King's Souls ~二人の王子の物語~ 作:ヨイヤサ・リングマスター
暖かな風が吹き、地上に降り注ぐ柔らかな日の光はこの世の命にその日生きるだけの恵みをもたらしてくれる。
生命があれば日常は変わらずに営まれ、そこに生命がなくなろうとも自然というものは変わることなくあり続けるだろう。
たとえ人間が滅びようとも変わることもなく……
「ライル……ライルってば!」
暖かな陽気とデーモンとの戦いによって疲れていたことも相まって、すっかり眠ってしまっていたライルはつい先ほど別れたばかりの友人の懐かしい声に目を覚ます。
「……う~ん、アリオナか?」
「あぁ、僕だよ。君たちも無事にデーモンを倒したみたいだけどよくこんな場所で寝られるね。
メタスもだけど……なぜかビヨールまで一緒になって熟睡してるけどなんでここにいるんだい?」
「あぁ、話すと長くなりそうだが……まぁ色々あったんだ」
「……そうか。
とりあえずライルもメタスも無事で何よりだよ」
ボーレタリア王城の『王の間』に向かうのを阻む最後のデーモンを倒したライル達は寝こけていたのだがアリオナ達によって起こされる。
ここがヴァーダイト王国にある自室で、起こしたのがミーナだったなら、と少しばかり残念に思うライルだがこればかりは仕方がない。
何しろ自ら望んでこの戦場に来たのだから。
「ウーラン、アルフレッド。メタスとビヨールも起こしてあげて」
「あいよ。アリオナ様。
それにしてもビヨールの旦那はどうしてまたこんな所にいるのかねぇ?
まぁビヨールの旦那の色々な事情ってのは、なんとなく想像はつくけどさ」
「……推測だが大臣の護衛任務を部下に任せてアリオナ様に会いにヴァーダイトに向かった、といったところではないか?」
「ふーん、まぁそんなところだろうね」
付き合いが長いからか自然な流れで理解し、自然な流れで納得するウーランとアルフレッド。
ライルもその通りだと肯いたのを見てアリオナはただ一人呆れたような溜息をもらしながらもボーレタリアの危機に駆けつけてくれた忠臣に小さく微笑むのだった。
「ほら起きなメタス。アリオナ様の前で何熟睡してんだい(ゴツッ)」
「……目覚ましに拳骨とは痛いぞウーラン。
どうせなら優しくおはようの口付けをしてくれてはどうなんだい?」
ガスッ
「くぁぁぁぁ~……」
「く、口付けなんてするわけないだろっ!
こ、この馬鹿! アホ! マヌケ!!」
「ウーランの拳骨はとんでもなく痛いな。
どうせアリオナ様から頼まれたら断らないくせに」
「ア、アリオナ様はいいんだよっ! あんたみたいにがっついてないし、紳士だし、格好いいし……優しいし……だ、大好きだし…………」
「おやおやぁ~? 天下の三英雄のお一人ともあろうウーランちゃんはアリオナ様に主従以上の感情を抱いちゃったのかな~?」
ウーランがうっかりなのか、メタスが聞き出すのが上手いのか。
言葉が出てこなくなったウーランが顔を真っ赤に染めながら何かしら言い訳を考えながら口ごもってしまうという状況を懐かしく思うアリオナであった。
「あまり心配はしてなかったけどメタスも元気そうで何よりだよ。
ライルとビヨールも一緒になって無事にデーモンを倒せたんだね」
「俺が助けに来たんだから当然だぜアリオナ。
結局最後はビヨールのおっさんがあっさり倒しちまったんだがな」
眠り続けたまま起きないビヨールをそのまま放置してデーモンとの戦いの話を始めるライル。
しかし、どうにかこれでボーレタリア王城に現れたデーモンは全て倒し終えたようだ。
ここからは最後の戦いとなる。
すなわちボーレタリア王国第十二代国王オーラントを救うこと。
アリオナにとっては自身の父親を救うことにもなる。
「僕がいない間にこの国も随分と荒れてしまった。
多くの民が死に、多くの兵が死に、もはや国としての体裁すらまともに機能していない……
だけど僕たちはこうして生きている!
みんな! 僕に力を貸してほしい! 父さんを、オーラント王を救い、この国を救いたいんだ」
アリオナの視線の先にはデーモンに殺されたのだろう死体の山と、幼い頃アリオナが手なずけた竜の死体があった。
彼らの体には無数の刀傷や矢傷が刻まれており、激戦のあとが一目で分かる惨たらしいものだった。
だがアリオナはそんな彼らに涙を流しながらも同じボーレタリアを愛した者として必死に戦ってくれた彼らの死に最大級の感謝とともにこの国を元のように戻すための誓いを立てた。
「僕は宣言する!
このボーレタリア王国を救うことを!
誰もが幸せに暮らす当たり前の日常を取り戻すことを!
そしてそのために僕自身のすべてを捧げることを!」
幼い頃から血筋だけでなく、自身の人間性により多くの人間を虜にしてきたアリオナという人間の本質たる想い。
それをこの場で宣言することで忠臣たる三英雄のみならず、友誼によりこの戦場に来た友人までもが息をのむほどの王としての器を見せつけた。
誰もが一目で分かる王。
それが目の前にいるのだ。
それが自分たちの仕える主であり、友人なのだ。
ライル、メタス、ウーラン、アルフレッド。それぞれにアリオナを一人の王として認めていた。
「いや驚いた。アリオナがものすごく格好よくみえたぜ。
その覚悟があるなら俺も何処までもついていくさ。なんたって俺の友だからな」
どちらからともなく互いに手を差し伸べ、どちらも遠慮なくその手をとる二人。
「私もこの国に仕えて今日より嬉しい日はありません。
アリオナ様……よくぞここまでご立派になられました」
三英雄の中ではもっとも軽い男として見られるがその実一番熱い信念を持つメタス。
「……これほどの覚悟をお見せいただいて力を出さないなど家臣である以前に人として終わっております。
アリオナ様……どうかこのアルフレッドの命をお使いください」
口数が少ないために口から出る言葉のすべてが本音。
そんなアルフレッドの魂の本音はアリオナのために死ねるという意気込みであった。
「あ、あたしは初めて会ったときからアリオナ様に添い遂げ……じゃなくて仕えていくつもりだったさ!
アリオナ様に惚れ……忠誠を誓った身としてこの血肉の一片に至るまで使ってください!」
家臣としてよりも女、いや乙女としての感情が溢れ出そうなのを必死で堪えるウーランもアリオナの決意以外にも頬を上気させながら言う。
「ありがとう、みんな。
それにしてもこの状況で寝てるビヨールはさすがと言うべきなのかな」
アリオナがこれまでで最高に格好いい宣言(ウーラン談)をした場面で一人寝続けていたビヨールはこれはこれで『らしい』のであろう。
ライルも呆れながらもすでにそのことを『らしい』と思っているし、ウーランはアリオナの格好いい場面を見逃したビヨールに対して苛立たしげに頬をつねったりしながら無理矢理起こそうとするがアリオナに止められてやめる。
その時ウーランの手に被さったアリオナの手の温もりに紅潮したのもいつものことだったりする。
一行は進む。
ただ只管(ひたすら)に王城の奥へと。
自分たちよりも先に死闘を繰り広げ、この国のために散って逝った者たちのために。
ボーレタリアの王子は国と父のため。
その家臣の騎士たちは仕える主と同じく国のため。
そして王子の友は友誼のため。
それぞれの思惑が一つとなる時。物語は終焉へと向かう。