King's Souls ~二人の王子の物語~ 作:ヨイヤサ・リングマスター
「はぁっ、はぁっ」
「ふ、ふふっ、随分と息が乱れてるけど大丈夫なのかい?」
「そ、そういうあんたこそ足が震えてるぜ。
まさかこの程度が限界って言うんじゃねーだろうな?」
「それこそまさか、さ。
私は武者震いしているだけで、まだまだ余裕が有り余っているくらいさ」
ズドン
力だけではなく、底を見せない圧倒的な体力を感じさせる膂力を持つデーモンの突きがメタスの脇腹をかすりながらその背後にあった石像を破壊する。
長時間に渡る戦闘を現在進行形で継続中だというのに退治しているデーモン同様に、メタスの身体のキレも落ちていない。
もちろんメタスの体力が無限という訳ではないが、その技量はこの状況にも鈍ることはなく、底の見えない恐ろしささえある。
だがそれ以上に、それほどまでの技量を持つメタスのような騎士が数多く仕えているボーレタリア王国を蹂躙する目の前のデーモンにライルは恐怖を感じた。
だがそれでも逃げるという選択など端っから選択肢には入ってないので、どうやってこのデーモンを倒すかのみに思考を専念する。
「うおっ、危なっ!
……しかし今更だが、このデーモンは強いな」
「それは同感だね。
先ほどから私は全力で戦っているのだけど、どうにも狙いが読まれているみたいでね。 私と同じ戦法を私以上の筋力で打ち出してくるから隙がないんだよ」
軽口を叩きながらもデーモンの動きの観察を続ける二人。
ボーレタリア王城の最奥。王の間へと向かう最後の門を前にしてライルとメタスの二人はデーモン相手に苦戦を強いられている。
その攻撃は周囲に配置されていた石像を一撃で粉々にし、大地を抉りとる。
メタスとライルが共闘しているのは、『つらぬきの騎士』メタスの姿を模したかのようなデーモンだ。
外見だけでなく戦い方も同じであり、違うところと言えば身体の大きさと人間ではありえない怪力くらいだろうか。
「しっかしアリオナ達に任せたデーモンは天に届くかというような巨体だったがこっちのデーモンは体こそ人間を基準にして背もそれほど高くはないが一撃一撃が重すぎる!」
「ははは、こいつはきっと私をモデルにして誕生したデーモンなんだろうね。
なんたって最高に格好いいだけでなく最高に強い私はアルフレッドと違って『技』に秀でた騎士なのだからね」
と、自慢げに言うメタス。
その間にもデーモンの攻撃は続き、鋭さと早さを兼ね備えた攻撃はまさに熟練の騎士の動きそのものであった。
さて、先ほどメタスが言ったが、この国の三英雄メタス、アルフレッド、ウーランはそれぞれにバランス良くレベルの高い騎士なわけだが得手不得手といったものも当然ある。
その中でもメタスがもっとも他の二人よりも秀でているのが『技』なのだ。
騎士としての日々の修錬は人の半分もしないメタスだが、それは修行の内容が濃すぎるために時間が半分にも満たないだけである。
メタスは常に周りには気づかれないように陰で短い時間だけ濃密な修行をしているために一般の修錬に時間を割かないのだ。
そしてその修行によって身に付けた力こそが『技』だ。
誰よりも鋭く、誰よりも速く、そして誰よりも重い突きによって敵を一撃のもとに屠り去る圧倒的な技の錬度。
この事を評価されてメタスは三英雄に名を連ねている。
同じようにアルフレッドは誰よりも勇猛果敢に皆の盾として常に前線に向かう『勇気』を。
誰よりも戦況を読む能力に長けたウーランは『統率』を。
三英雄はあらゆる面で騎士として秀でているだけでなく、それぞれの得意分野が三英雄と呼ばれるに相応しいだけの高いレベルを有しているのだ。
そして姿かたちからしてメタスを模したデーモンなのだろうから、このデーモンを相手にするのにメタスとライルが二人がかりでも苦戦するのも当然と言えるだろう。
「まさかこのデーモン体力が尽きることがないなんて言わないよなぁ……」
「それはありえるんじゃないかなライル君。
僕の方は君が来る前から戦っていたからちょっとばかり疲れてきたけどこのデーモンは疲れた様子もないしね」
『ちょっとばかり』がどれくらいなのかはメタスの性格を鑑みれば予想はつくが、つまりはそれだけ長い間動き続けてもこのデーモンは動きが鈍くならないのだ。
しかもライルとメタスは回避を主軸にしながら、たまにできるデーモンの隙に浅い一撃を加えてまた回避をするという戦法を繰り返してるのに対して、デーモンの方はひたすらに攻撃を続けているのだ。
これでは体力が尽きるのを待つという戦法は使えないだろう。
「(アリオナに格好良く見栄を張ってメタスの救助に来たはいいものの、ここで俺が死んだら馬鹿みてぇだな。
なんとか対策を考えねぇと)」
デーモンの突きを捌き、斬撃を避け、一向に動きのキレが落ちないデーモンを倒す策を考えるライル。
だが考えすぎていたからだろう。普段のライルならまずしないだろうミスを犯してしまった。
「うおっ!」
デーモンの鋭い一撃がライルを襲う。
「ライル君っ!」
もちろん攻撃は避けた。だが避けたことが致命的な隙を生んでしまった。
先ほどからの戦闘により破壊された石像の破片が足元に散らばっていたのだ。
ライルはこれに足を取られた。
『…………』
デーモンの感情の無い瞳がライルに狙いをつける。
体勢的に見上げる形になってしまったライルはそのデーモンの迫力に押されてほんの一瞬だが体を硬直させてしまった。
そして、デーモンの突きが放たれた。
ガキィィィン!
人間一人位一瞬でひき肉に変えれるだろうデーモンの突き。
だがそれはライルに届くことはなく、この場にいるはずのない第三の人物によって防がれていた。
「ふむ、なんとか間に合ったようだな」
「ビヨール殿!」
来るはずがないと思っていた人物の助けに驚きの声を上げるメタス。
ライルとデーモンの間に割って入り、『塔の騎士』アルフレッドに匹敵するほどの巨大な大盾でデーモンの一撃を防いだのはボーレタリア王国『王の双剣』の一、ビヨールその人であった。
「私が留守の間にデーモン共が来ておったとはな。
まったくこんなことなら最初から他国を訪問する大臣の護衛依頼なんか断っておくべきだったな。
まぁそれはさておきこのデーモン力が強いな」
ライルを庇ってデーモンの突きを受け止めたままだった盾をそのまま叩きつけてデーモンを吹き飛ばす。 まるで木の葉のように吹き飛んだデーモンは瓦礫の山に埋もれてしまった。
「がっはっはっは! 私と力比べをしようなんぞ片腹痛いわっ!!」
「デーモンをあんなに吹き飛ばすなんて規格外すぎますねビヨール殿は……
というかビヨール殿はなぜここに!?
他国へ向かう大臣の護衛として出かけていらしたのならデーモンの話を聞いてすぐにボーレタリアに帰還したとしてもこんなに早く来れるはずが……」
「ん? 実はな、護衛対象の大臣には私の部下だけで行かせて私は行かなかったのだ。
それで私は一人アリオナ様に会うためにヴァーダイト王国へと向かったのだが……」
「俺達と入れ違いだったために向こうで治療を受けていたヴァラルファクスから話を聞いて慌てて追ってきたってことか?」
途中から予想が出来たライルが自分の考えを言うとビヨールはその通りだ、と実にさわやかな笑顔でうなずいた。
「……はぁ。
まさか『王の双剣』であるビヨール殿がそのような我がままを通すなんて……」
「がっはっは。これでも信頼や実績という点では他国訪問に向かった大臣よりも上だからな。
アリオナ様に会いたいと言ったら陛下も普通に許可を下さった」
だから問題ないと言うビヨール。
「まったくこの国の連中はひと癖もふた癖もある連中ばかりだな」
ライルも呆れたように言う。
「貴方のことも聞いておりますぞライル殿。
アリオナ様のご友人だそうですね」
「よせやい。俺なんかアリオナに助けてもらってばかりだったから今回ボーレタリアの危機に手助けを申し出ただけだ。
もっと軽く話してくれよ」
ビヨールが言うにはヴァラルファクスも怪我はすでに完治しているので少し遅れるがあとから来るそうだ。
「そんじゃま、他国に行ったボーレタリアの大臣さんが安心して戻ってこれるように俺らはこの国のデーモンをちゃっちゃと倒しちまおうぜ」
その言葉が合図になったかのように吹き飛んで瓦礫に埋もれていたデーモンが起き出してくる。
『……』
兜で表情は見えないが何かしら考えているのかもしれない。
それは恐怖。
デーモンはメタスやライルと戦っていた時に一度も感じなかった恐怖を感じていた。だがデーモンはそれを認めることが出来なかった。
なぜ自分が吹き飛んだのか?
なぜ人間のような弱き存在がデーモンである自分を吹き飛ばせるのか?
ただそう考えることで自分の強さに自惚れていたかったのかもしれない。
これがデーモンが唯一感じた感情なのだろうがそれを理解する間もなく目の前の新手の騎士は全てをまとめて屠り去るだろう。
すべてが圧倒的なのだから……
「がっはっは。強きデーモンよ!
貴公の考えは分からんが私たちにも守るべきものがあるのでな。
貴公らデーモンが勝手にこの国で暴れているのと同じように、私達も私達の大義のために勝手ながらその命を消させてもらうぞ!」
ビヨールは言うが早いか盾と同様にこれまた長大な特大剣『グレートソード』を両手で握りしめ、一刀のもとに斬り伏せた。
ザウッ
何と例えればよいのだろう?
ビヨールは甲冑を身に纏ったデーモンを兜の中心から正中線に沿って切断した。
これはまさに圧倒的としか言いようのない光景だ。
二人がかりで苦戦を強いられていたデーモンがたった一人の騎士のたった一振りの剣によるたったの一撃で消滅するなどと誰が信じるだろうか?
だがこれが現実。
事実としてデーモンは光の粒となり、その体を徐々に消滅させていった。
「貴公は強かった。出来ることなら共に剣の向きを揃えた未来があればとも思うが残念ながらこの国に弓を引く者には手加減出来んのでな。
だが、楽しかったぞ」
そう言ってビヨールはグレートソードを背中に背負ってライルとメタスを振り返って何とも子どものような無邪気な笑顔を見せる。
「さぁて、詳しい話を聞かせてほしいのだが……この国の現在の状況が知りたいの」
「……あー、規格外なビヨールのおっさん。
とりあえずアリオナ達がもうじきこっちに来ると思うから詳しい話はそれからにしようぜ」
ライルは説明が面倒なので詳しい説明はアリオナに任せることにした。
「ふふっ、確かに詳しいことはアリオナ様が来てからの方がいいですね。
私も少しばかり疲れましたしね」
こちらも面倒だからという理由で説明をアリオナに押し付けようとするメタス。
デーモンが消えたことで静かになったこの状況で三人の静かな笑い声が響く。
どうせアリオナ達もすぐ来るだろうと思った三人は安堵のためか、その場に座り込んで寝入ってしまった。
デーモンと長時間の戦闘をしていたライルとメタス。
それにヴァーダイトから話を聞いて急いで駆け付けたビヨール。
その後三人はアリオナ達がやってくるまでのしばしの間、束の間の急速を取るのだった。