水上体育祭が終わって日が経った2-Fでは新しくクラスメイトになった小雪が元気をなくし机に突っ伏していた。
「おはよー・・・・・・・て、小雪ちゃんまた元気ないね。」
「あー、大和くんだー。」
「大丈夫?」
「ぜーんぜーん。」
「そっか。」
大和は自分の席に座る。
(慣れ親しんだ仲間とは離れると元気がなくなる体質か。どうやって解決するものか・・・・)
大和がそう考えていると準が教室に入って来た。
「よう。」
「あーっ!準!準だー!」
小雪は喜ぶ。
「今日は特使としてここに来た。話をさせてくれ。」
「それはお役目お疲れ様です。」
「あー、これはどうもF組委員長!これつまらないものですけどもー!」
「話しろよ。」
委員長を見て準は菓子折りを出す。その状況に大和がツッコミを入れる。
「んっ!んー!」
準は咳払いをして気を引き締める。
「ユキを返してもらいたい。条件は可能なかぎり飲む。」
「それはS組相違の結果か?」
「ああ。」
大和の問いに準は答えた。
「そいつは聞けねぇ相談だな。見苦しいぜ。」
そう言ったのは人差し指を立てているガクトであった。
「見ろ!このクマちゃん推薦の高級マシュマロを!この味を知ったらもうもどれねぇぜ!」
「いや、ないから。ムサイお前がいる時点でな。てかお前が言っても説得力無い。」
「グハァ!」
ガクトは大和に言われてショックを受ける。
「まあこちらでも皆と会談をしておくことをする。
「じゃあよろしく頼む。」
そう言って準はF組を出て行った。
朝のSHR,児島先生が教卓に立って小雪をどうするか考えようと皆に語り掛けた。
「さて、どうするかは皆で話し合え。」
児島先生がそう言うと大半のギャラリーが反発する。
「返す必用ねーし。」
「なぁに、もうすぐ馴染むさ。」
「でもちょっとかわいそうよ。」
「返してもいいけどさ、S組のヤツら困り顔を拝みてぇー!」
そんな中クリスが手を挙げ自分の意見を発表する。
「意見だが!自分は榊原小雪は返すべきだと思う。弱ってみていてかわいそうだからな。」
「その意見に俺も賛成。」
大和が手を上げ同意する。
「もし皆がタダでというのがイヤなら条件にすればいい。」
「大和の言う通りだな。向こうの特使も可能なかぎり飲むと言ってたし。」
「だな。ここで一回終了にすることを提案します。」
大和がそう言うと先生は承諾した。
自習時間になり皆は勉強せずにのんびりしていた。そんな中、大和はワン子に着目した。ワン子は重りを付けたダンベルを両手に持ちトレーニングをしていた。
「ワン子はどうしてそんなにトレーニングするんだ?」
「ふっふ~ん。大和、アタシは叶えたい夢があるんだよ。」
「夢?なんだそれは?」
「川神院の師範代になってお姉さまをサポートするの!すごいでしょ!」
「でも家のものだったらなれるんじゃないのか?」
「ところがどっこい!身内びいきなしで実力で選ぶんだよ!ちなみに体育科のルー先生は師範代だが何度も試験に落ちたらしいよ。というわけで!アンタいい脚しているから武道向いてるかもよ?ダンベルどう?」
ワン子が小雪に勧誘をしようとする。
「興味ないー。くでー。」
「目指せ川神院師範代!」
「しはんだい?」
小雪がワン子の言葉に反応する。
「ルー先生みたいなかんじかな?」
「よく知っているじゃないの!そうよ。あのくらい強くなきゃなれないんだから!」
「おー、そっか。・・・・・じゃあ。」
小雪は立ち上がるとワン子に衝撃の一言を投げかける。
「それねー、無理だと思うよ。」
「無理って・・・・・・ど・・・・・どういうこと?」
あまりの言葉に驚くワン子。ワン子は小雪が何故その言葉を言ったのか
「んー・・・・・・・・・・・・世の中にはがんばっても無駄なことがあるのだー。ドンマイ☆」
『っ!!』
その瞬間、衝撃が走った。
「あははっ!うんなるほどって何よそれ―――っ!」
「わー、怒ったー!」
「ちょっと冗談でも聞き捨てなら無いわ!アタシは真剣なのよ。」
「でもホントのことだよー。君は武道はむいていないよ。無責任な応援はイカだー。」
「そっ・・・・・そこまで言うなら試してもらおうじゃないの!!アタシが武道が向いていないかどうか!次の休み時間で決闘よ決闘!」
「いいよー。」
大和は薄々気付いていた。彼女の発言に作為的なものがあることを。そしてそれを言い出したのが誰であるかを。
「じゃあワッペンを・・・」
「その決闘、ちょっと待ってください。」
その声が聞こえた方向を見るとそこには扉にもたれかかっている冬馬の姿があった。
『葵冬馬!?』
「こんにちは、F組の皆さん。」
「葵冬馬、授業はどうした?」
「お隣がおもしろそうだったので抜けてきちゃいました。」
えへんと冬馬は威張った。
「話は聞かせてもらいました。ひとつ提案があるのですがその決闘・・・・もしユキが勝ったら彼女をS組に返していただけませんか?」
『!?』
大和はこの言葉を聞いて確信した。最初から誰かがS組に入ったとしてもこうなるのだと。
冬馬の提案にガクトは反対の意を表した。
「おいおい。一応この決闘はF組の問題だぜ?S組が絡むことじゃねーだろ。」
「わかっています・・・・・ですがF組からの引渡し条件もまだ届いていませんし、どうでしょう。ユキが負けた時は私もF組に編入するという条件は?」
その言葉にまた衝撃が走った。
「私も川神戦役の交換候補だったと聞いていますから悪い話ではないと思います。ユキも私がいれば寂しくないでしょうし、返還の必要もなくなります。」
冬馬のその言葉を聞いて千夏と黒子は喜ぶ。
「えっ!冬馬くんがウチのクラスにっ?」
「エレガント・クワットロがF組に三人とかすげくね!?」
「はぁ?何言ってんの?いらねぇよ男なんて!」
「だよなぁ!」
ヨンパチとガクトが思いっきり嫌がる。
「おだまり男子!もとはと言えばアンタらが勝手に決めたせいで榊原さんがよわってたんでしょうが!この条件は飲みましょ!ねっ!」
千夏の押しにモロと委員長も納得する。
「どっちにしろ返す予定だったんだしいいんじゃない?」
「それはたしかに・・・・」
「今なら不死川さんもお付けします。・この件は英雄から私に一任されていますので問題はありません。」
「不死川!?あの女をF組の奴隷にできるのか!」
「まじかっ?飲む飲む!その条件!」
ヨンパチとガクトは承諾する。
(これって・・・・確実に相手の思惑通りだな。)
『これより第一グラウンドで決闘が行われます。対戦者は2-F川神一子対、同榊原小雪。内容は武器使用可の格闘戦です。』
「しゃー!いくわよー!」
「ワン子ちゃんがんばれー!」
「~♪」
「榊原ちゃんもがんばれー!」
委員長がどちらも応援する。
「大和、どっちが勝つと思う?」
「この勝負、ワン子が負けてしまうな。」
モロの問いに大和は率直に答えた。
「まずさっきの言葉でワン子は冷静でなくなっている。そんな状況に加えワン子の未熟さが加わると・・・・・・・・・勝算は低い。」
「そうなんだ・・・・・・・・・・・でも人の夢を罵倒するのってよくないよね。」
「ああ。俺の知っている人で無謀とも思えることに挑んでいる人がいる。絶望の中にある一筋の光に縋る形でな。」
「その人はどうなったの?」
「今も諦めないで探してる。絶対に折れない意思を持っているんだその人は。」
そんな話をしている中二人も会話をしていた。
「アタシは薙刀を使うけどいいわね?」
「んー。じゃあ僕は~。」
小雪は辺りを見回すと剣道部の女子に目がいき、歩み寄る。
「!」
「これ借りるねー。」
「え、あ、はい。どーぞ。」
小雪は鼻歌を歌いながら小太刀の木刀を振る。
「木刀・・・・小太刀?剣術使いね・・・・おもしろそう!」
「では、ワシが立会いのもと決闘を許可する。」
今回の立会人は学園長自ら。自分の娘の試合だから立ち会うのか?
「いざ尋常に・・・・・はじめいっ!」
「はああああっ!」
「~~~~~♪」
ワン子が勢いよく仕掛けていく。だがいつもと違い動きが単調な上に大振り。脇が空きまくっている。
「アレじゃあダメだ。」
誰もが認めるダメな戦い方であった
「もらったわ!」
「よいしょっ!」
ワン子が小雪の胴に一発叩き込もうとする横に薙刀を振るが小雪は膝を曲げ回避する。
「今の避けたのはやるわね!でも次はないわっ。」
「大和・・・・・」
「ああ。読まれている。完全に遊ばれてるし、攻撃される前に回避行動をとっている。」
「やっ!はぁっ!」
ワン子は幾度も攻撃をするがことごとく避けられている。
「どうしたの?避けているばかりじゃ勝てないわよっ!」
小雪はステップを踏んで後ろに下がる。
「おや・・・」
冬馬が声を出す。
「これはもしかしてマズイのでは?」
「それはワン子のことか?」
「おや、大和くんは気付いてましたか?」
「どうせ誰かがF組に入ったとしてもこうする予定だったんだろ?」
「何のことでしょうか?」
「しらばっくれるのならそう受け止めるけど・・・・・あまり調子に乗るなよ。」
「っ!」
殺気のあるその言葉に冬馬は背筋に恐怖が走った。
「ん~・・・・ほいっ。」
「わっ!」
脇が空いた隙を小雪の左足キックが炸裂する。その威力にワン子は後ろに弾き飛ばされる。
「くっ!やるわね!蹴り技が来るとは思わなかったわ!木刀じゃなくてそっちが本職と見た!」
ワン子の読みは間違っていない。だがもうひとつ気づくべきであることを忘れている。彼女の動きにおいて一度も隙を見せていない。それだけでなく本気でない事も。
「でもこんな浅いのじゃ効かないんだから!」
ワン子は無闇に突っ込み連続して突きを繰り出す。
「あれではすぐに体力を消耗する。感情に流されすぎだ。」
ワン子が突きを繰り出す中、左足、右内股、左足外股に軽い蹴りが入れられている。
「遊ばれている・・・・」
ワン子は薙刀で何度も何度も小雪に当てようとするが右足で全て相殺されている。
「っ・・・うううっ!」
ワン子の顔に汗が流れているのに対して小雪は汗ひとつ掻いていない。
小雪とワン子の武器がぶつかり合い二人の間に距離が生まれる。
「はぁっ、はあっ。な・・・なんなのよアンタ・・・。まともに攻撃打ち込んできなさいよ!バカにしているの!?」
ワン子が向きになってそう言うと小雪はステップを踏みながらこう言った。
「してないよ。でも・・・・・怪我すると痛いしよくないよー。」
『っ!?』
大和の怒りが溢れんばかりの言葉を発した小雪。それは戦う者にとっての侮辱以外の何ものでもない。
「け・・・・怪我・・・・・。」
ワン子は薙刀を強く握る。
「手抜きされるなら大怪我した方がマシよっ!」
怒りにより与えられた力がワン子の肉体を一時的に強化し、先程までと比べ物にならない突きを繰り出した。突きの一撃が小雪の右頬を掠める。
「当たった!たたみかけるわ!」
ワン子は薙刀を上に上げ回す。
「ここで勝負を仕掛けるか・・・・・・だが。」
「ユキ・・・・・・!」
準が心配をする。流石の小雪の警戒し、構える。
「これで決めてやるわ!川神流・・・山崩し!」
上段から薙刀を振り下ろす。小雪は振り下ろされる薙刀を木刀で受け止めようとする
が、しかし!
「と見せかけて・・・」
ワン子は無茶な体制で薙刀を自分の後ろに持ってくると横から攻めようとする。だがしかし、小雪は煙のように消えワン子の頭上を跳んでいた。
「えっ!?」
そして小雪はワン子の首に蹴りを叩き込む。ワン子は転がり、そして倒れた。
『お・・・・大技返し――――っ!』
「そこまで!勝者、榊原!」
学園長の勝利宣言と共に歓声が湧いた。小雪は冬馬と準の方へ跳びつき喜んでいる。倒れているワン子に大和が歩み寄る。
「大丈夫か。」
「う~ん・・・・・・」
「ほら。」
大和は手を差し伸べるとワン子はその手を握り立ち上がる。
「最初から本気で戦えよ。」
「気付いてたの!」
「まあな。」
ワン子と大和が話をしているとワン子は百代に話しかけられている小雪の姿に視線が行った。
「あ、あははは・・・・・負けちゃったね。これから修行に精進しなきゃ!」
「・・・・・・・・」
ワン子は無理な笑顔を作って教室に戻っていく。
「・・・・・・・馬鹿野郎。無理な笑顔つくんじゃねえよ。」
放課後になってワン子が帰ろうとするの大和が止める。
「ワン子、ちょっと着いて来てくれないか?」
「え・・・・・・・・・うん。」
ワン子と大和は人気の無い森にまで来た。
「ここでいいだろう。ワン子、何であの時泣かなかった?」
「っ!な、なんのことか―――」
「とぼけなくていい。お前の夢をバカにされた上に百代姉さんに興味を持ってもらえたアイツに嫉妬してたんだろ?」
「・・・・・・・」
「黙っているってことは肯定として受け止める。」
ワン子は涙を流し流した。大和は近づき片腕をワン子の頭の後ろに回すと抱きしめた。
「っ!(温かい・・・・・)」
「今は泣け。誰もいないんだ。泣いて泣いて泣きまくれ。」
「う・・・・・・・うわああああああああああああああ――――――――――!!!!!!!」
ワン子は大和の胸で泣いた。抑えていた感情を解き放った。
しばらくするとワン子は泣き止んだ。
「ありがと、大和。」
「おう。涙これで拭け。」
大和はそう言うとハンカチを渡す。ワン子はそれを受け取り涙の跡を拭く。
「俺もな、修行の身の時に悔しい思いをした。力が無かったことを恨んだ。でもそれがあるからこそ今の俺があるんだ。負けを知って始めて人は成長できる。」
「負けを知って・・・・・・」
「そうだ。ワン子、稽古つけてやろうか?」
「えっ!?」
ワン子は驚いた。
「血闘術は教えられなくてもワン子の問題点の改良を教えてやることは出来る。修行しながら直していけばもう一度戦った時よりも強くなって勝てると思うぞ。」
「・・・・・・・・うん、わかった。じゃあ大和、今日からお願い。」
「おう。言っとくがスパルタだからな。」
「ドンと来い!」
今回狙って無いのに55555文字でした。