一応何度も見直して誤字脱字を修正しましたがそれでも遭ったら具体的に教えてください。
翌日の川神学園の二年F組に準が大和に用があって来た。
「おーい、直江はいるかー?」
「ん!井上君。」
大和は席から立つと準に歩み寄る。
「これ、使いの手紙だ。」
「ありがと。」
大和は準から手紙を受け取るとそのまま屋上に向かった。
「さてと・・・」
大和は周りに誰もいないことを確認すると手紙の封を開け、中身を読む。
“直江大和、九鬼英雄である。
貴様の提案を我は受けることにした。
ついては明日の放課後、屋上にて姉上とあずみ、李、ステイシー、ヒュームを同席させる。
正直我はこの決断に迷った。だが、我はもう一度夢に挑みたいと思い、この決断をした。
期待している。
九鬼英雄より“
大和は手紙を読み終えるとそれを懐に収め、電話を掛ける。
「もしもしスティーブンさん、大和です。」
翌日、大和は放課後になるとすぐに屋上に向かった。
大和が屋上の扉を開けるとそこには既に英雄、揚羽、あずみ、ステイシー、李、ヒュームの六人がいた。
「どうやら待たせてしまったようだね。すまない。」
大和は頭を下げた。
「頭を上げよ。我らも先程来たばかりだ。」
「そうですか。失礼ですがそちらのお三方の名を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「うむ、さすがに名乗っておくのは礼儀だな。挨拶を。」
英雄の言葉に三人は一斉に答えた。
「ではまず私から。ヒューム・ヘルシングだ。もし英雄様や揚羽様に危害を加えるようであれば容赦はしない。」
ヒュームは大和をまだ信頼していない。
「ステイシー・コナーだ。あん時は驚いたぜ、ロック!」
「李静初です。あの時はご無礼をしました。」
ステイシーは最初にあったときの事を持ち出し、李は謝罪した。
「では改めまして、わたくし直江大和と申します。以後お見知りおきを。」
大和は三人に丁寧に名刺を渡した。
(無駄の無い動きでありながらも隙が無い・・・・・・・・・普段からやってのけていたという事か。)
この中で実力のあるヒュームは大和を見抜いていた。
「では本題に入る前に・・・・・・・・・・英雄君、本当に覚悟は出来ているのかい?」
「うむ。」
「絶望に再び堕ちるとしても僅かな希望に縋るのかい?」
「うむ!」
「今なら退けるけど・・・・・・・それでもかい?」
「当たり前だ!我の意思に迷いなど無い!」
大和は英雄の覚悟ある目を見ると微笑んだ。
「わかった・・・・・・・・・・・君の意思、確かに聞いた!無粋なことを聞いてすまなかった。」
大和は頭を下げる。
「構わん。我の本心を確かめるためにしたのであろう。」
「ああ、その通りだ。では本題に入ろう。俺の知っている医師は指だけでなく、切断された腕もくっ付けることが出来る医療技術を持っている。その人は普通の日常生活を送っている。医療技術は確かというのは保障できる。」
「なんと!指だけならまだしも腕までとは!」
英雄だけで無く皆が驚いた。通常腕を切断し、縫合してくっ付けるとなると相当の医療技術がいる。また、切断された腕が元の機能に戻るのはそう簡単なものではない。良くてボールを五本指で掴める位だ。
「一応その画像もある。」
大和はそう言うと携帯を取り出し写真を見せる。ザップが袖をまくり、切れた腕を縫合した部分を見せた。
「確かに縫合された跡はあるが・・・・・・・・・・本当に縫合したのか?」
「ああ。ごく小さく目立たない程度に縫合されている。実際、私も受けたからな。」
大和はそう言うと左の袖をまくり、左手の付け根の部分を見せる。そこには確かに縫合された跡があった。
「ちゃんと動くのは英雄君はわかっているね?」
「ああ・・・・・・・・・そこまでの医療技術で何故・・・・・・・」
「英雄君、あの手紙で事情があるといったがそれは向こうで実際に見たほうが早いと言っていい。それとそこで見たことは口外しないでくれ。下手をすれば世界の均衡が崩れる。」
「世界の均衡が!」
英雄は声を張ってしまった。
「・・・・・・・・・わかった。約束しよう。」
「感謝する。そろそろあの人が来る頃だね。」
「あの人?」
大和の言葉に英雄は疑問符を浮かべたがその人物はすぐに来た。
「大和、お待たせ。」
『っ!?』
大和以外の全員が突然現れたチェインに驚いた。チェインの手にはスーツケースがあった。ヒュームは警戒する。
「ヒュームさん、警戒を解いて頂きたい。彼女には戦闘方面の技量は無い。」
「・・・・・・・確かにそうだな。わかった。」
ヒュームは警戒を解いた。
「チェインさん、報告書を先に。」
「ん。確かに受け取ったわ。」
チェインは大和からUSBを受け取った。
「英雄君、カルテを。」
「う、うむ。」
英雄は大和にカルテを差し出した。大和が受け取るとチェインはスーツケースを開け、大和が受け取ったカルテをその中に入れ、ロックを掛けた。
「確かに受け取ったわ。結果はルシアナ先生が貴方に報告するから。」
「わかりました。チェインさん、わざわざご足労いただいてありがとうございます。」
「いいのよ。・・・・・・・・・それに大和に会えるし////////」
「何か言いしましたか?」
「ううん、なんでもない。それじゃあ空港に向かうね。」
「お気をつけて。」
「うん。」
チェインはそう言うと通常の人間では考えられない張力で去って行った。
英雄は大和に問う。
「・・・・・大和、今の女性は確か・・・・・・」
「川神戦役の時にいた人だよ。チェインさんと言ってね、仲間だよ。」
「仲間?一体何の仲間なのだ?」
「・・・・・・・・もし知るとなると君自身の身が危険だ。もし知る時になったら話そう。」
「・・・・・・・わかった。では連絡を待っているぞ。」
「ああ。君の行く道に希望があらんことを祈る。」
「うむ。」
英雄はそう言うとその場を去り、それに付いて行くかのように一同続くが、最後尾にいたヒュームは去る前に立ち止まった。
「直江大和、失望させるなよ。」
「それは答えに困りますな。」
「フン。」
ヒュームは鼻を鳴らすとその場から去った。
それから三日が経った川神学園で、英雄は大和からすれ違い様に手紙を渡された。内容はこうであった。
“治療可能。成功率は本人曰く、87%。受けたいのであれば連絡を。”
その手紙を受け取った英雄はすぐに返信を書き、あずみに手紙を渡させた。
“金曜の夜に指定の場所に迎えの者をよこす。我が家のジェット機でHLに向かう”
それを受け取った大和は島津寮の皆に対し、「知人が病院送りになったので見舞いに行く。」と伝え、指定の場所に向かう。大和は九鬼の従者が運転する車に乗り、プライベートジェットでHLに向かった。
飛行機の中は静寂に包まれていた。
メンバーは大和、英雄、あずみ、揚羽、ヒューム、李、ステイシーの七人である。
話す話題も無く、英雄は着くのを今か今かと恐怖しながらも待っていた。そんな時ヒュームが大和に話し掛ける。
「直江大和、一つ聞くが空港は安全なのだろうな?」
「基本安全です。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「あの人がいると危険なので離れてもらっています。その時には見送る際に精神錯乱者が現れましたが。」
「あの人とは誰のことだ。教えろ。」
「・・・・・・・・・・・そうですね。貴方なら知っているかもしれません。」
大和はその人物の名を口にする。
「その人は世界最大の吸血鬼対策の専門家で、皆は彼の名をこう言います。“豪運のエイブラムス”と。本名はブレッツ・T・エイブラムスと言います。」
「エイブラムスだとっ!」
ヒュームは驚き声を上げる。そんなヒュームにあずみは質問する。
「誰なのですか、そのエイブラムスとは?」
「エイブラムスとは我が先祖とは深い中と聞く。エイブラムスは我が先祖とは違い力で無く知識で戦うと聞いている。」
「おそらく何かしらの関係があるのでしょう。ですがあの人は吸血鬼からいくつもの呪術をかけられていますが・・・・・・・・本人には効いていません。ただ・・・・」
「「ただ?」」
「その豪運が回りに被害を及ぼします。故に周りからは関わりあいたく無いのですが、本人はそのことに全く気付いていません。」
「「苦労しているな。」」
「同情してくれてありがとうございます。」
大和は本心から感謝の言葉を述べた。
「大和君、君の仲間にはいろんな人がいるようだね。」
「まあ、そうですね。人種、性別、年齢と言ったものは全て関係ありません。」
揚羽の言葉に大和は答えた。その時、機内放送が流れた。
『当機は間もなくヘルサレムズ・ロッド付近の空港に到着します。皆様、シートベルトをお締め下さい。』
アナウンスに従い一同はシートベルトを締めた。
そんな時英雄は窓からHLを見た。
「あそこが・・・・・・・・・・ヘルサレムズ・ロッド。」
飛行機が空港に着陸すると大和は英雄達を引き連れ指定の場所に向かう。
「あ、いました。」
大和が手を振るとクラウス、レオナルド、ギルベルトが手を振った。
「あの人たちが仲間なのか、大和。」
「ええ。正確に言うと師匠と師匠の執事と一般人です。」
『ちょっと待て!今変な言葉入ってないか!』
大和の言葉にツッコミを入れる英雄達。
「まあ気にしないで下さい。行きましょう。」
大和はクラウスたちの方に向かう。英雄達は大和に付いて行く。
「お久しぶりです、クラウス師匠。」
「久しぶりだね、大和君。」
大和とクラウスは握手する。
「おや!そちらの方々が今回のクライアントでいいかな?」
「ええ。」
クラウスは英雄達の前に立つ。
(なんと大きい男・・・・)
(見た目だけでなく、実力もある。)
(正に人の皮を被った獣だな。)
英雄、揚羽、ヒュームはそう思った。
「失礼ですが、九鬼英雄君は何方ですか?」
「我だ。」
英雄はクラウスの問いに答える。
「お初目にかかります。私、クラウス・V(フォン)・ライヘンルツと申します。お気軽にクラウスと呼んでも構いません。以後お見知りおきを。」
クラウスは英雄に名刺を差し出す。英雄はそれを受け取ると自分も名刺を出した。
「九鬼英雄だ。よろしく頼む。」
「ええ。」
クラウスは英雄からの名刺を受け取った。
「えっと・・・・・・・・・自己紹介していいですか?」
「構わん。」
レオナルドが問うと英雄は答えた。
「レオナルド・ウォッチです。この人たちと違って大した力は持って無いので。気軽にレオナルドって呼んで下さい。」
「ではわたくしも。ギルベルト・F・アルトシュタインと申します。ギルベルトと呼んでも構いません。クラウス様の執事をしております。」
二人は自己紹介すると頭を下げた。
「では我も自己紹介するとしよう。九鬼揚羽だ。今日は弟のことをよろしく頼む。」
「ヒューム・ヘルシングだ。九鬼家で執事をしている。」
「忍足あずみです。英雄様専属のメイドです。」
「ステイシー・コナー。九鬼家のメイドだ。」
「李静初です。同じ九鬼家のメイドです。」
各々自己紹介を終えたところでレオナルドがあずみ達を見ていた。
「どうしたんですか、レオナルドさん?」
「あ、ゴメン。本当にメイドっているんだなーって思ってさ。」
「ああ、成程。」
大和はレオナルドの言葉を理解した。HLでもメイド喫茶(人外)はあるが、本物のメイドは一度も見たことが無い。執事はギルベルトかフィリップくらいである。
「ところで・・・・・・・えっとヒュームさんと言いましたっけ?片足に何か溜めているみたいですけど僕たちあなた方が考えているようなものじゃないので安心してください。」
「っ!?」
レオナルドの言葉にヒュームは驚きを隠せなかった。
(この小僧・・・・・・・・・・見た目以上に実力は無いはずなのに何故わかった!ん?なにやら小僧の目の辺りから別のものを感じるが・・・・)
ヒュームが考えていると大和は口を開いた。
「皆さん、こうしていても時間がもったいないので早く移動しませんか?」
「うむ、そうだな。」
大和の言葉に英雄も賛同した。
「しかし移動手段に使うものは何処だ?まさか歩くのか?」
「いいや、目の前にあるよ。ですよね、師匠。」
「ああ。」
クラウスはポケットに入れていたリモコンのボタンを押す。すると光学迷彩で姿を隠していた黒のリムジンが姿を表した。一同その光景に驚愕した。
「すごいですね、師匠。物理障壁を三重に重ねている上に偽装術式まで掛けていますね。」
「まあコレくらいはしないといければ危ないからね。」
「そうですね。では皆さん、どうぞお乗り下さい。」
大和に促され英雄達はリムジンの中に入り、その後で大和たちも入った。ギルベルトは運転席に座ると「発車します。」と言ってHLに向け車を走らせた。
霧が掛かった町、HLに一度足を踏み込めば見たことの無い異界の住人達とそれを普通と思い、過ごしている人間の姿が目に映った。また、地面は平行でなく斜めであったり逆さまであったりもした。
「これが噂に聞くヘルサレムズ・ロッド・・・・・・・・・確かにここでは九鬼は足を踏み込めないな。」
「ええ。ここには、今後千年の覇権が掛かっています。ですが誰も手を出せません。そもそもここを管理するのであれば――――――――――世界を簡単に破壊できるほどの力が無ければ出来ないことですから。」
『っ!?』
大和のその言葉に衝撃が走った英雄達であった。
「大和君、確かにその通りだがそれだけではここは治められない。」
「そうでしたね。すみません、変なことを言って。」
クラウスの言葉を大和は素直に認め、謝罪した。
「いや、構わん。我も正直ここがどのような場所か気にはなっていたが・・・・・・・何が起こったらこうなったのだ?」
英雄のその言葉に大和とクラウスは口ごもった。
「な、なにか変なことを聞いたか?」
「いや、そうじゃない。確かにここに来た人なら当然そう思う。だが・・・・・」
「正直、我々も何故このようなことが起こったのか分からないのだ。人界と異界を繋いだこの現象が偶然か必然か、その答えは今も出てはいないのです。」
大和の言葉をクラウスが代弁した。
「そうか・・・・わかった。」
英雄がそう言うとギルベルトが声を掛ける。
「皆様。ブラッドベリ総合病院中央棟に着きました。」
ギルベルトがリムジンを止める。英雄達が降りると目に映ったのは建物に首の部分に赤十字が施されている人様なものの上半身が一体となった病院であった。
「これは・・・・・・・・病院なのか?」
英雄の問いにクラウスが答えた。
「ええ。ここは列記とした病院です。三年前のあの日、唯一建物に被害がなかった病院です。」
「そしてここにいる医師は一人で複数の患者を今も治療しています。」
大和の言葉に英雄達は驚いた。
「馬鹿な!いくらなんでも限度があるぞ!」
英雄の言葉に一同共感した。
「でも事実です。そして彼女は一人であり複数です。」
「どういう事だ?」
「行けばわかりますよ。行きますか?」
大和は英雄に問う。
「ここまで来ておめおめ帰るものか。我はこの肘を治してもらうためにここに来た!ここまで来て帰ることなど出来ぬわ!」
英雄の意思は変わらなかった。
「うん、その意思があるなら大丈夫だね。じゃあ行こうか。」
「ああ!」
英雄は大和と共に歩き出す。そんな英雄の後ろ姿を見て揚羽は微笑んでいた。
「どうかなさいましたか、揚羽さん。」
「クラウスさん・・・・・・・・・ええ。弟があそこまで逞しくなってと思うと嬉しくて。」
「成程。確かに私も大和君の後ろ姿を見てそう思うときはあります。親心のようなものですな。」
「ええ、分かります。」
クラウスの言葉に揚羽も共感する。
「では我々も彼らに付いて行くとしましょう。」
「ええ。」
クラウスの言葉に促され揚羽たちも病院に向かい歩き始めた。
「そういえば大事な事を忘れてた。」
病院の扉の前で大和は英雄にあることを口にした。
「この扉を開ければ世界がガラッと変わるよ。」
「その世界の変わりようをとくと見させてもらおう。」
英雄の言葉を聞くと大和はこう口にしながら扉を開けた。
「ようこそ、ヘルサレムズ・ロッドへ!」
大和が病院の扉を開けると目に映ったのは人と異界の住人たちが扉付近で治療を受けている姿であった。
「この患者は片腕が千切れてるぞ!」
「そっちの人には水をやるな!死ぬぞ!」
「そっちの患者の血液型はわかったの!」
「ほら、軽症患者はこっち!」
病院内の光景に英雄達は驚きを隠せなかったが同時にある疑問が湧いた。行き交いする声のほとんどが同じ声なのである。
「あー、今日は穏やかだな。」
「待つんだ大和君!これで穏やかとはどういう事だ!」
「いつもならコレの十倍の患者がいます。」
「コレの十倍だと!」
揚羽は驚きを隠せなかった。すると大和たちの前を小柄な白衣を着た女の子が通ったかと思ったらまた同じ女の子が二人、三人、四人と何人もの同じ姿の女の子が行き交いしていた。
「えーと、今手が空いてそうなのは・・・・・・・・・・いた!」
大和は一人の女のこの手を掴む。
「お、おい!」
ステイシーが声を上げるが次の瞬間女の子は二つに分かれた。手を掴んでない方は仕事に向かった。
「あらら、大和君にクラウスさん、レオナルド君まで。どうしたの今日は?」
「どうしたのって前に伝えたではないですかルシアナ先生。肘を治したい患者がいると。」
「ああ、そうだったね。ごめんねー、また患者が入ってさー。ところで後ろの人たちは何で・・・・・・・・・・・て、こんな状況やこんな私の姿を見たらそうなるか。失礼だけど今日診断を受ける“九鬼英雄”は誰?」
「わ、我だ。」
英雄は状況に驚きながらも手を上げた。
「君か。遠路はるばるここまでご足労ありがとう。私の名前はルシアナ・エステヴェスだ。よろしく。」
ルシアナは手を英雄に差し出すと英雄はその手を握った。
「よろしく頼む。その・・・・・」
「ルシアナでいいよ。そっちの方が慣れているし。」
「ではルシアナ先生、先生は私に肘を治せるのですか?」
「うん、治せるよ。でもここで話すより診察室に向かおう。」
「は、はい。」
ルシアナに促され英雄は診察室へ向かう。揚羽たちも付いて行った。
診察室に入っても同じ姿のルシアナが病院内を行き交いしていた。
「さて、改めまして医者のルシアナ・エステヴェスだ。君の傷跡を見させてもらったよ。」
ルシアナはレントゲンを蛍光版に付け、電気を付ける。
「確かに傷は酷いものだよ。でもね、治らないわけじゃない。ただ問題なのは腱の縫合だ。君の腱はひどい常態で切れている。向こうの医療で付けよとすると無理に伸ばさないといけないけど、この部分の縫合をちゃんとすれば治せるよ。」
「では―――」
「ただし!」
「っ!?」
「腱を縫合、そして再生させるとなると一週間は激しい激痛が君に来る。それに87%って数字は手術して肘の腱がちゃんと治り、そしてボールが投げられる状態になることを含めての数字。一週間の激痛のあとはすぐに日常生活を送れるけど、もしボールを投げる時に痛みが生じたら実質的には失敗となる。それでも受けるのならこの同意書にサインをして。」
ルシアナは机の引き出しに入れていた同意書を英雄に差し出す。
「・・・・・・・・・・」
英雄は迷っていた。受けるか受けないか、絶望に堕ちるか落ちないか、夢にまた挑むかそれともまた諦めるのか。不安と恐怖が彼の中で蠢いていた。そんな彼に大和は肩に手を置く。
「っ!」
「俺は何も言わない。ただ手紙にも書いた通り覚悟がいる。それを決めるのは君だ。」
「・・・・・・・・・・すまない、心配を掛けてしまって。だがもう決めた!」
英雄は同意書を手に取ると同意書にサインをする。
「覚悟はもうここに来て出来ている!」
英雄のその言葉を聞いて大和とルシアナは微笑んだ。
「よーし、そうと来たら早速手術をするよ!」
「い、今からなのか!」
「当たり前でしょ!ほら、手術するからこっちに来て!」
英雄はルシアナに引っ張られ手術室の方に連行された。
「あはは、ルシアナ先生はやっぱ凄いわ。」
「そうですねー。患者のための行動力と決断力はずば抜けていますもんねー。」
大和の言葉にレオナルドは相槌を打った。そんな時ヒュームが大和に話し掛けた。
「おい、直江大和。」
「なんですか、ヒュームさん。」
「あのエステヴェスという人物は人間なのか?」
「ええ。正確には―――」
「元人間だ。」
大和の言葉を繋げた人物の方に揚羽たちは目を向けた。そこにいたのは顔のようなものが装飾され、杖を突いている本であった。
「始めまして、九鬼英雄君のご親族並びに従者達。私の名はマグラ・グラナ。ここの院長をしている。」
揚羽たちは今日一番の驚きであった。
「猜疑の色は隠せないか。無理も無い。」
「あ、ああ・・・・貴方は彼女のことを元人間と言いましたがどういうことですか?」
揚羽の問いにマグラは答えた。
「アレは三年前、私はあの日にこちら側にも相当の混乱があり、私は救いを求める者を治療した。そんな時ここを見かけた。中にはひどい状態で倒れている人類(ヒューマ)がいた。どうしたものかと途方にくれていた私だがそんな時かろうじて生きていた彼女を見つけた。彼女は自分の身体が人類でなくなる事を厭わず、私も持っている医療器具をその身に宿した。結果、手術は成功し彼女は己自身を複数の個体に分裂させ同時拘束処置を行うことが出来ている。それほどまでに彼女の意志は強かったのだ。」
『・・・・・・・・・・』
ルシアナの事を聞いて揚羽たちは何もいえなかった。広い世界とはいえこんなことがあるなど今まで知らなかった。
「しかし・・・・・・・・あの少年、九鬼英雄君は大した者だ。こんな姿の私が言うのもなんだが彼は立派な男になる。」
「あ、ありがとうございます。」
マグラに英雄のことを褒められ揚羽は感謝の言葉を述べた。
そして約7時間に及ぶ手術が終わるまで揚羽たちは手術室前で待った。
「そういえばなんかテレビやって無いんですかね?」
英雄を待っている間、することが無いレオナルドは病院のテレビを付けると日本の新しい総理が番組に映っていた。
「あ、コレって日本の総理大臣って人ですよね?」
「ええ、そうですよ。若手で一気にここまで成長して総理大臣になったみたいです。」
「へー、ザップさんにも見習わせたいなー。」
レオナルドがそう呟いているとテレビには総理を刃物で何者かが襲ってきた。総理は手を切られた。その瞬間レオナルドの目が一瞬反応した。
「っ!(今一瞬、何かが見えたけどなんだ?)」
「どうかしましたか?」
大和がレオナルドに問う。
「なんか今見えたんですけど・・・・・・・・・・・よく分からなくて。」
「そうですか。でもあんな場所で襲うなんて間抜けと言うかなんというか・・・・・・」
その時はまだ気付いていなかった。
あの時、少しだけ忌み名が出ていたことに。
英雄の手術事態は成功し、日帰りで日本に帰った。
そして一週間、眠れぬほどの激痛が英雄の体に走った。破壊と再生が繰り返される痛みはと尋常ではなかった。学校ではその痛みを必死に堪え、人気の無いところで痛みの表情を出していた。あずみはそんな英雄の姿を辛くとも見た。英雄が苦しんでいるのに自分が逃げてはいけないと思うその一心で。
そして一週間がすぎた九鬼邸に大和は招待された。英雄は大和に問う。
「大和、我の肘が治ったかどうか見極める方法はあるのか?」
「あるよ。ルシアナ先生が分かりやすい確かめ方だってね。」
大和はそう言うと硬球を英雄に投げ渡した。
「庭でそれを俺に向けて投げてくれ。」
「なっ!?」
大和の言葉に英雄だけ出なくあずみも驚いた。
「驚くのも無理は無い。が、投げなければ治ったかどうかはわからないものだ。覚悟は出来てる?」
「・・・・・・・・ああ、出来ている。」
「よかった。」
英雄と大和は庭に移動し、ピッチング感覚の距離を開けた。大和の手にはグローブが握られていた。
「ばっちこーい!」
「・・・・・・」
英雄は硬球を強く握り締める。英雄の側であずみは心配していた。
「(あの日、夢を諦めた・・・・・・・・だがもし、コレをちゃんと投げれるのであれば・・・・・・・よしっ!)いくぞ!」
英雄は腕を大きく振りかぶり、そして大和に向け投げた。
パァァァァン・・・・・・・・・・
乾いたミットに硬球が叩きつけられる音が響き渡った。
「・・・・・・・い、痛みが無い・・・・・・」
英雄は自身の肘の状態に唖然としていた。
「英雄君、肘に痛みは?」
「・・・・・・・・無い。全く。」
英雄はそういうが自然と涙を流していた。大和は英雄に歩み寄り硬球を渡した。
「おめでとう、英雄君。君は87%の賭けに勝った。」
その言葉を聞くと英雄は片膝を着いた。
「英雄様!」
あずみは英雄の元に寄る。英雄の目からは大粒の涙が流れていた。
「すまぬ・・・・・・・嬉しくてな。」
「いいや、そんなことは無い。涙を流してもいいんだよ。俺は邪魔みたいだからここから退散するね。」
大和はそう英雄に語るとその場を去ろうとする。
「待ってくれ、大和。」
英雄は大和を呼び止める。
「感謝する。我の肘を治してくれて。」
「それはルシアナ先生にだね。それと、俺はきっかけを与えただけだ。決断は君自身が下した。本当に君は強いよ。」
大和はそう言い残し、その場から去った。
九鬼邸の門で揚羽が壁に寄り添いながら腕を組んでいた。
「揚羽さん・・・・」
「大和君、君には感謝している。英雄の肘を治してくれたことに。約束の融資金は振り込んでおこう。それで聞きたいことがある。」
「なんでしょうか?」
「君は・・・・・・・・・・いや、君たちは一体何者なのだ?」
揚羽の疑問は正しかった。HLの住人とはいえアソコまでの実力が世に知られていないのはおかしいからである。
「・・・・・・・・・われわれのことを知るとなると年間融資と、裏社会に足を踏み入れることになります。」
「っ!?」
「最も、そんなことはさせたくないのですが。」
「・・・・・・・そうか。」
「すみません、少しわがままを聞いてくれますか?」
「なんだ?」
「もし、クラウス師匠や仲間が必要になった時、そちらのジェット機で彼らをこちらに送ってくれませんか?」
「・・・・・・・・・・いいだろう。コレを。」
揚羽はそう言うとメモを渡した。
「私の携帯番号だ。その時になったら電話するといい。」
「ありがとうございます。」
「気にするな。だが・・・・・・・・百代にも知らせていないのだろう、君のその事情を。」
「・・・・・・・・・・ええ。」
「ミャンマーにはこんなことわざがある。“埋もれた真実はいずれ日の光を浴びるであろう”とな。隠し通せるものでは無いぞ、嘘は。」
「・・・・・・わかっていますが、出来れば皆には知らないでいて欲しいと思っているんですよ。」
大和はそう言うと九鬼邸を後にし、クラウスに電話した。
「もしもし、師匠ですか?治療完了です。」