Fate/Fairy Tail 錬鉄の英雄【無期限休載中】   作:たい焼き

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一年超えてないからまだ失踪じゃないよね?

GWだし9連休だし一話くらい投稿しないとまずいよね?

まだまだこんなペースが続きますが、気長にお待ち下さい


バトル・オブ・フェアリーテイル

 「・・・ここは?」

 

 妙に気だるさを感じながら男が意識を取り戻す。

 

 薬品の匂いが鼻の中から刺激を与え、男の朧げな意識をより早く現実に戻していく。

 

 部屋の隅々にまで染み付いてしまった薬品の成分が空気中に溶け込んでいるせいか、男が全身に負っている傷に滲みて僅かだが痛みを与え続けている。

 

 「同調開始(トレースオン)

 

 まだ意識が朦朧としてはいるが、現在置かれている状況を理解するには充分だった。

 

 全身を包帯でグルグル巻きにされて傷の処置がされていることから、ここは医療関係の施設でエミヤはそこで傷の手当をされて安静にさせられているのであろう。

 

 「しくじったか・・・」

 

 霊体を再構成して体中の傷を全快状態に回復させる。だがそれでは蓄積したダメージまでは回復しない。

 

 魔術回路も霊核もかなり傷ついており、しばらく無理は出来ないだろう。

 

 それらが回復しなければ戦闘行為はおろか、日常生活にも支障が出るかもしれない。

 

 巻いてあった包帯を強引に剥ぎ取り、いつもと変わらぬ赤い外套の装束に姿を変える。

 

 「ふむ、このまま体を休めておけばすぐに復帰できそうだな・・・」

 

 おそらく明日になれば誰か見舞いに来るだろう。その時に詳しい事情を聞けばいい。それまでは大人しくしておくしかないようだ。

 

 と思っていたが、どうやらそんな悠長な時間は無さそうだ。

 

 どうも良くない事が起こってるのではないかと胸騒ぎを感じた。幾多の経験から導き出された勘の類だが、こういう物に助けられた事は多い。

 

 勘だけではない。街の中の魔力がかき混ぜられたように不安定になっている。かなりの規模で魔法が行使されている証拠だ。

 

 「一番魔力が集まっているのは・・・これは神鳴殿が起動しているのか?」

 

 閉められていた窓を開けると、光と共にマグノリアの街に無数の球体が浮かんでいるのが確認できた。

 

 「馬鹿な!?あれは強力な雷の魔力を持った魔水晶(ラリクマ)だぞ!?まさかアレを街に落とす気か!?誰だそんな馬鹿げた事を仕出かした奴は!!」

 

 もはや安静などと言っている場合ではなくなった。アレの雷が落ちれば街は間違いなく消し炭。マグノリアに住む人々が生き残れる保証は何処にもない。

 

 「チッ・・・起動させた奴はどこだ・・・?そいつを見つけ出さない限りはどうにもならん・・・」

 

 強化の魔術を惜しみなく発動、全身に付与して身体能力を向上させる。代わりに魔術回路が焼き切れそうな悲鳴を上げてオーバーヒートを起こし、エミヤの全身から血が微量だが吹き出す。

 

 「グッ・・・保ってくれよ・・・」

 

 屋根から屋根へと跳び移りながら残像しか残さないくらい速く街を駆ける。その軌跡に紅の雫を零しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街の中心部に位置するカルディア大聖堂はマグノリアを代表する観光名所の一つだ。

 

 たった今、そこで繰り広げられている大激戦を除けば多くの人々が集まっていただろう。

 

 「ぐあッ!?」

 

 「ぐッ・・・!?」

 

 雷を纏い広い大聖堂内部を駆け回っているのはラクサス・ドレアー。現妖精の尻尾の総長であるマカロフ・ドレアーの実の孫であり、今回の騒動をバトル・オブ・フェアリーテイルと名付けて神鳴殿を起動させた張本人である。

 

 黒ずくめの服を着た男の名はミストガン。何かと謎多い男だ。

 

 だがこの二人は最強と名高い妖精の尻尾の中でもトップクラスの実力者である。

 

 今回の騒動の発端はラクサスの暴走が原因である。なにかと注目を集める妖精の尻尾はよく事件や事故を起こし、その度に雑誌や記事に取り上げられる。そしてそれが大衆の目に止まり、馬鹿にされる。

 

 ラクサスにとってそれが何事よりも耐え難い屈辱なのだ。

 

 だからそれを変える。自身が総長になって妖精の尻尾をより強く、より厳格な組織に変えることが彼の目的だ。

 

 「ラクサス!!」

 

 そこにナツとエルザの二人が乱入し、それに気を取られたミストガンが手痛い一撃を受ける。

 

 だがそれ以上にナツとエルザに走った衝撃の方が大きかった。

 

 顔を隠したミストガンの顔が、先日戦ったジェラールと瓜二つだったからだ。それによってミストガンが戦線を離脱、エルザも神鳴殿の対処に向かい、残ったナツがラクサスと戦うことになった。

 

 エルザは天輪の鎧を装着し、空中に大量の剣を浮かべて魔水晶の破壊準備をする。剣の数は二百に達するが、魔水晶の数はそれを上回る。やがてエルザ自身の魔力が底に尽きかけ、剣の出現が止まる。剣の出し入れにも制御にも多大な魔力を使うからだ。

 

 「くっ・・・同時に破壊するにはまだ足りんか・・・」

 

 魔力の消費と共に焦りが生じる。一つでも破壊し損ねれば街に雷が落ち、多大な被害が出る。それだけは避けなければならないからだ。

 

 「あと百本、それさえあれば・・・」

 

 今のエルザでは残り百の手段を用意することはできなかった。エルザだけでは。

 

 ―――――諦めるな、エルザ。

 

 ハッと顔を上げるとそこには今もっとも頼りにしたい男がいた。

 

 「力み過ぎだぞ。それではできる物もできなくなる」

 

 「馬鹿な・・・!?お前怪我がまだ治ってないはずじゃ・・・」

 

 楽園の塔の事件によって重症を負い、病院で絶対安静の状態だったはずだ。

 

 だがそんな様子は見られず、いつもの紅い外套の姿でエルザの前に現れた。

 

 「事情は大体だが把握している。空の神鳴殿の魔水晶を破壊すればいいんだろう?」

 

 「知ってるならやめてくれ!!あれには生体リンク魔法がかかって・・・」

 

 「知っているさ。だが手が足りないんだろう?」

 

 苦虫を噛み潰したような顔とはこういうことを言うんだろう。できると意気込んでナツに送り出されたのに結局はエミヤの力を借りることになる。

 

 「いいかね?まず剣を扱うのではない。それはできて当たり前だと思い込むんだ」

 

 ―――――投影、開始(トレース・オン)

 

 悲鳴を上げる魔術回路に更に無理を打って魔力を流す。この程度の無茶など生前に幾らでも乗り越えてきた壁だ。

 

 「――――憑依経験、共感終了。工程完了。全投影、待機(ロールアウト。オールバレット、クリア)

 

 次々と現れる無銘の剣達。飾りもなく無骨なデザインの物が多いが、これら全てが歴史に己の偉業や名声を書き込んだ英雄達の物だ。

 

 やがてそれらは百どころか軽々と三百を突破する。

 

 「す、すごい・・・」

 

 「いいか?君はこれすらも通過点だと思え」

 

 神鳴殿を完全に破壊準備が整った所でウォーレンの念波の魔法が届いた。そこから今までダウンしていた妖精の尻尾の魔導士達が復活して上空の魔水晶目掛けて魔法を放つと言い出した。

 

 「北の二百個は私がやる!!お前達は南の残り百個に集中、エミヤは無理するなよ?見ていてくれ!!」

 

 エルザの剣と様々な魔法達が空の魔水晶目掛けて殺到する。

 

 「フッ・・・悪いが、了承できんな」

 

 それら全てを打ち砕きながら空へと登る剣の群れがあった。エミヤがエルザに見せた剣達だ。エルザの剣を弾き、皆の魔法を無力化してもなお魔水晶を破壊しきれる数があった。エミヤがあの後も投影し続けた結果だ。

 

 やがてエミヤの剣が魔水晶を全て破壊する。術式のアラートには『エミヤ 三百個』と確実に表示されていた。

 

 それはつまりエミヤに人間三百人を殺傷できる魔法が集中するということだ。

 

 「グッ、オォォォォォッ!?」

 

 雷三百発が全てエミヤに殺到したのと同じ衝撃だ。常人ならば即死どころかオーバーキルだ。

 

 「エミヤ!!」

 

 そばにいた無傷のエルザが駆け寄って来る。

 

 「お前、一体何であんな無茶を!?馬鹿なのか!?」

 

 「ああそうだな・・・たまには馬鹿になってみるのも悪くないぞ」

 

 「こんな時にふざけてる場合か!!」

 

 『おい!!一体どうなってるんだ!?そっちはどうなってる!?』

 

 などと言い合っていると、ウォーレンの念波から様々な声が流れてくる。

 

  「エミヤが生体リンク魔法の反撃を全部庇った!!おかげでエミヤが黒焦げになっている。今すぐ治療の用意をしてくれ!!」

 

 『なんだって!?分かった、すぐやる!!』

 

 それを聞いたと同時にエミヤの意識は途切れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな騒ぎがギルドを中心にして起こったが、収穫祭は問題なく行われた。怪我人ばかりであったこと以外は例年通りに行われ終了した。

 

 バトル・オブ・フェアリーテイルと呼ばれたラクサスのクーデターはラクサスと雷神衆の敗北という形で幕を閉じた。

 

 それによってラクサスはマスター・マカロフによって破門を通告された。雷神衆がお咎めなしの理由はラクサスが全ての責任を取ったからである。

 

 魔法の花火が夜空を彩り、ギルドの魔導士達がパレードの中心で己の才を用いて街の人々に歓喜の渦に巻き込んで共に騒ぐ。

 

 雷神衆と妖精の尻尾という家族に見守られながら、ラクサスは己に出来た分岐路を歩んで行くのだろう。そして今度こそは正しい方向に進むであろう。

 

 街の騒ぎが聞こえなくなる程度に離れたとある街道。月と星だけが前を照らしているこの場所でラクサスはふと歩みを止めた。前が見えなくなったわけではない。会わねばならない男と鉢合わせしたからだ。

 

 「ラクサス・・・」

 

 「そういえばアンタには何も言ってなかったな、エミヤ。神鳴殿の雷を全部受けて倒れたって聞いていたんだが・・・」

 

 覚えている限りでは黒焦げになっていた全身を包帯でグルグル巻きに拘束され、指一本動かせないようにされて安静状態になっていたはずだった。

 

 「いやなに、折角の旅立ちだ。見送りの一つくらいはしておかなければ次の目覚めも悪いのでね」

 

 「そうか・・・アンタにはたくさん迷惑を掛けたな」

 

 「構わんさ。それより君ももう飲める歳になってたな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アンタこんないい家持ってたのか・・・」

 

 エミヤの家はこの辺りでは珍しい東洋風の一軒家だ。それもかなり広い敷地に建てられた武家屋敷という物だ。

 

 実際に本人を除いても十数人は生活できるスペースはあるだろう。

 

 「確かにコレを建てたのは私だが、モデルは私が以前住んでいた家でね。それは養父が購入した物だよ」

 

 居間に置かれた少し広めのテーブル。そこにラクサスとエミヤの二人分の席と食器が置かれている。

 

 「以前というよりは生前だがね。微かに残った記憶を頼りに設計した」

 

 「・・・アンタは既に一回死んでるって聞いたが本当なんだな」

 

 「そこからとある物好きが私を召喚して、こうしてここにいるわけだ」

 

 机の上に土鍋と酒瓶が置かれる。どちらもラクサスにとっては珍しい。

 

 「酒は私の故郷の物に近い物を取り寄せた物だ。鍋の中身は寄せ鍋といって作る人や土地によって個性が出るが味は保証するよ」

 

 香ばしい匂いが漂う鍋の中に入った出汁には野菜類や大豆を使った加工品に練り物や海鮮類などが浮かんでいた。

 

 それらから適当な具材を取り分け口に運ぶ。出汁が染み込んで柔らかくなった具材は温かくて体に染み渡る味をして妙に安心する。

 

 酒も少し酒気と苦味が強いが悪くはないし、癖になりそうな不思議な味だ。

 

 「・・・美味い」

 

 「だろう?私の祖国はこういう味が美味い国だったからな」

 

 「アンタの国ってどんな国だったんだ?」

 

 そうだな、と少し思考を巡らせる。

 

 「歴史はそこそこ長いが時代が動く度に文化が様変わりしてな、あれほど周りに合わせるのが上手い国もそうはないよ。もっとも、二十歳になるころには既に国を出ていたがね」

 

 何があったんだ?と尋ねるラクサス。それがエミヤの根底に関わることになると知ってだ。

 

 「私は英霊としては格が低い。世界と契約しなければ座に登録されることもなかった無名達の代表者でね。とある願いを叶えてもらう代わりに人類が絶えるまで守護を担っているんだ」

 

 「アンタほどの強者でも叶えられない願いがあるのか?」

 

 「もちろんだとも。仮に一騎当千の実力を持っていようが、巨大化して圧倒的な力を手にしようが、人間一人の力は世界にとってはちっぽけな物だ。一人では世界を変えられないってことは忘れてはいけない」

 

 自傷気味に言葉を続ける。

 

 「ならアンタの願いって一体なんだ?圧倒的な力ってわけでもなさそうだが」

 

 「・・・それは私の起源に関わる話だが、今は割愛するぞ。」

 

 酒を一杯口に運ぶ。お互いにいい具合に顔が赤くなってきていた。

 

 「私はな、正義の味方って奴になりたかったんだ。ほらよく子供向けの話があるだろう?弱きを助け強きを挫くってありふれた物語。あれにいい年になっても本気でなりたかったんだ」

 

 「なれなかったのか?」

 

 「そうだな。少なくとも私一人ではどれだけ歩み続けても、どれだけ己を売っても成し遂げられないだろうな」

 

 でなければ今頃病死や事故死以外での人死には無くなっているだろうさ、とエミヤは言った。

 

 「―――――私は国を出る時に多くのものを切り捨てた。姉のような人も、慕ってくれた後輩も、大恩を返していない師匠も、たった一人残された姉も、交友のあった友人達や知人達も、そして、こんなオレ(・・)を愛していると言ってくれた女性さえもな」

 

 「そして得られたのが・・・オレを象徴する力と人殺しが上手いという事実に切り捨てた小数の命、いや多くの血によって染められた手だけだったよ」

 

 止まったかのような静寂な時。家の中の明かりとまだ温かさを保つ鍋から出た湯気だけが時間の流れを示している。

 

 「・・・だからか、アンタは昔からよく言っていたよな。仲間や家族は決して手放すな、と」

 

 「オレみたいなろくでなしは一人で十分だろう?」

 

 「過激だと思うがな」

 

 「奇遇だな。悪くはないと思うがね」

 

 お互いにキュッと最後の酒を飲み干す。

 

 「分かったよ。もう間違えない」

 

 「そうだな。今のお前ならそうだろうな」

 

 ラクサスが立ち上がる。その目はより一層輝いていた。

 

 「あとひとつ、ちょっとした情報だがな・・・お前の父親、イワンには近づくな。アレの妖精の尻尾に対する憎悪は並ではない」

 

 「・・・」

 

 「あの男は使える物はなんでも使って妖精の尻尾を潰しに掛かってくるだろう。お前の中の魔水晶はいい軍資金になるだろう」

 

 「・・・分かった。世話になった。アンタも達者でな」

 

 少しずつだが負の方向へ運命が進んでいることははっきりと分かっている。最近バラム同盟の六魔将軍の動きが活発なのもそれの前哨戦だろう。

 

 「あとこれ、弁当だ。旅先で食べるといい」

 

 「アンタのそういうオカン気質は抜けねーな」

 

 「せめて執事(バトラー)と言ってくれ」

 

 これはラクサスにとっての通過点だ。彼はきっと今よりもっと強くなる。そう妖精の尻尾の全員が信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠い荒野と森の境目付近

 

 世間で六魔将軍と呼ばれる者達がそこに集結していた。

 

 「間もなくです。間もなく我らが悲願は叶います。それはきっと王も気に入ることでしょう」

 

 メンバーの頭脳役として知られるブレインという男が上下関係のほぼ無いこのギルドではありえない臣下の礼を取っていた。

 

 「くだらん。興味も沸かんが、貴様らが臣下として礼儀を尽くす以上、相応の報奨はやらねばなるまい」

 

 「勿体なきお言葉です」

 

 「貴様らが探しているというニルヴァーナとかいうものを探し出し、貴様らが手に入れるまでは貴様らに力を貸そう。そこからは知らんがな」

 

 王と呼ばれた者は興が冷めたのか、すぐにその場から消え失せた。

 

 その溢れ出る魔力は個人で圧倒的な力を持つとされる六魔将軍の一人一人を軽く超えていた。ブレインの内側に潜むもう一人のものさえも。




最後の王って呼ばれてる人物ですが、言ってしまうとサーヴァントです。

まあオリ鯖じゃないから大体察しは付くと思います。

ヒントはエミヤに縁がある王のサーヴァント。FGO含めたら何人もいるけどね。

例によってこれについての感想欄での発言は控えていただけると幸いです。

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