Fate/Fairy Tail 錬鉄の英雄【無期限休載中】   作:たい焼き

3 / 25
妖精の尻尾

 この世界に召喚されてからかなりの時が流れた。

 

 自身で調べたことと聖杯からの知識によってこの世界の実情が大体だが把握出来た。

 

 まずはこの魔法に満ちた世界は別次元でも並行世界でも無く、オレが生きていた世界の延長線、要するにオレが生きていた西暦の時代の未来というわけだ。

 

 それに加えてこの時代には既に聖杯は存在していなかった。正しくは破壊されたようである。

 

 まあ犯人は大体予測出来ている。汚染された聖杯の危険性を理解している者は聖杯戦争に参加した者の生き残りしかいない。遠坂や第四次聖杯戦争にライダーを召喚したロード・エルメロイ二世辺りであろう。

 

 それと同時に起きた紛争・反乱・戦争等の戦乱によって、人類の文明は一度著しく衰退したようだ。

 

 それによって人間の叡智であり唯一の功績とも言うべき科学技術は軒並み廃れて行き、やがて消滅することになった。

 

 通常ならば人類の守護精霊であり、最高位の人を守る力でもあり、滅びの要因を排除する殲滅兵器『抑止の守護者(カウンター・ガーディアン)』であるオレが召喚され、戦争の原因となった者達全てを抹殺するはずなのだが、オレは、いや世界は動かなかった。

 

 これだけは幾ら調べようと分からなかった。元々人の手が及ばない故にその実を知る術がないからだろうが、文献自体が存在しなかった。だが掃除屋としての仕事をしなくて済んだ点で言えば幸運と言える。

 

 これによって人間、ここでは旧人類と表すが、それらはほぼ死に絶えた。

 

 戦乱が起きた辺りである21世紀の五分の一が過ぎた辺りからの歴史は全て抹消されており、探しても見つからなかった。

 

 だが受け継がれた物もあった。それは伝承。過去の英雄達の伝記や記録は残されていた。

 

 おそらく希望に縋りたい難民や戦争を引き起こし後悔した愚か者達が、信仰の対象として崇めた結果、現代の文明が廃れても本として言葉として人の記憶の中に残り続けたのだろう。

 

 今オレが二度目の生を謳歌している時代は、歴史が止まった時代からおよそ700年後。

 

 オレが生きていた当時は秘匿とされていた魔術は、聖杯が破壊され中身の膨大な魔力が溢れ出たことにより秘匿が不可能となった。苦肉の策であろうが魔術協会の手によって残された人々の中の素質がある者に魔術その物を、知識は全ての者に受け継がれ、人々の努力によって昇華。魔法となって科学の代わりに人々の生活になくてはならない物となった。

 

 魔法が存在することすら驚きだが、魔法が普通に売り買いされているのは、オレが生きていた頃から見れば有り得ないことだ。

 

 だがそれが存在している以上、人の可能性と努力の結果には賞賛せざるを得ないだろう。

 

 さて、歴史の語り部はここまでにして、オレ自身の話をしようか。

 

 今のオレはギルドと呼ばれる一種の組合に所属している。オレが所属しているのはその中でも魔法を扱う者達である『魔導師』が集う魔導師ギルド。

 

 その中でもより強大な力と数々の問題児を抱えたギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』に所属している。

 

 その昔、妖精の尻尾が創立された当初に生まれた疑問『妖精に尻尾はあるのか無いのか?』答えの無い問いは永遠の謎故に永遠の冒険を生むために付けられた名だ。オレもこの名は気に入っている。

 

 オレと契約したマスターとはとある事情によって離れ、現状は単独で行動している。

 

 マスターと離れることで繋がりが薄れ、魔力不足による霊体の維持が困難になると思われていた。

 

 だがサーヴァントであるオレにとっての死活問題である魔力供給に問題は無かった。

 

 聖杯からの魔力供給によるバックアップはこの時代では無く、オレをこの時代に飛ばした過去の破壊される前の聖杯から行われているようだ。

 

 それにアースランドの空気に含まれる膨大な魔力。聖杯から溢れた魔力が浄化された物であるそれは、サーヴァントであるオレの現界に必要な最低限の魔力を常に供給していた。

 

 これによりマスター不在による魔力供給は問題無くなり、安定することになる。

 

 オレもこれで二度目の生を堪能出来るという物だ。実際にマスターはかなり手が掛かったから世話から解放されたのは素直に喜ぼう。

 

 む、何処からか殺気が・・・気のせいだといいが、マスターをあまり怒らせるべきではないな。どこぞのうっかりのように絶対服従命令を下されるわけにもいかん。

 

 このまま話し続けるのも構わないのだが、そろそろ視点を精神から現世に戻してもいい頃合いだ。

 

 もうすぐギルド一の問題児が帰ってくるようだしな。やれやれ、今回も厄介な場所に召喚されたが、不思議と後悔はしていない。むしろ充実していると言えるのが救いか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前はルーシィ。今はハルジオンの街で出会った少年『ナツ』に連れられて憧れの魔導師ギルド『妖精の尻尾』のギルドに向かっているところ。

 

 本拠地にあるマグノリアの街中で一際目立つギルド名が刻まれた看板と大きな門に迎え入れられる。

 

 「ようこそ妖精の尻尾へ」

 

 ナツと一緒に着いてきた猫のような何かである『ハッピー』の声が聞こえる。

 

 誘われるままに門をくぐった先には、憧れていたギルドの内面が広がっていた。

 

 「ミラちゃーん!!こっちビールみっつお願い!!」

 

 「はいはーい」

 

 「ミラちゃん、今度デートしてよ。」

 

 「あ!ズリィ。抜け駆けすんなよ!」

 

 「もぉ・・・。貴方、奥さんいるでしょ?」

 

 「どわーっ!!うちの嫁なんかに変身するなよォ!!」

 

 活気付いた酒場のような広間の真ん中で忙しなく動き回る女性は、銀髪に何処かで見たような整った顔。そして、瞬時にほかの人の顔に形を変える魔法接収(テイクオーバー)

 

 「ただいまー!!」

 

 私がギルドに見惚れている内に、ナツは酒場の中に入って行き・・・

 

 「てめぇ!!火竜(サラマンダー)の情報嘘じゃねぇか!!」

 

 ナツがギルドで酒を飲んでいるメンバーに蹴りを入れ、それが火種となってギルド中に浸透していき、いつの間にか乱闘になっていた。

 

 「な・・・なによコレ・・・まともな人が一人もいないじゃ・・・「あらぁ?新入りさん?」」

 

 私が巻き添えを怖れて遠巻きに眺めているところに歩いて来た女性。先ほどまで忙しなく動いていた『ミラジェーン』だった。

 

 「は、はい。なんとかですけど。」

 

 「うふふ・・・まずは自己紹介といきたいところだけど、先にちょっと静かなところに行きましょうか。」

 

 ミラジェーンさんが指差して示した場所。厨房とカウンターがひとつになったバーのような一角。そこだけ被害が一切なかった。まるでそこを傷付けるのを怖れるように皆が避けていた。

 

 「ふむ。それは正しい判断だミラ。新入りの子にこれは些か騒がし過ぎる。」

 

 そこで料理を作っていた人。ナツは燃え盛る熱い炎のような心を素で見せていたけど、この人は冷静で冷たい雰囲気を見せているけど、その奥ではナツ以上に熱い何かを隠している気を直感だけど感じる。

 

 「私はエミヤ・シロウと言う。エミヤでもシロウでも好きに呼びたまえ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は、はい!!私はルーシィと言います!!」

 

 ふむ。相当緊張しているように見える。

 

 「そんなに畏まらなくていいさ。気持ちを楽にしたまえ。」

 

 「えと・・・はっ、ア・・・アレ止めなくていいんですか?」

 

 「いつもの事だからぁ、放っておけばいいのよ。」

 

 「あれだけの騒ぎを止めるには労力を使うからな。自然消滅するならそれが一番だ。」

 

 「あららら・・・」

 

 幸いこの辺りにまで被害は来ない。止めるのは魔法を使い始めてからで遅くない。

 

 と言っていると騒ぎに腹を立てていた酒豪のカナが魔法を使い始める。それがきっかけとなり続々と魔法を使い出そうとする者が現れる。

 

 「あらあら、これは少し、」「マズいな。」

 

 オレも投影の準備を始めようとする。この時代ではすっかり廃れてしまった魔術。だがそれでも失われた魔法(ロストマジック)の一端だ。

 

 あまり使いたくはないが手持ちがない故仕方がない。

 

 投影を開始しようとしていたその時だった・・・

 

 「やめんかバカタレ!!」

 

 一喝で騒ぎが全て収まる。流石は我らが総長(マスター)マカロフ。やはり気迫が違う。

 

 「む、新入りかね?」

 

 最後まで調子に乗っていたナツが踏み潰される。

 

 「は、はい。」

 

 巨人サイズであったマスターはルーシィに近づくと風船のように萎んでゆき、最後には小人サイズにまで縮んだ老人の姿になる。

 

 「よろしくネ。ミラよ。ギルドの紋章をルーシィに。」

 

 「え!?試験とかそういうのは無いんですか?」

 

 「ルーシィ。このギルドにそんな物はない。正しい信念と理想を持っている者を求めているのだからな。」

 

 「そうじゃ。ナツが連れてきたというのなら間違いはないじゃろう。」

 

 マスターが二階の手すりに飛び乗る。頭をぶつけて悶絶するというトラブルもあったが・・・

 

 「ま~たやってくれたのう貴様等。見よこの評議会からの苦情の束を。ワシはまた裁判所に行かんといかんぞ。」

 

 (またか。今も昔も変わらないマスターの悩みだな。)

 

 「まずはグレイ。密輸組織を検挙したまではいいが・・・その後街を素っ裸でふらつき、挙句の果てに干してある下着を盗んで逃走。」

 

 「いや、だって裸じゃマズいだろ。」

 

 たわけ。まずは裸にならない努力をしろ。

 

 「エルフマン!!貴様は要人護衛の任務中に要人に暴行。」

 

 「『男は学歴よ』なんて言うからつい・・・」

 

 気持ちは分からなくもないが、要人への怒りを抑えるのも仕事の内だ。

 

 「次っ!!・・・」

 

 最終的にミラ以外の全員がお叱りを受けることになる。

 

 そして最後に、ナツが一番多いお叱りと苦情をもらっていた。ナツよ。お前はもう少し、理性のコントロールを覚えるべきだ。

 

 「貴様らァ、ワシは評議会に怒られてばかりじゃぞぉ・・・」

 

 マスターは怒りに体を震わせている。

 

 「だが、評議会なんぞクソくらえじゃ。理を超える力はすべて理の中より生まれる、魔法は奇跡の力ではない。我々の内にある”気”の流れと、自然界に流れる”気”の波長があわさり、はじめて具現化されるのじゃ。それは精神力と集中力を使う。いや、己が魂すべてを注ぎ込むことが魔法なのじゃ、上から覗いてる目ェ玉気にしていたら魔道は進めん、評議員のバカどもを怖れるな。」

 

 そうだ。これが妖精の尻尾が妖精の尻尾である唯一無二の信念。妖精の尻尾をここまで強くしたマスターの信念。

 

 『自分の信じた道を進めェい!!それが妖精の尻尾の魔道士じゃ!!』

 

 そして湧き上がるのは喝采。これがこのギルドの在り方だ。

 

 「さてルーシィ。今ならまだ引き返せるぞ。ナツに認められる君ならば、他のギルドでも充分な結果を出せるだろう。ここのようなろくでなしも少ないだろう。それでもなお、このギルドに入ろうと思うかね?」

 

 「えっと・・・それは・・・」

 

 しばらくの静寂の後、ルーシィはゆっくり口を開く。

 

 「例えそれでも、私が憧れたギルドということに間違いないから。」

 

 「ふむ、いい目だ。ミラ。ギルドの紋章を与えてやれ。」

 

 「分かったわ。」

 

 「さて、私はこの破壊された酒場を直さねばな。」

 

 床や壁には穴が空き、机や椅子はバラバラに壊され、柱の幾つかも歪んでいる。

 

 「やれやれ。もう少し自重という者を覚えて貰いたいところだがな。」

 

 オレは右手にトンカチ、左手に鋸を持ち、作業着に着替えて酒場に立つ。

 

 「まぁ良い。私を満足させたくばこの3倍は持ってくるがいい!」

 

 その後、修繕をものの数分で完璧に修繕したオレはなんとも言えない達成感に満たされた。




次にアーチャーの設定を投稿したら、しばらくは別作品を書こうと思います。

モチベ次第でこっちが先かもしれないけれど

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。