King's Souls ~二人の王子の物語~   作:ヨイヤサ・リングマスター

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第十八話:同じ盾、同じ戦法。ならば同じ思い?

 アリオナは思考する。

 

 目の前の圧倒的なまでの巨体のデーモンを倒す方法を。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 気合いとともにデーモンの足を斬りつけてみるが、三英雄の一人、アルフレッドを模したかのようなデーモンは、その手に持つ全身を覆う程に大きな盾を軽々と振り上げて攻撃を防いでしまう。

 

 

ドシュシュシュ

 

 

 離れた位置からはウーランの放つ矢がデーモンの頭部に連続して叩きこまれるが、いかんせん体格差がありすぎるためか、弓の名手として名高い三英雄のウーランの腕をもってしても効果的なダメージを与えるにはいたらない。

 

 大きさを除けば身体の構造は人間と変わらない二本の腕と二本の足を持つデーモンだが、その全身を隙間なく全身鎧と巨大な盾で身を守っているためにアリオナとアルフレッドの足を狙った集中攻撃もあまり意味をなしていなかった。

 

 

「しっかしこんな固いデーモンをたった一人で相手にしてたなんてさすがはアルフレッドだね。

 あたしなら早々に諦めて逃げていたはずさ」

 

 

 そう言いながらも矢を射続けるウーラン。

 

 

「……しかしウーラン。

 君ならば逃げたあとで倒すための策を練るはずなんだろう?」

 

 長きに渡って共に闘ってきたアルフレッドには彼女の考えなどお見通し。

 

 

「……それにそう言っておいて仲間がいる状況で逃げ出さない。

 その勇気こそがウーランの強さだと自分は思ってる。

 安心して背中を任せられるからな」

 

 アリオナも分かっているので小さな笑みを浮かべる。

 

 彼女の口とは反対の行動こそが信頼に足る騎士であることは長いこと一緒にいた二人は分かっている。

 

 

「ば、馬鹿な事言うんじゃないよアルフレッド!

 あ、あたしはアリオナ様のためなら命の一つや二つ惜しくないだけなんだからっ!!」

 

 

「……そこで『アリオナ様とアルフレッドのため……』と、言われないのは戦場で長く共に戦ってきた自分にとっては傷つく話だがな」

 

 

「うっさいアルフレッド!

 あんたはアリオナ様に攻撃がいかないように黙ってデーモンの注意を惹きつけてればいいんだっ!」

 

 

 何ともな言い草だがこれでもウーランはアルフレッドのことを心配しているし、その身に危険が迫っているのならアリオナがいなくともこうして助けに来ただろう。

 だが如何せん優先順位というのはやはりアリオナを優先してしまうのだった。

 

 

「……もっとも、自分もウーランよりはアリオナ様を優先させるがな」

 

 

 普段は表情の少ないアルフレッドが口元に微かに笑みを浮かべて敢えて言う。

 

 騎士二人の会話はここがかつてのボーレタリア王国のようなデーモンのいない平和な国だったら、そのまま笑いあってのんびり過ごすのも悪くはないのだが目の前には攻撃の手を緩めないデーモンがいるので冗談のような会話をしながらも気は抜けない。

 

 

「……さて、アリオナ様にウーランまでも来ていただいたのだ。

 これで自分も攻撃に転じられる」

 

 もともと少ない口数をさらに減らし目の前のデーモンに集中するアルフレッド。

 

 アルフレッドはアリオナ達が助けに来るまでの間は攻撃1:防御9の割合で時間を稼ぐことを第一に踏みとどまっていた。

 

 これは自分一人では対処できない強大なデーモン相手に時間を稼ぐには有効な手段だがこの方法では所詮人間であるアルフレッドでは体力的にデーモンを倒すことは不可能だった。

 

 かといって攻撃9:防御1などと言った戦術を一人で行っていては前衛の盾となることに主眼を置いたアルフレッドの重装備では命が幾らあっても足りない。

 

 人間同士の戦いを想定して作られた鎧はデーモンの力の前には紙切れも同然なのだから。

 

 だがいまここには信頼のできる仲間と、強くなって帰ってきた自らが忠誠を誓った主がいる。

 

 この状況がアルフレッドの心に火を付けた。

 

 ここで活躍出来ないような者がボーレタリアの三英雄を名乗れるはずがない、と。

 

「うぉぉぉぉー!」

 

 

 アルフレッドの持つ槍が連続してデーモンの右足を攻撃する。

 

 

「今ですアリオナ様!

 右足を狙ってください!」

 

 

 そう言って自身はアリオナの邪魔にならないようにすぐに下がる。

 

 デーモンの右足はアルフレッドの槍が刺さった場所を中心に鎧部分が大きく削り取られていた。

 これこそが三英雄『塔の騎士』アルフレッドの武器『削り取る槍』の真価。

 

 相手の装備を破壊することに重点を置かれて作成されたこの槍は、穂先に返しのような刃が沢山付けてあり、文字通り相手の武具を削り取り、破壊をする槍なのだ。

 

 

 そしてアリオナはアルフレッドの破壊したデーモンの右足部分に向かって走り出す。

 

 だがアルフレッドの声に反応したのはアリオナだけではなかった。

 

 右足首を攻撃されることに気づいたらしいデーモンは、先ほどまで打ち合っていたアルフレッドが下がったことで、交代に斬り掛かろうとしてくるアリオナに狙いを変えた。

 

 そして次の瞬間にはデーモンは自身の持つ巨大な盾をアリオナに叩きつけようとしたのだ。

 

 

「アリオナ様っ!」

 

 

 アルフレッドは叫ぶがアリオナの攻撃の邪魔にならないように下がりすぎたためにすぐには救助に向かえない。

 

 デーモンの一撃は無情にも振り下ろされようとしていた。

 

 ……しかし諦めなければ勝機はある。

 

 デーモンの盾による一撃はアリオナを捉える事はなかった。

 

 

「おらよっ!」

 

ガガガンッ!

 

 

 離れた位置から弓を構えていたウーランの矢が連続してデーモンの盾にぶつかり、アリオナ目掛けて振り下ろされようとしていた攻撃を大きく逸らした。

 

 

「何やってんだいアルフレッド。

 アリオナ様を守るのが前衛たる重騎士のあんたの仕事じゃないか」

 

 アリオナを救ったのはウーランの射った矢だった。

 

 圧倒的なまでに体格差のあるデーモン。

 しかしその巨体と同じくらいに大きな盾を弓矢で弾き飛ばすという常人離れした技を繰り広げてもそれが当たり前だと言わんばかりの表情のウーランを見て、アルフレッドは小さく感謝の言葉をつぶやく。

 

 口は悪いが誰よりも信頼出来る仲間の援護により、その表情にはまたも小さな笑みが浮かぶ。

 

 そして感謝だけでは終わらない。

 

 デーモンはウーランの狙撃により大きく体勢を崩されたのだ。

 

 となると攻撃のために走りだしたアリオナを止めることなど出来るはずもない。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 アリオナの剣が右足の鎧の壊れた場所を的確に切りつけていくことでデーモンは足首から体液を霧散させる。

 それでもデーモンは声も出さず、ただ作業のようにアリオナ達を攻撃し続けるがその手は明らかに鈍ってきた。

 

 好機である。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 アルフレッドの突きが今度は左足に刺さる。

 どれほど強固な鎧といえども隙はある。

 それが巨体を誇るデーモンならなおのこと。

 

 防具そのものを無効化してしまうという、この世で最も恐れられる能力を秘めた武器の一つである『削り取る槍』を完璧に使いこなすアルフレッドはいまこの状況の中でさらにその腕に磨きがかかってきている。

 

 

ブシャァー

 

 

 そしてアルフレッドの突きによって破壊された左の足首の傷もアリオナによって大きく開かれる。 

 

「……自分と同じ装備と同じ戦法のデーモンよ。

 どうやら自分のこの国を思う心はお前との体格差を覆すだけのものがあるらしいな」

 

 

 ついにデーモンは両足首を切り裂かれたことで立っていることが出来なくなったらしい。

 

 地震でも起きたのかというような巨大な地響きを鳴らせながら仰向けに倒れた。

 

 

「いまだっ!」

 

 

 アリオナの声と共に三人はデーモンの頭を攻撃できる位置に回り込み、それぞれに攻撃をする。

 

 先ほどまでの足首を攻撃していたときの手応えが嘘のように、簡単に刺さっていく剣、槍、矢。

 その攻撃がしばらく続いたと思うとデーモンはその巨体を少しずつ霧にしながら消えて行った。

 

 消える直前に感情らしい感情を見せなかったデーモンが、まるで何かを求めるかのようにその手を空に突き出したが、それは一体何だったのだろうか……

 

 

「終わった……

 これでメタスとライルを追いかけることが出来る。

 二人とも、急いで行こう」

 

 

 一応アルフレッドとウーランに目立った傷はなかったが圧倒的な力の差があるデーモンと長時間におよぶ戦闘の疲労はかなりのものであったため、アリオナが用意してきていたヴァーダイトでもかなり高価な『竜王草の実』を使うことで休養の代わりとした。

 

「……メタスは、三英雄の中で一の実力者ですが普段はチャラけたところが目立ちます。

 ライル殿の助力がどれほどかは分かりませんがやはりここは急がなくてはなりませんね。

 頭はあまり良くありませんし……」

 

 

「確かにメタスの野郎は殺しても死なないように見えていざという時は自分の命を平気で投げ出すような奴だからなー。

 今頃あたしらがそれぞれにデーモンを倒して助けに来ることを諦めて玉砕覚悟の捨て身戦法でもやってるかもな。

 あとアルフレッド。そこは素直にメタスは馬鹿だって言ってやればいいのに」

 

 

「……自分はメタスという男は紙一重で天才の部類に入ると思っている」

 

 軽口を言えるくらいには回復した二人。

 

 そんな様子を眺めながらもアリオナはこの先で戦っているであろうメタスとライルに対する心配を胸にして先に進むための準備をする。

 

 アルフレッドやウーランの言葉は信頼からくるもの。

 

 しかしその信頼の言葉はそうでも言わないともう一つの可能性を信じてしまいかねない自分が怖いからだろう。

 

 メタスもライルも死なせない。

 

 これがアリオナの決めた決意なのだとしたら、あとはそれを実行するだけだ。

 

 

「二人とも……生きていてくれよ」

 

 

 アリオナの呟きはデーモンが消えたことで静まり返ったボーレタリア王城に小さく響いた。

 

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