King's Souls ~二人の王子の物語~ 作:ヨイヤサ・リングマスター
では最終話、お楽しみください。
城というのは外敵から国を守るための防御の要となる場所。
しかしそれだけではなく、その国の品格を示すものでもある。
それは見栄かもしれない。
だがボーレタリア王国はその城に戦のため以外に見栄として金をかけても尚、発展し続ける大国であった。
そう。そうであったのだ。
だがボーレタリア王国国王オーラントはソウルを得るために楔の神殿へと向かい神殿の奥底で眠りについていたデーモンを目覚めさせてしまうという禁忌を犯してしまった。
大国とまで呼ばれ、勇敢な騎士を多く抱えていたボーレタリア王国はそのたった一回の失敗によってデーモンの僕(しもべ)達によって情け容赦なく蹂躙された。
オーラントは止めたかったに違いない。自分の命を犠牲にしてでも王として、国の民を守りたかったに違いない。
しかしそんなオーラントの無念の叫びが届くことはなくボーレタリアは破滅へと歩みはじめ、関係を持っていた隣国は自国の中に閉じこもった閉鎖的な態度を取り続けた。
だからこそデーモンが現れたという話を聞いたアリオナは居ても立ってもいられなかった。
その志に感服した友人も協力した。
その家臣たちも次の王となる王子の成長に心酔した。
そして王子と王は邂逅する……
「久し振りだな。息子よ……」
「父さん……」
アリオナ達がいるのは王城を進み続け、人力の昇降機によって着いたボーレタリア王城の謁見の間。
ボーレタリアは建築技術にも優れているため、その城は高さを追及した造りになっているがこの謁見の間はその中でも最上階に位置する場所にある。
普段ならば多くの騎士が周りを取り囲み、大臣達も一目でその質の高さが窺えるほどに美しい華美な礼装を身に纏いこの国を訪問する者を迎える場。すなわちこの国の象徴たる空間だ。
だが今その場を象徴するのは美しさや豪華さなどではなく、この国の滅亡という言葉が一番相応しいだろう。
壁は無残に破壊され、天井にも同様の大穴が開けられ、この国の滅びを感じさせながらもそこから降り注ぐ日の光が醸し出す静けさが滑稽さを漢字させるくらいにかつての面影が残っていなかった。
ここまでの道中は楔の神殿からデーモンが現れたという情報をアリオナが掴んでから、可能な限り早く駆け付けたために人的被害はともかく、王城自体はそこまで破壊されていなかったという事実があったからこそ、この空間の悲惨な様相をさらに悲惨に演出しているようにも感じられる。
「アリオナよ。我が息子。余はもうだめじゃ……
この国のためを思って楔の神殿の深奥へと踏み入ったが、あれはとても人に御しきれるものではなかった。
国民から恨まれようとも、やはりあの神殿には手を出すべきではなかった……
そしてあろうことか余はデーモンに取り憑かれてしまってな。もう助からんだろう」
苦しげに言うオーラントは頬も痩せこけ、身体はふらつき、それでも王としての尊厳だけを失うことなく気力のみで立っているようだった。
アリオナは静かに父の言葉を聞く。
ライルも、三英雄も同様にその声に耳を傾ける。
「ふふふ……そして国もこの様だ。
もはや滅亡寸前のこの国だが、余が死ねば余に取り憑いているデーモンも確実に殺せるはずだ。
そうすればお前ほどの優秀な息子ならきっとこの国を立て直してくれると信じられる。
だから王として失格の余は次の王たるお前のためにこの国の生き残っている民の恨みを全て受け入れてこのまま死のうと思う。
さぁアリオナ。デーモンが完全に余の体を乗っ取る前に人間として、愚かな王として殺してくれ」
それは魂の叫びだった。
涙を流し、すでに消えかけの自らの命を枷とすることで自らの肉体にデーモンを封じ込め、息子に殺されることで王としての最後を迎えようというのだろう。
本当は息子の次の王として成長していく姿を見たいだろう。国の復興する様子も見たいだろう。
だがその全てを捨ててでもアリオナやこの国の民のために死のうというオーラントの無念たるや想像すらできない。
アリオナを見るオーラントの眼は真剣そのものでその言葉は全て本心から言っているのだろう。
だが凡俗なる一般市民ならばここで王の命令という形でならオーラントを殺しただろうがアリオナは自分の父を殺すことなんてできるはずがない。いや、するつもりがないのだ
なぜならアリオナはオーラントが見抜いた『王の心』とだけでなく、『英雄の心』を持っているのだから。
「……父さん。僕は父さんを、この国を救いにきたんだ。
だからその頼みは聞けないよ。
僕が救いたいのはこの国だけじゃない。
父さんも含めたすべてを助けるために僕はここにいるんだ!」
「よく言ったぜアリオナ。
俺達がとるべき手段はオーラント王を救って、この国を救って、この世界を救うだけだもんな」
事の成り行きを静観していたライルは会話が終わったのを感じ、この無条件で信じられる友を助けるために自らの意思を述べる。
ライル自身も『全てを救う』というアリオナと同じ志を持っているのだ。
「息子よ! それは理想論じゃ! すべてを救うなんてできるはずがない!
王になるのなら捨てる覚悟も持て!」
「いいえ捨てません父さん!
僕が旅を通して学んだのは決して諦めず、信念を持ち続ける勇気です!
確かに全てを救うというのは理想論かもしれませんが、理想を目指さずして王を名乗れるはずがありません!
理想とは、誰もが正しいと思う事を現実に行動する勇気を持ち続けることだと思います!!」
オーラントの『死ぬ覚悟』が本物ならアリオナの『救う覚悟』もまさに本物であった。
誰もが理想とすることを現実にするために努力をして自らが傷つくことも恥をかくこともアリオナの信念を曲げる理由にはならない。
この先どのような脅威が待ち受けていようともライルと出会ったヴァーダイトでの旅はアリオナにとって何物にも折られない強靭な心を育てていたのだった。
そしてその信念に最も共感した友が最初の行動に出た。
「さすがは俺の友だアリオナ。
ようするにデーモンをオーラント王の体の中から出せばいいってんなら方法はあるぜ。
ここは俺に任せろ!」
ライルはボーレタリアには存在しないヴァーダイト独自の呪文を唱え、身体の中で魔力を練り上げる。
「闇にそびえる浄化の塔! 『ボーテックス』!」
ライルの詠唱した魔法がオーラント王を包み込む。
「ぐ……ぬぅぅぅ、がぁぁぁぁぉぉぉぉぉぉぉぉ~」
「はっ、この魔法は邪悪な存在を封じ込め浄化するんだ。
人に取り憑いたデーモンには有効だろうな。
ついでに食らっとけ!
正しき心の生み出す聖なる結界『リフューズ』!」
ライルはオーラント王だけでなく辺り一帯を包み込むような濃密な魔力による水の結界を張った。
その魔法の規模は、とんでもないほどに大きく練り込まれていた。
「ライル。君はヴァーダイトでシースに受けた傷を癒すのにそれまでの旅で得た四属性の魔力は使えなくなったんじゃないのかい?」
そう、ライルはシースとの戦いで自身の魔力を全て失っていたのだ。
「あぁ、勿論あの時俺は魔力を全て失ったが、生きていれば経験なんて幾らでも取り返せるのさ!」
魔力自体は失ったところで時間の経過と共に回復する。
だが失った経験までは戻らなかった。
だからアリオナはライルが魔法を使うことはこの先二度とないと思っていたのだが、この友人は常にアリオナの予想を大きく超えたのだった。
シースとの戦いで受けた怪我から回復したライルがシースを倒したあとに真っ先にしたことが四属性を渡してくれた父親の側近だった四人に再び魔法を習うということだった。
もともと才能のあったライルは、王となったあとも政務よりも自身の修行を優先してきたことで簡単ではないにしろ、ライルの魔法はシースと戦った時以上に鍛えられていたのだ。
そしてその魔力によって行使されたのは水属性の最上位の浄化魔法。これならばオーラント王の中のデーモンのみを仕留めることも可能なはず。
「おぉ、目に見えて陛下の体から邪気が減っていますよ」
「へぇ、最初はアリオナ様のただの友人かと思ってたけど結構やるじゃん」
「……確かにこの規模の魔術師はこの国にもほとんどいないな」
共闘したメタスはともかく、三英雄の他の二人はライルがここまでの実力を持っていることに気づいていなかった。
これも普段の言動がそうさせていたのかもしれないがやはりライルはやる時はやる男なのだ。
「ぐ……ぬぅぅぅ……」
『ぐっくくくく……』
オーラント王から邪気が完全に抜け落ちるとその場に現れたのはオーラントという器を脱ぎ棄てた邪気の塊とも言える存在だった。
『……よくも私の計画を邪魔したな』
「お前が父さんとこの国の民を苦しめていたデーモンか!?」
『あぁそうだ。
だがな。この世は所詮悲劇なのだ。
ヴァーダイトを見たお前ならわかるだろうアリオナ。それにライル。
この世は神と呼ばれる二匹の竜が作りし幻。
そんな神が自分の都合で滅ぼそうとするような世界ならデーモンたる私がこの世を支配し、人間のソウルを奪い尽くし、何も考えずにただ生きることが争いのないもっとも平和な道なのだ。
もはや過去の遺物となった神が支配する世界や再びソウルの業に頼った人間の支配などよりも、デーモンによる支配こそがこの世を救唯一の方法なのだ』
「それこそ戯言だ!
僕はヴァーダイトを見て思った。
どんな世界だろうと自分で考える力も持てないただ生きるだけの一生に何の価値もないように、毎日を一生懸命に生きる人間の尊さが分からないお前が支配する世界に幸せなんてあるはずがない!
考えることを放棄した人間は生きることを放棄したのと同じことなのだから!!」
「俺もアリオナに同感だ。
ヴァーダイトの二匹の竜、シースとギーラの話なら大魔導師オルラディンから聞いている。
だけどなぁ。何かに支配されて面白いか? デーモン。
俺はそんなのは御免だ。
人として生き、人として死に、人を愛し、人を守り、そうして自分で考えて生きていきたいんだ。
人として生きるってのはなぁ、命掛けなんだよっ!
生も死もない支配されるだけの生き方はつまらねぇだろうがっ!!」
『ふん、貴様らがそこまで愚かとはな。
貴様らとて人間が人間を支配し、敵を作り、殺し、憎み、恨み、そんな人間が大半のこの世界に救う可知があるというのか!?
私がソウルの業と共に消えたところで必ずこの世界は同じ過ちを繰り返す!
いや、今回以上の過ちを犯すかもしれないのだぞ!!』
デーモンもこれだけの大がかりなことをしたのだから生半可な決意ではないだろう。
それはアリオナとライルの決意と同じくらいに固いものなはずだ。
だが同じくらいに固い決意だからこそアリオナ達の決意も揺るがない。
「「支配ではない! 守るために人を知ろうとすることが幸せを作るんだ!」」
人と人は争い合い、時には人を殺してしまうこともあるだろう。
そういった憎しみを無くすためにソウルを奪って人を支配するというデーモンのやり方も一つの手としては間違ってはいないのだろう。
だがアリオナとライルが目指すのは憎しみや争いのない世界ではなく、例え間違おうとも、道を踏み外そうとも、人と人が理解しあい、この世界に住む人々全てが幸せに暮らしていくやり方なのだ。
争いが生まれるならその人を知り、理解し、話し合いをすることで解決を目指す。
これは確かに理想論で全てが話し合いで収まるはずがない。争いは大なり小なりいつの時代のどんな場所でも生まれる。
だがだからと言ってその負の感情を否定することは幸せを否定することと同義なのだ。
アリオナ達は争いが一切ない世界ではなく、理想とは分かっていながらも、理想だからこそ現実にしたい理想的な方法を現実にするための行動を選んだ。
睨みあう両者。どちらも引けない。引くわけにはいかない。
だからこそぶつかり合う想い。
『……お前達はその理想を現実にすることが出来ると思っているのか?』
しばしの沈黙のあと先に声を発したのはデーモンだ。
『私も……かつては人間だった。
デーモンを敵として倒し、守りたかった人達のためにソウルの業を一身に引き受け、楔の神殿の最奥に封印され、何百年、何千年と眠りについていた。
しかし人間は再びソウルの業を求め私を起こした。
私はそれでも人間を救いたいがためにこうしてデーモンとなった身で人間からソウルを奪い、争いのない世界を作るために支配しようとした。
それが一番正しいと思ったからだ。
お前たちの考えは私とはま逆だがそれでもそんな理想が現実に出来ると本当に信じているのか?』
「出来る! どんなに困難な道であろうとも、僕らは理想を現実にするための礎になる覚悟は出来ている。
もしも僕らが駄目でも必ず次の世代にこの『心』を伝えていく。だから人間は滅びない!」
アリオナは出来る出来ない以前に、正しいと思ったから自分がこうして行動しているのだ。
やるかやらないか。これこそがデーモンとアリオナ達の違いだろう。
そしてアリオナは人間の可能性というものを信じている。
いつの日か絶対に誰もが幸せで当たり前のように生きることを楽しめることを信じている。
『……ヴァーダイトの王ライルよ。お前も同じ考えなのか?』
「あぁ、俺の心はいつもアリオナと一緒だ。
友達だからな」
『そうか……』
再び黙ってしまったデーモン。
『私は滅びの中に幸福があると思っていた。
いや……今でもその考えは変わらんし世界はデーモンによってソウルを失った方が不幸な者が出ない世界になり、不幸な者が出ないからこそ幸せな世界だと思っている。
だがそれでも、こんな私でもお前たちのような人間がいるのなら、と期待したくなってしまうな……』
アリオナもライルもデーモンを見て、自分たちとこのデーモンは同じということに気付く。
結局はどちらも世界が救いたかったのだと。
『ならばもうしばらく人間の支配する世界を見させてもらうさ。
なぁに、私はデーモンだ。寿命なんて概念もとうに消えうせた存在だ。
この世界に対して期待させてもらったのだし今回は引き下がろう』
「デーモン……」
『おっと、同情なんてするなよ。
少なくとも私はいま、幸せなんだ。
お前たちのような決して折れない強い輝きを持った心を持っている人間に出会えたのだからな。
大昔に心を折ってしまった私は年長者として一旦引くだけ。
いつの日か滅んだほうがいいような世界だと感じたら私がまた出てきて今度こそ世界を滅ぼすだけの話だ』
「約束するよ。もしもあなたがまたこの世界に出て来ても滅ぼそうなんて思えないような平和な世界を作っていくことを。
僕の王としての魂を伝えていくことを」
「俺も誓うぞ。アリオナと俺が理想を捨てるようなことがあったらこの命を幾らでもお前にくれてやる!」
黙って聞いていたデーモンは二人の真剣な顔に思わず笑いをもらしながらも、いつの日かそんな世が本当に来ればいいと思った。
争いなんて誰も望まない。平和が好き。幸せを共に喜べる人に側にいてほしい。
こんな当たり前の感情を思い出させてくれる人間がいるのに、それを無視してまで世界をデーモンの滅びによる支配で幸せにしようとした自分が滑稽に思えたのだ。
『さらばだ人間達よ。 私はまた楔の神殿の深奥に籠るが、いつの日か私が再び世に現れるようなことがあればその時こそ滅ぼすから覚悟しておけよ』
その言葉を最後にデーモンの姿は霧となって消えていき、ボーレタリア王国を包み込んでいた色のない霧も消え、こうして世界は救われたのだった。
……
…………
………………
これは本来混じりあうことのなかった二つの物語が混じり合ったもの。
二人の王子が出会ったことで運命が大きく変わった物語。
その結果が幸か不幸か二人の王子の二つの国は大いなる危機を乗り越え生き残った。
そして二人の王子。アリオナとライルは国だけでなく、この世界全てを救うために未来に伝えていくのだろう。
『王の魂』を。
King's Souls ~二人の王子の物語~
<完>
では今回のデモンズソウルに対する解釈の説明をします。
1:かつて要人がソウルの業を貪っていた時代、かぼたんと協力して世界に広まったデーモン達を倒した一人の男がいた。それが「なりそこないのオーラント(以下、なりそこない)」。
2:「なりそこない」は最後のデーモンを倒したあと、唯一倒すことの出来なかったデーモン「古の獣」を封印するために自らの体に取り込んで かぼたんに封印してもらう。(世界の平和を願って)
3:二度と目覚めぬ眠りについたと思っていたが、「なりそこない」が目を覚まして見ると再びソウルの業に手を出そうという人間がいた。
4:そのことに怒った「なりそこない」は神殿にソウルを求めてきていたオーラントの体を乗っ取って神殿を飛び出し、世界を見て回ってみればソウルの業に溢れていたのに驚く。
おまけにヴァーダイトにて神の分身とも言える二匹の竜が世界を滅ぼそうとした痕跡まで発見。
5:それならば自分がデーモンの王として人間からソウルを奪って考える力を奪ってしまえば世界は平和で争いのない世界になるに違いないと考える。
6:だが、かつての「なりそこない」と同じく人間の可能性を信じ、すべてを救うという考えを持ったアリオナとライルに出会う。
そして二人は滅びによる平和などありえないと言う。
7:「なりそこない」もそんな風に考える人間がいるならもう一度この世界を平和に導く役目は人間に任せてみようと思い再び眠りにつくことになった。
ってところですかね。まぁ、人によって解釈の仕方が異なりますけどオーラントを助けるエンドにするためにはこれ以外には考えつかなかったのですよ。
それに「なりそこない」もゲームの方では語りかけるような口調で世界は悲劇だ! と諦めたような同意を求めるような感じでしたし悪ってわけじゃないんだと思います。
とりあえずまぁ、何だかんだありましたがこれまでご愛読いただきありがとうございました。
この作品は「熱血」、「男の友情」、「シリアス」を盛り込んで、かつオーラントとその他多数を救うハッピーエンドを書きたかったから書き始めましたが、私にはシリアス一辺倒な話は無理だということを気付かせてもらいましたw
他にも初めての試みも色々と作中に混ぜたので、物書きとしては多少は成長出来たかと思いますが私の理想にはまだまだ遠いですね。
このあと後日談的な話と嘘エンドの投稿も一緒に投稿しますので良かったら読んでみてください。