麦わらの副船長   作:深山 雅

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第101話 外見的特徴

 さて、話は前回より少し遡る。

 

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 ゾロからのトリケラトプスは、小さいサイズのままメリー号の船内に詰め込んだ。いや、だって野晒しにしとくと他の肉食系動物に持ってかれるかもしれないし。

 サンジはまだ戻ってないみたいだったけど、俺は1人船を降りる。何故なら、探したいものがあるからだ。けど……。

 

 「どこを探せばいいのかな……」

 

 森の中を歩きながら考える。

 アレがいそうな所っていうと……うん。

 

 「可能性が高いのは、この島に生息する動物たちの体か」

 

 他にも、土壌中とか樹上とかに生息するタイプもいるみたいだけど……流石にそれは見つけられない。

 まぁ土壌中ってことは無いだろう。生物に寄生してるだろうし。

 

そう、俺が見付けようとしてるのはダニだ。もっと言うと、ケスチア。フォルム自体は図鑑で見て覚えたんだけど、生憎生態までは記されてなかったから解らないんだよね。でも見付けたい。

 何しろ、ここでナミが絶対に感染するとは限らない。ウィスキーピークでだって思わぬところからバタフライ効果が発生してた以上、ここでもズレが生じる可能性はあるんだ。

 

 五日病感染者0、は今後のためによろしくない。

 それに例え原作通りにナミが感染したとしても、ケスチアは見付けたいもんだ。

 だって、ドラム島に行くには五日病の感染者が一味内にいるのが手っ取り早いけど、それがナミである必要なんて無い。

 

 ケスチアを見付けて俺が感染してしまえばナミの……いや、仮にナミ以外に感染者が出たとしても、そいつらの五日病は治療してしまっても問題無い。クロッカスさんにもう薬を貰ってるし。

 クロッカスさんは親切にも人数分の抗生剤を渡してくれた。でもそれを知ってるのは俺だけだから、薬が足りないということにすればドラム島へ向かう理由にはなる。

 

 どの道ドラム島へ向かうのなら感染者なんて誰でもいいのかもしれないけど、それが俺であれば1番精神的苦痛は少ない。

 5日で死ぬと言われてる病気に罹ってるなんて告知されて、平静でいられる人間はそういない。けれど俺ならいざとなれば薬があると知っている分、気は楽だと思うんだ。

 ってか、薬を貰えたからこそそうしようって思えたわけなんだけど。じゃなきゃそんな博打、打つ気にもならない。むしろ薬が手に入らなかったら、何とかしてケスチアを回避しつつドラムへ向かう筋書きを考える必要だってあっただろう。

 

 バタフライ効果で誰も感染しなくて、その上ケスチアも見付けられなかった、なんてケースになった場合は………………その時考えよう。

 よし、ぐだぐだ考えるのはここまで! 探すぞ! まずは手始めに……。

 

 「お前からだ!」

 

 はい、今現在俺の前には虎がいます。しかも結構デカい。高さも2mぐらいはありそうだ。見上げねばならない屈辱……首が痛い。しかも体毛が白と黒。まるでシマウマみたいだ。

 それをロックオンしました……つまり、『捕まえてダニを探すぞ、おー!』な感じである。

 虎は虎で俺がボケーっと考え事をしてる間は捕食者の目で唸り声を上げてたのに、意識を向けたらギクッと固まった……案外、気が弱いのか?

 それでも流石は『密林の王者』……尤も、この島じゃ恐竜とかもいるから王者にはなれないだろうけど……少し怯んだものの、次の瞬間には後肢で地面を蹴って跳躍し、思いっきり飛びかかってきた。

 

 

 

 

 えーと……決着はすぐに着いた。

 

 虎飛びかかる→俺回し蹴り→虎ぶっ飛ぶ=俺勝利→俺、何故か虎に懐かれる(←今ここ!)

 

 ……『今ここ!』何て言ってる場合じゃないな。

 虎さんは目の前で仰向けに寝転がって腹を曝け出して服従のポーズをとってます……何で!?

 野生の本能か!? 敗者は勝者に従う、的な!? ってか、俺にどうしろと!? ……ま、いっか。どうせダニ採集するつもりだったし。ちょうどいいや。

 俺は船から持ってきた手袋とピンセット、小瓶を取り出す。

 ダニだからまだマシかな、ノミだったらピョンピョン跳ねてくから捕まえにくいし。

 

 「さ、虎。見させてもらうぞ」

 

 

 

 

 ダニを見付けるのは難しくなかった。こんなジャングルの中だ、よく見れば何匹も虎の体にくっ付いている。でもそれがケスチアだったかというと否。色んな種類のダニがいたけど、ケスチアはいない。けどこればっかりは根気よく探すしかない。

 

 100年この島にいたドリーとブロギーに何の問題も無いなら、五日病ってのは巨人は罹らない人間だけの病気なのかもしれない。でも、ケスチアが人間にしか寄生しないってことはないはずだ。何しろこの島に来る人間なんて限られているんだから、それだけをターゲットに生き延びることはまず無理だろう。絶対に普段は人間以外にも寄生してるはず。

 

 「違う……これも違う……げ、マダニ!」

 

 ケスチアもだけどマダニも嫌だよね。手袋しててよかった……勿論、ピンセットで摘み上げた上で踏み潰しておく。

 にしても、この単純作業はつまらない。ケスチアが見付からなければ俺のしてることって、単なる動物の体の掃除だよな……あー、この虎って体毛が白いけど、合間に黒い線が走ってるなー、虎だから当然だけど。

 ……待てよ? 『白いもふもふ』+『所々に黒』? 何かと似てるような………………あ! 豆大福!!

 ヤバい、思い出してしまった。あれ美味いんだよな……サンジなら作れないかな?

 よし。

 

 「今日からお前の名前は『大福』な!」

 

 ポンポンと腹を叩きながらそう宣言すると、虎……大福は微妙というか、『ガーン』な表情になった。あれ? ひょっとして言葉を理解してたりする?

 いいじゃん、どうせこれから少しの間に俺しか呼ばない名前だろうし。

 ……すいません退屈なんですこんなバカバカしいことがついつい思い浮かんじゃうんですごめんなさい………………お?

 

 「いた! ケスチア!」

 

 お目当てのモノを見付ければ俄然テンションも上がる。俺は大福の体にしがみ付いていたケスチアを慎重にピンセットで摘み上げ、小瓶の中に入れた。

 その後も大福を隅々まで調べてみて、見付けたケスチアは3体……もうちょっと探そうかな、こいつらが病原体を持ってるとは限らないし。

 

 

 

 

 大福は正直に言えばもう用は無いんだけど、何故か付いてきた。懐かれたな~……ジャングルにいる間だけのことなんだし、どうでもいいか。

 そうしてしばらく歩いていると、次に出会ったのはサーベルタイガー……うん、俺が叩きのめす前に大福が押さえつけてくれました。

 

 そしてそうなれば次は当然、サーベルタイガーの体からダニ採集。

 しかしこれまた単調でつまらない。

 

 「……お前は『わさび』な!」

 

 退屈なんでこいつにも名前を付けてみました。何故『わさび』かって? いや、さっきわさび醤油で食べた恐竜肉が美味かったからさ……こいつもわさび醤油で食べたら美味いのかな~、とか考えてたらこうなった。

 そして例によって、『ガーン』顔になるサーベルタイガー、基、わさび。お前も言葉が解るのか? でも何だよ、みんなして。どうせ俺にはネーミングセンスは無いよ。

 

 調べた結果としては、こいつにもダニは何体か付いてたけど、ケスチアはいなかった。チッ。

 

 

 

 

 その後もダニ採集は続ける。主に哺乳類なんだけど、俺がどうこうしなくても大福とわさびが捕まえてくれた。いやー、初めに強い方の動物をゲットしといて良かったぜ。

 

 ダニを探してる間は暇だから、他の動物たちにも名前を付けてみた。猿の『バナナ』とか、ダイアウルフの『大五郎』とか、バーバリライオンの『たま』とか。後、『しょうが』とか『饂飩』とか、その他にも色々付けたんだけど、何故かみんな付けられた直後に『ガーン』状態になるんだよね……結構いい名前だと思うんだけどな。

 

 でもそれはそれとして、何故か悉くに懐かれてる。これはあれか、途中でティラノサウルスがちょっかいをかけてきた時に返り討ったからか? ちなみにそのティラノサウルスは少し離れたところで伸びている。後で船に持ち帰って食べよう……けど、流石にこれだけ懐かれたらこの動物たちを食べる気にはならないな。

 

 そんなこんなで黙々と作業を続けてて、ケスチアも20体ほど見付かったからもういいかなと思い顔を上げて周囲を見渡してみたら、いつの間にか動物園みたいになってた。

 ……うん、深く考えるのはよそう。どうせこの島にいる間だけのことだ。

 

 「さて、と」

 

 俺はケスチアを入れた小瓶を地面に置いて立ち上がり、大きく伸びをした……ら、次の瞬間。

 

 「な、何事だガネ!?」

 

 不意に響いた声に振り向くことになった。あー、集中しててこいつが近づいてくるのに気付かなかった……な…………って。

 

 「『3』が無ェ!?」

 

 あの語尾からしてそこにいるのはMr.3だろうと当たりを付けたんだけど、ヤツの髪型は『3』じゃなくなっていた。まるでスッパリ斬られたように……成るほど、ゾロか。

 思い至って1人納得していると、頭の『3』が無くなったMr.3は苛立たしげに俺を指差した。

 

 「貴様、麦わらの一味の『紅髪』だガネ!?」

 

 「うん」

 

 事実だから頷いたら、Mr.3は不敵に笑った……何だか全体的にボロボロになってるから全然威厳は無いけど。何だか表情が切羽詰まってる。まぁ失敗したんだろうし、仕方がないか。

 

 「丁度いい……ここで貴様を始末するガネ!」

 

 お、やるか? 

 あぁでもその前に1つ確認しておこう。

 

 「何で俺が『紅髪』だって1発で解ったんだ?」

 

 手配書では似てない似顔絵だし、アンラッキーズの絵ではフードを被ってたのに。

 問うとMr.3はフンと鼻を鳴らした。

 

 「今この島にいるのは我々バロックワークスのエージェントと麦わらの一味、そして巨人が2人だけだガネ! そして、特徴は出回っているガネ……『紅髪』は『赤い髪のチビ』だと!」

 

 ………………あれぇ、どんな情報が出回ってるって?

 

 誰が出した、そんな情報。出回ってるってことは海軍の仕業か? そういえばスモーカーも普通に『小さい方』とか言ってたっけ。それ以前となると……ネズミか。ネズミが全部悪いんだな?

 

 あはは………………ネズミコロス。

 

 もしもまた出くわすようなことがあったら、××に××を××してやる。偶然出くわせなかったら、ルフィが海賊王になった後にこっちから探して出向いてやる。

 楽しみだなァ……色々と……。

 

 いや、まずはその前にこの目の前のヤツだ。

 

 「くらえ、キャンドルロック!」

 

 Mr3の放った蝋が、俺の足に纏わりついて拘束する……俺はあえて避けなかった。だって、これから逃れるなんて俺にとっては簡単なことだし。

 

 「フハハハハハハ! 口ほどにも無いガネ!」

 

 思惑通り、こっちに歩いてくるMr.3。動物たちの間を縫って歩いてくるんだけど、動物たちには下手に動かないようにアイコンタクトした。ホントに賢いな、ここの動物たち。

 

 そして、Mr.3が間合いにまで入ってきた正にその時。

 

 「1/2」

 

 俺は自分で自分を小さくして枷から抜け出て。

 

 「解除」

 

 すぐに元に戻り。

 

 「剃」

 

 一気に距離を詰めて、最近ずっと持ち歩いている十手でMr.3を思いっきり殴りつけた。

 

 「ガネ!?」

 

 勝利を確信していたのか完全に油断していたMr.3は、呆気ないぐらい簡単にぶっ飛んだ。そして勿論、反撃なんて許さない。

 

 「チェックメイト」

 

 地面に倒れたMr.3が起き上がる前に、その体に十手を押しつけて力を奪いつつ腹を踏みつける。

 

 「グフ!」

 

 あ、そこはガネじゃないんだ?

 まるで潰れた蛙のような顔して……面白っ!

 

 「き、貴様、やられたフリを……! 何て姑息なヤツだガネ!」

 

 お前が言うな。

 

 「……自分の優位を確信した人間は、隙が多い」

 

 確信するだけじゃダメなんだよな、徹底的に反抗の芽は摘まないと。だから。

 

 「さ、これを掛けて」

 

 俺が差し出したのは、残った海楼石の手錠。あぁ、スモーカーに付けっぱなしにしてしまったもう片方とは違って、これはちゃんと後で回収するよ。さっきMr.5と遊んだ時にもアイツに付けさせてたけど気絶後に回収したし、Mr.3も気絶させて回収する。

 でもその前に、ちゃんと話をしとかないといけないだろ?

 

 「か、掛けてとは何だガネ!?」

 

 「自分の能力を封じる枷を自分で掛けろっていうだけだよ?」

 

 「何を」

 

 「掛けろ」

 

 何か反論しようとしてたけど、面倒くさくなってきたから言葉を命令形に変えたら、あっさり掛けてくれた。うん、素直なのはいいことだ。え? やだな、脅してなんかいないよ? そりゃあ言葉は命令だけど、別に睨んだりとかしてないし。

 

 「正座」

 

 「ハァ?」

 

 「正座」

 

 「何を言ってるガネ!? 何故私が」

 

 「正座……仏の顔も3度までって言葉、知ってるよね?」

 

 「………………」

 

 俺が苦笑と共に最後通告を渡すと、Mr.3は大人しく正座してくれた。

 

 さて、何か敷物が欲しいな、話が長くなりそうだし。

 

 キョロキョロと周囲を見渡すと、大福がさっと寝そべってくれた。腰かけるのに丁度いい高さになったな。よし座らせてもらおう、本人……いや、本虎は元よりそのつもりみたいだし。よし、これで落ち着いて話が出来る。

 

 それじゃあ、Mr.3。

 誰が赤い髪の『チビ』だって……? 

 

 

 

 

 その後Mr.3にお説教をしていると、暫く経ってからゾロとルフィが現れた。俺は気付いてたけど、今はそれよりもこっちの方が大事だから気にしてなかったんだけど……何だってルフィはorz状態になってたんだろうな?

 

 




 【オマケ】

 深海の大監獄、インぺルダウン。
 そのLEVEL1に、彼はいた。

 「何故こんなことに……」

 様々な腐敗が明るみに出て逮捕された元海兵・ネズミは、恨みがましく毒づいていた。
 何故も何も本人のせいでしかないのだが、彼の脳内ではそうなってはいなかった。

 「それもこれも、『麦わら』どものせいだっ!」

 ネズミにしてみれば、やつらが現れて以降碌な目に合っていない。
 完全な八つ当たりだが、そうでも思わないとネズミは耐えられなかった。
 
 そんなある日のことである。

 「!? な、何だ今のは!?」

 ネズミの背中に、凄まじい悪寒が走った。思わずキョロキョロと周囲を見渡すが、何も無い。いつも通りの地獄絵図だ。

 彼は知らない。その悪寒が走ったのが、リトルガーデンでユアンがある決意をした瞬間に起こったものであるということを……。

 インぺルダウンで彼らが再会するまで、あと数ヶ月。

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