ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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やりたいことを詰め込みまくっていたら、分量が前編の三倍近くになってしまった。
反省はしている、後悔はしていない。

ともあれ、コラボ後編です。
私のナノカ・ナツキ組と、カミツさんのマサキ・ヤヤ組の勝負の行方は!?

どうぞご覧ください。


Extra.01-B 『VS.勝利の女神 後編』

「早速だけどよォ! ブチ撒けるぜェッ!」

 演習場北東、画一的なコンクリート造りの疑似市街地区画。カタパルトから飛び立ち、地に足が付くや否や、ナツキはドムゲルグの全身のミサイルを一斉射撃した。ロクに狙いもつけずにばら撒いたミサイルが、乱立するダミービルの間を縫い、あるいは直撃し、あちらこちらで好き勝手に爆発する。

「ふふっ、乱暴だなあ――でも」

 ナノカはその後方二百メートルほど、一際巨大な高層ダミービルの屋上で、伏せ撃ちの姿勢をとっていた。

 Gアンバーと直結した火器管制(FCS)が、純白の機影を捉える――勝利の女神、ガンダムアテナ。純白の重装鎧をものともしない高速移動で、次々と咲く爆発の華の中を翔け抜ける。太陽炉の出力のおかげか、その速度は並みのガンプラを遥かに超えている。だが、超音速ミサイルすら容易く撃墜するナノカの狙撃で、狙えない相手ではない。

「捉えたよ」

 ドッ、ウゥン! 野太い銃声と共に、Gアンバーの高出力ビーム弾が放たれる、しかし!

「させぬよ!」

 ズンッ……ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 圧倒的なビームの奔流が、Gアンバーのビーム弾を呑み込み押し流し、無効化してしまった。

 バスターライフル最大出力――山吹色のウィングガンダムが、上空からナノカを見下ろしていた。

「実弾ならともかく、ビームをビームで撃ち落とすなんてね。さすがだよ、ヤヤ」

「うむ、まあ、何となくできそうな気がしてのう。勘じゃ、勘」

「ヤヤちゃん、ありがとう! てやああっ!」

「はっはァ! 来たな、全国優勝ォォッ!」

 眼下の疑似市街地では、アテナのGNインパルスランサーと、ドムゲルグの大型ヒートブレイドが火花を散らして激しくぶつかり合っていた。

 アテナの一突きをヒートブレイドでいなし、ドムゲルグはカウンター気味のショルダータックルをブチかます。アテナは専用シールド(エイジス)で受け、無理に踏ん張らず後ろに飛んだ。そのまま流れるような動きでエイジス内蔵のGNバズーカを放射しながら薙ぎ払い、突っ込んでくるドムゲルグの足を止める。

「マサキの方も盛り上がっておるようじゃが……今の儂の仕事は、狙撃手(おぬし)にマサキを撃たせぬことじゃな!」

「来るかい? ならば、撃ち落とすまでだよ」

「正々堂々、一騎打ちじゃーっ!」

 ヤヤは嬉しそうに叫び、バスターライフルを構えた。再び、最大出力の構えだ。

(開始数十秒で、三分の二を撃ち切る!? 初心者ゆえの拙速か、それとも――!)

 ガンプラ初心者でありガンダム初心者でもあるヤヤのことだ、ウィングのバスターライフルに弾数制限があることを知らない可能性も――いや、夜天嬢雅の天才娘が、そんな失策をするはずがない。ナノカは瞬時に判断し、Gアンバーを抱えてダミービルから飛び降りた。

「とりゃあーっ!」

 ズンッ……ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 圧倒的な破壊力が通り過ぎた後には、焼け落ちた瓦礫が残るのみ。MSのサイズから見ても見上げるほどだった高層ダミービルは、その半分以上が消滅していた。

「まだまだじゃーっ!」

「なっ、連射をっ!?」

 息つく間もなく、バスターライフルが再度ナノカを狙う。最大出力では三発しか撃てない必殺兵器をこの一瞬で撃ち尽くそうという暴挙に、ナノカは目を見張った。

 しかし撃たれてしまえば、あの威力はシールド程度で防げるはずもない。

「避けるしか……!」

 ナノカはバーニアを吹かし、瓦礫だらけの疑似市街地から飛び出した。

「ふふん、かかったのう!」

 バラララララッ! 次の瞬間、断続的な振動がナノカに襲い掛かった。マシンキャノンの掃射、大口径機銃弾がR7の装甲を叩く。機銃弾の数発で大破するR7ではないが、姿勢を崩して瓦礫の山に落下してしまう。

「そぉぉこじゃぁぁーっ!」

 その隙を逃さず、ヤヤはシールドを突き出して突撃した。直撃寸前で身をかわしたナノカの直ぐ横で、猛禽類のクチバシを思わせるシールドの先端が瓦礫をえぐった。

「初心者だなんてとんでもないじゃあないか、ヤヤ!」

「お褒めにあずかり、光栄じゃ!」

 反撃に繰り出したGアンバーの銃床打撃を、ヤヤはシールドで防ぐ。ナノカは構わず力づくで押し込み、ヤヤを瓦礫に叩き付けた。ビームピストルを左手で抜き、銃口をウィングの顔面に押し付ける。しかしトリガーを引く前にウィングの頭部バルカンが火を噴き、ビームピストルは穴だらけになって爆発した。

 その爆発に押し出されるように、R7とウィングはお互いに距離を取って銃を構えた。Gアンバーがヤヤを狙い、バスターライフルがナノカを狙う――

「くっ……!」

 ナノカは即座にブーストジャンプ、その場を跳び退かざるを得なかった。

 お互いにビーム兵器で相手を狙うというこの状況、条件は同じように見える。しかし、Gアンバーは狙撃銃。ナノカには一撃で相手を仕留める自信はあるが、万が一の確率で、シールドに弾かれたり急所をずらされたりといったことがあり得る。一方のバスターライフルには、精密な狙いなど必要ない。相手より早くトリガーを引けば、それだけで圧倒的な破壊力がすべてを消し去ってくれる。

 たった一発分、エネルギーが残っているという事実。バスターライフル級の破壊力を持つ兵器は、その事実それだけで、実際には撃たずとも相手の行動を制限できるのだ。

(まるで抑止力の理論だね――かといって避けなければ、本当にトリガーを引けばいい、か。自覚しているかはわからないけれど、これは操縦に長けているというよりも……)

 ナノカは距離を取りながら、スモークグレネードを投げた。ヤヤは無警戒にバルカンで迎撃、突然広がった濃い暗銀色の煙幕に『な、何じゃコレは!?』と驚きの声を上げる。やはり、軍事やガンダム関連の知識は、初心者レベルらしい。

「少ない手札(カード)で、人を操るのに長けている……と言うべきか。さすがは夜天嬢雅、生まれながらに人の上に立つ才覚があるね」

「むぅー、あまり誉められとる気はせんが……まあよい!」

 ヤヤはウィングの両翼(ウィングスラスター)を全力で吹かし、スモークを吹き散らしながら一気に上空に飛び上がった。スモークに隠れて距離を取ったナノカのR7が、半壊したダミービルの陰に隠れているのがよく見える。ヤヤは両手持ちでバスターライフルの銃口を向け、わざとナノカにロックオン警報を聞かせた。

「さあ、どうするナノカ!」

「賭けになるけれど……これならっ」

 ナノカは避けざるを得ない。避けながら、反撃にシールド裏から小型グレネード二発を射出するが、二つともヤヤのバルカンに撃ち落とされ、またスモークが広がる。今度は距離が遠いためヤヤの視界を塞ぐには至らない。

 しかしナノカは何を思ったのか、R7に膝立の姿勢でGアンバーを構えさせた。ヤヤとしては当然、その隙は逃せない。バスターライフルをR7に向け、トリガーに指をかけた。

「ちと怪しいが……撃つまでじゃ!」

 ズンッ……ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 最大出力で放たれたバスターライフルの光が、瓦礫だらけの疑似市街地を覆いつくした。莫大なエネルギーが範囲内の全てを焼き尽くし、吹き飛ばす――はずだったが。

「……むぅ? 少し、爆発が小さい……いや。薄いというか、散っているいうか……?」

「――ビーム攪乱幕だよ」

 薄く散らされていくバスターライフルの光の中から、ナノカの声がした。シールドは溶け落ち半壊、全身の装甲はひどく焼け焦げていたが、R7は五体満足でそこにいた。シールドに守られていたGアンバーが、銃口にプラフスキー粒子を収束してヤヤを狙っている。その周囲には薄く霞の様に、キラキラとした粒子が舞っていた。

 先ほど、ヤヤのバルカンに撃ち落とされたグレネード弾。そのうちの一発はスモーク弾ではなく、ビーム兵器の威力を減衰させる特殊粒子拡散弾――宇宙世紀ガンダム作品の代表的な対ビーム防御策、ビーム攪乱幕だったのだ。

「ガンダム関連の知識は、私が上だったようだね」

 ドッ、ウゥン――ッ!

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「おらァァッ!」

 ナツキの掛け声と共に、尋常ではない大爆発が起きる。その爆炎はオレンジ色の火球となり、MS用サイズの射撃演習場いっぱいに高熱と衝撃をまき散らした。

「爆弾魔にしたって、限度を超えてるわ……!」

 白煙の尾を曳き、爆炎の中からアテナが飛び出してきた。その左半身は重装鎧がごっそり吹き飛ばされ、アテナの本体が大きく露出している。左腕のエイジスも腕部外装甲ごと破損、もはやシールドとしては使えない状態だ。

 アテナの鎧「強化外装甲」は、一つ一つのパーツが専用シールド「エイジス」と同等の防御力を持ち、通常弾頭のバズーカやミサイル程度なら、頑強な積層装甲が難なく耐えてくれる。仲間(ユー君)が手作りで、プラ版を何層にも重ねて作り上げてくれた最高級の一品物(ワン・オフ)だ。

 しかしあのドムゲルグは、強化外装甲の防御力を見抜くや、ジャイアント・バズで殴りかかってきたのだ。それも、まだ三発ほど砲弾の入っている弾倉部分を、アテナに叩き付けるようにして。さらにはそこに、シュツルムファウストを撃ち込んで起爆させるという多重爆撃。都合、大型榴弾四発分に相当する爆発力を一気に受けた強化外装甲は、さすがに吹き飛ばされてしまったというわけだ。幸い、フレームにまで及ぶ損傷はなかったが――機体状況をチェックするマサキの眼前に、黒い鉄クズが投げつけられる。

「まだまだだぜェ、全国優勝ちゃんよォッ!」

「も、もう追撃っ!? ダメージがないっていうの!?」

 とっさにGNカタールを投擲、鉄クズ――高熱に焼かれ、ひしゃげて潰れたドムゲルグのスパイクシールド――を撃ち落とした。続けて振り下ろされた棒状の鉄クズの一撃を、GNインパルスランサーで受け止める。見ればそれは、黒焦げになったジャイアント・バズの成れの果てだった。

「なんてタフネスのガンプラなのよ!」

「ドムゲルグの装甲はなァ、耐爆服(ボム・ブラストスーツ)を参考にデザインしてンだよ!」

 マサキはジャイアント・バズの残骸を力づくで振り払い、左手でもう一振りのGNカタールを抜刀しながら切り付けた。しかしそれも、即座にヒートブレイドに持ち替えたドムゲルグに防がれる。お互いに押し込み合う刃と刃から、GN粒子と灼熱の金属片が火花となって激しく飛び散る。

「ほとんど自爆みたいな攻撃をしてっ! ノーダメージじゃないでしょう!」

「はっはァ、それがどうしたァ! オレサマは〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟だぜェッ!」

 ナツキはドムゲルグの巨体を生かし、自重をかけてヒートブレイドを押し込んでいく。アテナの左腕一本で、支え切れる圧力ではない。徐々にGNカタールは押され、刃の自分側が自分自身の装甲に食い込み傷をつけていく。

 だが切り札はまだ、この右手にある。マサキは武器スロットからGNインパルスランサーの特殊機構を選択、起動。ランサーの穂先にGN粒子の輝きが収束し、その貫通力を極限まで高める……そして!

「零距離っ……吹っ飛べえーーっ!」

 ガシュッ――ォォォォオオンッ!

 猛烈な勢いで打ち出されたランサーの穂先が、ドムゲルグを貫いた。大穴が開く右肩、根元から引き千切られた右腕がヒートブレイドごと宙を舞い、射撃演習場の赤土に深々と突き刺さる。咄嗟に身を反らしてコクピットへの直撃を避けたドムゲルグのモノアイが、アテナを睨み、ギラリと光る。

「ンなこったろうとォ……思ったぜェッ!」

 ゴッズンッッ! 頭突きが、アテナの顔面に突き刺さる! 

 ガアァンッッ! 左の鉄拳が、GNカタールを叩き落す!

 アテナのブレードアンテナが折れ、メインモニターの画像が大きく荒れた。刃こぼれして地に落ちたGNカタールを踏みつけて、ドムゲルグがさらにもう一発、アテナの顔面に頭突きを叩き込んでくる。ドムゲルグの額当ては砕け散るが、アテナのガンダムフェイスにも大きくヒビが入り、左眼が割れた。あまりの衝撃に、マサキは自分が直に頭突きを受けたかのように、軽いめまいを感じてしまう。

「い、痛たたた……でも、これでっ!」

 だが、右腕を吹き飛ばしたのは大きい。マサキはワイヤーを巻き取ってランサーの穂先を戻しながら、ドムゲルグに前蹴りを叩き込んだ。体重差の関係でアテナの方が後ろに飛ぶような形になるが、これで距離はとれた。改めてGNインパルスランサーを両手で構え、ドムゲルグに相対する。

「降参とかは、絶対しないですよね。このバトルであなたのこと、少しわかった気がします」

「あったりめェだろ。オレを誰だと思ってやがる!」

 顔が見えなくても、犬歯をむき出しにして好戦的に笑っているのが手に取るようにわかる声色だった。ドムゲルグは右腕と武装のほとんどを失いながらも、まだ戦闘態勢を解かない。最後のシュツルムファウストを左手に持ち、脚部核熱ホバーを轟々とアイドリングさせて、突っ込むタイミングを窺っている。

 二人の間に、さっきまでの攻防とは一転、一触即発の膠着状態が続く。

 ニュータイプでなくても、お互いに直感する。次に動く時が、この相手との決着の時だと――その時であった。

「すまぬ、マサキ。やられたのじゃ……」

「敵機撃墜。すぐに向かうよ、ビス子」

 二人に同時に入った通信――遠くから聞こえた、MSの墜落音が合図となった。

「おらァァァァッ!」

 ドムゲルグは土煙を蹴立てて突撃し、

「……トランザムっ!」

 アテナは白い装甲を深紅に染めて飛び出した。

 通常の三倍の粒子量がもたらす圧倒的な加速度で突撃、ドムゲルグに何もする間を与えず、その胴体にGNインパルスランサーを突き立てた。度重なる自爆まがいの爆撃で、さすがのドムゲルグの装甲も限界だったらしい。鋭い穂先はドムゲルグの脇腹を深々と抉り、バックパック側までほぼ一直線に貫き通す。並みのガンプラであれば、この時点で撃墜と判定されているところだが――マサキは油断なく、射出機構のスイッチに指をかけた。

「今度こそ、吹っ飛……」

「あと頼むぜ赤姫ッ!」

 ナツキは叫び、シュツルムファウストをランサーに叩き付ける。当たり所によっては巡洋艦(クラス)の艦船さえ沈めうる爆発力が、猛烈な閃光と爆風を巻き起こした。

 至近距離で爆発を受けたアテナは、トランザムを強制解除させられ、射撃演習場の端まで吹き飛ばされた。その右手には、穂先を爆発に抉られたGNインパルスランサーの、持ち手部分だけが残されている。ランサーの手甲(ヴァンプレイト)がなければ、右手ごと持っていかれていただろう。

「す、捨て身で武器破壊なんて……あの人、ちょっと怖い……」

 爆心地には、腹部に大穴を開けたドムゲルグの機体だけが取り残されていた。蓄積したダメージによって、ようやく撃墜判定が下されたらしい。モノアイに光はなく、ピクリとも動かない。その姿はマサキの脳裏に、日本史の授業で聞いた〝弁慶の立ち往生〟の逸話を思い出させた。

 しかし、呆けている暇はない。被ロックオン警報がマサキの耳を打つ。超長距離からの火線が、アテナをぴたりと照準していた。

「狙撃が来る……っ!」

「もらうよ、マサキさん」

 ビームの閃光が迸り、一瞬遅れて野太い銃声が響き渡る。速射モードで次々と放たれるGアンバーの連続狙撃を、アテナは全身のスラスターを総動員した鋭い跳躍でかわし続ける。アテナが跳ねた直後、その場所をビームが貫き、射撃場の赤土が抉れて爆ぜる。マサキは紙一重の回避を繰り返しながら、視界の隅に小さく見える伏せ撃ち姿勢のR7と、自機のコンディション画面を見比べた。

「左だけ軽い……重量バランス、スラスター推力比も、もう無茶苦茶っ……右膝が限界、粒子残量もあとわずか……っ!」

 外装甲と追加スラスターが右半身ばかり生き残っている現状で、超高速移動(トランザム)まで使ってしまったのが響いている。捻じれたり歪んだり、機体はもうガタガタだった。特に脚部の負荷は限界に達している。もはや、いつ関節がヘタっても……いやそれどころか、空中分解してもおかしくない状況だ。

「おまけに、武器はもうGNブレードが二つだけ――」

 ドウッ!

 ついにかわしきれず、右腰のGNブレードがビームに貫かれた。

「――ひとつだけ、になっちゃった……か」

 マサキの頬に、汗が一筋つーっと垂れる……が、その口元は笑っていた。考えるより早く、決断。マサキの指は再び、武器スロットの〝SP〟を選んでいた。

「だったら最後まで、燃やし尽くすだけよ! トランザムっ!」

 ――――ァァァアアアッ!

 まるでマサキの叫びに応えるように、アテナの両目(ディアル・アイ)が輝いた。唸りを上げる太陽炉が、残り僅かなGN粒子を全開放。全身をトランザムレッドに染め上げながら、重力を無視したような急加速で飛び出した。

「突っ込めアテナぁぁぁぁっ!」

 まだ強化外装甲の残る右半身を前面に押し出し、最後の一振りとなったGNブレードを左手に構え、突撃する。ありったけのGN粒子を込められたブレードは真っ赤に燃え、本来の刀身の倍は長い粒子ビーム刃を発生させていた。

「ふふっ……その気合い、本物と見たよ!」

 その突撃に必殺の気迫を感じ取ったナノカは、R7を立ち上がらせ、Gアンバーのストックを肩にあてた。機能選択(モードセレクター)極大放射(フルブラスト)モード。狙撃用バイザーをおろし、GアンバーとR7本体とのデータリンクをより精密にする。立射での精密狙撃――いや、精密()()態勢である。

「受けて立つよ。私の全身全霊で!」

 ドッ……ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 凄まじい熱量が、物理的な圧力さえ伴うような閃光が、高密度に絞り込まれたビームの放流となって一直線に放射された。灼熱の高圧縮粒子が光の速さでアテナに激突し、強化外装甲を穿つ。

 第一層、第二層、第三層……何重にも重ねられた装甲板が、刻一刻と熔け落ちる。しかしマサキはまったくスロットルを緩めようともせず、太陽炉内のGN粒子すべてを吐き出す勢いで加速し続けた。アテナはまるで濁流をかき分けるようにビームのど真ん中を突っ切り、R7へと迫る。

 両者の距離は、あと五〇――四〇――三〇――ナノカはトリガーを引き続けながら、冷や汗と共に、自分でもよくわからない笑いが込み上げてくるのが止められなかった。

 このGアンバーの、極大放射(フルブラスト)ビームのど真ん中を突っ切ってくるなんて。あんな華奢な少女が、重装甲に任せた突撃戦法を取るなんて。ガンプラのタイプも、ファイターの印象も、全く違うものだけれど――ナノカの脳裏に、いつだって全力全開で戦場を翔け抜ける、小柄な赤い勇姿が浮かんだ。

「なんだか似ているなぁ……エイト君と……!」

 相対距離、残り二〇――Gアンバーのエネルギーが尽きるのと同時、アテナの強化外装甲の最後の一枚が撃ち砕かれた。

 だが、真っ赤に燃える(トランザム)アテナの勢いは止まらない。

 粒子ビームを噴き出すGNブレードが、勝利への道を切り拓く!

「てやああーーーーーーっ!!」

 ザン……ッ!!

 真っ直ぐに突き出されたGNブレードが、R7の胸を貫いた。一瞬だけ、背中側まで粒子ビームの切っ先が噴出するが、それもすぐ消える――のみならず、アテナの全ての光が消えた。ドムゲルグとの激戦、武装と強化外装甲をほぼ全て失うほどの損傷、そして二度のトランザム。太陽炉が生成しうるGN粒子の量を、はるかに超えた戦いだった。

 鎧を脱ぎ捨て、本来の細身な姿に戻ったアテナが、がっくりと地に膝をついた。その顔は項垂れるように俯いて、辛うじて右眼にだけ、微かな光が残っている。

「はは……太陽炉が空っぽだ……もう、ぴくりとも……動けない……」

「そうかい。でも。それでも――」

 ぐらり、と。R7の体が、傾いた。その胸にGNカタールを突き刺したまま、仰向けに倒れ動かなくなった。狙撃用バイザーの中心で輝くカメラアイが、まるで瞼を閉じるように光を失くす。

 ナノカはふっと静かな微笑みを浮かべながら、コントロールスフィアから手を放した。

「――勝者はキミだよ、マサキさん」

『BATTLE ENDED!!』

 機械音声が終了を告げ、フィールドが崩れ始める。剥がれ落ちるプラフスキー粒子が、まるで輝く雪のように、アテナとR7に降り注いだ。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

『ありがとうございました。すっごく、いい経験になりました!』

「そう畏まらないでほしいな。私たちにも、有意義な時間だったよ」

 CDS(クロスダイブ・システム)のロゴマークだけが表示されたバトルシステムを挟んで、マサキとナノカはお互いに健闘を讃え合った。目が合うと、どちらからともなく笑みがこぼれる。

「あー、畜生ッ! ヴァーチェやセラヴィーならともかく、エクシアベースの機体に殴り合いで負けるとはなァ。オレもまだまだ修行が足りねェぜ……」

『あはは……アテナのベースはエクシアじゃ……いや、ともかく。ナツキさんもすっごく強かったですよ。私、一対一であそこまで外装甲や武装をぶっ壊されちゃったこと、たぶんないかもです』

「お世辞はいらねェよ、全国優勝ちゃん。次会うときはボッコボコにしてやんぜ!」

『儂も精進が必要じゃな……ナノカ、ナツキ。次こそは儂が薙ぎ払ってやるから、覚悟しておくのじゃぞ! はっはっはっ!』

 犬歯をむき出しにして笑うナツキ、腕組みをして盛大に破顔するヤヤ。

 激戦を終えた四人のファイターは、共に戦ったもの特有の感覚でつながり合っていた。

「おい、ナノカちゃん。ナツキちゃん。……接続、切れるぜ」

 店長の声と同時、マサキとヤヤの立体映像(ホログラム)にノイズが混じり始めた。バトルを終えたCDSが、閉じようとしている。

 ナノカはにっこりとほほ笑んで、軽く手を振った。

「また会おう、マサキ。ヤヤ。……いや。会うことになる気がするよ」

『ふふ、ニュータイプみたいなことを言うんですね。……でも、私も同感です』

 マサキは笑顔で頷いた。

 ナツキもそれに倣って笑いながら、二人をびしっと指さした。

「勝ち逃げは許さねェぜ、全国優勝! あと、ナントカ家のお嬢、次はてめェとも戦うぞ!」

『うむ、望むところじゃ。じゃがまず儂は、原作アニメ(ガンダム)を見る必要があるな……ユーのやつが、DVD全巻とか持っとらんかのう……』

 ヤヤは満面の笑みで返した後、あごに手を当てて思案顔をする。

 それぞれが、それぞれの気持ちを胸に――そして、

『Line Disconnection.』

 システム音声と共に、二人の姿は消え去った。

 薄暗がりの広い部屋に、バトルシステムの発した熱だけが残る。店長は「熱いバトルだったぜ!」と興奮気味に言い、バトルシステムをいじり始めた。いまだ、CDSは実証試験段階。おそらくこの後すぐにでも、今のバトルのデータをヤジマ本社に送るのだろう。

 ナノカとナツキはどちらからともなく部屋を後にして、階下のカフェスペースへと降りて行った。バトルが始まってから、まだ三十分が経ったかどうかという程度の時間のはずだが……二人は何も言わずにソファ席を選んで、二人横並びでぐったりと座り込んだ。

「……強かったね」

「あァ、強かった……さすがは全国優勝だぜ。もしもよォ、全国優勝ちゃんのパートナーがあのお嬢じゃあなくて、もっと強いヤツだったら……正直、あっさりヤられてたかもなァ?」

「ふふ……あっさりかどうかは、やってみなきゃ、だね。でも……」

 ナノカはそこで言葉を呑み込んだ。

(ヤヤの操縦は、ガンダムを、ガンプラを知って日が浅い人間のやるレベルじゃあなかった……もし、ヤヤが0078(ファーストガンダム)だけでもアニメを全話見ていたら。あと一ヶ月でも早く、ガンプラを始めていたら……夜天嬢雅、恐るべしだね。成長速度が異常すぎるよ)

 ナツキは怪訝な顔をして「なんだよ?」と先を促すが、ナノカは軽く首を振って答えなかった。

「いや。何でもないよ。次こそは勝とう。そのときは頼むよ、ビス子」

「はんッ、言うまでもねェ。てめェとの付き合いもそろそろ長ェからなァ……」

 ナツキはにやりと口を端を釣り上げて笑い、拳を軽く突き出した。ナノカも軽く微笑み、自分の拳を突き合わせた。

「次も頼むぜ、相棒」

「ああ、わかってるさ……相棒」

 触れ合った拳と拳から、こつんと軽い音がした。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「んっふっふ~。えらい仲がよろしいな~、おふたりさんっ♪」

「お、お姉さんっ!? いつからそこに!?」

 楽しくてたまらないといったエリサの声に、ナノカは跳び起きた。慌てて周囲を確認、ここはGP-DIVEのカフェスペース、腕時計の時間は最後の記憶から十五分ほど進んでいる。いつの間にか、寝てしまっていたらしい。ナツキはまだむにゃむにゃと寝ぼけた様子で、よだれを垂らしながらナノカの膝枕に頭を乗せていた。

「――って膝枕ぁっ!?」

「おぉ~、珍しいやん。ナノカちゃんが大声でツッコミやなんて」

「うぅん~……ンだよ赤姫ェ……いつも寝言がうるせェんだよてめェは……」

「こ、こらビス子おおっ! なんだよその寝言は、あらぬ誤解がっ、誤解がああっ!」

「んっふっふ~。なんやナノカちゃん、そない慌てんでもええのに~♪」

「お、お姉さんっ! これは違います、違いますから! 徹夜でガンプラだったり、二人でカラオケ行ったり、その時にっ……と、とにかく違うんですっ! お、おいビス子、起・き・る・ん・だっ!」

「ん~……あと五時間……」

「ビス子おおおおっ!」

「久しぶりに店番しとったら、ええもん見れたわ~。エイトちゃんに報告やな~♪」

「ちょ、お姉さんそれはっ……それは勘弁していただきたいっ!」

「え~っとぉ、エイトちゃんのケータイ番号は~、っと」

「お、お姉さんっ! 後生だから、後生だからそれはああああっ!」

「……っ、うるせェぞ赤姫ェェ! 寝れねえだろうがァァッ!」

「主にキミのせいだろうがあああああああっ!」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「あー。しつちょー。ドウジマしつちょー。データ。とどきましたよー」

 抑揚を欠いた幼い声が、薄暗い部屋に響く。狭い室内には電子機器の類が雑然と積み上げられており、足の踏み場もろくにない。

 天下の大企業ヤジマ商事の、ネット社会たる現代の花形・電子事業部第一課……その別室。旧PPSE社から接収した研究施設の一部屋しか与えられていないことからも、社内での力の弱さが見て取れる。

「あっそう、ご苦労さん、ハガネザキちゃん。まずは解析、んで、僕んトコに送っといて」

「はーい。はいはーい」

 ぶかぶかの白衣姿が、ぴょこんと跳ねた紫色のツインテールをしっぽのように揺らしながら、機材の海をごそごそ泳ぐ。その直後、マシンガンのようなキーを叩く(タイピング)音が響き、周囲の電子機器たちが凄まじい勢いで膨大な計算を始めた。山のように積み上げられた電子機器群の一つ――旧式の、あまりにも旧式すぎる分厚いブラウン管モニターがブゥンと唸って起動し、その画面にロゴマークが映し出される。

 ロゴマークは、大きくアルファベットが三文字と小さな英語表記、それが二列ずつ。

その一列目は、CDS(クロスダイブ・システム)。そして二列目は――GOD(ゴールド・オゥ・ダイダロス)と、読めた。

「さぁて……レディース大会全国優勝の少女と夜天嬢雅の娘、そしてGBO(ガンプラバトルオンライン)百位以内(エースランカー)が二人、か。初戦は上々、良い滑り出し、ってトコロかね」

 モニターの光に照らされた男の顔は中々の美丈夫だったが、もう三日は剃っていないであろう無精髭と、いつ洗濯したかわからない薄汚れた白衣が、その印象を台無しにしていた。

 男は小さな丸眼鏡の位置をくいっと直し、猛烈な速さでキーを叩き始めた。

「たっぷり喰えよ、GOD。次のエサも、すぐに用意してやるからな……」

 まるで、愛しい我が子でも愛でる様な……男の声色は、そんな狂気に彩られていた。

 




……と、いうことで。交流戦構想(クロスダイブ・プロジェクト)第一弾、「ガンダムビルドファイターズ アテナ」カミツさんとのコラボでしたー!

いやー、やっぱりアテナに勝てる図が浮かびませんでした。
重くて硬くて速い。エイトのF108とはまた違った突撃力を持ったガンプラですね。こんなの相手にどーやったら勝てるんですか。教えてください!(笑)>カミツさん

それはそうと、また大風呂敷を広げつつあります。
新キャラのドウジマ室長とハガネザキちゃんは、ドライヴレッド本編に登場の予定は、いまのところありません。コラボ企画専用のキャラです。今後もコラボは続けたいと思いますが、なにせコラボは相手がいないとできません。
と、いうことで。コラボしていただけるかたを募集したいと思います。
……えっと、活動報告とかでやらないとアウトなんでしたっけ……?
ということで、近日中に活動報告の方に要綱を出そうと思いますので、ご協力いただける方はどうかよろしくお願いします。

感想・批評・コラボ応募、お待ちしております。
今後もどうぞよろしくお願いします。

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