2人の巨人による決闘は、間近で見ているとまさに圧巻だった。もうさ、彼らが武器を振るうと空気が振動するんだよ。2人が巨体だからこその迫力という部分もあるだろうけど、戦士としての技量も無ければここまでにはなっていないだろう。
「今のうちに逃げられるんじゃない?」
ナミは決闘にはあんまり興味が無いみたいだ。ってか、ブロギーは別に危険人物じゃないって解っただろうに、何でそんなに逃げたいんだろう。
「俺はヤダ。まだ肉も余ってるし」
先ほどわさび醤油で食べていた肉塊は既に食べつくしたけど、すぐそこの焚火では他の骨付き肉が焼かれている。
「俺は、是非あれをしょうが醤油で食べたい」
「「まだ食うのかッ!?」」
ナミだけでなく、ウソップもツッコんできた。息がピッタリだな。
でも想像してみろよ。醤油のコクと、キリリと味を引き締める生姜との二重奏。あ、想像しただけで腹が鳴りそう。
「お前ェ、意外と食うんだな……いつもは精々、かなり大盛りぐらいしか食わねェのに」
ウソップは何だか遠い目をしていた。
「食べなくても問題は無いんだよ。必要な栄養素は摂ってるから。でも余裕があれば食べる。それだけだ」
実際、その気になれば俺はルフィと同じぐらい食べることは出来る。凄いぞモンキー家の胃袋……あ、でもエースとサボも大食いだったっけ。立派に染まってたんだなァ。
でもあいつと違って限度と我慢を知ってるから、普段はやらないんだよね。
「それで? ウソップはどうするんだ?」
逃げたいナミに動きたくない俺。ウソップはどうだろうと問いかけると、巨人の決闘を見たいと答えてきた。それにナミは呆れているけど、大人しく座りなおした。流石にこのジャングルを1人で歩いて帰る気にはなれなかったらしい。
俺としては、他人の決闘はやっぱり他人事だ。ナミのように『傍迷惑な喧嘩』とは思わないし、そこまで冷めてもいないけれど、『こういう誇り高い男になりてェ』と語るウソップほどのめり込む気にもならない。ま、中間ってとこか。
そしてブロギーVSドリーは最終的に、互いに自分の持っていた盾で相手の顔面をぶっ叩いたことで終わった。73466戦73466引き分けらしい。
戦闘終了直後にブロギーから酒の話を聞いたドリーにも少し酒のお裾分けをすることになった。
で、だ。
「俺が船に戻ることになった、と」
はい、俺は小さな骨付き肉を齧りながら1人で船への帰路に就いています。何故か? ドリーへの酒を俺が配達することになったからだよ。
あの後ブロギーを再び人間サイズにまで小さくしてさ、ドリーも同じように小さくしたらよくね? って思って俺が配達係となったわけだ。船から酒を取ってきてドリーの所に持って行くんだ。ブロギーに渡した分とは別にドリーにも渡したいからね。
ナミも一緒に船へと帰りたそうだったけど、『帰ってもその後はもう1人の巨人の所へ行くことになるよ?』って言ったらブロギーの所に残った。
道中では1・2度小さな恐竜に襲われたけど、問題は無かった。返り討ったから。
「にしても、わさび醤油もよかったけどしょうが醤油も中々……」
後でにんにく味噌も試してみようかな。味噌と醤油は日本人(?)の心だよね……ん?
もうじきメリー号に着くんだけど……誰かいるな。あ、そういえば……。
「………………」
ようやく到着したメリー号。そこにいたのは。
「よし、この酒樽だな」
やっぱりな! Mr.5とミス・バレンタインだ! そっか、あの時のドリーの『酒を分けてくれ』発言をどっかで聞いてて、Mr.3に言われて酒に爆弾を仕込みに来たんだな!
……って、思い至ってスッキリしてる場合か! 何て遭遇率だよこれ!
多分、1番手前にある酒樽に爆弾を仕込んだんだろう。確かに何事も無ければそれを持って行く可能性が高い。
あはは……俺たちの酒をダメにしやがってこの野郎どもが。
「キャハハハ! これで酒が胃袋の中で爆発するってワケね!」
うん、わざわざ説明ありがとう。
「さて、取りあえずMr.3の所へ向かおう。ミス・バレンタ」
外に出るべくクルリと振り向いたMr.5の目が、戸口に立つ俺を捉えた。
「どうしたの、Mr.ファ」
一拍遅れたものの、ミス・バレンタインも然り。
「お前ら……勿論、覚悟は出来てるよな?」
「「ヒィッ!!」」
腰を抜かさんばかりに驚いて震えあがりやがって……失礼な。俺は極力怒りを抑えて笑顔で確認をとってやったってのにさ。
その後のことは……まぁ、詳しく語る必要は無いな。
あの2人は取りあえずボコッておいた。んでもって、『お前らの持っている情報を全て話してくれ』って懇切丁寧にお願いしたら快く喋ってくれた。この島にはドルドルの実の能力者であるMr3と写実画家であるミス・ゴールデンウィークのペアが来ていることとかね。
聞きたいことを聞いた後にちょっと遊んでたら、いつの間にか2人とも気絶しちゃったんだ。
そんな2人は簀巻きにしてその辺の木に吊るしておいた。ちなみに、簀巻きにするのに使った筵にはたっぷりと海水を染み込ませてある。え、酷い? 何を言うんだ、ウィスキーピークの賞金稼ぎたちにしたように川に捨てたりはしなかったぞ。あいつらは2人ともカナヅチだもんな。どう、優しいだろ?
あ、Mr5からは南の海の新型銃『フロントロック式44口径6連発リボルバー』を貰っておいた。勘違いしないでほしいけど、これは奪ったんじゃない。『欲しいな』って言ったら『どうぞ使ってください』って自分から差し出してきたんだよ。これも後で売ろう。弾が無いから俺には使えないし。
そして俺は本来の予定であるドリーへのお裾分けのために酒を持つ。当然ながら、爆弾の入ってない酒だ。
しかしこうなってくると、あの2人の決闘には余計な茶々が入らなくて済みそうだ。……まぁいっか。最終的には、Mr3をぶっ飛ばすシチュエーションが変わるだけのことだろうし。
やってきましたドリーの家……うん。
「予想通りの光景だな」
「あ、ふふぁん!」
俺の目の前では、ルフィが恐竜の骨付き肉に噛り付いています。今回は俺もさっきまでこんな感じだったんだよな……客観的に見るとちょっと引く光景だ。
「酒を届けに来た」
持ってきた酒樽を掲げて見せると、ドリーは随分と嬉しそうに笑った。かなり久し振りらしい。
「ところでビビ。バロックワークスの追手が来てるよ」
「そう………………何ですって!?」
サンジ特製ドリンクを飲みながら様子を見ていたビビに報告すると、初めは流しそうになっていたけどすぐに眼を剥いて立ち上がった。
「ウィスキーピークでもいた、あの鼻くそ人間とダイエットいらず女がさ、酒に爆弾を仕込んでたんだ。あぁ、そいつらは対処しといたけど。で、その2人が言うにはMr.3ペアがこの島に来てるんだって」
取りあえず伝えるべきことを伝えたんだけど、ビビは緊張の面持ちだ。
「Mr.3が……」
そうしてる間に、俺はドリーを小さくした。初めは驚いてたけど、酒がたくさん飲めるってんで結果的には喜んでいる。
「つまり、どういうことだ?」
肉を食べながらルフィが聞いてきたけど……そうだな。
「3のヤツをぶっ飛ばせばいいんだ」
「そうか」
ルフィは納得した。
Mr.3の外見的特徴については、Mr5ペアからも聞き出しておいた。髪型が『3』だってことも。だから、『3のやつ』と言っておけばルフィにも解ってもらえるだろう……って、そういえばこれって原作でルフィがMr.3に付けてた渾名じゃん。偶然。
「ぶっ飛ばすって……もういいわ」
ビビは何かを諦めたような悟ったような微妙な表情になっている。
その後はしばらく、ドリーやルフィと酒盛りをした。ルフィは酒じゃないけど。ビビは少し困惑してたようだけど、しばらくすると混ざってきた。ついでに言っとくと、カルーは初めから酒盛り組に入っている。
話題は主に、かつてドリーとブロギーが率いていたという巨兵海賊団のことだ。100年も前の海賊団のことなんて中々聞けるもんじゃないから結構面白い。オイモとカーシーの名前も出て来たよ。ドリーたちは当時、2人に結構目を掛けていたらしい。
Mr.3のことはしばし忘れてそういった話に花を咲かせていると、やがて例の真ん中山が本日2度目の噴火を起こした。
「ゲギャギャギャ! 今日は景気がいい!」
酒も入っているからか、ドリーは随分と上機嫌だ。
「解除」
俺はドリーを元の大きさに戻す……と同時に、ブロギーも元の大きさに戻す。
元の大きさに戻すのは遠距離でも出来るんだよな。小さくするには触ってなきゃいけないけど。
「さて、行くか!!」
得物を手に取り、ドリーは決闘の場へと向かっていった。
………………さて。
「それじゃ、俺は食後の腹ごなしに散歩でもしてくるな」
俺は立ち上がって背筋を伸ばしながら2人に一言断りを入れた。
「何だ、お前は見ねェのか? あのおっさん達の決闘」
もう何本目かも解らない骨付き肉に取り掛かりながらルフィが聞いてきた……ちなみに、お気に入りの味付けは塩らしい。ブロギーと同じだな。
俺は肩を竦めて答える。
「興味が無いわけじゃないけど、このジャングルも見て回りたいんだ。お前らはさっき見たんだろうけど、俺はまだだからね」
ヒラヒラと手を振ってその場を離れる……が。
「ただし、見てないからって酒を飲むなよ、ルフィ? お前は酒乱なんだから」
振り向き様に釘を刺すと、酒樽に手を伸ばしかけていたルフィの肩がギクリと揺れた。
さて、俺が1人でジャングルに入ったのには、一応理由がある。探しものがあるんだ。
とはいえ、見付けられるかどうか自信は無い。全く無い。何しろ小さなものだからね。しかも、見付けた所で考えてる通りに行くかどうかは解らないし……ん?
「ゾロー!」
いつの間にかすぐ近くにゾロがいる気配がしたから見渡してみると、トリケラトプスのような恐竜を引き摺ったゾロと遭遇した。
「ユアンじゃねェか!」
ゾロ……何てあからさまにホッとしてるんだ……。
「丁度良かった、道を見失っちまってよ」
ズリズリと恐竜を引き摺りながらこっちに来るゾロ。なるほど。
「迷子か」
「その言い方やめろ」
他に何と言えと?
俺たちは歩きながら会話を続ける。
「目印が役に立たねェんだ。おれは確かに『つるの巻いてる木を左』に進んでんだぜ!」
………………うん。
「当然だろうね。このジャングルに自生してる木の殆どがつるを巻いてるんだから」
生暖かい視線と共に教えてあげたら、あらぬ方向を見られた。
「船はあっち……って言っても途中で迷うか」
つるの巻いた木を左、何て覚えるようなヤツが自力でメリー号にまでたどり着ける気がしない。
「お前、バカにしてんのか?」
「事実を考えて、心配してるんだ。ゾロ、方向音痴を自覚しなよ……俺はまだ散歩したいんだよなぁ」
1度送って行くべきかな。
「ん? あれはナミじゃねェか?」
歩き続ける中、俺よりも先にゾロが気が付いたソレ。うん、確かにナミだ……見た目は。でも……。
「待った」
俺はナミもどきに近付こうとするゾロの服を掴んだ。
「あれはナミに見えてナミじゃない。生き物の気配がしないから」
だからこそ、俺よりもゾロの方が先に気付いたんだろう。
蝋人形で誘き寄せてそのまま蝋で捕まえようって腹か。姑息だなー。
「嵐脚」
ナミもどきに向けて放った嵐脚は、ナミもどき……蝋人形をぶっ飛ばした。飛んだ蝋人形はそのまま奥の木にぶつかって破壊される。
……Mr.3の蝋は、固まれば鉄の強度に匹敵するんだったっけ? なるほど、まだ俺に鉄は斬れない、と。剣や刀ではなく嵐脚とはいえ、いずれはできるようになりたいもんだ。
「何だ、ありゃあ?」
あ、そういえばゾロに追手の話をしてなかった。
「バロックワークスの追手がこの島に来てるらしいんだ。今の所実害は出てないんだけどね」
実際、酒を1樽失ったぐらいだ。
「敵か」
ゾロの顔が何となく嬉しそうだ。こいつ、やっぱり戦闘狂の気があるな。
「ウィスキーピークでも会った2人組はもう倒してあるんだけど、Mr.3ペアってのがまだ何所かにいるらしい。Mr.3はドルドルの実を食べた蝋人間なんだって。あのナミもどきは蝋人形だったから、多分そいつの仕業だ」
「どんな能力者だろうと、要はたたっ斬ればいいんだろうが」
うわー、悪人面。
「それで、そいつはどこだ?」
………………はい?
「何で俺に聞くんだよ」
そこまで知らないっての。この島には生き物の気配はたくさんあって、どれがMr.3のものかなんて解らないんだし。
多分俺は何にも悪くないのに、何故か舌打ちされた。どんだけ戦いたかったんだ。
「焦らなくても、その内向こうから仕掛けてくるさ。目的は俺たちの抹殺なんだから。あの人形だって、そのための罠の1つだろうし」
ゾロは戦いたいみたいだし……。
「ゾロ、その恐竜は俺がメリー号にまで運んでおく。その間に他の誰かと合流すればいい」
巨人の決闘だけど、今俺たちがいる場所からも微かに見える。詳細までは解らないけどね。
「あそこで戦ってる2人。片方がルフィとビビ、片方がナミとウソップを客人として招いてる。戦いが終わってから案内を頼めば連れて行ってくれると思うよ」
いくらゾロでも、流石にあれだけ派手にやり合ってる巨人2人を見失いはしないだろう……多分。断言できないのが怖い。
けど、提案自体はゾロも納得してくれたらしい。そりゃそうだ、フード被った姿や下手な似顔絵でしか知られていない俺と一緒にいるよりも、完全に顔バレしているルフィ・ビビかナミと一緒にいた方がMr3が仕掛けてくる可能性は高いだろうし。
俺はトリケラトプス(←勝手に決定)を小さくして、1度メリー号に戻ることになったのだった。
仕方がない、探しものはまた後でだ。
ドリーとブロギーはしばらくの間さっきの戦いと同じように打ち合いを続けていたみたいだけど、やがてほぼ同じタイミングで2人揃って静かになった。
73467戦73467引き分け、ってトコかな?
途中でゾロと出くわしたのは完全に偶然です。狙ってのことじゃありませんでした。
そして、果たしてゾロは巨人の元に辿り着けるのか!?
ちなみに、サブタイの四面楚歌とはMr3のことだったりします
以下、どうでもいいオマケ。
中盤にて『聞きたいことを聞いた後にちょっと遊んでたら、いつの間にか2人とも気絶しちゃったんだ』と言っていたユアン。彼はどんな『遊び』をしたのか。
ユ「お前らさ、この酒飲んどいてよ」
5&バ「「!?」」
ユ「俺たちは鼻くそ入りの酒なんて飲みたくないし。でも捨てるのは勿体ないし。ほら、お前から」
バ ブンブン!!(←必死で首を横に振っている)
ユ「何言ってんだ、素敵なプレゼントをくれたのはお前らだろ? ほ~ら、イッキ、イッキ!」(←無理やり飲ませてる)
バ「!」(←真っ青)
5「…………!」(←真っ青)
ユ「……ドッカーン!!」
バ「!?!?!?!?」パタッ (←泡吹いて失神)
ユ「あはは、だっらしないな~。口で言っただけなのに……でもこれで、お前しか飲む人間はいなくなっちまったな?」
5「!!」(←ビクゥッ)
ユ「ほーら、残りは全部飲んでいいぞ~? こんなに酒が飲める機会なんて滅多に無いな! 俺ってば優しい!」
5 ブンブン(←必死で嫌がっている)
ユ「……飲めよ」(←めっちゃ笑顔。でも目が座ってる)
5 ガクガクガク (←死の恐怖と隣り合わせ)
ユ「イッキ、イッキ!」 (←無理やり飲ませてる)
5「!?!?!?!?!?」
ユ「…………ドッカーン!!!」
5「!?!?!?!?!?!?」(←失神)
ユ「無いわー。同じ手に引っ掛かるとか無いわー。つっまんねー」
ちなみに、2人に飲ませた酒の樽には初めから爆弾は入っていない。さり気なくすり替えていた。何故か? 2人で遊ぶためである。
早々に気絶出来た彼らは幸せである。しぶとく残っていれば、もっと弄られていただろう。
そして本物の爆弾入り酒樽は川に捨てましたとさ。