King's Souls ~二人の王子の物語~   作:ヨイヤサ・リングマスター

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第十六話:剣は人のために

 ヴァーダイト王国を出たアリオナとライルは知らせを受けてすぐにボーレタリアに向かった。

 

 だがボーレタリアから発生した色のない霧の広がる速さは予想以上であり、二人が予想していた場所よりも早くに霧の壁と遭遇した。

 

 

「ライル、行っておくけどこの霧の先に進んだら元凶を何とかしない限り外には出れないよ」

 

 

 霧の壁の目の前で一旦止まったのだがこの先から感じる恐ろしい気配を肌で敏感に感じ、背中に一筋の汗を滴らせるアリオナ。

 

 そんなアリオナとは裏腹に、ライルはこの状況にそれほど恐怖はしていないようだ。

 

 

「俺はお前に出会い、国を救われ、俺自身も救われたんだ。

 人間いつか死ぬならお前のために死ぬなら俺にとって死は恐怖の対象ではない。

 ……つっても俺が死ぬわけないけどな」

 

 

 言葉の最後に少しばかりおどけて言うライルだが、その言葉は本心なのだろう。

 

 アリオナは自分一人だったなら心が折られていたかもしれないと思い、この頼もしい友人の言葉に励まされ、二人は一緒に霧の中に入って行った。

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

「どうやらボーレタリア王城へは真っすぐ来れたみたいだね」

 

 

「へー、ここがボーレタリア王城か。

 ヴァーダイトの城よりもずっとデカいんだな」

 

 

 霧の中とはいえ、地理まで変わるわけではないのでアリオナの案内のもと、二人は一直線にボーレタリア王城へと向かった。

 

 ヴァラルファクスが霧の発生をアリオナに伝えてからまだそれほど日数は経っていないためか王城もそれほど荒れてはいなかった。

 

 ただ一つ違うとすれば、人の姿はどこにも見当たらないところだろう。

 

 

「こんなに大きな城だってのに人っ子一人いないなんてすでにデーモンに襲われてんのか?」

 

 

「分からない。

 ただ周囲に荒らされた様子はまだないし突然のデーモンの襲撃に体制を立て直すために一旦退いたのかもしれない。

 そうしたらデーモンが去って行ってくれたのかも」

 

 

 もちろんこれはアリオナの希望的観測だ。

 

 城壁や石畳など、巨大なデーモンの襲撃を受けた破壊跡は見受けられないが多量の血痕が残されている。

 

 ……きっと戦う間もなく一瞬で食い殺されたのか、もしくは襲ってきたのはあまり身体の大きくないデーモンなのかもしれない。

 

 

キィィィーン

 

 そんな事を考えていたアリオナの思考は突然鳴り響いた剣戟の音によって試行を中断させられた。

 

 

「誰か生き残りが戦ってるのか!」

 

 

「音はこっちからみたいだ。

 行こうライル」

 

 

 二人は音の鳴るほうに向かい走り出す。

 

 そして普段は固く閉ざされているはずが、開きっぱなしになっているボーレタリア王城の城門をくぐるとそこには一人の女性がデーモンと思しき存在と対峙していた。

 

 

「はぁぁぁぁー!」

 

 

キィィィーン

 

 気合いの掛声とともに接近してからのキリジによる攻撃を繰り出し、しばらく斬撃を繰り返すと後退し弓矢を射る。

 

 だが傍目にも分かるほどにその女性は疲弊していた。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 

「ウーラン!」

 

 

 アリオナはその背中に見覚えがあった。

 

 城にいた時は周りの大多数の大人と違ってアリオナを一人の人間として見てくれていた地位や権力に縛られない誰よりも自由な女性騎士。

 

 そのウーランはアリオナの声に振りかえる。

 

 後ろからは分からなかったがその体は血で染まり、美しかった髪も血で黒ずんでいた。

 

 

 その様子を見たアリオナは駆け出す。

 

 そして盾と槍を構え、全方位を完全防御するデーモンに自身のバキュラシアソードを叩きつけ、注意を引き付けてすぐ背後から走り寄ってきていたライルを振り向くと小さく肯いた。

 

 その様子を見ただけでライルはすぐにアリオナの意思を理解し、デーモンではなくウーランに駆け寄る。

 

 

「肩を貸す。

 ここはアリオナに任せてあんたは下がっていてくれ」

 

 

「そうはいくか!

 あたしはこの国の騎士として! 三英雄のひとりとして! 守るべきアリオナ様が戦われているのに退くなんてこと出来るか!

 あんたが誰かは知らないけど、あたしはこの程度で折れるほど弱い心はしてないんだよ!」

 

 

「無茶すんなよ。

 あんたは魔力も切れてるみたいだしここはアリオナに任せろって。

 あいつすっげぇ強くなってるんだからよ信頼してやれよ」

 

 

 これまでの戦闘で疲れ切っていたウーランは無理矢理引きづっていくライルに抵抗してみるが、その抵抗も空しくライルに担がれてデーモンの攻撃範囲から離れる。

 

 

 それを視界の端で見ていたアリオナはそれまでの防御一辺倒だった戦闘スタイルから攻撃に転じた。

 

 

「せいっ!」

 

 

 アリオナの新しい剣、バキュラシアソードは攻撃力こそ並よりも少し上といったレベルのものだがその特性は『浄化』にある。

 

 悪しきものを浄化し、魔を払う聖なる水の加護を受けた剣。この剣はアリオナの意思を実に理解し、デーモンが相手であっても無闇に苦しめることもなく、その魂(ソウル)を浄化して清めていく。

 

 

「これで終わりだよ。

 デーモンの世界に帰るんだ」

 

 

 アリオナの剣は一度振るうだけでデーモン『ファランクス』の身を守っていた『はぐれファランクス』を何匹も浄化していき、最後に残ったファランクスも、その身体に吸い込まれるように突き刺さったバキュラシアソードの一撃により浄化された。

 

 

「俺の出番は今回は無しか。

 アリオナの奴、すでにあの剣を完全に使いこなしてるな」

 

 

「アリオナ様がここまで強くなってるなんて……」

 

 

 ライルに担がれたままアリオナの戦いを見ていたウーランはボーレタリアを出る前とは比べものにならないほど強くなっているアリオナに対して驚きとともにある感情が心を埋め尽くしていた。

 

 国が崩壊の危機だというのに不謹慎ながら嬉しいと感じざるをえなかったのだ。

 

 兜を脱いだアリオナの髪から滴る汗も日の光によって輝きを増している。

 

 この状況を見た人間ならウーランでなくともアリオナのことをこう言うだろう。

 

 “英雄”と。

 




 ウーランが『ファランクス』相手に『炎の嵐』を使わないのはそれまでの戦闘でMP切れということで。

 さすがに炎の嵐が使えるのにファランクスごときに苦戦する人なんていませんからねw

 そして今回はだいぶ真面目に書いたので、次話は嘘エンドです。

 この話をギャグにしたものを書いてみました。

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