King's Souls ~二人の王子の物語~   作:ヨイヤサ・リングマスター

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第一話:巣立ち

 北の大国ボーレタリア王国が色のない霧に包まれる前のこと。

 

 この国の王子は一人ボーレタリアの南に位置する国に次期王となるための修行の旅に出ようとしていた。

 

 ボーレタリア王国では王になるためには肉体的にも精神的にも『強さ』を必要とされ、それは王家の人間の義務でもあったため、王子も自分が旅立つことを当然と考えていた。

 

 現王の父も息子を旅に出すことを当然と考えていた。

 

 しかしこの国の英雄としても称えられる『王の双剣』と呼ばれる二人の騎士のうちの一人はその旅路に心配の色を隠せなかった。

 

 

「陛下、やはりアリオナ様一人で旅に出すのは危険なのではないでしょうか!

 アリオナ様は確かに優れたお方ですし剣の腕は今やどの指導官をもうならせるまでに成長しましたが、まだ一人旅がこなせるとは思えません。

 それにこの旅はお忍びで素性を隠しての旅なのですから危険も多いと思われます」

 

 

 つい今しがたこの国の諸侯を集めて開かれた会議で王子が修行の旅に出ることが決まり、その会議室から諸侯達が立ち去る中、騎士ビヨールは最後まで部屋に残り王と二人きりになったあとも同じことを繰り返すのだった。

 

 ビヨールはこの国の王子アリオナが幼い頃から剣術指南を担当してきたこの国で知らぬ者無き真の英雄なのだが、そのためか王子に対して過保護なところが目立つ。

 

 

「しかしこれはもう決まったことだ。

 王家の決まりとして本人が望んだ時に次の王となるために一人旅に出るのがこの国のならわし。

 アリオナは自分で望んで旅に出るのだから温かく送り出してやってはどうじゃビヨールよ」

 

 

 ボーレタリア王国第十二代国王オーラント王は息子の旅には賛成している。

 

 それは王だけでなくこの国の諸侯連中も全員賛成な上に息子自身が望んでいるのだからオーラントにはビヨールが今更反対する過保護さに溜息をもらしてしまうのだった。

 

 

「たしかにアリオナ様は幼い頃と比べればずいぶんと立派になられました。

 しかしそれでも一人での旅というのは私にはどうしても心配なのです!

 陛下、やはりせめて成人するまでは先送りしてもよいのではないでしょうか?」

 

 

「……ビヨールよ。

 そなたの余に対するその忠誠心は嬉しく思うがアリオナを幼い頃から今日まで騎士として厳しく育てる中で目が曇ってきたのではないか?」

 

 

 オーラント王はアリオナが生まれた時から政務に忙しかったため、自分よりも面倒を見てくれていたビヨールが息子からもう一人の父と言われるほど慕われているのを知っていたがここまでとは思っていなかったのだ。

 

 

「ビヨールよ。

 あの子は強い子だ。

 そろそろ一人立ちする時が来たのだ。

 お前の気持ちもわかるがアリオナのしたいようにさせてやってはどうだ」

 

 

「しかし……」

 

 

 ビヨールは口ごもったが自身でもそれが正しいことだとは分かっているのだろうし、アリオナのためを思うならここで笑顔で送り出してやるべきだと思う。

 それでもこれまで面倒見てきた自分の主君のあとを継いでこの国の王になる存在にしていまだ未婚の自分にとっても息子のようなアリオナを心配する気持ちが捨てきれなかった。

 

 

 ビヨールは結局答えを出せないまま悩んでいると部屋の入り口にはアリオナが立っていた。

 

 どうやらこの話を聞いていたようだ。

 

 

「ビヨール。

 話は聞いていたけど僕はこの国の王となるためにも旅に出なくちゃいけないんだ。

 この国のためにも旅にすら出ないで王になったら他国にも示しがつかない。

 だから僕の旅路を祝福してくれないか?」

 

 

 もちろんビヨールは祝福したいと思っている、アリオナが自分の手を離れて巣立っていくのは幼い頃から側に仕えていた自分にとって何よりも素晴らしいことなのだ。

 

 ……もちろんその気持は変わらないがそれでもアリオナが心配な気持ちも本当だ。

 

 

「父さんにも散々止められたけどやっと説得したところなんだ。

 だからビヨールにも認めてほしい。

 僕が一人前になるために」

 

 

 アリオナにそう言われてようやくビヨールはハッと気づいた。

 

 陛下も父として悩んだに違いないと。

 

 それでも最後には最愛の息子を送り出す決意を決めたというのにそれを自分ごときが反対するなど、陛下に対する侮辱だと今更ながらに気づいたビヨールは自分の発言を悔やんだ。

 

 

「陛下、アリオナ様、申し訳ありませんでした。

 私としたことが目を曇らせてしまっていたようです。

 この愚か者をお許しください」

 

 

「何よりも忠実なる真の騎士ビヨールよ。

 そなたの進言は実に余のため、アリオナのためを思う意思にあふれておった。

 その事を罰するつもりなどない。

 ただ一緒にアリオナの旅路を祝福してくれればよいのじゃ」

 

 

 ビヨールは感涙した。

 

 唯一無二たる自身の主に対する出過ぎた行いを咎めるでもなく、その包み込むような慈愛に。

 

 そしてその包み込むような慈愛は息子たるアリオナ王子からも感じた。

 

 いずれこの国を背負って立つ身、それがどれほどの苦悩の人生となるのか王の側に長年仕えてきた自分がよく知っている。

 

 だからこそ自分は王子のために温かく送り出してやることが大切だと思った。

 

 

「アリオナ様。

 これから先の旅は険しく、先の見えない迷宮のように感じることがあるかもしれませんが、私はいつでも貴方様のために存在しています。

 だからこそ貴方様のために遅れながらも祝福をさせてください」

 

 

「ありがとうビヨール。

 では僕は明日予定通り出発する。

 今まで育ててくれてありがとう」

 

 

 アリオナももう子どもではないのだ。

 

 そんな彼の、一人の男の決めた生き方なら応援しよう。

 

 決意を新たにし、ビヨールは部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

 ~翌朝、王城入口~

 

 見送りは少ない方がいいとアリオナ本人が言うので送り出すのは父であるオーラントとビヨール、そしてボーレタリアの三英雄メタス、アルフレッド、ウーランだけだ。

 

 もう一人の『王の双剣』のヴァラルファクスはオーラント王がアリオナ王子の見送りで少しの間抜けるのでその代わりとして政務に勤しんでいる。

 

 こればかりは同じ『王の双剣』であるビヨールにもできないことである。

 

 

「父さん、みんな……それにビヨール。

 行ってくるよ」

 

 

「行って来い我が息子よ。

 この旅がどのような結果になっても悔いの残らないようにするのじゃぞ」

 

 

  オーラント王は笑顔でうなずき、実に嬉しそうな表情だ。

 

 

「アリオナ様ぁぁぁ~!

 このビヨールは貴方様のそのお姿を見れただけでこれまで生きてきたかいがありましたぞぉぉぉー!」

 

 ビヨールは涙を流し、それを見かねて隣にいたメタスがハンカチを渡し、それでぬぐっていた。

 

 

「……自分もこの国に仕えて長いですが今日ほどうれしい日はありません。

 どうかお元気で」

 

 

 アルフレッドは感情が出にくい彼にしては珍しく寂しそうな表情をしていた。

 

 もちろん付き合いの長い人にしかわからない程度にだが。

 

 

「あたしが教えた野営や狩りの知識も存分に役立つ時が来たね。

 正直蛮族と呼ばれていた自分がこうしてこの国の三英雄のひとりに加えられたのもアリオナ様のおかげさ。

 戦うことしかできなかったあたしを救ってくれたアリオナ様のためならいつでも飛んでいくから手紙とかも定期的に送ってくれよな」

 

 ウーランは『自分もついていこうか?』と言ってきたがそれを聞いたビヨールが『それなら是非とも自分もついていく!』と言いだすので少々揉めたが結局当初の予定通りアリオナ一人で行くことになり、ウーランもさびしそうだった。

 

 

「息子よ。

 最後にこの剣と盾を渡そう。

 この国の王家に伝わるルーンを刻んだ魔術効果が付与されたルーンソードとルーンシールドじゃ。

 余はあまりお前に構ってやれなかったがいつでもお前のことを想っておった。

 立派になって帰ってくるのじゃぞ」

 

 最後に父から渡された剣と盾は見ただけでわかる高価な一品だった。

 

 

「ありがとう父さん!

 ありがとうみんな!

 僕は必ず立派に成長して帰ってくるよ!!」

 

 

 こうしてボーレタリア王国の王子、アリオナは一人旅に出るのだった。

 

 この先の旅路がどれほどの苦難に満ちたものか知ることもなく……

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