Fate/Fairy Tail 錬鉄の英雄【無期限休載中】   作:たい焼き

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セイバー式出ねぇぞ!!おのれ庄司


新たな騒動

 あれから数日の内にロキは妖精の尻尾から姿を消した。

 

 姿を消してから間もなく一つの事実が浮き彫りになった。ロキが人間ではないことである。

 

彼は星霊の一人である『獅子宮のレオ』だったのだ。

 

 通常人間は人間界でしか、星霊は星霊界でしか生きていけない。居続けた場合徐々に生命力と魔力を奪われ、やがて死に至る。

 

 レオも例外ではないが、レオは帰れなかった。間接的とはいえ己の主人を殺してしまったため、その罪を償わされるのだ。

 

 例えそれが他人のために始めた事で、かつ偶然が重なって起きた事故だったとしても、彼が主人を殺した事に変わりないのだ。

 

 三年間彼は素性を隠して妖精の尻尾に在籍していたが、自身の限界が今訪れていた。限界を超えれば彼は遺体すら残さず人間界からも星霊界からも消滅し消え去る。

 

 だがこれも回避する方法はある。

 

 要は星霊界に帰れればいいのだ。星霊魔導士の力を借りて扉を開いて貰えばいい。

 

 だが身近に該当者が居るにも関わらず、ロキはそれを拒んだ。

 

 契約者を殺した自分が更に他の星霊魔導士を傷付ける事を避けたかったからだ。

 

 いち早く彼の正体に気付いた星霊魔導士のルーシィはこれを押し切って強制的に門を開こうとした。

 

 一歩間違えればロキと同化して自身も消滅したにも関わらず。

 

 結果的に彼女の心に感化された星霊の王がロキの罪を無かった事にし、ロキは生命力を回復することに成功した。

 

 彼はその後、助けられた恩を返すためにルーシィの星霊として契約したそうだ。

 

 これがオレが聞いたロキに纏わる話の全容だ。これからはそこから明らかでない未来へと繋がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「星霊だぁ!?」

 

 「んーまぁそーゆー事」

 

 まだ屋根も無い妖精の尻尾のギルド建設予定地。案の定ロキの話題で溢れていた。彼は殆ど人間と変わらない姿をしているため、気付かなくても無理はない。

 

 「ホント、気が付かなかったなぁ・・・」

 

 「無理もないよ。気付いてたのは多分エミヤくらいだと思うよ。星霊よりも数段格上だしね」

 

 「そうなの?」

 

 「んーそうだね。昔の人は偉大だってことだよ」

 

 実際はエミヤは英霊の亜種であり、古の英霊達と比べれば格は劣るのだが。

 

 「そうだ・・・君達にこれを渡しておくよ。もう僕には必要ないしね」

 

 そう言って渡されたのは高級ホテルの宿泊券。有名なリゾートの物だが、それがナツ達チーム全員分。

 

 「もうエミヤとエルザには渡してあるから、楽しんでおいで」

 

 彼らは持ち前の暴れっぷりのせいで報酬金を減らされているため、これ程高級なホテルに泊まれる機会は中々訪れないため、皆思いがけなかった幸運に喜んでいる。

 

 「貴様等、何をもたもたしている。置いて行くぞ」

 

 振り返ればそこには既に台車に何段にも積み上げた荷物を載せ、自身に麦わら帽と浮き輪を装備した夏用装備のエルザが居た。

 

 気が早過ぎると皆は思ったであろう。

 

 「全く・・・楽しみなのは分かるが、もう少し落ち着かなければ当日疲れて倒れてしまうぞ」

 

 「なら貴方も人の事を言えないはねエミヤ」

 

 カウンターでグラスを磨いていたエミヤだったが、彼の手には当然グラスは無く、代わりに如何にも高級そうな釣り竿をコレでもかと言える程丹念に磨いていた。ちなみにミラジェーンにこれを指摘されるまで全く気付いていなかったのは余談である。

 

 「む、私も年甲斐も無くはしゃいでしまっていたようだ」

 

 「あ、アレは過去に存在されたとされる技術を活かして作られた高性能とされる釣り竿じゃないか・・・」

 

 辺りにざわめきが生じるが当然だ。完全に再現されていないために試作品どころか失敗作すら出まわっておらず、釣り師にとっては喉から手が出る程欲しい一品であろう。

 

 「ちなみにそれに値段を付けるとしたらおいくらですか?」

 

 大企業の家を出て、現状金に苦しんでいるルーシィは大分金に敏感になっている。

 

 「ああこれか。昔なら二十万とんで三千ってところだが、今はその数倍で効くだろうか」

 

 同時に周りからざわめきが起こる。

 

 危険な仕事も多いために大抵の職業よりも収入が多くなりやすい魔導士だが、それでも一部を除けば手の届きにくい場所にあるからだ。

 

 「まあ私の場合はこうやって複製できるのでね」

 

 手入れを終えた竿を置いたエミヤは、空いた片手を使ってお得意の投影で同じ竿を幾つも作って見せる。

 

 実物を手に入れてなくても解析すればそれだけで複製が可能になる彼の魔術はこういった娯楽品にも使える。

 

 「パチモンかよ!!」

 

 「だが、その偽物が本物に劣るなんて道理は無い」

 

 拍子抜けしたギルドメンバー達が声をあげる中、一人ドヤ顔を決める歴戦の英雄エミヤ。

 

 バカンス前で心が浮かれているのは火を見るよりも明らかだろう。

 

 まさかナツ達を差し置いて、一番冷静な男が一番だはしゃぐなんて、この時はまだ誰も予想出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青い空、透き通った海、程よく照り付ける太陽、バカンスに必要な条件を満たしたこのアカネビーチと呼ばれるリゾートはまさに天国とも言えるだろう。

 

 カップルから家族連れまで色々な者達が休日に思い出を作るためにやってくる。

 

 ロキのチケットによって機会を得た妖精の尻尾御一行も例外ではない。

 

 水着に着替えて海を泳いだり水遊びにスイカ割り。ビーチボールも浜辺での遊びの代表格だろう。

 

 変わらないのは皆が笑顔であることだ。

 

 なお普段の外套とアーマーを脱ぎ捨て、ジャケットと帽子を紅に染めて単色に揃えた英雄が『フィィィッッシュ!!イィィヤッホォォォーーー!!』などとほざきながら殆ど入れ食い状態の釣りを満喫していたのを彼らは他人の振りをして凌いでいた。

 

 唯一ハッピーだけはご馳走が増える事に喜んでいたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楽しい時間という物はどうにも早く感じるらしく、あっという間に日が沈み、皆ホテルの中に戻っていた。

 

 意識出来ない疲れはいつの間にか眠りを呼び、夢へと誘う。

 

 と同時に思い出してしまった。楽しかった今日とは正反対の幼少期の記憶。

 

 エルザはギルドに入る前はごく普通の生活をしていた。貧しかったらしいが家族と共に過ごした当時の彼女は間違いなく幸せだっただろう。

 

 とある魔法教団が考案した死者を蘇らせる塔を建設する為に囚わていた奴隷であった。

 

 食事もごく僅かしか与えられず、休日も存在しない劣悪な環境。同じ奴隷仲間達の悲鳴や涙は間違いなくトラウマとして根付いていた。

 

 意識が覚醒し、エルザは目覚める。汗まみれの肌がそれが現実だと思い知らしめる。

 

 気分を入れ替えるためにいつもの鎧に換装する。

 

 「私という女はつくづく仕方がないな」

 

 だが、今だけは忘れていいはず。たとえそれが仮初の自由だとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何かが起こるか・・・」

 

 直感に似た何かで悪意を感じたエミヤ。ホテルの屋上に陣取って腰を掛けている。

 

 「それにしても、エルザはやはりまだ過去を・・・」

 

 何があったか知らないが、何かがあったという事だけは知っている。他ならぬエルザ自身が話さない上に、人の過去を掘り返す気もないからだ。

 

 「思えばあの時のエルザは荒れ果てていた」

 

 気分を入れ替えるために思考の海に意識を潜らせる。

 

 彼とエルザが出会ったのは約8年前。ボロボロになったエルザをそこに偶然通りかかったエミヤが拾い上げた事が始まりだった。

 

 依頼を達成した後の帰り道に偶然浜辺に寄った時に発見した。

 

 状態はとにかく酷かったの一言だ。痣に擦り傷に切り傷、鞭で叩かれてうっ血した後もあった。

 

 服は勿論特徴的な紅い髪も手入れをしていないのかボサボサで泥や埃で汚れていた。

 

 服どころか靴一つすら履いておらず、はっきり言って死にかけだった。

 

 放っては置けず、生前からの性質を受け継いでしまっているオレは彼女を抱き上げた。

 

 最低限の衣服を買い与え、充分な食事と睡眠を与えてから妖精の尻尾に連れて行った結果、最終的にエルザもそこに落ち着いた。

 

 最初の内は周りに馴染めずに暗い表情をしていたが、時と共に少しずつ笑顔を取り戻していったようだ。

 

 「十中八九エルザの過去が絡んでいるだろうな」

 

 今回の事件はタダ事では無さそうだ。事実奴らはエルザだけを狙っていたようであり、ハッピーはおまけだろう。

 

 「Rシステム・・・楽園の塔・・・か」

 

 聞き覚えのある言葉と情報を照らし合わせる。

 

 「やれやれ、正義の味方に休息はないということか・・・」

 

 霊体化してエルザが乗せられた船へと潜り込むためにそれを目指す。

 

 「今回は隠密に徹底させてもらおう。8年間も隠し通した奴らの実力は警戒せねば成るまい」

 

 何が待ち受けていても彼らならば何とか出来るだろうと高をくくっているだけだが。




次回は(ご)都合により、かなり展開が飛びます。

具体的には11巻丸ごと

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