え方です。私たちは似た者同士かもしれませんねえ……?」

「……カウンターバーストォッ!」

 

 ユニコーンの全身から、黒色粒子が攻撃的な波動となって噴出する。しかしヘルグレイズは巨体に似合わぬ瞬発力でカウンターバーストの範囲外へと飛び退いた。カスミは奥歯を噛み締め、追い打ちのブラックアウトフィンガーを繰り出すが、イブスキは楽し気に口元を歪め、余裕すら感じさせる口調で流れるようにしゃべり続ける。

 

「あなたが私と戦うことを選んだのは、よい判断でした。黒色粒子を纏うこのヘルグレイズに有効打を撃とうとするならば、同じ黒色粒子を使うあなたか……あとはまあ、アカツキ・エイト君の粒子燃焼効果(ブレイズアップ)ぐらいしかありませんからねぇ」

 

「あなたと……おしゃべり、する気は、ない……っ!」

「おやおや、つれないお嬢さんだ!」

 

 ユニコーンの掌打を躱し、ヘルグレイズはバトルアックスを投擲した。激しく回転する刃の円盤を、カスミはブラックアウトフィンガーで打ち払う――しかし、それは粒子偽装(ダミー)。バトルアックスの虚像は黒い欠片となって砕け散り、真逆の方向から出現したバトルアックスが、ユニコーンの脇腹に深々と刃を喰い込ませた。

 

「んぎゃ……あ、くっ……!」

「フッ……黒色粒子によるダミーは、GBOのデータ上では〝本物〟として処理されます。防がねば刺さるし、防げばかき消えて〝別の本物〟が出現するのですよ。まあ私は、そんな搦手が得意なものですから……行きなさい、シールド・ファミリア」

 

 イブスキは突然、明後日の方向に掌をかざした。すると、ヘルグレイズの腰から二枚の木の葉型シールドが分離、鋭く尖った先端を切っ先に、凄まじい勢いで突撃した。ファンネルミサイルかGNファングのような高機動でコロニーの残骸を打ち砕き、進攻するシールド・ファミリア。

 いくつかめの残骸を打ち抜こうとしたとき、その残骸の影から一機のガンプラが飛び出してきた。

 満身創痍ながら何とか原型をとどめている、重厚な多角形の装甲、やや大柄な機体――バンディット・レオパルド。

 

「こそこそ隠れている相手をあぶり出すのも、得意なのですよ」

「イブスキぃぃっ! てめぇ、レイをどこにやったァァァァッ!!」

 

 バンは血を吐くように叫び、右手に持った大剣を振り下ろした。イブスキはヘルグレイズの〝左腕〟を掲げ、受け止める……が、しかし。

 

「……おや、その剣は」

「うおおらあああああッ!」

 

 Bレオパルドは全体重を乗せ、大剣を――燃える粒子を宿したヴェスザンバーを、振りぬく。ヘルグレイズの左腕に裂傷が刻まれ、イブスキは即座にBレオパルドから距離をとった。

 

「オーバードーズシステムも発動できない、平凡なファイターのあなたがなぜ生き残っているかと思えば……そういうことですか」

「……あの瞬間、アカツキ・エイトがこいつを押し付けてきた。シロー・アマダ並みの甘ちゃんだぜ、あいつはよ」

 

 バンは苦笑しながら、右手の大剣を掲げた。

 粒子燃焼効果(ブレイズアップ)を発動した、ヴェスザンバー。

 アンフィスバエナが暴走し、黒色粒子の大津波に機体が飲み込まれそうになった、あの時。エイトは灼熱化(ブレイズ)ビームサーベルを回転させて盾代わり(ビームシールド)にするのと同時に、灼熱化したヴェスザンバーを射出、盾としてバンに押し付けていたのだ。ユニコーン・ゼブラとの戦いで、粒子燃焼効果(ブレイズアップ)が黒色粒子を焼き尽くすことはわかっていた。それでも攻撃を無効化しきれず、機体は深刻な損傷を受けているが……エイトもバンも、生き残ることは、できた。

 

「……だが、そのおかげで! てめぇに一太刀浴びせることができる!」

「それで私が、妹さんのことをしゃべるとでも?」

「おしゃべり野郎のてめぇなら、戦い続けりゃポロっと言っちまうだろうがぁぁッ!」

 

 ヴェスザンバーの熱量はもはや炎を巻き起こすほどは残っておらず、刀身を赤く染める程度だ。しかし、それでも、あと数十秒は戦える。バンは悲鳴を上げる機体状況表示(コンディションモニター)を無視して、Bレオパルドのバーニア・スラスターを全開にした。

 

「よく、わからないけど……増援、ね‥…!」

 

 カスミはユニコーンの脇腹からバトルアックスを引き抜き、そのまま自分の武器として構えた。腰椎回転基盤に深刻な損傷、格闘戦にはつらい状況だが、やるしかない。ブラックアウトフィンガーのエネルギーをバトルアックスに伝播、ヘルグレイズの黒色粒子フィールドを突破する攻撃力を付加する。

 

「いくよ、ユニコーン……!」

 

 Bレオパルドのヴェスザンバーが、ユニコーン・ゼブラのバトルアックスが、次々とヘルグレイズに襲い掛かる。イブスキは内心、所詮は死にぞこないの悪あがき、と侮っていたが――すぐに、認識を改めた。

 ユニコーン・ゼブラは今まで、徒手空拳(ブラックアウトフィンガー)とエネルギー量に任せた爆発技(カウンターバースト)しか使ってこなかったが、武器が扱えないわけではない。むしろ、全方向に万能の天才であるタマハミ・カスミが、武器を扱えないわけがなかったのだ。超重量の長物であるバトルアックスを、腰にダメージを受けているはずのユニコーンが軽々と振り回している。

 一方でBレオパルドも、ユニコーン以上にダメージの蓄積した機体で、ヴェスザンバーを巧みに操っている。重量のある大剣を振り回さず、まるでナイフのように刺突に特化した立ち回りに専念。触れれば焼き切れる灼熱化(ブレイズ・ヴェスザンバー)の特性と機体状況を考えた、無駄のない動きだ。そもそもイブスキがバンをスカウトしたのは、黒色粒子適性の高いレイの護衛として、近接戦闘でのナイフ捌きの腕前を買ってのことだった。

 

(……少々、面倒になってきましたね。アカサカ室長には出し抜かれるし、〝覗き返す深淵(ブラック・オブ・ザ・ブラック)〟は存外に感情的になるし……ほんの余興で手を出してみましたが、手間のわりに収穫は少なくなってしまいましたねぇ)

 

 ヴェスザンバーを受け止めたシールド・ファミリアが両断され、爆散する。横薙ぎのバトルアックスをスクリューキックで迎撃し、打ち砕く。武器を失ったユニコーンがブラックアウトフィンガーで掴みかかってくるが、後退して躱す。

 

(仕方がありません。せめて、〝彼女〟の試運転(テスト)だけでもしていきますか。かの老人たちへの布石、宣伝にもなりますしね……まあ、ゴーダ・バンには、少々……ククク。つらいことになりますがねぇ)

 

 ヘルグレイズのテールブレードがコロニーの残骸をいくつかまとめて貫き、大きく振りかぶって放り投げた。バンとカスミは一瞬、視界をふさがれ、そのすきにイブスキは二人から大きく距離をとった。

 

「お二人とも。ここまでよく戦いました……が、ここまでです」

 

 ヘルグレイズは月を背負うような角度でBレオパルドとユニコーン・ゼブラを見下ろし、両腕を大きく左右に広げた。

 

「……楽しませていただいた返礼に、黒色粒子の深奥をお見せしましょう。我が愛機ヘルグレイズ・サクリファイスの、真の姿と共にね……!」

 

 瞬間、黒い波動が迸る。追撃しようとしたBレオパルドのバーニアが火を噴いて壊れ、ユニコーン・ゼブラのサイコフレームが異常な放電現象を起こした。

 

「くっ、動かねぇ‥‥…!? まだだ、まだ止まるなよレオパルド!」

「……こんな広域の動作干渉……!? この宙域の黒色粒子量が……プラフスキー粒子を、超えた……!?」

 

 動けない二機を見下ろしながら、ヘルグレイズの――否、ヘルグレイズ・サクリファイスの姿が、変わっていく。

 両肩の装甲が展開し、ダクト状の機関が露出。濃度が上昇しすぎて液状化した黒色粒子が、滝のように溢れ出す。左腕の武装群が展開、ブレード、シザーズ、パイル、様々な凶器が顔をのぞかせた。ただでさえ左右非対称だった左半身がさらに肥大化し、異形感を強める。

 イブスキは満足げに頬を歪め、武装スロットを回した。特殊装備(SPスロット)を選択、そして――発動。

 

「それでは、処刑を始めましょう。――システム、解放」

《了解。しすてむヲ解放シマス》

 

 イブスキの言葉に続く、システム音声。しかしその声色は、聞きなれたバトルシステムの男声でも、GBOシステムのハスキーな女声でもない。

 感情は消え、抑揚もなく。まるで機械そのものの、冷たい声色ではあったが――幼い女の子(・・・・・)の声。

 

「……レイ!?」

《おーばーどーず・しすてむ――ぶらっく・あうと》

「てめえレイに何をしたあああああああああああああああああああああッ!!」

 

 バンの絶叫が宙域に響く。しかしその叫びもイブスキには何の影響も与えず、ヘルグレイズは瞬間移動とも見える速度でユニコーンに肉薄、左腕の一振りで白と黒のプラスチック片へと変えた。イブスキはもう堪え切れないといった様子で耳障りな高笑いを上げ、引き千切ったユニコーンの頭を握り潰す。

 

「ほう、知りたいのですかゴーダ・バン。あなたがGBO(ゲーム)で遊んでいる間に、大事な大事な妹さんが何をされたのか。どんな目にあっていたのか。なんなら、動画を配信してもいいのですよ、全世界に。どうぞご覧になってください、あなたはきっと怒り狂うでしょうが、まあ物好きというのは世界中にいますからねぇ。金を払ってでも見たいという輩もいることでしょうし、これで一儲けできますねぇ……ククク、クハハハハハハハ!!」

《敵機〝ゆにこーん・ぜぶら〟撃墜。続イテ〝Bレオパルド〟ヲろっくおん。粒子残量ハ潤沢デス。高火力デノ圧倒ヲ提案シマス》

 

 イブスキがオープン回線で通信をつないでいるのは、わざわざこの声をバンに聞かせるためなのか。果たして狙い通り、バンは視界が真っ赤に染まるほどに激昂し、機体の損傷も顧みずヘルグレイズへと突撃した。

 

「……ぅがあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

「クク、何と美しい兄妹愛でしょう。ですがね、ゴーダ・バン。あなたは弱すぎた!」

 

 突き出したヴェスザンバーが、スクリューキックに蹴り砕かれた。続いてテールブレードがBレオパルドの胴体を串刺しにし、コロニーの残骸に叩きつけ、縫い付ける。振り上げた異形の左腕が大鋏を開き、そして――

 

「……おやおや」

《……あ、あンちゃ……にげ、テ……》

「レイ!? レイ、意識が……!」

 

 ヘルグレイズの左腕が、ピクピクと生物のように痙攣している。イブスキは肩を竦めてため息をつき、「やれやれ」と首を振った。

「私は、こういったお涙頂戴というのが苦手なんですよねぇ……ぶち壊したくなるんですよ、そんな陳腐な物語はァァァァッ!!」

《ひ、ぎぃ……いやああああああああああアアアアアァァアアアアァァァ!!》

 

 イブスキは苛立ちに任せてコンソールを叩き、黒色粒子の出力を全開にした。レイの悲鳴は割れた電子音声と化し、そしてプツンと途切れる。同時、ヘルグレイズの左腕は振り下ろされ、Bレオパルドは両断された――

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ――瓦礫と残骸ばかりが散らばるラプラスコロニー跡地を、目を逸らすように顔を伏せながら飛ぶ。

 それでも否応なく、タカヤの視界にはいろいろなものが飛び込んできた。コロニーの破片に混じる、ガンプラの残骸。金色のプラスチック片。割れた太陽炉。黒いサイコフレーム。黒い多角形の装甲片……そして、

 

(悪ぃな、エイト……アカサカ先輩と、旅館のお姉さんも……)

 

 見慣れた「赤」の、残骸たち。空っぽの大型ミサイルコンテナに、銃身の折れたGアンバー、熱を失ったヴェスザンバー。

 友人を、先輩を、そのチームメイトを、現実世界でのつながりをすべて裏切って踏み台にして、自分は今ここにいる。その事実を受け止めるには、〝傭兵(ストレイ・バレット)〟としてGBOを流れてきたタカヤにも、少しばかりの時間が必要だった。

 しかし、現実は――いや、この電子の世界の仮想現実は、そのわずかな時間すら、タカヤに与えてはくれない。

 

「お疲れさまでした、〝傭兵(ストレイ・バレット)〟」

 

 聳える黒い巨躯、ヘルグレイズ・サクリファイス。今はもう黒色粒子を開放していないらしく、肩部装甲も左腕武装群も、閉じた状態だった。〝制御装置(ゴーダ・レイ)〟の声も、聞こえない。

 

「……給料分、働いただけッスよ」

「イレギュラーが頻発し、プランAは放棄せざるを得ませんでしたが……プランBの実行には十分な準備が整ったといえるでしょう。いやはや、ヤジマ商事の、というより、アカサカ室長の決断力には恐れ入るばかりです。まさか第666独立閉鎖防壁(ソロモン・プロテクト)を、こうも躊躇なく使うとは思ってもいませんでしたよ。おかげでシステムの掌握率はたったの15%止まりです」

 

 タカヤの言葉には何の興味もないのか、イブスキは独演を続ける。

 

「ここまで大会を引っ掻き回し、今から72時間だけとはいえ、GBOメインサーバーを事実上の停止に追い込んだ。注目度(ニュースバリュー)。としては十分です。プランBの実行にはね……ククク。もとよりプランBの方が私好みなのですよ。ゴーダの妹君の存在も、プランBのほうがより生きる(・・・)のですからねぇ……クク、クハハハハ!」

 

 イブスキの高笑いに、愉悦の色が混じっている。当初の予定では、この戦いですべてを終わらせるはずだったのだが……システムの掌握に失敗し、プランBに移行せざるを得なくなったこの状況を、むしろイブスキは望んでいたかのような口ぶりだ。

 何も語らず、腕組みをして立つだけのデビルフィッシュ・セイバーからは、ネームレス・ワンが……アカサカ・トウカが何を考えているのかは推し量れない。双子の姉を、姉が認めた相棒を、チームメイトを全滅させたその胸中には、いかなる思いが渦巻いているのか。

 

《――当サービスは、緊急メンテナンスを実行いたします。今から54秒以内に、全プレイヤーは当サービスからログアウトしてください。繰り返します。今から48秒以内に――》

 

 タカヤにもトウカにも一切構わず独演会を続けていたイブスキが、我に返ったように演説を止めた。そして一息、ため息を挟んで、クツクツと低く笑う。

 

「おやおや、もうこんな時間でしたか。早くお暇(ログアウト)しないと、我々のデータまで閉じ込められてしまいますね。では、お二人とも。次もよろしくお願いいたしますね。次の戦いは72時間後。GBOを破壊する最後の聖戦――」

 

 冷静さを装う薄ら笑いの奥に、異様な興奮が透けて見える。イブスキのそんな内心を現したかのように、ヘルグレイズは大仰な仕草で両腕を開き、天を仰いだ。

 

「――メモリアル・ウォーゲームです!」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

《――全プレイヤーのログアウトを確認。現時刻をもって、GBO全サービスを一時停止。緊急メンテナンスを開始します》

 

 




第四十六話予告

《次回予告》

 ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第四十六話『ウォーゲーム・イヴ』

 姉さん。ボクはずっと、待っているよ……どうせ、無駄だろうけどさ。



◆◆◆◇◆◆◆



 どんもこんばんは。亀川ダイブです。
 またもや少し間が空いてしまいましたが、なんとかハイレベルトーナメント編の最終話までこぎつけました。次に始まる、メモリアル・ウォーゲーム編が、ドライブレッドの最終章となります。できるだけ早く更新したいとは思うのですが、リアル労働との兼ね合いもありますので予定は未定でございます。(汗)
 ちなみにイブスキたちの「プランA」は、大会を引っ掻き回して混乱をあおり、クレーム対応などに運営がテンパってる間にGBOメインサーバーを掌握してしまおうというものでした。イブスキにしては毒味が足りないカンジ。プランBはもっとえげつないものになる予定です。
 今後もどうかお付き合いください。感想・批評もよろしくお願いします!








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