休日の早朝の川神院中庭では鍛錬に励む者の声が聞こえた。
「脇が甘い!」
「ひゃー!」
「拳に砂糖でも塗っているのか!」
「にゃー!」
「腐った水饅頭か!」
「うわ――――――――――!」
否、悲鳴と毒舌だけであった。
「今日はここまでだ。ワン子、動きが単調と武器の特性を理解しろ。確かにお前は姉さんよりも体術面では劣るから武器を使用するのはわかる。だが武器に頼った攻撃が多いぞ。」
「うう・・・・・・・・・ゴメン。」
「まあ昨日よりは成長しているからいいけどな。それとリーチを活かした牽制や突きを使ってみろ。ただし突きは一回使うと再度放つまでのロスタイムが多いからな。」
「つまり闇雲に大技を使うなってこと?」
「そうだ。早くシャワー浴びて来い。」
「うん。ありがとね、大和。」
ワン子はそう言うと川神院の中に入って行った。
「ふう・・・・・結構体力あるなワン子は。まあ、昔の俺はアレだったけど。」
大和はふと昔を顧みる。
『大和君、そこでおしまいかね?』
『ま、まだまだー!』
5時間後
『大丈夫かね、大和君?』
『ま、まだまだぁ・・・・』
さらに5時間後
『そろそろ止めないかね?』
『ま。まだぁまだぁ・・・・』
「死にかけになっても頑張ってたよな、俺。」
もやは精神力だけで最後まで頑張っていた大和であった。
「さて、帰ってちょっとアソコに行くか。」
大和はそう言うと島津寮に戻った行った。
休日の学校、そこには部活動以外の生徒はほとんどいない。
だがその例外の一人として大和が空き教室にいた。
「で、どうなのよそっちは?」
「進展なしです。」
「そうか・・・・・・厄介だね、血の眷属は。」
「ええ。」
空き教室で大和は宇佐美と一緒に教材をホッチキスで止めながら作業していた。
「そういや日本ってあんまし大きい事件無いですよね。」
「まあね。俺らのことを知っているのは精々国のトップの役人や一議員、更にはスポンサーとなっている企業の社長なんかだ。日本で起きる事件で警察とかが対処できるのはその手のプロが対処するけど状況によってはこっちで受けるものがあるんだ。」
「武器の密輸とかもですか?」
「いや、ライブラの基本理念は世界の均衡を保つこと。武器なんかは輸入される前に海に落すよ。まあ、環境を破壊してしまうって面があるけど。」
「まあ・・・・・・・仕方ないというべきでしょうか。でもやっぱちょっとアレですよね。罪悪感抱いちゃいますよね。」
「まあね。っ!」
「っ!」
二人は誰かが近づいてくる気配を感じた。
「失礼します、宇佐美先生。」
「おや、小梅先生。どうかなされましたか?」
「ええ。ちょっと最近決闘が多いため生徒の成績が・・・・・・・・あら、大和君。」
「こんにちわ、小梅先生。」
大和は小梅先生に挨拶をする。
「どうして学校に?」
「ちょっと宇佐美先生に頼まれまして。少しお世話になったのでその礼にと。」
「そうですか。」
小梅先生は納得する。
「直江、これはもういいよ。」
「分かりました。小梅先生、宇佐美先生。ではまた。」
「ばいばい。」
「さようなら。」
大和は空き教室を後にした。
大和は川辺を歩いていると川辺に座っているまゆっちの姿を見た。
「まゆっち?」
「っ!大和さん。」
「おーす、大和っち。」
「(ホント上手い腹話術だな・・・・・・・・・でも気配を感じるが・・・・・いや、野暮か。)どうしたんだこんなところで?」
「えっとですね・・・・・・・・・・・ちょっと悩み事がありまして。」
「悩み事?四天王の悩み事って?」
「っ!知ってたんですか!」
「ちょっと調べた。でもすごいよ、まゆっちは。その年で現役自衛隊の人を倒すなんて。」
「あ、ありがとうございます//////」
「おーい、まゆっちー。顔が赤いぞー。」
「そ、そんなことありません松風!は、話は逸れましたけど聞いて下さい!」
「いいよ。」
まゆっちは自分が友達か出来ずらいこと、そして今友達になりたい子の趣味がわからなくて困っていること。
「なるほど。さっき聞いた単語に“打者”、“選手”、“盗塁”の三つから推測するに野球であると推測する。大和田伊予さんという人は野球ファンで負け続けということは七浜ベイスターズを応援していると思う。」
「す、すごいです大和さん!」
「大和カッケー!」
三人が話していると一人の女性が声を掛けてくる。
「あれ、黛さん?」
「い、いいいいいい、伊予ちゃん!」
まゆっちはテンパってしまう。
「落ち着けー、まゆっちー。」
「そーだぜまゆっち。ここで頼んで友達GETだぜ!」
「は、はい松風!」
そんな光景を見ていた伊予は笑ってしまう。
「・・・・ぷっ。あはははははははは!」
「へ?」
まゆっちは突然のことに間抜けな声を上げてしまう。
「黛さんは面白いね。ストラップと話すなんて。」
「あ、あのこれは付喪神が取り付いていまして・・・・」
(ああ、そういう設定なんだね。)
伊予はそう納得した。
「あ、あの!大和田さんは野球が好きなんですか!」
「えっ!・・・・・・・・・まあね。私こんなんだから友達出来なくて。」
「わ、私もです!私も人との付き合いが苦手なので友達が少ないんです。それで・・・・・・その・・・・・・・よ、良かったら私と友達になってくれませんか!」
「ええ!い、いいの?」
「は、はい!是非ともお願いします!」
「う、うん!よろしくね、黛さん。私の子とは伊予って呼んでいいから。」
「は、はい!よろしくお願いします伊予ちゃん!」
二人のそんな光景に大和は微笑んだ。
「よかったな、まゆっち。」
「はい!ありがとうございます大和さん!」
「いいや、俺はアドバイスをしただけで結果的にはまゆっちが成し遂げたことだよ。」
「あ、あのもしかして彼方は先日の決闘で・・・・・」
「ええ。申し遅れました。わたくし、直江大和と申します。以後お見知りおきを。」
大和はご丁寧に名刺を差し出した。
「ど、どうも(名刺なんて始めてもらった)。」
伊予は大和から名刺を受け取った。
「これからもまゆっちをよろしく頼む。結構不器用だけど中身は優しく、強い子だから。」
「は、はい。」
まゆっちと伊予が友達になって数日が経った日のこと、二人はナイターゲーム観戦の帰りであった。
「よかったですね、今日は勝って。」
「うん!フルカウントからの逆転が一番良かったよ!」
「おーう!俺もテンションAGEAGEだぜ!」
会話が弾み楽しんでいると二人に近づく気配があった。
「っ!伊予ちゃん、私の後ろに!」
「う、うん!」
まゆっちの言葉に従う伊予。そしてまゆっちが向いている方からあちらこちらに損傷がある人形が一人でに歩いていた。
「・・・・・・人形?ロボット?」
伊予は目の前のそれを見て疑問に思うがまゆっちは警戒を解かず、刀を袋から取り出し抜刀する。
「伊予ちゃん、松風とコレをお願いします。」
「う、うん。」
まゆっちは伊予に松風と刀袋を伊予に預ける。
(なんですかアレは?人間じゃないけど、とてつもない邪気を感じます。)
まゆっちは恐怖する。得体の知れない目の前の何かがとてつもなく危険な存在であることが本能的に分かった。
人形は手から刃を出すとまゆっちに向け腕を飛ばす。まゆっちは刀の地肌で反らすと一近距離を詰め、剣を振り上げようとした。
(よし!このままっ!)
まゆっちは振り上げる一歩手前で距離を取った。その瞬間人形の腹部から隠し腕が出てきてまゆっちの服を切った。
(危なかった。もし下がってなかったら私は切られていた。)
まゆっちは距離を取り構える。そして同時にまゆっちは生死を掛けた戦いをコレまで経験したことが無かったため恐怖する。
(命を掛けた戦いなんて下ことがありません。せめて伊予ちゃんだけでも逃がしたいのですが・・・・)
まゆっちが考えていると人形は動いた。人形は腕の間接部分に付けたロープで腕を三つ飛ばし、まゆっちに襲い掛かる。まゆっちは刀で二つ防ぐが、一つがまゆっちの左太股を掠る。
「くっ!」
まゆっちは片膝を地面についてしまう。
「黛さん!」
まゆっちを伊予が心配する。しかし人形は情を掛けること無くまゆっちに襲い掛かってくる。まゆっちは動こうにも左脚の痛みで動けなかった。
(もう・・・ダメ!)
まゆっちが目を瞑った瞬間であった。何かが吹っ飛ばされる音がした。まゆっちはおそるおそる目を開けると人形が吹っ飛んでいた。
「え・・・・」
まゆっちは辺りを見渡すと伊予に預けていたはずも松風が自分のすぐ側にいた。
「ま・・・・・・・・・・松風?」
まゆっちは突然のことに戸惑いを隠せなかった。
吹っ飛ばされた人形は動こうとした瞬間。
「ブレングリード流血闘術7式、十字斧(クロイハーチェ)」
大和がメリケンと一つになった十字斧を人形に振り下ろし粉々にした。
「大丈夫か、まゆっち!」
「大和さん!は、はい!何とか大丈夫です。伊予ちゃんは?」
「わ、私も大丈夫。ありがとね、黛さん。」
大和は二人の無事を確認して安心する。しかし大和は視線を松風の方に向ける。
「松風、率直に聞くがお前はア型か?イ型か?」
「え・・・・」
まゆっちは大和の言葉に驚きを隠せなかった。
「おう、俺はお前たちで言うところのア型だよ。」
人気の無い公園のベンチに松風を置き、弧を描くように大和たちは立っていた。
「松風、お前は付喪神ア型でいいんだな?」
「ああ、俺はお前たちの言うところのア型だ。」
「あの、よろしいでしょうか?」
「なんだまゆっち?」
まゆっちは手を上げて質問をする。
「ア型とかイ型とかってなんなんですか?」
「私にも教えてください。」
「まあこの状況だし教えておくよ。付喪神にはいろいろ種類はあるが大きく分けてア型とイ型の二つに分けられる。
ア型とはただ物に憑依し、その物が朽ちるまでの時間を過ごす付喪神。その物が朽ちれば別の物に憑依し、また朽ちるまで時間を過ごす基本的無害な正の付喪神。
それに反してイ型とは怨念の塊。過去の負の感情が一つになったものだ。過去の恨みが誰コレ構わずにぶつけられる殺傷性が高い負の付喪神だ。」
二人はその言葉を聞いて理解した。
「しかしよく人間と会話してたな。普通は人間に自分の存在を知られると別のに憑依するはずだが。」
「俺はまゆっちと一緒にいたいと思った。ただそれだけなんだよ。それより・・・・・・・さっきの奴はやっぱ・・・・」
「ああ、分霊だ。」
「「分霊?」」
まゆっちと伊予は二人の言っている意味がわからなかった。
「あの、大和さん。分霊ってなんですか?」
伊予が問う。
「分霊、簡単に言うと魂の一部を切り離す事だ。やり方によっては複数で相手をすることになるがその対価として自分の命をその分削ることになる。配分を間違うと一瞬であの世行きだ。だがあれほど大きいなると寿命の半分は使っている。もう半分は・・・・・来たか。」
大和は十字のメリケンを構える。すると影からボロボロの人形が姿を表した。人形は片腕から刃を出すと腕を丸鋸のように回し始める。
「まゆっち、伊予さん。今から起こる事、私がその手の話しに詳しいことは誰にも言わないで欲しい。私がこのことを知っていることは君たちだけの心に留めておいてくれ。」
「わ、分かりました!」
「うん!」
「よかった。それと松風が付喪神というのは風間ファミリー全員に知ってもらおう。その方がいいだろ?」
「は、はい!」
まゆっちの表情が明るくなる。
「ブレングリード流血闘術、推して参る!」
大和は人形に向かい正面から突っ込む。人形は腕を飛ばす。
「ブレングリード流血闘術33式、守護十字(プロテクションクロイ)」
大和の周りに無数の十字架が浮遊し攻撃を防ぐと大和は人形に一発、十字のメリケンを叩き込んだ。
「くっ!まだだ!」
大和は人形にラッシュを仕掛け一点を貫こうとする。
「っ!」
人形の口が開いた瞬間大和は腕をクロスさせ後ろに飛ぶ。その直後人形の口から五寸釘が飛んできた。五寸釘は大和の左腕の籠手に当たる。
(危なかった。コレがなければ俺は戦闘能力が低下していた。)
大和は砂埃をたてながら体勢を立て直すと拳を構える。
「ブレングリード流血闘術19式、十字鎖(クロイチェイン)」
大和は十字架をアンカーとした血の鎖を人形に括り付けるとそのまま腕を振るい人形を地面に何度も叩きつける。そして何度も叩きつけられると最初に大和が攻撃した場所が壊れ、中にある黒いものが見える。
「松風!」
「おうよ!受け取れ大和!」
松風は大和に光を与え、大和の十字のメリケンに装備させる。
「付喪神よ、憎み給え、赦し給え、浄化され給え!汝のその呪縛を我が解き放つ!」
大和は十字鎖を解き人形に接近する。人形は立ち上がり大和に五寸釘を飛ばすが大和は紙一重で回避し、割れた部分に十字のメリケンを当て自身の血を流す。
「ブレングリード流血闘術666式、呪縛解放術(カンストビフィアングズヴェザウバーン)」
人形に取り付いていたイ型の付喪神は大気中に消滅するかのように浄化された。
「終わったの・・・・・・・・・ですか?」
「ああ、終わったよ。すまなかったね迷惑をかけて。」
大和が謝罪するとまゆっちは手を振りながらこう言った。
「い、いえ!私達のほうも助けてもらいましたし何より私達は何の力にも―――」
「なっているよ。まずまゆっちが松風という掛け替えの無い友を持ち、伊予ちゃんという大切な友を守ろうとする心があった事だ。どちらか一方が無ければ成しえなかったのだよ。私はそれを誇りに思っていいと思う。」
その瞬間まゆっちの目には大和が輝いているように見え、顔が赤くなった。
「あれ?黛さん顔が赤くない?」
「き、気のせいです!別に大和さんがどうというわけではなくてかっこよくて見とれたというわけではなくてあのその//////////」
まゆっちの反応を見て伊予は気付いた。
(はっはーん。さては黛さん大和君に惚れたね。まあ確かにこんな状況じゃ惚れないほうがおかしいけど。)
伊予は納得した。ちなみに大和はまゆっちが何を言っているのかよく聞き取れていなかった。
翌日の川神学園。
「おっはよー、黛さん。」
「おはようございます、伊予ちゃん。」
「おーす、伊予っちー。」
「あはは、松風もおはよう。」
川神学園には三人の明るい表情が見れた。
この後島津寮で松風が本物の付喪神とわかって一騒動あったのは別の話。
修正しましたが他にも誤字があったら具体的な表現で報告お願いします。