Fate/Fairy Tail 錬鉄の英雄【無期限休載中】   作:たい焼き

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未来へ・・・

 エミヤが作り出した干将莫耶が内包している魔力を喰らった事でナツの魔力が桁違いに跳ね上がる。

 

 宝具とは貴い幻想(ノウブル・ファンタズム)と呼ばれる英霊達の切り札である。

 

 神話や御伽話に登場する剣や槍、弓に盾と言った武具の類であったり、身に付けていた衣服や装飾品もあれば、英霊が生きていた時に生み出した伝説が後天的に宝具になった概念的な物等、様々な宝具が存在するが、総じて彼らが生前に築き上げた伝説の象徴。伝説を形にした『物質化した奇跡』である。

 

 武器の宝具であれば本体を器として膨大な魔力と神秘が内包されている。

 

 ナツはそれを砕いて内容物を飲み込んだ。ここから先に起こる出来事は誰にも予想出来ない未知の領域だ。

 

 彼の意識は既に飛んでいる。ただジェラールという敵を倒すためだけに膨大な魔力を喰らい、竜の咆哮が周りに響く。

 

 無意識になりながらも更に力を得るために本能的に宝具達から漏れる神秘を食い尽くす。

 

 余りにも膨大で濃い魔力を許容量を超えて取り込み続けた結果、それらが体の中で溢れ始め、ナツを内側から壊し始める。

 

 しばらくして苦しみから自制が効かなくなったナツが暴走を開始した。その時点で魔水晶の塔に叩きつけた拳が一撃で地割れを起こす程の威力を既に得ていた。

 

 痛みが体を締め付けているにも関わらず、なおも魔力の吸収を続ける。

 

 「エミヤ、大丈夫か?」

 

 エルザが動けないエミヤに肩を貸し、体を持ち上げる。

 

 「オレはいい。それよりもナツが・・・」

 

 「ああ。何てバカな事をしたんだ・・・」

 

 自分のために苦しんでいるナツの姿がとても痛々しい。

 

 「違う、そうじゃないんだ」

 

 「えっ?」

 

 「宝具っていうのはただ強力な武器じゃない。言うなればその時代の奇跡の具現化、人々の願いが形を得た英霊の切り札だ。場合によっては不可能を可能にできる程のな」

 

 エルザも何度と見てきた。自分がボロボロになって受け止めるのがやっとだった魔導砲の一撃を容易く受け止めた熾天覆う七つの円環は記憶の中にこびりついているし、エミヤが作る宝具の贋作ですら戦況を好転させるのは容易い物なのだ。

 

 「故に宝具が持っている神秘と魔力は、誰もが使える魔力とは質その物が桁違いなんだ。」

 

 善き物が担えば世界を平和に導き英雄になれるし、悪しき物が掲げれば国一つは簡単に滅びる。宝具とはそういう絶対的な物だ。

 

 「だからその神秘を体内に取り込んだナツは見れば分かる通りに拒否反応やその他諸々で苦しんでいるが、もしそれを克服した時は・・・」

 

 それこそ英雄の領域に到達するだろう。

 

 清姫という英霊がいる。安珍清姫伝説に登場するただの少女であるため召喚された際のステータスも最低ランクのEランクが殆どだ。

 

 何の武勇も持たないただの少女であるが、彼女は珍しく『宝具に特化した英霊』であった。

 

 彼女は己の身を炎を吐く大蛇、つまり竜に変化する事に特化した英霊だ。彼女は思い込みだけで最強の幻想種である竜種の領域に到達した。

 

 その宝具だけで一騎当千の英霊達と同等の戦力となり得る。それだけ竜種の力は絶対的なのである。

 

 英霊の魔力をきっかけにして、ナツの中で眠る滅竜魔法の最終形態を叩き起こす。

 

 「オオオオオ!!」

 

 一倍大きな咆哮と共に、ナツの滅竜魔法の炎が竜の形を得て燃え上がる。

 

 その体はより竜に近づいていた。皮膚の一部が鱗になり、魔力上昇によって戦闘力も跳ね上がる。

 

 既にジェラールの反応速度を超えての攻撃も可能になったナツがジェラールに飛び膝蹴りを食らわせ、その体を魔水晶に叩きつけて魔水晶の塔を砕いて崩して行く。

 

 「お前が居るからァァ!!」

 

 勢いは止まる事無く魔水晶で出来た塔を粉砕する勢いで攻撃を重ねていく。

 

 「エルザは涙を流すんだ!!」

 

 「こざかしい!!」

 

 天体魔法の一つ『流星(ミーティア)』を発動し、自身の機動力を常人が捉えられる域まで上昇させ、ナツの攻撃から抜け出すと共に距離を離す。

 

 だがドラゴンフォースと化した事によって極限まで竜に近づいたナツは人間を超えた速度や反応速度、それらに加えて常識を逸脱した直感に似た何かも備わっている。かつて世界の頂点に立っていたドラゴンが何世代もかけて積み重ねた戦闘経験がそうさせるのか。

 

 「がはぁっ!?」

 

 ジェラールの逃走経路の先をピンポイントで撃ち抜き大ダメージを与える。

 

 もはや戦いではなくなっていた。圧倒的強者が弱者を倒す。自然界でいう食物連鎖が再現されている。

 

 「ふざけるな!!」

 

 ジェラールも必死だ。目前にまで迫っていた願望を、立ちはだかった男ただ一人のせいで取りこぼす事実を受け入れるわけにはいかないからだ。

 

 「自由の国を創る。オレは真の自由国家を創るのだ!!」

 

 「それは人の自由を奪って創る物なのかァ!?」

 

 最後の魔力を全て込め、楽園の塔を丸ごと粉砕出来るであろう魔法の発動準備に入る。幽鬼の支配者が使おうとした禁忌の魔法だ。

 

 ジェラールがここまで自由に固執する理由はただ願いを叶えたいだけ。幼い頃に束縛された生き地獄を味わったために、周りにいる皆が自由に暮らせればいいなと子供でも夢見る理想。

 

 それがジェラールをここまで導いてきた。ただほんの少しだけ悪意が混じっただけだ。

 

 「拷問を受けた際にゼレフがオレに囁いた。そうさ。ゼレフはオレにしか感じられない。オレはゼレフの亡霊と共に自由の国を創る!!」

 

 願いが歪みきった結果がこれだ。だからこそ歪みを解けば元に戻れる。

 

 「フッ・・・亡霊に、そんな真似が出来るものか」

 

 「・・・なん・・・だと・・・?」

 

 一つ一つの欠片を一つに組み合わせてようやく真実に辿り着いた。

 

 エミヤの消えるような声は確かにジェラールに届いた。

 

 「そうさ。死人は何も語らない。亡霊なんて物は善悪含めて自分で無意識に創り出した幻想の類だ。貴様の自由という理想は骨組みしか作られていない」

 

 エミヤの言葉が確かにジェラールの動きを止める。加えてエルザが与えた刀の傷。どちらも浅くはない。

 

 「お前は何かしらの暗示にかかっていただけなんだ。それが自己暗示か他人の細工かは知らんがな」

 

 何かが崩れ去っていく。何年という短くない期間の全てをそれのために積み上げて来た。それが崩れれば後は脆く倒れて塵に帰るだけだ。

 

 そしてジェラールは歪み崩れた禍々しい物の中にかつての大切な物を幻視する。

 

 「見えたか?それがお前の忘れていた物だ。自由に憧れ、誰よりも自由を欲しいという願いだ」

 

 「くっ!?」

 

 理想と現実の激しい矛盾による酷い頭痛に襲われる。それを解放する力を持った者が迫る。炎の翼で羽撃いて突撃してくる一頭の竜だ。

 

 「自分を解放しろ!!ジェラァァァァァァァル!!」

 

 ナツの拳は確かにジェラールの亡霊を粉々に打ち砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激戦が終わったにも関わらず、止む気配を見せない揺れ。

 

 吸収した膨大な魔力が留まりきらず、行き場を失って暴走しているのだ。

 

 器から解放されればその魔力は吸収される前の姿を取り戻す。すなわちエーテリオンとなって今この場と付近に居る避難した仲間も巻き込んで大爆発を起こす。

 

 魔水晶が歪み始め、足場すら安定しなくなってきた。それが想像を超えた破壊力を秘めた魔力だという事を想像するのは難しくない。

 

 崩壊と暴走を続ける塔の中、一人動けるエルザが倒れた二人を抱えて脱出しようと必死に藻掻く。

 

 だが気付いてしまう。例え外に出れても爆発に巻き込まれ命を落とすと。

 

 一つだけ皆が助かる方法がある。

 

 誰かが人柱となってエーテリオンの魔力と同化し、それを無害になるように空へと流す事だ。

 

 だがそれをやってしまえば同化した自分諸共空に流れて消え去る。

 

 肉体も血の一滴も髪の毛一本足りとも残らず、魔力となって霧散する。

 

 それでも仲間を救えるのならと、エルザは己の身を差し出す。

 

 だがそれをナツは良しとしない。目を覚ましたらエルザが魔水晶と融合していたのを目撃し、なんとか踏み留まらせようと奮闘するが、遅かった。膨張が限界を超えた。間もなく爆発を起こす。

 

 「私が皆を救えるのなら、何も迷う事はない。この体など・・・くれてやる!!」

 

 「エルザーー!!」

 

 ナツの叫びが魔水晶の暴走する音よりも大きく響いた。

 

 自身の体が記憶や心と共に溶けていく感覚に襲われながらもエルザは半ば安心に近い表情を浮かべていた。

 

 これで皆を助けられると。幼少時代を過ごした仲間やギルドに入ってからの仲間達の顔が浮かび上がる。

 

 皆が笑うその中にエルザは存在しない。既に体と魔力の境界線が無くなりかけていた。目を閉じ、魔力を空へというイメージに全てを割く。

 

 故に何かに引き寄せられる感覚に気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 

 エルザはそこでは空に浮いていた。見下ろした先には守ろうとした仲間が、ギルドの親しい仲間達が揃っていた。奇しくも皆が泣いていた。

 

 それは自身の葬式を行っている最中の夢だった。

 

 そこには誰も笑っていない。

 

 あるのは悲しむ仲間達と彼らが流す涙。生まれるのは現実を見せられて生じた後悔と絶望のみ。

 

 (そうだ。私はこんな未来を見るために犠牲になったのではない・・・)

 

 エルザが拒んでもその未来は呪いのようにエルザにまとわりつく。やがてエルザはそれに耐えられなくなり、後悔の果てに体を壊して消えていった。

 

 (それが貴様の選んだ未来の果てだと理解したか?)

 

 だがその瞬間にエルザを踏み留まらせたのは良く親しんだ男の声だ。だがいつも以上に冷たさと鋭さを含んだ物だ。まるで剣のような声はエルザの心を直接抉り曝け出させる。

 

 「・・・エミヤ・・・なのか・・・?」

 

 ようやく目が戻って視認出来るようになった時、場所が変わっていた。

 

 何処までも果てしなく続く荒野。無数の剣が突き刺さったそこに当然覚えはない。

 

 「いつかやりかねないとは思っていたが・・・オレ並の馬鹿だな君は」

 

 荒野を背にしてエミヤがいつもと変わらない姿を見せ、大地を背にして座っていた。大きく姿勢を崩して皮肉を含めた言動は少し気になったが、もはや慣れた物だ。

 

 「それで、どうだった?君の選択は満足の行く物だったか?」

 

 「いや、全くだ」

 

 「それは良かった。味をしめていたらオレが君を叩き直さねばならない所だった」

 

 「どういう事だ?」

 

 エミヤの言葉は何故か説得力があった。まるで本人が何度となく経験した物のような確信があった。

 

 「気付いていなかったか?君の行いは人間の行いではないのだよ」

 

 剣となった言葉を更に容赦無くをエルザの心に突き立てる。

 

 「自分よりも他人が大切だという考えはあってはならない間違いだ。誰かを救いたいという願いは自分が救われているからこそ生まれる感情だ。それを省いて人助けが出来る者は既に心が破綻している」

 

 エミヤの後ろにはまだ道があった。だがその先は彼にも分からない。

 

 「別にそれでも前に進み続ける事が出来る覚悟を持っているのなら私は構わん。むしろ軽蔑しながら歓迎しよう。だが無いのならそのまま後ろを向いて引き返し給え。今なら失敗で皆許してくれるだろうさ」

 

 エルザは後ろを向いた。だがすぐには歩き出さない。

 

 「お前はこっちにこないのか?」

 

 その問いに錬鉄の英霊はこう答え続けるだろう。

 

 「オレは前に進み続けるさ」

 

 ――――正義の味方として

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルザが次に目を覚ましたのは海上。そしてすぐに自らの名前を呼ぶ声が幾つも届いた。

 

 先に塔を離れていた仲間達は、塔に残ったエルザが心配だった。

 

 魔力になりかけたエルザはナツが見つけ出した。魔力の渦の中で奇跡的に見つけ出し、引っ張りだしたのだ。

 

 「同じだ・・・妖精の尻尾無しで生きていけないのはオレたちだって同じなんだ・・・だからもうこんな事はしないでくれ」

 

 ナツが震えていた。涙を流していた。それだけで彼の意思を察するのは簡単だ。

 

 「分かった・・・」

 

 そうだ。仲間のために死ぬのではない。仲間のために生きるのだ。

 

 両目から流れるようになった涙。それをきっかけに己の生き方を改めて定める。

 

 「そうだ。それが幸せな未来に繋がる一本道だ」

 

 エルザ達の後ろから現れたエミヤは誰よりも酷い有様だった。

 

 右半身は肺の一歩手前から消滅しており、逆立った髪は普段とは違って降りていた。

 

 更に異質なのは彼の体から生えた剣。それも一本二本の話ではなかった。急所になり得る部位を避けていたのが救いだ。

 

 「エミヤ・・・酷い怪我を・・・」

 

 「だが生きている・・・生きていれば歩ける、だろう?」

 

 「ああ、そうだな」

 

 エルザはそこで泣くのをやめた。代わりに精一杯の笑顔を見せてやった。

 

 それがエミヤシロウの原動力となるのだ。


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