Fate/Fairy Tail 錬鉄の英雄【無期限休載中】 作:たい焼き
追記:2016年9月19日
続きが書き上がりこの話が完成したため、途中書きの物を消して再投稿しました。ご閲覧ください
マグノリアの町
商業に特化したこの街は、年間を通して多くの人が訪れる。街の住民達はこの街から一歩も外に出なくても大抵の品が揃うし、何らかの目的があって訪れる旅人が必要な物資を補充したり宿泊施設を探す拠点となったり、国中から集まる観光客はそこで資金を消費しより物資を循環させる。
品揃えは勿論大変豊富である。食料品は食材から調味料、保存食や甘味を出す店も多い上に、レストランや酒場といった飲食店も多数存在している。
宿も手頃な物から高級な物まで幅広く存在し、またこの町を気に入って定住したいともの者も資金さえあればそう困る事はない。アパート等も空き家が多く探す手間もそうはかからない。
今や生活に欠かせなくなった魔法道具の充実しており、勿論その種類も豊富に揃っている。
故に商人達は商売競争に日夜励み、商売敵よりもより多く売り上げようと工夫を凝らして奮闘する様子が見て取れる。
良く探せばより質が良い物をより安い値段で販売している店が見つかるだろう。
大きな店を構えている大手よりも規模の小さな露店の方が質が良いというのもしばしば。
快晴で過ごしやすい今日、そんな商店が立ち並ぶ街道を歩いているのはこの町では多少名のある男である『エミヤシロウ』だ。
皮肉が混じった言動は少々目立つが、それ以上にお人好しで人の良い彼に困っていた所を助けられた人も多く、むしろそんな皮肉な言動が彼に程よいスパイスを加えているとも思える。
さて何故こんなガタイの良い男が一人で街道を見て回っているかというと・・・もちろん彼の目的はマグノリアに集まる質の良い商品、今回の場合は食材だ。
家事が特技だとか
今日の彼の狙いは安売りされている鶏卵だ。お一人様10個までで81Jと破格の値段という餌に釣られて町の主婦達に紛れて目的地を目指す。
通常こういう安売りには非常に多くの人が集まる。甘い考えで向かったら既に手遅れだったというのは何も珍しい事ではない。
故に彼は安売りが始まる一時間前に目的地に着くようにギルドを出た。それでも並んでいる者はいるだろうが、買えないということはないだろう。
いつもと変わらぬ平和な日常。人で賑わう街道はいつもと何も変わらない。そんないつもと変わらない世界で、いつもとは違った白とすれ違った。
ほんの一瞬だけ視界に入っただけだが、何よりも目の奥深くまで焼き付いた眩しすぎる姿。それは磨り減って消えかけた彼の僅かな記憶の中にある一つの光景に映った女性の姿によく似ていた。
急いで振り向いてもその少女の姿はどこにもなかった。
だが記憶に焼き付いたその女性が青を基調としたバトルドレスを身に纏っていたのに対し、通り過ぎたのは白を基調としたやや露出の多い短めのドレスを身に纏っていた。
また髪型もポニーテールに結えていたような気がする。余談だが頭には一際目立ったアホ毛が見えた気がする。
「・・・まさかな」
視線を安売りが始まる前の店舗に戻す。だがもしそれがまさかでなく、見間違いでなかったら・・・その時自分はもう一度彼女に面を向かえる事が出来るのだろうか。
「何を弱気になっているんだ私は・・・平和な空気に当たり過ぎたか?」
そんな己を戒めながらエミヤはこれから始まるであろう戦場へと足を進めた。
一方エミヤが主婦または主夫達の戦場へと赴いているころ、少し離れた街道に軽い人だかりが出来ていた。
白を基調としたドレスを身に纏い、眩しく輝く金髪と希望に満ちた碧眼を併せ持ち、露出している背中や腋も含めて一片の汚れもない。例えるなら愛らしい百合の花だろうか。
異性として見惚れる者も多ければ、ただ単純に目立つ故に振り向いてしまうものも多い。人を惹き付けるのは容姿だけのおかげではないようだが、とにかくその少女は市場に置いて人の好奇の中心となっていた。
「うわ~、美味しそう・・・」
露店にて現在も調理され続けて、香ばしい匂いと程よい焦げ具合によって滴る肉汁がトレードマークである串焼きが少女の食欲を掻き立てる。
みっともなく鳴りそうになったお腹を根性と羞恥心で抑えこみ、食欲によって生じた煩悩を焼き払う。
「こんなところで足止めをされるとは・・・恐るべし美味しいご飯」
彼女の出身国はメシマズで有名な某国である。
水も土壌も良質な食材を生産する環境に恵まれず、良い調理法の発展が遅れた故に、焼く・茹でる・揚げるの三点セットで見た目をなんとかして調味料を適当にかけて味を誤魔化してなんとか食べられるようにしたというからこその物だ。
ただし朝食と菓子に関してはその限りではない。朝食を一日三回食べよとはよく言ったものだ。
とにかく彼女は丁寧で美味しい料理に飢えていた。
マグノリアに来る前は武者修行中の身であり、携帯可能な保存食を僅かに持ち歩き、それ以上に必要な分は現地調達、もとい狩り等で凌いでいる身にしてみれば仕方ないだろう。
そのためどうしても大雑把に成りがちになり、海辺に近い場所でなければ塩すら貴重品になった。
それもこれも彼女が修行を最優先として資金調達のための日雇いバイト等を避けていたからであるが。
「うぅ・・・我慢我慢・・・」
実際にはお腹が空いたわけではなく、余りに食欲を刺激する匂いであったために空腹に似た感覚に襲われただけではあるが、苦痛には変わりなく自然に見えるようにその場から立ち去り、当初の目的地を目指す。
マグノリアは商業都市として栄えてきたが、実は魔法も盛んであり、このフィオーレ王国最強の魔導士ギルドとして有名である。
また所属する魔導士達の実力も高いのだが、その性格はそれ以上にぶっ飛んでおり、彼方此方で問題を起こすために最恐の間違いではないかと疑いたくなる程だ。
市場を離れて少し歩けば少々古い酒場が見えてくる。それが王国最強の魔導士ギルド『妖精の尻尾』の本拠地だ。
中に入らなくとも少々派手で賑やかな声が聞こえて来る。それに混じって大きな物音や物が壊れる音が響いてくる辺り、乱闘騒ぎでも起きているのだろうか?
そんなギルドの門を開き、中の様子を伺う。
酒と食べ物が宙を舞い、それに混じって人も投げ出されている。
勢い良く殴られて人が水平に飛ばされるのも、机や椅子ごと人に殴りかかって壁や床を巻き込んで壊すのもここでは珍しくもない。
丁度少女に向かって男が一人殴り飛ばされて少女に迫る。それをか細い腕で難なく受け止める。
「だ、大丈夫ですか!?」
いきなりの自体に驚きながらも、冷静さを取り戻して飛ばされた男に駆け寄る。どうやら気絶しているだけのようだ。
「大変、止めないと」
少女は自身が担う剣を虚空から取り出そうとするが、傷付ける事が目的ではないとそこで踏み留まる。
仕方なく代わりに持ち歩いている安物の木刀を取り出し、魔力を流して並の真剣と同等程度の性能にまで強化する。
「行きます!!」
覚悟を決めて前に向き直ったその瞬間、目の前に迫る回避不能な距離まで迫った人の頭。
衝突、それに続いて頭を走る鈍痛。不意を付いた衝撃で目の前が真っ暗になり、その先に星が幾つも見えた。少女はそこで意識を手放した。
「すみません!!まさかただじゃれ合っているだけとは思わなくって!!」
全部が全部自分が悪いわけではないが、謝って頭を下げる。
「お願い謝らないで・・・こっちが完全に悪いんだから」
ルーシィがそう言いながら未だに馬鹿騒ぎしながら酒を浴びるように飲んでいるカナとか一回収まってもまだ騒ぎ出そうとするナツ達を遠い目で見ている。
「いえ、気にしないでください。それにこんな賑やかな空気は好きなので」
「うん、なんというか・・・ごめん」
笑顔が眩し過ぎて見てるだけのルーシィの方が痛くなる。
「と、ところで、貴方はどうしてここに来たの?ギルドに入りたいってわけじゃなさそうだけど・・・」
「あっと、そうでした」
少女は大事なそれを思い出したかのように慌てて言葉を整理する。
「ここを訪れた理由は修行の一貫です。とある目的のために、一日でも早く一人前になって理想に辿り着けるように日々修練を重ねています。そこで王国一と名高い妖精の尻尾さんの魔導士さん達と手合わせをして頂きたくて・・・」
ニコニコと笑顔を振りまく人形のような容姿とは正反対で、己に厳しく努力を怠らず、一歩一歩前に進もうとするその姿は紛うことなき騎士のそれであった。
もっとも、ここは騒ぎたい連中が揃っているため相手には困らないだろう。
「そういうことならオレが相手になってやるよ!!」
待ってましたと言わんばかりにナツが名乗りを上げた。
「おう!!オレもやるぜ!!」
次々と名乗りが上がる。修行の相手は余る程集まった。
「皆さん、よろしくお願いします!!」
ギルドの前で二人の少年と一人の少女が向かい合う。
「よっしゃ!!やろうぜ!!」
「久々にギルドの連中以外の魔導士と戦えるんだ。俺も熱くなってきた!!」
闘志を燃え上がらせて気合いを込めたナツと既に上着を脱いで魔力を練り上げているグレイの前に立つのはまだ幼い一面を残した白い少女だ。
「国中に名を広めている魔導士ギルドの方々の実力、参考にさせて頂きます」
少女の戦い方は剣を使っての近接戦闘が主であるが、少女の手に握られているのは、王国でも騎士の訓練等で使われている木刀が一刀だけだ。
「おいおい、そんな燃えやすそうな木刀一つでいいのか?」
ナツの拳が炎で燃えている。彼は失われた魔法の一つ『滅竜魔法』その中の火竜の滅竜魔法の使い手だ。
普通なら触れる前に乾いた木に引火してしまうだろう。
「いえ、これでいいのです。私の本来の剣では死人が出てしまいます」
「なら意地でも抜かせてやるぜ」
「どうぞ。ですが簡単に私の剣は抜かせませんよ」
先程まで無風だったマグノリアだが、急に風が出てきた。
「ほんじゃ、はじめぃ」
酒を片手に妖精の尻尾の総長であるマカロフが始めの宣言をする。
同時に少女が町を駆ける。人間の限界を越えて相手へて迫る。
「アイスメイク『
目には目を、歯には歯を、剣には剣を。木の剣と氷の剣が激突する。
「うおっ!?重っ!!」
とても少女の腕力で振るえる剣圧ではない。一撃受けただけで手が痺れて剣を手放しそうになる。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
「っぉぉおおおお!!」
豪快ながらも決して隙を晒さない。そんな繊細さも兼ねた剣術は確実にグレイから体力を奪い、追い込んでいく。
「ちっ、速ぇし重ぇ。技量もエルザと同等以上じゃねえか」
純真で無垢でどこか抜けた少女はとんでもなく強かった。このままではジリ貧の末に負ける。
「だからこそ燃えてきた」
グレイは更に気合いを入れる。そしてそれ以上の戦闘狂が乱入しない訳がなかった。
「火竜の鉄拳!!」
炎を纏った拳を少女の真上から叩きつけるべくナツが上から強襲する。
「来ましたね」
読んでいたかの如く少女が拳を剣で防ぐ。ジジジと僅かに焦げる音が低く響く。
「今だ!!」
剣戟の嵐を耐え抜いたグレイがボロボロの氷の剣で一閃する。新しい作る暇はない。
「おっと」
それを防ぐために一旦ナツを弾き飛ばして迎え撃つ。
「火竜の鉤爪!!」
ナツが更にその隙をついて攻撃を加える。これに少女は仕切り直しのために一旦距離を取る。
二人相手でも捌けるだろうが、あのままでは後手に回り続けることになるからだ。
跳躍で離れて着地する。だが着地した先には先程までグレイが持っていた剣が風を裂いて向かって来ていた。ここで初めて少女は驚くが、一瞬で切り替えて剣で弾く。
明後日の方角に飛ばされた氷の塊は砕けて霧散し水に戻る。
「アイスメイク『槍騎兵』連射だァ!!」
十、二十と数を増やした氷の槍の群れが少女に迫る。
それらを全て剣で叩き落としながら少女は次に備えて得物に魔力を込める。
「火竜の咆哮!!」
視界を全て遮って炎が少女に迫る。
「風よ…」
炎が少女を飲み込む。だが直後に炎が割れた。
「なに!?」
「おいおいマジか」
割れた炎の先に少女が立っていた。木刀は炎の熱に耐えきれずに灰の一欠片も残さず燃え尽きたようだが、少女は無傷だった。
「危なかったですよ。魔力を放出して切断しなければ、剣だけでは済みませんでした」
少女は魔力を風として放出することができる。剣に纏わせれば射程の延長や切れ味等の性能強化を、その身に纏えば本人を守る鎧となる。
「よく言うぜ。汗一つかいてねぇくせに」
残りの体力や魔力の総量は少女の方に軍旗が上がる。
「だがオレは勝ったぞ」
「あン?」
少女の木刀に罅が入り、そのまま音を立てながら砕けた。
「木刀は壊れたしな。これで抜くんだろ?剣」
「そうですね。これでは剣を抜かざるを得ませんか」
少女が腕を前にかざす。魔力が集まっていき、最終的には剣の形になった。
それは光輝く黄金の剣だった。並の物を寄せ付けぬ程に輝く光は見る者を魅了する。
だが人々が見惚れる剣の輝きはある者に向けられた物の余波でしかない。
その剣は王を選定するために存在する剣であり、その力は所有者に向けられる。
所有者が王として正しく完成した時、黄金の剣は聖剣として相応しい物になる。
その剣の名は―――――
「
光が溢れ出す。その光はまさに王者が担うに相応しい栄光の光。
「うおっ!?」
「なんだっ、こりゃぁ!?」
相対していた二人はあまりに巨大な魔力の奔流によって視界が光で埋め尽くされる。それがただの光ではない事など見ただけで分かる。
「受けなさい!!この剣の一撃を!!」
風が吹き荒れる。少女の膨大な魔力に呼応して周りの空間ごと揺れ動く。
同時にナツもグレイもより強大な力の前に、怯むどころか闘争本能を燃え上がらせる。
「「上等!!」」
ナツは滅竜魔法の奥義を、グレイは氷の造形魔法の自身が使える中の最強の魔法で迎え撃つ。
「滅竜奥義、紅蓮爆炎刃!!」
「氷欠泉!!」
爆炎を伴った螺旋状の炎が、大量に出現した氷の間欠泉が王の光を飲み込むべく突き進む。
両者が正面から衝突した瞬間、光が弾けた。
『うわあぁぁぁぁ!?』
観戦していた周りの者達にも被害が出る程の衝撃が襲う。
「なんという威力の魔力放出なんだ・・・!?」
誰かが口から零した言葉の通り、それは常識を逸脱していた。
巻き上がった砂や埃が視界を塞ぐが、時間と共にそれらが晴れてくる。
「・・・全く、これは一体何の騒ぎなのかね?」
右腕に
皮肉な口調でため息を零しながらも、見慣れない存在に対しての警戒は忘れていない。
『エミヤ(さん)!!』
たまたま帰り時が宝具の真名解放と重なり、アイアスを投影して庇った。
「それで・・・君は一体
アイアスを消し、持ち替えた白黒の夫婦剣の切っ先を少女に向ける。
「・・・一体何なのでしょう。」
「・・・何?」
どこか悲しげな暗い表情を見せつつも、少女は言葉を続ける。
「そもそも私には過去の記憶が何一つないのです。何処で生きていたのかも、親や兄弟姉妹が居たのかも、自分の名前すらも持っていない。私が持っているのは誰の物かも分からない理想だけ。その理想を叶えるためだけに私は生かされている、そんな気がします」
「・・・」
奇しくも少女はエミヤによく似ていた。彼もまた生前とある転機を迎えた後は、憧れた理想を借りて走り続けた者だ。
故にエミヤなりに少女に思う所があった。
「剣を取れ。斬り合えば自ずと答えが見えて来る」
「それは・・・はい、分かりました」
再び黄金の剣を正眼で構え、顔だけは張り詰めて外見を繕う。だが内面に秘めた迷いは切り捨てられていない。
「ふむ・・・総長、これを持っていてくれ」
エミヤは買い出しで買ってきた荷物を総長に預ける。万が一被害が大きくなったとして、これを守れるのはおそらく彼だけだ。
「どうしたんじゃエミヤ?お主が他人にこう突っかかるのは珍しいのう」
「いえ、私にも少々思うところがありますので」
荷物を渡し、再び少女に向き合う。
「さて、では始めようか」
「行きますっ!!」
両者が神速で駆け出した。
白百合と紅が混ざり合い、黄金の剣と黒白の夫婦剣がその身を己の主と共に競い合う。
神速で振るわれる剣筋は残像となってそれぞれの色を光として放つ。
ぶつかるのは何も剣だけではない。
二人は己の曲げられない意地を貫くために斬り合うのだ。
だが少女が自分の理想を他人の理想と思って信じられないうちは勝ち目はない。
「どうした?その剣に君が負けているぞ」
「くっ」
少女は負けじと剣を振るう。その一撃一閃をエミヤは丁寧に捌く。
迷いのある剣戟は相手に真っ直ぐ届かず、結果的に少女の疲弊に繋がる。
それはエミヤも同じなのか、エミヤが隙を晒した。
「っ、やあっ!!」
そこにだけ真っ直ぐ少女の剣が届かされる。そこはエミヤが虚をつくために作った隙だ。エミヤは既に剣の通り道よりも上に跳んでいた。
「え?」
空を切った剣の後に投擲された夫婦剣が少女に迫る。
「この!!」
身体を捻った無理矢理な動きで剣を弾くが、それはエミヤの剣戟の一手に過ぎない。
「山を抜き、水を割り、なお墜ちることなきその両翼」
更に追加されて三対となった黒と白の鶴翼。それは相手から回避と反撃の選択肢を奪い、防御を強いる剣の結界。
事実少女は剣を捌くだけの余裕しかなくなった。
「すごい。これがエミヤの実力か」
まだ遠い高みに立つエミヤにエルザやラクサスといった妖精の尻尾の強者達は魅入っていた。
「ところで、君は与えられた理想をどう思っている?」
手に魔力が集まり形を創っている間のほんの一瞬。それを使ってエミヤは少女に投げ掛ける。
「っ、そんなの、決まってるじゃないですか」
少女は覆っていた夫婦剣を砕いて叩き落とした。ここ一番の見事な剣閃だ。続く翼は風の魔力放出で吹き飛ばす。
「人を救うための偉大な理想。格好良いに決まっています!!」
「そんな理想に私は憧れていたんです。でも私がここで折れたらその理想も折れて嘘になってしまいます。それだけは絶対にさせたくない!!」
魔術回路にを火を灯し、燃料を得たエンジンのように燃え上がり魔力を生成する。
少女が生まれつき持っている竜の心臓が空気を魔力に変換し、少女の魔力が更に膨れ上がる。
「そうだ。でなければ君は嘘だ」
魔力が形になり、エミヤは一振りの剣を担う。それは少女が持っている剣と同じ剣だった。
「ッ!?それは!?」
「君の剣、いやその贋作だ。だが贋作とはいえ君の剣、そしていずれ君が超えねばならない壁だ」
振りかぶられたお互いの剣に魔力が宿る。魔力の質は同等だ。全く同じ輝きを放っているのが証拠だ。
「行きます」
両者に緊張が走る。
「「
先程以上の衝撃と閃光が周りの人全てに降りかかる。
『うおぉぉぉぉぉッ!?』
二人が放った光が周りの被害を抑えるために一点集中であったため怪我人は居ない。
真正面からぶつかり合った剣は、一方を残して跡形もなく砕ける。
「見事だ。君の名はきっと後世にも語り継がれるだろう」
己が昔夢見た幻想が本物の幻想の前に砕け散ったのだが、彼は満足していた。
「ですが、私には名前が…」
「…セイバー・リリィ」
「え?」
「白百合の剣士という意味で付けた名だ。君に良く似合っているとは思わんかね?」
「…ええ、そうですね。その名前、有り難く頂戴します」
名前すら持たなかった少女が人としての存在意義を持った瞬間だった。
「はむッ、はふはふ、本当に美味しいですね!!」
「おかわりもデザートもある。慌てず食べなさい」
先程の激闘の熱も冷め、ギルドの一角で微笑ましい光景が広がっていた。
初対面であるにも関わらずエミヤはリリィの手綱を握っており、端から見れば兄妹や親子のような親密な関係なようにも見えるだろう。
「リリィちゃんか…いいな」
「ああ、かわいい」
また別の一角では、マカオやワカバ達親父組が微笑ましくはないが共通の話題で盛り上がっていた。
「お前やっぱすげぇ強ぇな、だが次は絶対勝つからな!!」
「そうだな。次があれば私も手合わせ願いたい」
リリィは妖精の尻尾の者達にも受け入れられていた。元々彼らが難しい人物達ではないこともあるだろう。
本人は何も語っていないが、リリィにとってこの瞬間が最も充実していたことは間違いない。
だがそんな時間も終わりを告げ、再び旅立たねばならない時が来た。騒ぎ疲れたギルドの前でエミヤとリリィが最後に出会う。
「もう行くのか?」
「はい!まだまだ未熟と理解しましたので」
「また迷いが生まれたら来るといい。君ならもう迷わないと思うがね」
「ありがとうございます!!それと、一つお願いがあるんです」
「何かね?」
「私はいつか立派な王になります。それで、その・・・その時になったら私の騎士になってくれませんか?」
月明かりが二人を照らす夜の下、汚れなき純白の頬をほんのり紅く染めた少女は男に対して純粋な想いを伝える。
「・・・そうだな。君の理想が叶ったら、私は喜んで君の下へ行こう」
その一言でリリィはここ一番の笑顔を浮かべた。
「はい!!私、絶対立派になって戻って来ます。待っててください!!」
リリィはそう言い残して夜の街から旅立って行った。暗闇の中でも少女は人一倍輝いており、暫くは目から離れなかった。
リリィが見えなくなると、エミヤは懐から煙草を一本取り出し、火を付けた。滅多に煙草を吸わないエミヤだが、彼が煙草を吸う時は決まって一人で感傷に浸る時だ。
「リリィ、いや『アレ』は何らかの原因で生じたバグのようなモノ。騎士王アルトリアをモデルにして生み出された幻想。世界の気まぐれで与えられた使命を存在意義とさせられ、それを成し遂げたら消滅する存在・・・か」
リリィのモデルとなった騎士王は『アルトリア・ペンドラゴン』として既に完成されている。故にリリィが騎士王になることはなく、世界は同じ存在を許さない。
「だがその使命を成さねば消える事はない。だからせめて他の楽しみを与えようと思っての行動だったが・・・やはり幼くても君は君のようだな・・・」
大切な者が出来てそれを失いたくないと願えば自ずと消滅から遠ざかるだろうが、それも有り得ない話になりそうだった。
灰皿に吸い殻を捨て、エミヤはギルドの屋根の一番上で腰を掛けて夜空を見上げる。
「忘れかけていたが、君はそうやって後悔しても前に進もうとしたんだったな」
思い浮かぶはエミヤシロウが衛宮士郎だったころ、何よりも輝いていた女性が最後に見せた輝き。
「ならばせめて、後悔をせずに生きろ。そうすれば
やがて夜に溶け込む紅も夜の闇に消え、今日という日もゆっくりと穏やかに終わりを告げた。
ここでこの話でのセイバー・リリィについての補足
かなりご都合が入っています。
セイバー・リリィ
ステータスやスキル、性格などはFGOと全く変わりません。
ただ原作のリリィがアルトリアの過去であり、自身について理解しているのに対し、ここのリリィはアルトリアの過去という器に本人の物ではあるが理想や願いを後付で流し込んで現界させられた物であり、自身の名前や実際に会った人間の名前がインプットされていない状態。
簡単に言えば記憶喪失状態で目標に向かって歩いている状態。
現界させられた理由はアルトリア本人と過去がかけ離れているため、別の英霊として作るために生み出して信仰を集めるため。はぐれサーヴァントに境遇が似ている?