その理由は、このep.07を読んでいただければ、と思います。
今後とも『ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド』をよろしくお願いします!
【第二十九回GBO定期大会 〝レギオンズ・ネスト〟 交戦規定】
○チーム規定、勝敗条件について
・三機一組のチーム戦。HGサイズのMSのみ参加可能。MAでの参加は認めない。
・複数のチームが一つのフィールドに入り乱れるバトルロイヤル形式。
・チーム間での同盟、共闘などは一切禁じない。ただし、作戦中にチームそのものの解散・再結成などはできない。
・耐久力や損傷・欠損・撃破判定などは、通常のGBO交戦規定に則る。
・フィールド上に最後まで生き残っていたチームの優勝となる。
・全滅、もしくは生き残っている全メンバーが降伏を選択した場合、ゲームオーバーとなる。
○作戦時間、フィールドについて
・フィールドは完全にランダム。
・水陸両用・地上専用等の特殊機体には一切配慮しない。エントリー時点で注意すること。
・作戦時間は一時間。作戦時間終了一〇分前から、次第にフィールドが縮小されていく。
・作戦時間終了時点で複数のチームが生き残っていれば、チーム代表一機による〝ワンショット・キル〟で勝敗を決する。
○HLVについて
・各チームは、HLVで地上フィールドに降下、もしくは宙域フィールドに突入。
・降下・突入地点はランダム。ただし、チーム間は一定の距離(非公開)が開けられている。
・作戦開始後HLVは拠点となり、応急修理とプラフスキー粒子、武器弾薬の補給が可能。使用制限はなし。
・HLVは破壊可能オブジェクトとして扱う。
○賞品等について
・各グループ優勝チームには、次の賞品が与えられる。
1、上位大会への出場権(詳細は後日発表)
2、GBOゲーム内マネー三〇〇万
3、レベルアップミッション5への挑戦権(レベル4以下のプレイヤー限定)
――そのような説明が、目の前に浮かんだ空中ディスプレイの上を流れていった。附則として、大会の様子は各種動画サイト等でリアルタイム配信されることやネット投票でいくつかの特別賞が決定されることなどが書かれていたが、そのあたりはエントリーした時に同意のボタンをクリックしている。
エイトはざっと目を通しただけで説明画面を閉じた。すると、画面は細かく振動する荒れた通信画面へと切り替わった。左右で二つに割れた画面に映し出されたのは、
「……ルール確認は済んだかい、エイト君」
「はい。万全です」
「ケッ。要は、敵は全部ブチ撒けてやれってェ話だろうがァ」
「はは……乱暴ですよ、ビス子さん」
パイロットスーツ姿の、ナノカとビス子。二人ともヘルメットのシールドを下していて表情は読みにくいが、声色はやや興奮しているように聞こえる。
いよいよ、始まるのだ。レギオンズ・ネストが。
今、エイトたちはフィールドに降下するHLVの中に、MSごとすし詰めにされているという設定だ。轟々と唸る摩擦音と振動から、このHLVは大気圏への突入をしていることがわかる。となると、フィールドは地上か――全天周モニターに映るナノカのジム・イェーガー
「それにしても、ビス子。よく間に合ったね、ガンプラの改造が。ちょっと見直してしまったよ」
「昨日の今日で、機体の印象が大分変わりましたね、ビス子さん」
「ヘッ、まァな。改造版ドムゲルグ、名付けて〝ド
ナノカの言う通り、ビス子のドムゲルグは昨日見た時点からいくらかの改造が施されていた。武装などに変更点はいくつかあるが、最も目を引くのはその機体色――ザクやゲルググのボディを思わせる濃いグリーンだった部分が、深みのあるレッドへと塗り直されていたのだ。
「まァ、チームだしよォ。赤姫とエイトが赤いMSで、オレサマだけジオングリーンってェのもなァ。それによ……」
荒れた通信画面の向こうで、ビス子の口元が、にやりと吊り上げられた。
「オレサマたちのチーム名にゃァ、どう考えても〝赤〟が似合う。そうだろォ?」
「……はい、ビス子さん」
「ふ……そうだね。たまには良いことを言うじゃないか、ビス子も」
「だーかーらァ、ビス子じゃねェって、てめェら何度も……!」
ビィーッ! ビィーッ! 遮るように鳴り響いたアラートが、そして急激に少なくなったHLVの振動が、エイトたちの意識を一気に実戦へと引き戻した。通信画面に割り込むように、作戦開始直前まで秘密にされていたフィールドの情報がなだれ込んでくる。
「……広い! 森、川……じゃない、水路。対空砲が多数、基地施設……!」
「……一年戦争時の連邦軍本部、ジャブロー。降下作戦には中々に粋な場所じゃあないか」
「一応言っとくかァ? 『お、降りられるのかよ!?』ってなァ!」
原作ではHLVではなくガウ攻撃空母からの降下だったが――HLVの外部カメラの映像がウィンドウに表示され、対空火器でハリネズミのように武装されたジャブローの密林が広がった。ほぼ同じ高度には、複数のHLVが降下していっているのが見て取れる。エイトは素早く視線を走らせ、HLVの数を確認する。
「……敵は、十一チームか」
エイトの視線が触れるたび、HLVにチーム名のタグが表示された。タグの横にある明るいピンク色のマークは、戦力サイン。そのチームの健在なMSの数だ。今は当然、どのチームも三つの戦力サインが点灯している。エイトは十一のチーム名をざっと確認した。
チーム・ペイルライダーズ
チーム・サーティーンサーペントF
チーム・CEMSV
チーム・ドッグテイマーズ
チーム・GPIFビルダーズ
チーム・全日本ガトリングラヴァーズ
チーム・対艦巨砲ヤマト
チーム・GNバッテリーズ
チーム・サーティーンサーペントB
チーム・武士道
チーム・スノウホワイト
遠くに降下するHLVもあれば、比較的近距離に降下するコースをとっているものもある。実際に交戦するのはこの中のいくつかのチームになるのだろうが――その時、エイトの体にさっきまでとは違う方向に加速度がかかった。HLVが最終段階の減速を始めたのだ。ギシギシとHLVの各部が軋みをあげ、一度は静まった振動が再び激しくなる。ジャブローの対空火器の射程圏内に入ったのか、HLVの装甲板の向こう側で爆音が響き始めた。まさか実戦ではあるまいし、作戦開始前に撃墜などはないだろうが、その迫力と緊迫感はかなりのものだ。
「ナノさん。ビス子さん。HLVが、着陸態勢に入ります!」
エイトの声に、小さな画面の向こうでナノカとビス子が頷いた。
「うん、そうだね。降下後、作戦は打ち合わせ通りに。各機の健闘を期待させてもらうよ」
「はっはァ、やってやろうじゃあねェか。後ろは頼むぜ赤姫。いっしょに突っ込むぜエイト!」
「はい!」
ほぼ同時、炸裂ボルトがはじけ飛び、HLV外部装甲板が
「ドムゲルグ・ドレッドノート! ビス丸! ブチ撒けるぜェ!」
「ジム・イェーガーR7。ナノ。始めようか」
「ガンダムF108、アカツキ・エイト――」
ぐっと息を溜め、通信画面のナノカとビス子に、アイコンタクトを送る。
昨日の話し合いで、チーム名が決まった。その時同時に、チームリーダーを決めようという話になった。エイトは当然のように、「ビス子さんが手を挙げてくるか、そうでなければ順当にナノさんか……」と考えていたが、予想外に。その二人の一致した意見で、チームのリーダーはエイトに決まった。
GBOのレベルも低い。ランキングも低い。ガンプラ制作の腕なら負けないつもりだが、ガンプラバトルでは二人には敵わないだろう。
二人がどういうつもりで自分をリーダーにしたのか、エイトにはまだわかっていない。
しかし、それでも。エイトはリーダーに指名された以上、その責務をしっかりと果たそうと心に決めていた。すなわち、今は――出撃に際し、チーム名を声高らかに叫ぶことを。
黙って頷き返してくれた二人に背中を押されるように、エイトは叫んだ。
「――チーム・ドライヴレッド! 戦場を翔け抜ける!」
HLVから飛び立った三機の
◆◆◆◇◆◆◆
レギオンズ・ネスト開始から三分。
チーム・ドライヴレッドの識別コードを発信するHLVを発見したのは、チーム・全日本ガトリングラヴァーズだった。
「隊長。HLVを発見した。MSは見えない」
半径百メートルほどのクレーター上に密林が抉られた真ん中に、HLVが無警戒に鎮座している。見える範囲に、そして熱源・音源などのセンサーの反応を見る限り、付近に敵機はいない。
「ドライヴレッド……赤姫と爆弾魔と、例のルーキーのチームか」
HLV発見の報告を受けた隊長は、試合前にGBO掲示板で見た情報を思い返した。レベル7最強とも言われる
「隊長、聞いたことがあるわ。何回か前の定期大会。赤姫は、単独で多数を相手取ったらしいわよ。……トラップを使って」
「ふむ……トラップか」
「どうする、隊長」
「隊長の決定に従うわ」
左右の通信画面から急かされ、全日本ガトリングラヴァーズの隊長は数秒だけ黙り込んだ。そして、
「……我々には、迷ったときに取るべきセオリーがある。つまり!」
全日本ガトリングラヴァーズの三人は、全く同時にバーニアを吹かし、密林からクレーターへと飛び出した。
「まずは撃って!」
「それから撃って!」
「撃って、撃って……」
HLVの南側から飛び出したのは、ダブルゼータ・ヘビーガトリングス。ZZガンダムをベースに両手にダブルガトリングガンを持ち、胸にはコアファイターの分離合体機能を潰してまで搭載したガトリングガン。バックパックは冗談のように巨大な筒形弾倉になっており、頭部のハイメガキャノンまでガトリング砲と化している。
南東から出てきたのは、ガトリングガンキャノン。両手で腰だめに抱え持つのは、それだけで小型のMSぐらいありそうな八銃身重ガトリング砲。ご丁寧に、ガンキャノンの特長である両肩のキャノン砲もガトリング砲に換装され、バックパックを丸ごと換装した円形弾倉から給弾ベルトが伸びている。頭部バルカンもよく見れば、小型のガトリングガンになっている。
南西から現れたのは、もはやモビルスーツなのかも怪しいシルエットの、ガンダムティーガー・レオパルドン。一応はガンダムレオパルドがベースなのだろうが、両腕はインナーアームガトリングどころか、三銃身ガトリング砲を三つ束ねて肩口に直接くっつけているような有様だった。脚部はガンタンクのような無限軌道が装備され、なんとその股間の位置にも、四銃身ガトリングガンの黒々とした方針が屹立しているではないか。
「「「撃ちまくれェェェェ!!」」」
ドガララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!
三機のモビルスーツから計一九門のガトリング砲という、前代未聞の馬鹿げた火力が一斉に解き放たれた。雷のような轟音が途切れることなく鳴り続け、次々と吐き出される空薬莢が滝のように降り注ぐ。発砲と弾着の煙がもうもうと立ち込め、一瞬のうちにHLVを覆い隠した。
「ひゃあああああっはああああああああああああ! 気持ちいいいいいいいいいいいいいい!」
「あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは! ひーっひっひ、あっはっはっはっはー!」
「撃て撃て撃て撃てえええ! 潰せ壊せ貫けえええ! ガンホー! ガァァーンホォォーー!」
あまりほめられたものではないような表情で撃ちに撃ちまくり、結局誰も止めることがないまま、全日本ガトリングラヴァーズは弾倉が空になるまで撃ち尽くした。
熱帯雨林の湿った風に噴煙が晴れれば、そこには、ハチの巣とすらいえない鉄クズと化したHLVの残骸だけがある。
「あー……あ、ぁあ……ヤベぇ、この手のしびれる感覚が……ゾクゾクくるぜ……」
「うふ、うふふ……カ・イ・カ・ン……♪ あ、よだれが」
「おぉう……このためにガンプラバトルやってる……」
我を忘れて恍惚の表情を浮かべる三人組。それぞれのモビルスーツも当然、呆けたようにただ立ち尽くすだけで――そこに、エメラルドグリーンのビーム刃が閃いた。
◆◆◆◇◆◆◆
「……お。エイトのやつ、ヤりやがったなァ」
地上での爆発を感じ、ビス子は画面上に戦況確認ウィンドウを呼び出した。
ゲーム開始時に最も近くにいた「全日本ガトリングラヴァーズ」のチーム名表示が、暗く光を失っている。見ていないのでわからないが、きっと三機とも、エイトが一刀両断したのだろう。
「しかしよく思いついたなァ、エイトのやつ。作戦の基本は打ち合わせ通りとはいえ……ジャブローの地下空洞を利用するとはよォ」
地上のHLVはおとりと割り切って、それを破壊しようとやってきた敵チームを奇襲する。ぎりぎりまで地下空洞を移動して敵の至近で地上に飛び出せば、エイトのF108の素早さにはそう簡単には対応できないだろう。HLV破壊のために火力を使い切っている相手ならば、なおさらだ。
HLVをおとりにすることまでは過去のレギオンズ・ネストの経験からナノカとビス子で立てた作戦だったが、地下大空洞を移動に使うというのは、フィールドがジャブローとわかってから、エイトが提案したことだった。
「ふふ……ジャブロー地下の存在は、原作を見ていれば誰だって知っている。けれど、それを即座に作戦に組み込むとはね。さすがはエイト君、私が見込んだだけのことはある」
静かにほほ笑みながらもナノカの指は、タッチパネル上をせわしなく動き続けていた。見れば、ジム・イェーガーR7は湿った泥と岩の混じった地下大空洞の地面に片膝をつき、狙撃用のバイザーを下している。超長距離狙撃を可能とする優秀なセンサーで、周囲の状況を探っているのだ。
「でも……」
センサーに感あり。
チーム・GPIF。数は三、接近してくる。
この、三方から包囲するような動きは――敵も、こちらに気づいている。
「同じようなことを考えるチームは、いたみたいだね」
ナノカはR7のバイザーを跳ね上げ、Gアンバーを構えた。巨大とはいえ地下の空間、閉所で狙撃用スコープは必要ない。撃ち合いの距離なら、通常照準で十分だ。
「エイト君が戻るまで、三対二になる。
「はっはァ! 誰に言ってんだよ、赤姫ェ。エイトが戻ってくる頃にゃァ、敵はゼロになってるぜェ?」
好戦的な笑みを浮かべ、ビス子はドムゲルグの核熱ホバーの出力を上げた。野性的な前傾姿勢、いつでも飛び出せる構えだ。
「オレサマが全部片づけてやるからよォ。てめェは奥で引っ込んでな。〝
「ふふ……ご自慢のバズーカで天井を崩落させないでくれよ、〝
「はっはァ、上等だァ! ドムゲルグ、行くぜェ! 敵をブチ撒ける!」
「援護をするよ」
R7がシールド裏からスモークグレネードを放り投げるのと同時、ドムゲルグはホバー走行で滑るように突撃していった。
グレネードが炸裂すると暗銀色の煙がもわっと空間に立ち込め、突っ込むドムゲルグの姿を覆い隠す。当然、ビス子自身の視界もふさがれるが、ナノカから送られてきた敵機の進路予想を信じて加速する。
(予想進路……3、2、1ッ!)
煙幕を突き破り、遮二無二、ドムゲルグは跳び蹴りを繰り出した!
「ここだァッ!」
『なにぃッ!?』
ガオォンッ! 確かな手ごたえを感じ、ビス子の獰猛な笑みがより一層つり上がる。お互いに視界がきかないだろうとタカをくくっていた中からの奇襲。相手の動揺が面白いようにわかる。
獲物は、GP-02の改造機――ガンダム系のゲームなどでよく見る、GP-02の背部にMLRSを装備したタイプだ。それとは別に、手持ちでビームバズーカも持っている。高火力型、チーム内では砲撃担当か。
「オレサマと似たような、かもだがなァ!」
ビス子は着地から間をおかず、続けてショルダータックル。重量級の機体同士が激突する、重厚な金属音が鳴り響く。さらに追い打ち、体勢を立て直す間も与えずに、腰の入った直蹴りを叩き込む。GP-02は鍾乳石を砕きながら吹っ飛び、地底湖にざっぱーんと叩き落された。
「撃てなきゃァ、火力は持ち腐れよォッ!」
ドムゲルグは背負ったミサイルランチャーのハッチを全開、計十二発の一斉発射――ミサイルは次々と地底湖に飛び込み、水中で爆発の花を咲かせる。一瞬遅れて爆音と共に巨大な水柱が次々と上がり、砕けたプラスチックの欠片が舞い上がる。
画面端に表示した、チーム・GPIFの戦力サインが一つ消えた。
『畜生、この爆弾魔め!』
『バカスカ爆破しやがって!』
「あァん。なんか誉めたかァ?」
チームメイトたちが口々にわめきながら、ドムゲルグへと向かってくる。
一機は、GP-00ブロッサム。ガンダム開発計画、幻のゼロ番機。ガンダム作品にはよくある後付設定の機体のため映像作品に出番はなく、HG規格での商品化もされていない。そんな機体を作ってきていることから、ビルダーとしての力量は高いのだろう。
もう一機は、GP-04ガーベラ。シーマ・ガラハウの乗機として有名なガーベラ・テトラが、もし当初の計画通りガンダムとして建造されていたら、というIFの機体だ。これもHG規格でわざわざ作ってくる工作技術の高さがうかがえる。
だが、
「バトルのほうは、まだまだのようだね」
ドゥッ、ドウドゥッ! 太いビームの三点射。モードを切り替え、速射重視に調整したGアンバーの射撃が、チーム・GPIFに次々と襲い掛かった。ブロッサムは下へ、ガーベラは加速して上へと回避する。しかし、ガーベラが回避したその先は、尖った鍾乳石の垂れ下がる洞窟の天井――せっかくの大型バーニアの加速力も、こんな狭い場所では。
『か、回避運動が、できな……』
「それが、キミたちの敗因さ」
ドウッ……ナノカの声は届いたのか届かなかったのか、Gアンバーの一撃が、ガーベラのコクピットを貫いた。
「そのチーム構成でこの場所に来た時点で、キミたちは戦術的に負けているんだよ」
「ましてやァ! 相手はこのオレサマたちだぜェ!」
『くっ、さすがに上位ランカーは違う……!』
ジャブロー基地施設のビル群の間を縫うように、ブロッサムはドムゲルグから逃げ回っていた。林立する基地施設のビルが遮蔽物となってジャイアント・バズの射線はうまく通らないが、それでもかまわずビス子は撃ち続けた。
次々と弾ける高初速榴弾の爆発が、基地施設を吹き飛ばしていく。
「おらおらァ、踊れ踊れェ! ついでにミサイルもくれてやろうかァ!」
『おい、爆弾魔! ちょっとは節約ってのをしたらどうなんだ!』
「はっはァ! これからくたばるてめェが心配することじゃあねェよ!」
ビス子は悪役面全開で高笑いをしながらFCSを操作、左腕のスパイクシールド裏に懸架したシュツルムファウストを連続発射。吹き荒れる爆風と巻き上がる瓦礫に押し出されるようにして、ブロッサムはバックステップを踏まされた。
そして踏み出してしまった場所は、基地区画外。当然、遮蔽物などは何もなく――
「良い誘導だったよ、ビス子」
『な、しまっ……』
――ドウッ。
◆◆◆◇◆◆◆
「……エイト君が、遅すぎる」
さきほど撃破したチーム・GPIFのHLVからプラフスキー粒子を補給しながら、ナノカがつぶやいた。そのすぐ隣では、ビス子のドムゲルグが、補給作業を行っている。
レギオンズ・ネストはGBO定期大会でよく採用される交戦規定の一つで、古参のGBOプレイヤーの間では、いくつかの裏技的なテクニックが確立されている。その一つが、これ――他チームのHLVで、補給を行うというものだ。ルールを確認すればわかる通り、HLVの補給機能については、〝
で、あるならば。最初から自分たちのHLVはおとりとして使い捨てるなり、爆弾を仕掛けるなりすればいいというのがGBO上級プレイヤーの常識となっている。ちなみにナノカは、第二十四回の定期大会で爆弾の方の作戦を実行している。このGPIFのHLVにも爆弾がセットされていたが、先ほどナノカが解除したところだった――それはそれとして。
「合流予定時刻は過ぎているはずなのだけれど……」
「オレサマたちのHLVに喰いついたチームは、サインが消えてらァ。そいつらに負けたわけじゃあねェだろうがよォ」
「うん、エイト君のサインは健在だよ。けれど……」
ナノカは戦況確認ウィンドウを閉じ、通信画面を呼び出した。しかし、ミノフスキー粒子の影響が濃いためか、画面は砂の嵐を映すばかりだ。
「だめか。キミの機体ではどうだい、ビス子」
「狙撃用で指揮官用のてめェの機体で通らねェもんが通るかよ。最低でも地上には出ねェと、通信は繋がりそうに……お?」
何の偶然か、音声だけだが通信が繋がった。爆発、ビームの射撃音――戦闘の喧騒。ナノカとビス子に、一瞬のうちに緊張が走る。
「エイト、どうしたァ!?」
「エイト君、状況を!」
何事かを叫んでいるようだが、聞き取れない。ナノカは補給を中断し、R7を立ち上がらせる。ビス子も乱暴にバズーカの予備弾倉をひっつかんで、ドムゲルグの核熱ホバーを起動した。
「エイト!」
「エイト君!」
二人の叫びに応えるように、ほんの一瞬だけ、音声がクリアになった。
『――囲まれました! 援護を、お願いし――』
二機のガンプラが、弾かれたように飛び出した。
「赤姫ェッ! 遅れんなよォッ!」
「キミこそ頼むよ、ビス子……!」
全身のバーニアというバーニアから凄まじい勢いで炎を吹き出し、ドムゲルグとR7は全力全開で加速した。地下大空洞を一瞬で駆け抜け、地上へ通じる縦穴へ――
(……エイト君。無事でいてくれよ……!)
降りる時は一瞬だった縦穴が、やけに長く感じる。ナノカはエイトのの無事を祈りながら、コントロールスフィアをぎゅっと強く握りしめた。
第八話予告
《次回予告》
「お姉ちゃーん、僕のパンツどこー?」
「あァんッ!? 八才にもなってオレサマに頼るなァ! 部屋の棚の一番下ァ!」
「ねーちゃん、こんどの授業参観がねー、パパがこられないってー」
「あーもう! わかったわかったァ、姉ちゃん行くから日付冷蔵庫に貼っとけ!」
「あねきー、オレ部活で遅くなるから晩メシ別でよろしくー!」
「ッたく! てめェ、作る方の苦労も考えろォ! 皿は自分で片づけとけよ!」
ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第八話『レギオンズ・ネストⅢ』
「なあ、ナツキ。お父さんのお弁当はどこだ?」
「大人なんだからしっかりしろやコラァ! はいこれ、いってらっしゃい!」
◆◆◆◇◆◆◆
ドムゲルグ・ドレッドノートのガンプラが八割方組み上がりました。
レギオンズ・ネスト編のあとにガンプラ紹介をする予定なので、そこで写真を載せたいと考え中です。
本編について、またはガンプラについて、感想・批評お待ちしております。
よろしくお願いします。